覚悟していた事だが、それはもう目玉が飛び出るほど怒られた。大目玉って奴だ。クロエとマリエルはもちろん、ゲンヤさん、管理局の人、何故かスバルちゃんにギンガまで。そう、ギンガは管理局に無事救助されたそうだ。実際に助け出してくれたのは現役の執務官だそうで、ギンガがそれはもう目をキラキラさせて聞かせてくれた。いや、一時間ほどの説教の後なのでちゃんと聞く気力はなかったのだが。 俺はというと魔力の枯渇と疲労でぶっ倒れただけなので、怪我は特になし。が、後遺症でしばらくの間魔法は厳禁だそうだ。魔力の元となるリンカーコアなる器官が消耗し、もう少しで衰弱死する所だったらしい。まあ、あそこで頑張らなかったらそれこそ圧死する羽目になっていたので仕方ない、と思わず口にしてギンガに頬をブルドックされた。ミッドチルダではブルドックと言わないらしいが。 そして、朗報だがあの死体になっていた少年。無事に蘇生出来たらしい。俺とスバルちゃんが潰れたヒキガエルになる危険性を負ったのも、無意味ではなかったということだ。後日、兄弟だったらしい子供二人と、その親達がお礼を言いに来た。他の助けた子供に関しては、残念ながら孤児になってしまった子もいたらしいので、顔を合わせなかったのだが。「アイリーンが責任感じる事ないのよ?」 とはギンガの言だったが、もしかしたら俺が切り捨てた大人達の中に……と思うとやりきれない。少なくとも、そうだったかもしれない可能性を感じながら助けた子供に会う気は起きなかった。 さて、事件後の変化だが。なんとスバルちゃんが6年に上がるのと同時に普通校から管理局の訓練校に転校した。事件前までは痛いのが大嫌いで臆病な所があるスバルちゃんだったが、事件後はそういった事も含めて覚悟が決まってしまったらしい。決め手は事件そのものより、あの管理局の女性に憧れたというのが最大要因みたいだ。 あの白いバリアジャケットの女性だが、管理局の中でもかなりの有名人。エースオブエースと呼ばれる凄腕の魔導師だったそうだ。本来救助活動をする部署の人間じゃなく、休暇中にたまたまあの空港火災の近くにいて助っ人に入ったらしい。というのをスバルちゃんからキラキラした目で聞かされた。お前もか。ちなみにギンガを助けた人とは別人だそうだ。 俺はというと相変わらずだ。確かにあの事件の中で力不足を感じたが、あんな事件そうやたら滅多に起こる筈がないし、ギンガやスバルちゃんのように管理局で戦闘用の魔法を習うってのもなんか違う気がする。二人が間違っていると言う気はないが、少なくとも俺がその道を選ぶのは間違っていると断言出来た。 なので、普通の学校に通いながら再びソーセキと一緒に魔法を独自開発する日々だ。真っ先に重量軽減の魔法は改善したがな。今度は像どころか天井が落ちてきても大丈夫だぜ(誇張表現有り)。 ほぼギンガと入れ替わりの形で訓練校に入ったスバルちゃんだったが、今は亡きクイントさんから直接魔導師として鍛えられたギンガと違い、かなり苦労しているようだった。幸いそれなりにベルカ式の知識を仕入れた俺はスバルちゃん用に色々魔法の構成を手伝えた。ミッドチルダ式との齟齬が怖くてギンガの時に具体的な手出しが出来なかった悔しさから、多少は手を出し始めたのが役に立ったようだ。ミッドチルダ式と比べて確かに自由性は失われているが、根本的な部分はほぼ同じだ。ミッドチルダ式からかなりの流用が利くのは助かった。 元々俺の組んでいる魔法は誰でも使える便利魔法がコンセプトだ。なので、俺が組む魔法のほとんどは術者自身の才覚をあまり必要としない。それにスバルちゃんの戦闘魔導師としての才能はともかくとして、俺のように一から構成を作る才能はあまりあるとは言えなかったのでこれを使え、あれを使えと具体的に魔法の構成を仕込んでやった。丸暗記なら馬鹿でも努力すれば出来るもんだ。現にスバルちゃんも覚えは悪いが一旦覚えれば、普通に使いこなしてくれるようになった。俺が教え込んだ加重軽減魔法で垂直30mジャンプとか、1トンの瓦礫をぶん投げて目標撃破など愉快な結果を残してくれた。まあ、後者は質量兵器だと訓練校の教官から大目玉食らったみたいだが。 しかし、逆に苦労したのがスバルちゃん特有のスキル。そして、ナカジマ家……というよりクイントさん由来のオリジナル魔法の存在だった。 管理局の分類としてレアスキル(稀少技能)と呼ばれるものがある。個人、あるいは限られた家系・種族にしか使えない魔法のことだが、あの空港火災の事件の時スバルちゃんが見せた物もそれの一種だった。が、あれは厳密に言えば魔法じゃない。あれからスバルちゃん本人ではなく、姉のギンガが教えてくれたのだが、ナカジマ姉妹の身体の半分は機械で出来ていて、その恩恵のような物らしい。素手で石の像をぶち砕いた時点で只者じゃないと思っていたが、一種のブーステッドマン(強化人間)だった訳だ。大概ファンタジーだと思っていたが、今度はSFの世界である。そんな身体になった原因は聞いていない。聞く気もなかったし、ギンガやスバルちゃんの辛そうな表情を見て聞きたいとも思わない。 まあ、そのレアスキルは二人が好きじゃないということで使ってないので別に良い。どうせ魔法じゃないなら俺の専門外だし。 問題はクイントさんのオリジナル魔法と特殊な戦闘体系だった。ローラースケートでジェットダッシュに、拳に装備した回転ナックルで敵を粉砕ってどんなんだ。やっぱりSFの領域だ。いや、この戦闘体系についてはクイントさんが存命だった頃から知ってるけど。 シューティングアーツという名が付いている戦闘体系だが、ギンガとスバルちゃんの魔法はこのシューティングアーツの為に練られているといっても過言じゃない。シューティングアーツ用の魔法構成は、とにかく融通が利かない。ある意味ミッドチルダ式とベルカ式の互換性より互換性がないので、ギンガもスバルちゃんも他の人から魔法を習う時は別の体系の魔法として覚えているのが現状なのだ。 正直な話、ミッドチルダ式とベルカ式を同時に使っているのと何も変わらない。ただ魔法に使っている構成式が、ベルカ式だというだけだ。どうやればこんな他人に分かりにくい構成を作れるんだか。クイントさんは天才だったかもしれないが、プログラマーとしては失格である。プログラムは誰が見ても分かりやすいように書くのが基本だ。まあ、シューティングアーツに関しては他人に真似られないようにと作った結果なのかもしれないが。 なので、ギンガと違い、まだ何者にも染められていなかったスバルちゃんは、俺の独断でミッドチルダ式との混成児に変えてしまった(てへ♪)。いや、すまん。そもそものきっかけは憧れの君(管理局のエースオブエース)がミッドチルダ式だったので、スバルちゃんのやる気が段違いだったのだ。 現在では、立派にシューティングアーツ用ベルカ式で駆け回り、ミッドチルダ式近接用砲撃で相手をぶん殴る異端児が出来上がっている。名目だけは異端児だが、やってることはギンガと何も変わらないので許して欲しい。ギンガは一日両日かかった俺の説明で一応納得してくれている。呆れ顔だったが。 まあ、最近こそ増えてきているが、元々ベルカ式自体あまり数がいないそうなのでミッドチルダ式にしたのは正解だっただろう。ベルカ式は昔ミッドチルダと争っていたベルカという国の魔法で、最近になってから近代ベルカ式と名を変えて生まれた新生児だ。習いやすさ扱いやすさという面では、間違いなくミッドチルダ式に軍配が上がる。 俺個人の意見を言えば、シューティングアーツをスパっと切り捨ててミッドチルダ式一本でやって欲しいところだが、クイントさんの残した遺産な訳であるし、他人が口出しすることじゃないだろう。 さて、話は変わるようで実質変わらないが、スバルちゃんは訓練校でミッドチルダ式を習い、休日家に帰ってきては俺に魔法構成のダメだしを受け、たまにギンガのシューティングアーツスパルタ講座を受けて成長している。 俺は魔導師として構成を作れるだけの素人なので、戦闘に関しては口出ししない。ただ訓練校でスバルちゃんが習ってきた魔法を改善するだけだ。俺オリジナルの魔法も教えてはいるが、それも便利に使える小技程度なので、邪魔にはならないだろう。たぶん。 ある日、俺がシューティングアーツ用の魔法をどうにか常人でも使えるよう手直ししてやろうと四苦八苦していた昼下がりの事だった。スバルちゃんが訓練校の友達を連れて帰ってきたのだが。これがまた、色んな意味で強敵だった。「はぁっ!? なんでこんなに削っちゃうわけっ!? 実戦で動かなくなっちゃったらどうするのよ!」「動かなくなるわけないじゃないですか。これは簡略化してるだけで、むしろ構成の強度的には上がってますよ」「だったらこっちは!? こっちなんて主要機能がなくなっちゃってるじゃない!」「いや、手数で勝負の射撃魔法なのに溜め時間も誘導性もいらないでしょう。主要機能は弾生成と射出機能です」「数打っても、当たらなかったり威力足りなかったりじゃ意味ないでしょ!? 素人はこれだから」「それを数で補う魔法です。それにまだ試してもいない試作で、実際使って直していかなければ意味がありません」「ま、まーまー。ティアもアイリーンちゃんも落ち着いて……」「「落ち着いてる」」 とまあ、色々と魔法に関して詳しくプライドの高い技術者だった訳だ。いや、どちらかというと現場で実際に使う人間か。しかし、実に心地良い罵声……じゃなくて、役に立つ生の意見だ。ギンガもスバルちゃんも「なるほど」とか「さすがアイリーン(ちゃん)」とかイエスマンで実際どこまで有効なのかわかりゃしない。こうやって文句や抗議をビシバシ言ってくれた方が、多少ウザくても役に立つ。特にこういうちゃんと順序立てて考えて、頭の回る持ち主は稀少だ。魔導師というより、前の仕事場でいて欲しかった人材である。 その日の休日は、スバルちゃんのルームメイトであるティアナさんと議論するだけで終わってしまった。「新しく出来たアイスクリーム屋に、食べに行こうって言ってたのに~」とスバルちゃん。悪い、また今度だ。 ティアナさんの話は実に新鮮な物だった。というより、俺の考え方の真逆を行っている。俺の場合、求めた結果をいかに簡単に、いかに確実に出来るように出来るかを考える。が、彼女の場合はいかに構成を敷き詰めて、結果を高く出来るかが重要なのだ。俺は常に7の答えを出し、彼女は5~10の答えを出す。 その結果、どちらも結局構成を考えに考えて、無駄を省いていくのだから可笑しな話だ。まあ、彼女はちょっと求める理想が高すぎて、結局自爆しがちなのが玉に瑕だが。「はぁ…スバルの義理の妹にこんな子がいたなんてね。通りで頭の固いスバルが、あんなすっきりした構成の魔法を使うと思ったら」「いや、義理でも妹でもないですし。幼馴染ですってば。私もスバルちゃんの友達に、こんな頭の回転の速い人がいるなんて思いませんでした」「二人とも……お互いを褒めるフリして、わたしの悪口言ってない? ねぇ?」 結局スバルちゃんだけじゃなく、ティアナさんにも俺の試作魔法を使ってもらうということで合意した。テスターは何人いても多すぎるなんてことはないのだ。 まあ、訓練場の寮に帰る前にちょっとティアナさんの使っている魔法を見せてもらって、その余裕が全くないぎっしり詰まった構成っぷりに再び議論が勃発。泊り込みになったのは笑い話だった。 ギンガにスバルちゃん、そしてティアナさんと最近俺が戦闘用魔法ばっかり弄っている印象に囚われるが、きちんと日常便利魔法の開発はしている。こういった魔法の基盤はミッドチルダにないので中々苦労するが、やはりこちらの方が楽しい。 これまで作った中でのヒットには、ナンバリング魔法がある。これは物に魔力的な目印を付けて、物が部屋のどこにあるか一瞬で判断してくれる魔法だ。デバイスがあるならそれで判断してくれるが、魔力波長は単純なので備え付けの簡易コンピュータでも簡単に判別できる。しかも、本人の魔力パターンを使うので、他人の物とごっちゃにならない機能付きだ。最近じゃこれに改造した浮遊魔法を付加して、選択した物を手に取り寄せるなんて芸当も出来る。便利すぎて頼りまくっていたら、マリエルに使用禁止にされてしまったが。 他にも、ちょっとシューティングアーツ用の回転パンチ魔法(仮名)を改造して、ミキサーやシュレッダー代わりに使ったらギンガに泣かれたり。妹さんはミキサー魔法で作ったバナナジュースを美味しそうに飲んでました。■■後書き■■この作品はこうして淡々と時が過ぎ去って行きます。(ry番外編よりこちらの方がよほど幕間っぽいですね。話が短いのは区切り上の問題。もう少しなんとかしたい物です。ところで、どんどんサブタイ伸びてね?