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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 第6話 解除
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/01 00:07

大事な人が居なくなった。
大好きだった兄さんが死んでしまったのだ。

俺と7つも離れた兄さんは小さな頃からその聡明さを見せていたらしい。
沈着冷静で頭も良く、また運動神経も群を抜いていた。
外では無表情のポーカーフェイスで全く他人にその心の内を見せない人だった。
曽祖父を頂点とした大家族だったので、両親は一人だけしか子供は要らないと思っていたらしい。
だが兄さんが優秀過ぎて子育てしている実感が無かった為、もう一人欲しいとして生まれたのが俺である。
そんな完璧超人のような兄も家、特に俺に対しては和やかな笑顔を見せてくれた。
大抵は俺をからかって遊ぶ事で浮かべられる笑顔なのが癪ではあるが。
それでも俺に取っては憧れの、大好きな兄だった。
その兄は曽祖父からの血筋で見て直系に当たり、曽祖父が持つ多くの農場や牧場の後継者でもあった。
しかしそれを嫌い、都会の医学部へと進学したのだ。
当時はまだ小学生だった俺はその医学部がどんなに凄いのか判らなかったが、兄さんが実家を離れる事が無性に寂しかった。
夏冬の長期休暇には戻って来たし、それでなくとも電話で何時でも話は出来たが、身近に居ない事は子供にはやはり堪えたのだ。
そんな兄だったが、卒業後は医師には成らずに製薬メーカーに就職して研究員と成った。

当時から詐欺被害については色々と耳にしていたが、自分達には関係の無いものと思っていた。
元々知り合いなんて少なかったし、その少ない知り合い達も信用出来る人達であると思っていたのだ。
そんな中で、兄さんが友人だと思っていた人に騙される。
最初は連帯保証人詐欺に加担したとして事情聴取を受けた。
その後、実行犯の中心人物として拘留されたのだ。
更に兄に対して追い討ちの様に、様々な罪状を積み上げられてしまう。
元々順風満帆な人生を歩んで来た人だった為、この仕打ちに精神が保たなかった様だ。
一時的に拘留が解かれて下宿に荷物の整理が許された時、兄さんは睡眠薬による自殺をした。
どうしてその薬が得られたのかは判っていない。
それを告げたのは兄さんの友人を名乗る者だった。

だが俺はそれを信じていなかった。
俺は兄さんが一時釈放を受けているのを知っていたので会いに行った時、そこは既に警察に見付かった後だったのだ。
一応まだ現場の封鎖前だったので家族としての事情聴取も含めて現場立会いをした。
その時垣間見えた兄さんの死に顔は苦悶に歪み切っていた事を、俺は見ている。
後に俊英が調べてくれた情報によると、兄さんは睡眠薬ではなく毒による死である事が判った。
そしてその毒物を渡した人物が兄の古い友人の1人である事も。
それが死に至る薬だと知って兄さんが飲んだのかは知らない。
しかし兄さんが沢山の人間に裏切られて死んだのは間違いの無い真実だった。

そして兄が死んだ3日後、無実が告げられた。
真犯人は最初に連帯保証人をさせた友人であり、ずっと雲隠れをしながら兄さんの苦しむ様を影で笑って見ていたらしい。
動機は兄が気に入らなかったから、ただそれだけだった。

後日俺は犯人である元友人とやらと出会う機会があった。
会う前は殺してやろう、とかも考えていたものだ。
だがその醜悪な、外見ではなく心がではあるが、人物を目にしてどうでも良くなった。
兄の仇すら討たない、そして死に行く兄を助けられなかった、駄目な弟。
それが俺という人間だった。





第6話 解除「JOKERの機能が10回以上使用されている。自分でやる必要は無い。近くで行なわれる必要も無い」

    経過時間 16:46



体を揺さぶられる感覚で意識が覚醒し始める。
最初に目に入ったのは優希の可愛らしい顔だった。
今は目を閉じているのを見ると意識を失っているのだろうか?
それでもこの手にある温もりと定期的に漏れる吐息が、その体が生きている事を知らせてくれる。
良かった助けられた。
「夢」の兄とは違い優希は生きている。
俺はもう死ぬかも知れないが、この子は助かるだろう。
それなら良い。
誰かの役に立てた事に満足し、俺はそのまま目を閉じた。

「寝るなっ!」

頭に激しい衝撃が走る。
何だっ、敵襲かっ!
そうだ、まだ俺を殺した奴は健在だ。
奴を排除しなければ成らないっ!
そう思って勢い良く立ち上がり周囲を見渡すと、見知った人影が目に入った。

「あれ?矢幡。何で居るんだ?」

そこに居たのは金髪ツインテール美人の矢幡だった。
他に人影は見えない。
風景は階段ホールのままの様だから、何故かは知らないが奴は逃げたのだろうか?
それにしても、他に誰も居ないのならさっきの突っ込みは彼女のものと成る。
こんな突っ込みをする人だったか?
思考に沈んでいると、呆れた様に声が掛けられた。

「早鞍さん、大変だったのは判りますが、もっとしっかりして下さい。
 相手は体勢を立て直すために引いた様ですが、此処が何時までも安全であるとは限らないのですよ」

その言葉に意識が完全に覚醒し出す。

「死んで、いないのか?」

自分の両手を見ながら、愕然とする。
確かアサルトライフルに撃たれたのだ。
普通に生き残れる筈が無い。
だが身体には撃たれた跡も痛みも無かった。

「バックパックで防げたようですね。
 その中にあった閃光弾と煙幕弾でお二人の姿が隠れた所為で、相手は正確な照準が付けられなかった様です」

ああ、そうか!
銃に撃たれて煙と閃光を放つなんて、普通に考えて有り得ない。
意識を失う直前の光景に笑いが漏れそうに成る。
しかし、自分が爆発物系を持っていなくて本当に良かった。
折角銃弾は防いだのに二次被害で死亡なんて喜劇だろう。
「ゲーム」の観客にとって見れば、だが。

「そうか。悪かった。完全に死んだと思ってたよ」

横目で無傷の優希を確認しつつ、矢幡に謝った。
混乱していた思考が纏まり出して来たのを実感する。
もう一度周りを見渡しながら、矢幡に必要な事を確認しておく。

「俺が撃たれてからどれくらい経った?」

「そんなに経って無いわ。彼、貴方を殺したと思ったのか、すぐ離脱したわよ」

多分それは無いと思う。
予測だが奴のPDAにはプレイヤーカウンターが入っているだろう。
ならば俺が死んだかどうかは一目瞭然だ。
しかしこちらの誰も持っていないソフトウェアについて言及するのは拙いので、黙っておく。
次の確認事項に移ろう。

「高山とかりんはどうした?」

これには矢幡が言い難そうに声を詰まらせた。

「…御免なさい、はぐれてしまったわ。
 戦闘禁止エリアでの援護についても、申し訳なかったわ」

続いて出た謝罪に後回しにする予定だった質問をぶつけてみる。

「あの部屋の前で何があったんだ?あの血痕も気になる。
 っと、それより先に此処から移動しないとな」

話を止めて、未だ気を失っている優希と二人分の荷物を抱える。
そんなに距離を移動する気は無いので、この重量を気張って持つ。
PDAの地図を確認してから、地理的に迎撃に向いた通路へと歩き出した。
矢幡も後ろをついて来る。
幾らか歩いた廊下で立ち止まり、優希を降ろして俺達も座り込んだ。
相手にはPDA感知で位置を特定されるだろうし、その状態だと部屋等に入るのは危険が増すと思った為である。

「さて、で、戦闘禁止エリア付近で何があったんだ?」

切り出された話題に矢幡はぽつぽつと話し始めた。



矢幡の話を要約すると次の様に成る。
援護射撃が遅れたのは、あの小部屋が再度鍵を掛けられたからだった。
鍵が2つあった、つまり隠し鍵があったのだろう。
鍵を掛けられた事を、俺への銃撃後に扉を開けようとした時に成って気が付いた。
それからサイレンサーを用意して鍵を打ち抜きライフルを用意して、とやっていたら時間が掛かってしまったのだ。
鍵の位置の特定に時間が掛かったのも遅くなった要因の1つとなった。
しかしあの時は完全に不意打ちだった様なので、隠れていた事は気付いて無かった筈だ。
それでも鍵を掛け直すとは恐ろしく用心深い性格である。
その上ライフルで撃ち抜いたは良いが、相手は防弾チョッキを着ていたらしく殺す事が出来無いまま隔壁を開けて逃走された。
かなりの出血をさせたが、その後の相手の行動を見ていると致命傷では無い様だったので、寝ていた優希を置いて追撃を行なう。
しかしその際に高山が銃弾を受けて左肩を負傷してしまい、追い討ちを掛ける様に俺を殺したと奴は大声で叫んだらしい。
これにかりんが逆上して深追いへと移行される。
そして再度あの隔壁を下ろされて、優希をそのまま置いていく格好になってしまったのだ。
高山の傷は出血は酷かったものの、止血も終えて命には係わらないものらしい。

続いてその後の奴の追跡について話してくれる。
かなりの重傷を負っているのにその撤退速度は衰えず、追撃するこちらは彼に追い付けなかった。
そして戦闘禁止エリアからは何故か近く成っていたエレベーターホールに辿り着き、そのシャフトから梯子を使って6階へ上がられてしまう。
先に上がられてしまうと打つ手が無くなってしまった高山は、已む無く封鎖された階段の爆破を決断して6階へ上がった。
上がった理由はかりんがどうしてもと主張したのと、彼の優位性を早目に抑えたかった事の2つである。
しかしそこを攻撃されて応戦している間に、また隔壁を用いて分断されて一人となった。
その後階段の方へ向かっていたら奴を見付けたので攻撃をせずに追跡に専念した所、撃たれる俺達を目撃する。
それで奴を牽制で銃撃したらあっさりと撤退したらしい。
此処までが別れてからの内容だった。

しかしあっさりと撤退したのが非常に気に成る。
とうとう回収命令でも出たのだろうか?
いやそれなら、矢幡を何としてでも制圧して優希を回収するか。
問題は高山達との合流と、PDA探知を持つ敵の排除。
当然出来るものなら敵の排除を優先したいが、さてどうするか?

「そうだ、先に聞いておこう。PDA、要るか?」

この問いに即答しないのは、流石矢幡だ。
暫く考え込んでから答えを出す。

「いえ、今は止めておきます。壊さないように御願いします、早鞍さん」

「へいへい。それじゃこれからについてだが、何か案はあるかい?」

「高山さんと合流したい所ですが、彼が何処に居るのか皆目検討が付かない現状では、難しいでしょうね。
 出来ればあの襲撃者の脅威を取り除きたいですが、これも難しい問題です」

内容は俺の思考と同じ様だ。
問題点ばかりが挙がるが解決策は出ない。
確かにあの装備とPDAは厄介この上無いのが困りものだ。
出来ればPDAだけでも手放せられれば追撃の可能性は大分減るのだが。
俺が黙考していると、矢幡は躊躇いがちに尋ねて来る。

「早鞍さんは何故、そんなにまでして優希を助けようとしているのですか?」

そんなにまでと言うのは、先ほどの庇った事だろうか?
特別に意識をしてでは無かったのだが。
こんな答えでは彼女は納得しないのだろうな。
顎に手を当てて答えを考える。
彼女に対しては、何と答えるのが良いのか?

「ん~、あのな、矢幡」

「はい」

「此処で俺が、まあ首輪を外す為でも良い、俺の都合で人を攻撃して怪我させるなり殺すなりしたとしようか。
 それってさ、此処から出て家に帰ってから忘れられるものかな?」

「けれど自分の命が掛かっているのですから、仕方が無いと思います」

彼女の思考の中心はそれなのだろう。
「ゲーム」でも彼女は自分が助かる為に、他者を殺し続けたのだから。

「本当に仕方が無い?安易に相手を排除して楽に成ろうとしているだけじゃない?
 俺にはただ疑心暗鬼で、お互いを攻撃し合う光景しか思い浮かばないよ。
 そしてそれは、此処から出てからも続くだろうな」

「えっ?」

『ゲーム』で総一が言っていた。
他人を排除し続ける人生を、誰も信じない人生を送るのか。
何時までも1人で、騙されない自分は偉いと笑うのか、と。
まあ俺はそう成りつつあった訳だが。
確かにこんな状況なら、流されて互いを疑い自分の為に他人を踏み付けにした方が安全だろう。
それも俺には良く判る。
自分のしたい事をするのが、人間にとって楽なのだから。
ただ自分が気に食わないからで他人を殺したら、兄を殺した奴等と同じでは無いか。
それだけは自身では認められなかった。

「俺は生きるにしろ、死ぬにしろ、殺すにしろ、自分に胸を張っていたい。それだけだよ。
 だから1人は怖いな。自分の都合で何だかんだ言い訳してさ、自分のあり方を変えるのって間違ってる気がする。
 そういう意味では、融通の利かない大馬鹿者なのかも知れないなぁ」

頭を掻きながら答える。
此処で目覚めた時は一部の記憶が無かった所為でこんな事は思いもしなかった。
あまつさえ俺は御剣達を殺して生き延びようと思っていたのだ。
その事に今更ながら寒気を覚える。
人は育ちや環境で変わると言うが、それを実感してしまった。

「早鞍さんは、例え自分が死んでも他人を助けると言うのですか?」

厳しい目で俺を見ながら問い詰める様に聞いて来る。
流石にこの問いには苦笑した。

「ちょっと待ってくれ。俺は聖人君子じゃないぞ?死ぬのは怖いし、痛いのも御免だ。
 ただ、人間咄嗟にする事があるだろ?あれってのは考えるより先に動いているから、どうしようも無いんだよな。
 だから、まあ、余り買い被らないでくれると助かるね」

俺の答えに矢幡は動きを止めている。
つい本心で話してしまったが、拙かっただろうか?
けれどこういう事で誤魔化しつつ話すのは苦手だった。

「私は、間違っていたのかしら…」

いきなりそれを聞かれても普通の人は判らないと思います。
何を、が抜けてるのに、どう答えろと?
とは言うものの、自分を追い詰められても困るから無難に答えておくか。

「何を間違えたと思っているのかは知らないけど、間違えてたなら改めれば良いじゃないか。
 取り返しがつかない事をしたのでなければ、気付いた時に直せば良いと思うよ」

微笑みながら言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
彼女はじっと俺の顔を見詰めていたが、暫くするとふわっと微笑んだ。

「有難う御座います、早鞍さん。貴方と話せて良かったと思います。
 それと、麗佳、で良いですよ。色条や北条は名前で呼んでいるのですから、不自然でもないでしょう?」

「ん、まあ、お前がそれで良いのなら」

名前で呼んで、か。
今気付いたが、彼女は何時の間にか俺を名前で呼んでいるな。
何かあったのだろうか?
此処で矢幡が微笑んでいた顔を引き締めて、問い掛けて来る。

「それで、優希の首輪は外さないのですか?」

「ああっ!そう言えば。外そうとしたら手榴弾投げられたんで、中断してたんだよな」

そうだ、出来る事なら首輪は早く外したい。
優希なので大丈夫だとは思うが、他の者の手前そう悠長な態度は厳禁だろう。
それに俺の精神衛生上にも良くないし。
さてと、外す為に起こすとするか。

「優希。おい、起きろ」

身体を揺さぶって起こしに掛かる。
暫く揺すっているとむずがるかのように身動ぎした後、ゆっくりと目を開けた。

「ふぇ。…お早う御座います~」

眠そうに挨拶をする。
隣の矢幡は呆れた様な溜息を吐くが、これには俺も苦笑してしまう。
さっきまで死に掛ける様な場面だったというのに暢気なものだ。

「お兄ちゃん!大丈夫っ!」

突然優希が大声を上げた。
何の事だろう?

「いや、そりゃ大丈夫だが。どうしたんだ?」

「さっき死に掛けてた人が言う言葉では無いと思います」

冷静な突込みが隣から来た。
そうか、そうだよな。
優希は俺が死んだ、もしくは大怪我を負ったと思ったのか。
俺自身も先ほどまでは死んだと思っていたのだから、当然の反応と言えた。

「ああ、全くの無傷でピンピンしてるぜ?」

両手を広げて大丈夫な事を優希に見せ付ける。
それで彼女も安心したのか、緊張していた身体の力を抜いた。
何か嫌な予感がするが、優希の首輪を外してしまうか。

「さて、優希。お前の首輪を外してしまおうか!」

そういって9番のPDAを取り出して優希に手渡した所で、連続した発砲音が鳴り響いた。



くそぅっ、こんな事だろうと思っていましたよっ。
心の中で愚痴り倒す。
優希の首輪解除を後回しにして、俺達は発砲音のし続ける方向へ走っていた。
この6階で銃撃戦を行なうと成れば、奴と高山達の遭遇戦くらいだろう。
他のプレイヤーが辿り着いている可能性は零ではないが、低いと思われる。
それ故に彼らが危ない可能性を考えて急いでいるのだ。
とはいえ通路の罠も油断出来ない。
走りながらも周囲を警戒して、怪しいものが無いかを注意して居たのが幸いした。

「止まれっ!多分落とし穴だ」

明らかにおかしい床の模様に一瞬で罠を警戒する。
だがあからさまなその模様にも見える筋に疑問が生じた。
これでは如何にも警戒してくれと言っている様なものだ。
しかし高山達に危険が迫っているかも知れないので、此処に留まり続ける訳にもいかない。
2人をその場に留めて俺だけ模様に近付き、周囲にこの罠の起動スイッチが無いかと探すが床には見当たらなかった。
踏み板式や突起系ではなさそうであるし、当然ワイヤー類も見当たらない。
センサーかと思って上を見るが、それらしいものも無い。
なら壁しかないか。
左右の壁を見ると左の壁に一部微妙に色が違う所が目に付いた。
落とし穴の起動スイッチが壁?
確かに良く見ないと判り難いが、これは起動し難いトラップではないだろうか。
6階に辿り着いたものが疲れて壁に手を突いた時に5階に落ちる陰険な罠、と言った所だろう。
疑問は尽きないが時間も無いし、他にらしいものが見当たらないのだから仕方が無い。
分断の可能性があるが、先に俺が通って大丈夫な事を確認しよう。

「矢は、っと麗佳、左の壁に起動用のスイッチがあるみたいだ。
 俺が通って何も起こらないようなら、そのスイッチを触らないようについて来てくれ」

「判ったわ」

麗佳が頷いたのを確認して、まず俺が怪しい床の部分を通り抜ける。
特に何も起こらないし、穿ち過ぎただろうか?
少し悩むが、二人が後をついて渡って来たので銃撃音のした方へと再度走り出した。

銃撃音がしていたのは1つの広い部屋の中からだった。
開けっ放しの扉から中を見た時まず目に入ったのは、奥の障害物に隠れながら銃を放つあの襲撃者である。
それに相対していたのは同じく障害物に隠れながら銃を構えたかりんだった。
果敢にも距離を詰めようとするが、相手の銃撃に阻まれて進めない様だ。
その服は所々破れており、幾箇所か銃弾が掠めたのだろう傷は手当をしないままであった。
こちらもかりんと合流しようと部屋に入るが奴に見付かったのか、こちらにも銃弾が飛んで来て合流を阻まれてしまう。
部屋の中に在った入り口すぐの障害物に隠れてやり過ごす。
しかし奴には弾切れという概念が無いのか?
ばら撒かれ続けるサブマシンガンの弾に嫌気が差して来る。

「かりん、無茶するな!一旦合流しろ!」

俺の叫び声はどうやらかりんの耳まで届いていない様だ。
敵に集中して何とか距離を詰めようとしていた。
その顔は鬼気迫る様で、嫌な予感を感じさせる。

「早鞍さん、何か、部屋の中央がおかしいわ」

かりんに集中していた俺に、麗佳からの疑問が耳に入る。
視線を部屋の中央付近に向けると、なるほど不自然に盛り上がった場所があった。
何かの仕掛けだろうか?
仕掛けたとすると、やはり奴だろうか?
相手を見ると半身を出して片手で銃を撃ちながら、左手にPDAを持って時折そちらを見ている。
PDAを見て何をするのか?
しかもあの大きさに適するものとなると…。
考えている内にかりんが部屋の中央近い障害物まで辿り着いた様だ。
そこからまた距離を縮める為に銃弾の雨の中に身を出そうとタイミングを計っている。
しかしその進むルートだと、あのあやしい場所を通過してしまう。
いや通過するようにさせられているのか?
目の端に奴の歪んだ笑みが見えた。
罠、PDA、遠隔操作…文香の死。
もしや、と思った時には全ての荷物を捨てて飛び出していた。

「早鞍さんっ!」

後ろで麗佳が叫ぶが構っていられない。
あれを至近距離で受ければ、助からないのだ。
奴のPDAには一体幾つのソフトウェアが導入されているんだ?!
銃弾が身体を幾度か掠めるが怯まず進む。
丁度目の前に障害物から身を出したかりんが見えた。
間に合え!
そのまま罠に向かうかりんの腰に横からタックルを仕掛けた。

「ぐぅぁ」

肺から空気が抜けるような音と共に変な声をかりんが漏らす。
そのままダイブして、床に押し倒した。

    ピーーー

電子音が聞こえたと思った直後、俺の聴覚は機能を一時停止した。

予想通りあの盛り上がりは、遠隔操作可能な対人地雷を隠していたものだった。
と言ってもかりんだから騙せたが、麗佳に気付かれている時点で隠していたとは言い難いが。
沢山の金属の破片と爆風が部屋の中を蹂躙したが、幸いかりんには怪我は無いようだ。
右太腿に走る軽い痛みを我慢して立ち上がる。

「かりん、逃げるぞ。早く立てっ!」

地雷の爆発で発生している煙で攻撃は来ないようだが、奴のPDA探知で俺が居る所が狙われる可能性もある。
此処は危険なのだ。

「え…早鞍?あれ?」

呆けているかりんに痺れを切らして、その腕を掴み近くの障害物の裏へと強引に引き摺って行く。
幸い相手からの銃撃は無いまま隠れられた。
しかし復活して来た聴覚には銃撃音が聞こえて来ている。
誰と誰が撃ち合っているんだ?
横を見ると麗佳が物陰に隠れつつ、サブマシンガンで奴と撃ち合っていた。
そうか、援護してくれていたのか。
確かにそうでもしなければ、俺は奴に撃たれて死んでいたかも知れない。
だがこれで奴に近付かれなければ、今はまだ安心出来る。
少し気を抜いた時に太腿の傷がズキリと痛んだ。

「つぅ」

傷は余り深くない様だが、鈍い痛みが襲う。
かりんを助ける為とはいえ、一歩間違えたら死んでいたのかと思うと寒気がした。

「早鞍、お前、死んだんじゃ?」

お互いに座った状態で、かりんが依然呆けたままで聞いて来る。

「おいおい、こんな凛々しい幽霊が居るかよ」

その問いに笑って茶化す。
太腿の痛みできちんと笑えていたかは疑問だが。

「は、はは。早鞍、だ。ははは」

乾いた笑いを上げつつ、その両頬に涙が伝った。
そんな彼女の頭に手を置いて、クシャクシャとかき混ぜる様に撫でてやる。
そうしてやると、かりんは顔を歪めた後、俺に抱きついて来て号泣するのだった。

突如今までの銃撃音とは違う音が響く。
これは刃物が打ち合わされる音か?
腰辺りに抱きついているかりんの頭を撫でつつ物陰から奴の方を確認すると、高山と切り結んでいた。
麗佳も相手が高山と近いので銃口は向けているものの発砲は控えている。
しかし銃が蔓延している現在、接近戦を挑んだという事は奇襲で一気に終えるつもりだったと考えて良いだろう。
それで今も切り結んでいるという事は、相手が近接戦闘にも覚えがあったという事か?
戦闘能力だけなら『ゲーム』内で断突のトップである高山と互角とか、どんな高スペックだよ。
心の中で悪態ついていると、漸く相手は体勢を立て直したようでその持っている得物、日本刀を正眼に構えた。
高山もこれに警戒して止まった為に睨み合いと成る。
奴の構えは堂に入っていた。
剣道、いや剣術を学んでいる者だろうか?
得物も相手が日本刀に対して高山は普通のコンバットナイフ。
こう成るとこの広い部屋ではリーチの違いが痛い。
これが廊下なら多少はマシなのだろうが。

「かりん、すまん。高山が拙いんだ」

未だしがみ付いたままの彼女の肩を揺する。
その言葉を聞いて、かりんはがばっと頭を上げた。
危ないっ、俺の顎が砕け散る所だったぜ!

「高山さんが居るのか?」

「ああ、あそこで対峙しているが、得物が悪い」

親指で対峙中の二人を示すと、かりんも理解したのか立ち上がってくれる。
俺も急いで立ち上がろうとするが、太腿の痛みによろけてしまった。

「ぐ、痛ぅ」

「早鞍っ、怪我してるじゃないか!」

「今、傷に構ってる暇は無い。麗佳…あー、矢幡と合流してくれ!」

確かに痛いがまだましだ。
それに文香が地雷の一撃で致命傷だった事に比べれば、この程度で済んでいるのだから運が良いとも言える。
麗佳と言ってもかりんが判って貰えないといけない。
今まで通りの呼び名の方がすぐに反応出切るだろうと思い途中で言い直した。
かりんはちょっと迷っていたようだが、走って麗佳の所へ向かい始めてくれる。
その途中に自分の荷物を回収するのも忘れていない。
俺も遅れて麗佳の所に到着した。

「無茶ばかりしな…」

「小言は後にしてくれ、高山の撤退の援護をするぞ。
 このままじゃ高山が斬られる!」

俺の言葉に麗佳は小言を中止せざるを得なく成った。

PDAのソフトウェアについて思い出した事がある。
『ゲーム』において探知ソフトの描写があった。
同人版ではリアルタイム更新の様だったが、コンシューマ版では首輪探知は検索型だったのだ。
ルールを見ても今はコンシューマ版を準拠している様なので、探知系は検索による一時的な情報の取得であろう。
あれ?そう言えばEp4で手塚が首輪探知を使っている描写があったが、あれはリアルタイムだった様な?
でもEp1で姫萩が使ったのは検索型だよな?
考えてみれば同じ首輪検知ソフトの描写が違うのは2種類あったって事か?
それとも描写の失敗?
リアルタイム型だと面倒な事となるので、勘弁願いたい。
そうでなければ対処法があるかも知れないのだが。
取り敢えず今回は検索型として対応してみる事にした。
どちらでも結果は同じかも知れないし、駄目なら別の方法を考えれば良い。

思考に沈みながらライフルを構える。
モードはシングル。
狙いは此方から見て左側、高山から遠い方である。
高山から受けたレクチャーを思い出して、ライフルを持つ手を絞った。
今奴は油断しているのかそれとも日本刀を振るのに邪魔だったのか、ライフルやマシンガンは身に付けていない。
後は麗佳の合図で開始だ。

「高山さん、撤退しますっ!」

彼女の良く通る声が部屋に響く。
それと同時に俺は引鉄を引き絞る。
その銃弾は奴の右太腿を綺麗に掠めた。
狙った訳では無いが、俺が先ほど地雷で受けた傷と同じ場所なのが皮肉である。
俺の傷はかりんと優希によって応急手当を受けているが、鈍い痛みは消えていない。
奴は高山が近くに居るので撃って来ないと思っていたのか、動揺を顕わにして近くの物陰に急いで隠れた。
続けて2回引鉄を引くが、どちらも当たらず終いである。

「早くっ!高山さん、こちらへ来て下さいっ!」

今なら高山の追撃で制圧可能かも知れない。
高山もそう考えたのか、追撃に移ろうと構える。
だが用意周到で慎重な奴の事だ、まだ何があるか判ったものではない。
出来ない可能性がある以上は此処で必ず引く様にしたいと伝えていたので、麗佳は必死で高山に声を上げる。
高山も麗佳の必死さに何かを感じてくれたのか、渋々とこちらへ来てくれた。
奴からかなり遅れて当然の如く銃撃がやって来るが、こちらが物陰に隠れる方が早い。
迎撃等の相手はせずに2人共互いの無事を確認している。
そして物陰に座り込んでいた俺を見て、高山の顔が驚愕に歪んだ。

「外原っ、お前…」

「よっ、高山。んじゃ撤退して見せますかね」

高山に片手を上げて挨拶をしてから、皆を片目を瞑りながら促した。



撤退したのは部屋から出て幾つかの曲がり角を曲がった所までだった。
そこで、かりんに相手の様子を見て貰いながらゆっくりと後退を続ける。

「どういう事だ?」

俺の提案に高山は疑問を隠せない様だ。
高山には彼を狙撃して欲しい旨を伝えてある。
但し、ある時を待ってからだ。

「んー?ああ、ちょっとテストをな」

明るく笑いながら、適当に答える。
読みが当たるなら、そろそろなんだが。
そこにかりんの小声が耳に入った。

「早鞍、奴が立ち止まったぞ!」

曲がり角の向こうに今相手が居るのだろう。
その声を聞いて高山を促した。

「頼むぞ高山、奴がPDAを出して操作を始めた所が狙い目だ」

「…判った」

半信半疑なのだろう。
だが奴が予定通り立ち止まったのでライフルを準備して曲がり角に陣取る。
しっかりと狙いをつけたまま、5秒ほどしてから引鉄を引いた。
すぐに俺が通路に飛び出す。
太腿の傷が痛むが、手当ては終わっているので我慢して走る。

「ぅがっぁ」

PDAを見ようとしていたのだろう、その体勢のまま奴は空中にその身を浮かばせていた。
その手の中にあったPDAは奴の手から離れて、同じく空中を泳いでいる。
やった、やっと手放した!
片手でPDAを操作するには、どうしても握力的に支えられていない状態が発生する。
そこに突然衝撃を加えれば手放されるかも知れないと考えたのだ。
これがリアルタイム更新だと相手が操作をする必要性が少なくなる為、面倒だったのだが。
立ち止まったという事はこちらの位置をPDAのソフトを使って確認すると読んだのが正解だった。
PDAはかなり頑丈に作られている筈である。
精密機械にしては、の前提があるが、この茶番で最も重要なアイテムが簡単に壊れていては白けてしまいかねない。
そのためその耐久性は折り紙つきだろうから、叩きつけるのでも無い限り落ちた程度では壊れまい。
一応壊れると困るので、落ちてくるPDAをスライディングキャッチする。

しかし相手は思ったより派手に吹っ飛んでいる様だ。
今もまだ空中を床と水平気味に飛んでいる。
徐々に床へ近付いて、滑りながら着陸した時は撃たれた所から6メートルは飛んでいた。
そのまま止まらずに床を滑っていく。
暫く滑ったと思ったら、奴は後転しつつ華麗に立ち上がった。
何てしぶといんだ。
そろそろ気絶くらいしてくれても良いんじゃないか?

「くそっくそっくそっ。どいつもこいつも邪魔しやがって!
 俺は死ぬ訳にはいかないんだ!金が要るんだ!妹も養わないといけないんだ!
 俺は負けられないんだーっ!」

目を虚ろにして足元をふらつかせながらも、不屈の闘志で立ち上がる。
もう意識は半分飛んでいるのだろう。
此処まで不眠不休で、重傷を負い、追いつ追われつの緊張の連続。
精神も肉体も限界近いと思われる。
それでも此処で奴の為に皆を殺させてやる訳にはいかない。
しかし奴の言葉にかりんが反応した。

「お金、妹…」

皆と一緒に俺の近くまで来ていたのか、奴の姿を見詰めて呆然と呟く。
目を血走らせて、心身をボロボロにしながらも他人を殺そうとするあの姿。
まるでEp2のかりんの様でもある事に、俺も遅まきながら気が付く。
少し前の、彼だけを見て突き進もうとするかりんがその姿と重なった。

「かりん、お前は悪くないっ!俺が保障してやるっ!」

身体を細かく震わせて首を小さく横に振るかりんの手をしっかりと握って叫んだ。
何か良く判らないが、精神が不安定に成っている様であった。

「さく、ら…あたしっ」

泣き始めるかりんには悪いが、今も目の前には銃を持った敵が居る。
此処で敵に同情した所で、奴が和解に応じる気配の無い今は手を緩められない。
かりんの手を握り締めたまま周囲を見ると、廊下を走っている時にあった罠が奴のすぐ後ろにあるのに気付く。

「高山、奴の向こうの左側の壁に少しだけ色の違う所がある。あれを狙って押せないか?」

「…やって見る」

少し考えてから、荷物の中から小型の手斧を取り出した。
斧を投げて狙うのか?
まず常人には不可能な事をやろうとするのを、俺は止めない。
任せたのだから、こちらは次の指示を出すだけだ。

「麗佳、奴の足元辺りを掃射して後退させてくれるか?」

「任せて」

短く返して俺の前に立ち、サブマシンガンを構える。
高山が手斧をサイドスローで投げると同時に麗佳は銃を乱射した。

「ひっ」

足元近くに幾つも着弾されて、奴は反射的に後退する。
その時横の色違いのブロックへ手斧が命中した。
手斧はそのまま弾かれて床に転がる。
本当に当てたよ、この人。
内心非常に驚いた。
そして変化が訪れる。
奴が後退した位置の床がフッと消えたのだ。
そのまま奴は声も無く階下へと落ちていった。

落とし穴に走り寄って行くと、早くも穴は閉まり始めていた。
階下にはやはりベッドというかマットが敷いてあり、落下のショックを和らげている。
マットの上には、一緒に落ちたのであろう手斧と手放したのだろうサブマシンガンも転がっていた。
下に落ちた奴は落下のショックで一時的に目が覚めたのか、さっきまでの酩酊した様な感じが消えている。

「貴様らっ!絶対に許さんぞっ!必ず、殺してやるっ!」

ギラリと睨み付けての低く唸る様な叫びに、女性3名が竦み上がった様に震える。
俺はその穴の淵に立って奴を睨み返し、胸を張って朗々と叫んでやった。

「謹んでお断りさせて頂こう!」

余りにも自信満々そうなおかしな返答に、奴の顔が呆気に取られる。
そのまま落とし穴は閉じるのだった。



経過時間18時間53分。
漸く6階の、それなりに寛げそうな部屋を見つけて一息つく。
彼を落とし穴に落としてからは、周囲の探索を行いつつ休める場所を探していたのだ。
そして幾つかの物資を回収した後にこの部屋を見付けた。
その回収された物資の中には彼が集めたのだろう物もあった。

俺達が見付けた部屋は、元々は警備員室だった様である。
何故かこの部屋は他の部屋に比べて少しは綺麗な状態だった。
物資が纏めて置かれていたし、もしかしたら彼も此処を使っていたのかも知れない。
入ってすぐは10畳ほどの広さの部屋にテレビとその台、そして机とソファーの置かれた部屋である。
テレビ台の横にはホワイトボードが置かれていた。
最初の部屋には入り口の他に、正面に2つ、右横面に1つの扉がある。
右横の扉の方は、6畳部屋に2段ベッドが2つ置かれた寝室だった。
正面の2つの扉はそれぞれ、トイレと洗面所に繋がっている。
洗面所からは風呂場が続いていた。

各自荷物を適当な位置に置いて、それぞれ任意の場所に座る。
皆が一息ついた所で、話を始めた。

「まずする事は、首輪の解除、だな」

俺の言葉に優希以外が頷く。

「優希、お前の解除条件が満たされたんだ。首輪、外せるんだぞ!」

「首輪が…?」

「ああ、だからお前のPDA早く出せって。とっとと外すんだ、こんなもの」

興奮を隠せない様子で詰め寄って行くかりんに、優希は少々引き気味の様だ。
ちなみに高山と麗佳は微笑ましく見守っている。
優希は服のポケットからPDAを取り出して、恐る恐る自分の首輪に差し込んだ。
すると今までPDAから聞いた事のある電子音とは異なる音が鳴り響いた。

    ピロロロ ピロロロ ピロロロ

それと共に首輪の正面より少し横に付いているインジケーターランプが緑色に発光して首輪から音声が発せられる。

    「おめでとうございます!貴方は見事に全員と遭遇し切らずに6階へ到達し、首輪を外す為の条件を満たしました!」

音声が流れた後、首輪が左右に割れて、ポスンッと首輪が優希の座っているソファーの上に落ちていった。
何度か解除しようとはしたがその度に邪魔の入っていた彼女の首輪は、その小さな手によりやっと解除されたのだ。
当の外した本人は外れた事が信じられないのか呆然としていたが、突然横に座っていたかりんが優希に抱き付いた。

「やったな優希。外れたぞ!これでお前、生き残れるんだ!」

「…かりんちゃん…」

まるで自分の事かそれ以上に喜ぶかりんに、優希は呆然としたままだ。
だがその内かりんの責めに耐えられなく成ったのか、もがき始める。

「痛いよっ、かりんちゃん」

「ああっ、ごめんっ。でも良かった。本当に良かったよ」

優希の訴えに慌てて体を離すが、うっすらと涙ぐみながらもかりんは優希を手を握って喜び続ける。
照れ臭そうにしながらも優希はかりんに微笑み返した。
喜び合う彼女達には悪いが、次がある。

「さて、御喜びの所申し訳無いが、良いかね?」

真剣な表情で問い掛ける俺にかりんと優希は居住まいを正して聞く体勢を取った。

「まず、優希。お前のPDAを机の上へ」

「うんっ」

元気良い返事をして9番のPDAを机に乗せた。
それに続いて一つずつ、俺の持っていた優希以外の全てのPDAを机の上へ順に置いていく。

「高山の2、俺の3、麗佳の8、そしてかりんのキング。
 更に奴の7番」

此処までは良い。
問題無い。

「…そして渚のジャック」

「ジャック!?」

麗佳がこれを見て目を丸くする。
当然だが他の3名も驚きを隠せていない。
俺も数時間前まで失念していたが、1階で優希と同時期に借り受けたまま返していなかったのだ。
この事態に麗佳が興奮した声を上げる。

「ちょっと!ならもっと前に北条の首輪は外せていたのではないの?!」

「いや、それなんだが。渚のPDAを持ったままだって事に気付いたのが、優希のPDAを持っている事に気付いた時なんだよ。
 で、あの時外したら、戦闘禁止エリアに入るのはかりんに成ってただろう?
 それは避けたかったんだ」

俺の説明にかりんが頬を膨らませるが、麗佳には非常に納得して貰えた様だ。

「だがこれなら、高山の2番でJOKERじゃない事を確認しつつ、安全、確実に解除可能だろう?
 何も問題は無い。渚以外には。
 さあ、首輪を解除しろ、かりん」

「え、でも」

「良いから、とっとと外せ。ってお前が優希に言ってたんだぞ。
 心配せずとも、高山も麗佳もいずれ外れるんだ。気にせずに、やれ」

俺については「外す事」は不可能だろうから含めない。
優希の事を出されると断り辛いのか、各PDAを手に取って解除を始めた。
自分のであるKのPDAの解除条件を示した状態で、次々とPDAを首輪に差し込んでいく。
異なるPDAを差し込んでも警告は出ないが、ルールしか知らない者にとっては冷や汗ものだろう。
Kの条件を見ただけだったら5つPDA持った状態で、すぐに自分のPDAを首輪に挿してしまいそうだし、罠というのもおかしい仕様だ。
『ゲーム』をした時も疑問に思っていたが、こうして直面しても不思議に思えて来る。
最後に自分のPDAを首輪に読み込ませようとした所で、かりんが俺に向けて口を開いた。

「早鞍。あたしが首輪を外したからって、下の階に逃がそうとしても無駄だぞ。なあ、矢幡さん」

何処かで聞いたような台詞が出る。
考えないでも無かったが、俺は御剣とは違ってそこは認識しているつもりなのだが。
でもそれが一番安全と言えば安全なんだよな。

「そうね。生駒愛美さんの件がある以上、彼女達が進入禁止になった階下に降りたらいけないのではなくて?」

「あっ、そうか」

逃がす事は考えの1つでしか無かったが、確かに彼女の条件を満たすまでは彼女達を逃がす訳にはいかない。
口をついて出たものを聞き咎めたかりんが口を尖らせて抗議して来る。

「何だよ、やっぱり逃がす気だったのかよ。でもそう上手くはいかないんだからな!」

そして最後のPDAを読み込ませた。

    ピロロロ ピロロロ ピロロロ

    「おめでとうございます!貴方は見事にPDAを5台収集し、首輪を外す為の条件を満たしました!」

優希の時と同じ様にインジケーターランプが緑色に発光して、機械音声が流れ出る。
そしてすぐに首輪が左右に割れ外れた。

「やったね、かりんちゃん!」

先ほどと立場を変えて、今度は優希がかりんに飛びついて喜びを表した。
これで2つ。
外れた首輪を両方とも回収しておく。
2つに割れたものを1つに組み直して、俺の荷物に捻じ込んだ。
他は何も言わないので、俺がこの首輪を持つ事に関して異論は無いのだろう。
まあ、首輪探知ソフトを敵に手に入れられてしまう場合もあるので、首輪の外れない俺が持つのが無難なのだが。
子供達の首輪が外れた事に達成感を覚え、体を深くソファーに沈めた。

二人が一頻り喜んだ後、次の議題に進む。

「かりん、全てのPDAを机に出してくれ」

「おうっ、これで7台だな」

そう言いながら7台のPDAを机の上に置いた。
その内、2番と8番をそれぞれ高山と麗佳の目の前に移動させる。

「協力、感謝する。お陰で助かった。
 次にキングのPDAは、かりんが引き続き持っててくれ。何かの役に立つかも知れないしな。
 麗佳の為に必要なんだ、壊すなよ?」

「あ、うん…」

目の前に置かれたPDAにそれぞれ手を伸ばす3人。
それを確認してから、残りの4台のPDAを回収する。

「優希、お前のPDAは俺が保管させて貰うが、良いか?」

9番のPDAをひらひらと手先で揺らしながら、一応聞いておく。

「うんっ、良いよ」

満面の笑顔で返してくれる。
自分とかりんの首輪が外れた事で気分が高揚しているのだろう。

「早鞍さん、理由が有るのかしら?」

わざわざ優希のPDAだけを俺が保管する事に疑問が湧いたのか、麗佳が聞いて来る。
今答えると2度手間になるかも知れないが。

「理由が無いと拙いかい?」

そう言えば何かにつけて麗佳は俺に行動の理由を問うて来る。
疑問は解消しないと気が済まない性質なのだろうか?

「いえ、早鞍さんのこれまでの行動では、含みがある行動が多かったので、確認しておきたいだけです」

「あー、そうだな。それは、すまなかった。思わせぶりな行動ばかりして。
 これについては後で理由を話そう。取り敢えずは、現在の情報を整理したい。
 大分状況も変わって来たし、なっ」

そういって勢いを付けて立ち上がり、テレビ横のホワイトボードを前へ引っ張り出してくる。
ボード下部手前にあるペン置き台にはイレーサーが1つとマーカーがそれぞれ、黒2本、赤1本、青1本が置かれていた。
黒の1本を手に取ってボードに試し書きしてみる。
インクは全く掠れもせず、問題無く書ける様だ。
つまりこのゲームの前に交換したという事なのだろう。
運営の細かい気配りに呆れながら、一旦マーカーを置いて皆の方へ振り向いた。

「今回の大きな収穫は、奴のPDAが得られた事だ」

その問題のPDA、待機画面上に<ダイヤの7>が表示されたものを左手に持って見せる。
更に右手で胸ポケットに入れていたルール表を取り出して、麗佳へ渡した。

「すまんが麗佳。これから各解除条件を読むから、紙に書いていってくれるか?」

「解除条件を?」

「そう。こいつにやっと、待望のルールの9番が載っててな。それが全ての首輪の解除条件だったって訳だ」

「なんだとっ」

驚きの声と共に高山が席を立つ。
他の者も驚きを隠せないで居た。

「まあ、落ち着け。なっ?
 では読み上げるぞ」

高山が座ったのを確認してから、ゆっくりと読み上げていく。
各解除条件は以下の通りだった。


    A:クイーンのPDAの所有者を殺害する。手段は問わない。
    2:JOKERのPDAの破壊。またPDAの特殊効果で半径で1メートル以内ではJOKERの偽装機能は無効化されて初期化される。
    3:3名以上の殺害。首輪の作動によるものは含まない。
    4:他のプレイヤーの首輪を3つ取得する。手段を問わない。首を切り取っても良いし、解除の条件を満たして外すのを待っても良い。
    5:開始から12時間経過以降に、開始から48時間経過までに全員のプレイヤーと遭遇する。死亡者は免除する。
    6:JOKERの機能が10回以上使用されている。自分でやる必要は無い。近くで行なわれる必要も無い。
    7:残りプレイヤーを5名以下にする。手段は問わない。自分で殺す必要も無い。またこのPDAには最初から「Tool:PlayerCounter」が導入されている。
    8:自分のPDAの半径5メートル以内でPDAを正確に5台破壊する。手段は問わない。6つ以上破壊した場合には首輪が作動して死ぬ。
    9:自分以外のプレイヤー全員と遭遇する前に、6階に到達する。未遭遇者が1人でも居れば解除は可能。死亡者に対しては未遭遇扱いとする。
    10:5個の首輪が作動しており、5個目の作動が2日と23時間の時点よりも前に起こっていること。
    J:「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が2日と23時間時点で生存している。
    Q:2日と23時間の生存。
    K:PDAを5台以上収集する。手段は問わない。


『ゲーム』との相違があるのは、5から7番と9番の4つのようだ。
様変わりした部分は再度解除可能か、そして全員がどう生き残るのかを考え直す必要性がある。

「危険なのは、エース、3、7、10、と言った所か」

「3番って、早鞍が危険な訳ないじゃないかっ!」

冷静に高山が分析するが、これにかりんが食って掛かった。
高山も言い方を間違ったと思ったのか、両手を挙げて苦笑する。
気持ちは嬉しいのだが、論点が違う。

「かりん、落ち着け。高山は解除条件のみを考慮しているだけだ。
 会ってない残り一人にもこのルール9が載っていた場合、必然的にそいつは3番を警戒するだろうって事だろ」

「うっ、そうか…。御免なさい、高山さん」

「いや、構わない」

年長組が冷静な面々で、本当に助かる。
黒マーカーを手に取り、ホワイトボードにPDA番号と現在知っている人物は名前も併記して書き込んでいく。
此処で1回だけPDA検索を実行した。
画面右上のバッテリーメーターが数ドット目減りするのが判る。
これだけしか減らないのか?
『ゲーム』で姫萩が使用した時は確か目に見えて減ったとしか記述が無かったが、これで極大の消費なのか?
日々の消費量が判らないので判断が付き難い。
暫くすると検索中の画面が終わり、地図画面へと切り替わる。
その地図上には幾つかの光点が追加で表示されていた。

「現状俺たち5人が6階。7番の奴は多分だがまだ5階だろう。
 残りは5階にも到達していない。4階に2名と3階に2名。まだ1階に留まっているのが2名のようだ」

7番のPDAの画面を見ながら、ホワイトボードにそれぞれ記入していく。
1階の2名はまだ階段に辿り着くには時間が掛かりそうだ。
こんな時間まで何をしているのか。

「何で判るの?」

優希が首を傾げて疑問をぶつけて来る。
そういえば戦闘禁止エリア付近の作戦会議では、ウトウトとしていたっけか。
その後も優希にはこの機能について明言した覚えも無かった。

「このPDAにはな、全てのPDAの位置を表示する機能があるんだ。
 凄いぞ。他にも色々機能が追加されている」

「ドアコントローラーはPDAの機能なの?」

麗佳も気になっていたのか、重要な部分を真っ先に聞いて来た。
確かにこの機能がPDAに寄らないとなれば、7番の男は今もこの能力を保持し続けている可能性があるのだ。
しかしそれは杞憂に終わる。

「そうだ、このPDAに備わっている機能だ」

そういって、この部屋の出入り口の扉を開閉して見せた。
ただ、PDA上の小さな地図を触って操作しなければ成らない為、咄嗟にするのは難しそうだ。
考えてみればあの7番を落とし穴に落とす事も、これを使えば出来た筈である。

「で、他にもプレイヤーカウンターが、これは最初からみたいだが、入っている。
 それに寄ると、現在残りプレイヤーは13名。全員生存している事に成るな」

「良かったー。なら愛美さん達はまだ無事なんだな?」

ほっと胸を撫で下ろすかりんに頷きを返す。
バッテリーの心配があるので、7番のPDAは電源を切って待機画面に変更済みだ。
7番のバッテリー残量表示は、既に3割程度まで減っている。
丸1日経たずにこれでは、3日目までに切れてしまいかねない。
しかし先ほどの検索時の目減りからすれば、此処まで減るのに何十回検索を実行したのだろうか?
疑問はあるが、一先ずPDAの件は措いて話を進めよう。

「今後の行動指針だが、予定通り俺は愛美を探す。
 その際に、未遭遇の者や御剣達と合流出来ればしておく。
 それで俺以外だが、5階に製作中だった拠点に残って貰いたい」

「待てって、早鞍。それじゃ愛美さんが」

「愛美については拠点まで連れて来れば良い。
 最良の手段は俺達が全員で階下に降りて行く事だが、高山達に無理強いは出来ないだろ?」

「それなんだがな、外原」

かりんの反論に高山をダシにしたのだが、その高山が口を挟む。

「俺はお前達について行っても良い。特に5番の時間制限は、本気で拙いだろう」

「そうね。私も愛美さんを助けるなら、皆で降りる方が良いと思うわ」

高山の意見に麗佳が続く。
しかし高山は自分の首輪の解除しか興味が無いのではなかったか?
訝しげに見ていると、察したのか高山はゆっくりと話し出す。

「良く考えてみたらだな。一番俺が問題にするべきは、JOKERが壊れずに階下に残ってしまう事だったんだ。
 進入禁止に呑まれて死んだ人間が出ると、そいつがJOKERを持っていた場合、非常に拙い。
 壊れたかどうかも確認出来ない状況は、望ましくない。
 それに」

珍しく長々と話す高山だが、言っている事は正論だ。
言葉を切られたが、次の言葉を静かに待つ。

「北条達の首輪が外れたのを見て、欲が出た。早く外してしまいたい、とな」

高山は自嘲気味に小さく笑った。
成程、自分も早く解放されたいという欲求なら理解出来る。
そして更に追い討ちの様な言葉が続いた。

「どちらにせよ、枷の外れた子供達を俺では止められんぞ」

かりんと優希の事を出されるとは思っていなかった。
確かに勝手について来そうだ。
特にかりんの方は、最近何かと俺に危険な事を避ける様にと五月蝿い気がする。

「判った、判ったよ。
 では今後の方針として、皆で階下の連中に遭って各々の首輪を外していく。で、良いな?」

皆を、特にかりんと優希を危険に巻き込みたく無かったのだが、他者の解除条件が枷になるとは皮肉である。
『ゲーム』との「違い」の部分も無視出来なくなっていると言う事か。

「それじゃ、今日はもう寝よう。明日もきつい道程になるだろうから、ゆっくり休めよ」

皆を促す。
女性3名は隣の寝室にあるベッドを使用して貰う。
俺と高山は隣の余った1つのベッドから布団だけ引っ張り出して、そのままソファーに寝る事にした。
これでやっと1日目が終わる。
そんな俺の思惑は外れ、今日が終わるまでにもう一幕が待っていたのだった。



寝る前にお風呂に入りたいなどと女性陣が我侭を言い始めたのだ。
俺も綺麗好きの日本人だからして、この埃塗れの建物内を徘徊して汚れ切った身体を洗いたい。
しかし明日も早くしたいので早々に寝てしまいたいのだが、此処で反対しても後々が面倒に成りそうだった。

「判った、もう好きにしてくれー」

ソファーに背を預けてだらけながら、投げ槍に答える。
そろそろ俺の真面目回路にもガタが出始めていた。

風呂場からは可愛らしいはしゃぎ声が聞こえる。
今女性3人が風呂場に入っているのだが、あそこはそんなに広いのだろうか?
存在しか確認していないため中の間取りなどは知らないが、3人入ってその上はしゃげるのなら広いのだろう。
世間一般で見ても可愛いと言える容姿をしている3人の風呂に入っている声を聞いて、良からぬ妄想が頭を過ぎる。
ああ、いかんいかん、これじゃただのエロオヤジだ。
ちらりと斜め前に座ってインスタントコーヒーを啜る高山を見れば、平静そのものである。
こいつには性欲は無いのか?
疑問には思うが、有ったら有ったで困った事に成りかねない。
いや有るのだろうが、漆山の様に節操が無い訳では無いと言う事で有るのでして。
あー、思考が支離滅裂に成って来た。

「どうした?外原」

ソファーの上で悶えていたのを見咎めたのだろう。
苦笑をして誤魔化しておく。

「はははっ、いや色々悩み事があってな」

嘘ではない。
若さ故の悩み事って奴である。
色々悩み事、と言うより色な悩み事ってか。
…ちょっと自己嫌悪。
そう言えば高山とゆっくり話す機会も今まで無かったか。
丁度あっちから声を掛けて来た事だし良い機会だ。
真剣な表情で高山に頭を下げる。

「高山、まずは礼を言っとくよ。色々と、有難うな。
 それと、やっぱり素人だった。迷惑掛けてすまなかったな」

「いや、俺の方にも利はあった」

カップに口を付けながら静かに返して来る。
その様子に気休めなどでは無い事は理解出来た。
けれど彼にどんな利があったのだろうか?
首輪が外れた事についてだろうか?
『ゲーム』内でも最初の首輪が外れた時は皆が安堵をしていたし。

「けど、無事2人の首輪が外せたのはお前のお陰だ。本当に有難う」

俺の言葉に肩を竦めて答える。
礼を言われ慣れてないのか、その顔は無表情ながら照れている様でもあった。

「明日からも迷惑掛けるかも知れないが、宜しく頼む」

再度頭を下げながら御願いをする。
それに対してコーヒーカップを静かに置いて話し出した。

「正直、お前と組むのは不安だった」

うっ、やはりそうなのか。
『ゲーム』内でも序盤に素人と行動を共にする事を嫌った男だ。
同人版の例があったので今まで疑問に思わなかったが、何故麗佳と一緒に居たのかも気になる。
その上、外見優男の俺じゃ余計に頼りないよな。

「あの解除条件にも係わらず、子供達と行動を共にするお前を見て、少し興味があった。
 だが、何時でも切り捨てるつもりではあったのだがな」

「冷静な判断で。まあ、間違ってはいないよ」

「ああ。だが奴の反則的な優位に対し、俺は何も手が出なかった時だ。
 それを逆転するだけの機転を見た時にお前に賭ける事にしたのだ。
 それも直ぐに潰えたと思ったが…無事で何よりだ」

褒めちぎりですよ奥さんっ!って誰やねん。
何か高山に褒められているが、これは『ゲーム』の知識のお陰である。
しかしそれを言う訳にもいかないし、どうしたものか。

「まっ、明日からはこのPDAはこっちにあるし、少しは楽になるかなー」

7番のPDAを振りながら、努めて明るく振舞う。

「後はJOKERを得られれば、状況は良くなるし、言う事無いな」

この言葉に高山は静かに頷いた。

暫くして女性達が風呂から上がって来る。
身体はさっぱりしても服の替えが無いので結局汚れるのだが、綺麗にしたい気持ちは解らないでもないので突込みは入れない。

「痛たた、皆酷いよっ」

「余計な無茶ばかりするからよ。自業自得だわ」

身体中の傷が湯で沁みたのかそれとも何かされたのか、痛がるかりんに麗佳が冷たく返す。
考えてみれば、現在無傷なのは麗佳だけだ。
高山もかりんも全身の至る所に銃弾が掠めたのだろう傷が見える。
更に高山の方は左肩に銃撃痕、多分戦闘禁止エリア前で受けたものが見られた。
優希は手塚から受けた右上腕部の切り傷だけ。
俺はさっきの地雷による右大腿部にある傷以外は掠り傷と打撲傷だけだ。
この大腿部の傷も深いものではなく、今晩寝れば痛みも和らぐと思われる。
それでも皆五体満足で居られているのだ。
あの激戦の中で幸運と言うべきだった。
特に俺は何度死に掛けてるんだろう?
ちょっと自重しないとな。

「満足したか?それじゃ皆、明日に備えて寝ようか」

俺の言葉に皆が返事を返し、寝る準備に入る。
女性陣が寝たのを確認してから、俺達もソファーで眠りについたのだった。


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