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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 挿入話9 「迎撃」
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/20 20:07

海上に仮設されたヘリポートでは10名の人間が待機していた。
ヘリポートは急遽作られたにしてはしっかりとしたもので、その上には補給が完了したヘリが2台止まっている。
更にもう1台下りられるスペースを確保しており、そのヘリポートの横にはタンカーの様な形をした中型船が停泊していた。

「そろそろかしらね」

きちんとしたスーツを着込み髪は頭の後ろで纏めて、縁の細い銀色の眼鏡を掛けた妙齢の女性が腕時計を見ながら呟いた。
腕時計の時刻は既に午前8時半前を示している。
彼女が言葉にしたのは、彼女達が待っているヘリの事ではない。
そのヘリは既に視界内に入っており、現在彼女達の頭上で着陸態勢を取り始めていた。

「本当に大丈夫なの?あの子達」

「さあな。だが可能性は高い」

女性の問いに、隣に立つタキシードに蝶ネクタイを着けた男性が答えた。
その男、ディーラーのボスとイレギュラーの会話後からの行動は素早かった。
襲撃を受けるであろうカジノ船を含めた各「組織」の施設へと対応の連絡。
ある場所は迎撃態勢を整えて、ある場所は拠点撤収の準備を進める。
そしてカジノ船へはダミーヘリを呼び出し、それにボスの身代わりを乗せて船に下りるように指示を出した。
また彼の子飼いの者を各脱出用の乗り物を全て使用して出て行く様にする。
これで過激派の幹部や観客がカジノ船から逃げる事は出来ない。
「エース」と言えども政財界の大物である「観客」には下手な手出しは出来ないから、充分に彼等の荷物に成ってくれるだろう。
その上で彼自身がヘリを操縦して幹部の金田を連れ出したのだ。
この緊急補給施設も彼の子飼いの者と隣の女性が尽力し用意したものであった。
止まっているヘリの1つは彼自身が操縦して来たものであり、もう1つは女性が衛生班6名と共に乗って来たものだ。
そして今下りて来たヘリには彼等のボスが乗っている。
着陸したヘリから数名が降りて来た。

「坊やっ!ああ、良かった。船に向かって来ると聞いて、気が気では無かったぞ」

「済まなかったな金田。今回は我侭を通させて貰ったよ」

降りて来た人物の1人に金田が心配そうに近寄ったのを見て、ディーラーもその男に近寄って行った。

「御足労頂きまして有難う御座います。ですが、一刻の猶予も有りません。
 あちらに補給済みのヘリを待たせてあります。そちらへと乗り換えて、早速出発致しましょう」

「君が、ディーラーかね」

「はっ。今回の事は誠に申し訳ありませんでした。叱責は後ほど御受けします。
 しかしこの場所もいずれ「エース」に嗅ぎ付けられるでしょう。お急ぎ下さい」

ディーラーの言葉に彼は頷いて、背後の者達に目配せをした。
1人はディーラーが用意したヘリの1つへと操縦士として乗り込んで、エンジンを起動する。
残りの2名は補給船へと向かい、ボスが乗って来たヘリへの補給の準備を行なった。
ボスの乗って来たヘリは本来カジノ船までのものだったので、此処まで燃料がギリギリだったのだ。

「「エース」か。今回は彼等も誤算であっただろうな」

ヘリへ向けて歩きながら、通りすがり様にディーラーへと言葉を紡ぐ。
その言葉にディーラーは口の端を吊り上げた。
ダミーヘリはそろそろカジノ船へと着く頃だ。
「エース」はそれをボスの乗ったヘリだと思っている事だろう。
奴等がボスの身柄を抑えようと乗り込んだ所に居るのは、あの過激派の幹部とその部下達、そして観客である政財界の大物である。
その政財界の大物達には「エース」も下手な事は出来ない。
「エース」としたら厄介な荷物を抱え込む事に成るだけなのだ。

ヘリの1つには再び衛生班が乗り込んだ。
やって来た時と違うのは1人の女性が乗っていない事だけである。
その女性はディーラーと共にもう1つのディーラーが乗って来たヘリに乗り込む。
今回は操縦をボスの直属の部下が行なっており、キャビンにはボスと金田、ディーラーと女性の4名が乗り込んでいた。
2台のヘリは彼等が乗り込んだ後すぐに離陸して目的の場所へと最高速度で以って飛んで行く。
残して来たヘリも補給が終わり次第補給者に操縦されて追いかけて来るだろう。
それまでに「エース」の攻撃を受けなければ、だが。
目的地までは3時間以上掛かる。
その間にボスは目の前の男に色々と聞いておきたい事があった。

「まずは。…そうだな隣の女性を紹介して貰えるかな」

「はっ。彼女は郷田真弓と申しまして、3ヶ月前までは今回の「ゲーム」のゲームマスターとなる予定であった者です。
 目玉の価値の低下で5番と7番を使用しましたので、今回は待機させていました」

「ふむ。では郷田。君なら今回の事態を収拾出来たかね?」

「…いえ。今こうして情報を纏めて見ての話と成りますが、此処まで混乱が続いた今回の「ゲーム」を捌けた自信は有りません」

突然のボスからの問いに、郷田と呼ばれた女性は少し考えてから答えた。
郷田の言う通り今回は予測不可能な事態が次々と起こっている。
その上「組織」の一部が勝手に暴走したのもあり、既に収拾不可能な場面まで来たのだ。
もし彼女がこの事態を収拾出来ると言っていたら、ボスは彼女を今後見限るつもりだった。

「ディーラーよ。今回の件は確かに大事に発展した。本来なら君の存在で以って清算するべきなのだろう。
 が、我々にしても丁度良い機会でもある。規模が大きくなり過ぎていた今の「ゲーム」はある意味荷物でもあった。
 潮時、と言う事なのだろう。後は、きちんと締めてくれたまえ」

ディーラーはボスのこの言葉に、直角気味まで折っていた腰を斜め45度くらいまで上げてボスを見た。
言葉の意味はディーラーを許すと言っているに等しい内容だ。
完全に覚悟を決めていた彼にとっては肩透かしも良い所である。
それでも彼は内心を隠してもう一度頭を下げつつ、口を開いた。

「お任せ下さい」

言葉を並べるよりも、今後の行動で示さなくては成らない。
ディーラーは隣の女性に目配せをしながらも、どう収拾をつけるのかを思案するのだった。





挿入話9 「迎撃」



完全武装の高山と手塚は7番のPDAから得られるマーカー情報により正確に彼等の位置を補足していた。
その進行経路も簡単に読めた彼等は通路に罠を仕掛けていくが、当然相手もプロでありそれらの罠を解除して進む。
外原に言われたのは彼等の足止めであった。
新たに現れた動体反応を追った外原達は、その者達と合流後に高山達と再度合流して事に当たる予定だったのである。
しかし数名の足手纏いに成りそうな女性が居る彼等と合流してからの行動を、手塚は出来るだけ避けたかった。
自分が好き勝手出来ないのは苦痛だからである。
2人で歩きながら、気だるそうな調子で手塚が隣の大男に話を振った。

「で、高山さんよぉ。言われた通り、足止めだけって事かい?」

「…出来れば此処で殲滅しておくのが良いだろうな」

「…ぉ?良いのかい?あいつ文句言うんじゃねぇか?」

「終わった事はグダグダ言うまい」

高山は表情を変えずに返答するが、その内容に手塚は喉の奥で笑い出した。

「クックック、良いねぇ、良いよ、あんた。そんじゃ、一暴れしますかねっ!」

手塚はそう言って銜えていたタバコを一気に吸い上げて、口から飛ばした。
高山も壁に付けていた背を剥がし手に持ったアサルトライフルを確かめる。
足止めなんて温い真似は彼らには出来なかったのだった。

罠を解除しながら進む強襲部隊は周囲に見当たらない敵影に精神を磨り減らしていた。
彼等の持つプレイヤーを表示させる機械には周囲に何も映していない。
遥か先にある光点を目指している筈なのに、罠があるのは此処なのだ。
それはこの周辺に敵が居る事を示している。

「どうなっている?奴等はどうして姿を隠せるのだ?」

今だけではない。
数時間前から沢山のプレイヤーが姿を隠していた。
それは長い「ゲーム」暦でも前代未聞の珍事であったのだ。
だから彼等もそれに対応出来ない。
彼等が助かったのは、自分達の進軍の先頭を自動攻撃機械に任せていたからである。
罠を掻い潜った後、15メートルほど先行させていた自動攻撃機械が謎の銃撃を受けて突然沈黙した。

「3番、5番沈黙。…続いて2番も沈黙しました。ああ、1番から8番全部沈黙っ!!」

「な、何だとっ?!」

轟音と共にものの数分で8台の自動攻撃機械が全て沈黙した事に、部隊員の中で唯一眼帯をした部隊長は驚きを隠せないでいる。
それは他の3名の部隊員も同じで、背筋に寒気を感じ始めるのだった。

手塚の射撃で戦闘は幕を上げた。
まずは密集している先頭の自動攻撃機械を狙い撃ちにする。
少し遅れて発砲を始めた高山の銃撃も加わり、彼等は確実にその数を削った。
8台中3台が沈黙した所で、高山は腰に付けていた手榴弾を手に持ってピンを口で抜き、投げ放つ。
壊れた3台が進路を邪魔をする中で後ろの5台は前に進むだけだったので、そのまま8台が密集していた。
そこのほぼど真ん中へと手榴弾が1つ、いやもう1つと転がる。
2つの手榴弾は時間差で爆発して曲がり角を爆煙で満たした。
煙が晴れたそこには自動攻撃機械の残骸しか残っていない。
それを見た手塚はバリケードから無造作に出て行き、その残骸へと不用意に近付いて行く。
高山は彼の目の前にある自動攻撃機械の残骸へ向けてライフル弾をお見舞いした。

「うわっと、何だよ高山さん」

「このタイプは自爆攻撃を持っている場合がある。車輪の間を打ち抜いておかないとな」

「あー、そういや在ったっけ、そんな機能が」

手塚も御剣に対して使った機能である。
それから手塚も少し引いてから、アサルトライフルで自動攻撃機械を全部打ち抜いてから曲がり角の向こうを視認した。
そこにはまだ残っている自動攻撃機械を前面に押し立てた強襲部隊が罠にも掛からず突き進んでいる。

「まーだ在るぜ?全部壊さなきゃ遊んでくれそうも無いかね、こりゃ?」

「…可能性は高いだろうな」

遊ぶ、と言う単語に顔を顰めるが、高山は言及せずに頷いた。
その高山にニヤついた笑みを浮かべたまま踵を返す。

「それじゃ特別な罠にご招待、ってか?」

そのまま通路を引き返して歩く手塚の後ろに高山も続いたのだった。

強襲部隊は自動攻撃機械の残骸を乗り越えて先に進む。
まだ幾つかの光点にはほど遠い位置なのだから、彼等は進まなければ成らない。
そして十字路に入った時である。
罠は警戒していた。
その起動用のトラップが無い事は判っていた筈なのだ。
それが彼等の油断である。
彼等が十字路を抜けた瞬間、十字路が大爆発を起こしたのだ。

「おいおいっ!爆薬の量が多いんじゃねぇか?こりゃ全員死んでそうだぜぇ」

その派手な爆発を見て手塚が焦りの声を上げる。
こんな程度で終わっては面白くないと思っただけなのだが、彼の予想は外れていた。
7番のPDAで遠隔操作で対人地雷を起動した高山はPDAを収めながら手塚に残念な結果を知らせる。

「まだだ、見た目は派手だが、殺傷能力は低いからな。殲滅する為には追撃が要る」

「何だよぉ、それを早く言ってくれよなぁ。んじゃ出陣しますかぁっ!」

まずは十字路に向けてスナイパーライフルを構える。
煙が晴れて来て人影が見えた瞬間に、手塚はその引鉄を引いた。

「ぐあぁ」

ライフル弾を食らい吹き飛ぶ部隊員を見て、残りの部隊員は狙撃を逃れる為に身を低くして撤退を始める。
煙で見え難い中でそれを感じた手塚は十字路へ向けて突撃を行った。

「ま、待てっ、手塚っ!」

追撃でバズーカを構えようとしていた高山は、手塚が飛び出した事で彼に被害が行く事を懸念してバズーカを横に捨てる。
余りにも無謀な行動に高山は驚いてしまい、彼に続いてバリケードを飛び出してしまう。
その彼等に向けて先行して爆発を逃れていた自動攻撃機械が銃撃を始めた。
手塚は横にスライドして銃弾を一箇所に食らわないようにしながら、手の中のアサルトライフルを掃射する。
防弾チョッキとは言え同じ所に食らえば防弾板が破損して、数値通りの防御力を発揮しないのだ。
2台残っていた自動攻撃機械は手塚のこの攻撃で破壊されていく。

「ぐぅっ。…けっ!この程度で収まるかよっ!」

幾つかの銃弾を受けはしたが、その全てが胴体の防弾チョッキで止まっている。
衝撃も辛いが、手塚は此処で強襲部隊を殲滅しておきたかったのだ。
しかし強襲部隊の撤退速度は思ったよりも素早かった。

「撤退だっ!此処で奴等の相手をするのは得策ではない。退けっ!」

十字路の爆破で彼等は平衡感覚が少しおかしくなっている事を自覚していた。
この状態では正常な戦闘は不可能である。
引いて心身を立て直す必要があったのだ。
部隊長の号令の下、先ほどスナイパーライフルで左肩を撃たれた部隊員を回収しつつ身を低くして撤退を始めていた。
彼等には残り8台の自動攻撃機械が残っていたが、その内2台が彼等の撤退中に破壊される。

「くそっ、奴等は化け物かっ!」

部隊員の1人が愚痴っているが、部隊長としてもこの惨状には苦々しく思っていた。
そして手塚が迫って来ていたので、撤退しながらも当然の様に彼へと弾幕を集中させる。

「例の三叉路まで早く引くんだっ!」

部隊長の声が銃撃音の中に響くのを聞きながら、手塚は幾つかの被弾痕を増やした防弾チョッキに守られて前進していた。
左右に身体を振りながら強襲部隊の銃弾を巧みに急所から外して進む。
その様子を高山は後ろから感心しながらもついて行っていた。

「何時までも逃げてんじゃねぇよっ!」

逃げながら撃って来る強襲部隊に呆れ返りながらも、追撃の手を休めない。
だが彼の銃弾も彼等の着る防弾チョッキに阻まれて致命傷を与えられないで居た。
互いに打撲傷だけが増える中、手塚達はとうとう1つ目の三叉路へと辿り着く。

「手塚っ!深追いは危険だ、一旦態勢を立て直せっ!」

高山の言葉が手塚の背中に飛ぶが、そのまま手塚は三叉路を直進しようとする。
強襲部隊はこの先のもう1つの三叉路を曲がっていたのだから当然の行為だったのだが、彼には注意が足りなかったのだ。
突然左側の通路から手塚へと銃撃が加えられる。

「くそっ、伏兵かよっ!ぐあっ!」

しかし手塚の反応は素早く、機械の駆動音が横からした瞬間に前に飛んでいた。
左腕に2つの銃弾がめり込むが、自動攻撃機械の銃弾は9ミリ弾だった為、腕が吹き飛ぶ様な傷には成らなかったが、その傷は深い。

「手塚っ、正面だっ」

高山の声に手塚が前を見ると、先の三叉路の横道から出て来たもう3台の自動攻撃機械がこちらに回頭を終えていた。
その間にも手塚の後ろの三叉路からも3台の自動攻撃機械が手塚を挟み撃ちにする為に出て来ようとする。
覚悟を決めた高山は、手塚の後ろから迫ろうとする自動攻撃機械の正面に出ていった。
右腕にアサルトライフルを左手に大型の自動式拳銃を構えて、1台ずつ確実に弾を集中させて破壊する。
特にその左手から吐き出された拳銃弾は凄まじく1発で自動攻撃機械を貫通し、中の部品を四散させていた。
左手の拳銃は1台に付き1発を打ち込みながら、ライフル弾の掃射で自動攻撃機械を完全に沈黙させようと撃ち続ける。
当然だが自動攻撃機械からも反撃を受けていた。
その銃弾の大半が胴体に集中した為防弾チョッキで止まるが、1発が右太腿を貫通する。
高山は油断していた訳では無いが、完全に沈黙する前にその自動攻撃機械達が爆発を始めた。

「ぐぅっ。壊される前に壊して来たか。冷静だな…」

3台が巻き起こす爆風に巻き込まれそうに成った高山は、瞬間に左に飛んで通路を戻る事で爆発の衝撃を最小限しか食らわない様にしたのだ。
彼が爆煙に巻き込まれている時に、手塚も同じく煙に巻かれていた。
その煙の中、彼は正面から迫ろうとする自動攻撃機械に対してあちらの射程外から狙いを付ける。
強襲部隊への追撃で弾を撒き散らし過ぎた手塚のアサルトライフルは、この時弾切れを起こしていた。
だから彼は背負っていたスナイパーライフルに換装していたのだ。
しっかりと狙いを付けながら撃ったその銃弾は幾つかを外しながらも、次々に自動攻撃機械へと命中していく。
当たった銃弾により吹き飛ばされたそれは、通常のライフルで撃たれた時とは違って各部品を周囲に撒き散らしながら転がっていった。
3機ともを吹き飛ばした手塚は伏せていた身体を起き上がらせながら、後ろに居る高山に声を掛ける。

「済まねぇな、大将っ!で、あいつ等何処行った?」

「…かなり遠くに行ったな。走って逃げた様だ」

悪びれない手塚に聞かれた高山は溜息を吐きながら7番のPDAを覗き込むと、既に強襲部隊は4つほど向こうの曲がり角まで逃げていたのだ。
その方向は外原達とは逆方向の為、高山は追うのを諦める事にした。

「あー、くそっ。戦果はガラクタだけかよっ。締まらねぇなぁ…」

「だがこれで奴等は自動攻撃機械を失った。だからこそ、走って逃げられたんだろう。
 相手の武器を1つ奪い、撤退させたのだ。充分だと思おう」

自動攻撃機械は戦術としては有効かも知れないが、一番の問題はその足の遅さであった。
それは自動攻撃機械を使用した事のある手塚も痛感していたので、素直に頷きを返す。
手塚の反応を見てから、彼の視線は彼の左腕に移った。

「それよりも、まず手当てだ。全く無茶をしおって。外原と変わらんな…」

高山は作戦の終了と考えて、手当をする事にした。
手塚の左腕の傷は見た目にもかなり酷かったのだ。
素人が戦果を挙げようと無茶をする事は良くある事である。
そしてそういう新兵から死んで行くのだ。
だから今も彼等が生きて残っている事が、逆に彼には不思議だった。

「あんな奴と一緒にするんじゃねぇよ。俺の方が良い男だっての」

陽気に笑って左腕を差し出す手塚に、高山は再度溜息を吐かざるを得なかった。

高山はPDA検索を実行してみるが、その地図上には1つの光点も表示されなかった。
首を傾げてもう一度実行する。
それでもやはり光点は1つも無い。

「どうした、大将?」

高山のおかしな様子に気付いたのか、手塚が聞いて来る。

「いや。…外原達が何処にも居ない」

「はぁ?あいつ等はジャマーなんぞ持ってない筈だろ?
 何で判らねぇんだよ」

そう言いながら手塚も自分の10番のPDAでJOKER検索を実行する。
しかし彼の地図上にも光点は出現しなかった。

「どうなってんだ?…もしかすると御剣と合流出来たのかねぇ。
 あいつ等、ジャマー持ってんだろ?」

「そう言う考えも、あるな」

2人は頷き合うが、これからどうするかを決めかねていた。
一応先ほどから高山がネットワークフォーンで通信を発しているが、応答は当然の様に無い。

「そっち、貸してくれねぇか?俺が声掛けてみるわ」

手塚の言葉に高山は少しだけ考えて、結局手塚へとPDAを投げ渡した。

「よーしっ。
 おーい。早鞍ぁ、何処行ったー。もしもーし。
 …ったく、マジ出ねぇな。
 こっちら足止めチームー。もしもーし。~~あーもう。チクショウがっ!とっとと出ろよっ!!
 …ありゃ?あー、もしもーし?もしかして通じてる?聞こえてまーすーかー?!」

気付いた時は雑音が聞こえ始めていたので通じているかと思ったのだが、手塚の予想は当たっていた。
PDAのスピーカーから男の声が上がる。

『うっさい!聞こえてるぞ。
 そちらはどうだ?こっちは生駒兄妹と合流しただけだ』

「おー、そっか。こっちは成果あんまり無いわ。いやー強ぇな、あいつ等」

生駒兄妹と言う事は耶七と合流したのだろう。
手塚にはガラクタだけなのを成果と呼べなかったので控えめに言っているが、自動攻撃機械16台は充分な成果である。
外原は手塚の言葉に呆れた様に溜息を吐いてから、返答を出した。

『こっちの位置が判るなら合流しろ。
 出来ればそっちのジャマーも切ってくれるか?』

「おいよー。
 おーい、大将、ジャマー切ってくれってよ」

何時の間にか少し離れた所で自動攻撃機械の残骸を調べていた高山に、手塚は声を上げた。

「判った。すぐに切る」

言いながらも高山は背中から荷物を降ろしてからその荷物の中のジャマーマシンを操作する。
その間にも手塚は右手の10番を操作してJOKER検索をすると、そこには1つの光点が発生していた。
既にNetworkPhoneは切れている様だったので、その7番を高山に投げ返しておく。

「うっし、位置確認。それじゃ、出迎えしますかね?」

「少しは安静にしていろ。お前の傷は、それなりに深いんだぞ」

「たくっ、心配性だねぇ、大将は。んじゃぁよ、十字路くらいまでは戻ろうぜ?」

言いながら肩に弾の切れたアサルトライフルを引っ掛け、スナイパーライフルを担いだ手塚は歩き出す。
軽い溜息を吐いて、高山も荷物を纏めて歩き出したのだった。



モニター画面では部隊員が2名倒れただけで、起きていた兵士の1人が倒れた兵士から黒いボックスを取り出してボタンを押し込んでいた。
その数瞬後、彼等の持つ通信機から女性の絶叫が聞こえて来たのだ。

『きゃああぁぁ』

「文香さんっ?!文香さんっ、どうしましたっ?!!」

「御剣の兄ちゃん、どいてっ!」

文香の悲鳴に慌てる御剣を押しのけて、長沢は先ほど御剣が押したボタンを押し込んだ。
再度画面内でスタングレネードが投射されて、モニター越しに通路を閃光と轟音が支配しているのが見える。

「早くあのお姉ちゃん助けに行かないと、死んじゃうんじゃない?」

冷静に言う長沢の言葉に御剣の目が覚めた。
彼は急いで立ち上がり扉へと駆け出す。
その時葉月の手元でインジケーターランプが赤く点灯した。
カメラのコントロールを取り戻され掛けている為、今度はシステムのシャットダウンが必要に成ったのだ。
シャットダウンを実行すれば数分は時間が稼げるからである。

「うわっと、えっとファンクション1を押してトリガーBだったかな。
 よしっ、これで良い」

彼はその行為を実行した後、急いで立ち上がる。
銃型コントローラーはその場に投げ捨てて、御剣の後を追った。

「葉月さんっ!」

「咲実さんにはそこで隔壁の操作の方をお願いしたいね。僕達が文香さんを連れて戻るから」

真剣な声で言い残して、葉月は御剣に続いて部屋を出て行った。

スタングレネードの閃光と轟音が撒き散らされた廊下で兵隊達は全員が倒れていた。
そこから少し離れた文香も同じくグレネードの効果を被っていたが、背中側で疼く痛みが彼女の意識を保たせていたのだ。

「がっ、はぁ、くぅ、これっ、きっついわぁ」

ずるずると身体を引き摺りながら強襲部隊から離れる方へと移動する。
もし彼等が起き上がって彼女に襲い掛かれば、文香の方には為す術が無い。
まだアサルトライフルは持っているが、まともに撃てるかどうか文香自身が疑問だったのだ。
1台のみ、それも文香から一番遠い固体の爆発だった為、文香は致命傷を負う事は免れていた。
それ以外の爆薬は、爆薬自体に傷が入っていたか、起爆信号を受けるアンテナが壊れたかしたのだろう。
彼女の背中の一部は赤く染まり、左肩と右足には大きな破片が突き刺さっている。
他にも小さな破片が無数に刺さっていた。
その殆どが防弾チョッキによって防がれていたが、一部守られていない所や、守られていてもそれを突き破ったものもある。
全身を激痛が駆け抜けるが、それでも文香は必死に成って身体を動かした。

「まだ、死ねない、のよ。あの子、達、帰して、あげない、と」

気力を振り絞って、這い摺る彼女の後ろで部隊員の起き上がった気配がする。
その気配に文香はライフルのストックを支えに後ろに振り向きつつ銃を乱射した。
振り向いた時に右足に刺さっていた破片が床に当たって傷を抉る。
そして銃が発する振動が傷を更に痛めるが、歯を食いしばって耐えた。

「ぐおっ」

立ち上がっていた1名の部隊員は袈裟斬りの様に斜めに銃弾を食らい、後ろに吹き飛んで仰向けに倒れた。
それを確認してから、文香は再び這い摺って移動し、曲がり角へと到達する。

「文香さんっ!!」

その時御剣が曲がり角から出て来た文香に気付いて声を上げた。
もう曲がり角まで来ていた御剣と葉月は彼女の元に駆け寄る。

「総一、君。何で、来たの?早く、逃げな、さい」

口から血を流しながら話す文香を曲がり角の手前に引っ張り込んでから、御剣は部隊員達を警戒する。
その彼には頭を振りながら起き上がって来る部隊員1名が確認出来た。

『総一兄ちゃん。早く下がってくれよっ。隔壁下ろすんだからさ』

御剣の耳についている通信機から長沢の声がした。
この耳に付けるタイプではなく手に持つタイプの小型通信ボックスを姫萩と葉月は持っている。
だから長沢は姫萩の通信機を用いて彼等に通信を寄越したのだった。
既に長沢は何度かグレネード投射用のボタンを押していたが、あれから1発も反応しなかったのだ。
その為、『緊急閉鎖システム』の方で敵と遮断する事にしたのだ。

「総一君。文香くんは僕が背負うよ。それくらいしか出来ないからね」

そう言いながら、葉月が文香を背負った。
ずっと耶七を背負って行動していた為か、随分と慣れた感じである。

「有難う御座います、葉月さん。すぐに下がりましょう。隔壁を下ろすそうです」

「うむ、では行こうか」

部隊員が全員起きる前に彼等は素早く後退し、その通路には隔壁が下ろされたのだった。

元の部屋に戻って文香を手当てはしたものの、これからの対策が彼等には無かった。
結局相手を殺すつもりで攻める事の出来ない御剣には決定打が無かったのだ。
今頼りの文香は化膿止めと痛み止めを飲んでうつ伏せで眠っている。

「それでどうすんの?このままじゃ奴等、来ちゃうんじゃない?」

「……逃げよう。何処までも。それが俺達に出来る最大の防御だと思う。
 相手を殺すなんて、俺には、出来ないんだから」

長沢の問いに返す彼の目は自棄に成ったものでは無かった。
彼は本気でこのまま73時間経過を目指す事にしたのだ。
しかしそれには問題がある。

「しかし、君達の首輪はどうするのかね?73時間には作動してしまうのだろう?」

葉月の言葉は現実と少し異なるが、大体は合っている。
確かに御剣もそれには頭を悩ませていた。
更に何時6階が進入禁止に成るか判らないのだ。
知らない事に対して人間はどうしても恐怖心が沸いてしまう。
当人ではないが、葉月には御剣と姫萩が死んでしまうのが怖かったのだ。
そんな彼等に姫萩は明るい口調で語った。

「こう成ったら、セキュリティシステムからも逃げ回りますか?」

クスクスと笑いながら話す彼女に男性達は驚いて姫萩を見る。

「どうされました?皆さん」

「いや、どうされた、と言ってもだね」

「姉ちゃん、やっぱりちょっとおかしい?」

葉月と長沢が姫萩の問いに呆気に取られながら返すが、姫萩は動じなかった。

「絶対駄目、何て諦める方がどうかしていますよ。まだ私達は生きているんですから。
 そうですよね?御剣さん」

「…全く、君は、厳しいなぁ」

微笑みながら問い掛ける姫萩に、御剣は苦笑を返す。

(全く俺の周りは厳しい女性しか現れないのだろうか?
 けど、普段ずぼらで不精な自分にはそれくらいが良いのだろうな)

御剣は桜姫優希を思い出す。

    『ズルはしちゃ駄目だよっ!』

(そうだよな、諦めちゃズルだよな)

御剣は姫萩をしっかりと見詰めて答えた。

「何処までも逃げよう。逃げ切れなく成っても諦めずに、最後まで!」

「はい、御剣さん。何処までもお供します」

御剣の言葉に姫萩は微笑んだまま答えるのだった。



御剣達が部屋から抜け出した30分も後に強襲部隊はやっとそこに辿り着く。

「ちっ、しぶとい奴等だ」

蛻の殻になった部屋を見て小隊長は舌打ちをする。
1人が自動攻撃機械の自爆攻撃で重傷を負ったのは判っていた。
部屋の中にもその血の跡が残っている。
それなのに彼等には死人がまだ出ていないのだ。
逆に部隊員の方も文香の攻撃で1人が重傷を負っている。
命には係わらないがかなり深い傷なので、今も眠った状態で他の部隊員に背負われていた。
しかし彼等の場所は正確には判らないが、ある階段ホールを目指しているのだけは判った。
そしてその階段ホールには彼等は一度立ち寄っていて、1つの拠点を作ってもいたのだ。

「先回りして奴等を追い込むぞ!」

「「おおおおお!」」

失敗続きだったこの任務にも漸く光明が見えて来た、そんな彼等であった。

強襲部隊の思惑は的中し、御剣達は慎重に周囲を見ながら階段ホールに入った。
その瞬間に御剣達はある通路から銃撃を受けたのだ。
最初の1発が文香を背負った葉月の横の壁を穿った。

「長沢っ!!」

「うわぁっ!」

「御剣さんっ!」

2発目の銃撃で狙われた長沢を御剣が押し倒して庇う。
銃弾は彼の背中の防弾板を甲高い音を立てて削りながら通り過ぎて行った。

「長沢っ、立てっ!次が来るぞ!」

「う、うんっ」

体裁を繕う事も忘れた長沢は慌てて葉月と姫萩が隠れた通路に向かう。
それを見届けずに御剣は立ち上がった後、銃撃が来た方へと目を向けると1つの銃口が彼に向いている事に気付いた。

(狙撃かっ!)

彼は知らないがそれはスナイパーライフルであり、彼の着る最大等級のアーマージャケットですら貫く威力を誇る武器である。
その銃口を認識した瞬間に彼は横に移動した。
部隊員のスナイパーライフルが火を噴いて、動く前に彼の居た付近へと銃痕を刻む。
御剣はすぐに身を翻して姫萩達の居る通路へと逃げ込んだ。
しかしその通路は10メートル程度しか奥が無く、行き止まりに成っていたのだった。

「拙いっ、逃げ道無しかっ!」

「総一君っ、これでは、もう」

御剣の叫びに葉月が不安そうな顔をするが、それにも御剣は真剣な顔で言い切る。

「まだですっ!諦めないって決めたんですから。まだ何かある筈ですっ!!」

その御剣の様子に葉月は安心感を覚えて、気を静める事が出来たのだった。

「ふふ、しっかり、して来たじゃない?総一君。これ、終わったら、お姉さんと、デートしない?」

「文香さんっ!大丈夫ですか?」

葉月に背負われていた文香は既に目を覚ましており、御剣の台詞に対していきなり冗談を言い出した。
その冗談には誰も答えず、姫萩が心配そうな声を出す。
文香の容態は余り良く成ってはいない。
それでも文香は諦めない彼等を信じようと決めた。
御剣達は彼女を一旦降ろして、彼等の荷物を用いて簡易のバリケードを作るが、かなり心許無い状態である。
強襲部隊の狙いは72時間に発生する6階の進入禁止化であった。
御剣達のグループに優希が居ないのは確認出来ている。
だから彼等をセキュリティシステムに巻き込んで殺すつもりなのだ。
それから逃れようと通路から出てくれば、狙撃して殺すだけである。
生き残りが居たとしても数の減った連中に対して突撃するのは容易いと読んでいた。
確かに彼等の作戦は無難且つ確実であったかも知れない。
だが彼等は急いで御剣達を殲滅するべきだったのだ。
時間を与えてしまった事で、部隊員達は御剣達を殺す機会を失ってしまう。

「あれはっ!外原さん?!」

「早鞍さんだって?!」

姫萩の声に御剣が姫萩の視線を追って見る。
御剣達の居る通路でも強襲部隊の居る通路でもない通路に居たのは、外原達であった。
外原達が到着して暫くした時、事態が急変する。
彼等はそれを、ただ見ている事しか出来ないのだった。


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