マーファ本神殿内の自分にあてがわれた客室のベッドに寝転がり、サシカイアは天井を見つめていた。
カーラとの邂逅により、元の世界へ帰る目が出てきた。それは良い。世界の特定にかなりの困難が予想されているが、それでも、これまでの当ても何もなかった状態に比べれば格段の差。希望がある、それだけでも十分にありがたい話。
しかし、その技術を授ける代償として出された使命に、大いなる不安を覚える。
魔神と戦え。
それが、カーラの出した交換条件。
雑魚魔神と戦って、適当に時間つぶし。6英雄が魔神王を倒すのを待つ。なんて出来るのであればそれも良いが。
魔神と戦う。それは即ち、百の勇者に参加するという事。
これから先、百の勇者のかたりが大量に出現する。彼らは魔神と戦おうともせず、あちこちの村で昼間から飲んだくれて無銭飲食を繰り返したりとろくでもない行動を続け、その結果、まじめに魔神と戦っている者達まで白い目で見られるようになる。どこぞの村では平和的に農業にいそしむ魔神なんてのも出てきて、「おらが村に百の勇者は要りません」なんて言われたりもする始末。国にしてみればそれは好機。自分たちに従わない力持つ存在なんて鬱陶しい事この上ない。民の支持を失っているのであれば、後腐れ無くこの機会に始末してしまえばいいとなる。魔神と戦う者達の居場所が無くなる、そのタイミングを見計らったウォートが、ライデンの議長アイシグに言わせた「真の百の勇者であれば、魔神に支配されたるモスへ赴け」により、否応なく、国に属せずフリーで魔神と戦う者達はモスへと集合する羽目になる。そして、モスで待ち受けるのは魔神との戦争。そして、最後のダンジョン、最も深き迷宮の攻略。
この課程で、百の勇者は次々と倒れ──中には「幸運にも」戦傷によって途中リタイア、命だけは繋いだと言う者もいるモノの、概ね全滅。ナシェル死亡にぶち切れたウォートがわざとそうし向けたと見える部分もあるが、兎に角、魔神との戦いの果てに生き残るのは6英雄。それが原作の流れ。
それを知るだけに、魔神と戦う事に、サシカイアは躊躇を覚える。
自分だけが生き延びる。自分たちは大丈夫。そんな楽観論は到底持ちようがない。自分たちは強い。強いが、それはあくまで肉体のスペックで、中身は只のぼんくら。これまで何度、判断ミスをした事か。そして、強いと言っても、魔神王、魔神将はもちろん、上位魔神にだって、こちらより強いモノはいくらでもいる。これから先、敵の本拠へ向かうとなれば戦いはどんどん厳しくなっていく事確実。使命はシビアに、条件はタイトに。これまでのような頻繁な判断ミスは許されなくなるだろう。そして、ベストの選択肢を選び続けたとしても、生き残れるとの保証にはならないのが辛いところ。
それでも。
「帰れるもんなら帰りたいよな」
ベッドの上で身を起こし、サシカイアはぽつりと呟いた。
あの後、当然、ブラドノックやギネスにもカーラとの出会い、その交渉を報告した。何勝手にカミングアウト、と言う2人の視線は、カーラの示した解決策の前にあっさり霧散。掌返したように、サシカイアの好判断と賞賛された。しかし、魔神と戦う事に難色を示す者が2人、サシカイアとブラドノック。逆に、シュリヒテ、ギネスは積極的に魔神と戦おうと望み、そのあたりの温度差が、はっきりと表に出てきた。
そこで、4人角突き合わせての相談タイム。
その場で、カーラではなく、ウォートに相談してみるのはどうか、と言う検討もなされた。
荒野の賢者ウォート。ニースやカーラと同じく6英雄の1人。遠距離分解消去(通常はゼロ距離、接触で使用)や偽りの金(永続の幻術)など数々のオリジナルスペルを持ち、古代魔法王国カストゥールの魔術師カーラに匹敵する、フォーセリア世界最高レベルの魔術師。ロードス島戦記の頃にはかなりの偏屈じじいになっているが、この時代ならばまだそこまでではないだろうし、彼がロードス統一王にしようとしているナシェルの話、カーラが狙ってますよ、と言う情報提供で、協力を取り付けられないか?、と言う提案はサシカイアからなされ。
「……うわ、あんだけカーラべた褒めしといてそれかよ」
と、シュリヒテにちょっと引かれたりしたが、それはともかく。
しかし、その考えはブラドノックによって駄目出しをされた。
帰還の肝となる、「異世界を探知する魔法」、これをウォートが知っているかどうかが微妙らしい。
原作新戦記によると、この送還関係の魔法は黒の導師バグナード発ヴェイル経由でスレインにもたらされた。これがウォートからならば良かったのだが、そうではなく、どうやらこの系列の魔法はバグナード一門秘匿の魔法になるらしい。今現在であれば賢者の学院崩壊前で、只の学生でしかないバグナードの手元ではなく、学院の書棚あたりに普通にあるかも知れない。が、確実とは言い難い。何しろ、バグナードは将来邪竜ナースの財宝を手に入れたりしているし、そっちにありました、では目も当てられない。やっぱり、確実を期してカーラを頼るべきだろうという結論が出された。
ちなみに、同時に元の姿を取り戻す方法も、ここで検討された。流石に女エルフのままで元の世界に戻っても困るのだ。是非ともサシカイアにはそのままの姿で戻って欲しい? ──だが断る! そう期待する人間の気持ちもわかる。サシカイアだって、これが自分以外の話であれば諸手をあげて賛成するだろう。エルフ、それも、自分で言うのも何だが超絶美少女エルフなのだ。これが世界から消えるのは、世界の破滅に匹敵しかねない重大な損失だろう。だが、その美少女エルフが自分となればそうも言っていられないのである。朝起きたときに元気な息子と対面できない。そのやるせなさは、体験した者にしか解らない、男として筆舌に尽くしがたいモノがあるのだ。そう、これは男の尊厳の問題なのだ。
話を戻して、その方法。
サシカイアは単純に、ソーサラー技能を上げてシェイプチェンジを、とか考えていた。そのつもりで、ソーサラー技能を上げてきたわけであるし。
しかし、この場で 他の方法が提案された。
「はあ? そんなもんポリ──」
「ここはっ!、ディレイトスタッフとシェイプチェンジのコンボだね。──残念な事に、ブラムドのお宝にも、ディレイトスタッフは無かったんだけど、カーラなら普通に持っているんじゃないか?」
なんだかブラドノックが慌て気味にシュリヒテの言葉を封じたような気もしたが、サシカイアはわざわざ自前でソーサラー技能を上げる必要がないという点に注意力を取られて、あっさりとスルーしてしまった。しまった、無駄な経験値の使用だったか。それならば体力上げるのに使っておけば良かったと言った類の、主に後悔に。
ディレイトスタッフについて一応説明すると、これは、魔法を封じ込めておける杖である。合い言葉を定めておけば、呪文詠唱する必要なく、その封じ込めた魔法を使う事が出来る。この道具の肝は、この杖を使う人間は、その魔法を込めた人間でなくとも良いという事。たとえば、高速飛行を可能とするフライの呪文は術者にしか効果を及ぼさない。他の人間を飛べるようにする事は不可能。しかし、このディレイトスタッフを利用する事で、他の人間の為に使う事も可能となる。効果・術者の魔法が、効果・この杖を持った人間、になるのだ。その使用の際には、使い手がソーサラースキルを持っている必要もない。それを、シェイプチェンジの魔法でやろうと言う話。
今現在ディレイトスタッフの当てが無いのが残念だが、いずれ男に戻れる。これは素晴らしい。帰還に続いて、ちょっぴり自慢の息子を取り戻す事にも希望が見えた。
「……まあ、方法を見つけたからって、即座に、ってのは止めた方が良いぞ」
と、そこへ水を差すようなブラドノックの忠告。
確かに、元の肉体を取り戻すという事は、能力値ががた落ちするという事。華奢な女エルフよりは筋力・体力がある──とは信じたいが、その他、器用度やら敏捷度やらは格段に低下する事確実。そして、肉体のスペックが落ちれば魔神と戦う事がますます厳しくなる。
スペック、戦闘のための効率だけを見るならば自分に戻る事は後回し、とりあえず男になる事を優先して、シュリヒテのコピーになる、と言う手もある。肉体のスペックは高いし、おまけに美形と来ているから、きっと女の子にもモテモテ。素晴らしい事ばかりのように見えるが、鏡像魔神(ドッペルゲンガー)みたいな連中が彷徨いている今、いきなりシュリヒテそっくりさんが現れたら面倒な事になるに決まっている。これも控えた方が良いかも知れない。最近、変に知名度が上がっているだけに余計に。
今は、当てが出来ただけで満足するべき。それが結論。
控え目なノックの音。
それが、思考の海に沈んでいたサシカイアを現実に立ち戻らせる。あるいは、少し眠っていたかも知れない。
「サシカイア、ちょっと良いですか?」
扉越しに聞こえるのはニースの声。
「ん、どうぞ」
ニースならば問題ないと、サシカイアは入室を促す。ブラドノックはダメだ。以前部屋に入れたとき、一番最初にしたのはいきなりのベッドへのダイブ。そのまま布団に顔を押しつけたうつぶせの格好で深呼吸。臭いを胸一杯に吸い込むという最低な真似。「美少女エルフスメル~!」とか馬鹿な事を言っている所を部屋から蹴りだし、もう二度と部屋に入れないと誓いを立てた。中身が男だからセクハラしても大丈夫だと間違った考えを抱いているブラドノック。近いうちに、きっちりと思い知らせてやる必要があるだろう。
扉を開けて、ニースが入室してくる。その顔には、お願い事がありますと書いてあった。それが解る程度には、出会ってからの時間も流れている。
「何?」
と、ベッドの縁に腰掛けたサシカイアは尋ねる。ニースは言いにくそうにしていたが、再度促すと、思い切ったように口を開いた。
「私は、近日中にモスへと出発します」
「うん」
ニースは、北のドワーフ族、石の王ボイルと、モスへ赴き、魔神の様子を偵察してくると約束している。それは、原作でもあった話で何らおかしな事はない。その事を改めて説明した後、ニースはサシカイアの表情を伺うようにしながら、本題を口にした。
「──つきましては、サシカイアにも同行をお願いしたいのです」
この言葉を聞く前から、サシカイアには予感があった。この時期に。ニースが言いにくそうにする事。マッキオーレあたりにも、直接的には言われていないが、何かと言外に臭わされてきた。
原作では、ニースは単独で行動するが、やっぱりそれは無茶である。いくら超英雄ポイント持ち11レベルプリーストとは言え、接近戦のスキルはファイターLV3でしかない。なにより、見目麗しい17才の娘。魔神の存在抜きにしても、この人心の荒れた時期に女の一人旅は危険きわまりない。ニースと技能レベルである程度釣り合いが取れ、マーファ本神殿に信用をされている……信用されているよね?、少しくらいは、な冒険者と言えば、やっぱりサシカイア達である。同行者として白羽の矢が立つのは予想できる事だ。
そして、ニースが言いにくそうにしたのは、サシカイアが魔神と戦いたがっていない事を知っているから。
流石に、対外的にはマッキオーレの尽力によってこの事は伏せられている。偉大なる英雄、戦乙女ペペロンチャが「戦いたくないでござる」、「戦ったら負けかと思う」、なんて言っている、とはとても公表できるような事ではない。「ペペロンチャ直筆サイン入り美人画」他、「ペペロンチャ特製、エルフの笹耳まんじゅう」なんかのマーファ本神殿土産物の新商品も売れ行き好調だから、水を差したくない。そしてそれ以上に、そんな話が広まってしまえば、魔神将撃退などでせっかく上向いてきた避難民の気持ちが大暴落する事は間違いないのだから。
超英雄ポイントを取り逃したサシカイアは気楽に構えている。いるが、魔神の被害が広がり、各地からその情報が集まって来るに連れ、「英雄」の影響力は強くなってきているのだ。あんまり無軌道な真似をすれば、即座に民衆の心にダメージが入ってしまう。
ともかく。
ニースはサシカイアが戦いたがっていない事を知っている。いるだけに、その言葉が言いにくそうになってしまう。
そして対するサシカイアの返答は。
「いいよ」
「そう言わないで、お願いします。実は既に他の3人には承諾を──」
こちらはほとんど躊躇無く、あっさり返したサシカイアを説得しようと言葉を続け。ニースは何かがおかしいと僅かに首をかしげ。顎先に人差し指を当てて視線を宙に飛ばし。
「え? ええ~~?」
と、驚きの声を上げた。
「……何だか大概失礼だな」
「ご、ごめんなさい。──え? でも、サシカイアが? あれ? え? なんで?」
と鯖目になったサシカイアにニースは反射的に謝罪し、それでも理解が追いついてないとばかりに視線を彷徨わせる。
「ひょっとして、鏡像魔神に入れ替わられている、とか?」
ニースはおそるおそると様子をうかがう。
「本物だよ! くそ、そこまで信じてもらえないなら、止めるぞ」
「ああ、ごめんなさい」
と、ニースは平謝り。
「……でも、一体どうしたんですか? 何かおかしなモノを拾い食いでも? 食事が足りないなら、厨房に伝えておきますから、そんな真似は」
「ニースが俺の事をどう思っているか、よくわかる反応だな」
もう、文句を言う気力も残っていません、とサシカイアはぐったりする。
「冗談です」
「ちっともそうは聞こえねえ」
ニースはこほんと、小さく可愛く咳払い。話を仕切直しましょうとそれで提案して、再び問う。
「で、一体どういう心境の変化ですか?」
「もちろん、素晴らしい人格者の俺は、ロードスの平和のために、この力を生かすべきだと思ったんだよ」
サシカイアの言葉に、うわあ胡散臭いとニースは顔を顰める。
実際、サシカイアはこんな殊勝な事を考えていない。考えるわけがない。
ニースと同行。それは結構美味しいと考えたのだ。ギネスのプリーストレベルが下がった今、高位の神官は是非とも仲間に欲しい。何しろプリーストはパーティの生命線、継戦能力を左右する重大な存在だ。そして、ニースとなれば、前述のようにロードス最高のプリースト技能持ち。怪我の癒しはもちろん、病気や呪いの類だって簡単に解いてくれるだろうし、たとえ死んでも──よほどおかしな死に方をしない限り、生き返らせてもらえる。これ以上は存在しない、最高の救急箱なのだ。カーラとの約定に従って、どうせ魔神と戦わなければならないのであれば、ニースと同行するのは非常にありがたい事なのだ。こちらから頼みたいくらい。
そして、もう一つ、口には出さないが、サシカイアはリタイアの方法、なんてのも考えている。
馬鹿正直に最も深き迷宮に突入して、戦死者名簿に名を連ねるくらいならば、それ以前に、適当に重傷を負ってリタイアしてしまうのもありではないか、と。ニースがいるから、怪我はびしばし治されてしまう。しかし、それでも大怪我となれば、そのリハビリに時間を取られるのだ。うまい事タイミングを見計らって大怪我をすれば、一番危険な最終決戦辺りを欠席できるのではないかと、せこい計算をしているのだ。そう、これは不可抗力。カーラも鬼ではあるまいから、それであれば仕方がないと思ってくれるのでは無かろうか? 正直、痛いのは嫌だが、死ぬのはもっと嫌だ。だから、その程度は我慢するしかない。そしてその場合でもニースがいれば、安心度が違う。手足の一二本失っても、ほぼ確実に治してもらえるのだから。
……ただ、ニースと同行するという事は、そのレベルに見合った厳しい戦いをする事になる、なんて事をすっかり失念しているサシカイアだった。
「──て言うか、先刻何言いかけた? 他の3人は承諾、だったか?」
内心、後ろ暗い事を考えているサシカイアである。ニースの胡散臭いモノを見る視線を向けられると落ち着かない。
だから、これ以上追及される前にと、さりげなく話を逸らす。
「ええと」
今度は尋ねられたニースの瞳が泳ぐ。
「……きっとサシカイアは断ると思いましたので、先に他の3人の承諾を得ておいた方が良いかな、と思いまして」
外堀を埋めるとか、将を射るにはまず馬からとか、ニースは口の中でごにょごにょと言った後、誤魔化すように、てへっと笑って見せた。
その笑顔が可愛かったので誤魔化される事にして、サシカイアはその上での疑問を尋ねる。
「シューとギネスの2人はともかく、良くブラが頷いたな」
シュリヒテはあの魔神将を倒すと息巻いているし、戦神マイリー信仰に目覚めてしまったギネスは戦いから逃げるなんて考えもしないだろう。しかし、ブラドノックだけは、立ち位置はサシカイアに近いはずである。
「がんばって魔神と戦って名を高めれば、きっと女性人気も上がりますね、と言ったら二つ返事で」
ちょろいです、とニース。
ちょろすぎだ、とサシカイアは頭を抱える。
「兎に角、そう言う事ですので、よろしくお願いしますね」
ニースはサシカイアに頭を下げ、それから、言い忘れていたと続ける。
「報酬として、先に宝物庫を開きます。そこで武器防具アイテムなんかを整えてください」
マーファ本神殿の宝物庫には、ブラムドの守ってきた財宝が唸っている。その財宝の中には、今では滅多にないような、素晴らしいマジックアイテムなんかも大量に存在する。
「太っ腹だな」
おまけに、特に金額的な上限を定めるつもりはないという事。死蔵しておくよりも、このロードス全土の危機に活用した方が良い、との判断。それでもやっぱり太っ腹だ。基本、金銭に疎く、商売っ気の薄いマーファの信徒だからだろうか。──割に土産物で稼いでいるようだが、アレはマッキオーレとかの金勘定にさとい一部の神官の仕業である。基本、その他の大多数は呑気なものである。
「ただし、まじめに選んでくださいね。この場合無意味な、変な趣味に走った道具は、流石にお渡しできません。具体的には、惚れ薬はもちろん、スカートを巻き上げる風を起こす事だけが出来る魔法の団扇とか、上着を透かして下着を見る事の出来る魔法の眼鏡とか、そう言った類のモノはダメです」
誰がそれを選ぼうとしたのか、サシカイアは尋ねるまでもなく理解してしまえた。
「ところで、ディレイトスタッフは、本当にないのか?」
とりあえず、これを確認しておきたいと、サシカイアは尋ねる。
「え? ええ」
なぜだか、ニースは少し慌て気味に頷いた。
「ブラドノックに無いと言えと──いえ、げふん、げふん」
「え? 何?」
ニースの声は不明瞭で小さかったため、サシカイアの耳には届かなかった。エルフの長耳も万能ではないのだ。
「なんでもありませんよ」
おほほほほ~、とニースは笑う。
何だか胡散臭いモノを感じないでもなかったが、サシカイアはそれ以上の追及をせず、己の手を見つめた。
これから自分は死地に飛び込む。しかし、それも全ては元の世界へ帰るため。その為なら泥をすすってでも生き延びる。生き延びてみせる。
「……絶対に死んでたまるか」
それこそ、どんな卑怯な手段を使ってでも。
「どうかしましたか?」
「いや、只の決意表明」
言って、サシカイアは己の手を握りしめた。
そして2日後。
それぞれ新装備に身を包んだサシカイアら総勢5名は、マーファ本神殿の裏門にいた。
盛大な見送りなんてのは望んでいない。だから、出発はこっそりと裏門から。
見上げる空は、何処までも青く澄んでいる。
「これで、行き先が魔神の本拠地、とかじゃなかったら最高の陽気なんだがな」
「全くだ」
ピクニックに出かけるなら最高の陽気なのに、とのサシカイアの言葉に頷くブラドノックに対して、ギネスが首を振る。
「何を言うのさ、この絶好の出発日和。これはきっと、戦いに赴く僕たちを、マイリー様が祝福してくださっているんだよ。ありがとうございます、マイリー様」
感謝を示すために五体投地を始めそうなギネスにうんざりした顔をして視線を逸らす。
「良いですか、くれぐれもニース様をお願いしますよ」
数少ない見送り、マッキオーレにシュリヒテが繰り返し注意されている。遠足前のお母さんでももう少しマシ、と言ったその様子に、横のニースがもうその辺で、と困ったように、恥ずかしそうに頬に朱を散らしている。
「それじゃあ、そろそろ」
放っておけばいつまで経ってもマッキオーレは繰り返すだろうと、サシカイアが口を挟む。
「まだ、私の注意事項は108項目まで……」
「夜になっちまうよ」
言い捨てるサシカイアに、仕方がないかと、マッキオーレも頷く。
「私も、もう少ししたら正式にモスへの出向命令が出る事になっています。またあちらで会いましょう」
「ん? ああ」
「何ですか、その投げやりな返事は。良いですか、くれぐれもニース様の安全を最優先で……」
「マッキオーレ、もう、その辺で」
「いえ、ニース様、彼らにははっきり言っておきませんと……」
「ああもう、終わり。本当に、そろそろ出発するぞ」
サシカイアはマッキオーレの言葉を切り捨てて、仲間を見回す。
新たな魔法の鎧に身を包み、やっぱり新しい魔法の剣を腰に佩いたシュリヒテ。盾もやっぱり魔法のモノだ。
残念ながらブラムドの財宝にあった鎧は人間用ばかりだったために鎧はそのままだが、武器と盾を新しくしたギネス。
ソーサラースタッフ(魔法の達成値にボーナス+2)を手に、ローブも新調したブラドノック。
ニースは原作ではモス入りした後、フレーベにミスリルチェーンメイルを与えられているが、今回はサシカイアらのコーディネートでこの段階から魔法の武器防具に身を包んでいる。
サシカイアも、新しい武器に防具、どちらも強力な魔法の品を選んでいる。
ディレイトスタッフが無かったのが残念だが、とりあえず、現在可能な限りの最高装備。文句を言ったら罰が当たる。
「よーし、それじゃあ」
サシカイアはくるりと振り向いて裏門の外へと身体の正面を向けて、腕を前に突き出して出発の号令をかけた。
ロードス島電鉄
34 GO WEST!
1ST CAMPAIGN
”LONG PROLOGUE”
──END──
獲得経験点 1000
成長
シュリヒテ 成長無し 残り経験値4500
ブラドノック 成長無し 残り経験値9000
ギネス 成長無し 残り経験値1500
サシカイア 成長無し 残り経験値2000
TO BE CONTINUED NEXT CAMPAIGN