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No.4894の一覧
[0] 魔法世界転生記(リリカル転生) test run Prolog[走る鳥。](2011/01/31 01:14)
[1] test run 1st「我輩はようじょである。笑えねーよ」[走る鳥。](2010/10/27 00:34)
[2] test run 2nd「泣く子と嘆く母親には勝てない。いや、勝っちゃあかんだろう」[走る鳥。](2010/10/27 00:35)
[3] test run Exception 1「幕間 ~マリエル・コッペルの憂鬱~(アイリーン3才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:36)
[4] test run 3rd「ピッカピカの一年生。ところでこっちって義務教育なんだろうか?」[走る鳥。](2010/10/27 00:40)
[5] test run Exception 2「幕間 ~ノア・レイニー現委員長の憤慨~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:37)
[6] test run 4th「冷たい方程式」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[7] test run Exception 3「幕間 ~高町なのは二等空尉の驚愕~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[8] test run 5th「無知は罪だが、知りすぎるのもあまり良いことじゃない。やはり趣味に篭ってるのが一番だ」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[9] test run 6th「餅は餅屋に。だけど、せんべい屋だって餅を焼けない事はない」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[10] test run 7th「若い頃の苦労は買ってでもしろ。中身大して若くないのに、売りつけられた場合はどうしろと?」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[11] test run Exception 4「幕間 ~とあるプロジェクトリーダーの動揺~(アイリーン7才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[12] test run 8th「光陰矢の如し。忙しいと月日が経つのも早いもんである」[走る鳥。](2010/10/27 00:43)
[13] test run 9th「機動六課(始動前)。本番より準備の方が大変で楽しいのは良くある事だよな」[走る鳥。](2010/10/27 00:44)
[14] test run 10th「善は急げと云うものの、眠気の妖精さんに仕事を任せるとろくな事にならない」[走る鳥。](2010/10/27 00:45)
[15] test run 11th「席暖まるに暇あらず。機動六課の忙しない初日」[走る鳥。](2010/11/06 17:00)
[16] test run Exception 5「幕間 ~エリオ・モンディアル三等陸士の溜息~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2010/11/17 20:48)
[17] test run 12th「住めば都、案ずるより産むが易し。一旦馴染んでしまえばどうにかなる物である」[走る鳥。](2010/12/18 17:28)
[18] test run 13th「ひらめきも執念から生まれる。結局の所、諦めない事が肝心なのだ」[走る鳥。](2010/12/18 18:01)
[19] test run Exception 6「幕間 ~とある狂人の欲望~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2011/01/29 17:44)
[20] test run 14th「注意一秒、怪我一生。しかし、その一秒を何回繰り返せば注意したことになるのだろうか?」[走る鳥。](2012/08/29 03:39)
[21] test run 15th「晴天の霹靂」[走る鳥。](2012/08/30 18:44)
[22] test run 16th「世界はいつだって」[走る鳥。](2012/09/02 21:42)
[23] test run 17th「悪因悪果。悪い行いはいつだって、ブーメランの如く勢いを増して返ってくる」[走る鳥。](2012/09/02 22:48)
[24] test run Exception 7「幕間 ~ティアナ・ランスター二等陸士の慢心~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2012/09/14 02:00)
[25] test run 18th「親の心子知らず。知る為の努力をしなければ、親とて赤の他人である」[走る鳥。](2012/09/27 18:35)
[26] test run 19th「人事を尽くして天命を待つ。人は自分の出来る範囲で最善を尽くしていくしかないのである」[走る鳥。](2012/11/18 06:52)
[27] test run 20th「雨降って地固まる。時には衝突覚悟で突撃することも人生には必要だ」[走る鳥。](2012/11/18 06:54)
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[4894] test run Exception 6「幕間 ~とある狂人の欲望~(アイリーン9才)」
Name: 走る鳥。◆c6df9e67 ID:67080dc8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/29 17:44
 男にとって”知る”ということは息をするように当然の事であって、同時に最大の喜びであった。未知の物を見れば、胸が高鳴った。どんな豪華な食事よりも、どれほど素晴らしい異性を前にしても。知らぬことを貪るように探求する喜びに比べれば、それらは全てゴミクズ同然だった。
 培養槽の中で自呼吸すら出来ずに漂っていた時から、男は知りたくて知りたくて知りたくて堪らない焦燥に駆られて生きていた。自分が生まれて来た意味。他人が生まれて来た意味。目の前で動く研究者……自分の製造者を見る度に、どのような仕組みで動いているのか、分解して部品の一つ一つを調べたくてたまらない。子は親に似るというが、確かに男は似ていただろう。研究者に作られた男はやはり生まれながらに研究者だったのだ。
 男が自分で呼吸をし、歩けるようになってからもそれは一切変わらない。知識は増える、出来ることも広がる。それでも”知りたい”という欲求はまるで食欲のように無くなることはない。食べても食べても、結局は腹が減る。調べても調べても、結局は知った瞬間に既知の物になってしまう。そうして男は生きてきた。未知という食事を糧に生きてきた。

 自分が作られた者だと知っている。自分が作られた意味を男はもう知っている。
 既知の出来事に、興味を覚える事は無かった。





「ごふっ、こふ……」
「ドクター。大丈夫ですか?」
「ああ……すまないね、ウーノ。水をくれないか? どうも夢中になり過ぎて水分を取るのを忘れていたらしい」
「ふぅ、またですか。気を付けて下さいね、ドクター」

 自分の子供とも呼べる作品が少々の呆れを滲ませながら水を差し出してきたのを、ドクターと呼ばれた男は受け取ると一気に飲み干した。男が寝食を忘れて研究に没頭することなど常の事であり、製造してから二十数年来になる作品はそれを熟知している。”知る”対象としては、爪の先から髪の毛一本まで知っている自分の作品。しかし、この世に生まれた時、呆れるほどに純粋で狂った存在だった男もやはり人間ではあったらしい。年を重ね、経験を経れば多少なりの成長と変化をもたらしていた。常識を覚え、我慢を覚える。回りくどい手を好むようになり、安易に未知に手を出さなくなった。何故ならば、手を伸ばせば届く未知は有限であり、ついでに自分の寿命も有限であると知ったからだ。浅く広く、未知を取ることよりも、一つの未知を残らず余さず食べ尽くす知恵を、男は成長として得ていたのだ。
 作り終えた筈の作品への愛着など、その一つであろう。時間がもたらす緩慢な変化は、興味深い観察対象であった。さすがに無制限に作品を愛することは出来ないが、特にお気に入りの作品の出来具合と変化を観察して悦に浸る。それは人間として正しい成長か、と問われれば男自身としても首を傾げてしまうが、別に正しくなくとも自分が楽しければ良かった。男は快楽主義者なのだ。
 水を飲み干し、喉を潤した男はふと興が乗り自分が作り出した作品達のデータを手元に呼び出す。詳細データと共にずらりと並んだのは人と機械の寵児「戦闘機人」。男がこれまでの経験から得た生命へのアプローチの一つだった。人間という題材は、男にとってとても興味深い。身体の作りも、心という曖昧な精神構造も。分解すればするほど未知の物が溢れ返る宝石箱のようだ。男は人の持つ可能性を、心より信じていた。科学者にあるまじきロマンティストだと自覚した上で、だ。

「ふふふ、私の愛しい子達よ。君達はどこまで行けるのかな? どこまで高みに登れるのか。ああ、胸が熱くなってくるよ」

 戦闘能力の向上など、男にとってはおまけでしかない。男は今人間の可能性とやらを穿り返すのに夢中なのだ。ただ測り易い目安が戦闘能力だというだけ。ただただそれだけの為に、男は作品の方針を戦闘能力へ向けた。そして、魔導師を魔導師として抜いても何も面白くない。どうせなら、そうどうせなら何者も未知の領域から踏破していった方が楽しいに決まっている。
 その為のアプローチが「戦闘機人」。その為の「インヒューレントスキル」である。他人から見れば狂人、人間としての禁忌を平然と踏み越える行為だったとしても、男にとっては至極自然な発想であった。
 そして、今。男の前には最高の実験対象を使った、最高の実験場が広がっていた。

「エースと呼ばれる高ランク魔導師。かつてのF計画の残滓。古代遺物の継承者……どれもこれも、涎が出そうなほど素敵な案件じゃないか。それぞれのアプローチで最高峰といえる者達が集っている、これはもう参加しない手はない! ハハ、ハハハハハ!」

 自分の作品が、最高峰の一角として参加する。それは人間として成長した男にとって、知識欲ほどではないにしても喜ばしい事だった。しかも、この”ゲーム”に勝利すればそうした最高峰の素材を手に入れられる。ゲームの中で、自分の作品との競り合いという過程も興味深い。スポンサーの持ってくる案件にはろくな仕事がなかったが、今回は実に素晴らしい。良い事尽くめで、笑いが止まらなかった。

 白のバリアジャケットで身を包んだ魔導師が、苦もなく男の玩具を撃ち落とす。雷を纏った黒い魔導師が空を駆ける度に、爆発を伴った閃光を放って沈んでいく。

 正面の大モニターに、空を掛ける二人の空戦魔導師。男の作業道具……作品には値しない、玩具程度の機械群では、空を飛ぶ的にしかなってないらしく、次々と落とされている。画面上に表示されている各種データは素晴らしいの一言。分解して隅々まで調べてみたい、この素材を使って新たなアプローチに挑戦してみたい。しかし、ゲームはまだ開始されたばかりだ、先に賞品を貰ってしまっては面白くない。そう、男は自分に言い聞かせる。楽しむ為とはいえ、これだけの喜びを押さえ込むのは一苦労だった。
 そして、もう男にとって一つ興味深かったのは列車の上で玩具、ガジェットとほぼ互角の戦いを繰り広げる陸戦魔導師達であった。まだまだ発展途上ではあるものの、

「まったく、よくもまあこんな素晴らしい素材ばかりを集めた物だ。しかも、私と浅からぬ因縁を持った者達まで……ふ、ふふふふふ」
「……ドクター。機動六課の上位陣はともかく、こちらの未熟者達ならばいつでも捕獲は可能ですが」
「そう焦ることはないよ、ウーノ。もちろんいずれは我がラボに招待するつもりではあるけれど、今はまだ若い彼らにすくすく伸びて貰おうじゃないか。私の手を離れた作品達が、どこまで伸びていくか……実に興味深い」
「……ドクターの御心のままに」

 一番目の戦闘機人である作品は、男のそうした機微をあまり理解出来ないようであった。といっても、男を真に理解出来た存在など片手で数えるほどもいない。自分の作品でも、せいぜい四番目くらいではないだろうか。四番目の気質は、製造者である男の気質に酷似しており、世の中からずれた立ち位置にいる男にしても苦笑させたものだ。子は親に似る。全く持って、その通りであった。もっともその四番目すらも、男にとって”遊び”である部分ばかりに夢中になって、源泉たる探究心は持ち合わせていなかったが……。

 画面の中で、ガジェットと原石達が戯れている。いくら玩具程度の代物とはいえ、技術を出し渋った訳ではない。男の作ったアンチマギリンクフィールドは魔導師相手には非常に有効で、原石達相手にも良い勝負をしていた。AMFは攻撃力、防御力を下げるのみならず、魔法の構築を不安定にする。未熟な彼らにとって、それは致命的であった。

『か、硬い……!」
『エリオ君!』
『大丈夫、任せて!』

 自身の身長に等しいほど大きな槍型デバイスを持った少年が、大型化し装甲を全体的に厚くした新型ガジェットのⅢ型に相対している。しかし、大型化し、装甲もそれ相応に厚くしているので、魔力を散らされるAMF環境下では装甲を抜けるほどの攻撃力を用意出来ない始末であった。少年が槍を振るう度にガジェットの装甲の上で火花が散る。手数も速度も少年の方が上……だが、狭い空間での不利な状況が相まって、3mを越えるガジェットⅢ型と正面から組み合うという愚を犯してしまった。
 これでは少し面白くない。手心を加えるべきだろうか、思わずらしくない思考で男がそんなことを考えた時であった。身体能力の強化魔法も解けてしまったのだろう、ガジェットの作業アームと組み合っていた赤毛の少年がバランスを崩し、そのまま一気に列車内部の壁へと叩きつけられる。目が見開かれ、かふっ、とか細い吐息が漏れた。槍型デバイスを握る手から、力が抜けていく。
 ドクターと呼ばれた男は、明晰な頭脳を持っている。そして、この結果……新人の陸戦魔導師が強化ガジェットとこの状況で組み合えば、至極当然の結果であったと男の頭脳は結論付けている。だが、面白くない。こんな状況も引っくり返せない”素材”に、興味は持てない。男は可能性が見たいのだ。ヒロイックな奇跡でもいい、泥臭い人間の執念でもいい、生きようとする人間の底力とやらを、欠片すら残らず分解し解析してみたいのだ。

 しかし。
 そんな男のロマンティストな望みとは裏腹に、Ⅲ型の作業アームに捉えられた赤毛の少年が虚空へと放り捨てられた。

 破れた天井から放り投げられた赤毛の少年が、壊れた人形のようにくるくると回っている。背後で守られるように見守っていた、桃色髪の少女の悲痛な叫びが響き渡った。少年の身体は一度列車の天井をバウンドし、そのまま線路からそれて、崖下へ落ちていく。天井を突き破り浮かび上がったⅢ型は、それを見届けると残った桃色の少女へ照準を合わせた。
 ああ、無情。だが現実とはこんなものである。可能性は所詮可能性に過ぎない。1%の可能性は100回やって99回起こらないのが現実なのだ。あの状況で、少年が単独でひっくり返せる可能性はせいぜい一割に満たなかっただろう。少々残念ではあるが……可能性を手に出来なかった木偶は壊れてしまっても仕方ない。それが世の摂理というものだ。
 せっかくの歓喜の時間に水を差された男は嘆息し――眉をひそめることになった。

 変化はガジェットⅢ型のカメラが送ってきている映像から、突如少年が”消えた”こと。そして、大地震でも起こったかのように、画面全体がブレた。把握出来ない事態に男は訝しげに表情を変える。ガジェットの感知範囲外から攻撃でも受けたのだろうか、そう判断するのと同時に男の手は無意識の内に手元の端末で他のガジェットからの情報を引き寄せていた。作品の程度としては玩具同然とはいえ、ガジェットは戦闘用に作った物でなく、情報収集こそを主目的に作られた道具だ。当然、新型であるガジェットⅢ型には高性能なセンサーを数多に搭載しており、カメラの範囲外からだとか、少々のジャマー程度で捉え切れなくなるものではない。カメラから消えた原因、そして激震の理由はすぐにガジェットのAIが対応して対象を捉える筈なのだ。
 だというのに男が他のガジェットに頼ったのは、予感がしたからかもしれない。

 一度ブレた映像が、もう一度上下にブレる。魔力センサーに反応。カメラには何も映っていない。続いて横殴りの衝撃。装甲にはダメージはないが、一瞬Ⅲ型の巨大な機体が浮き上がり、流されるほどの衝撃。Ⅲ型のAIは未知の衝撃に備える為に、アームケーブルの一本を列車の屋根へ突き刺して機体を固定する。熱源探知で捉えたものは棒立ちしている召還師の少女以外に無い。そうしている間にも、また衝撃。しかし、攻撃している者、あるいは原因がやはり見つからない。空のエースを相手にしていた囮部隊の一部、そして列車内の残りのⅠ型のセンサーを全てⅢ型のいた現場へと向ける。魔力パターンが二つある。一つは召還師の物。そして、もう一つは。
 そこで、ようやく映像が入る。近くの無事だったⅠ型の一機が天井に穴を開けて、浮かび上がったのだ。


 そこには黄金色の残光を引きながら、Ⅲ型の周囲を凄まじい速度で白い影が飛び回っていた。


 右へ行ったかと思うと、慣性の法則を丸ごと無視して突如左へ。上へと飛び上がったかと思えば、何もない宙で弾けるように下へ。まるでⅢ型の周囲に見えない壁でもあるかのように、影はⅢ型を中心に非常識な速度と機動を持って、”跳ね”回っているのだ。人間の動体視力を振り切るような影そのものを完全に追うのは難く、跡を引いていく閃光を追って初めて、その影の飛び回る機動が分かる。影が、閃光がⅢ型の傍を通り抜ける度に、衝撃が走る。あの速度、あの機動で飛び回られたのでは、Ⅲ型のスペックで追いつける筈も無い。
 その時になって、ようやく映像の解析が終了する。呆然、そう形容するしかない表情で大モニターを見上げる男の手は、何かに突き動かされるように動いていた。一コマ一フレーム、目の前のモニターから切り出された映像がデジタル処理を施され鮮明に映し出される。白いコートを来た赤毛の少年が、雷光を纏った槍を手に空を駆っていた。

 ひゅっ、と男の喉が引き攣ったように音を鳴らした。背筋を悪寒にも似た何かが這い登り、全身の皮膚が泡立っていく。ようやくオートフォーカスが追い付き、モニターの映像が先ほどまでよりも鮮明になり、飛び回る赤毛の少年の姿が男の目にも映り始めた。
 空を飛翔する少年が槍を振るい、ガジェットの装甲の表面を刃が舐めていく。装甲と槍の刀身が擦れ合い、火花と電流が巻き散る。やはり、少年の膂力では分厚い装甲を切り裂くことは出来ない。だが、振り抜き、過ぎ去った少年が宙で身を翻し跳ね返る。足で宙を蹴っていたかのようにも見えたが、そんなもので方向転換、いや、勢いを相殺出来る速度ではない。目に見えぬそこに壁があったとしても、激突して止まるのが関の山の筈だ。だというのに、現実では何度も何度も何度も、少年が跳び回り、数多の攻撃をⅢ型に加えている。Ⅲ型のAIは周囲のガジェットからのデータリンクによって周囲を少年が飛び回っている事は既に理解している、しかしどうやってもセンサーやデータリンクの速度が追いつかない。組み合えば、捉えられればⅢ型の勝利だろう。しかし、アームを振り回しても、圧倒的速度と機動性の違いが追いつく事を叶わせない。

 何時だ。何処でこんな能力を手に入れた。既存の高速移動魔法とは明らかに毛色が違う。あれらはあくまで行動の高速化であって、物理法則を根底から覆すような物ではない。赤毛の少年、エリオ・モンディアルのデータはデータベースを参照するまでもなく把握している。電気の魔力変換資質は持っているが、こんな真似は当然出来ない。その魔力変換資質を応用して電気による生体強化、ではこの現象と合致しない。直線的な速度や強大な膂力に現れるならまだしも、身体能力だけで慣性を完全に殺すことなど出来る訳がない。理不尽の塊であるレアスキルの新たな顕現ならありえるかもしれない、しれないが。

「……こんな筈は。機動六課の訓練データは入手出来ていますが、こんな能力を持っていたという報告は無かった筈です。まさか、どこかで検閲が……評議会の仕業でしょうか?」
「くふっ……くふふふ、くはははは、はははははははははは、ひゃはははははは!!」
「ド、ドクター?」

 頭を抑えるように手で顔を覆った男は、背筋が折れんばかりに仰け反らして高々に笑い声を上げた。奇声、いや、嬌声と称しても間違いはないかもしれない。それだけ、男の声には歓喜の感情が満ち溢れていた。堪え切れない感情が後から後から沸き出していく。自制をしない子供のように、無邪気に笑う。先ほどまで感じていたゲームへの喜びが虚ろな物に思えてしまうほどの狂喜であった。
 その理由は男の望みの通り少年が”奇跡”を起こして見せたから、では、ない。

「ああっ、見える! 確かに見えるぞ! 他の誰もが気付かずとも、この私が気付かない筈がない!」

 Ⅲ型のアームが斬り飛ばされ、宙を舞った。装甲と違い、速度の乗った槍の一撃に耐えられなかったのだ。三門あった砲門は度重なる攻撃により損傷し、まともに発射出来る状態ではなくなってしまっていた。攻撃手段を失ったⅢ型は列車の屋根に固定していた残りのアームを外そうとする、が。
 三型から少し離れた場所に、赤毛の少年が降り立つ。その手には不相応とも言えるほど大きな槍。腰を落とし、両手でその槍をしっかと掴んだ少年が画面の中で何かを呟けば、槍型のアームドデバイスがカートリッジを排出し、変形した。より突撃に特化した、その形態に。

『はあああああああああッッ!!』

 少年の裂帛の声が、ガジェットの音源センサーを震わせる。突撃槍に魔力光が導火線の如く点火され、溢れ出す魔力に少年の腕が震えた。アンチマギリンクシステムを全開に働かせ、無理矢理に引き抜いたアームでⅢ型は少年を迎え打とうとしたが。次の瞬間、硬い金属を引き裂く不快な大音響が鳴り響き、画面が暗転した。少年の膂力では装甲を打ち破る事は出来ない。だが、あの凄まじい速度を持ってして、少年自身が突撃槍と化せば。
 暗転したⅢ型の映像から、周囲で伺っていたⅠ型のカメラへと切り替える。そこには巨大な機体の胴体を食い破られ、貫通した穂先からまるで爆発したかのように背面の装甲を大きく捲り上げられたガジェットの姿があった。赤毛の少年は槍を両手で突き出した姿勢で、止まっている。分厚い装甲に守られていた筈のⅢ型の中枢は、ただの一撃で残らず完璧に粉砕されていた。

 偶然などではない。奇跡などではない。そんなまぐれ当たりのような出来事では決してない。男、ジェイル・スカリエッティの目には確かに”見えて”いたのだ。地面を踏み締め、ガジェットを貫いた少年のその背後に、何者かの影がはっきりと見えていた。確かにその芸当自体は電気の魔力変換資質の応用かもしれない、もしくは新たなレアスキルかもしれない。だが、そこに偶然はなく、何者かが引いた設計図通りに出来上がっただけだ。あの速度も、非常識な機動性能も、ピーキーな巨大な槍のデバイスも。まるで一個の芸術品を見るように、エリオ・モンディアルという存在で纏められていた。そう、既に彼はF計画などという過去の作品の残滓ではなく、何者かに作り上げられた、”他人の作品”なのだ。
 まだ、彼の者の作品の詳細を知り得た訳ではない。あの機動性の謎が解けた訳でもない。けれど、スカリエッティには狂おしいほど感じられていた。そう、作品への可能性を塵ほども残さず追求する、狂人にも近い者の喜びが。嗅ぎ取れたのは当然だろう、なにせ少年の背後に揺らいで見えるその姿はスカリエッティが生まれて初めて出会う”同類”なのだから。

「今日はなんて幸運な日なのだろう! 最高の素材と私の作品のぶつかり合いだけではない、作品と作品、いや、この私自身までもが観測対象として並べられるなんて! ……ああ、見も知らぬ君よ、思う存分に楽しもうではないか!」

 理解出来ない、そうした視線を向ける傍らの作品には目もくれず。スカリエッティは狂笑した。姿形も名前も分からぬというのに、確かにはっきりと感じられる存在に向かって、大きく手を広げる。知らぬからこそ、欲する。分からぬからこそ、理解したい。その日ジェイル・スカリエッティが感じたそれは、”共感”という既知にして未知に溢れた感覚だった。



 モニターの中では、ガジェットⅢ型を下した赤毛の少年が槍から手を離し、口を押さえて蹲っていたが。彼の者の作品が一つだけである筈がない。スカリエッティはまるで気にすることがなく、演説のような独り言を続けながら、早速とばかりに今回の戦闘データを検分し始めていた。





■■後書き■■
買い被られモード発動。
同時刻、主人公はお昼寝タイム中。


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