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No.4894の一覧
[0] 魔法世界転生記(リリカル転生) test run Prolog[走る鳥。](2011/01/31 01:14)
[1] test run 1st「我輩はようじょである。笑えねーよ」[走る鳥。](2010/10/27 00:34)
[2] test run 2nd「泣く子と嘆く母親には勝てない。いや、勝っちゃあかんだろう」[走る鳥。](2010/10/27 00:35)
[3] test run Exception 1「幕間 ~マリエル・コッペルの憂鬱~(アイリーン3才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:36)
[4] test run 3rd「ピッカピカの一年生。ところでこっちって義務教育なんだろうか?」[走る鳥。](2010/10/27 00:40)
[5] test run Exception 2「幕間 ~ノア・レイニー現委員長の憤慨~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:37)
[6] test run 4th「冷たい方程式」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[7] test run Exception 3「幕間 ~高町なのは二等空尉の驚愕~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[8] test run 5th「無知は罪だが、知りすぎるのもあまり良いことじゃない。やはり趣味に篭ってるのが一番だ」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[9] test run 6th「餅は餅屋に。だけど、せんべい屋だって餅を焼けない事はない」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[10] test run 7th「若い頃の苦労は買ってでもしろ。中身大して若くないのに、売りつけられた場合はどうしろと?」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[11] test run Exception 4「幕間 ~とあるプロジェクトリーダーの動揺~(アイリーン7才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[12] test run 8th「光陰矢の如し。忙しいと月日が経つのも早いもんである」[走る鳥。](2010/10/27 00:43)
[13] test run 9th「機動六課(始動前)。本番より準備の方が大変で楽しいのは良くある事だよな」[走る鳥。](2010/10/27 00:44)
[14] test run 10th「善は急げと云うものの、眠気の妖精さんに仕事を任せるとろくな事にならない」[走る鳥。](2010/10/27 00:45)
[15] test run 11th「席暖まるに暇あらず。機動六課の忙しない初日」[走る鳥。](2010/11/06 17:00)
[16] test run Exception 5「幕間 ~エリオ・モンディアル三等陸士の溜息~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2010/11/17 20:48)
[17] test run 12th「住めば都、案ずるより産むが易し。一旦馴染んでしまえばどうにかなる物である」[走る鳥。](2010/12/18 17:28)
[18] test run 13th「ひらめきも執念から生まれる。結局の所、諦めない事が肝心なのだ」[走る鳥。](2010/12/18 18:01)
[19] test run Exception 6「幕間 ~とある狂人の欲望~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2011/01/29 17:44)
[20] test run 14th「注意一秒、怪我一生。しかし、その一秒を何回繰り返せば注意したことになるのだろうか?」[走る鳥。](2012/08/29 03:39)
[21] test run 15th「晴天の霹靂」[走る鳥。](2012/08/30 18:44)
[22] test run 16th「世界はいつだって」[走る鳥。](2012/09/02 21:42)
[23] test run 17th「悪因悪果。悪い行いはいつだって、ブーメランの如く勢いを増して返ってくる」[走る鳥。](2012/09/02 22:48)
[24] test run Exception 7「幕間 ~ティアナ・ランスター二等陸士の慢心~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2012/09/14 02:00)
[25] test run 18th「親の心子知らず。知る為の努力をしなければ、親とて赤の他人である」[走る鳥。](2012/09/27 18:35)
[26] test run 19th「人事を尽くして天命を待つ。人は自分の出来る範囲で最善を尽くしていくしかないのである」[走る鳥。](2012/11/18 06:52)
[27] test run 20th「雨降って地固まる。時には衝突覚悟で突撃することも人生には必要だ」[走る鳥。](2012/11/18 06:54)
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[4894] test run Exception 7「幕間 ~ティアナ・ランスター二等陸士の慢心~(アイリーン9才)」
Name: 走る鳥。◆c6df9e67 ID:f52c132d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/14 02:00
 私には兄がいた。両親を物心付く前になくした私にとっては兄であり父親であり、唯一の家族であった。10才以上離れていたとはいえ、まだ若年の兄に子供一人を育てていくのは大変な苦労だっただろう。管理局に勤め、優れた執務官だった兄は仕事でいつも忙しそうで、それでも仕事から帰ってきた後や休日にはずっと構って貰っていた。誇れる物の少ない私には勿体無いぐらいの自慢の兄だ。そう、その兄が亡くなった今でさえ、私は兄を誇りに思っている。

 きっかけは……兄が語る武勇伝を聞いて無邪気に憧れた頃だろうか。もしくは兄の葬式で、愚かな管理局のお偉いさんが犯人を取り逃して殉職した兄を馬鹿にした時だろうか。どちらにしても、兄の歩いていた道を自分こそが歩くのだと、私は当然のように心に決めていた。
 幸い、両親と兄の残した蓄えは大人になるまで暮らしていくのに十分な金額で。保護者に関しても、管理局の訓練校に入って独り立ちしてまえば必要ない。兄の真似をして標準の杖型デバイスではなく、二丁の銃型デバイスを手に取った。兄が亡くなった時、10才の子供だった私は兄に魔法を習ったことなんてない。すべては見様見真似だ。必死に兄の現役時代のデータを集めて、昔聞いた武勇伝を思い出して、足りない所は教本と想像で補う。それはきっと、兄さんの三割も再現出来ていないだろう。不恰好で、泥臭く、力の足りないごっこ遊び。空戦には適性がなく、兄と同じ士官学校に入ることさえ出来なかった。それでも、私は執務官を目指している。兄さんが歩む筈だったその道の先を見たかったのかも知れない。

 実際魔導師として道を歩き始めてからは挫折と後悔の繰り返しだ。才能がない、技術がない、知識もなければ、経験も足りない。全てがないない尽くし。人の三倍は努力した自負はある。それでも、足りない、届かない。私よりも才能のある人間は数多く、そんな人間が皆一様に訓練を重ねていた。私のように出来の悪い模倣ではない、”本物”達。寝る間も惜しんだ努力の結果、訓練校の中で成績上位にはなった。しかし、限界はそこまでだ。凡人が努力しても、努力する天才は越えられない。どんなに頑張っても、凡人には秀才が限度だ。真面目な一局員を目指すなら、それでも良かったかもしれない。だけど、執務官は選ばれたエリートだ。天才と熟練者達が狭い門の前でひしめいている。士官学校の入学試験にすら受からなかった私では、その中に割って入る自信は正直ない。でも、やらなければならなかった。
 我ながらいっぱいいっぱいのそんな生活で、ここまで心が折れなかったのは呑気な相方のおかげだろう。名前はスバル・ナカジマ。脳みそお花畑で頭は決して悪くない筈なのに、身体の方が先に動く体育会系。そして、才能に満ちた天才。詰め込んでやれば、どんな技術も知識も吸収して、戦闘力も同世代でピカ一。そう、凡人の私は数え切れないぐらい嫉妬した。
 私が一ヶ月みっちり練習して出来たことを、教えて三日で使いこなす才能と脳天気に喜ぶその様は、ちょっとぐらい後ろ頭撃ち抜いても許されるんじゃないかと思ったぐらいだ。それでも、相性は良かった。戦闘の相方としても、私生活の友達としても、悪い奴ではない。胸を揉む悪癖だけは勘弁して欲しかったけれど。

 でも、本当の”天才”って奴がいるんだ、そう思い知らされたのはスバルの妹分の彼女に会った、その時だった。



「貴女がティアナさんですか。スバルちゃんに話は聞いてます、優秀な魔法使いだそうですね。良ければ魔法、見せて下さい」

 魔法使い、そんなメルヘンな呼び方されたのは初めてだった。第一声が「初めまして」でも「こんにちは」でもなく、まず魔法を見せてくれ。何この変な子、と思ったのを覚えている。年齢は6歳。私が執務官になろうと決心した年齢よりも、ずっとずっと幼い。だというのに、私が渋々見せてやった魔法をいきなり”分解”して、検分し始めた。まるで機械でもこじ開けるかのように、他人の魔法陣をバラし始めた時には目を剥いたものだ。普通、他人の魔法陣に干渉なんて出来ない。例えそうした技術を持っていても、彼女みたいに鼻歌混じりで軽々とやって退けることが出来るだろうか。
 レアスキル、最初はそう思った。凡人と天才を隔てる、誰にも真似できない強力無比な希少技能。生まれ持った才能。しかし、答えは否だ。どこの誰が「便利そう」だからで、他人の魔法陣に干渉する魔法を開発したと思うのだ。正確には制御を手放した魔法陣の制御を受け取って解析するだけの何でもない魔法なのだそうだが、いやいやそれだってどんな無茶苦茶だ。他人が使っていた魔法をそのまま継続して受け持てるということだ、走っていた他人の自転車をそのまま横から乗り移って走り続けるような曲芸だ。ありえない。

「……そうですか? じゃあ使ってみてください」

 そう言って私のデバイスに移された魔法は、すぐそのまま使えてしまった。ありえない難易度、簡単すぎる。ボタン一つ押すだけで出来てしまうような、易しい魔法。使ってみて分かった。他人の魔法を奪ったり、使用したりする為の魔法じゃない、これはこの子が他人の魔法を閲覧したいが為だけに作られた魔法だ。魔法陣の形成維持しか出来やしない。
 私はすぐさま、これをもっと改良することが出来るんじゃないかと彼女に詰め寄った。レアスキルの如く奇跡の魔法。それを自分が使えるかもしれない、そんな期待に胸を高鳴らせて、相手が子供であるということも忘れて、主張した。でも、彼女は難しい顔をして唸る。

「他人の魔法の制御を奪うって、難しいだけであんまり意味を感じないんですよね。知ってます? 魔法の構成って、多かれ少なかれ術者に合わせて調整されてるんです。それを無理に奪おうとすると、クソ重く……あ、いや、魔法の制御が凄く難しくなっちゃいます。あれですね、超々高性能なインテリジェントデバイスを専用に製造して、それでやっと魔法陣の制御の一部を奪い取れるかってぐらいですね、たぶん。暴発したり逆流したりは十分ありえますから、掛かるコストや難易度に比べて割に合わないです」

 それってつまり私には不可能ってこと? 苦虫を噛み潰したように大人気なく問い返した記憶がある。あの時の私の顔はさぞ醜かったことだろう。希望を潰されて、結局凡人にはどうにもならない証拠のように感じられたからだ。おまけに「効率が悪いだけで出来ないことはない」と彼女は主張しているようで、嫉妬に腹が煮えくり返りそうになった。
 だけど、彼女はそんな私の内心なんて知るよしもなく、トレードマークの淡い水色の髪を揺らしながら指を立てる。

「まあ、わざわざ難度の高い他人の魔法を奪うより、そもそも誰でも使えるようぐらいに易しく改良しちゃった方が簡単で現実的ですね。ミッドチルダ式の魔法全般、無駄に小難しく作られてますから。説明書と仕様書とプログラムは小学生が見ても分かるぐらい簡潔にが基本なのに、どうかしてます」

 どうかしてるのはそのアンタの発想だと思う。これは現在でも、彼女に対する正直な感想だ。言っている間にも、元私の魔法陣をちょいちょいと弄っている彼女の指先は迷い無く動いていた。まさか許可無しに攻撃魔法など使う訳にはいかなかったので、最近練習していたサーチスフィアを見せたのだが。魔法陣の中身が、凄まじい速度で組み替わり、変貌していく。それこそ、魔法のような光景だった。

「はい、こっちも試してみてください」

 魔法陣は一度消され。改良された魔法のデータがデバイスに送られてくる。呆然と見ていた私は言われるままにその魔法を使用して、開いた口が閉まらなくなった。あれだけ散々練習して1つが精一杯だった探知用のスフィアが、3つ。しかも、本来大雑把に遠くの物を見る為だけだった魔法が、私の脳裏に三つの知覚を同時に増やしていた。

「せっかくですから、私の作ってみた機能を追加してみました。目、回りません? 頭の中でちゃんと映ってます? 動くのに邪魔になりそうとか、耳鳴りがするとか、不具合があったら教えて欲しいです」

 不具合? ある筈がない。こんな高性能なサーチスフィアを三つも出現させているのに、操作があまりにも簡単過ぎる。私の意思通りに、スフィアが部屋の中を旋回する。真後ろで放置されて拗ねているスバルの顔が確かに見えた。小さく唸って恨めしそうにしている声まで聞いて取れる。
 天才、だ。この子は間違いなく、歴史に名を残す。そんじょそこらの天才ではない、数百年に一人、そんなレベルの大天才だ。嫉妬よりも何よりも、恐ろしさに私は身を震わせた。変えてしまう、この子は世界の基準を変えてしまう。こんな魔法が出回ったらどうなる? 凡人の私が使ってすらこれだ。デバイスのスペックにも頼らず、魔法そのものを改良してここまで効果が出るなんて聞いたことがない。
 と、突如、スフィアの制御が切れる。いきなり感覚が変わったので、眩暈を覚えた私はよろめいて床に手を付いた。あ、と彼女が口を開けて驚き、そして顎に手をやって思案する仕草を見せる。

「うーん……失敗作か。やっぱ無駄機能はいらんね」
「アンタ人で人体実験しやがったわねっ!? さっきから妙な質問が多いと思ったら!」

 まあ、つまり。天才となんとかは紙一重という格言は、きっちり彼女、アイリーンにも当て嵌っていた訳で。あの頃からだ、天才ってなんだろうって考え始めたのは。私が凡人だっていう、才能が劣っている事実は変わらない。だけど、その天才アイリーンに世話になるようになり、今までが馬鹿馬鹿しくなるぐらいに魔法がぐんぐん上達して。私の努力って何なんだろう、そんなことまで悩むようになって。





『はぁ……はぁぁ……はぁぁぁぁ』
『うるさい! わざわざ念話で大げさな溜息吐くんじゃないわよ、鬱陶しい。スバル、仕事に集中しなさい』
『だって、アイリーンちゃんが気になって……あんな大怪我して、入院してるんだよ? 私達の知らない所で、何やってたんだろう。もしかして、悩み事でもあったのかな』
『知らないわよ。そんなのあの子が退院してから聞けばいいじゃない』

 自分が過去の思い出に耽っていたのは棚に置いといて、別の場所で配置に付いているウザい相方に活を入れる。先日、管理外世界への出張任務にアイリーンが着いてきた際、彼女は大怪我を負った。それも、任務とはまったく関係のない所で、散歩をしていて足を滑らせたという間抜けっぷりだ。行きのヘリで既に様子がおかしかったので、注意散漫で事故を起こしてしまったのだろうというのが六課の共通見解だ。
 詳しい事情を聞こうにも、お見舞いは彼女の体調がしっかり戻ってからと八神はやて部隊長から直々に釘を刺されてしまったので、誰もアイリーンの様子を見に行けてはいない。大体、私達は訓練で忙しいし、こうして仕事だってある。どちらにしても行く暇はないのだが、スバルやエリオ・キャロの年下コンビ。ついでになのは隊長まで仕事をすっぽかして行こうとする始末だ。お人好しと心配性ばかりが集まった部隊なので、八神部隊長がわざわざ釘を刺すのも仕方ないかもしれない。
 まあ、禁止されていなかったら、私自身も訓練が終わってから見舞いの一つも行ったかもしれないけれど。

『ティア、冷たい……ティアだって、アイリーンちゃんとは仲良かったのに』
『アイリーンに世話になってることは確かだけどね。それと仕事とは別の話でしょ』
『でもぉ……』
『集中出来ないってなら、引っ込んでなさい。年少組だってショック受けてるんだから、アンタのフォローにまで手回んないのよ。仕事するなら、しゃんとしなさい』
『うっ……わ、分かったよ』

 アイリーンとの付き合いは意外に長い。訓練校時代からだから、およそ三年ぐらいか。スバルにとってはもっと幼い頃からの幼馴染だし、実の姉妹同然に付き合ってきたと聞いている。それがあんな大怪我を負って入院したのだから、気にするなっていう方が無茶かもしれない。だけど、そんなのずっと3人で仲良くしていた年少組だって同じだ。こんな時ぐらい、年上の私達が平然としていなくてどうするのか。
 尻を叩いてやって、ようやくスバルの馬鹿から念話が途切れる。今回の仕事はホテル・アグスタで行われるオークションの警備だ。多数のロストロギアが取引され、その反応にガジェットが引き寄せられる可能性があるらしい。絶対に襲撃があるという訳じゃないけれど、今回は民間人を背中に背負っている。身内が怪我をして集中出来ないからって、失敗は許されない。
 会場外で待機していた私は念の為、カートリッジの数を数える。予備を含めた64発、16マガジン分。これ以上の数になると、身体に負担が掛かりすぎて動けなくなってしまうので、実質これが最大弾数だ。元々の魔力量が少ないので、私はカートリッジの出力に頼らざるを得ない。せめて、他の3人並に魔力があれば、もう少しやりくりが楽になるのだけれど。
 思わず無い物ねだりをしてしまった私は、両手で自分の頬を叩いて活を入れた。ただでさえ、アイリーン製の魔法というズルに頼っているのだ。これ以上を望むのはあまりに贅沢だ。エースオブエースによる付きっ切りの教導、機動六課から支給された最新鋭の専用デバイス、魔力量を補うカートリッジシステム、天才アイリーンの緻密魔法……もうこれ以上嵩上げは望めない。この最高の環境を活かすのも殺すのも、私次第だ。

『来ました! ガジェット反応! 10、20……どんどん数を増しています!』
「……負けられない。私は、こんな所で立ち止まってる訳にはいかないのよ」

 ロングアーチからの報告を聞きながら、私はデバイスをガンズモード、双銃形態に移行させた。ここで証明する。ランスターの弾丸が何者にだって通用するということを。実戦で証明してやるんだ。





 身体が軽い。神経が異様なほど研ぎ澄まされている。多数のガジェットが押し寄せる中、狙いはピタリと標的に付けられ、撃った弾丸はガジェットのセンサーを正確に貫いた。小型のガジェットの動きは速く、こちらの動きを見て回避行動を取ってくるが、

「これぐらいなら、問題ないッ!」

 誘導性を捨てた直射弾で、次々にガジェットを撃ち落としていく。魔法はアイリーン謹製の、弾自体が回転して速度と貫通力を高める対ガジェット用弾丸だ。多少AMFで出力を落とされた所で、先鋭化された弾丸はガジェットの胴体を易々と撃ち抜く。貫通性が高すぎて、中枢部を撃ち抜かなければ撃墜出来ない可能性があるのは訓練の時から分かっている。しかし、今の調子ならそれも関係ない。百発百中、自分でも信じられないほどの調子の良さだ。
 要所要所でカートリッジを使って火力不足を補っていたので、程なくして弾丸が切れる。カートリッジをマガジンごと装填し直しながら、私はロングアーチからの管制情報を見た。隊長達は建物の中で、一般人の客達を避難誘導している。副隊長達は私達よりさらに前で、もっと多くの敵相手に前線を構築中だ。つまり、今私達にヘルプは入らない。いくら建物の中に隊長達がいるといっても、多数の足手まといもそこにいるのだ。未だ外周から押し寄せるガジェットの数は増え続けている。最低でも、この場にいるガジェットは私達の防衛ラインで殲滅する必要があった。
 右手と左手、2丁のマガジンを入れ替え、改めてこの場の状況を見返す。スバルは私の少し前を引っ掻き回すように右往左往しており、ガジェット達を近付けさせない。一度に迫ってくる数が多く、さらに訓練で使っていたガジェットよりも格段に動きが良いせいで、スバルやエリオの前衛組が下手に手を出せなくなってしまっている。向こうはこちらを撃墜せずとも、突破してしまえば良いのだ。故に普段攻撃を担当している前衛二人は防衛ラインを突破させないよう牽制に終始し、撃墜を私の射撃に頼っている状況だ。しかし、小型ガジェットは落とせても、その中に混ざっている大型が問題だ。私じゃ大型を落とすには火力不足なのだ。砲撃魔法も一応ストックはあるがあれだけ小型大型が密集している地帯に砲撃魔法をぶち込んでも、AMFを抜けて撃墜出来る自信が無い。AMFを砲撃魔法でぶち抜くやり方は、一定以上の魔力量がなければ逆効果だ。隊長ならともかく、私にそんな魔力はない。カートリッジに頼ったとしてもだ。
 大型を盾にされると直射弾では私も中々相手を撃ち抜けないし、手間取っている間に小型ガジェットが次々召喚で送り込まれてくるのだ。そして、火力を持ったフォワード二人が大型を落とそうにも小型が邪魔をする。徐々に徐々に、敵に押し込まれて防衛ラインを下げることになってしまっている。
 チッ、こうなったら。

『スターズ3、援護するから突っ込みなさい!』
『え、でも、防衛ラインを抜かれちゃうんじゃ……』
『こっちに来る分は全部私が落とすわ! それより、いつまでもあの馬鹿でかいガジェットに居座られる方が迷惑よ!』
『……うん、分かった! ここは任せるね、ティア!』
『ライトニング3・4は後方に下がって迂回してくる敵を押さえてっ! 無理に倒そうとせず抜かせないのを第一に時間稼ぎ、良いわね!?』
『『は、はい!』』

 前線の空を駆けていたスバルが宙にダミールートを含めたウイングロードを多数走らせる。最近のスバルの走る速度はさらに飛び抜けているから、激突する前の僅かな時間で邪魔な小型ガジェットを全て潰さなくてはならない。クロスミラージュでカートリッジのロードを行う。カートリッジ4発連続使用、私にとっても、クロスミラージュにとっても一度に出来る限界ぎりぎりの魔法だ。しかし、出来る、今の私なら出来る。

『ティアナ、無茶よ! それじゃあ貴女の体も、クロスミラージュだって……!』

 ロングアーチから注意を促す言葉が聞こえてくるが、外野の声はシャットアウト。全神経を周囲に出現した誘導弾16発に集中し、弾丸の軌道を制御する。数秒の集中、全ての標的をを視界に捕えた瞬間、私はカートリッジで増幅した魔力を一気に解き放った。

「クロスファイヤー、シュートッ!!」

 私の腕振りに合わせて、弾丸は一斉に射出された。それぞれが異なる軌道を描き、避けようとするガジェットを次々に撃ち抜いていく。先ほどの貫通弾とは違う、威力重視の誘導弾。多少狙いを反らしても、ぶつかれば爆発し、確実にガジェットを行動不能にしていく。
 その中で、一台の小型ガジェットが大きく機体を揺らして避けようとした。だが、甘い。頭の中でスイッチを入れると誘導弾の一部が組み変わり、その場で自爆。爆風を巻き散らしながら四散した。撃破出来るほどのダメージは通らない、しかし爆風に煽られて動きが止まった目標を銃口の先で捕えた私は即座に引き金を引く。
 一つ、二つ、三つ。着弾の衝撃でよろめくガジェットに次々弾丸が風穴を開けていく。狙いは多少ブレたがそれで充分、全身を穴だらけにされ遂には爆発した。大型ガジェットの周囲で起こった多数の爆発が土煙を舞い上げ、視界を塞ぐ。それに合わせるように多数のウイングロードが空から煙の中へと降り貫いて。

「でやぁぁぁぁ!!」

 腰溜めに拳を握って、地面方向にほぼ垂直のウイングロードを爆走するスバル。ほとんど落下しているように見えるが、スバルのマッハキャリバーのローラーはウイングロードをしっかと噛み締めていて、自由落下の数倍の速度で大型ガジェットの直上から突っ込んでいく。

「一撃、必倒ッ!」

 気合の咆哮と共に、拳が振り下ろされる。舞い上がっていた土埃が激突の衝撃波で吹き飛ばされ。突き下ろしたスバルのリボルバーナックルは大型ガジェットのAMFも装甲も、全て易々貫いて、凄まじい衝撃と共に勢い余って地面にクレーターまで作り出す。当然、スバルの全力の一撃を受けたガジェットは無事な訳がなく、隕石の直撃でも受けたかのようにバラバラになっていた。一歩間違えば、スバルの方がバラバラになっても不思議ではない光景だ。
 でも、スバルは元気そうに大丈夫だと手を振る。自分への負担はフリーウォークでどうにか軽減したんだろう。まったくスバルの無茶苦茶さにはいつも呆れさせられる。しかし、確かな手応えが、痺れるような感覚が手の内に残っていた。

 行ける、行けるじゃない。やれるわ。
 これなら、ガジェットなんて敵じゃない。この戦果は副隊長達にだって遅れを取らない。
 掌に残った確かな手応えに、自然と笑みが零れる。
 そう、私はやれるんだ。これならきっと、兄さんだって

「ティアナさんっ、後ろ!!」

 キャロの上擦った呼び声。考える前にクロスミラージュを持った腕を、無理矢理後ろへ振り回した。いつの間にそんなに接近していたのか、銃口がガジェットの装甲にぶつかる。足元には紫色の召喚陣。前方のガジェットに気を取られている内に、中衛と後衛の間に喚ばれたのだ。迂闊、そんな危険性にも気付かないなんて。
 無我夢中で、引き金を引いた。射出された弾丸はガジェットを貫き、しかし、動きが止まらない。弾丸選択を間違えた……! だが、魔法を変える暇など無い。続けて、何度も引き金を引く。けれど、二射目が出ない。クロスミラージュからは煙が上がっていて、何度引き金を引いても、弾丸を発射してくれない。
 そうこうしている内にガジェットの側面のハッチが開き、中のミサイルが私の眼前に突き付けられた。逃げろと足が一歩後ろに下がる。けど、間に合わない。絶望的にタイミングが遅かった。時間はやけに遅く感じるのに、身体が重い。動けない、逃げられない。

「ひっ……!」

 喉が引き攣り、情けない声が声帯を震わせた。大型ガジェットの残骸の中からスバルが慌てて立ち上がったのが見える。エリオが駆けつけようと走ってくる。でも、どちらも間に合わない。腕を交差して顔を庇い。次の瞬間、恐ろしく重い衝撃が全身を襲って、私の意識は暗転した。


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