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No.4894の一覧
[0] 魔法世界転生記(リリカル転生) test run Prolog[走る鳥。](2011/01/31 01:14)
[1] test run 1st「我輩はようじょである。笑えねーよ」[走る鳥。](2010/10/27 00:34)
[2] test run 2nd「泣く子と嘆く母親には勝てない。いや、勝っちゃあかんだろう」[走る鳥。](2010/10/27 00:35)
[3] test run Exception 1「幕間 ~マリエル・コッペルの憂鬱~(アイリーン3才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:36)
[4] test run 3rd「ピッカピカの一年生。ところでこっちって義務教育なんだろうか?」[走る鳥。](2010/10/27 00:40)
[5] test run Exception 2「幕間 ~ノア・レイニー現委員長の憤慨~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:37)
[6] test run 4th「冷たい方程式」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[7] test run Exception 3「幕間 ~高町なのは二等空尉の驚愕~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[8] test run 5th「無知は罪だが、知りすぎるのもあまり良いことじゃない。やはり趣味に篭ってるのが一番だ」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[9] test run 6th「餅は餅屋に。だけど、せんべい屋だって餅を焼けない事はない」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[10] test run 7th「若い頃の苦労は買ってでもしろ。中身大して若くないのに、売りつけられた場合はどうしろと?」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[11] test run Exception 4「幕間 ~とあるプロジェクトリーダーの動揺~(アイリーン7才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[12] test run 8th「光陰矢の如し。忙しいと月日が経つのも早いもんである」[走る鳥。](2010/10/27 00:43)
[13] test run 9th「機動六課(始動前)。本番より準備の方が大変で楽しいのは良くある事だよな」[走る鳥。](2010/10/27 00:44)
[14] test run 10th「善は急げと云うものの、眠気の妖精さんに仕事を任せるとろくな事にならない」[走る鳥。](2010/10/27 00:45)
[15] test run 11th「席暖まるに暇あらず。機動六課の忙しない初日」[走る鳥。](2010/11/06 17:00)
[16] test run Exception 5「幕間 ~エリオ・モンディアル三等陸士の溜息~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2010/11/17 20:48)
[17] test run 12th「住めば都、案ずるより産むが易し。一旦馴染んでしまえばどうにかなる物である」[走る鳥。](2010/12/18 17:28)
[18] test run 13th「ひらめきも執念から生まれる。結局の所、諦めない事が肝心なのだ」[走る鳥。](2010/12/18 18:01)
[19] test run Exception 6「幕間 ~とある狂人の欲望~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2011/01/29 17:44)
[20] test run 14th「注意一秒、怪我一生。しかし、その一秒を何回繰り返せば注意したことになるのだろうか?」[走る鳥。](2012/08/29 03:39)
[21] test run 15th「晴天の霹靂」[走る鳥。](2012/08/30 18:44)
[22] test run 16th「世界はいつだって」[走る鳥。](2012/09/02 21:42)
[23] test run 17th「悪因悪果。悪い行いはいつだって、ブーメランの如く勢いを増して返ってくる」[走る鳥。](2012/09/02 22:48)
[24] test run Exception 7「幕間 ~ティアナ・ランスター二等陸士の慢心~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2012/09/14 02:00)
[25] test run 18th「親の心子知らず。知る為の努力をしなければ、親とて赤の他人である」[走る鳥。](2012/09/27 18:35)
[26] test run 19th「人事を尽くして天命を待つ。人は自分の出来る範囲で最善を尽くしていくしかないのである」[走る鳥。](2012/11/18 06:52)
[27] test run 20th「雨降って地固まる。時には衝突覚悟で突撃することも人生には必要だ」[走る鳥。](2012/11/18 06:54)
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[4894] test run 18th「親の心子知らず。知る為の努力をしなければ、親とて赤の他人である」
Name: 走る鳥。◆c6df9e67 ID:f52c132d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/27 18:35
「それでティアナさんは!? まさか」
「あ、ううん、それは大丈夫だよ。さすがに怪我はしちゃったけど、シャマル先生に見て貰ったら一日で治るぐらい軽症だったみたいだし」
「な、なんだ……」

 いやに臨場感たっぷりのキャロちゃんの話を聞いていた俺は、安堵に胸を撫で下ろした。まさかのティアナさん撃墜。新人達の中で一番頭が回り、腕の立つあのティアナさんがだ。……いや、”まさか”という訳でもないか。ティアナさんの危険性は前々から隊長達との会議で議題に上がっていた。良く言えば自分に厳しく向上心がある、悪く言えば切羽詰って余裕がない。構成の詰め込み具合の件だって、それから派生したものだと言うことぐらいは薄々感付いていた。その内タカマチ隊長が時期を見て自覚させるという予定だったが、結局先に実戦の場で問題が露呈してしまったのだろう。
 しかし、その撃墜となった一因に俺の作った対ガジェット用弾丸が関わっていると聞けば、安堵ばかりもしていられない。以前彼女が使っていた多重弾殻の射撃魔法は難度が高すぎると、俺の提案で実弾を模して作った貫通重視の弾丸に変更されていたのだ。最小限の魔力で、敵に貫通ダメージを与えられる射撃魔法。器物相手の物理ダメージだからこそ通用する弾丸だが、貫通力に特化しすぎて面でのダメージは期待出来ず点で攻撃することになってしまう。複数撃ち込めば充分ガジェットを撃墜出来るという結論に達したからこそ採用になったのだけれど、もしも従来通りの弾丸であったら、近距離の一発でちゃんと相手を沈められた筈だ。胸が苦しい。俺が主義を曲げて攻撃魔法など作らなかったら。もしくは、もっと攻撃魔法の事を考察して、危険性を事前に考えられていたのなら。

「アイリーンちゃん?」
「あ、ううん、何でもない。ちょっと考え事」

 キャロちゃんの心配そうな声色に、我に返る。分かっていたことだ。危険な仕事だということは。例え、後方の仕事でも、それはそのまま前に立つ人間の危険に繋がってしまう。ほんの少し吐き気を覚えたが、飲み込んだ。今更言っても仕方ないことだし、誰の責任と言う訳でもない。あえて言うなら、全員の責任だ。結局、ティアナさんにしても、隊長や俺にしても、見積もりが甘かったのだ。
 呼吸を整えながら、気持ちを落ち着かせる。後悔なんて一銭の役にも立ちはしないのだから、反省して次に繋げるべきだ。的外れな罪悪感などを抱いて、相談している子供の前で取り乱すべきではない。数回の深呼吸で気持ちを切り替えた俺は、改めてキャロちゃんに向き直る。撃墜されたことは不幸な事故で、反省すべき点かもしれないが……。

「だけど、それだったら何が問題だったの? 撃墜は撃墜だし、真面目なティアナさんのことだから落ち込むのは分かる。それでも、助かっただけ運は良かったと思うんだけど」
「……うん。それが、ね」
「キャロ、僕が話すよ」

 それまで仕事の内容からティアナさん撃墜までの様子を淀みなく話していたキャロちゃんが言葉を濁らせ、それに割り込むようにエリオが口を挟んで来た。表情を見れば分かる、只事ではない事が起こってしまったのだと。キャロちゃんは目を伏せてしまい、割り込んだエリオの方だって顔色が良くない。けれど、ここに至って止める選択肢はなく、俺は頷いて先を促した。

「クロスミラージュがぎりぎりの所でティアナさんを庇ったみたいで、全壊一歩手前だったそうです。コアこそ無事だったらしいですけど、フレームは全取替えになるってシャーリーさんが言ってました」
「しばらくは前に使ってた自作デバイスで……ああ、いや、それで戦線から外されたってことか?」
「いえ、クロスミラージュも問題ですけど、一番の問題はティアナさんの方で……」

 数秒の逡巡。エリオは躊躇い、それでもその先の言葉を続けた。甲高い少年の声に、重苦しい響きを乗せて病室に静かに浸透する。


 ――銃が、持てなくなってしまったんです。





 病院での生活は、基本変化が少なくて時間の経つ速度が非常に遅く感じられる。一応、魔法の構築という暇つぶしがある俺ではあるが、そればかりだと息も詰まろうというものだ。普段と変わらないって? それしか出来ないのと、数ある選択肢からそれのみを選択するのでは大きく違う。特にマリエルと(一方的に)気まずくなっているので、仕事に集中し切れないというのもある。だがまあ、やはり懸案事項は先ほどのエリオ達の話であった。

「アイ? どうしたの、さっきから溜息ばかり吐いて。することなくて、退屈?」
「え、ああ、ううん、それもあるけど……」

 エリオ達と入れ違いに戻ってきたマリエルはベッドの隣の椅子に陣取り、夕方になってもまだ帰ろうとはしない。そろそろ面会時間も終わるので、さすがにそれまでには帰るだろうけれど。エリオ達とは廊下ですれ違った際に挨拶したらしく、やけに嬉しそうに「友達がお見舞いに来て良かったね」と微笑んだのが印象に残った。……もしかして、俺に友達がいないとでも心配していたのか? 良く考えれば、ギンガとスバルちゃん、それにティアナさんぐらいしか家に上げた記憶がない。学校の方ではそれなりに友達付き合いもあるのだが、その友人関係を家にまで持ち帰った記憶がない。せいぜい何度か食卓で学校の話を登らせた程度か。そりゃあ、心配の一つもされるだろう。どうにもこうにも、つくづく駄目な子供だ。周りにもっと気を使っていたのなら、もう少しまともな立ち回りが出来ただろうに。

 ティアナさんの戦線離脱と、それに伴ったフォワード部隊の崩壊。新人達のまとめ役であったティアナさんが動けなくなった今、実質全員行動不能に等しい状況になってしまっているらしい。現に隊長達は新人を今動かすつもりはないらしく、その後にあった出動も隊長達だけで新人達は待機で終わってしまっている。全てエリオ達からの伝聞なので詳しい状況まで分からないが、俺でもティアナさんが撃墜された状況で、無理に新人を動かそうとは思わないだろう。投入した所で、撃墜者が増えるだけなのは分かりきっているからだ。それだけ、ティアナさんの存在は大きい。戦力としても、精神的にも。最高戦力でなくとも、彼女がチームの要であったのは間違いない。現に直接話していたエリオ達の動揺も決して小さい物ではなかった。
 撃墜されて戦うこともできなくなってしまったティアナさん本人はどれほどの衝撃を受けているのだろう。彼女とあんなにも仲の良かったスバルちゃんは? エリオ達はティアナさんになんて声を掛ければいいか分からないと言っていたが、俺にだってそんなこと分かる筈がない。わざわざ相談に来た二人に当たり障りのないことを言って、帰すことしか出来ないのが悔しく、腹立たしかった。
 二人が帰ってからも、何度ヤガミ部隊長に連絡を付けて詳しい状況を教えて貰おうと思ったか分からない。しかし、俺が慌てて連絡を取った所で何が出来るって訳ではないし、第一マリエルがいたんじゃ連絡そのものが出来ない。故に、こうしてベッドの上で悶々としているしかなく、感じさせられる無力感といったらなかった。エリオ達に偉そうなことを言っても、肝心な時に役立たずなのだ。

 そういえば、マリエルも管理局に勤めていたんだったな。それもAAランク魔導師。元は地球人という話も聞いたし、どこをどうして管理局で魔導師をすることになったのだろう? ずっと感じていた気まずさに、好奇心が僅かに勝った。何より、今の状況が続くことに耐えられそうもなかった俺はマリエルの顔色を伺いながら、詰まりそうになる喉を叱咤して問い掛けることにした。

「……かーさんは、管理局で働いてたんだよね?」
「そうだけど。……もう十年以上前の話よ。お母さんが働いてたのと、アイちゃんが働くのは別の話ですからねっ。お母さんは許さないんだからっ」
「そ、その話をしたいんじゃなくて……ああ、もうっ、会話したくないならいいよ」
「ぶー、アイちゃんってばずるいんだから。……お母さんがアイと話したくない訳ないでしょ?」
「……ぶーて。かーさん今いくつ?」
「女の子はね、二十になったらもう年を取らなくなるのよ?」
「女の子って年じゃないでしょ!? かーさんが言うと洒落にならないけどっ!」

 改めて見ても、9才になる子供がいるようには見えない。っていうか、結婚している年にすら見えない。ともすれば、スバルちゃんやティアナさんより年下に見える容貌だ。俺がこのまま育ってもマリエル止まりかと思うとちょっと背筋が冷えるが、今はそんなことを話したい訳じゃない。仕方ない、少々事情を話すことにしよう。ティアナさんはマリエルだって知っている。無碍にはしないだろう。

「今の仕事場に、スバルちゃんとティアナさんがいる、ってのは知ってる?」
「ええ、知ってるわよ。ただし、アイにじゃなくて、スバルちゃんとギンガちゃんに聞いたんだけどね。ふーんだ」
「……それは謝るけど。今ちょっとね、ティアナさんが失敗してスランプになってるみたいなんだよ。それでかーさんの局員時代のことを少し聞きたかったの」
「あら、ティアナちゃんが?」

 拗ねて頬を膨らませていた推定三十路越えのマリエルは、俺の話を聞いて目を丸くした。さすがに、撃墜云々は言わない方が良いだろう。俺の職場復帰にさらに反対するようになってしまうかもしれないし。いや、もう大差ないという話もあるが。
 むー、とあざとい仕草で唇に指を当てて考えていたマリエルは、こちらの眼を覗き込んでくる。苦手なのは、この真っ直ぐな視線だ。”俺”のことが、今まで続けてきた”演技”のことが見透かされそうで、どうにも落ち着かない。

「んー、ティアナちゃんも女の子なんだから、武装局員なんて危ない仕事は辞めちゃった方がお母さん良いと思うんだけどなぁ」
「いや……それは私も同意見だけど」
「でしょ? だから、アイも管理局の仕事なんて辞めて」
「私はデスクワークだから。この前のは単なる事故だから」

 最近は万事がこの調子だ。後ろめたい気持ちを差っ引いても、俺のマリエルを苦手に思う気持ちも誰か分かってくれないだろうか。俺が黙っていると、なんだかマリエルは表情を少し変えた気がする。微妙な変化だったので、何がどう変わったのかは分からない。けれども、マリエルは少しの時間を置いてから、思い出話を話し始めてくれた。

「そうねぇ。お母さんが管理局で働き始めたのは、15の頃だったかなぁ。ほら、お母さん、ちゃんと15になってから働いてるでしょ?」
「うん、アピールは良いから続き」
「アイちゃんのいけず。……まあ、私も中学生だったから、ほんとはあんまりアイちゃんの事、うるさく言えないんだけどね」

 反応を表情に出さないよう、苦労した。中学、その制度はミッドチルダにはない。そもそもミッドチルダには義務教育という制度自体がないのだ。読み書きや道徳、その他基礎知識を教えてくれる普通学科や実践的な魔法行使を含めた全般的な教育を行っている魔法学校(聖王教会系列の魔法学院がこれに当たる)や専門の職業訓練を行っている学校(管理局の訓練校はこちら)、それに研究室のような一分野に置けるエキスパートの集まる場所があるのみだ。やろうと思えばいきなり専門学校に通えるし、最悪どこにも通わず保護者に教育されるだけでも問題はない。
 つまり、マリエルのその言葉は間違いなく、地球の学校に通っていたということだ。俺が無言でいても、特にマリエルは反応を返さず、そのまま気分良さそうに語り続けていて。

「お母さんは魔法がない世界で暮らしてたんだけどね。私のお父さん、つまりアイちゃんのお爺さんがミッドチルダの人間だったのよ。まあ、私が大きくなった頃にはもう無くなっちゃってたんだけど、たまたまお父さんの部屋からデバイスを見つけてねー?」
「……えっ、もしかして、成り行きと勢いで魔導師になったってオチ?」
「勢いなんて失礼ねー。何も知らなかったのは事実だけど……セットされてた転移魔法が発動しちゃって、ぽーんっとミッドチルダに放り出されちゃったの。そこで私を保護してくれたのが、なんとクロエさんよ。きゃーっ、運命の出会いね!」
「……あー、ストレージデバイスに緊急用の転移魔法込めていたんだね」
「そういう現実的なツッコミは、め!」

 め!じゃねーよ。年考えろ。……実際いくつなのか知らないけど。
 しかし、それでようやく分かった。地球人の筈のマリエルが何故ミッドチルダの人間と結婚して、さらには地球人にはありえない髪色をしていたのか。地球出身ではあるけれど、ミッドチルダとのハーフだったということだ。となると、アイリーンも地球人のクォーターということになるのか。それが縁で”転生”した……? いやまあ、それでも足りないピースがボロボロあり過ぎるが。大体、俺は本当の意味での転生か怪しいし。

「そ、それで?」
「んー、それでね。お母さんの出身世界が最初分からなかったのよ、地球って言っても保護してくれた管理局の人は誰も知らなかったし。だから、しばらくミッドチルダで保護して貰うことになったんだけど……クロエさんとどーしても一緒にいたくてねー?」
「……傍にいたくて、局員になったと?」
「せぇーかいっ!」

 ぶっ飛んだ出会いだというのは理解したけれど、それ以上にマリエルの頭お花畑っぷりに乾いた笑いしか出て来なかった。いや、恋愛としての流れは分かる。途方にくれていた所を助けてくれた異性がいれば、そりゃあ少しは好意を抱くだろうし。クロエがマリエルの好みに合ったというなら尚更だろう。ただ、それで別の世界の警察機構に中学生で飛び入り参加するのってどうなんだ?
 予想以上のアクティブさにここ9年来の家族の顔を戦々恐々として見る。ほわほわした雰囲気からは想像も出来ない行動力だが、同時にマリエルらしいとも思える。意外にこう見えてマリエルは行動派なのだ。黙って公園に出かけた俺を誘拐だと勘違いして、あてもなく街に飛び出して自分が迷子になる程度には。あの時は夜になっても帰って来ないマリエルに俺の方が青褪めることになった。結局警察(クロエ)に慌てて連絡して、事なきを得たのだが。
 待てよ、15で出会ってそんな行動力で動いたのなら、まさかマリエルまだ二十代なのか? 一年以内にくっ付いて出来ちゃった婚したとすれば、二十半ばということに……。いや、犯罪だろ。中学生に手出すって。ミッドチルダに青少年保護条例があるのかどうか知らんけど。しかし、マリエルの若々しさを見てるともしかしてという気分にもなってくる。

「……それじゃあ、そのままミッドチルダに?」
「あはは、違う違う。私にも育ててくれたお母さんがいたからね。ちゃんと出身世界が分かったら、帰ったよ。クロエさんを連れて」
「ぶっっ!?」
「うふふ。コッペルって元々お母さんの苗字なのよ? ねえ、驚いた? アイ、驚いちゃった?」
「い、入り婿……?」
「あら、アイちゃんってば相変わらず難しい言葉知ってるのねー」

 なんかこう、マリエルへの印象が変わったようなそのまんまなような。それにしてもクロエ……お前、マリエルにお持ち帰りされたのか? 脳裏にごつい体格で髭を生やし、最近さらに渋みを増してきた男の顔が浮かぶ。マリエルとは対象的にクロエは順調に老けていっているので、二人並んでの犯罪臭はどんどん増していっている。クロエの年齢は知らないが、マリエルが二十半ばなら、四十程度だって犯罪では一応ないだろうに。
 ああ、うん。何度と見せられてきたマリエルに正座させられて怒られるクロエの図に酷く納得を覚えてしまった。そういえば、ミッドチルダに正座はない。最初から日本人らしさを隠してなんていなかったということ……で……?

「か、かーさん!」
「どうしたの、そんな慌てて」
「かーさんは地球のどこに住んでたの!? アメリカ!? イギリス!?」
「……本当良く知ってるわね、ってそういえばこの間の出張先地球だったんだっけ? アイちゃんが調べた範囲にあるかは分からないけど、日本の海鳴って場所よ。アイちゃんだって、生まれてすぐはそこに暮らしてたんだから」

 もしかしたら、という考えはあった。同じ地球人だった、生まれた日付と記憶に残った月日にほとんど差がない事から、何らかの繋がりはあるんだろうと思っていた。しかし、ここまで揃えば偶然ではない。必然だ。しかも、海鳴で暮らしていた? 赤ん坊の時に? 生まれた直後のことを思い出そうとしても、記憶は曖昧だ。あの頃は首も座ってなくて自分の見たい方向を見ることさえ出来なかったし、何より突然の状況に混乱し切っていたのだ。地球からミッドチルダに転居したとして気付かなくても無理はない。そして、生まれた時に地球に、海鳴に居たということはつまり……。
 緊張で、喉が渇く。マリエルが買ってきてくれた飲料水を口に含み、乾きを癒すようにゆっくりと飲み込んで。

「それで……かーさんが私を妊娠した時、何か、なかった?」

 分かる、かもしれない。どうして”俺”がアイリーンとして生まれてきたか、その原因がようやく分かるかもしれないのだ。……唇を震わせながら、言葉を紡ぐ。どもったりしないように、一言一言噛み絞めながら、慎重に。マリエルに感付かれないないよう、シーツの下で拳を握り絞めて。
 マリエルはその質問に、再び唇に指を当て、天井を見ながら思考に耽って……

「んー……別に?」

 こてん、と首を傾げた。





 「妊娠中に、誘拐されたとかは!?」「えー、そんなドラマチックなことがあったらアイちゃんに自慢してるわよー?」「だったら、クロエが実は秘密組織の一員!」「もうっ、クロエじゃなくてお父さんでしょ? でも、管理局も地球人から見れば秘密組織?」「そ、それじゃあっ、妊娠する直前とーさんじゃなくて別の人と付き合ってたとかは……!」「アーイー?」

 最後の質問が原因で、しこたま小突かれた。当たり前である。
 しかし、やはり”原因”となるような物にマリエルは心当たりがないらしく、クロエとの甘い思い出を語るのみであった。正直、胸焼け気味だ。繋がりが見えたと思ったのに、どうしても主因が見つからない。マリエルの話がこちらの想像以上に確信に迫っていただけに、どうしようもなく歯痒かった。ただ、久しぶりにたっぷり俺と会話出来たのが相当嬉しかったらしく、結局面会時間に帰らずに医者から病室に泊まる許可まで貰ってきてしまった。薮蛇、と言うのはさすがに酷いか。俺の方も久しぶりに真正面からマリエルと話したおかげで、恐怖心は大分薄れている。一緒にいるのも悪くないと思えたのだ。

「それじゃあ、かーさん陸所属の武装局員だったの?」
「地上本部所属ではあったけどねー。武装局員っていうより、ミッドチルダ市内でのお巡りさんって感じかな? クロエさんもミッドチルダ市街の警備隊の隊員さんだったからね。うーん、あの頃は楽しかったわぁ」
「へ、へぇ……」
「といっても、私が局員だったのは一年もなかったのよ? 嘱託で正式に所属した訳でもないし。でも、勧誘は凄かったのよー。所属してる時も、クロエさんと結婚して辞める事が決まってからも。クロエさんより良いお給料払うからって、お偉いさんがうちに来たりしてね」
「……そ、そうなんだ」

 ベッドに寝転がってシーツを掛けて貰い、そのすぐ横の椅子に座ったマリエルが俺の手を握りながら楽しそうに話しかけてくる。もう消灯しているので、暗闇の中小さな声でだが、手を握っているのでどこにいるかはすぐ分かる。ベッドで一緒に寝ないのかと誘ったんだけど、寝相が悪いので抱き潰さないか心配だから止めるらしい。だったら、帰れば良かったのに。

「まあ、真面目に局員さんやってるティアナちゃんにはちょっとアドバイス出来そうにないかなー。お母さん、アルバイト止まりだもんね」

 そう言ってちょっとすまなそうに、ちょっと可笑しそうに笑う。そういえば、ティアナさんの事を相談しようと思って話し始めたんだった。それがマリエルの話を聞いているうちにすっかり頭から抜けていた。とんだ薄情者だ。
 マリエルのもう片方の手が、私の額に触れた。少しひんやりとした手の冷たさが気持ち良い。ベッドの中でじっとしているのも相まって、寝てしまいそうになる。

「そうねぇ。ティアナちゃんのことはクロエさんか、ゲンヤさんに相談してみたらどうかしら? 年も近いし、直接話すならギンガちゃんでも良いわね」
「ん、ぅ……でも、機動六課内の事だし……」
「スバルちゃんのお友達ですもの。肉親みたいなものよー」
「隣の娘の友達は、さすがに違うんじゃないかな……」
「あら、スバルちゃんは私の娘だもの。ゲンヤさんの奥さんにはなってあげられないけどね」

 そう言って、鈴の音を転がすように笑う。ちょっと抜けていて、料理もヘタクソで、普段は頼りない事この上ないけど。母親なんだなと、そう思った。暗がりだから、マリエルの顔を真っ直ぐ見れる。この人の娘が自分で良いのか自信がない。ずっとずっと騙している自分に、娘になる資格なんてないように思える。
 手に少しだけ力を込めると、同じぐらいの力で握り返してくれた。まだ、気持ちは整理しきれない。まだ、”俺”を諦めることは出来ない。でも、もうちょっとだけ待って欲しい。原因が分かれば、自分が何なのか知れば、きっと覚悟も決められるから。許して貰えないかもしれないけれど、きっと本当のことを言えるだろうから。
 呼吸が少し、早くなる。胸が締め付けられて、心臓の鼓動もきっと早くなっているだろう。俺が誰だったとしても、結局”俺”とアイリーン、どちらを選ぶとしても。俺は話さなければならない。

「かーさん」
「ん? どうしたの?」
「……ごめんね」
「何が? アイは別に謝ることないのよー? お母さんが好きで着いてるんだからね」
「……うん」

 だから、もうちょっとだけ貴女の子供でいさせて欲しい。覚悟が決まる、その日まで。





「おはようございます」
「あ、うん、おはよー……って、ええぇぇ!? アイリーン!?」
「はい、貴方の補佐のアイリーン特務准尉ですよ。私のデスクは片付けていませんよね?」
「そ、そのままだけど……って、どうして? なんで? まだ一週間しか経ってないよ!?」
「長いので短縮しました、自主的に」
「短縮しちゃダメだよ!? 入院は自分の判断で縮めちゃダメなんだよ!?」

 機動六課本部に出社……出社? まあ、とにかく出勤すると、出迎えたのはタカマチ隊長の全身全霊のツッコミであった。最初の挨拶以外全て疑問符と感嘆符入りの発言である。ちょっと見ない間に落ち着きはどこかへやってしまったらしい。タカマチ隊長の髪は跳ねまくって整えられていないし、目の下にも隈が出来てしまっている。
 まあ、予想していたが。タカマチ隊長の執務室は書類の山、山、山。俺のデスクの上は数枚の書類が載っているだけ。肝心のタカマチ隊長の机とその周りにはちょっとしたヒマラヤ山脈が出来上がっていた。俺の机と隣接してるんだから、荷物ぐらい置いたって良いのに。

「ソーセキ、ナンバリング魔法を施すのと、期限の迫っている書類を昇順で入れ替えてくれ。重要性の高い書類は弾いて、別に纏めて……後はうん、誰かが入ってきてばら撒かないように、扉を結界魔法で封鎖」
「【了解しました】」
「封鎖しちゃダメだってば!? ほら、今すぐ病院に帰る! アイリーンのお母さんだって、凄く心配してたんだよ!?」
「いえ、大丈夫です。母も了解済みですから。あ、これ医者の診断書と退院許可証です」
「……へ? あ、うん」

 渡した書類をぽかんとした表情で素直に受け取るタカマチ隊長。ははは、こちとら若いのだ。全治三週間を一週間ぐらいに縮めるなど容易い。いやまあ、全治はしてないのであるが、たまに脇腹に引き攣るような感覚があるだけで痛みは完全に消えている。唯一見た目から分かる怪我も、包帯で首から吊っている右腕ぐらいのものだ。大体、細かい作業はソーセキが補助してくれるし、腕もキータイピングをしないなら関係ない。構成を弄るのは、思念操作でも出来るしな。
 何度も渡された書類とデスクに着いた俺とで視線を行き来させていたタカマチ隊長は、俺が書類を広げたのを見て我に返ったようだ。すぐ横にやってきて、心配そうに覗き込んでくる。

「う、うーん、お医者さんが許可したならいいけど……無理しなくてもいいんだよ? こう言っちゃなんだけど、少しぐらいアイリーンが魔法チェックしてくれなくても大丈夫だし」
「まあ、無理する気はないです。ただ、こう言っちゃなんですけど、私がいなくて大丈夫には見えません。一週間でどれだけ書類溜め込んでるんですか」
「え゛っ、いや、でも……これはね? 申請しなくちゃいけない書類は出してるし、報告書のまとめとかだから……」
「つまり、最低限申請しないと不味い書類しか手を付けられていないってことですね、分かります」
「うぐっ」

 機動六課で俺が処理していたのはタカマチ隊長個人の書類や報告書だけではない。前線部隊が使用した経費の帳簿、六課内で物や人を動かすのに必要になる事務処理用の書類。部隊の行動予定表に、実際動いた後の事後報告詳細。さらに事件をデータベース化する為に作らなければならない電子書類、部隊内での個々の日誌のチェック。庶務、輸送部隊、医療関係、他部署との連携を取る為の連絡書などなど……。
 単純な申請書、報告書の類だけでもこれだけある。さらに下の人間から上がってくる細かい要望の許可申請書や管理局全体で必要となる書類、陸上本部の方に提出しなければならない書類まで含めると、頭の痛くなるような数になってくる。だから、書類仕事を舐めるなと普段から言っているのだ。毎日コツコツ処理していれば大した量じゃなくても、一週間も放置すれば膨大な量になる。しかも、この山の量を見るからにここにあるのはタカマチ隊長の書類だけじゃないだろう。

「レイジングハートにも、処理のテンプレートを伝えておくべきでしたね。すみません」
「【いえ、テンプレートがあってもマスター一人で処理は不可能でした。アイリーン、貴女の復帰を心から歓迎します】」
「レ、レイジングハート! そんなことないよ! アイリーン一人ぐらいの穴なら別に……」
「あ、そういうのは良いので、早く座って書類処理をお願いします。ティアナさんの所に顔出したくて出したくて仕方ないのに書類が山のように溜まって、それなのにガジェットも何時も通り出現して、にっちもさっちも行かなくなっていたんでしょう?」
「どうして知ってるの!?」
「レイジ……推測です」
「今レイジングハートって言おうとしたよね!? えっ、入院中のアイリーンと連絡取ってたの!?」

 いや、レイジングハートとは取ってない。レイジングハート→リイン空曹長→ヤガミ部隊長→俺と経由して情報が流れただけだ。それに六課の惨状はヤガミ部隊長から泣き言と共に詳しく聞いている。一つ訂正しておけば、これは俺一人抜けたせいだけではなく、それを発端として行方知れずの書類が蔓延し、事務屋が書類の流れを追うのに時間を取られて結果各所に負担が増え、処理し切れない書類が一人一人に圧し掛かり、重なるようにティアナさんの事件で新人達が全滅して、さらに副隊長二人がその間の穴埋めに機動六課からいなくなり……まあ、そんなこんなで負担が一気に膨れ上がって、滞ってしまったのがこの惨状である。うん、ぶっちゃけフォワード陣の書類の流れを管理していたくせにフォローも考えてなかった俺と行動不能に陥っているティアナさんのせいだ。ティアナさんの方は、上司や同僚が彼女に掛かる負担をカバーし切れなかった為でもあるので、一概に全部彼女の責任とは言えないが。

「はいはい、そろそろお喋りは止めにして、書類との格闘に移りましょう。ティアナさんの問題は教導官のタカマチ隊長がなんとかしなくちゃいけないんですから、とっとと終わらせますよ」
「う……ぐ、ほ、本当に無理しちゃダメだよ?」
「しません。母とも約束しましたから」
「……良く許してくれたね?」

 もしかしたら、マリエルが上司であるタカマチ隊長に文句の一つも言ったのかもしれない。未だ俺の顔色を伺って聞いてくる隊長に、俺は小さく息を吐いた。うん、大丈夫。落ち着いている。以前のように、仕事は出来そうだ。
 マリエルに関しても、問題ない。今回はだまくらかしたとか、口先で誤魔化してきたとか。ましてや黙って出てきたのでもない。

「ちゃんと話したら分かってくれましたよ」
「……うん、そっか。じゃ、頑張ろうか!」
「はい、まずはそっちの書類の山お願いします。あ、今ソーセキが浮遊魔法で詰んでるその山です。2時間以内にお願いします。今日中に山5つ分は終わらせましょう」
「て、手加減お願い出来ないかな!?」
「すみません、それ来月からなんですよ」

 さあ、頑張ろう。





■■後書き■■
なん……だと……?

朝起きて、まさかの支援絵に吹きました。
これからアイリーンを想像すると真っ先にパンモロ娘になるんですか。
いや、嬉しいですけどね、うん、嬉しいんですけど。エリオもげろ。
あいもっちさん、本当にありがとうございます。
見てみたい方はあいもっちさんの名前でPixiv検索するか、「魔法世界転生記」辺りのタグで検索して見てください。

そして、謎は謎のまま、次回に続きます。
予定されていた状況まで、後2話。


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