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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 挿入話1 「拠点」
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/01 00:06

約1年振りとなる今回の「ゲーム」は開始前からケチが付いていた。
目玉となる予定のプレイヤーが開始3ヶ月前に死亡してしまったのだ。
プレイヤーの人選は事前にかなり絞っている。
3日間以上の行方不明を死亡・生還どちらでも問題無い様に都合を付ける事は、幾ら「組織」でもすぐに出来る事では無い。
その死亡・生存状態に応じて対応出来る様に、幾つかの理由を準備しておく必要が有るのだ。
それでもただの数合わせのプレイヤーであるなら、予備や候補に挙がっていたプレイヤーで補充する事も出来る。
だが死亡したのは、観客に対して目玉と成る予定の大事なプレイヤーだった。
幸い片割れへの目玉となる要素は残っていたので、そのまま参加させる事に問題は無い。
だが目玉としての価値は落ちる。
1人それなりの設定を持つプレイヤーも居るには居るが、あれは「ゲーム」を加速させる為の駒である。
プレイヤーの補充も急務ではあるが、それが抜けた事による再編も急務であった。
首輪とそれに紐付くPDAの製作は一朝一夕で出来るものではない。
解除条件の変更を行なうなら早目でないと成らないのだ。
彼は頭を捻る。

(そう言えば奴等が居たか)

来年か再来年の目玉にしようかと取っておいた者達が居た。
残念ではあるが彼等を使う事にしよう。
その為には各解除条件を見直さなければ成らない。
勿論死亡者の代役も探さないと成らない。
資料を纏めて各関係部署に連絡を取る為に、そしてこの件を審議する為に、彼は与えられた自室を出て行くのであった。





挿入話1 「拠点」



薄暗い埃塗れの廊下を甲高い音を立てて歩く男が居た。
甲高い音は彼が持つ鉄パイプが床に擦り付けられている音である。
何故鉄パイプを持って歩くのか。
それは自衛の為である。
それ以外、男には興味無かった。
自分が生き残る為なら彼はどんな事でもするつもりである。
今までもそうやって生きて来たのだから。

その男、高山浩太が外原早鞍と名乗る人物から別れてすぐの事である。
2つ目の部屋で真新しい段ボールを見つけたのだ。
その中には食料品類とザック以外に、1つの見慣れないものが存在した。
何かのメモリーチップの様にも見えるその小さな黒い物体を見て暫く悩んでいたが、男は徐にPDAを取り出してコネクタへと接続してみる。
出て来たインストールの画面を表示通りに進める事で、ソフトウェアの導入を終えた。
彼が手にしたソフトは「Tool:Self Pointer」である。
このソフトは在ればかなり便利な機能であり、その為1階に相当数が置かれていたのだ。
最初はプレイヤー達が迷うのは余興で良いが、迷い続けられても白けるので毎回この様に成っていた。
その1つを手に入れた彼は、現在地が表示されたPDAの地図をしっかりと確認する。
彼は考えていた。
外原と言う人物から得られた9番を除くルールが本当であれば、上に上がらなければ成らない。
逆に言えば上に居れば全員が上がって来るので、この広い建物を1から6階まで探索するよりは6階で待っていた方が効率が良い。
エレベーターで一気に6階に上がる事が最良の選択であると判断し、彼は行動を開始する。
急ぐ必要は無いのだが、かなりの早足で以てエレベーターへ向けて歩き出したのだった。

高山がエレベーターホールに到着した時、そこには先客が居た。
白いワンピースを着て綺麗な金髪を頭の左右で括っている、見た目に戦闘能力の無さそうな線の細い女性である。
だが彼は戦場で見た目に騙されて死んだ同僚を何人も知っていたので、当然油断はしない。
警戒しつつも男はエレベーターホールでカゴを待つ女性にゆっくりと近付いて行った。



大学のキャンパスを移動していた筈の彼女は、何時の間にか意識を失っていた。
気付いた時にはこの埃塗れの建物の一室で寝かされていたのだ。
何故この様な事態に陥っているのかについて、彼女は頭を捻っていた。
手元にある部屋の中で拾ったPDAの内容を見る限り、生き残りを賭けたゲームに強制参加させられていると考えれば良いのか。
彼女の解除条件は「5つのPDAの破壊」である。
ルールの3を保有する彼女はそれを、他者の生命と自分の生命を天秤にかけるものである事に気付いていた。

「PDAを壊せば、首輪が解除出来なくなる!?」

それはその人間の死を意味している。
つまり彼女は5人の人間を殺さないと成らないのだった。

混乱する頭は時間と共に静まった。
彼女には選択肢は無い。
更にはJOKERの存在も彼女に危機感を持たせた。
彼女のPDAに載っているルールは1・2・3・4である。
このJOKERにより破壊の数が狂わされる危険性があるのは痛い。
最も注意するべき事項であった。
それでも彼女は他者に接触する必要性がある。
PDAを求める以上は自分1人では何も出来ない。
彼女は自分の小さな手提げバッグにPDAを入れて、この薄暗い建物の中を歩き始めたのだった。

彼女は此処まで迷うとは思っていなかった。
複雑な迷路状に成っている建物の中を困惑しながら歩き続ける彼女は、自分の位置を見失っていた。
途中でPDA内にあった地図がこの建物のものである事は気付けたのだが、気付いた時には既に迷っていたのだ。
そして此処までの道程で各部屋を見ていなかったのも痛かった。
彼女の様に他の人間が部屋に寝かされて居た可能性も有ったのだから、確認しておくべきだったのだ。
今更ながらに彼女は近くにある部屋を確認し始める。
その殆どは何も目ぼしい物の無い部屋であったが、1つだけ新しい箱が用意された部屋があった。
それだけが新しい事に疑問に思った彼女は、慎重にその箱を開く。
その中には1食分の保存食に飲料水、そしてプラスチックの様なもので出来た黒い小さな物体を見付けた。
小さい機械には「Tool:Map Enhance」と書かれている。
地図拡張。
その単語で彼女はそれがPDAの地図を拡張するものではないかと見当を付ける。
箱の調査中はバッグに収めていたPDAを取り出して、下と横についているコネクタを見ると、丁度横のコネクタに嵌りそうであった。
恐る恐るコネクタへと接続すると、インストールの画面が出て来たのでホッと安堵の息を吐いた彼女は作業を続行する。
インストールを実行した後に出て来た地図には確かに様々な情報が追加されていた。
だが今自分が何処に居るのは判らない状態では、この情報は意味が無い。
せめてこの情報で出ている施設に到着出来れば現在地を割り出せるかも知れない。
彼女には結局探索を続ける事しか出来ない状態だった。
特にお腹は特に空いていなかった彼女は、飲食物はバッグに入れて立ち上がる。
そのまま、また館内を彷徨い続ける作業へと戻ったのだった。

彼女が使用可能なエレベーターのホールに辿り着いたのは偶然だった。
未だに地図での現在地が判らない状態で彷徨っている内に辿り着いた場所で、再度地図を確認する。
エレベーターとして表示があるのは3つあったが、その2つには×印がついている。
この×が何を意味するのかは判らないが、普通に考えて使用禁止、又は使用不能だろうと彼女は読んでいた。
その為このエレベーターが使用可能かを確かめる為、地図を確認した彼女はボタンを押してみたのだ。
カゴの位置は6階を示していたが、暫く待つと5階へとランプを移行させる。
エレベーターは確かに動いてくれていた。
そんな時彼女は彼の接近にやっと気付いたのだった。



2人の邂逅は互いの観察から始まる。
男にとっては彼女のPDA、そしてJOKERを持つかが気に成っていた。
女にとっては彼のその厳つい雰囲気が恐ろしかった。
そうして2人で沈黙している中で、チンッと言う音と共にカゴが1階に到達する。
開いた扉に飛び込もうかと女は悩むが、此処で逃げてもいずれは相対しなければ成らないのかと更に悩んでしまう。
そんな時PDAから電子音が鳴り響いた。

    ピー ピー ピー

男が手元のPDAを確認すると、最初の6時間の戦闘禁止が解除された旨が記載されている。
この時よりルール8は解除され、彼に他者を攻撃する選択肢が追加されたのだった。

しかし彼はただJOKERが欲しいだけであった。
例え素人であろうとも死に物狂いに成れば手痛い反撃を受ける場合もある。
相手がこちらを害する気が無いのであれば、こちらから手を出す理由が彼には無い。
だから此処は、まず話し合いから始める事にした。

「少し、話を良いか?俺は高山。JOKERを探している」

男の言葉に女は少なからず驚きを感じた。
JOKERを何故欲するのかである。
理由としてまず上げられるのが、他者を騙す為であろうか。
他に有り得るとすれば、首輪の解除条件に関連するくらいと思われる。
自分の命が掛かっているのだ。
彼女には慎重に相対する必要があった。

「何故、JOKERが欲しいのかしら?」

「俺の首輪の解除条件がJOKERの破壊だからだ」

即答した高山と名乗る男の言葉に再度驚いた。
随分と簡単に解除条件を話す。
もしJOKERで他人を騙そうとする他者がこれを聞いたら、彼を危険人物と見なすであろう。
だが彼の言う事が本当であれば、彼女には何も弊害は無い。

「残念ね。私はJOKERを持っていないわ」

「そうか、なら良い。それで、俺はそのエレベーターが使いたいのだが、どいて貰えるかな?」

彼は早く上がって優位性を獲得したかったのだ。
高山は此処までの話の中、全く表情を変えていない。
それが女に取っては不気味であった。
何を考えているのかが全く読めない。
そして上に上がる行動理由も判らない。

「何故上に用があるのかしら?」

疑問がつい口をついて出た。
無意識だったのだが、彼女にとってこれは幸運だったと言える。

「ルール5の所為で、上に上る必要性が有るからだ」

彼の簡潔な言葉で彼女はルールの事を思い出したのだ。
ルール2に書かれてある内、残りの5から9のルールを彼女は知らない。
つい1から4とストレートに並んでいたので、失念していた。
そして彼がルールの5を知っていると言う事は、更にもう1つあると言う事なのだ。
出来れば3か4以外があれば良いと思い、彼女は高山に質問をする事にした。

「高山さん、と仰いましたね。私は矢幡麗佳と言います。
 申し訳有りませんが、貴方のPDAにはルールの何番が書かれているのでしょうか?」

「俺のPDAに書かれているのは…4と8だな」

男は思い出すかの様に思案してから、番号を答える。
1と2は全てのPDAに記載されているので省いたのだろう。
その言葉に間違いは無いのだが、矢幡と名乗った女性はその矛盾に気付いた。

「では何故ルール5をご存知なのですか?!」

睨み付ける様に男を見る。
彼が嘘をついている可能性が上がった。
彼女を混乱させる為か、騙して何かをさせようと言うのか。
矢幡にとっては油断の成らない状況である。
しかし高山は彼女の動揺にも顔色を一切変えず、その疑問に淡々と答えた。

「俺はルール9以外を聞いたからな」

「聞いた?」

「ああ、1時間くらい前に出会った外原と言う男に、ルールの1から8を教えて貰った」

(1人の人間に9以外の全てのルールを知る術などあるの?)

それが矢幡の次の疑問だったが、彼女が問う前に高山から答えが出される。

「外原は俺と会う以前に他者と出会い、その者達とルールを確認した様だ。
 更に俺が会った時には1人の少女と同行中だったし、ルールについては確認し易かった様だな。
 だが残念な事に、その誰にもルール9が載っていなかったらしい。
 お前のPDAにルール9は載っているか?」

淡々と話される言葉は理路整然としており、淀みは無い。
逆に問われた事に反射的に答えてしまうほど流れに乗っていた。

「私のPDAには1から4まで載っていたわ」

高山は静かに頷くと、ルール5以降の内容を覚えている限りではあるが朗々と語り出した。

「ルール5は時間が経つにつれ下の階から進入禁止エリアになると言うものだ。
 進入禁止エリアに侵入した場合は首輪が作動するらしい。
 ルール6は賞金について。20億を生存者で山分けするとあった。
 ルール7は戦闘禁止エリアがある旨が書かれていた。
 更にルール8には開始から6時間以内は館内全域が戦闘禁止エリアに指定されるとある」

高山は一度言葉を切って、言葉を続ける。

「最後の8は先ほど無効化されたが、それ以外は現在も有効だ。
 そして先ほども言った様にルール5により、下の階はその内危険地帯と成る。
 だから早目に上に上がりたかったのだ」

この説明は矢幡にも充分に理解出来た。
説明も理由にも淀みは無く、齟齬も見当たらない。
2人きりなのが不安ではあるが、此処で逃げても進展が無い事の方が怖かった。
だから彼女は決断をする。

「詳しい話は上がりながらの方が良さそうですね」

エレベーターの扉は時間が過ぎて既に閉まっていた。
矢幡は上へのボタンを押して待機していた扉を開く。
先に入って開くのボタンを押し込みつつ、高山が入って来るのを待つのだった。



何の妨害も無く2人は6階のエレベーターホールに辿り着く。
エレベーター内に居た短い時間に各々のPDAの解除条件とこれまでの経緯を伝え合った。
その情報の中に有った北条かりんと言う少女の「5台のPDAを収集する」は、矢幡と非常に相性が良い解除条件だ。
だがその少女と共に居た男性、外原早鞍と言う人間が判らなかった。
「3名の殺害」を解除条件とする青年。
幾ら先に解除条件を明かされたからと言って、そんな解除条件を他人に明かせる筈が無いと彼女は疑う。
だが高山と同じ様に結論は出ない。
他にも高山のPDAによるJOKERの偽装機能解除が可能である事が、矢幡に光明を見せていた。
これがあれば彼女の解除時にJOKERを紛れ込ませてしまう危険を回避出来る。
そうでなくとも彼の首輪が外れていると言う事は、イコールJOKERが既に無い事を意味するのだ。
彼女にとってこの高山と言う人物又はPDAは不可欠と言って良い。
逆に高山の方には彼女と共に居るメリットは何も無かった。
正直彼女が同行するのは避けたかったのだが、何も判らない彼女は彼と別れる不安が見え隠れしている。
メリットは無いがPDAを探す理由くらいには成るかと、無理矢理自分を言い聞かせておく。
いざと成れば危険回避の盾くらいには出来るだろう。
各々は思惑を秘めて6階の探索に乗り出したのだった。



エレベーターホールからは、矢幡のPDAに表示されている倉庫と書かれた部屋に真っ先に向かった。
その部屋で物資を確認した時、2人とも絶句してしまう。

「何、これ?」

彼女が見詰める先には、大きな木箱に詰め込まれた様々な武器が有った。
長い銃、短い銃、丸い何かに刃物類。
幾つかの円筒形の缶に、ガスマスクや他にも見知らぬものが一杯入っていた。

「こんな物もあるのか…」

男が絶句していたのは箱の方ではなく、部屋の片隅に布を掛けて置かれていた大きな品を見たからだった。
その布を剥して出て来た物は重機関銃だったのだ。
軍隊を相手に戦争でもしろと言っているかの様な手入れの行き届いた重火器に、高山は寒気を感じる。
まともに殺り合ったら絶対に勝てないだろう武器を見せられているその心境は、戦場を渡り歩いた彼だからこそ実感出来るものだった。

「これは、思ったよりも酷い事に成りそうだな」

少し考えを改める必要がある。
その事を2人共が考えていた。

重機関銃をチェックする高山を見て、矢幡は彼がこういった武器を扱う事が初めてでは無い事を見抜いていた。
それが彼女にとって良い事なのか悪い事なのかは、まだ判らない。

「矢幡、これらの兵器を向け合うのは非常に危険だ。丁度台車に載っているからこれを下に降ろそう」

「降ろす?」

「ああ、下にこれを有効に扱える地形なりに拠点を作って、ルール5の進入禁止の直前までそこに篭るのが良いだろう。
 問題は他のプレイヤーに会えない事だが、元よりそのつもりであるし、彼らもその内上がって来る。
 そこを交渉すれば良い」

彼の言葉は判らないではない。
だが彼女は早く首輪を外してしまいたかった。
それでもこれらの兵器を見ていると、自分が簡単に生き残る事は出来ないだろうと思えてしまう。
だから進入禁止に成る階下へと逃げられる様に成っておきたい。
彼女の頭の中を渦巻く思考は、ただ自分が生き残る為のみに働いていた。

「矢幡、お前はどうする?このまま6階に残るのならば、此処でお別れだ」

荷物を纏めながら高山が言う。
彼は矢幡が思考に沈んでいる間も各武器を纏めて、重機関銃が載っている大きな台車に移していた。
彼は淡々と作業を進める。
そこにはただ機械的な程の生き延びる事に対する姿勢があった。

(彼についていけば、私も生き延びられるだろうか?)

そんな考えが彼女の脳裏を過ぎる。
どうしても生き延びたい。
それは誰しもが持つ欲求。
だからこそ人は足掻き続ける。
彼女も例外では無く、葛藤していた。
高山は黙っている彼女を気にせずに、作業を進める。
そして他の部屋よりも大きい入り口を持つこの部屋から、様々なものを載せた台車を押して出て行く。
何も言わなければ高山は矢幡を置いて行くつもりだった。
この場面で決断出来ないのでは、この先は足手纏いにしか成らない。
先ほどPDAで見た5階の地図を思い出して、拠点とする場所の構造と周辺の地理を反芻する。

「高山さん!私も一緒に行っても宜しいですか?正直、これらを見て私では対応し切れないと思うのです」

「…好きにしろ」

出て行った高山を追いかけて話し掛けて来た矢幡に対して、台車を押すのを少しの間止めて短く答える。
足手纏いになったなら、その時に切り捨てれば良い。
彼は冷静に考えていた。

「有難う御座います」

この選択は彼女に取っては一大決心であったが、その事が彼女を救ったと言えた。
もし今回の「ゲーム」でこの6階に1人残されたとしたら、今の彼女ではどうやっても生き残れなかっただろう。
それ程に、この上層階は危険だったのだ。



部屋に在った大半の物資を載せた台車が5階のある部屋に到着した。
その部屋は袋小路にあり、一方向からしか近寄れない上にその通路は百メートルほどの直線と成っている。
更にその直線通路の脇に部屋などの扉は無く隠れる所は一切無い。
拠点を作成する為にある通路と言って良い地形であった。
その直線通路に向けて奥の部屋の前に重機関銃を設置する。
ジャッキなどの道具を用いて台車から降ろし、しっかりと固定した。
機関銃用の弾も台車に載っていたので、これを何時でも使える様に接続しておく。
ただ弾数はそれほど多くないので、これだけではなく小銃での牽制も必要に成るだろう。
出来ればあちらの曲がり角付近にも罠を設置しておきたい。
だがその為にはまだまだ物資が要るのだった。

高山と矢幡は拠点に重機関銃を設置後、高山が持って上がった飲食物中心の荷物と持って降りた装備中心の荷物を奥の部屋に置いて、再度6階を目指す。
物資を6階から持って降りて更なる要塞化を施すつもりだったのだ。
一応持って下りた物資の中から自分達の武装も整えておく。
それでもまだこの上層階に居るのは自分達だけであると高を括っていた。
武装は高山がアサルトライフルにコンバットナイフと44口径の拳銃に防弾チョッキを着けた。
但し荷物運びの重労働が残っているし、此処も激戦区になるにはまだ時間があると思っていたのでチョッキの等級は低く動き易い物を選んでいる。
後半では等級の高いアーマージャケットを着るつもりだったので、それは此処に置いておく。
矢幡の方は防弾チョッキと38口径の拳銃のみであった。
サブマシンガンも勿論あったが、彼女にはまだ躊躇いがあったのだ。
その他に一部の物資を入れた荷物を持って、彼等は拠点を後にした。

再度エレベーターホールに向かう前に少し迂回して、封鎖された階段に立ち寄る。
此処は重機関銃を運んでいる最中にも、通路に荷物を置いてから偵察に来ていた。
その時から構想を練っていた高山は、瓦礫と鉄条網で以ってしっかりと封鎖されている階段に対して作業を開始する。

「高山さん、何をしているのですか?」

「この封鎖を爆破する為の仕掛けを施している」

「爆破?…まさかっ!」

麗佳は高山の策をやっと理解した。
拠点を築いたとしても結局首輪が外れなければ6階へと上がる必要がある。
此処から使用可能と思われる階段は急いでも3時間は掛かりそうな程に遠い場所に有る為、不利だと思っていたのだ。
勿論エレベーターまでは近いが、その時にもエレベーターが使えるかが微妙であった。
だがこれで突破すれば階段での待ち伏せなども恐れる事は無い。
この短時間でこれ程の策を考え付いた高山と言う男は一体何者なのか。
武器・兵器にも精通している彼は、彼女にとってはある意味恐怖の対象だった。

「よし、これで良い。待たせたな」

高山が封鎖階段を離れて麗佳の所へとやって来る。
麗佳には内心を悟られない様にするのが、出来る全てだった。

彼等がエレベーターホールに向かう途中に微かではあるが爆発音が何度か聞こえて来る。

「何?」

矢幡が疑問に思うが、答えは無い。
厳しい目をしながらも歩みを止めずにエレベーターへと急ぐ高山を、ただ彼女は追いかける事しか出来なかった。
歩いている内にも何度か発砲音が鳴り響く。
音からしてサブマシンガンと思われるが、誰か早くも此処に、しかも2組以上が上がった事に成る。
彼等もエレベーターを使ったのだろう。
この事は高山に取っても困った事態であった。

「拠点が完成したらエレベーターを壊すつもりだったが、出遅れた様だな」

「…その様ですね。しかも好戦的な方が居ると考えて良いでしょう」

現在銃撃音は止んでいるが、それでも立て続けに鳴っていた不穏な音に矢幡は不安の色を隠せないでいた。
エレベーターホールに入る手前で高山は止まる。
そこからホールを覗いても誰も居ない。
通路から進んだのだろうか。
2人が暫く待っていると、20歳前後の若い男が1つの通路から躍り出て来て、ある通路へ向けてサブマシンガンを連射する。
すぐに弾が切れたのか引鉄を引いても何の反応も示さない銃を、彼は脇に投げ捨てた。
その時彼が銃撃していた通路より1人の男が走り出て来る。

「外原?」

高山の呟きは矢幡の耳にも届いた。

(彼が…3名殺害の男?)

手に持つ拳銃を相手の警棒に叩きつけて弾き飛ばした外原と言う男は、最初の男の後ろに回り込んで拳銃を突き付ける。
すぐに引鉄を引くだろう。
2人共内心ではそう思っていた。

「両手を挙げて動くな」

此処まで聞こえるほどの、興奮した様な大きな声が聞こえる。

「何故?撃たないの?」

矢幡の口を吐いて出た疑問は高山も持った。
彼の解除条件が殺害なら躊躇う事など無い。
更に相手はサブマシンガンを乱射して来た、確実な敵である。
殺さない理由は無い。
そんな疑問を持たれた外原は襲撃者に足払いを受けて仰向けに倒れ、その右腕を封じられてしまっている。
高山は咄嗟にライフルの照準を襲撃者へと向けた。

「高山さん?」

「黙ってろ。彼を援護する」

まだ半信半疑だった。

(もし、もしもだ。北条がまだ生きているなら、奴は信用出来るかも知れない)

何故かそんな気持ちが高山に芽生えていた。
1人で生きる事は容易いかも知れない。
だがどんな人間が居るか判らない以上は、味方は多い方が良かった。
それも絶対に裏切らない味方なら尚更だ。
スコープに覗く襲撃者の脚をしっかりと狙って引鉄を1つ引く。
その弾丸は狙い通りに彼の右の太腿を貫通した。
勢いに流されて転がった襲撃者に2射目を加えようと狙いを付けるが、素早く転がって通路へ隠れられてしまう。
チッと舌打をしてスコープから顔を上げると、未だ外原が床に転がったままである事が認識出来た。

「外原、さっさと離脱しろ!」

大声で行動を促す。
その声で外原は移動を開始し、元の通路へとフラフラの足取りで戻って行った。
外原を追おうと通路から出て来ようとする襲撃者に、高山はライフルの狙撃を加えて外原に近付けさせない様にする。
そしてこちらも通路から出て、相手の通路へとライフルの引鉄をランダムに引きながら肉薄して行った。
通路への角度を変えつつ牽制射撃を続けて様子を見ながら、相手が隠れているだろう通路の先を視界に収めようとする。
しかし奥までの通路が視界に入った時、その通路は蛻の殻に成っていたのだった。



外原が隠れた通路を覗いて見ると、彼は壁に背を預けて座り込んだ状態だった。
息は整っている様だが、脚の間で銃を持つその両手には力が入っていない。
高山はそんな彼にゆっくりと、何時でも拳銃を撃てる様な気構えで近付いた。
その後ろには、同じく何時でも撃てる様に拳銃を右手に持った矢幡が続く。
彼等に気付いた男は、顔を上げて疲労に満ちたその顔で礼を言った。

「高山、有難う。助かったよ」

「無茶をしたものだな」

高山は静かに返す。
その無茶が何の為なのか。

(解除条件を満たす為の行動では無いのか?)

高山の疑問はそこであった。

「はは…。自分でも無謀だったと、今更ながら、思うよ」

自嘲気味に呟く外原の顔に悔しさは一切無い。
襲撃者を殺せなかった事に関しては何も思っていないかの様である。
それが2人には不思議で仕方が無かった。
外原は彼等の態度に違和感を感じつつも、言葉を繰り出す。

「ルールの9番及びJOKERはどうだった?」

「どちらもまだだ」

高山は即答した。
彼に嘘をつく理由も無いし、そんな内容でも無い。

「所で、そろそろそちらの美人さんを紹介してくれないものかな?」

再度苦笑を浮かべながら矢幡の事を聞く外原に、高山は逆に重要な事を問い掛けた。

「外原、北条はどうした?」

高山の不躾な問いに外原はちょっと顔を顰めたが、諦めた様に答える。

「近くの倉庫に隠れておくように言ってある。もう1人子供が居たので、銃撃戦に巻き込みたくなかったんだ」

「子供?」

「色条優希っていう10歳くらいの子供だよ」

「…そうか、無事なら問題無い」

彼の言う事が本当であれば信用出来るかも知れない。
高山は安堵の息を内心で吐きつつも、まだその姿を見ていないので気は抜けなかった。
外原は続けてその子供についての説明を続けた。

「それで申し訳ないが、9番の解除条件がプレイヤーの全員と遭遇する前に6階に到達なんだ。
 なので出来れば合流は、こちらが一回6階に到達した後にしたいんだが…」

此処で言葉を切り、考え込む外原。
暫く考えていた彼は、高山達に全く逆の事を提案して来た。

「高山。すまないが、俺達と同行してくれないか?」

「どういう事だ?9番の解除条件が事実なら、合流は避けるのではないか?」

(もしその倉庫6に罠を張っていたら?そう成るとさっきの襲撃者もグルと言う事に成るが)

彼のおかしな提案に、嫌な想像が頭を過ぎった。
矢幡も外原の言動には疑問を持つ。
しかしその答えはとても情けないものだった。

「尤もだ。現に今まではずっとそうして来たしな。
 だが、今攻撃を受けて痛感したよ。俺じゃこれ以降、あの子達を守り切れそうも無い。けど…。
 だからって、はいそうですか、って殺されてやる訳にはいかないんだ!」

2人は彼のこの強い口調の言葉に呆気に取られてしまう。
矢幡は先に復帰して、相手をしている筈の高山を後ろから突っついた。
その突きで我に返った高山は少し思案してから答える。

「判った。こちらも連れの条件が有るので、協力は吝かではない」

「そうか、助かる。取り敢えず、かりん達と合流しよう。
 隠れてろって言っただけだから困ってるかも知れないからな」

彼は目に見えて喜び、持っていた銃を再び腰の後ろに挿し直した。
身体がまだ痛むだろうに、壁を頼りに自分を支えながら立ち上がる。
そしてその通路の奥、矢幡のPDAにも書かれてある倉庫6へ向けて進み出した。

「高山さん、彼はあの3番なのでしょう?何時裏切るか判りませんよ?」

「かも知れん。だが本当に北条が生きているなら、彼に他者を殺す意思は無いと判断出来る。
 そんな人間は稀と言えるだろう?何時後ろから撃たれるか判らん人間などより頼れる。
 甘いだけではなく、襲撃者への対応を見ればそれなりに度胸もある様だしな」

高山の返答は矢幡に反発心を芽生えさせた。
しかしそれは言葉に出来ない。
つまり高山は矢幡の事を「後ろから撃つ人間」であると言っているのだから。
高山自身も余り他者を信用する人間ではない。
利害が一致している間は協力する。
但し自分からは出来るだけ裏切らない。
それをポリシーとしていたのだ。

「そうですか。ではその倉庫6に彼女が居るかどうか、ですね」

彼女は外原を信じていなかった。
それは自分がもし同じ立場であった為らば、確実に殺しているだろうからだ。

(すぐに化けの皮が剥がれるわ)

ヨロヨロと進む外原の背中を睨み付けて、彼女は高山の更に後ろに立って続くのだった。


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