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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 第2話 出会
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/01 00:05

俺の突然の宣言に呆れ返ったのか、手塚は何と答えようかと悩んでいる様だった。
此処で否定されたり明確な反対意思を示されると、また要らぬ口論が継続しかねない。
今の所はさっさと退散しておこう。
今更ながら恥ずかしい台詞を言った事も、少し後悔していた。
こんな事を真顔で言うとは俺も焼きが回ったのだろうか?
赤面した顔を隠す意味もあり、手塚から背を向けて歩き出す。
さっさと手塚の視界から離脱してしまいたかったのだ。
手塚は呆気に取られているのか、こちらへのアクションは何も来ないのだった。

彼から逃げる様に、やって来た通路をそのまま引き返して行く。
追求を受ける事を回避する為もあったが、一番の理由は情報が欲しかったのだ。
手塚が居なく成ったのであれば、残った御剣達とPDAの番号及び解除条件の明かし合いが出来るだろう。
甘ちゃんの彼等となら協力して行けると踏んでいた。

エントランスホールに戻って来たが、そこには人の気配が全く無かった。
ホールを見渡すが、御剣達の姿は何処にも見当たらない。
御剣達のPDAの番号と解除条件を確認して置きたかった。
特にルール9が無い状態では必須の情報とも言える。
それに各人の情報が判っている事は今後遭遇する者達への情報提供力にも関わるのだ。
確かEp4では戦闘禁止が解除される6時間経過直後までは此処に残っていた筈である。
綺堂が現れたりした所為か?
考えが過ぎるが、それ以上の問題がある事に今更ながら気付いた。
いや前から思ってはいたが、此処にまで影響するとは考えていなかったと言うのが正しいか。
長沢が死んでいないのだ。
姫荻と色条が此処で呆然と時間を浪費したのは目の前で悲惨な人死にを見た所為であり、今回は精神的な被害は無い。
では綺堂は御剣達と同行中なのだろうか?
可能性は高いが現状確かめる術は無かった。
結局はこれまでの変化ばかりを考えて、以後の変化については余り考えていなかったのだ。
大失敗だと後悔するも取り返しなどつく筈も無く、仕方が無いので一人寂しく巨大迷路へと旅立つのであった。





第2話 出会「JOKERのPDAの破壊。またPDAの特殊効果で半径で1メートル以内ではJOKERの偽装機能は無効化されて初期化される」

    経過時間 3:57



埃が堆積する薄暗い通路を、警戒しつつもそれなりの速度でもって歩き続ける。
幾つかの部屋を探索して見たが、目ぼしい物は見付からずに時間だけが過ぎていた。
館内を歩くのに、追加された2つのソフトウェアが非常に役に立っている。
改めて地図全体を見るとその大きさと複雑さに目を見張った。
『ゲーム』でもあったが、一辺が数百メートルにも及ぶ巨大建造物の中を迷路にした状態と言えば良いだろうか。
沢山のミミズの様に絡み合った通路の隙間を埋める様に幾つもの部屋が点在している。
3DのダンジョンRPGの様な感じだ。
通路は大人が横に3人並んで歩けるくらい広いし、地図を見る限りにも、今まで歩いた感じでも、その幅が変化する事は無かった。
まるでこの為に用意されたかの様な迷宮である。
今は地図上の各部屋に名称が載っている上に現在地が矢印表示されているので見易いが、無かったら訳が判らないだろう。
矢印は俺が動くとベクトルを計算しているのか、その進行方向へと向きを変える。
これもある意味何処へ向かおうとしているのか判り易くて便利であった。
地図そのものは6つ存在し、この建物が6階建てである事を暗に示している。
俺達13人はそんな広大な舞台で殺し合いをさせられているのだった。

そうして幾つかの部屋の物色を終えて進む俺の耳に、微かだが自分が立てる以外の物音が聞こえて来た。
行動を停止して音の発生源を確かめようと耳を澄ます。
ごそごそと近くの半開きの扉から、それなりに大きな音が漏れ出ていた。
忍び足で扉へと近付いてゆっくりと部屋の中を覗き込むと、小柄な人影が部屋の中央にある箱の中身を漁っている様だ。
もっと良く見ようと身体を乗り出そうとした所で人影の行動がピタリと止まった。
気付かれたかと一旦体を引っ込めて、再度影より覗き見る体勢に戻る。
しかし人影は先ほどまで忙しく動き回っていたのとは打って変わり、静かに佇み続けていた。
3分程度経っただろうか。
全く動かない人影に業を煮やし、話しかける事にした。

「あーもしもし。そこの君。ちょっと良いかね?」

声を掛けられた人影は飛び上がるほどに驚いて振り返る。
容姿は可愛らしい感じもするが、そのきつい目の所為で悪ガキっぽいイメージが沸いた。
影を見て判っていたが、身体は小柄で中学生くらいだろうか?
髪は肩くらいまでで短めに切り揃えており服装もスポーティーなために、その細い身体と相まって可愛い少年と言われても納得出来そうだ。
俺を見るその目は怯えきっていつつも、何かに縋り付きたいかの様でもある。
訝し気にもう少しだけ近づこうと一歩踏み出すと、人影も後ろへ退がろうとした。
しかし足元に在った段ボール箱に阻まれてしまい、その距離は縮まってしまう。
彼女はこの薄汚れた暗い部屋の真ん中で、何かを胸に抱え込むようにして佇んでいる。
何を持っているのかと目を凝らして胸元を覗き込んで見ると、それは鈍い銀色の光を反射していたのだ。

「……拳銃?」

見た物が信じられなかった。
此処はまだ1階である。
銃関連は『ゲーム』では3階以上でのみ手に入っていた筈だ。
いや、郷田から特別に申請があったEp2の御剣は1階でも拳銃を拾っていた。
だがあれはPDAが早期に壊れた事による措置である。
それとも彼女にも措置が下るような何かが有ったのだろうか?
特に見た所おかしな所は無さそうなのだが。
それよりも相手が拳銃を持っている状態というのはとても心臓に悪い。
しかし下手に刺激して攻撃されたら堪ったものではないし、どうしたものか?

「お前、誰だ?」

声が微かに震えてはいるが、静かな低い声で彼女が問い掛けて来る。
幸い銃は持て余しているのか今も抱えているだけだが、目はきつくこちらを睨んだままだ。
警戒心が大きいし、まずは自己紹介からが良いだろう。

「俺は外原早鞍。数時間前にこんな埃臭い所で目が覚めたんだが、現状困っていてね。
 君は此処が何処だか知っているかい?」

なるべく刺激しないように、穏やかな感じを装って話し掛ける。
出来ればあの拳銃をこちらへ渡して欲しいが、そちらへ話を持っていくと藪蛇と成りそうだ。

「あたしもさっき目覚めたんだ。かれんの見舞いに行く途中だった筈なのに…」

本当に困惑している様子でいる彼女に、まだゲームについて理解していない事が察せられる。
さっきまで寝ていたという事は、4時間近く時間を無駄にしているのか?

「申し訳無いが、その物騒なものを渡して貰えないかな?本物かどうかも確かめたいし」

「あ、ああ、うん」

まだゲームの現状を把握していないと判断して、困ったような感じを出しつつ切り出してみる。
彼女は慌てたかの様にこちらへ銃を押し付けて来た。
その潔い行動から、こちらがそれを使って彼女を攻撃する事は考えていないのだろう。
まだ疑心暗鬼になる前の状態という事か。
受け取った瞬間、ズシッとした重さと冷たい金属の感触に思わず背筋が冷える。
ゴクリと喉を鳴らして湧き出た唾を飲み込んだ。
これが引鉄を引くだけで人を簡単に殺す事が出来る道具なのか。

「あ、あのさっ」

急に声を掛けられて、はっと我に返る。
銃の威圧感に数瞬呆けていた様だ。
少女は声を掛けた後、何か酷く落ち着かない様子を見せている。
どうしたのだろうか?
彼女の目は俺の手元を頻りに気にしていた。
手元には先ほど預かった銃があるのだが。

「っ、すまない! そうだな君もこれは怖いな。悪い悪い。
 よし、取り敢えずこれで良いだろ」

彼女が何を気にしていたのか遅まきながら気付く。
手に持っていた銃を、ズボンの後ろのベルトに押し込むようにして固定した。
持ったままはお互いの精神衛生上に悪いし、同様の理由で目に見える場所は拙い。
しかしあちらに奪われる可能性がある場所も駄目だ。
その折衷案として此処が一番良いと判断した。
少女の雰囲気が少し和らぎ、安堵もあるのかこちらの人物観察に移行した様だ。
此処でも後手よりは先手の方が有利だろうと判断して少女へと話し掛ける。

「取り敢えず、まだ何も判ってないようだから、ルールの確認だけしとこうか」

「ルール?」

ルールについても知らないと成ると、彼女が無防備っぽいのも頷ける。
俺は彼女の問いと共に自分の内心にも頷きを返すと、説明を続けた。

「ああ、どうやら俺達は巫山戯た殺人ゲームに強制参加させられているらしい」

「殺人ゲーム」の部分で少女の体がビクッと震える。
拳銃が気になるのだろうか、こちらの腰元に視線が行った。
気にしても仕方が無いので、流して話を進める。

「それで、このゲームで何をしたら死ぬのか、どうすれば生き残れるのか、についてPDAに書かれている訳だ。
 これと同じ様な物が、君が寝かせられていた部屋に在った筈なんだが。持って居ないか?」

自分のPDAを液晶画面が見えない様にしながら、取り出して見せる。

「あ、それっ。あったあった。
 えっと…これでしょう?」

とショートパンツの右前のポケットに収めていたPDAを取り出しながら、俺に画面を見せ付けて来る。
そこには<ダイヤのK>が表示されていた。
やはりこの子がかりんなのだろうか?
PDAの内容を確認出来れば儲け物であるし、少女に手を差し出しつつ聞いてみる。

「取り合えず、PDAを貸して貰えないかな?確認したい事があるのでね」

「ああ、判った」

あっさりと頷きPDAを俺の掌の上に乗せて来た。
全く危機感は無い様だ。
やはりまだPDAの内容を確認していないのだろう。
見ていたら、ルールの1だけでも他者にPDAを渡す危険性が理解出来そうなものだ。

「そうだ。俺がPDAを確認しておく間に、こっちを見ておいて貰えるかな?
 今までに判明したルールの殴り書きなんだが」

そんな彼女へ胸ポケットから1枚の紙を取り出して、彼女へ差し出す。
数時間前に御剣達とルール確認した際に写し取った、9番を除いたルールの一覧である。
彼女の無防備さについては今の時点では好都合なので措いておき、PDAを確認した。
必要なのは、ルールと解除条件だ。
残念ながらルールの方は、既に知っている6と7しか載っていない。
解除条件の方は次のように書かれていた。


    「PDAを5台以上収集する。手段は問わない」


これも『ゲーム』の通りであり、何も問題は無い。
この条件なら、渚が同行しているものとしてだが、御剣達と合流すれば即解除可能だ。
やはりこれ以後は階段を目指すべきという事か?
それ以外は目新しいものは無い様だったので、PDAから顔を上げて少女の様子を見てみる。
ルール表を見つめる少女は困惑顔をしていた。

その後ルールの一覧を得た経緯と現状について説明する為に、部屋の中に向き合って座った。
ルール表はPDAと交換で返して貰う。
一通り話し終えた所で重要な事を聞いてみる。

「で、そろそろ君の名前を聞かせて貰えないかな?」

「あ、えっと、あたしは北条かりん(ほうじょう かりん)って言います」

「では、北条。改めて宜しく。
 それで、君の解除条件からして5人、俺を入れるとなると残り4人の協力者を得られれば、首輪は外れる。
 どちらかと言えば簡単な解除条件と言えるな。良かったな?」

「それは無いんじゃないかな?こんな事に協力してくれる人が居るとは思えないよ」

彼女は他人に対して不信感を持っている様だ。
それに対しては何となく同感してしまう。
…はて?
俺はそんなに人非人だっただろうか?

「みんな、自分の事さえ良ければそれで良いんだろうし、あたしが返せる事も無いなら協力してくれないんじゃないかな?」

「そういう思い込みは良くないとは思うな。協力してくれる奴も居るさ。
 ただ相手は良く見ないと騙されるかも知れないがな」

明るい口調で返す。
彼女の声が余りにも暗いので、こうでもしないと部屋の薄暗い雰囲気に飲まれそうだ。

「あたしは絶対生きて帰らないといけないんだ!妹があたしを待ってるんだから。
 そう言えば、賞金って、20億……それがあれば…」

「おーい、北条?」

「うわっ、な、なに?!」

何か良からぬ方向へ考えが行き掛けた様だ。
その原因を聞いておかないと話が進まないだろう。

「北条は妹さんが居るんだ?」

「えっ?あ、うん。かれんって言うんだ」

あっさりと素直に答える。
こういう所、騙され易いって言われないものかね?
まあ話を続けよう。

「へえ、なら妹さんもお姉さんが行方不明になって、心配しちゃうな」

「そうだよっ、今日はかれんの所に行く予定だったのに…」

「そう言えばさっき、見舞いとか言ってたね?怪我でもしてるの?」

その言葉にかりんの表情が固まる。
早まったか?
俺の焦りは杞憂だったが、かりんは苦しそうに声を出す。

「かれんは、今にも死にそうなんだ。手術しないと助からないのに、お金が無くて…。
 あたしには両親も居ないし、大人は誰も、助けてなんか、くれなかった。
 だから、あたしが何とかしないと、いけないのに…」

今にも泣き出しそうな瞳をして途切れ途切れに話す。
途中からは顔を上げていられなかったのか、俯いて声を絞り出していた。

「お金って幾ら必要なんだい?」

これは聞いておく必要がある。
『ゲーム』と全く同じとは限らないからだ。

「…渡航費用を合わせて、3億8000万円。普通に無理だよね?こんな大金。
 だけどっ、このルールが本当なら、私の妹は助かるんだっ!」

急に顔を上げて叫んで来た。
浮き沈みの激しい子である。
しかし必要なお金は『ゲーム』と一緒か。
これでもし13人全員が助かる場合は、4人以上の協力者が必要に成る。
それと8名の殺害なら、協力者を求める方が良いのか?
どちらが簡単かは、プレイヤーの人格に左右されるので、会って見るまでは判らない。
判らないものに縋る事が不安なのは当然である。
だからルールの6にある賞金20億円の山分けに心惹かれてしまうのも必然なのだろう。
しかしその為には人数を5人以下にする必要がある。
必然的に8名には死んで貰わなければならなく成るので、積極的に殺人を行なう必要もあるだろう。
プレイヤーカウンターが無い今の状態では、会う者全員を殺して行くくらいでないと、5名以下に成らない可能性も出て来るからだ。
『ゲーム』では御剣達が金額を協力する事を約束して和解していたが、こちらも同じ事をすれば良いのか疑問である。
いや俺一人の協力で解決するなら幾らでもするが、他にも頼む必要があるので大丈夫とは言えない。
此処が『ゲーム』での御剣達との大きな違いと言えた。
第一これが『ゲーム』の中だとして、勝利後に俺はこの世界に残れるのか?
大体3番の俺が、誰かを殺さずに勝利者に成れるかどうかも、今は疑問視されるのだから。

「外原さん。あたしはお金が要る。絶対に」

思考に沈んでいると、目の前の北条が再び俯いてから静かな低い声で話し出した。
ちょっと切羽詰っている感じで怖い。

「20億を山分けって事は5人以下。だから…」

「ストップ、北条」

どんどんと熱くなっていきそうな口調に不穏な空気を感じて、話を中断させる。
このままではEp2の様な「逝っちゃったかりんちゃん」に成りかねない!
いやあれもあれで可愛…くないよな、やっぱり。
兎に角、説得をしなければ成らない。

「5人以下にする為に人を殺すか?そうして妹に、君は人を殺して助かったんだ、って言うのか?」

呆れた口調で釘を刺してみるが、これを聞いて彼女は顔を上げた。
目には涙を溜めて全身を震わせながら、大きな声で抗議して来る。

「だったらどうしたら良いんだっ!周りは誰も助けてくれないんだっっ!
 このままじゃかれんは死んじゃうっ!あたしにはもうかれんしか居ないんだっ!あの子が死んだら…あたしは…」

最後の方は声に成らずに消えていく。
涙は目から溢れて大粒になり、膝上で握り締めた拳へと零れ落ちる。
彼女の世界は、もう彼女と妹とそれ以外に区切られている様だ。
周囲の裏切りや金銭トラブルで他者に対して不信感が募っているのだろうか?
そう考えた時、頭の奥がズキリと痛んだ。
他人なんて信用出来る訳が無い。
どいつもこいつも、騙して、信用を踏み躙って、肥え太る事しか考えてないんだ。
そんな考えが脳裏を過ぎる。
何かが朧気に思い浮かぶ。
思い出せそうで思い出せない、そんなもどかしさ。
しかしそれも目の前の少女の嗚咽で目が覚めた。
それと共に頭の中を渦巻いていた、真っ黒く吐き気のしそうな醜悪なモノが霧散した。
消えたとは言えその残滓は残った様で、頭を軽く振って意識を取り戻しておく。
俺の変な意識は措いておき、一先ず彼女の問題を浮き彫りにしておこう。
溜息を一つ漏らして、感情的に成らない様に努めて静かで冷徹な口調で話し出した。

「取り敢えず、周りが誰も助けてくれないってのは嘘だな」

「っ、お前に何が判る!」

「判らんな。少なくとも、どうやったら中学生とその妹だけで生きていけるのか、なんてものはな」

その言葉を聞いた彼女は、驚きに目を剥く。

「はっきり言おうか。子供だけで世間を生きていける訳が無い。それも病気の身内を養いながら何て不可能だ。
 少なくとも何らかの大人からの恩恵を受けている。それを無視して、自分達だけで生きている、何てどんな傲慢だ?」

話を1回区切る。
俺の言葉に混乱している様だ。
しかし、今までの自分の価値観もあるし、簡単には認められないのだろう。
何か言いかけるが、その前にこちらが話を切り出す。

「君から見て大した事無い助けだったとしてもな、他人からしたら大した事柄の場合もある。
 大体、そんな特別な手術の要る病気を何だかんだで、此処まで持たせているんだろ?
 そしてその治療に何が必要な事かってのも教えて貰ってるじゃないか。現実的かどうかは別にしてな。
 それらを、ただお前1人だけで、本当に出来たのか?」

「けどっ」

「他人を拒絶してるのは北条の方じゃないのか?
 妹が特殊な病気だからって、忌諱の目で見る周りを突っぱねて来たのは、寧ろお前では無いと言えるか?」

畳み掛けるような俺の言葉攻めに、かりんは体を震わせて俯く。
反論したいけど出来ない。
そんな所だろうか。
あと反論するとしたら、駄々を捏ねた様な屁理屈しかないだろう。
キレられる前に結論を急ごう。
だって怖いし。

「さて、そんなお前に提案だがな」

此処からは明るめの口調に変える。

「頼ってみれば良いんじゃないか?他人にさ。
 このゲームで得られる金は大金だ。それも生き残りさえすれば、棚ボタ式にな。
 その金をすこしずつ融通して貰えば良いんだよ。複数人居れば、一人は大した額にはならないだろ?」

実際には数千万も大した額なのだが、此処は錯覚させておいた方が良いだろう。
解決方法は『ゲーム』での方法と変わらず。
残念だが、俺の頭じゃこれ以上に有効な方法が思いつかない。
まさか今の段階で運営組織に楯突いたり、対抗組織を当てにしたりも出来ないのだから。

「そんなに都合良くいく訳無いじゃないか」

拗ねた様に呟く北条へ、人差し指をちっちっと左右に振りながら言い放った。

「いく訳無いって諦めてたら、悪い方向しか行けなく成るぜ?
 より良くしたいなら、明日を夢見て突き進めってな」

何また恥ずかしい台詞言ってるんだろうな、俺は。
このセリフを聞いて暫くキョトンと呆けていた少女は、突然噴き出して笑い出したのだった。



現在の経過時間は4時間と35分である。
全域の戦闘禁止は掛かったままであり当面の危険は無い事から、今の内に館内を探索する事にした。
それというのも1階に拳銃などという武器が置いてあった事と、ソフトウェアが落ちている可能性を考慮してである。
階段に向かいながら効率良い進路を取る事にして進んで行く。

かりんは笑い終えた後、俺の事を取り敢えずではあるが信用した様だ。
あの話の後はお互いに下の名前で呼ぶ事に成った。
彼女が堅苦しいのを嫌ったためである。
それなりに明るい表情で話すように成って来ているし、良い感じで仲良くなれてホッとした。
Ep2の様な狂気に陥られても困ってしまう。
お金の事について今は保留状態だ。

「そう言えばさ、早鞍の解除条件って何なんだ?」

丸っきりタメ口だが、彼女らしいのでそのままにしている。
探索中に幾つかの話をかりんから振られていたが、聞かれたくない話題がとうとう来てしまった。
しかし此処で誤魔化すのは今後の事を考えても宜しくない。
溜息をつきつつポケットからPDAを取り出して、液晶画面を見せつつ答える。

「俺のPDAは3番。解除条件は…。
 3名以上の殺害、だ」

1度言葉を切った後に出た俺の言葉に、かりんの足が凍り付いたかのようにピタリと止まった。
目を見開いてこちらを凝視している。
予想出来た反応とはいえ、流石にこのままでも困るので言葉を選んでから切り出す。

「こう言って信じて貰えるかは微妙だが、誰かを殺すつもりは、今の所無いよ。
 少なくとも、こっちから仕掛ける事はしたくない」

困った様な顔で、苦笑を浮かべつつ話してみる。
こんな状況なので何時まで非殺が通じるかは微妙なのだが。
かりんは俺の言葉に対してどう答えれば良いのか判らないのか、口が何度も開いては閉じるを繰り返しつつも何の言葉も紡げない。
その行為がとても面白く、堪え切れずに噴き出してしまった。

「な、なんだよっ!いきなり笑い出して!」

「いや、何かな。可愛い百面相見てたら可笑しくなっちまった」

「何だよそれはっ。あたしは…あ、と、その…」

ちょっと調子が戻って来たかと思ったが、俺の解除条件を思い出したのか、また顔を曇らせた。
そんなかりんの頭に手を乗せてグリグリと撫でつけてから、両手で肩を掴みしっかりと目を見て話す。

「まだ死亡確定って訳でもない。こいつは悪趣味ではあるがゲームだからな。
 もしかすると、この条件以外でも何とか出来る可能性だって、有るかも知れないだろ?
 拳銃も有るし。いざとなれば、危険ではあるが首輪を壊す、なんて手段だってあるだろうし。
 今はかりん、お前の首輪の解除を優先して動いていれば、その内見付かるかも知れないんだ」

言葉の内容は弱気そうだが、此処であると断言してしまうのは色々と拙い。
ゆっくりと言い聞かせるように語る俺の言葉を、途中からは真剣な顔で聞き入るかりん。
納得は出来ないが、理解は出来たのだろう。
それ以上はこの話題には触れず探索を続けていく事にするのだった。

暫く悩んでいたかりんだったが、くよくよ悩んでも仕方が無いと気付いたのか少しずつ明るくなり始めていた。
時々話し掛けて来る声や態度も自然な感じで見てて微笑ましい。
そうして話をしながら罠を警戒しつつ歩いていると、前方に突然人影が現れた。
こちらはT字路の縦側を歩きあちらは横棒の左から来た形であり、相手を認識した時は10メートルも距離が開いていなかった。
その人物はがっちりとした体つきである事が見て取れる上、その手に引きずるようにして持つ鉄パイプが床と擦れて甲高い音を立てている。
普通に見て遭遇したくない人物だろう。
俺も『ゲーム』の情報が無ければ、一目散に逃げ出していたかも知れない。
こちらは会話していたので、鉄パイプの音を聞き逃していたのだろうか?
当然あちらも俺達を認識したらしく、道を折れてこちらへと真っ直ぐに向かって来る。
かりんが露骨に怯えるが、大丈夫と頭を撫でて向かって来る男を迎えた。
当然俺も怖いがまだ戦闘禁止の制限もあるし、『ゲーム』での彼はあちらから積極的に攻撃はしていなかったという情報で、何とか恐怖を押さえ込む。
此処でも先手で話し掛けようと、口を開いた。

「こんにちは、で良いのかな?今は」

「ああ、時間帯的にはそのくらいか」

ハスキーボイスで答える男は油断無くこちらを見据えている。
年の頃は30に届くかどうか。
かなり体を鍛えている模様で、引き締まった体に筋肉が見た目に盛り上がっている。
身長も高く、表情も厳つく、目線も鋭い感じだ。
視線に敵意は感じないが、友好的とも感じられないのが困り所か。
戦ったら勝てる気が欠片もしない相手である。
難敵だが、『ゲーム』では手塚と組むまでは協力的な態度がそこそこに見受けられていた。
果たして現在はどうだろうか?
様子を見る為に牽制の会話を投げて見る。

「俺は外原早鞍。3番のPDAを保有している」

「3番?俺は高山。高山浩太(たかやま こうた)だ」

特に普通の反応である。
3番の解除条件を知っていたら出来ない反応ではないだろうか?
『ゲーム』の通りなら最後のルール9は、各首輪の解除条件一覧だ。
つまりこちらが欲しいルール9は彼のPDAに記載されていないのだろう。

「宜しく高山。こっちの子は北条かりんだ。それで、そちらはどこまでこの状況に関する情報を掴んでいるのかな?
 出来れば俺達はルールの9番が知りたいのだがね?」

「いや、ルールの9は書かれていない。俺のPDAには4と8しか載っていなかった。
 他のルールは誰とも会っていないので知らん」

なるほど、彼のPDAに載せるルールとしては妥当な番号と言える。
しかし普通こんな奴を見掛けたら隠れるから会える訳無いだろ、と突っ込むべきなんだろうか?
鉄パイプも引き摺っているし。
素でやっている可能性が有るのが悩ましい。

「他の人間と会ってないなら、情報的には目新しいものは無さそうだなぁ。
 そうだっ!高山のPDAの番号は何番なんだ?それとそっちの解除条件が判れば、協力出来るかも知れない」

「俺のPDAは2番。解除条件はJOKERの破壊だ」

意外な事にあっさりと答える。
まあ、他のプレイヤーには余り害の無さそうな解除条件だし、公開しても不利は少ないと見るか。
Ep1でもすぐに明かしていたし。

「済まないが、文章によるミスリードも有り得るから、出来れば見るだけでも見せてくれないか?
 PDAには触れないと約束する」

俺の言葉に数秒考え込んでいたが、無言でPDAを操作してからその画面をこちらへ向けて来た。
了承と取ってPDAの画面を覗き込んで見ると、解除条件が載っている画面が目に入る。
解除条件は『ゲーム』と同じ内容であった。


    「JOKERのPDAの破壊。またPDAの特殊効果で半径で1メートル以内ではJOKERの偽装機能は無効化されて初期化される。」


覗き込んでいた体勢から戻り、軽く頷きを返す。

「なるほど、JOKER解除機能か。これは大きいな。
 ああ、それとだ。最初に出すべきだったが、これが今まで判明しているルールの一覧だ」

続いて俺の胸ポケットに入っているルール一覧を取り出した。

「ほぅ?用意が良いな?」

「あははっ、一緒にルール確認した奴等に切れ者でも居たんだろ?」

この場合の切れ者は、つまりは御剣である。
ルール表を一通り読んで貰った後、表は返して貰う。
写すか聞いたのだが、紙が無いので無理だと残念そうにしていた。
こちらとしても用紙は色条から貰った物だったので提供が出来ない。
一通りの話の後、高山が切り出して来る。

「俺はJOKERが欲しい。もし見付けたら俺に貰えないか?」

「OK。こちらはどっちもJOKERは必要無いし、破壊して貰えるなら騙される心配も無くなるからな。願ったり叶ったりだ。
 ああ、でも…」

「どうした?」

「そうだな。他のプレイヤーの解除条件に、JOKERが必要な場合も有り得るか…。
 それが判明次第、一旦JOKERはそっちの為に使うってのでも良いかな?」

いかにも知らない様な振りで提案をしておく。
これが『ゲーム』の世界ならば、俺が『ゲーム』の内容を知っている事など当然の如く運営は知る訳が無い。
なので迂闊な真似が出来ないのだ。
俺の提案に高山は黙考する。
暫く考えて結論を出したのか口を開いた。

「俺の解除条件に抵触しない限りは、構わない」

『ゲーム』でJOKERに関わる他の解除条件は、6番の「JOKERの機能を5回以上使用する」だけである。
2番には丸っきり問題無い条件の筈だから大丈夫だろう。

「了解。というか、話の流れ的に、高山は別行動かな?」

「ああ、こちらとしても一人の方が動き易いからな」

どこかで聞いた台詞だな、と思うが後悔の海に投げ捨てた筈なので無視をした。

「そっか、残念だがJOKERを探すなら、別行動の方が確率は高いか。
 ああ、そうそう。俺の方の解除条け」

「おいっ、早鞍!」

軽く頷いてから、一応自分の条件を知らせておくべきかと思い発言しようとするが、途中でかりんに服を引っ張られた。
泣きそうな顔で首を横に振っている。
確かにこの条件を他者に伝えるのはデメリットしか無いと言えた。
しかしあちらが解除条件を教えた以上、こちらが黙っているのは今後の関係を考えると宜しくない。
かりんの頭を撫でて「大丈夫」と言い聞かせた。

「で、高山。改めて俺の解除条件だが、3名以上の殺害、なんだよ」

少しだけ上がる眉。
流石にこの男は動じない。
現在ルール8にあるように、全域が戦闘禁止エリアである事も大きいのだろうが。

「こんな物騒な解除条件もあるから、他の人間に会った時は出来るだけ気を付けた方が良い。
 あと、この子の解除条件がPDA5台の収集なので、条件を満たせそうならPDAを一時借り受けたい。
 こちらからは以上かな」

「判った、考えておく」

言葉少なに、こちらの意思を飲んでくれた様だ。
実際には次あった時の状態にも依るのだろうが、出来れば手塚とは組まないで欲しい。
そうして俺に答えた後に、高山はタバコの箱を懐から取り出してその1本を銜えた。

「ストップ。吸うなら別れた後にしてくれ!
 それは他人に害を齎すんだから、吸うのは勝手だか周りに注意してくれよ?」

人差し指を立てながら注意をする俺の言葉に、取り出しかけていたライターを仕舞ってくれる。
それでも今にも吸いたそうにしていたので、早々に別れた方が良さそうだ。
充分に情報の交換は行なったので、再会を約束してから互いに別々の道を進み始めたのだった。



高山と別れて1階の探索を再開してから30分程度が経過した頃、いきなり電子音が響いた。

    ピー ピー ピー

この音が鳴るのは起きた時以来である。
俺とかりんは電子音を鳴らしているPDAを見てみた。

    「6時間が経過しました。お待たせ致しました、全域での戦闘禁止の制限が解除されました!」
    「個別に設定された戦闘禁止エリアは現在も変わらず存在しています。参加者の皆様はご注意下さい」

「6時間経過、か」

2ページに亘り以上の文面がPDAの画面に表示されていた。
その内容にかりんの顔が緊張で固まる。
毎度のように頭を撫でるが、一応此処は厳し目の意見を述べておこう。

「これで好戦的な奴が襲い掛かって来る可能性が出て来る。
 人と会った場合はこれまで以上に慎重に応対する必要があるぞ?」

不安そうな表情で見つめていたが、その内に理解を示して頷く。
とはいえ1時間以上歩き通しでもあるし、そろそろ休憩をしようと近くのドアを開けて中を覗いて見る。
丁度良く大きなベッドのある部屋だった。
中に入って掛け布団を剥ぐとそこそこ綺麗な敷き布団が出て来る。
これならゆっくり休むのには申し分無さそうだ。

「かりん、ちょっと休憩しようか」

後ろについて来ていたかりんをベッドに座らせると、背負い袋の中身を漁って適当なものを取り出す。
固形の総合栄養食と生温い飲料水だ。
それぞれの分を用意してから簡素ながらの食事とした。
かりんの持つ携帯電話の時刻表示から計算して、開始時間は朝の10時である事は確認している。
6時間経過で16時、つまり夕方の4時である。
そういえば今日起きてから初めて口にものを入れるのだから、朝食も昼食も食べていない事になる。
何故食料を見つけた時に食べなかったのだろうか?
珍しくあの時点ではお腹が空いていなかったのだろうが、それも考えてみれば不思議な事である。
いや殆どの者が昨晩、悪ければ昨日の夕方に拉致された訳であり、昨日の昼以降は何も食べていない状態の可能性も有った。
正直先ほどは俺もかなり腹が減っていたが、これから動き回らなければ成らないのでたらふく食べる訳にもいかない。
俺の方はかりんとは別に、近くにある頑丈そうな薄汚れた木箱に座って食事を取った。
量的にはほどほどで止めて残りは荷物へと戻す。
こちらが食べ終えた時、かりんの方はまだ3分の1ほど食べた所だった。
食が進まなさそうだったが、一応釘を刺しておく。

「今の内に食っとけ。いつ慌しくなるか判らんからな」

「ん?あ、そうだよな。悪い、あんまりにも不味くて」

照れ臭そうに苦笑いをするが、素直に頷いて流し込むように食べていく。
あまりその食べ方も良くないが、食べないよりはましかと注意は控えた。
不味いというのも言い訳だろう。
この状況で楽しく食べられる方がどうかしていると言うものだ。
渚が居ればこの食事風景も別物と化していたかも知れないが。
そのまま何気なく天井を見つめて思考に耽る。
現状は、どのEpにも属していない状態である。
この先の展開が読めない以上、自分が有利な点は参加者の情報があるくらいか。
それも何処まで通用するものか。
と思考を廻らせていた時、突然眩しい光が射した。
天井がいきなり2つに割れたのだ。

「きゃあああああぁぁ」

「ひゃあ~~あ~あれ~~」

「うわぁっと」

悲鳴、片方はかなり間延びしているが、と共に二つの人影が落ちて来た。
かりんが人影とぶつかりそうになり急いで回避している様だったが、俺の目は天井に開いた穴から離れない。
開いた天井は早くも閉まり始めていた。

「優希ー!渚さん!」

「優希ちゃんっ!」

上から男女の叫び声が聞こえて来た。
だが天井は止まる事無く、自動的に徐々に閉まっていく。
閉まりきる直前にエントランスホールで出会った少年、御剣と目が合った。
微かな音と共に天井は完全に閉まったので、残念だが彼に状況を聞く事は出来ない。
今度は落ちてきた人影の方を確認する。

「色条、と綺堂、か」

こちらもエントランスホールで出合った人物である。
何故彼女達が罠に掛かったのか?
かりんに介抱される色条を見ていた時、ふとその右上腕部に傷が有るのを見つけた。
落ちて来た時は色条の右半身は影に成って見えなかったのだ。
明らかに落ちた時の傷とは思えない切り傷に、戦闘禁止が解除されて時も経っていない事もあり、非常に気になった。

「色条、その傷はどうした?」

傷について聞くと、色条の体が恐怖に震え始める。

「なあ、どうしたんだ?」

やはり誰かからの攻撃を受けたのだろうか?
かりんも少女の様子がおかしいのが気になるのか、背中を撫でながら心配そうに尋ねた。

「手塚さんが、いきなり、襲って来て、それで、ナイフ、うぅ」

掠れた声で答えていたが、途中で思い出したのか泣き出しそうになったので、かりんが抱きしめて宥める。

「手塚さんがですね~、PDAから音がしたと思ったら~、突然襲い掛かって来たんですよ~」

色条は話が難しいと判断したのか、綺堂が説明をしてくれた。
いつものような間延びした声ではあるが、少しだが早口に成っている。
PDAからの音とは多分戦闘禁止解除のやつの事だろう。
手塚に襲われた。
それも6時間の戦闘禁止制限が解除されて程無くである。

「手塚と同行していたのか?」

「はい~。階段の所で偶然再会しまして~。それから御一緒していたんですよ~」

何となく現状は理解した。
手塚のPDAは『ゲーム』通りなら10番で、解除条件は「5つの首輪が作動している事」である。
その上に「2日と23時間以前である事」が条件付加されているが、今は気にしなくて良い。
これはそんな彼らしい行動と言えた。
一気に4名の首輪を発動出来れば手塚はリーチを掛けられるのだから、悪くない選択と言える。
それならば此処に居続けるのは拙い。
かりんに宥められている最中の少女を、急いで抱き抱えた。
少しの抵抗は有るものの、力は弱いので強引だがこのまま行く。

「すぐに移動するぞ。かりん、綺堂、来い!」

早口に言い捨ててから、途中に置いていた荷物を掴んでドアへと向かった。
上で手塚に襲われたなら落とし穴の罠に掛かったのは逃げている最中だろう。
だからこそ落ちた2人を確認しているだろうし、それなら追撃のために天井の罠を作動させて確認して来るのではないか。
もしあの場に留まり手塚に見付かれば、ナイフで武装しているだろう手塚とやりあう破目に成る。
銃が有るとはいえ、素人の俺が近接戦闘でナイフを持った手塚に勝てるとは思えない。
かりんも俺の剣幕に何かを察したのか、俺についてドアを出てくれた。
その後ろに綺堂も続いてくれる。
外に出てからドアを半開きにして中の様子を確認すると、丁度天井がまた2つに割れて上階の様子が見て取れる様に成った。
そこから顔を覗かせたのは、やはり手塚である。

「ちっ、逃げられてたか。あの女かぁ?トロそうに見えて思ったより頭が回りやがる。
 御剣にも撒かれるし、トコトンついてねぇなぁ」

最後の方は実に楽しそうに残念がる手塚。
手塚の声が聞こえた途端に、抱えている色条の体が強張り俺の服をぎゅっと掴んで来た。
相当怖い思いをしたのだろう、安心させようとその背を撫でておく。
再び自動的に閉まっていく天井を見届けてから、傍で待機していたかりんと綺堂を無言で促して廊下を進んだ。
少し離れた部屋へと移動した後、色条をかりんに預けておく。

「ふぅ、取り敢えず休もうぜ。いきなりで驚いたわ」

ドアに寄り掛かる様にして座り込み、気を1つ抜いた。
流石に長時間精神を張り詰めていた後の休憩中の一幕に、気疲れを起こしている様だ。
だが、まだすべき事が有った。
荷物をその場に下ろして立ち上がり、部屋の中央くらいにかりんと共に座る色条と綺堂の近くに寄る。

「色条、綺堂、すまんがお前達のPDAを確認させて貰えないか?」

直球勝負で切り出した。
優希の体が強張り、体を萎縮させる。
この反応は、やはり彼女の解除条件はあれなのだろうか?
脳裏に蘇る、『ゲーム』での色条優希の解除条件。

「これですか~」

綺堂の方はあっさりとPDAを出して来た。
Ep1では操作が判らない振りをしていたりもしたので、こういう時は逆らわないようにしているのだろうか?
都合が良いので、そのままPDAを受け取っておく。
待機画面には<スペードのJ>が表示されていた。
ルールの方を確認すると、エントランスホールで確認した通りに6と8である。
解除条件を見ると次の文章が表示されていた。


    「「ゲーム」の開始から24時間以上行動を共にした人間が2日と23時間時点で生存している」


『ゲーム』の通りの文面に、無意識に安堵の息が漏れた。
だがそれだと逆に色条の方が問題に成る。
気分は乗らないが、確認は必要だ。

「PDAを確認させて貰えないか?お前達が生き残る為に必要な事なんだ」

優希の顔を上げさせて目を見詰めながら、もう一度同じ様な言葉を繰り返す。
色条も断り辛かったのか、PDAを渋々と差し出て来た。

「有難う、色条」

頭を撫でて礼を述べてから、PDAを受け取る。
待機状態であるPDAの画面には<スペードの9>が表示されていた。
ルールの方もエントランスホールで確認した通りの7と8が載っている。
そして解除条件を表示させて、文面を目で追っていった。

    「自分以外のプレイヤー……」

その時、部屋の外で大きな音がした!


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