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No.4894の一覧
[0] 魔法世界転生記(リリカル転生) test run Prolog[走る鳥。](2011/01/31 01:14)
[1] test run 1st「我輩はようじょである。笑えねーよ」[走る鳥。](2010/10/27 00:34)
[2] test run 2nd「泣く子と嘆く母親には勝てない。いや、勝っちゃあかんだろう」[走る鳥。](2010/10/27 00:35)
[3] test run Exception 1「幕間 ~マリエル・コッペルの憂鬱~(アイリーン3才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:36)
[4] test run 3rd「ピッカピカの一年生。ところでこっちって義務教育なんだろうか?」[走る鳥。](2010/10/27 00:40)
[5] test run Exception 2「幕間 ~ノア・レイニー現委員長の憤慨~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:37)
[6] test run 4th「冷たい方程式」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[7] test run Exception 3「幕間 ~高町なのは二等空尉の驚愕~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[8] test run 5th「無知は罪だが、知りすぎるのもあまり良いことじゃない。やはり趣味に篭ってるのが一番だ」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[9] test run 6th「餅は餅屋に。だけど、せんべい屋だって餅を焼けない事はない」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[10] test run 7th「若い頃の苦労は買ってでもしろ。中身大して若くないのに、売りつけられた場合はどうしろと?」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[11] test run Exception 4「幕間 ~とあるプロジェクトリーダーの動揺~(アイリーン7才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[12] test run 8th「光陰矢の如し。忙しいと月日が経つのも早いもんである」[走る鳥。](2010/10/27 00:43)
[13] test run 9th「機動六課(始動前)。本番より準備の方が大変で楽しいのは良くある事だよな」[走る鳥。](2010/10/27 00:44)
[14] test run 10th「善は急げと云うものの、眠気の妖精さんに仕事を任せるとろくな事にならない」[走る鳥。](2010/10/27 00:45)
[15] test run 11th「席暖まるに暇あらず。機動六課の忙しない初日」[走る鳥。](2010/11/06 17:00)
[16] test run Exception 5「幕間 ~エリオ・モンディアル三等陸士の溜息~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2010/11/17 20:48)
[17] test run 12th「住めば都、案ずるより産むが易し。一旦馴染んでしまえばどうにかなる物である」[走る鳥。](2010/12/18 17:28)
[18] test run 13th「ひらめきも執念から生まれる。結局の所、諦めない事が肝心なのだ」[走る鳥。](2010/12/18 18:01)
[19] test run Exception 6「幕間 ~とある狂人の欲望~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2011/01/29 17:44)
[20] test run 14th「注意一秒、怪我一生。しかし、その一秒を何回繰り返せば注意したことになるのだろうか?」[走る鳥。](2012/08/29 03:39)
[21] test run 15th「晴天の霹靂」[走る鳥。](2012/08/30 18:44)
[22] test run 16th「世界はいつだって」[走る鳥。](2012/09/02 21:42)
[23] test run 17th「悪因悪果。悪い行いはいつだって、ブーメランの如く勢いを増して返ってくる」[走る鳥。](2012/09/02 22:48)
[24] test run Exception 7「幕間 ~ティアナ・ランスター二等陸士の慢心~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2012/09/14 02:00)
[25] test run 18th「親の心子知らず。知る為の努力をしなければ、親とて赤の他人である」[走る鳥。](2012/09/27 18:35)
[26] test run 19th「人事を尽くして天命を待つ。人は自分の出来る範囲で最善を尽くしていくしかないのである」[走る鳥。](2012/11/18 06:52)
[27] test run 20th「雨降って地固まる。時には衝突覚悟で突撃することも人生には必要だ」[走る鳥。](2012/11/18 06:54)
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[4894] test run 11th「席暖まるに暇あらず。機動六課の忙しない初日」
Name: 走る鳥。◆c6df9e67 ID:67080dc8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/06 17:00
 さて、試験結果だが。α版にも関わらず、数値はみな許容範囲内だった。空中で暴れたモンディアル三等陸士はその動きを増幅されて上空三千メートルでのアクロバティック飛行を強制的に楽しんだようだが、トレース感度を下げて多少の慣れがあれば自在に宙を飛べるようになるだろう。魔力使用量に関しても重量軽減魔法を併用することによって大分削減している。これなら、Dランク程度の魔力量でも、スペック上の数字は出る筈だ。
 しかし、問題も見つかった。行動をトレースして移動能力を増幅させるといった仕様上、ホバリング……つまりその場に留まる浮遊が出来ないのだ。スピードの増減は魔力量を術者が調整すればいいだけの話だが、宙で立ち止まって射撃をするような使い方は出来ない。構成上の問題で魔力ロスもかなり見つかったし、何より術者の技量に頼る部分が出来てしまっているのがいただけない。もう少し根本的な改善が必要だった。
 あと問題があるとすれば、キャロちゃんに飛行魔法に対する苦手意識を植え付けてしまった事だろうか。まあ、人間ロケット花火を間近見たのではそれも無理はないだろう。とはぐっすり夜眠って起きた後の感想だ。やっぱり寝不足は身体と頭に良くない。ナチュラルハイのテンションで動いてはいけないという実例だ。反省しよう。
 で、件のモンディアル君だが、実験から解放された後宿舎の自分の部屋でお布団に篭ってしまった。明日は六課のスタートだというのにこれはまずい。いや、頭がちゃんと冴えてから考えればそこまですることもなかった気がする。キャロちゃんの件も誤解だと分かったので、次の日の朝、六課の開幕式に間に合うよう早朝に押しかけてお詫びに胸の一つも揉ませてやろうとしたのだが断られてしまった。引き攣った表情で即座に飛び起きたので、もしかしたら迂遠な脅迫だと思われたのだろうか? まあ、起きたので問題なかろう。

 ついにというか古代遺物管理部機動六課の開幕式当日だ。この2週間近く鬼のように忙しくて、学校どころか家にもろくに帰れなかった。まあ、しばらくして落ち着いたら学校には顔を出そう。家は……親不孝と分かっているものの、マリエルがちと面倒だ。たまには顔を出さないとやっぱりまずいんだろうが。
 まあ、それは特設で広く作った心の棚にでも置いておくとしてだ。開幕式によれよれの格好では出られない。前の日の時点で突貫作業に当たっていた奴らも熟睡&クリーニング。服だけじゃなく、本人も綺麗にしておかないと格好付かないだろう。本日合流組もかなりの数がいるんだ、第一印象は大切である。もちろん、突貫作業に当たっていた俺も同じ事で、眠気を堪えてお風呂に入らせてもらった。実は本部の方にはシャワーしかなく、宿舎の方のお風呂を快く貸して貰えたので非常に助かった。心はやはり日本人。風呂に浸からないと入った気になれないのだ。まあ、他に同伴者がいなかったのだけ残念だが。合法的に見られる機会だったのに。スバルちゃんとは昔から結構入ったりしてるが身内の、しかも子供に欲情するのはダメだ。タカマチ一尉と入れられれば最高だったのかもしれない。タイミングが合わなくて無理だったんだけど。

 で、朝になるとやはりドタバタする。モンディアル三等陸士は早々に叩き起こしたが、その後もみっちり仕事が詰まっていた。タカマチ一尉の補佐はもちろんのこと、バインダー片手に設備の最終点検を先導したり、早めに来て彷徨っている当日合流組をロビーまで連れて行ったり。微妙に担当の範囲外じゃね?と思わなくもないが、人手が足りないのだ。文句も言ってられない。

「タカマチ一尉。そろそろ開幕式始まりますよ……って、また見てるんですか?」
「うん。でも、もう終わったから。行こう、アイリーン」

 そしてぎりぎりまで新人達のデータを見てる困ったさん。どれだけ気合入れてるのかと。そもそも昨日キャロちゃんにモンディアル三等陸士は到着してるんだから、そんな穴が開くほど見たデータを見返すぐらいなら面通しして置いた方がいいだろうに。
 などと言ったら、新人達は同時に出迎えたいんだそうだ。いくらなんでも気使いすぎじゃないか? いや、別にいいんですがね。
 隊長達が集まる部隊長室に行くと、データでは知っていたが見事なまでに女性オンリー。しかも全員見事なほど美人で、金髪、赤髪、茶髪、ピンク髪、銀髪と非常に多彩な色が揃っている(そういう俺も水色なんだからあまり笑えない)。日本じゃまずありえん光景だ。……あ、女性オンリーだと思ったら隅っこでグリフィス准尉が縮こまってる。やっぱ居辛かったんだな。

「ん、なんだ? このチビ」

 入室するなり、俺と赤髪を二つのお下げにまとめた子供に罵られた。いや、背ほとんど変わりませんから。しかし、確かこの人はスターズ分隊副隊長のヴィータ……三等空尉? だった筈だ。そうそう、スターズ分隊の隊長タカマチ一尉のすぐ下という扱いになるし、階級も一個上だったので覚えていた。厳密に言えば人間ではなく、ヤガミ部隊長の使い魔的存在らしい。またヤガミ部隊長か。どれだけ個人で戦力を持ってるんだか。
 まあ、そんな事情なので見た目と年齢は比例してないらしい。俺も似たようなもんなので、少し親近感が持てる。ヴィータ副隊長だけではなく、他の隊長陣も視線を向けて来たので自己紹介の一つでもしようかね。

「タカマチ一等空尉の補佐をさせて頂いているアイリーン・コッペル准尉です。外様の雇われ身分ですので、階級は考えず雑用と考えていただければ結構です」
「こらこら。アイリーン? そんな卑屈な言い方しなくても……」
「ちゃう、ちゃうよ、なのはちゃん……その子下っ端やって明言することで、問題起こっても責任取りません、手に負えなくなったら丸投げしますちゅーとるんや」

 くそっ、なんて鋭いんだヤガミ部隊長!? それぐらい見逃してくれてもいいだろう、本当のことなんだから。興味深そうに集めていた視線が一転、呆れた空気になってしまった。うああ、初対面から評価ダウン!? 余計なこと言うんじゃなかった!

「なのはの補佐なんて聞いてねーぞ。それにこいつ、スターズ分隊に入れるのか?」

 ヴィータ副隊長は残念ながら快く受け入れてくれる様子ではなく、不満でいっぱいですと顔に大きく書かれていた。が、ここでその発言を流してうやむやの内に最前線に送り込まれても困る。さっさと否定してしまおう。

「いえ、私の仕事はタカマチ一等空尉を寝かしつけることです。放っておくといくらでも貫徹しますから」
「「「ぶっ!?」」」
「ア、アイリーン! 最近はちゃんと寝てるでしょ!?」
「最低限は。出来れば6時間睡眠に切り替えて欲しい所です」
「そ、それは……やらなきゃいけないこといっぱいあるし」
「3時間じゃそこまで変わりませんよ。むしろ、起きている時の時間を有効に使いたかったら、しっかり休むべきです。寝不足じゃ集中できませんよ?」

 まあ、この一週間ろくに寝てなかった俺の言うことじゃないが。タカマチ一等空尉は反論の言葉が思いつかないらしく、あうあうーと言葉が言葉になってない。その漫才は受けてもらえたらしく、この美人が集まる中でも特に美人さんな金髪女性がくすくす笑っていた。
 ヤガミ部隊長も笑っていたが(馬鹿笑い)、すぐに調子を取り直すと手を叩いてその場を締めた。

「はいはい、この子は元々地上本部の新規魔法開発員でなのはちゃんとちょっとした知り合いやったんや。戦闘に関しては素人やけど、魔法の構成がものごっつう上手いらしいから新人達の教導の手助けに来て貰ったんよ」
「なので、前には出ませんし、戦闘時に出来る事なんてありません。新人達の構成だけ見て、あとは雑用してようと考えているので適当に空気だと思って気にしないで下さい」
「この通り口を開けば自分の都合のいいように事実を捻じ曲げようとする困ったちゃんや。六課本部の下準備には指揮をとってかなーり役に立ってくれたんよ? 大抵の仕事は投げても一旦任されればちゃんとやるから、よろしくしたってな」
「最悪な補足しないでください」

 俺に便利屋で使い潰されろというのか、この部隊長は。
 しかし、ヴィータ副隊長の顔から険しさはその説明で取れてしまったみたいだ。拍子抜けした表情から、”ニタリ”といったいやらしい笑顔に変化した。彼女は俺の前まで歩み寄ってくると、馴れ馴れしく肩を叩いてきた挙句、こんなことを言って来た。

「そうかそうか、んじゃいざって時はあたしの書類整理頼むな」
「はい、添削して仕事を増やせってことですね?」
「それも任せる。いやー、助かったな。これで仕事に集中出来るってもんだ」

 は、腹立つお子様だな……。書類整理も立派な仕事だ。杖をぶんぶん振り回してれば良いと思ってんじゃねーぞ。
 しかし、階級上の上司になる人間にそんなことを言う度胸はない。涙を呑んで我慢する。絶対いつかぎゃふんと言わせてやろう。

「主はやて。そろそろ時間が」
「おお、もうこんな時間やな。いっちょいったろか」

 ずっと壁際で黙って立っていたピンク髪のポニーテール……確か、ライトニング分隊の副隊長だ。名前はシグナム、だったな。階級は忘れた。先ほどの金髪さんが飛び抜けて奇麗な美人さんなら、こっちは飛び抜けて格好良い美人さんだ(俺とキャロちゃんとスバルちゃんとティアナさんを足しても届かなそうな、巨大なおっぱいとか)。彼女の言う通り、開幕式までの時間はあと5分もない。隊長陣と俺は他の面子が集まっている筈のロビーへと移動し始めるのだった。





「アイリィィィィンッ!! なんでこんな所にいるのよ!? しかもさも当然のように隊長達の横で!」
「ティ、ティア。落ち着いて、どーどー」
「私は馬か!?」

 開幕式も無事終わり、隊長陣がいなくなったのと同時に、ティアナさんに詰め寄られた。というか、首を締め上げられて「吐け! さあ、吐け!」とばかりに揺さぶられた。せっかく詰め込んだ朝食のアンパンを戻すところだったが、危うい所でスバルちゃんが止めてくれる。
 そう、実は知らせていなかったのだ、俺が六課勤めになった事を。サプライズといった気持ちもなかったことはないが、本当に知らせる時間もなかったのだ。こちらだけではなく、スバルちゃん達も随分忙しかったようだし、特にここ最近は家にも帰っていないのだから仕方ないだろう。いや、メールで知らせようと思えば出来たんだけど、つまらんし。

「あの、アイリーンちゃん。お二人と知り合いなんですか?」

 そう聞いてきたのはキャロちゃん。モンディアル三等陸士の姿もその後ろにある。どうも開幕式前にスバルちゃん達と既に顔を合わせていたらしい。まあ、分隊こそ違えど同じフォワード陣なので友好を深めるのはいいことだろう。

「ん、スバルちゃんとは小さい頃からの知り合い……幼馴染って奴かな。ティアナさんはスバルちゃん経由でね」
「そうなんですかぁ」
「こっちの質問に答えなさいよ……!」

 むぅ、ティアナさんが限界らしい。相変わらず沸点の低い人だ。
 スバルちゃん達に加え、ついでにキャロちゃんとモンディアル三等陸士にも要点を掻い摘んで説明する。レジアスのおっさんにスカウトされたその後の話だが、それはもうぶっちゃけてやった。守秘義務? ははん、どうせ簡易バリアジャケットのテストはしなきゃいけないんだ、関係のない部署にデータ譲渡でもしない限り文句を言われる筋合いはない。
 まあ、重要なのは簡易バリアジャケットではなく、新人達の魔法の構成を面倒見なきゃいけない仕事に着いた事だけなのだが。レジアス中将との交渉、六課に移った経緯を説明すると、ティアナさんが頭を抑えてよろめいた。風邪ならさっさと寝るのをお勧めする。

「違うわよっ! ……はぁ、機動六課に入って新しい段階に進めるって期待してたのに、魔法を見るのがアイリーンって訓練校時代に逆戻りじゃない」
「いや、教練についてはタカマチ一尉その他複数がやるみたいだし、同じではないんだけど。それにあれだけ世話した人間にケチ付けるならティアナさんの構成はスルーするから」
「あーもう悪かったわよ。確かにアイリーンには世話になったし、最近色々難儀してたのよ。助かるわ」
「よろしい」

 ちょっとしたじゃれ合いを混じらせて、ティアナさんと笑いあう。うん、この呼吸だ。
 すぐにスバルちゃんが「ティアばっかりずるい」と絡んできたので頭を撫でて落ち着かせる。いや、昔から俺が頭を撫でると情けなそーな顔して大人しくなるのだ。何故だろう?
 キャロちゃんがぽけーっとした顔でそれを見ていたのでこっちに来いと手招きする。実に素直なキャロちゃんは小走りで近づいてきたので、桃色の頭を撫でてやる。うーん、髪のきめ細かさが桁違いだ。

「ア、アイリーンちゃん?」
「いや、撫でてもらうのが羨ましいのかなって」
「そんなことないけど……えっと、ちょっと嬉しい、かも?」
「うぅぅ……私は年下に撫でてもらうの嬉しくないよぅ」

 右手スバルちゃん、左手キャロちゃん。両者の表情は実に対照的だ。年は5才も離れてるんだけどなぁ。俺の中ではどっちも対して変わらない。一方スバルちゃんと同い年のティアナさんは友人扱いだ。やはり小さい頃から知ってるってのが大きいんだろう。子供はいくつになっても子供って言うしな。それは親視点の話だが、正直似たような物だ。

「けど、私達の魔法構成の矯正が担当っていうなら、今まで暇だったんでしょ? 連絡ぐらいしなさいよ」
「いやいや、こちとらここ2週間鬼のように働いてました。構成見るだけなら楽だったんだけど、何故かタカマチ一尉の補佐を」
「なのはさんのっ!?」

 こっちの言葉尻に凄い反応速度で食いついてくるスバルちゃん。そういや、タカマチ一尉のファンなんだっけか。スバルちゃんは俺からタカマチ一尉の話を聞きたそうだったんだが(というか聞いてきた)、なんせ機動六課正式稼動の初日だ。やることは山ほどある。もちろん、それはスバルちゃん達フォワード陣も同じだ。今度時間がある時に話すと約束させられて、その場は一旦解散した。今日の夜にでも詰め寄られそうだ。スバルちゃんはこれから一年六課の宿舎泊まりだし、今日の所は家に帰るかな。マリエルとどっちが厄介か微妙な所ではあるが。

 ちなみにモンディアル三等陸士だが、俺とスバルちゃん達が話している間隅っこの方で何故かずっと縮こまっていた。他が全員女子だから居辛いんだろうか? まあ、元男として分からないでもないが、これから一年間ずっとチームを組んで行かなければならない同僚なのである。もっと積極的に溶け込もうと努力して行かないとやっていけないぞ、少年。





 さあ、新人達が合流したのだから、俺の仕事もここからが本番である。初日だというのに早速訓練のフォワード陣の様子を伺いながら、俺は自分の周囲に事前に渡されたフォワード陣のデータを展開した。流れ弾が怖いので、もちろん俺は訓練場に出向かず六課本部の方からモニター越しに、だが。

「うーん、皆AMFに戸惑ってるねー」
「いや、アンチマギリンクフィールドなんて聞いたことないんですけど。何ですか、その魔導師殺し」

 一緒に訓練の映像を見ているのはシャリオ・フィニーノ一等陸士。眼鏡を掛けた六課の女性にしては地味……もとい、普通の外見をした人だ。年齢はヴァイス陸曹と同じか、それより少し下と行った所か。通信主任兼メカニック担当のデバイスマイスターである。デバイスマイスターというのはその名の通り、デバイスの作成や管理が出来る技能の持ち主の通称で、資格の正式名称ではないんだが良く聞く通り名だ。まあ、日本でいうエンジニアとかとニュアンス的には同じかもしれない。
 俺がソフト専門なら、彼女はハードの人だ。もちろんそれなり以上にソフトにも詳しい彼女だが、興味はデバイスそのものにあるらしい。この人も本日合流組で、先ほど少し話した感じでは俺よりソーセキの方に興味を引かれているようだった。ソーセキは定期メンテナンス以外特にやって貰ってないので機会があったら一度彼女に診せるのもいいかもしれない。魔改造は勘弁だが、プロなら趣味に走りすぎることもないだろう。
 映像にはフォワードの新人四人がガジェットという浮遊する機械を相手にしている光景が映し出されていた。ガジェットの見た目は丸っこい卵のような形をした機械なんだがレーザーを撃つわ、バリアを張るわ、アンチマギリンクフィールドとやらで魔法を分解するわやりたい放題である。何でも最近巷でこれと同型の自律機械がミッドチルダ全域でテロを起こしているそうだ。なので、それに対処する事になるだろう新人達はこうしてガジェットとやら相手の訓練をしている訳なのだが。

「……どうして六課にその仕事が? ミッドチルダの防衛なら地上本部の仕事でしょう?」
「うーん、詳しいことはまだ言えないし、私も大して知らないんだけど。ガジェットはとあるロストロギアを狙って出現してるみたいなのよ。だから、機動六課に話が回ってきたみたい」

 ロストロギアは別世界のオーパーツもどきだ。中には危険な物もあるので、ミッドチルダでは大抵禁制品になっている。そもそも安全だと判断された物はロストロギア指定を解除されて研究に回されたりするらしい。しかし、件のガジェットは管理局に喧嘩を売るようにロストロギアを堂々と強奪しようとしている訳だ。いくら実行犯を機械オンリーにして高みの見物と洒落込んでいるといっても、そんな強引な手段を何度も繰り返せば必ず足が付く。犯人はよほどの馬鹿か、管理局を屁とも思っていないに違いない。実にレジアスのおっさんが激怒しそうな事件である。そして機動六課に仕事が回ってきたのも何だか胡散臭い。あのおっさんがミッドチルダの市街を荒らされて大人しくしている玉か? もしかしたら、本局の方から圧力でも掛かったのかもしれない。
 まあ、どっちにしても俺の仕事の範疇じゃないので気にしないけど。それより問題はガジェットが標準装備しているというアンチマギリンクフィールド、AMFの存在だ。

「これを見た限りじゃ問答無用で魔法を無効化する……って訳じゃないみたいですけど。具体的にどういう仕組みで魔法を霧散させてるんですか? あの空間に入ったら構成が分解するとか言われると、私の仕事が全部無駄になりますよ」
「あはは…さすがにそれをやれるような装置だったら、魔導師はみんな廃業よ。魔力そのものを減退させる空間を発生させるってのが私達の見解。だからほら、徐々に魔力弾が小さくなって消えてるでしょ?」

 シャーリーさん(そう呼んでくれと自己紹介の段階で指定された)は、ティアナさんがガジェットの一体に向かって射撃魔法を放った時の映像をリピートさせながらAMFについてそう説明した。なるほど、ようするに魔法を無効化されるというよりは、魔法が使いにくくなるのか。魔法構成そのものに干渉されるんじゃなく、魔法を起動させている魔力が無くなっていく。なので、最終的に魔法はガス欠に陥って自然消滅する訳だ。

「という事は、構成の強度を上げるより効率化を図って、より高い魔力を突っ込めるようにした方が良いですね」
「そうね。あまり複雑な構成にするとその分魔法に必要な魔力が高くなっちゃうから……うふふ」
「……なんですか、いきなり笑ったりして」
「すぐに自分の分野で物を考えるのは一緒だなぁって。アイリーンちゃん頭良いからてっきりもっとAMFの構造を知りたがるって思ってたわ」

 ああ、天才様は自分の知らない事象を嫌がるからなぁ。しかし、あいにくこちとら凡人だと自覚している一般人。専門外の出来事は必要最低限だけ知ってれば良いと開き直っている。AMFなんて聞いた事もなかった新技術だし、ましてや魔法と機械の混成児なんて俺の理解できるレベルを超えている。原理なんて気にせず、起こった事象だけに対処した方が建設的というものだ。

「対処法としてはAMFが効き辛いほどの近距離から攻撃するか、なのはさんのように大魔力での魔法で減少されても関係ない威力で攻撃するか、ね」

 映像の中では、それをまさに今スバルちゃんが実行しようとしていた。ローラージェットで一気にガジェットの懐に飛び込むと、その手に付けたリボルバーナックル(回転パンチ)を胴体に突き刺し、ゼロ距離の近接用砲撃魔法で完全にぶち抜いたのだ。うぅむ、雄々しい姿だ。嫁の貰い手がなくなってしまうんじゃないかと心配するぐらいに。

「人間のリンカーコアにAMFは効かないんですか?」
「まったく効かないわけじゃないけど、剥き出しの魔力弾なんかと比べればほとんどロスは無いよ。……っていうか、アイリーンちゃん。涼しい顔でエグイ事考えるね。リンカーコアを霧散なんかさせられたら下手すると死んじゃうわよ?」
「そこまで考えた訳じゃないですけど。可能性だけは論じておかないと怖いです」

 リンカーコアの魔力を直接減退させられるんだったら、全魔力を使った攻撃をしたら時間も経たず衰弱死することになってしまう。だったらまだロケットランチャーでも装備して魔力はバリアジャケットや防御魔法だけに注ぎ込んだ方が……あ、質量兵器はまずいんだったか。
 しかし、この状況だと近接主体のスバルちゃん、そして槍型のデバイスを持ちベルカ式近接特化のモンディアル三等陸士の二人しかまともな反撃出来ないんじゃなかろうか。新人四人の魔導師ランクはB前後、隊長陣のようにアホみたいな魔力量を持っていればゴリ押しも効くだろうが彼女達じゃ少々辛い。まあ、これが初戦なのだから上手く行かないのも仕方ないだろう。
 などと生暖かい視線で見ていたのだが、キャロちゃんは召喚魔法で物理的な鎖を呼び出してガジェット拘束したり、ティアナさんに至っては正面から射撃魔法で撃破してしまった。見た事のない魔法だったので、おそらくここ最近覚えたばかりの新魔法だろう。随分溜めてから撃っていたように見えたから、魔力を込めまくったのだろうか?

「はー、凄いねぇ。今の本来はAAランクの魔法だよ?」

 シャーリーさんの説明によると、魔力弾の表面にもう一枚魔力の外郭を作る二重構造の魔力弾だそうだ。本来の用途は標的の障壁魔法を外郭で緩和して、中の魔力弾で打ち抜くという魔法らしいのだが、ティアナさんはAMF下の状況をそれに見立てて使ったらしい。なるほど、最初に消耗するのは外郭の魔力膜だから威力の減少が最小限になるって訳か。さすがというかなんというか、ティアナさんだ。初戦でいきなり応用するとかクレバーすぎる。

「でも、まだやっぱり未完成みたいね。AAランクの魔導師なら本来普通の射撃みたいにタイムラグなしで撃つ魔法だもの」
「いまいち管理局のランク制度が良く分からないんですが……魔力容量とは違うんですか?」
「んー、ランク試験の合格基準は総合的な物だからね。この子みたいに技術だけ飛び抜けてるのもいるけど、どっちかだけじゃ取れないよ」

 まあ、そうだろうな。じゃなかったら、0才児のニアSランクとか平気で誕生してしまう。俺のAランクってのも魔力量基準で、非公式だからな。特に資格になっているという訳じゃない。俺はAMFを突破するのに、構造を単純にして魔力の効率化を目指すという対策を考えたが、ティアナさんは逆。さらに構造の難度を上げてAMFに対応した魔法を放ってしまった。考え方の差があるんだろうけど、根本的な解決策としては後者の方に軍配が上がる。さすが本物の陸戦魔導師といった所か。

「身の丈以上の魔法は危ないんだけどねー」
「ティアナさんの使う魔法は余裕が少ないですからちょっと心配ですね」

 もうガチガチのギリギリまで構成を詰め込むのだ。制御に掛かる負担も半端じゃない筈。戦闘中に制御をミスって自爆(バックファイア)とか洒落にならない。そこら辺がティアナさんの今後の課題だろう。
 「私のデバイスとアイリーンちゃんの魔法構成でカバーしてあげれば大丈夫大丈夫」とシャーリーさんは笑っていたが……デバイスで容量や処理能力が増えても、俺が整頓して余裕を作っても、ティアナさん自身がそこにさらに新たな構成を突っ込んではイタチゴッコになる気がしてならなかった。
 高性能高難度の魔法こそティアナさんの持論で持ち味なのかもしれないが……うーむ、俺が悩んでも仕方ない事か。戦闘に関する魔法の取捨選択はタカマチ一尉の領分だ。ティアナさん本人と思う存分悩んでもらおう。

「ところで話は変わるんだけど、ちょっとソーセキ見せてくれない? アイリーンちゃんの構成の癖とかも知りたいし」
「手出ししないと約束するならお貸しします」
「え~」
「癖を知りたいならそれで十分でしょう? 不満そうな声を上げないで下さいよ」

 シャーリーさんは危険だ。メンテナンス以外は遠慮しよう。先ほどの感想をすっぱり切り捨てて、そう心に刻む。あの目は趣味人の目だ。俺は戦闘要員じゃないので何かしらの理由がないとデバイスの改装費用など出ない(修理費用とかなら別だが)。しかし、こういう趣味の人は経費がなくとも自腹を切ってでもデバイスを改造しかねないのだ。
 結局見るだけということを確約させて待機状態のソーセキを渡したのだが、そんな機能はない筈なのに機体が震えた気がした。悪いな、ソーセキ。





 実践訓練が終わればもちろんミーティング、反省会のお時間です。タカマチ一尉が「今日は初日だから休ませてあげよ?」と言って新人達のデータを持って執務室に引き篭もろうとしたので、バインドで括って会議室へと引きずって連行した。休むならまずアンタが休めと俺は声を大にして言いたい。確かに初日ぐらいは、という気持ちも分からないでもないが、初日だからこそきっちり緒を締めておくべきだ。それに、一度新人達と意見を交わさないことには俺の仕事が進まない。

 実際ミーティングを始めてしまえば、教導の資格を持つタカマチ一尉は大したもので傍から聞いてる素人の俺にも良く分かった。まあ、キャロちゃん達10才の子供もいるし、ある程度は優しく噛み砕いたのかもしれない。
 次いでヴィータ副隊長が新人達に意見する。というより、軽い罵倒混じりの叱責だ。タカマチ一尉が優しい学校の先生なら、こっちは体育会系の鬼コーチだ。もちろん、精神論を持ち出してきて気合が足りないなどとは言わず、今日の訓練映像をリプレイしながら、新人達の粗を細かく指摘していく。ティアナさんは少し悔しそうな顔をしているし、他の三人などミスを指摘される度に小さくなっている。まあ、管理局は半軍事組織だし、この程度優しいぐらいなのだろう。
 シャーリーさんの方から何かないかなと思っていたのだが、新人達用の新型デバイスが用意できてからまとめて言いたいそうだ。その際には非常に説明が長くなりそうだが……まあ、自分の使うデバイスのスペックぐらいはきちんと把握しておくべきだろう。止める理由もないので、新人達には諦めてもらおう。

 で、俺の出番である。

「はい、皆さんの魔法構成の担当をするアイリーン・コッペルです。私が構成の不具合を直接調整するつもりですが、使う本人がその修正方針を知らないのはありえないので、色々突っ込まさせて貰います。まずスバル・ナカジマ二等陸士」
「わたしから!?」
「貴方の構成ですが、私がプライベートで弄った結果ミッドチルダ式とベルカ式の混成になっています。完全に混ぜている訳ではないですが、ミッドチルダ式とベルカ式についてもっと勉強するように」
「アイリーンちゃん、それ構成の不具合じゃないよっ!?」
「むしろスバルちゃんの頭の不具合だけど……こほん、私語は慎むように。ナカジマ二等陸士。とりえあず、致命的な不具合はありません。近接砲撃魔法がややこんがらがってますが、今のままの方針で大丈夫な筈です。後で一緒に直して行きましょう」

 訓練校の成績は悪いどころか結構良いスバルちゃんだが、それは俺とティアナさんがテスト勉強の際知識を丸ごと詰め込んだからである。頭の回転があまりよろしくない、というか要領が悪いので、暗記こそ得意だが応用が利かず、いわゆる試験秀才という奴になっている。身体だけでなく頭の方も鍛えにゃならんだろう。
 何故か涙を流して机に突っ伏すスバルちゃんを尻目に、今度はその前の席で大人しく座っているキャロちゃんへと視線を移す。

「キャロ・ル・ルシエ三等陸士」
「は、はい! なんですか、アイリーンちゃん!」
「緊張しないでいつも通り喋っていいよ、キャロちゃん」
「わたし差別されてないっ!?」
「はい、だからナカジマ二等陸士は私語を慎みなさい。……ルシエ三等陸士の召喚魔法は、別世界の一族特有の物が由来ということで、独特ですね」
「……えっと、フェイトさんがミッドチルダ式でも使えるようにって魔法を教えてくれたんです」
「ええ、上手くミッドチルダ式の物と噛み合っています。よほど熱心に考えてくれたんでしょうね」

 キャロちゃんの使う召喚魔法の構成は実に見事な物だった。明らかに異質な構成があるというのに、ミッドチルダ式の中に完全に組み込まれている。フェイトさんとはライトニング分隊の隊長フェイト・T・ハラオウン執務官のことだろう。書類ではキャロちゃんとモンディアル三等陸士の保護者はフェイト隊長になっていたので、おそらく俺がスバルちゃんに教えたようにプライベートで世話したのだろう。
 正直この召喚魔法を弄るのは辛いかもしれない。絶妙なバランスで保たれている…とまでは行かないが、俺には細部の手直しレベルでしか手が出せないだろう。これはフェイト隊長の方に投げるべきだな。
 だが、俺の仕事がなくなった訳じゃない。

「しかし、それ以外の魔法。ブーステッド、増幅魔法やその他の魔法は稚拙ですね。構成も随分余裕があって……いえ、この場合は余裕を余らせているといった方が正確でしょうか。まだまだ向上の余地があります」
「あう……」
「訓練は始まったばかりだから、一緒に頑張っていこう?」
「……うん。ありがとう、アイリーンちゃん」

 花咲くような笑顔を見せるキャロちゃんの背後で、スバルちゃんが「やっぱりわたしと対応違う…」と嘆いて隣のティアナさんに肘で突かれている。そりゃ10才のキャロちゃんと比べちゃダメだろう。仮にもいつも自分の方がお姉さんだと言ってるくせに。まあ、そんな感じだからこそ、スバルちゃんはいつまで経ってもスバルちゃんなのだが。
 どうやらキャロちゃんは完全に発展途上のようだ。今は粗を突くのではなく、とにかく出来ることを増やしていく時期だろう。召喚魔法も機を見ながら彼女に合わせて手直ししていくしかない。

「次は……エリオ・モンディアル三等陸士」
「はいっ!」
「元気なのは良いですが、貴方の魔法の大半は他人の丸コピーですね? いくらかは自分に合わせてるみたいですけど、強引に辻褄合わせしてるに過ぎません。かなりの矯正が必要です」
「……は、はい」
「というか、これって本当に槍用の魔法ですか? 無理に他から流用した形跡が……」
「……も、申し訳ないです」

 最初の元気な返事は見る影もなく、肩を落として返事を返すモンディアル三等陸士。いやまあ、苛めるつもりはないんだが、かなり背伸びをして色々な所から魔法を引っ張ってきた形跡がある。先ほど訓練データをパッと流し見たのだけれど、使う魔法ごとに構成の癖がかなり違う。多数の違う人間から魔法を盗んできた(コピーしてきた)証拠である。第一使用しているのが槍型デバイスなのに、魔法に剣のような直刀の叩き斬る軌道を補助する構成が根本から組み込まれている。これでは振り回すには良いかもしれないが、突く際に逸れてしまいかねない。向上心のあまり、少しばかり実践に目が行き過ぎて構成の方まで手が回っていないのだろう。

「まあ、一番手がかかりそうですが、それさえ直してしまえば見違えるほど効率は良くなる筈です。魔法の選択はタカマチ一等空尉や他の隊長陣とよく相談してください」
「はい、分かりました」

 うむ、素直でよろしい。「でも…」なんて口答えしていたら、また人間ロケット花火になって貰う所だ。彼の魔法はベルカ式が主体だが、ヴィータ副隊長やライトニング分隊の副隊長もベルカ式の筈だ。俺は正直「槍って何? 近接攻撃って美味しいの?」という状況なので、そちらに面倒を見てもらおう。子供とはいえフォワード陣で唯一の男なんだから、しっかりスバルちゃん達の盾になってもらわないと困る。
 さて、最後はもちろん一番優秀で、一番厄介な彼女の番だ。

「ティアナ・ランスター二等陸士」
「はい、アイリーン・コッペル准尉」

 バチッ、と俺と彼女の間に火花が散ったように感じた。相変わらずきついというか、自分の仕事に妥協しないというか。俺が下手な事を言えば鮫のように食いついてくることは明白だ。

「新魔法、見事でした。見たことのない魔法でしたが、精密極まりない構成で他の三人より二頭分は抜けていますね」
「ありがとうございます」
「ですが、その分リソースギリギリです。いえ、はっきり言えば足りていないぐらいです。現場で戦闘行為をしながら短時間で使わなければいけないことを考えれば、落第点です。特にガジェットを撃墜したアレ。成功率何%ぐらいだったんですか?」
「うっ……練習では8割行っています。それにあの時は他に手がありませんでした」
「まあ、訓練だからいいのかもしれませんけど。これじゃあ、他の事に思考を回せないほど集中しないと使えないでしょう? ティアナさんの事だから同じ難易度の魔法をいくつも持ってると思いますし、それしか方法がなくなったらすぐ手を出しそうで怖いです」
「く……」

 図星だったのか唇を噛んで睨んでくるティアナさん。こうやって仕事場だから控えめだが、プライベートでここまで言ったら100%反論の嵐だ。いや、ミーティングが終わった後どうせ言われるか? まあ、プライペートじゃティアナさんが黙って意見を聞いてくれないのでちょうど良い機会だっただろう。

「構成は昔のように私がティアナさんの組んだ構成を修正する形でやります。さらにそれを手直しするのはもちろん構いませんけど、それを私やタカマチ一等空尉に見せないで実践するのはやめてくださいね?」
「アイリーン! けど、それじゃあ」
「……ランスター二等陸士。ぶっつけ本番はやめてくれって言ってるだけです」
「……申し訳ありません、コッペル准尉」

 案の定だ。やっぱり目一杯構成を詰めまくる気満々だったな。短気なティアナさんは頭の中で火山を噴火させているだろうが、場が場なので抑えてくれた。静かに睨んでくるティアナさんに、今日は眠らず議論かなと諦めていると、タカマチ一尉が間に入ってきた。

「ティアナ。私がこれからじっくり教えていくから、焦らず一つ一つ覚えていこう?」
「は、はい、タカマチ隊長」

 さすがのティアナさんもエースオブエースのタカマチ一等空尉の前では借りてきた猫のようだ。横でスバルちゃんが指をくわえて羨ましそうに見ていたりする。最近犬化が進行してないかい、スバルちゃんよ。




 さて、ミーティングが終わるともう外は真っ暗になっていた。時間は既に23時(ミッドチルダ基準で)を回っており、本来の終了時間である20時を大幅に超過していた。学校にも通う身なのでそういう契約になっているのだが、六課に来てから守ったことなどない。というか、そもそも家に帰ってない。嫌な予感がしたので、ソーセキに全て隔離フォルダに突っ込ませていたプライベートメールをチェックすると……うわぁ、と思わず口に出してしまった。総件数114件。うちマリエルが約70件、クロエが30件近く。そしてプライベート用のアドレスだというのに何故かレジアスのおっさんが1件。どれもこれも見たくねぇ。残りの10数通はギンガやノアちゃん、学校のクラスメート達だ。こっちだけ目を通しておこう。

「うわー、こりゃひでえな」
「わっ!?」

 と、手元に表示していたメールを、いつの間にか背後から顔を出して覗き込んでいたのは赤毛の幼……少女、ヴィータ副隊長。肩に顎を乗せられるまで全く気付かなかったので、思わず声を上げてしまった。
 俺のびっくりした顔を見て、ヴィータ副隊長はにひひと意地悪そうに笑った。良い趣味をしている。狸の方の上司にそっくりだ。

「よ、お疲れ」
「……はぁ、お疲れ様です、ヴィータ副隊長」
「あんだよ、本当にお疲れって表情だな。ミーティングで新人どもにバシッと言ったから少しは見直してたんだぜ?」
「いや、普通に言うべきことを言っただけですが。最初に問題点を突っ込んどくのは基本でしょう?」
「いーや。ああいうケツの青いガキんちょどもは一人前になるまで最初から最後まで絞めておくべきだね。なのはは甘すぎるんだ」

 体育会系だなぁ、と思いつつも言う事には納得できる。終始絞めっ放しなのはどうかと思うが、半人前の内は多少厳しくとも細かく注意してやるべきだ。どんな優秀な人間も、道筋を定めていなければどんな方向に曲がるか分かったもんじゃない。それを尻を蹴っ飛ばしてでもまっすぐ伸ばしてやるのが教育というものだ。
 それに管理局の仕事は命のかかった仕事だ。それは半人前だろうが一人前だろうが変わらない。失敗しちゃったで済めばいいが、誰かが死んでから後悔しても遅いのだ。

「しっかし、お前も子供のくせに仕事漬けなのな。全然家に帰ってねーだろ?」
「ヴィータ副隊長……色々反論したいこともありますが(お前が言うなとか)、とりあえず一つだけ聞いてもいいですか?」
「ん、なんだ?」
「ヤガミ部隊長の所の人は、部下に抱きついてくるのがデフォなんですか?」
「……うわぁっ!?」

 後ろから俺の首に腕を回して抱きしめつつ会話していたヴィータ副隊長は、指摘してやると何故か凄い勢いで飛びのいた。「いつの間にか影響受けてたのかよ、マジやべー」と呟いていたので本人に自覚はなかったらしい。一瞬甘えたい年頃なのかな、などと考えたのは口に出さないでおこう。気が短そうだし、理不尽な逆切れで殴られそうだ。

「ん、あー……その、なんだ」
「なんでしょう?」
「今から言うからちょっとぐらい待てよ!? ……ごほん。スパイだって聞いてたし、こっちの邪魔したりろくな仕事しないんじゃないかって正直疑ってた。悪かったな」
「……なるほど」

 その赤毛ほどじゃないが、顔をほんのり赤く染めたヴィータ副隊長が視線を横に向けて謝罪してきた。ずっと初対面から敵視されていたのはそのせいだったのか。というより、その設定がまだ生きていたことに驚いた。俺なんてそんな戯言すっかり忘却の彼方で、必要のない雑用ですら下っ端のようにこなしてたぞ。いや、実際下っ端アルバイターなのだけれど。
 しかしまあ、謝罪してくれるというなら素直に受け取ろう。上司に敵視されるほどやりにくいことはない、向こうから歩み寄ってきてくれるならこちらからも近づくのみだ。

「ちょうどそのスパイの連絡待ちしてる人から連絡来てますけど見ます?」
「は? ……って、レジアス中将からじゃん! いいのかよ、そんなのあたしに見せて」
「プライベート用のアドレスに送ってくるのが悪いんですよ。もう向こうとは部下でもなんでもないんですから。仕事用のアドレスに機密載っけて来たらさすがに誰にも見せませんけど」

 なにやらヴィータ副隊長が呆れた視線を送ってきているが無視。メールを開くと、中には六課の近況とこちらでの仕事の調子はどうかと割と軽い文体で問うメールだった。……うーん、一応プライベートに近い内容? でも、あんなおっさんのメル友になったつもりはないんだが。俺みたいな外様にこんなメールを送ってまで機動六課内部の情報が知りたいんだろうか?

「……『化け狸に騙されて小狸隊長の下に送られたおかげで、扱き使われてちっとも家に帰れません。あと六課の食堂は量が多いだけで雑です。なんとかしてください』、と。送信」
「ぶっ!? ……おいおい」
「いや、量多いと思いません? なんで普通のミートスパ頼んだのにボールで出てくるんですか。おかしいですよ」
「あたしもあれにはびっくりしたけど徳用サイズでいいじゃねえか、って違う! あのレジアス中将相手にこんな舐めた文章でいいのか!?」
「プライベートメールなんですから、何書いたって文句言われる筋合いないですよ」

 うんまあ、家に帰らないのは俺が帰りたくないだけなんだけどね。しかし、鬼のように忙しいのも事実だ。もう少し落ち着かないと学校にもいけそうにない。新人達の魔法データも手に入ったので、やることは山ほどあるのだ。

「そうだ。ヴィータ副隊長、暇なら付き合ってください。聞きたい事がいっぱいあります。リストにしたら10枚ぐらい」
「だったらリストにしろよ!?」
「書類越しなんて柔軟性のない物でやり取りできません。口頭でお願いします。という訳で行きましょう」
「今からかよっ!? もう日が変わるぞ!?」
「大丈夫ですよ、3時間ちょっとは寝れるように帰しますから。睡眠時間って大切ですね」
「ぎゃー!? こいつもなのは並のワーカーホリックだー!?」

 悲鳴を上げるヴィータ副隊長の肩を掴んで、執務室へとずるずる引きずっていく。やっぱりタカマチ一尉はワーカーホリックと認識されていたのか。俺は違うよ? 6時間寝たし。今日は。
 結局新人達の魔法選択について、タカマチ一尉も交えて4時間ほど論争しまくっていたらヴィータ副隊長が涙ぐみ始めたのでお開きとなった。いやいや、現役武装隊の人の意見は違うね。実に参考になりました。お疲れ、ヴィータ副隊長。





■■後書き■■
この作品は魔法を一回も使わず普通にデスクワークをこなす主人公で構成されています。
(ry

一体何年ぶりなんだろうかと自問自答しながらも、書きあがってしまったので厚顔無恥に更新します。
新規様も前からの読者様も適当に読み流して頂ければ幸いです。


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