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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 挿入話5 「防衛」
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/01 00:08

経過時間15時間過ぎ。
先ほどまで6階に舞台を移して7番とK達の追撃戦が繰り広げられていた時間帯であった。
その攻防も7番がPDAの機能を使い敵から分断された事によって、戦闘は一時的に終えている。
これからディーラーも休もうかと思った時、「ゲーム」の進行を管理するカジノ船のコントロールルームに壮年の男性の叫びが響いた。

「責任者は居るかっ!!」

入り口を入ってすぐに怒鳴った男性は、コントロールルームの進行指揮を管理する席へと足を進める。
その席に座っていたディーラーは振り向いてその男を確認すると、急いで立ち上がった。

「こ、これは金田様、どうなされましたか?」

入って来た男性は「組織」の最高幹部の1人であり、一番の古株でもある金田と言う男であった。
最もボスに近い、どちらかと言えば穏健派であり「ゲーム」を快く思っていないのもあり、余り「ゲーム」に係わりを持っていない幹部でもある。
そんな男がやって来たので、ディーラーも何があったのかと訝しげに思う。

「どうされたじゃないっ!これはどういう事だっ!!」

「どう?と申されましても、何の事やら?」

金田の言う事は要領を得ない。
いきなり入って来てこれでは、百戦錬磨のディーラーとは言え考えを読み取る事は出来なかった。

「彼女だよっ、あの子だっ!何故あの子が此処に居るんだっ!!」

彼の指差す先にはモニター群があり、その1つには未だ小部屋で寝入る9番の少女の姿があった。

「何故、と申されましても。…プレイヤーですから…」

「何を言っているっ!あの子が誰だか知っているのかっ。彼女は、彼女はなっ!
 ボスの娘なんだぞっっ!!!」

「な………」

コントロールルームに響いたその声は、その場を凍りつかせる。
その時金田と共に入って来た40台と思しき男は誰にも見られない中、口元に笑みを張り付かせるのだった。





挿入話5 「防衛」



落とし穴の罠に掛かり5階へと落ちた耶七は身体中の痛みに苦しんでいた。
奴等を許す訳にはいかない。
それでも彼の体力は限界を迎えていた為、天井が閉じた後倒れて意識を失っていた。
起きた時間はPDAの無い彼には判らなかったが、24時間が経過する前である。
落ちている武器はアサルトライフルと小斧だけの様だ。
部屋の隅にダンボール箱があるが、上層階では武器は木箱に入っている事が多いので期待は出来ないから彼は見なかった。
実際にその箱に入っていたのは食料品や毛布の類だったので、彼の判断は間違っていない。
そして彼にはまだ武器があった。
だから起きてすぐに彼はそこへ向かったのだ。
それは今までの各種反則染みた行為の最たるものであった。

それから3時間ほど掛けて耶七は電子機器が周囲に埋め尽くされたある部屋へと辿り着いていた。
そろそろ1階が進入禁止になる時間である。
正面にある沢山のモニターを見ながら各プレイヤーの状況を確認した所、次の様に成っていた。
現状4階を移動中の憎き敵である5名と、役に立たないサブマスターを含めた2階に居る3名。
耶七自身を除いた残りの全てが3階に居た。
そして4階に居る奴等はすぐにでも3階へ降りそうだ。
何故わざわざ3階に降りるのか彼には判らなかったが、合流されてしまうと厄介である。
今怪我をしている彼にとっては各個撃破こそが望ましかったが、あれだけ固まられるとどうにも手が出し難い。
身体が万全であればそれでもやる気には成るが、今の状態では対応し切れない可能性がある。
だが分断するにしても、隔壁は7番のドアコントローラーで操作出来てしまうのだ。

(くそっ、分断系も使えないってのか?どうすれば。…上げさせなければ良いのか?)

コンソールを叩いて、隔壁や罠の情報を呼び出す。
各フロアにある様々に用意された仕掛けなどが画面に出て来るが、その内即死性のあるものはフリーズしている。
つまり彼の権限では使用出来無い様にされているのだ。

(抜け目の無ぇ連中だ。俺がこれでプレイヤー数を減らすと考えやがったか!)

悪態を吐きたくも成るが、それよりも耶七には外原の現在状況の方が問題である。
彼等は3階に降りた後、1名と和解し6名に増えていた。

(くそがっ、盛り上がらないじゃねぇかっ。査定に響くだろ!)

借金返済の為に金は少しでも多く欲しいのだ。
だから査定が良く成る様に、つまりはこの「ゲーム」を観客が見て面白いものにしなくては成らない。
こんなに固まって仲良しこよしをされては困るのだ。
彼はタイミングを合わせてコンソールを操作する。
館内にある罠の1つを起動準備しておき、もう1つのプログラムを用意した。
ソフトウェアで上げられてしまうのなら、それ以上で下げさせれば良い。
だから彼は下に降り切っても下に降ろす行為を止めない様にした。
これをやり過ぎると当然ながら上下させる為の機構を破損させてしまう為、安全機能で止まる様に成っている。
それを割り込みでスキップさせるのだ。
これで目的の鉄格子は上がらなくなるだろう。
余りやり過ぎると査定に響くので、此処からの操作は最小限にしなければ成らない。
そして彼等がある地点を通った時に罠を作動させて、プログラムを開始した。

(やった、やったぜ。これで奴等は分断された。さあ、殺す。殺してやる。
 俺は生き残るんだっ!)

彼は急いで纏めた荷物を手に取って、コントロールルームから駆け出るのであった。



高山と麗佳は慎重に周囲を確認しながらも急いで4階への上り階段を目指していた。
分断されてしまった文香と優希の2人と合流する為である。
1時間近く掛けてやっと階段まで辿り着き、階段を警戒を怠らずに上ったが、そこにはまだ何も無かった。
彼等には見えていなかったのだ。
階段ホールの柱の影に隠れている耶七は彼等が合流しようと動く通路を予測して、その死角となる様な位置に居た為である。
高山が先行してホールへと入った後、耶七はまずロケットランチャーで攻撃を加えた。
砲身を肩に担いで肩膝をついて射撃体勢を取り、階段へ向けて引鉄を絞る。

(これで1人)

彼は確実にこれで1人殺せたと思った。

「きゃあっ」

発射と同時だっただろうか、後ろを歩いて階段を上っていた麗佳が足を滑らせたのだ。
すぐに足を下の段につけたので挫いたりはしなかったが、前進が止まってしまう。
その時階段の出口で大爆発が起こった。

「くっ!対戦車兵器だとっ?!」

階段から出て通路に向かっていた高山はすぐに前に飛んでうつ伏せに転がった。
麗佳も音を聞いた瞬間に踊り場まで飛び降りて、更に折れ曲がっている下の階への階段に身を隠す。
周囲に撒き散らされた壁の破片と弾の破片と火の粉はかなり多かったが、高山が少し服を焦がしただけで済んだ。
幾つか破片が突き刺さってはいるが、全て防弾チョッキの防弾板で止まっていた。
耶七からは高山しか見えなかったが、彼が平然と立ち上がったのを見て急いで次弾を装填する。
しかし高山に狙いを付けた時には既に彼は通路の中へと走って逃げ去っていた。

「くそっ、何で上手くいかないんだっ!」

耶七としては一番厄介な高山をまず殺しておきたかったが、まあこれで1名殺したのだからと心を落ち着ける。
だが、まだ3階にはあの憎き男が残っていた。
だから彼は此処に襲撃の拠点を作る事にしたのだ。
5階の時の様に丸分かりの場所ではなく、隠れた所から攻撃されて知らない内に死んでいる、そんな様に出来る場所に。
そうして柱の影を出てから拠点を作り始める。
一応彼は階段側を気にしていた。
もしも誰かが出て来たら、即ロケットランチャーかサブマシンガンで攻撃出来る様に気構えていたのだ。
その階段からは麗佳が少しの間だけ様子を覗いていた。
極短い時間で階段ホールの状況を見ただけで、あの7番が彼女達を狙った事を理解したのだ。

(厄介なのが居座ったわね…)

高山はもう通路の先に行ってしまった様だ。
多分先に文香と合流するのを優先したのだろう。
麗佳が同じ立場でもそうしただろうし、彼を責めるつもりは無い。
だが自分はどうするかを考えて、そして結論を出した。
麗佳1人では対抗出来ないなら人を集めれば良い。
幸い3階には外原が居る。
彼ならこの事態も突破する事が出来るかも知れない。
そう考えて彼女は3階へと降りたのだった。



エクストラゲームをコントロールルームとカジノ船に居る者達が驚愕するほどの速さでクリアした手塚は思案していた。
既に彼がエクストラゲームで被った疲れは、充分に休んで取り除いている。
食事も先ほど取ったので万全の体調であった。
得た武器はかなり強力そうではある。
だが彼にはこれらを使う知識が無かった。
だから扱いが簡単そうなサブマシンガンと自動式拳銃などを選択し、その他は階段ホールの脇の部屋に残したのだ。
一応盗られると後々厄介になるので、入り口にはトラップを仕掛けておく。
そうして彼は3階を徘徊し出したのだった。

休みを挟みながら数時間ほど歩いていると人の話し声が聞こえる。
声の質は男女共にある様でどちらも穏やかそうな感じであった。

(またまたカモが来たか?…だが戦績は悪ぃんだよなぁ…)

どうも人間相手には勝率がゼロである。
負けも無いのが救いと言えば救いか。
別に罪悪感とか躊躇いが有るとかでは無いのだが、不振続きだった。
それも今回で終わるだろうと軽く考えて、声のして来る方向へと向かう。
数分歩いた所で手塚は壮年の男性と若い女性を見付けた。
彼等が先ほどからの声の主だろう。

「よう、ご両人!いやぁ良かったよ、中々人に会えなくて困ってたんだ」

いきなり攻撃せずに声を掛けたのはただの余興である。
相手が組し易いと見たからでもあった。
にこやかな笑顔を振り撒きながら寄って来る手塚に、2人は見た目に怯えてしまう。
物騒な武器を持った手塚は彼等にとっては恐怖の対象でしかなかったのだ。

「あ、貴方は?」

震える声で問い掛けた葉月に手塚は今気付いたかの様に答える。

「俺は手塚。手塚義光だ」

笑みを絶やさない彼に、少しだけ気を緩めて葉月がしっかりと声を出す。
それでもまだ小さく震えていたのだが。

「僕は、葉月克己です。彼女は生駒愛美さん。僕達は争わずに首輪を外したいだけなんだが…」

まだ恐怖が抜け切らない葉月の影に隠れて愛美は手塚とは目を合わさなかった。
彼女には彼はその格好だけで危険な人物に思えたのだ。

「それでお二人さん、解除条件の方は順調かい?何時までもこんな辛気臭いのつけてらんないよなぁ」

「あ、ああ、そう、だね」

軽い調子で言った手塚の言葉に葉月が動揺する。

(こりゃあ、ひょっとするとこいつもか?)

外原、御剣、そして自分も、他者の死亡が条件と言う代物である。
他がそうでない理由も無い。
逆に彼が知っている解除条件は全て人の死が係わっていたのも、彼の思考を固めさせる原因と成っていた。

「でよぉ、俺はルール9が知りてぇんだが、お前等のに載ってっか?」

相手が全く害の無い者だと判った時、手塚はずっと疑問であったものの1つを思い出したのだ。
このルール9が判らないままなのも彼にとっては心配の種であったのだから。
PDAを出しながら聞いて来る手塚に2人もPDAを出して顔を見合わせた。
彼等はPDAの操作方法が殆ど判っていないので、彼に問われてもどうにも出来ないのだ。
地図も見れない彼等はその為にこの3階を10時間近く彷徨っていたのだった。
途中睡眠を取ったとは言え、これは普通に異常な徘徊時間である。
それを聞いた手塚は呆れ返っていた。

(こいつ等、マジの馬鹿か?何でこんな奴等が連れて来られて居るんだ?
 殺し合いが目的じゃないのか?)

疑問が次々と出て来る。
優希や姫萩くらいなら、御剣の様なお人好しの足枷にするとか、見せしめに数人殺すのに丁度良いとかあるだろう。
だがこれで足手纏いになりそうな人物は渚を含めて5名だ。
13名中の約半分がこれでは興も殺がれてしまうだろう。
手塚はまた犯人の意図が判らなく成って来ていた。
だが今はカモが来たのだと割り切って、彼等に数歩近付く。
葉月達はPDAを見て困惑しており彼の動きを注意していなかった。

(まず男の首に嵌める。女はどうとでもなるさ。トロそうだしな)

彼の右手にあるPDAをゆっくりと葉月の首のコネクタへと近付け様と手を伸ばしたその時、銃撃音が鳴り響く。
その突然の銃撃は手塚の後ろの壁に幾つもの銃痕を作った。

「うわぁっ」

「きゃあぁぁ」

葉月と愛美は突然の出来事に悲鳴を上げて竦み上がる事しか出来ない。
しかし手塚はそれに反応し、素早く左手に拳銃を握って発砲音のした方へと3回引鉄を引いた。
それからすぐに走って、近くにあった分かれ道へと走り込む。
その更に向こうの曲がり角には半身を隠しながらサブマシンガンを撃つ、金髪をツインテールにした女が居た。

(女、だと?)

それも細い手足の女が自分に向けてサブマシンガンを撃って来たのだ。
脅威とも言えるその敵の登場に彼は口の端が吊り上るのを止められなかった。

「クックック、やっとらしくなって来たぜぇっ」

彼の闘争本能が適度に刺激されて来たのだった。

逆に麗佳にとってはこの場面は冷や汗ものであった。
もう少し遅ければあのチンピラに壮年の男の首輪が作動されていたかも知れないのだ。
彼女自身にとってはPDAさえ壊れなければどうでも良い事ではある。
だがそれを良しとしない人間を彼女は知ってしまっていた。
この状況から先を読めば、あのチンピラが諦めないのは明確だろう。
首輪を作動させようとしていたと言う事は、チンピラは10番で間違いない。
しかし首輪の作動は殺した後でも出来る事だった。
そこまで考えた麗佳は荷物の横に吊るしていたガスマスクを装着する。
身体に吊るしていた煙幕手榴弾を1つ外してピンを抜いて、そして竦み上がっている2人との間にある三叉路へと転がした。

(なっ!手榴弾だとっ!)

手塚にはこれが煙幕だとは判らないので、定番の破片手榴弾だと思ったのだ。
そんなものを此処で使ったら手塚も葉月達も怪我をしかねない。

(あの女はおっさん達の仲間じゃないのか?)

最初に思っていた仲間の横槍と言う訳では無さそうだ。
1秒もかからず此処まで考えた手塚は大声で叫ぶ。

「葉月さんっ!早く逃げるんだっ!死んじまうぞーっ!」

彼が後退しながら叫んだ時、白煙が交差点に撒き散らされる。
しかし葉月達は手塚の声にすぐに後ろを向いて逃げ出した所為で、破裂音は聞いてもその白煙を見る事は無かった。
手塚が彼等を逃げる様に言ったのは、この状況が自分に有利だと思っていたからだ。
後で彼等と再度出会った時に、楽に首輪を作動させる事が出来れば儲けものなのだから。
麗佳は隠れていた曲がり角を飛び出して白煙に入ってから、交差点の折れ曲がった方へと銃口を向ける。
躊躇わずにその引鉄を引いた。
煙の所為で手塚に命中したかは判らないが、これだけやれば少しくらいは怪我をしているだろうと思ったのだ。
だが手塚は無傷であった。
彼は投げられたものが煙幕であった事を悟った瞬間に、既に逃げ出していたのだ。
そうだとしても、次の曲がり角までに数発危ないものを貰ってはいた。

(あの女、全く容赦無ぇなっ!)

ゾクゾクとして来た気分を何とか落ち着かせる。
今此処で正面からやりあったとしても痛み分けに終わりそうだった。
どちらも素人である。
だからこそ、片方の圧勝など望めない状況でもあったのだった。



葉月達はいきなり襲い掛かって来た女性に恐怖を感じていた。
彼等にとっては初めて攻撃をして来た、目に見える「敵」である。

「はぁ、はぁ、愛美さん、大丈夫かね?」

先ほどまで走って息か切れかけている葉月が、手を引いて走っていた女性へと問い掛ける。
しかしその彼女は答えを返せる状態では無かった。
恐怖と疲労で今も座り込んで肩で息をしている状態である。

(参ったな、僕じゃ彼女を守りきれるかどうか…)

情けない事ではあるが、葉月は自分が荒事に向いていない事を自覚していた。
どうにかしないといけないと言うのは判るのだが、解決策も思い浮かばない。
暫く休んでいると、微かな物音が廊下の向こうより聞こえて来る。
彼等が逃げて来た方向からだったので、襲撃者か手塚だと思い身を強張らせた。

「い、愛美さん。逃げる用意をしてくれ」

座り込んでいる愛美に声を掛けるが、彼女からは反応は無い。
その内遠くに見えて来た、ゆっくりと近付いて来る人影はあの金髪の女性であった。

「愛美さんっ!此処に居たら死んでしまう!早く立つんだっ!」

愛美の手を強引に取り、無理矢理引っ張って立ち上げる。
そして彼は走り出した。
足が縺れて倒れそうになる愛美をその都度支えてフラフラに成りながらも逃げ続ける。
だがこんな状態では体力の消耗も激しく長くは逃げられない。
だから葉月はある程度距離を離したかと思った時に近くの部屋へと身を隠した。
入ると扉を閉めてから、2人は共に座り込む。
緊張の連続でもう疲れ切っていたのだ。
少し休んだ葉月は、部屋の中にある真新しいダンボールに気付く。
建物の他のものとは様子の異なるその箱に興味が湧き、それを開けてみた。

「こ、これ、は?銃、なのか?」

ダンボールの中に入っていたのは38口径の回転式拳銃だった。
この3階に幾つも転がっているこの武器をとうとう彼も手にしてしまう。
そして彼は今追い詰められていた。
自分を殺しに来る誰かを退けないと、自分が死んでしまうのだ。
だから葉月はそれを懐にしまう。
自衛の為なんだと心に言い訳をして。



麗佳は手塚を牽制しつつ何度か葉月達に近寄るが、彼等は彼女が近付こうとすると必死に成って逃げていった。
それどころか何時の間にか持っていた拳銃を向けて来る始末である。
最初に手塚を攻撃した時に彼等も自分から攻撃を受けたのだと勘違いしている様だが、それを説明する機会も与えて貰えない。
このままでは手塚との戦闘の時、不意に巻き込んでしまうと思い、少し2人とは距離を取る。
依然手塚は彼等を付け狙っているのか、時折彼女と牽制で撃ち合っていた。
どちらも無傷の不毛な銃撃に彼女も苛立ちを増させる。
だが手塚の方が弾をばら撒いている量が圧倒的に多いので、先に弾切れに成るのは彼であろう。
その麗佳の読みは当たっていた。

(ちっ、重いからって持って来る量を減らすんじゃ無かったぜ)

手塚は内心で愚痴っていた。
此処から彼が物資を置いた部屋に戻っていては、彼等の位置を見失ってしまう可能性が高い。
そうは言っても既に予備の弾倉は無く、今入っている分だけで麗佳と戦わなくては成らないのはきつかった。
女は賢かったのだ。
手塚の行動を読み、無駄な弾は撃たずに出来るだけ安全を確保しつつも葉月達には近付けない様にする。
自分の弱さと出来る事をきちんと判って、組み立てる事の出来る厄介な敵。
流石にこれでは彼の湧き上がっていた闘争本能は不完全燃焼だった。

(くそっ、また成果無しかよっ…)

内心嫌気が差していた手塚だが、これ以上時間と弾を無駄にするのも馬鹿馬鹿しかったので、撤退する事を決める。
その撤退している途中で手塚の耳に話し声が聞こえて来た。
一瞬葉月達かと思い口を笑みで歪めるが、話し声を聞いていると男の方はもっと若い声の様である。

(この、声…何処かで聞いた様な?)

最近聞いた様な声に首を傾げて、彼はH字に成っている通路で待機する。
そして向こうの通路を男女2人が通過した時彼は吃驚した。

(何であいつが、他人と、それも首輪が外れたガキと一緒にいるんだ?!
 3名の殺害じゃないのかっ!?)

驚くが、このまま見逃すと話す機会も失いそうだったので、彼に声を掛けてみた。

「いよう、外原。元気そうだな?」

その声に少女の方が手に持った小銃を向けて来たので、慌てて曲がり角へと隠れる。

「待てかりんっ!」

青年の声がした。
外原はかりんを通路を通り過ぎさせて手塚から隠したのだ。
手塚が曲がり角から覗いて見ると、少女は視界から居なく成っており銃口を下げた外原が残っていた。

「手塚、まだやり合うのか?」

外原が聞いて来たので、再度ゆっくりと半分だけ姿を現した手塚はそれに答えた。

「言っただろぉ?殺そうって奴は止められないって」

ニヤけた笑いで返すが、手塚の疑問は1つ増えていた。
外原に聞きたい事は山ほどある。
「ゲーム」については勿論、今の状況や各プレイヤーについても、後はルール9も有れば良い。
だが何よりもまず、外原が持っている手塚以上の武装が気に成った。
それだけの武装を手に入れるとは、自分以上の難易度のエクストラゲームをしたのだろうかと、手塚は思ったのだ。

「お前、凄い武装してやがるが、そっちもエクストラゲームがあったのか?」

手塚の問いに外原は横に隠れている少女に目を向けて何かを確認している様だ。
現状エクストラゲームが発動したのは御剣と手塚の2回だけなので、当然ながらかりんも外原も知らなかった。
そんな時、外原は何かに気付いたのか、手塚に向かって驚きの声を上げる。

「手塚、お前っ!」

(何かに感付いたのか?!)

手塚は彼が良からぬ事に気付いたのではないかと危惧したのだ。

「違ったか。余計な情報、与えちまったようだなぁ!」

後ろ手に隠し持っていたうサブマシンガンを構えて、手塚はその引鉄を引き絞る。
外原も彼が構えた時には下げていた銃口を跳ね上げて手塚を狙うと、一回だけ引鉄を引いてからかりんの隠れた通路へと飛び込んだ。

「ちっ。いーい反応じゃねぇかっ」

「手塚!止めろ!こっちにお前と争うつもりは無い!」

「巫山戯ろっ!こっちはツインテールのお嬢ちゃんに問答無用でヤられてんだよっ!」

関係は無いのだろうが、不完全燃焼の精神はささくれ立っていけなかった。
しかしこれでは話し合いは無理かと、手塚は残りの弾が少なくなっているサブマシンガンの銃撃を止める。

「クックック、まぁ良い。今は見逃してやるよ。俺も気に成る事があるんでな」

気に成る事と言うのは出来れば外原と話して解決したかったが、これでは見込めそうに無い。
だから手塚は引く事にした。
彼は予測したのだ。
外原や麗佳がその武装を何処で手に入れたのかを。

(1階にゃ何も無ぇ。2階はナイフ。3階は長剣や拳銃。と成れば、後は予測も付くよなぁ)

自分はエクストラゲームで手に入れたが、そんな事をしなくとも4階以上へ上がれば手に入るのだろう。
スミスに乗せられた事に腹は立つが、彼はこの新たな情報を有効活用しようと走りながら考えるのだった。



麗佳が葉月と愛美の2人を連れて4階へ上がったのは経過時間32時間過ぎである。
その階段ホールを慎重に警戒して通るが、以前の様に攻撃も無く通り過ぎる事が出来た。

(彼の言う通り、彼等が交戦して席を外した?それとも手を組んだ?)

麗佳は悩むが答えは出る筈も無い。
後ろの2人を促して彼女はそこを通り抜ける事しか出来ないのだ。
彼女は此処から、高山の拠点を目指す事にした。
外原も最初の分断の時にそう言っていたし、高山ならそこに行くと思ったのだ。

「2人とも辛いと思いますが、頑張って歩いて下さい」

本当は一番辛いのは沢山の武装と荷物を持って歩く麗佳なのだが、彼女は全く顔に出さない。
今自分が弱音を吐いても事態が好転する訳ではない事を良く判っていた。
彼女は余りにも頭が良過ぎたのだ。



階段ホールを離れた麗佳は彼女達が降りて来た時に爆破した階段を目指した。
高山の拠点は正規の階段からも爆破した階段からもほぼ同じ距離に在る。
しかし3階から上がって来た時の次の階段までの距離が爆破したものの方が遥かに近いのだ。
途中何の妨害も無く階段まで辿り着く。
5階に上がり一部バリケードを崩された6階へ上がる階段を警戒するが、此処にも誰も居ない。
あの7番と手塚は何処に行ったのだろかと麗佳は思ったが、当面は大丈夫な様だ。

「痛っ」

「大丈夫かい?愛美さん。ほら、手を貸すから慎重に上がるんだ」

麗佳の後に上がっていた葉月が、未だ瓦礫が散乱する階段を上がろうとしている愛美に手を貸している。
此処までトロ臭いとは思わなかったが、今は葉月がフォローしているから大丈夫だろうと彼等が上り切るのを待っていた。
正直足手纏い以外の何者でもない。
彼の言葉が無ければ麗佳は彼等を見捨てて居ただろう。
メリットなど何一つとして無いのだから当然だ。
この状況でそれを咎める者も居ない。
でもそれは彼を裏切ると言う事である。
だから麗佳は我慢して此処まで来ているが、正直な話見捨てたかった。
彼女も荷物が重いのだから早く休憩出来る所に辿り着きたいのに、何処でも彼処でもモタモタしてくれる。
こうして同行はしているものの、彼女には彼等に対して良い印象は全く無かった。

「お待たせしたね、麗佳さん」

「ええ、では行きましょうか」

葉月の言葉に短い返事をして、麗佳は再び先頭を歩き出した。

5階の拠点までの部屋に倉庫がある様だったので、こちらに立ち寄ってみた。
流石にPDAの地図に倉庫と書くだけあって、物資の入った真新しい木箱を見つける事が出来る。
まだ未開封に見えるその木箱を開けると、中から幾つもの武器が見付かった。
丁度麗佳のサブマシンガンの弾もかなり使っていたので、同型と思われる弾倉を回収しておく。
更にその中には1つの黒い物体があった。

「ツールボックス?!これは…「Tool:Gather/MovingData」?
 何かしら…?」

早速自分のPDAへとインストール始めてみる。
最初の説明に出て来たのは、「館内の動体センサーの情報を収集する」であった。
そのまま「はい」を押して先に進み、インストール完了後にツールボックスを引き抜く。
PDAの画面は地図に切り替わったが、何の変化も無い。
いや時々波紋の様なものが地図上に発生していた。
波紋はこの5階では麗佳達が拠点として使おうとしていた部屋の付近に3つほど発生しているのと、今自分達が居るであろう部屋に出ている。
4階では3階への下り階段付近に2つ発生していた。
3階には通路途中に幾つもの波紋が生じている。

(多分これは5つ?と言う事は、御剣って奴と合流出来たのかしら)

ある意味これは大きい。
彼がPDA検索を持ち続けているのはこういう利点があるからかと、実感してしまうほどの便利さである。
これで高山達が拠点に居ると言う確証も得られた。
それに彼も順調にいっている事も確認出来たのだ。

(早鞍さん、無事ですよね…)

彼の解除条件は他人に誤解を生む困ったものだ。
しかも彼はそれを隠そうとしない。
そんな彼だからこそ、麗佳は彼がどれだけ怪しくても嫌えなかった。
それに比べて、部屋の扉付近で自分達の事すら満足に出来ない者達を見て溜息を吐く。

(もう少し、頑張りますか)

麗佳は全身に力を一度入れて、真っ直ぐに拠点に向かう為に出発するのだった。



文香が縄梯子で4階に上がっても、そこには何の脅威も待ってはいなかった。
こんな罠を仕掛けたのだから、これに続く罠があるかとも思ったのだが本当に何も無い。
おかしいとは思うが彼女がすべき事は、隣にいる少女の保護なのである。
この「ゲーム」の開始直前に彼女に秘密回線で語られた事実は驚愕のものであった。
本来の彼女であれば認められる筈の無い事実。
だから「保護」と言う指令は彼女にとっては、まだ許容出来るものであったのだ。

「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ」

「大丈夫よ。ずっと一緒だったんでしょう?
 だったら優希ちゃんの方が良く判ってるんじゃないの」

「だから心配なんだよぅ」

あの明るく朗らかな優希が口を尖らせて口答えをする。

(あらあら、随分と懐いちゃってるのね)

文香は彼女の様子につい微笑んでしまう。
しかし本当に考えれば考えるほどに疑問が生じて来る。
「3名の殺害」、「PDAの取得」、そして「人物の知識」。
彼に葉月の人柄について語った覚えは無い。
なのに彼は葉月の名前を聞いた後は、何の疑いも無く文香の合流の提案に賛同している。
それどころか葉月の事を「人の良さそうなおじさん」とも言っていた。
考えて見れば文香と会った時もそうである。
戦闘禁止が解除された時間であるにも係わらず、彼は最初から文香に警戒はしていなかったのだ。
だが「組織」の人間にしてはその行動はおかしい。
明らかに「ゲーム」を盛り下げる行為ばかりしている。
かと言って彼女と同じ「エース」かと言えば、そうではないだろう。
彼の様な人間は聞いた事が無いし、もし知らない所属者だったとしてもこの「ゲーム」に参加する時にその旨が伝えられる筈だ。
それに「エース」成らば、此処まであからさまには動かない。

(一体何者なの?全然目的が判らないわ)

自分の目的、「エース」の目的の障害に成るのなら排除しなければ成らないのだが、その判断が付かないのだ。
せめて彼の目的が判れば良いのだが、聞く暇も無い内に別れてしまった。
ちょっとふざけ過ぎたかも知れないと文香は反省をする。

「文香さん?行かないの?」

声に釣られて文香が下を見ると、優希が彼女を見上げていた。

「そうね、色々考えても仕方が無い、か。じゃあ優希ちゃん、高山さんと合流しましょうか」

「うんっ、お兄ちゃんとも合流しようっ」

満面の笑みで文香とは違う事を言い出す優希に、文香は曖昧に微笑んだ。

もう2時間は歩いているのだが、中々3階への階段に辿り着けなかった。
一部の隔壁が降りている様で、地図とは違って行き止まりに成っている所があったのだ。
ただでさえ地図上でもかなり遠くに設定されていた場所は、更に遠くに成っている。
それでも根気良く徘徊していたら、5階へと上がる階段の近くで高山と偶然に出会えたのだった。

「高山さんっ、良かった。もう会えないかと思ったわ」

文香は笑って言うが、内心はその可能性も考えていた。
寧ろその可能性の方が大きかったのだ。

「…今はまず安全を確保しよう。付いて来い」

そう言って高山は階段へと向かう。

「ちょっと、高山さん?」

無愛想な高山に文香は頭を指で押さえた。
これからこの男と付き合っていかなくては成らないのだ。
気落ちしながらも優希を促して高山について行くのだった。

拠点には約2時間後に到着した。
部屋の前に鎮座する重機関銃とその周囲に転がる小銃の山に、文香は喉を鳴らす。
既に此処まで用意している事に恐怖を覚えたのだ。

(もしかして、彼は常連者?)

嫌な予感が過ぎるが、直接聞く訳にもいかない。
高山は文香の疑念など気にする事も無く、周囲のチェックと罠や物資などの確認をしていた。
もし万が一だが、此処に他の誰かが来て何かを仕掛けられた事を想定したのだ。
だから高山は念入りにチェックをして問題が無い事を確認してから、部屋に入る。
部屋の中でも慎重に行動して、それぞれの荷物をチェックしていく。
それは文香が見ても異常なほどの行為である。
だが高山は何故か油断はしては成らないとばかりに行動を続け、全てのチェックを終えてから彼女達を部屋に招いた。

「仕掛けは無い。今は大丈夫だ」

「そ、そう?お疲れ様。それじゃ、お邪魔するわね」

「高山さん、お疲れ様ですっ!」

文香に続いて優希も入って来る。
高山は周囲の彼が集めたのであろう荷物を漁っている様だ。
周辺には物騒な武器などが雑多に置かれている。
文香が見渡しただけでも、実用主義と言うか生活については全く考えて無さそうな雰囲気が漂っていた。

「今の内に休んでおけ。外原達と合流したらまた忙しくなるぞ」

「はーい!」

高山の言葉に優希がすぐに返事をする。
「外原達と合流」の部分が効いた様だ。
高山としてもまだ早いとは思うが、何時寝られない状態に成るか判らない以上は休める内に休むべきと判断したのだ。
今漁った荷物は元々この部屋にあったもので、その中には毛布が5枚入っていた。

「これを使え。風邪はひくなよ」

「うんっ」

優希に毛布を1枚手渡してから、もう2枚取り出す。
そして文香に近付いた。

「お前も休んでおけ」

言葉と共に高山は1枚毛布を放り投げた。

「どうも有難う」

文香は微笑んで毛布を受け取る。
そして高山は見張りの為に部屋の外に出て行ったのだった。



経過時間39時間半頃。
その風体は明らかに今まで出会った者達とは趣を異ならせていた。
防弾チョッキとアサルトライフル、そしてその他諸々の装備品。
11名のむくつけき男達が統一されたものを着ていたのだ。
ただ1人だけ少し違うものを着ている者が居るが、その装備も基本的には他の者と同じである。
彼等はある特殊な指令を受けてこの建物に現れた。
いや今までも影で色々としていた者達なのだが、それはプレイヤーには直接的には係わらない様にしていたのである。
それが今度の指令はあるプレイヤーを無傷で確保すると言う、「ゲーム」史上でも例を見ないものだったのだ。
それでも彼等は実行しなければ成らない。
上の言う事は絶対であり、逆らう事は許されないのだ。
だがこの任務は困難を極める。
一応「ゲーム」は継続中であるし、この「組織」の直接介入が観客に知られれば「組織」は終わってしまうからだ。
そんな綱渡りな任務を彼等はこなさなくては成らないのであった。

だが彼等の任務はいきなり暗雲を見せる。

「ぎゃああぁぁぁぁぁ」

まず1人、ワイヤートラップにより発動した手榴弾が1人の隊員の左足付近で爆発した。
至急止血を行なうが左足の一部は抉れ、中の肉を見せている。
その彼を乗り越えて進んだ隊員が今度は偽装床の罠を踏んだ。
それにより、床の影に設置していた大小様々な刃物が10本ほど部隊員達に襲い掛かる。

「ぐがっ、ああああぁぁぁ」「がっ」

2名ほど避け切れずに深々と刃を自らの肉体へと食い込ませる。
1人は右目に、1人は右足に突き刺さっていた。

「何だ、何が起こっているっ!」

最後尾に居る部隊長は前で何が起こっているのか判らなかった。
彼等は日頃は詰まらない仕事に従事しているとは言え、正規の訓練を受けた兵隊である。
相手は一般人の素人と聞いていたので、楽な仕事だと思っていたのだ。
部隊長の戸惑いを余所に、任務に忠実な部隊員達は2つのトラップを乗り越えて後1つと言う曲がり角に先頭が到達する。
そこを曲がれば後は一直線でターゲットの居る部屋の扉の前まで行けるのだ。
先頭の部隊員がその角から身体を出した時、轟音がしたかと思ったら彼は右腕を吹き飛ばされていた。

「あ゛あ゛あ゛ぎゃぁぁぁぁ」

右上腕部から噴水の様に血を噴き出しながらのた打ち回る。
彼が幸運だったのは、仰け反って倒れた為に倒れたのが手前側だった事だろうか。
彼が倒れた後も2秒ほど曲がり角の壁へと、破壊的な銃弾と言うか砲弾と言って良い弾丸が雨の様に突き刺さっていたのだから。

「た、隊長!相手は重機関銃を保有していますっ!」

「な、な、何、だとぉ?」

これはコントロールルームから作戦を伝えた担当官のミスである。
高山が重機関銃を持って降りている事は確認出来ている筈なので、当然注意すべき事だったのだ。
これまた急いで手当てを受けている部隊員だが、足を吹き飛ばされた部隊員と共に作戦行動はもう無理だろう。
何名かの隊員が何とか曲がり角から身体を出して進もうとするが、その度に重機関銃が火を噴いて彼等の足を止める。

「何故、あんな兵器を扱えるのだ?」

一応用意はしてあるが、当然素人には扱えない物も6階には置いてある。
それを平然と使いこなしているのが部隊長には不思議だった。

「隊長!バズーカの使用許可を下さい!」

「ば、馬鹿野郎っ!ターゲットは絶対に傷付けるなとの御達しなんだぞっ!」

「ですがこれでは進めませんっ!まずはあの機関銃を排除する必要があります!」

彼の言う事は正論だ。
それに彼等の持つある機械で現在のプレイヤーの位置を見る限り、廊下に出ているのは此処から見える大人の男女だけの様である。

(あの方は部屋の中、ならば多少の被害は問題無いか?)

「よしっ、狙いは機関銃に絞れ。あれなら部屋の入り口からも少し離れているし、被害は少ないだろう」

「了解致しましたっ!」

ビシッと敬礼をして提案をした彼は「M20対戦車ロケット発射器」を持って曲がり角へと向かう。
しかし彼等がそれを決意した時は既に遅かったのだ。
彼が曲がり角に到達する前に、目の前の左の壁、つまりあちらからの直線上の壁にある大きな物体がぶつかり床に転がった。
その物体は明らかにロケット弾だったが、まだ爆発はしていない。
隊員の殆どが「不発弾か?」と思ったが先頭に居た彼だけはその可能性に気付いたのだ。

「ち、遅延信管だっ!皆逃げろーっ!」

叫んだ彼も後ろを向いて一目散に逃げ出そうとした。
その時ロケット弾は爆発して破片を周囲に撒き散らす。

「「「「ぎゃああぁぁぁぁ」」」」

複数名がその破片に巻き込まれて傷を負ったのだった。

周囲には負傷した兵が壁に寄り掛かって座り呻き声を上げている。
彼等は目標への曲がり角から更に1つ下がり、全員の手当てをしていた。
まだ死亡者は居ないが、このままでは死んでしまいそうな者も居る。

「これでは、作戦続行は絶望的か…」

部隊長が苦虫を噛み潰している時、隊員の1人から報告が上がる。

「隊長!プレイヤーが3名ほどこちらへ向かっております!
 このままでは我々と鉢合わせしてしまいますが?」

泣きっ面に蜂とはこの事であった。
これ以上プレイヤーが集まれば、館内のカメラを誤魔化すのも容易では無くなる。
その上多くのプレイヤーに見られれば、その見たプレイヤーは出来るだけ殺さなければ成らないのだ。
彼等の存在を観客に知られる訳にはいかないのだから。

「くそっ。仕方が無い、一旦退くぞ!全員撤退だっ!!」

そうして彼等は高山の拠点付近から、忽然と消えたのだった。



文香は目の前で起きた事が信じられなかった。
今も彼は大きな筒状の物に盾のような防風板が付いたものを肩に担いでいる。
先ほど機関銃座に座ったまま砲弾を放ち、遥か向こうの曲がり角の更に向こうに居る者達を薙ぎ払った様だ。
此処まで彼は全く躊躇いなど無く、流れる様な動作で敵の行動に対処した。
まるで予定調和の如く。

「此処の見張りを頼む。もし奴等が見えたら、これを使え」

高山は文香に床に転がっていたグレネードランチャーを渡す。
射程は短いが、素人でも扱える強力な火器である。
それを文香は無言で受け取った。

(彼は、本当に何者?)

「…聞きたい事があるならさっさと言え。何時までもぐだぐだ悩まれても鬱陶しい」

彼の言葉には容赦が無い。
だから彼女は素直に聞く事が出来た。

「貴方、一体何者なの?」

「ただの傭兵だ。昔、戦場を渡り歩いた」

全く表情を変えずに述べる彼の言葉に文香は驚愕した。
つまり彼は、紛れも無いプロなのである。

「そ、そう、だったの」

多少訓練をしました程度の自分と比べて次元の違う存在にこんな所で出会うとは、文香には予想外だったのだ。
彼女が納得したと感じた高山は、未だ煙の上がる曲がり角へと様子を見る為に歩いて行ったのだった。



麗佳は5階でソフトウェアを見つけた時に、すぐに拠点まで辿り着けると思っていた。
だが普通の足で2時間は掛かる距離を肉体も精神も疲弊した葉月達が耐えられる筈も無く、20分後くらいに休憩を申請される。
此処で潰れられても困るので休憩を了承したら、近くの部屋で休んだ途端に何と寝てしまったのだ。
無理に起こす訳にもいかないので、自分も軽く寝る。
そして起きた時には経過時間37時間を過ぎていたのだ。
もう愛美の制限時間が10時間を切りそうな時まで来ているのに、本人は幸せそうに眠っている。
麗佳は本気で彼女を踏み付けたく成ったのだった。

2人を叩き起こして彼女達がそこに到着した時、その惨状に全員が顔を青褪めさせた。
目的の場所は後1つ曲がり角を曲がるだけなのだが、その手前には血の海が広がっていたのだ。

「これは…。葉月さん、愛美、少し止まって下さい」

2人をその場に止めて彼女はゆっくりと曲がり角へと近付いていく。
周囲を見ると肘まである腕が一本転がっている事からも、此処で誰かが戦闘を行い傷ついた事を示していた。
だが転がっている腕が着ている服は今まで見た事が無いものだ。
また周囲には幾つかのナイフや爆発の跡もある。
そして良く見るとワイヤーが床に張られていた。

(罠、を仕掛けたって事?でもこれじゃ私達が掛かったかも知れないのに…)

彼女が訝しげに見ていると、曲がり角の向こうから人影が出て来た。

「矢幡、か。遅かったな。少し待て、今トラップを教える」

言いながら彼は麗佳の方へと近付いて来る。
多分周囲には彼の仕掛けた罠が張り巡らせてあるのだろう。

「ええ。遅くなったのは、知っていると思うけど7番が邪魔した所為よ」

「7番だったのか」

「確認せずに行ったの?」

「する必要が無かったからな」

確かにまず文香と合流するだけなら、あの敵が誰なのかなど関係無い。
その潔いほどの切り替えの良い判断力に、改めて麗佳は背筋が冷えた。

(本当に私はあの時、生死の選択をしていたのね)

6時間経過時の選択に今更ながら安堵の息が漏れそうに成る。
そして高山と合流出来た麗佳は後ろに待機させていた2人を呼ぶと、高山について拠点にやっと辿り着いたのだった。

重い荷物を一旦下ろして麗佳は一息吐く。

「れーかさん大丈夫?」

その疲れに気付いたのか優希が座り込んだ麗佳へ心配そうに聞いて来る。
彼女は優希の気遣いに少し微笑んで言葉を返した。

「ええ、まだ大丈夫よ。早鞍さんと合流しなければ成らないものね」

「うんっ。お兄ちゃんも一緒が良いよね」

優希は満面の笑みで麗佳の本音に返して来る。
彼女の正直さ、真っ直ぐさは麗佳には羨ましかった。
麗佳は自分には素直さが足りないのだろうかと自問してみるが、自分は自分らしくしているつもりなのでこれで良いのだろう。

(彼も言ってたじゃない。『自分のあり方を変えるのって間違ってる気がする』って。
 私は私で良いのよ。変わらなきゃいけない時は、変わるでしょうし…)

考えながら近くに居る優希の頬を突いて、そのプニプニ感を堪能する。

「やあん、れーかさんくすぐったいよっ」

「フフ、御免ね」

優希が嫌がったので、そこで止めておく。
それでも優希の無邪気さはこの建物では異質であり、だからこそ麗佳は大事にしたかったのだ。
彼女は普通にしているつもりだったが、しかし高山以外の全員が麗佳の事を不思議そうな顔で見ていた。
文香、葉月、愛美にとって麗佳のこの姿は信じ難いものだったのだ。
本当に同一人物かとも思えるこの変わり様に、何と言おうかと迷い声を掛けそびれてしまう。
優希にとっては優しい麗佳は風呂場で知っていたし、高山に至っては自分に不利に成らなければ別にどうでも良かったのだ。
だから今も扉の所からチラチラと通路を警戒していた彼は、現状を確認したかった。

「矢幡、そちらであった事は何だ?その2人が陸島が言っていた2人だろう?外原はどうした?」

「葉月さんと愛美は文香さんの言っていた人達よ。
 早鞍さんは残りの御剣達を迎えに行ったわ。
 あった事の方だけど。
 手塚に襲われたわ。かなりしつこかったけど、多分弾切れで退却したわ。
 それと早鞍さんの読みだけど、手塚と7番が組んだ可能性もあるわ」

麗佳の簡潔かつ判り易い答えに高山は1つ頷きを返した。
だがそれでは留まらずに麗佳の言葉が続く。

「現在2名が4階を移動中、そろそろ5階に到着するわ。
 あと4階の階段にそれ程遠くない場所にそれぞれ2、3名居る様ね。
 どれが早鞍さんかは判らないわ」

「何だと?!」

PDAを見ながら報告された内容に高山達は驚いた。
真っ先に近くに居た優希が質問した。

「わぁっ、何で判るの?」

「動体センサーの情報を収集出来るソフトウェアを、この5階で手に入れたのよ。
 これで早鞍さんになんか負けないんだから」

「あはは、れーかさん、強気ー」

麗佳はこの前向きさを、今もオロオロとどうしようか悩んでいる感じの2人にも見習って欲しいと思った。
足手纏いの彼等については彼女が幾ら考えても詮無き事なので、頭から振り払っておく。
そして新たに追加された、PDAのこの機能は非常に大きいものである。
その時高山が真剣に聞いて来た。

「矢幡…お前はそれをずっと見続けて此処まで来たのか?」

「え?ええ、そうよ。貴方達が動いたら困るもの。バッテリー消費は気にしなくていいわ。
 殆ど消費しないタイプのものらしいから」

「俺達はお前達が来る十数分前まで謎の連中に攻撃を受けていたのだが、それを知らない様だったが?」

「はぁ?そんなの居たら出ているわよ!私は貴方達の反応しか見てな…」

麗佳は高山が無事なのと休憩で忘れていたが、あの血の海を思い出した。
あれは確かに交戦の跡である。
つまりあそこで腕が吹き飛ぶほどの怪我をした者が居たのだ。
だが彼女達はそんな人間には出会わなかった。
途中分岐が有ったとはいえ、そこまでは血の跡があってもおかしくない。
だが麗佳がそれに気付いたのはあの現場に到着してからである。
更に動体センサーには一切掛からない相手。
どう考えてもおかしい事に麗佳は気付いたのだ。

「つまり、もしかしたら私達プレイヤー以外、しかもこの「ゲーム」を仕組んだ奴等が介入しているって事?」

「…なるほど、そういう考えもあったか」

麗佳の答えに高山は納得したと言う様に頷いた。
高山は彼等を新手のプレイヤーだと思っていたのだ。
それは彼が「ゲーム」のルールを信じているからでもある。
だが良く考えて見れば、チラッと見ただけではあるが彼等は首輪をしていなかった。
しかし攻めていた対象を見た訳でも無いのに此処まで予想するとは恐ろしい女である。
高山は外原のあの思考力がある意味怖かったが、考えて見れば彼の行動に逐一突っ込んでいたのは彼女であった。
それだけ彼の行動に疑問を持てたと言う事なのだろう。
あの7番を含めて今まで見たプレイヤーは直情的だったり頼り無かったりでどうも頭脳派が居ないと思っていたが、意外と身近に居たのである。
勿論彼女のこの推理は穴があった。
まだ高山があった事の無い人間は葉月達を除いても4名居る。
彼等がジャマーソフトを使ったならこの状況も有り得たかも知れない。
ジャマーソフトは範囲が狭いので可能性が低くなるが、彼等はそれも知らないのだ。
逆にこれらを知らない事が彼女達を核心に近付けていた。

「それで彼が此処に来るのを待つのかしら?」

文香はそれには反対だったので、まず提案を始める。
彼女としては物資がほぼ無限にある相手に、いずれ弾切れをするこちらが此処に篭るのは無理があると考えていたのだ。
そして弾切れについては彼女よりも高山の方が良く判っていたのである。

「いや、此処はもう放棄した方が良いな。機関銃の残弾もプロを相手にするのならば心許無い。
 このまま出来れば外原と合流したい。
 …陸島、見張りを代わって貰えるか?」

「ええ、良いわよ?」

いきなり見張りの交代を要請された文香は疑問を持つが、そのまま代わった。
部屋の中に入った高山はすぐに荷物の整理を始め出す。

「此処から出るのであれば、この5階に上がって来る反応に向かいませんか?
 多分これが早鞍さんだと思いますし」

「理由は?」

「有りません。強いて言えば、こちらを目指している様な感じがしたからでしょうか」

麗佳の答えに、高山は元々この部屋にあった箱の中身から何かを見つけた事もあり、行動を止めて少しだけ思案する。
そこに優希が声を上げた。

「私も、これが早鞍お兄ちゃんだと思うよっ!」

少女の根拠の無い意見は普通なら無視されるものだっただろう。

「2人とも、根拠の無い意見を出し過ぎだ。
 …だが、それに乗って見たくなる時も、有るな」

珍しく少し微笑んだ高山が、賛同の答えを出す。
その彼の手にはダンボール箱の底に隠されていた、3つのツールボックスが握られていた。



外原と思われる動体反応と合流しようと移動しているのだが、その行き先を度々隔壁が邪魔をする。
既に幾つかの隔壁は爆破して突破したのだが、その数が多い為に爆薬の量が少なく成って来ていた。
だから隔壁を迂回して進もうとしたのだが、何処も彼処も封鎖されて丸っ切り進めなく成っており打つ手が無く成って来たのだ。
唯一の救いは、それでも彼等の目標と成る動体反応は徐々にこちらに近付いてくれている点だろうか。
もう手が無い以上彼等はその動体反応がやって来るのを待つ事にした。

「それじゃ、一旦休憩。食事でもしましょうか?」

文香の言葉に異論を出す者は無く、ゆっくりと食事の準備を始めるのだった。

彼等が到着したのは食事を殆ど終えた頃だった。
真っ赤に染まった右上半身を庇いながらPDAを左手で操っている外原と、その横でサブマシンガンを構えて周囲を警戒するかりん。
動体反応にあった様に2名だけの様だ。
外原の姿を確認した途端に、優希が弾けた様に彼等に向けて走り出した。

「早鞍お兄ちゃんっ!」

彼女は真っ直ぐに外原へに駆け寄りその腹部に体当たりでもする様に抱き付いた。
その行為に外原の顔が引き攣り、その額には脂汗が流れ出る。

「~~~~~~」

「ちょっ、ストップっ!優希っ。今早鞍、拙いんだってっ!」

急いでかりんが優希を外原から引き剥がすが、既に彼の意識は飛び掛けている。
そして彼は声も無く、バタリと床に倒れ込んだのだった。


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