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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 挿入話6 「共闘」
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/01 00:09

トラブル続きの今回の「ゲーム」で、今回、いや「組織」において史上類を見ないトラブルが舞い込んで来た。
ボスの娘が「ゲーム」のプレイヤーとして参加していたのだ。
「組織」としては何時殺されるか判らない「ゲーム」内に何時までもボスの娘を置いて措けない。
だが政財界の重要人物を招いてその賭けの対象としている「ゲーム」のプレイヤーには、直接的な手出しも出来なかった。
彼等は主催者であるのに、観客の要望から逃れられない。
もし自分達の都合の良い様に操作していては賭けに成らないからだ。
だから「組織」は観客に知られない様に最低限のカメラ偽装と館内の操作だけで目的を達成しなければ成らないが、今回の件でそれは不可能である。
ボスの娘、つまりは参加しているプレイヤーを「ゲーム」中に確保する必要が有るのだ。
だから直接的に館内に手出しをして娘の身柄を回収して、引き上げる人の手が必要に成った。
現場はある意味、陸の孤島である。
色々と問題が有るので、かなり隔離された環境で以て行なわれていた。
その為こちらからはすぐに手が出せないので、万が一を考えて強硬手段用の部隊の編成は急がせるが、それ以外に緊急的に作業する者達も要る。
もしすぐに解決するのであれば、それに越した事は無かったのだ。

「現場の物資配置作業員に通達。全力を挙げて、観客に気付かれない様に優希様の御身を保護差し上げろ!」

ディーラーは館内作業の為に現場に居る兵隊達を使う事にした。
これなら即時対応が可能なのである。
長時間不眠で対応していた彼には限界が近付いていた。
だから一旦此処で休憩を取ろうと考える。
経過時間30時間過ぎ。
だが彼は此処まで館内が混迷していくとは思っても居なかったのだった。





挿入話6 「共闘」



時々呻き声を上げる彼を心配そうに見詰める2人。
彼はもう4時間近くも意識を失ったままだが、まだ目を覚ます気配は無かった。

「渚さん、本当に大丈夫なのでしょうか?」

「絶対って~、訳じゃないですよ~。
 でも~、急所は外れているみたいですし~、大丈夫じゃないかな~?
 私もお医者さんじゃ無いから~、良く判らないです~」

渚は努めて明るく答える。
此処で看病を放棄したら本当に死んでしまうかも知れないほどの、そんな怪我を彼は負っていた。
見た目にはそんなに酷く無い事が、逆に姫萩に現実感を失わせているのだろう。
その点で言えば先ほど出て行った外原の方が見た目は重傷なのであった。

「咲実さん~、今は私が看病しますから~、一度寝て下さい~」

「でも…」

「私も後で寝たいんです~。それに、総一くんが起きたら~、上に上がらなきゃいけませんから~。
 私達の首輪は~、嵌ったままなんですよ~?」

「あ…はい。判りました。では、先に休ませて頂きますね」

姫萩は渋々ながら渚の言葉を受け入れた。
確かに全3日の「ゲーム」はまだ約半分を残している。
彼女達はほぼ最後まで首輪が外れないのだから、体調には気を付けるべきなのだ。
この部屋に置いてあったダンボール箱から毛布を1枚取り出して、姫萩は寝る体勢に入った。
横に成ったもののすぐには寝入る事が出来ない姫萩は、今も渚が看病している御剣の事を考える。

(恋人さんが亡くなられて、それでもその人との約束を守り続けている…)

それは御剣が恋人を忘れられないと言う事だ。
今回の身を呈した行為も、姫萩ではなく恋人を想っての事だったのだろう。
そう考えると姫萩は涙が零れそうだった。
それほどまでに、死んでしまっても構わないほどに彼はその人を愛していたのだと考えると、胸が痛くなる。

(でも…)

姫萩は引っ掛かっていた。
何かがおかしいのだ。
ただ約束を守るにしても、今回の彼は躊躇いも何も無い。
御剣の行動に、姫萩は今まで御剣に感じていた違和感とはまた違うものを感じていた。



手塚が3階で物資を補給してから4階に上ったのは、経過時間31時間の手前である。
周囲を見渡すと目に付いたのは階段の横の壁についた酷い傷痕であった。
何かの爆発物でもぶつけたかの様な痕に背筋に寒気が伝う。

(…って此処に居るのは拙いじゃねぇかっ!)

以前よりも重量を増した荷物を引き摺る様に持って、彼は走り出す。
その手塚を、耶七は奥に作った拠点からロケットランチャーのサイトでじっくりと狙いを付けていた。
かなりの距離があるので、少しの違いで目標地点を大きくズレてしまうのだ。
狙いを付けている間にボーっとしていたチンピラはいきなり走り出す。

「もうちょっと大人しくしてろよっ!」

耶七は悪態を吐きながら、引鉄を絞った。
ロケットの発射音を聞く前から走り出してはいたが、それでも手塚はまだ危険である事を感じ取り近くの通路へと全速力で駆ける。

「うおぉぉぉぉ、らぁっ!」

そして荷物を投げてから床へとダイブしてうつ伏せに転がった後に体の向きを変えて、ゴロゴロと横に転がりながら着弾点から遠ざる。
着弾したロケット弾の破片が周囲に飛び散ったが、幸い手塚に負傷は無かった。
しかし装備を大量に付けたまま転がったので身体はかなり痛め付けられている。

(くそがっ、誰だよっ)

いきなり問答無用の攻撃に悪態を吐くが、手塚は先ほどまで燻っていた不完全燃焼の闘争心が燃え上がり出すのを感じ始めていた。
此処までして来る相手である。
トコトンまで付き合ってくれそうな相手に手塚は笑みが浮かぶのを抑え切れなかったのだ。

耶七の失敗は安全策を重視した為に一度も階段付近まで行かなかった事だった。
あれから2時間近くの猶予があったのだから、階段に罠なりを仕掛ける事は充分に可能だったのだ。
だが仕掛けの途中に誰か来たらと思って、階段付近には何もしなかったのが追い詰める手段を極端に減らす結果と成る。
その彼が次のロケット弾を装填している間に、手塚は階段ホールを駆け抜けていた。
耶七はこの時、ロケットランチャーで爆殺するかライフルで銃殺するかに悩んでしまう。
結局持っていたロケットランチャーを再度構えて手塚へ向けて引鉄を引く。
それを手塚は軽く横に飛んで避けた。

「けっ、丸見えなのに当たるかよっ!」

ロケット弾は遥か後ろの階段ホールの壁にぶつかって爆発する。
次弾を装填させまいと、手塚はある程度の距離に近付いた時にサブマシンガンの弾を彼へと集中させた。
耶七はロケットランチャーを撃つ為にバリケードから出していた身体を引っ込める。
ロケットランチャーを捨てて、近くにあるアサルトライフルに交換した。

「ド素人が、調子に乗るなよ…」

ある意味彼も素人なのだが、此処3年の「ゲーム」による知識と経験が自信に変わっていたのだ。
荷物の中から手榴弾を取り出してピンを抜き、バリケードの逆側から手塚が居るだろう場所へと放り投げた。
勿論手塚も別の場所から出て来た丸い物体へ注意が行く。

「げっ、手榴弾かよっ!」

ある程度まで近付いたバリケードなのに此処で引くのか。
手塚は瞬時に考える。
耶七の作戦としてはこの手榴弾で死ねば良し。
そうでなくとも背中を見せたかもしくは手榴弾に意識が向いた手塚を元の方から銃撃しようと思ったのだが、手塚の行動はその上をいった。
彼はバリケードへと特攻して来たのだ。
しかも手榴弾を投げた側へである。
ほんの数秒しかない手榴弾が爆発するまでの猶予の間に、それを実行してのけたのだ。
ロケットランチャーを撃った側から手榴弾へ注意が行くだろう手塚を狙おうとしていた耶七は、いきなり後ろに来た手塚に一瞬固まった。
その時バリケードの向こう側で手榴弾が爆発する。
音の消えた世界で手塚がサブマシンガンの引鉄を引き、振り返った耶七は右に移動しながら少し遅れてアサルトライフルを放った。

「があぁぁ」

「ぐぉ、くっ」

耶七の左半身を舐めた銃撃はその殆どが防弾板で止まるが左腕の一部に掠り傷を作る。
手塚は両足に1つずつの掠り傷を受けた。
手榴弾が爆発したのでもう大丈夫だろうと手塚はバリケードの端の陰に身を隠す。

「ケッケ、やるじゃねぇか。多少はマシなのが居たって事か?」

「くそっ、どいつもこいつも邪魔ばかりしやがってっ。てめぇも死にてぇかっ!!」

「おお~、怖っ。怖いよオジチャーン、ってか。クックック、あんまり頭に血ぃ昇らせてっと足元掬われるぞ?」

手塚の所まで聞こえて来るほどの歯軋りを耶七が立てた。
ちょっとからかい過ぎたかな、と思った手塚へと耶七がライフルを左手に持ち替えて、抜き放たれた日本刀を右手に構えてゆっくりと近付いて行く。
手塚としては此処で交戦しても良かったが1つ聞いてみたい事があった。

「なぁ、お前も他人の死が必要な解除条件なのか?」

いきなり話しかけて来た手塚に訝しげに顔を顰めて、耶七はその歩みを止めた。

「そうだ。俺のPDAは7番だからな。…お前、も?…キサマのPDAは何番だ?」

耶七の疑問は当然だ。
だが、ただ相手を殺せば良いだけの耶七がこれを聞いたのは無意識だった。
既に手塚の術中に陥っていたのかも知れない。
人のを聞いておいて答えないのは礼に失するだろうと、冗談で思いながらも手塚は何かが引っ掛かった。

(何で解除条件でなくPDAの番号を言ったり聞いたりして来るんだ?
 そう言えば外原の奴もまず3番って宣言してたか?)

本来PDAの番号など関係が無いのだ。
情報を整理するのには役に立つだろうが、基本的には誰がどんな解除条件かだけで充分な筈である。
疑問には思うが、何時までも沈黙しているとこのガキがまた暴れ出すと考えて手塚は答えた。

「俺は10だよ。解除じょ…」

「5つの首輪の作動か。…悪くは、無いか?」

耶七が手塚が解除条件を言う前に、それを当てる。

(何だとっ?!)

「どうして解除条件が判るっ!てめぇ何を知っているっ!」

手塚は彼がもしかしたらこの「ゲーム」を仕組んだ犯人の一味では無いかと思ったのだ。
彼の想像は当たっていたがこれについては言い訳が利くものであり、彼が真相を知るのはもっと後に成る。

「ルールの9を知らんのか?ルール9に全ての首輪の解除条件が載っている。
 もしかして俺の解除条件も判らなかったか?」

耶七としても誰のPDAにどのルールが入っているのかなど知らない。
逆に誰に何が入っていようとも、彼は全員殺すつもりだったのだから。
だが手塚にとっては今までどれだけ探しても得られなかったルール9についての情報である。

「なっ。そうかっ、ルール9かよっ」

「俺の7番は「プレイヤーを5名以下にする」だ。
 合計8名の死亡が条件だが、お前のでどうせ5名死ぬだろう?俺のは自分でやる必要は、本来なら無いしな。
 何なら組まないか?こちらも少し困った事態に成っていてな、協力者が欲しい」

今まで耶七は1人だけで協力者など募らずにやって来ていた。
だが今回はどうも上手くいかないのだ。
だから手塚ほどの人間とは敵対せずに協力したい。
いざと成れば、首輪が外れて油断している時に殺してしまえば良いと思ったのだ。

「協力ね…。まぁ、お前みたいな奴の方が面白そうかね。良いぜ、乗った、その話」

ニヤリと笑い彼は返事をした。
手塚も彼を信用していない。
だが今彼等以外は手を取り合っている様な気がしたのだ。
このままでは自分の首輪を外す事が出来ない。
だから手塚は耶七の提案を呑む事にした。
しかし彼は当然耶七の隙があれば、その首輪を狙おうと思っている。
2人共それぞれの思惑を秘めて、共闘をする為に歩み寄るのだった。



麗佳が4階の階段ホールに辿り着いた時、そこに手塚達は居なかった。
その頃、此処を防衛していた不良達が何処に居たのかと言えば、3階の手塚の武器庫である。
耶七に協力をするにしろしないにしろ、此処の武器を上に持って上がる必要が出て来たのだ。
それと言うのも、この3階の進入禁止が45時間経過で来るからである。
手塚は半信半疑であったが、耶七が断言をする為渋々彼の案を呑んだのだ。
別に不都合も無かったし、それに此処よりも上で待ち伏せた方が良いのは確かだった。
時間はともあれ、下の階が徐々に進入禁止に成るのはルール5に明記されているのだ。
それから手塚は4階に戻って階段で待ち受けようとしたのだが、耶七が彼に良い物をくれると言ってある場所へと連れて行かれる。
そして彼は手塚をある部屋に残して去って行ったのだ。
これには手塚も訝しげに思うが、全ての武器を置いて行ったので彼が戻るまで少し休む事にしたのだった。

少しではなく2時間以上も待たされていた手塚は、耶七が帰って来た時にはその場で食事をしていた。

「おーう、やっと帰って来たか。むぐむぐ。ちっと、もぐ、遅ぇんじゃ、うぐ、ねぇか?」

「食べながら喋るなよ。お前は子供か?
 遅く成ったのはすまなかったな。用事がある場所が少し遠かったんだ」

耶七が言っている事は嘘である。
わざわざ此処まで来て彼を置いて動いたのは、此処からこの建物のコントロールルームまでの距離がそれなりに近いからだった。
だが何故かコントロールルームの中枢への通路が封じられており、彼の知る限りの何をしても入る事が出来なかったのだ。
仕方が無く「組織」の倉庫の中にあった一部の武装とツールボックスだけを回収して来るだけとなってしまった。
そのツールボックスはPDAの無い彼には残念ながら使えない。
だからそのツールボックスは不本意だが手塚に差し出した。

「俺は今PDAが無いから、こいつはお前にやるよ」

「PDAが無いだぁ?!おい、何だそりゃ?」

手塚としてはそれは明らかな嘘にしか聞こえなかった。
耶七の言っている事に嘘は無かったが、本来なら命に等しいPDAを持たないなど考えられないのだ。

「あの変な男に盗られたんだよ。くそがっ!忌々しい。
 だから俺の狙いは、今はあの男だ」

耶七が言う「あの男」と言うのが手塚には理解出来ない。
彼が会った男は御剣と外原と葉月、そして目の前の男である。
他に居るのかも確認出来ていないしどうにも判断が付かなかった。

「おい、「あの男」って誰だよ?」

「あ~?!
 あー、そうか。これじゃ判らんか。とは言え俺はあいつ等の事を良く知らん」

「かーっ、知らん相手を狙ってんのか?もうちょっと考えて行動しようぜぇ」

呆れた様に両手を広げて首を横に振る。
そんな手塚に耶七は顔を歪めた。

「ツールボックス、要らんのか?うんっ?」

「要るに決まってんだろうがっ!」

手を引こうとしていた耶七の手から、手塚は素早くツールボックスを奪い取る。
その速さに一瞬耶七が呆けてしまう。

「て、てめぇ、いきなり奪い取るかよっ!碌な育ち方してねぇなっ!」

「うるせえっ!俺がどんな育ちして様がどうでも良いだろ。それよりかこれは何だ?
 7つも有るじゃねぇか。こんなに何処から持って来たんだよ?」

「あん?…ああ、それな。PDA無くしてから見付けた奴だよ。
 俺には使えなかったからな。ある場所に纏めて置いたんだ。
 そいつや武器は5階以上で手に入れた奴だから、かなり強力だぞ」

耶七の言葉に手塚は納得してしまう。
その誤魔化しには全く齟齬が見当たらなかったのだ。
だから手塚には彼がゲームマスターである事をまだ気付けないで居たのだった。



渡されたツールボックスの中で重複していた1つ以外を全てインストールしていた手塚は、そのPDAで何度か検索を掛けていた。
見る見る内に減っていくバッテリーが気に成るが、これは一緒に作動させているジャマーソフトの所為でもある。
しかしこれでは1日も経たずにバッテリーが空に成るだろうが、手塚にはツールボックスと一緒に耶七から渡されていた最終手段があった。
それはバッテリーチャージャーである。
このアイテムでバッテリーが空に成ったとしても一度だけは満充電状態まで戻せるらしい。
本来は耶七自身のPDAの緊急用に取っていたらしいが、これだけのソフトウェアを抱える手塚には必要なものであると渡された。
それと言うのも、今から来る奴等が多分耶七のPDAを持っているだろうからだ。
耶七のPDAにはPDA検索を実行可能なソフトウェアが入っているらしい。
だからこのジャマーソフトが必須だったのだ。
徐々に近付いて来るジョーカーの光点を見ながら、手塚は耶七から受けた幾つかの説明を思い出していた。
彼から受けた説明と武器の提供は彼の想像を超える。
特にその中にあった「自動攻撃機械」は反則と言っても良い物であった。
遠隔で動かして攻撃可能な無人兵器。
今はこんなものが戦場にあるのかと感心してしまう。
彼が思っているととうとうJOKERは十字路に入って来ようとしていた。

「さ~って。パーティーの始まりだぜぇっ!」

彼はそう言いながら、ロケットランチャーを肩に担いだのである。
これは耶七がこの階の階段ホールで使っていたものだが、その弾は今装填されている1発しか残っていない。
だからこの1発で耶七は仕留めたがっていたが、手塚としては首輪も壊れてしまいかねないこれは牽制程度にしておきたかった。

「上手く避けてくれよー、早鞍ちゃんっ!」

先ほど双眼鏡で見たので相手が誰であるかは判っている。
その対象はエントランスホールで出会った4名と、3階で外原と一緒に居た1人の少女の5名だった。
引鉄を引いた事で点火されたロケットが担いでいる砲身の中を通り抜けようとする。
その時手塚は思いっきり後ろに仰け反り掛けた。
もしも耶七の忠告が無ければ、完全に仰け反っていただろう。
仰け反っていればロケット弾は天井か何処かへと飛んで行き、最悪は手塚自身が被害を受ける可能性が有ったのだ。

(奴はこんなものをあんなに平然と使ってたのか?!)

耶七が自分に向けて2発ほど放っているのは知っている。
それだけではなく、階段の壁を見る限り、他にも何発かを撃ったのだろう。
これだけの反動を殆ど微動だにせず扱っていたのだ。
手塚も自分が可愛いので、しっかりと踏ん張って砲身を抑えて水平状態を確保する。
1秒も経たずにロケット弾は砲身を通過したが、この1秒前後の時間に手塚は冷や汗を掻き捲くってしまった。
放ったロケット弾は十字路の手前の方へと着弾した様だ。
外原達はロケット弾を認識した瞬間に近くにあった十字路の横道に隠れていた。
それを見届けると手塚はロケットランチャーを投げ捨ててから円筒形の缶を取り出し、その頭についているピンを引き抜く。
その間に誰かが角からこちらを様子見に顔を出したので、アサルトライフルを放って牽制する。
様子見していた者が引っ込んだ事を確認してから、安全レバーを持ったまま大きく振り被って思いっ切り投げ放った。
出来れば十字路のど真ん中まで届いて欲しいが、ロケット弾を撃つほどに離れているので、多分届かない。
だからこれは彼等の注意をこちらに向ける事と耳眩ましである。
スタングレネードが遠くで轟音を立てる中、手塚はPDAを用いて自動攻撃機械の操作を始めたのだった。



外原達を追い詰めたつもりで居たが、耶七の奴が失態を犯した様だ。
右半身を血塗れにしているにも係わらず左手でアサルトライフルを撃つ外原とサブマシンガンを向ける渚に、手塚は攻めあぐねていた。
特に厄介なのが渚のサブマシンガンである。
この射撃の正確さと無駄の無さに手塚は苛立っていた。
しかしその渚は少女を担いでいるし、御剣は歩くのもやっとなフラフラ状態である。
今が手塚にとっては好機なのだ。
奴等を全員殺せば、一気に首輪が外せる。
手塚は気付いていないが、かりんの首輪は外れているので、彼が思うほどすぐでもなかったのだが。
彼等は曲がり角に到達する度に各々牽制で銃撃をするが、どちらも全く成果が出せない。
そんな中、外原が通った所にある隔壁がゆっくりと下り始めるのが見えた。
このままではその隔壁に遮断されて手塚は外原達を追えなく成る。
しかし外原達は下りる隔壁から離れて遠くの曲がり角へと身を隠しに行く。
しめたと思った手塚は下りて来る隔壁まで全速力で走り始めた。

(間に合えよっ、此処で奴等を逃がせば振り出しだっ!)

隔壁が下りてしまえば、手塚はあちらの曲がり角から守る物も無い状態で狙い撃ちなのだが、彼は焦っていた。
耶七と共闘を行い、これだけのソフトウェアと武器を用いて万全の態勢で臨んだのだ。
これで仕留められないと成ればどうやって殺すと言うのか。
それは恐怖にも似た感情であったのだ。
だが手塚の無謀は外原の行動で止められてしまう。
その隔壁が下りるであろう床の至近に、ある物体が転がって来たのだ。
物体は下に到着した後、外原が手元のPDAを操作した途端に数個のランプが毒々しく光り出す。

「なっ!くっ、もしかして爆弾かっ!」

実際には対人地雷なのだが、彼は耶七からその情報は得ていなかった。
それでもその物体が危ない物である事を直感的に理解した手塚は、踵を変えて真後ろに全速力で走り出す。
あの爆弾がどれほどの範囲と威力を持つのかが判らないので、まず安全であろう曲がり角の向こうまで帰ろうとしたのだ。
だが手塚が帰る途中にその対人地雷は爆発する。
爆弾の威力は至近で食らえば即死出来そうなほどに、手塚には見えた。
その後外原が同じ物体を投げて来て、再びそれは隔壁が下りる場所に近い所へ鎮座する。
その向こうには曲がり角から半身を出してPDAを構える外原の姿が見えた。

「くそっ、あれじゃあ何時でも起動し放題かよっ!あれもPDAのソフトウェアか?」

手塚はふら付いている外原が見続ける限り隔壁の方へは近付く事が出来ない。
そしてそのまま隔壁は下まで閉まったのだった。



手塚が十字路まで戻る少し前に、やっと耶七は意識を取り戻していた。
普通なら1、2時間程度でスタングレネードから回復する訳は無いのだろうが、彼は目潰しを食らった後に床を転がる缶の音で手榴弾を認識していたのだ。
音の方向でその存在場所を理解したので、前方に飛び出しうつ伏せに成って頭を抱えた。
これで曲がり角そのものが多少の壁となり、破片を食らう事は無いと思ったのだ。
しかし転がっていたのは破片手榴弾ではなく音響手榴弾である。
それでも頭を抱えていた為に、脳への衝撃も少なくて済んだのだった。

「つぅっ、くそっ、綺堂めっ!余計な真似しやがってっ!」

その余計な真似をしなければ耶七は渚も殺す予定だったのだから、渚からしては責められる筋合いではない。
それでも彼の計画を潰してくれた渚は彼にとっては裏切り行為に等しかったのだ。
彼は勘違いして、音響の方は渚が投げたと思っていた。

(流石は裏切りの魔女、ってか。くそがっ。厄介な奴が参加してくれたもんだ)

「たくっ、情けねぇな。こんなんで、あいつ等殺れんのかよ?」

内心で悪態を吐きながら頭を振って壁に手を突き歩く耶七に、呆れた様な声が掛かる。
耶七が声のした方を見ると手塚が立っていた。

「成果は?」

「ゼ、ロ。あいつ等はあっちに逃げたぜ。参ったね、何だあの女?相当に銃の扱いに慣れてやがったが」

「そう、か。俺もあの女に、してやられたよ。次の手を考える必要が有るな。まず5階に上がろう。
 あっちの通路には5階への階段が有るから、奴等は5階に上がるだろう」

耶七はこの建物の構造を良く知っている為、ある程度は頭にこの迷宮の地図が入っていた。
だから彼等は既に4階に居ないと考えたのだ。
バッテリーを気にしてJOKER検索を控えていた手塚は、その意見に異論は無かった。
しかしそれには他の問題がある。

「どうやって上がるんだ?途中の通路は奴等に封鎖されたから、その5階への階段までは5時間は掛かるぜ?」

外原が閉めた隔壁は彼等が居る区画から階段までの最短距離を潰し、更に階段まで大きな回り道が必要な所を狙われていた。
それを聞いた耶七は少し考える。
大分厄介な事に成っていた。
自分のPDAは取られて、コントロールルームにも入れなくされている。
絶対的優位な立場が崩れ去っている今、彼は1プレイヤーとして勝利を目指さなければ成らない。
それでも他のプレイヤーよりも知識と経験、そして幾つかの館内施設をまだ使用出来る。
此処から近い階段が爆破されている事を知らない彼等は全く別の手段を取ったのだった。

彼等が取った手段は物資配置用の専用エレベーターを使用する事であった。
これを止めたら物資配置員が仕事を出来なく成るので止める訳にはいかない。
勿論此処に来るまでの認証も必要であるが、コントロールルームに入れなくした事で安心していたのか、此処は彼の認証キーでも通れたのだ。
しかし完全に裏側の施設であるこのエレベーターに手塚の疑問は深まる。

「おい、此処は何だ?」

「多分この「ゲーム」を取り仕切っている連中が使っている施設だろう。
 俺は「ゲーム」の初期段階でルール一覧のソフトウェアを手に入れていたのでな。
 真っ先に6階に上がってたんだ。その時に見つけたものだ」

手塚は彼の言葉を聞いても納得出来なかった。
この通路への扉は巧妙に隠されていたし、途中の認証盤に彼が打ち込んでいるのも淀みが無かったからである。
だがそれでも彼は何も言わなかった。
手塚にとって最も厄介な敵は耶七なのかも知れないが、今はまだ役に立つからだ。
それでも脅威である事に変わりは無いので、手塚は彼を早々に排除した方が良いと考え始めていたのだった。



耶七の提案で6階から榴弾砲を持って下りる事に成った。
彼等は知らないが、第二次世界大戦で使用された「M116 75mm榴弾砲」を少し改造したもの、つまりは長距離砲撃用の兵器である。
弾薬の装填及び射撃が全て手動なのでそれなりの知識が要るが、それでも一撃の威力は相当のものだ。
これでもって相手を制圧してしまおうという案であったが、先のロケットランチャーの時と同じ様に手塚はこれを使う事を渋っていた。
首輪が壊れると困る手塚には威力が高過ぎるのは歓迎出来なかったのだ。
それでも今は大勢のプレイヤーを一度に相手をする術が無くなって来ている。
だから手塚もこれを使う事に反対し切れなかったのだった。

「それで、これだけでどうにか成るのか?」

6階に行ってからエレベーターを使い5階に降りて、更にこの榴弾砲を4階への階段の近くの通路に向けて移動させながら手塚は聞く。
どうにも榴弾砲の射撃間隔が心許無いのだ。
大体これでなくとも、グレネードランチャーやサブマシンガンで充分人は死ぬのだから。
だが耶七は彼の不安を一笑に付した。

「ド素人どもがいきなり大威力の攻撃を受けたらどうなると思う?大抵はパニクって動けなくなるか、慌てて後退するかだな。
 多分人数が多いしそれなりに頭の回る奴が居る様だから、後退を選ぶと思う。
 だからそこを狙うのさ。上からな。さっき見た地図にダクトが丁度通路を通る所があっただろう?
 あそこが狙い目だな」

「ダクト、ね。じゃあ俺がダクトか?」

エアダクトの地図を持っているのは手塚である。
だから自然と自分が行く事に成ると思ったのだ。

「どちらでも良いが、ダクトへは俺が行こう。
 砲撃のタイミングは、ある程度奴等の動きが監視出来るお前の方が良いだろう?
 それに俺だと全員死ぬまで砲撃しちまうかもな?首輪、要るんだろ?」

薄笑いを浮かべる耶七に手塚は肩を竦めておく。
多分ダクトの方が危険である。
ダクトからの急襲とは言え、奴等の反応によっては集中砲火を受けるのだ。
それでも耶七は行くと言っているのだから彼に任せようと、タバコをふかしながら手塚は思うのだった。



回収部隊が高山の重機関銃と交戦して撤退した時、ディーラーは緊急対策の会議中であった。
その為情報の未確認及びその部隊員の負傷は彼がカジノ船のコントロールルームに戻った時に知らされたのだ。

「何故、この様な初歩的なミスを…」

スタッフは何年もこの「ゲーム」に携わっており、それなりの人材が揃っている筈だった。
それでも此処数年の「ゲーム」は彼等の思惑通りに行く展開が多く、大きな問題は発生した事がない。
彼等にとって此処までトラブル続きなのは、今回が例外だったのだ。
それでも彼等はこの事態に対処しなければ成らない。
だがディーラーの精神力は底を付きそうだった。

「俺は寝るぞ。回収部隊は負傷者を収容後再度回収の機会を伺え。無理だけはするな?」

それだけを伝えて、彼は45時間ぶりの睡眠に向かう。
それは経過時間40時間過ぎの事だった。

睡眠は大事だろう。
不足してしまうと思考力に多大な障害が生じるのだ。
だが彼はもう少し待つべきだった。
彼が従業員専用の寝室に向かった後に、一部の観客が要望を出していたのだ。
その要望は、彼等を簡単に合流させては成らない、と言うものである。
つまり5番の解除条件を満たさせずに、それに困る所を見たいというものであった。
勿論そうでない客も居る。
彼等が必死に成って彼女の解除条件を満たす所を最後まで見たいと言う客も居た。
この微妙な匙加減を満たす方法が残ったスタッフで決定出来る者が居なかったのだ。
「エクストラゲーム」の提案なり、無難な方法なりを使う手も考えられなかったコントロールルームでは、彼等の間の隔壁を全て降ろしてしまう事が決定される。
これでドアコントローラーを持つ3番は無理でも、2番を筆頭にした連中は足止め可能だ。
更にこれで合流に時間が掛かればA達との合流も出来なくなり、5番の首輪は解除不能と成るのである。

スタッフはこれで安心していた。
だが2番も3番もそのソフトウェアや装備を駆使して、彼等の思っていた以上の速さで合流してしまう。
その為彼等の足止めをする為に彼等の通過する隔壁を下ろしていったのだが、これも7番のPDAにより邪魔をされ続ける。
しかもこの直接介入はただ隔壁を下ろしておく事とは訳が違った為、観客の怒りを誘ったのだ。
特定のプレイヤーへの度を越えた妨害。
隔壁を下ろしておくだけなら、全てのプレイヤーに平等の障害と成るだろうが、これは許容出来なかったのだ。
勿論隔壁を下ろしておくだけの方も彼等にだけ不利に成っていたが、こちらは観客には伝えられていなかっただけである。
だからコントロールルームからの操作は中止せざるを得なく成った為、彼等は順調に階段へと近付いていた。
そしてスタッフはターゲットである9番と現在観客の最大の注目対象である5番に意識が向き過ぎていて、7番と10番の動きを見逃していたのだ。

「奴等、榴弾砲を持ち出しているぞ?」

コントロールルームに居るスタッフの1人が気付いて声を出した事で、彼等はそれを認識してしまう。
あれで撃たれてしまえば、彼等の「保護対象」の安全が保証出来ないのだ。

「奴等を止めろっ!優希様を、即刻回収部隊に保護させるのだっ!早くしろっ!」

ディーラーが不在の為、代理の責任者が大声を上げた。
通信担当官がその旨を回収部隊の部隊長へと伝え始める。
その頃の回収部隊は屋上で負傷者回収用のヘリを待っている所だった。
そこに緊急連絡が入ったのだ。
1人では行動出来ない負傷を抱えた部隊員が2名居る以上、その付き添いに2名を削らなければ成らない。
だから彼等は残りの8名で館内へと戻って行くのだった。



手塚は砲撃を1つ行なった後、次弾を装填する為に蹲っていた。
榴弾砲の周囲には反撃された場合を考えて瓦礫や家具の一部をバリケードとして配置している。
手塚は要らないと考えていたが、耶七が周囲全てを守っておいた方が良いと進言したので、後ろ側も防御している。
これが手塚の命を助けた。
作業を進める彼へと後方からいきなり銃撃が加えられたのだ。

「何ッ?!誰か帰って来たのか?」

冷静に成って考えれば、今銃撃が加えられて居るのは階段ホールの逆側からである。
つまり彼等の標的だった者達は部隊を2つに分けて居たと言う事だろう、と手塚は判断した。
これは彼がJOKERしか探知出来ない為である。
だから今の彼にはJOKERを持つ者以外の位置が判らないのだ。
ムラのある攻撃の合間に彼は前面のバリケードを乗り越えて、階段ホールへと駆け抜けた。
後ろは回収部隊が、そして左手の通路向こうには残りのプレイヤー達の一部が居る以上、彼はそこへ逃げるしか無かったのだ。
それでも階段ホールには残り1台となった自動攻撃機械を置いていたので、まだ戦えると手塚は思っていた。
手塚を追い掛けていた回収部隊は階段ホールに一度入るが、彼等に再度入った通信で慌てて離れた通路へと避難する。
入った通信内容の1つはカメラの偽装が近々切れる事であり、これにより彼等はカメラが幾つも取り付けられている階段ホールに留まる事が出来なく成っていた。
もう1つは銃撃音を聞きつけて、他のプレイヤー達が階段ホールへと向かって来ているとの情報である。
彼等としたら得物が向こうからやって来てくれているのだから本来嬉しい事なのだが、活動可能時間が1つ目の報告で切れ掛けているのだ。
回収部隊が奥の通路に退避して行くのを見て、手塚は榴弾砲の所まで戻ろうと再度階段ホールの柱の陰を利用して通過しようとする。
手塚が柱の陰から走り出そうとした時、榴弾砲への通路から出て来た高山達を見てしまう。

「ちっ、挟み撃ちかよっ!」

手塚の声が階段ホールに響き渡る。
声を抑えられないほどに彼は焦っていた。
今は回収部隊の通路脇に置いた自動攻撃機械があるお陰なのか、回収部隊は行動を起こしていない。
だがこのまま双方から攻撃を受ければ、確実に手塚は終わってしまうだろう。
出て来た事が彼の間違いだった。
そのまま逃げれば良かったのである。
挟み撃ちに対して何も出来ないまま柱の陰で佇んでいた時、外原の声が響いた。

「手ー塚ーっ!」

回収部隊の方を見ていた手塚はその声に振り向いた。

「外原っ!?」

彼に向けて、いやその遥か頭上に銃口を向けて居る外原に対して、構えたサブマシンガンの引鉄を引くのを忘れていた。

(何を考えてやがる?)

外原はそのまま上に向けて発砲するが、当然ながら手塚には当たらない。
呆然と外原を見て居たら、彼の背後で閃光が走った。

「「「ぐぅぉぉぉおお」」」

突然周囲が眩しくなった事で目を閉じるが、部隊員の悲鳴に紛れて外原の声が聞こえて来る。

「手塚っ、早く通路に退避しろ!逃げるんだ!」

外原のその言葉に手塚は頭を混乱させていた。
手塚にはこの様に他人に助けられる覚えなど無い。

「なっ、てめぇっ。どういうつもりだ?!」

「そんなの良いから早く行けっ!そいつ等が復活するだろ!」

外原の言う事は正しかった。
手塚にとって失態で陥った窮地から脱出するには、これは絶好の機会である。

「~~~、くそっ」

気分は最悪だが、命あっての物種である。
悪態は吐くが手塚は自分の荷物を掴んで一番近くの通路へと逃げ出したのだった。

そのまま手塚は6階へと向かう。
3階で一度寝てからは、途中何度か軽い休憩はして来ているものの睡眠は取っていない。
だから身体が睡眠を欲しがっていた。
手塚は何の障害も無く6階への階段まで辿り着ける。
幸い彼は回収部隊に対して明確な敵対行為を行なっていなかったし、彼等も手塚を無理に追撃する必要も余裕も無かったのだ。
だから彼は回収部隊に狙われる事は無かった。
その階段ホールで手塚は、4階への封鎖されていた階段が爆破されているのを目にする。

「こんなやり方もあるのかよ…」

彼は絶句する。
自分は世間の中では頭が良い方だと思っていた。
だがそれを上回る事態が立て続けに起こっている気がしたのだ。
それは彼に判断する為の情報と余裕が無い為であったが、それすらも情報が少なくて判断が出来ない。
プライドが傷つけられたまま彼は6階へと足を進めるのだった。



とうとう回収部隊はターゲットの確保が出来ないまま、彼等を全員通してしまう。
ダミー映像で手塚と耶七が彼等を階段ホールで待ち伏せしていた事にしているが、これには流石に運営も困ってしまった。
それでも何故か問題の愛美を含めて全員が階段に残っている状態である。
これは好機ではないか。
観客はこのまま彼等が御剣達と合流するのは面白くないと判断してくれた様で、先ほど観客から愛美達に対して1度切りの進路妨害を認めて貰えている。
それを実行する時ではないか、と代理責任者は判断した。
これは功を奏して彼等は足止めされ、どうにも成らない状態に成ったのだ。
後はダミー映像が用意出来次第、回収部隊に突入させるだけである。
だが、先ほどの3番の攻撃で神経ガスを吸った4名の部隊員が昏倒しておりすぐには戦線に戻れない状態だ。
更に最後に強行した2人の内の1人が6番に左足と左脇腹を撃たれて、後方で治療中である。
散々な状態な為、代理責任者は本当にあのプレイヤー8名を制圧出来るか不安に成って来ていた。
その不安は的中してしまう。
戦果はゼロでターゲットを逃してしまっていた。
回収部隊の負傷は、火傷の他に崩れて来た瓦礫によるものとスタングレネードによる痙攣症状。
結果は予感通りに散々なものだった。



姫萩が起きた時、御剣の容態は安定をしていた。
渚は船を漕ぎそうに成りながらも何度も御剣の危険な時に対応してくれたらしい。
その対応の説明だけでも、渚がこの様な怪我人を治療する経験が常人よりも豊富である事が判る。
姫萩に看病を交代して貰った渚は疲労が溜まっていたのか、すぐに眠りに付いたのだった。
そうして交代で3時間ずつの睡眠を取ったが、御剣は容態を安定させてはいるものの眠り続けたままである。
2人ともが安定した御剣に安心した所為もあってかお腹が空いて来たので食事を取った後であった。
もう時間は47時間を大幅に経過している。
そろそろ愛美の制限時間も無くなって来ている、そんな時。
ゴソゴソとこの部屋に有ったダンボール箱の中を漁っていた姫萩が、ある物を持って渚に駆け寄った。

「渚さん、こんなものが有ったんですが!」

姫萩が差し出したのは1つのツールボックスである。
その表面の英文字を見ると「Tool:DetectCollar」と書かれていた。

「えっ?あれ?」

(此処は確か、まだ4階、よね?)

渚は驚いた。
普通は有り得ない中階層での探知ソフトの存在にである。

「渚さん、御剣さんも寝てますし、私のPDAに入れて見ましょうか?
 どんな機能かは判りませんが、役に立つものかも知れませんし」

「え、ええ」

姫萩の興奮した様な問い掛けにも渚は生返事しか返せなかった。
その渚の様子を少し疑問に思いながらも、新しいソフトウェアに興味が戻ったのか姫萩はインストールを開始する。

「首輪の探知?と言う事は優希ちゃん達の位置が判るのかな?」

最初に出て来たソフトウェアの説明に首を傾げるが、そのまま実行する。
インストール後に出て来た地図には幾つもの光点が表示されていた。
まるでJOKERを7番に偽装していた時に見た様な画面だが、少し異なる部分に姫萩は吃驚した。
その光点が動いているのだ。
画面ではこの5階から4階へ降りる階段のホールからの通路をこちらへ向けて、複数の光点が近付いて来ている事を示していた。
誰か、それもかなりの人数が近付いて来ている。

「渚さん、かなり大勢の方が近付いて来ています!」

姫萩の言葉にやっと我に返った渚は瞬時にそれが外原達だと理解した。

「多分~、早鞍さん達だと思いますよ~」

(やっと、帰って来てくれた)

事態は渚の理解をどんどんと離れていっている。
これは外原にPDAを持たせたままで「組織」と連絡が付かない所為でもあったが、彼女はそれだけでは無い事を何となく理解していた。
その鍵を握るのが外原では無いかと、そう考えたのだ。
それは全てではない。
彼の存在だけでは起こり得ない事態もあったのだが、やはり人一人が得られる情報と分析力では全てが判る筈も無いのだ。
混乱する頭で渚は、ぼんやりとそんな事を考えていたのだった。



通路に置いてけぼりにされた耶七は6時間以上の眠りからやっと覚めた。
彼にはPDAが無いので経過時間は判らない。
一先ず状況を確認する為に一番位置が近くて判り易かった4階への階段ホールへと足を進める。
進入禁止時間の件があるので4階へ下りるのは怖かったが、これからどうしようかと考えて彼は閃く。
時計であった。
プレイヤーは館内に入る際に、「ゲーム」に支障と成らない私物はそのまま持ち込みを許されている。
御剣や優希のバッグであったりかりんの学生鞄であったり、麗佳の手提げバッグであったりと殆どの者が拉致された時の荷物はそのまま在ったのだ。
だから彼も現代の若者であるからして、携帯電話を持っている。
中継基地に電波が届かないので通話の役には立たないが、それでも時間は狂う事が無く表示される筈なのだ。
ズボンのポケットに入っている携帯を取り出して時間を見ると、午後の2時47分を表示していた。
確か3日目の午後4時に4階が進入禁止に成る筈である。
そろそろ進入禁止となる下の階は無視して上に昇るべきかと彼が考えた時、下の階から人の話し声が微かに聞こえた。
携帯を収めて、周囲を見る。
瓦礫の合間に何かの荷物が見えた。
それを急いで引っ張り出すと、アサルトライフルとその予備弾倉及び手榴弾の入った小さ目のバッグが引き摺り出される。

(よしっ、奴等が首輪をしているなら、此処で足止めして、殺してやる)

暗い笑いを浮かべながら彼は充分に弾があるライフルを持って階段を降りる。
本来は下りない方が良いのだが、下を見た時にシャッターに大穴が空いた状態だったのだ。
つまり天然のバリケードが有るという事である。
時間ギリギリまでそこで時間を稼ぎ、その後手榴弾で牽制して上に上がってしまい、後は上からの攻撃でちょっと時間を経たせれば首輪が作動して奴等は死ぬのだ。
完璧な作戦だと耶七は思った。
何時もその油断で彼は失敗しているのだが、自覚は無い様である。
そして階段ホールへと入って来る人間達の中に「彼女」を見付けた時、彼の時間は数瞬止まった。

(何故、あいつが、此処に居るんだ?!)

耶七の視線の先に居たのは、彼の妹である愛美だったのである。
彼は先のダクトから通路を見ただけでは視界が悪かった為に彼女が見えていなかったのだ。
耶七には最初それが信じられなかった。
だが紛れも無く彼の妹がそこに居る。
それをやっと理解出来た時、耶七は叫んでいた。

「愛美っ!何をしている!こっちへ来いっ!」

まだ階段ホールに入ったばかりの連中に囲まれている愛美へと声を掛けるが、その周りの連中が彼女を後ろに下がらせて耶七を警戒する。
耶七は早く愛美を回収して、その後彼等を殲滅したかった。
彼の頭からはもう進入禁止の時間も首輪の事も頭から吹き飛んでいたのだ。
耶七を制圧しようと御剣や文香が階段を目指そうするが、怒り狂っている彼の銃撃は逆に正確さを増しており、ある一定以上は近付けない上にじっとしていたら狙撃されてしまう状態だった。

「愛美っ!!頼むからこっちに来てくれっ!何でそんな奴等と一緒に居るんだよっ!」

耶七が力一杯叫びながら、牽制のライフル弾を放つ。
その彼へ愛美が遠くの通路から力一杯叫び返した。

「お兄様っ!!もう争いは止めて下さい!私、もう嫌です!」

本音を言えば、愛美には自分と耶七以外の誰が傷つこうとも知った事では無かった。
ただ目の前でこの様な争い事をされるのが嫌なだけである。
もし此処に居る者達が耶七を明確に傷つけ様としたなら彼女は彼等も敵と見ただろう。
結局彼女は平和呆けした世間知らずのお嬢様でしか無かったのだ。
そんな彼女へ耶七が苛立ったような声で愛美に声を上げる。

「こっちへ来い、愛美!そんな奴等を信用するな!他人なんて信用出来る奴なんて居ないんだっ!」

彼等の境遇を考えればそれは偽りでも無かっただろう。
その大部分が耶七の性格によるものだとしても。
それでも愛美は自分の周りでの争いはもう止めて欲しかったのだ。
暫くの間御剣達が牽制を受け続けて、前に進めないまま時間が経ってしまう。
首輪が作動する時間が近付いて来ている事を文香から聞いていたので、愛美は焦っていた。
その時間は耶七の死を意味しているのだから。

「お兄様!もう止めて下さい!」

「お前が来れば、それで良いんだよっ!さっさとこっちに来い!」

どうしても言う事を聞いてくれない兄。
そこに文香の言葉が降り掛かる。

「時間が無いわ。愛美ちゃん、覚悟は決めておいて貰えるかしら?」

覚悟を決める。
つまりは彼を傷つける、最悪は殺してしまうと言う事だろう。
それは彼女には認められない事だった。

「文香さん、しかし」

御剣の言葉が続く。
彼は否定してくれている。
それが愛美を一瞬だけホッとさせるが、続いた他者の言葉で彼女の心は凍りついた。

「総一君、君だけじゃないの。早鞍さんや渚ちゃん、咲実ちゃんの命も掛かっているのよ?」

「そして奴の命もな」

奴、と言うのが耶七の事である事は誰もが認識しただろう。

(死ぬの?お兄様が?殺すの?この人達?!他の誰かなんかの為にっ!お兄様をっ!!)

他人なんて信用出来ない。
兄の言う通りだったと愛美は思った。
だから彼女は耶七の元に向かう為に飛び出したのだ。

「愛美さんっ。危ないです!」

姫萩の言葉はもう彼女を止められない。
その直後に御剣が飛び出して愛美を追った。
愛美が飛び出した時、耶七は反射的に銃口を向けて引鉄を引く。
まさかあの頑固な愛美が、この程度の言葉で出て来るとは思っていなかったのだ。
思い込みが激しく自分の世界に閉じ篭りがちな妹は昔から中々自分の意見を変えない方であった。
だからもっと何かの説得材料が無いかをずっと頭で考えながら出て来る影に対応していた為、耶七が愛美を認識した時には引鉄を引いた後だったのだ。

「おに、い、さま?」

兄に銃口を向けられた愛美はその場に立ち止まった。
だから彼女に銃弾が到達するまでに御剣は間に合ったのだ。

「愛美さんっ」

叫びと共に御剣は愛美を押し倒す。
その彼に2つのライフル弾が突き刺さるが、幸い防弾板の上に命中した様で、衝撃は受けたものの銃痕は出来なかった。

「い、愛美?」

愛美を撃ってしまった耶七も、その事実に呆然としてしまう。
何処の誰かは知らないが庇われているので多分生きている。
そうだとすれば、今度は愛美に嫌われてしまう事に恐怖を覚えたのだ。
呆然としている間に、あの憎き敵である外原が階段ホールを駆け抜けて来ていた。

「くそがっ。あいつか?あいつが全部悪いのかっ?!!」

自分の失態を認められず、全部を他人に着せて楽に成りたかったのだ。
半泣きに成りながら銃口を上げて外原を狙おうとした。
しかしその前に相手のライフルから銃弾が飛んで来たので、少し下がって避ける。
その後銃弾は飛んで来ないので銃を構えながら、大穴から顔を出した時に丁度円筒形の缶が彼の目の前に来ていた。
距離、速度からどうやっても避ける事の出来ないタイミングで来たその物体を、当然だが耶七も避けられない。

「ぶがっ」

変な声を出しながら鼻を押さえるが、直ぐに態勢を立て直して目を開けた時、耶七の目の前に浮かぶ物体が閃光を発した。

「ぎゃあああぁぁぁぁ」

目がチカチカし、激しい頭痛を彼に齎す。
目を押さえてフラフラとしていた所に文香の一撃が首筋に入り、彼は声も無く昏倒したのだった。



手塚は6階でゆっくり休んでいた。
疲労が溜まっていたが、きちんと食事を取りたっぷりと眠っておく。
PDAからの4階が進入禁止に成った事を知らせる警告音で目が覚めた。
起きた後にも1度食事を取る。
思えばかなりの戦績の悪さだった。
最初に優希を仕留めるのを渚に邪魔され、御剣達をクロスボウで牽制された為に逃さざるを得ず、文香にも結局逃げられた。
更に葉月達の首輪の作動は麗佳に阻まれ、耶七とは共闘するものの2度に及ぶ外原達への襲撃は誰も殺せずに終わる。
PDAのボタンを押し込み最初の画面を出した。
バッテリーは今満充電状態である。
これまでに使用した消費大である、ジャマーソフト、JOKER検索、自動攻撃機械の3つのソフトの使用で1回このPDAはバッテリーを空にしていた。
耶七から貰っていたバッテリーチャージャーで今は満充電まで戻したが、あと18時間もあるのだ。
慎重に使っていく必要性があった。
幾ら考えても纏まらない思考に嫌気が差していた時、以前聞いた事のある巫山戯た音楽が鳴り響く。

「ちっ、こんな時に何の用だ。スミスの奴めっ」

画面に出て来たかぼちゃの化け物を見ながら悪態を吐いたのだった。



彼は反対に投じていた。
これは別にただの嫌がらせだったが、彼にとってはどっちでも良かった事も関係している。
その後に「エクストラゲーム」の結果は出たが、それは彼にも予想外のものだった。
まず途中経過がおかしい。
誰がそれを言い出したのかは知らないが、こんな面白い場面に自分が居られなかった事に手塚は腹を立てていた。

「あーあ、組む奴間違えたかね?」

耶七は悪くは無かったが良くも無いパートナーだった。
勝ちばかりに拘っていて、一緒に居て全然楽しく無いのである。
もっと楽しい奴と組みたかった。
闘争心を満足させて好奇心を満たせる、そんな奴が良かったのだ。
だが彼にはそんなパートナーではなく明確な敵がプレゼントされてしまう。

「どう見たって、奴等の親戚だよなぁ?」

エクストラゲームの結果が出た後に休憩した部屋を後にした手塚は、ある集団を発見していた。
その視線の先に居たのは都市迷彩服に統一された兵隊達が居たのだ。
彼等は手塚の方へとゆっくりと通路を歩いて来ている。
総勢8名も居る彼等に手塚は勝てないと判断して、サブマシンガンを構えながら後退した。
相手はそれに慌てず騒がず、一定の歩調で前進を続ける。
強襲部隊にとっては手塚は進路途中の小さな障害であり、そして殺害対象者でもあったのだ。
それを知らない手塚でも、彼等が危険な存在である事は肌で感じられた。

(こりゃあ、相当訓練された兵士か?冗談じゃ無ぇぞ!)

完全なプロ相手に素人の自分が勝てる訳が無い。
手塚はその戦力差を瞬時に理解して後退を続けた。
ある程度距離を離した時、先ほどまでの緊張感から一息吐く。

「くっそ、好い加減ルール外は止めて欲しいねっ。どうなってんだ、こりゃ?
 ふぅ」

と壁に手を突いてしまう。
次の瞬間手塚は宙に投げ出されてしまった。

下にはマットが敷かれており、落ちた時の衝撃はかなり吸収出来た。
しかし手塚は完全に気を抜いていた時だったので、強く背中を打ってしまい、息が詰まっていたのだ。
そこに先ほど閉まった筈の天井が開き出す。

(何だ?)

手塚が疑問に思った時、そこには幾つもの銃口が並んでいた。

「あ……?」

それを認識した時、手塚に向けてその全ての銃口が火を噴く。
数限りない銃弾が、マットの上に転がっていた手塚を撃ち抜いていくのだった。


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