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No.4768の一覧
[0] ロードス島電鉄 (現実→ロードス島伝説)[ひのまる](2009/07/11 17:28)
[1] 序章 進め!未来の超英雄[ひのまる](2009/07/11 17:26)
[2] 01 ロードス島へようこそ[ひのまる](2009/01/10 22:15)
[3] 02 食卓にエールを[ひのまる](2009/01/10 22:15)
[4] 03 どらドラ[ひのまる](2009/01/10 22:17)
[5] 04 僕たちには勇気が足りない[ひのまる](2009/01/10 22:17)
[6] 05 戦場のヴァルキュリア[ひのまる](2009/03/01 16:09)
[7] 06 これが私の生きる道[ひのまる](2009/01/10 22:18)
[8] 07 Bの悲劇[ひのまる](2009/01/10 22:18)
[9] 08 バカの壁[ひのまる](2009/01/10 22:19)
[10] 09 僕の小規模な失敗[ひのまる](2009/01/10 22:19)
[11] 10 隠し砦の4悪人[ひのまる](2009/01/10 22:20)
[12] 11 死に至る病[ひのまる](2009/01/10 22:20)
[13] 12 夜空ノムコウ[ひのまる](2009/01/10 22:20)
[14] 13 ベイビー・ステップ[ひのまる](2009/02/19 20:04)
[15] 14 はじめの一歩[ひのまる](2009/01/10 22:21)
[16] 15 僕たちの失敗[ひのまる](2009/01/10 22:21)
[17] 16 傷だらけの栄光?[ひのまる](2009/01/10 22:22)
[18] EXTRA ミッション・インポッシブル[ひのまる](2009/01/10 22:22)
[19] RE-BIRTH ハクション魔神王[ひのまる](2009/01/10 22:23)
[20] 17 命短し、恋せよ乙女[ひのまる](2009/03/18 15:29)
[21] 18 気分はもう戦争[ひのまる](2009/01/19 17:26)
[22] 19 どなどな[ひのまる](2009/01/19 17:27)
[23] 20 屍鬼[ひのまる](2009/01/25 20:11)
[24] 21 残酷な神が支配する[ひのまる](2009/01/25 20:12)
[25] 22 ベルセルク[ひのまる](2009/02/19 20:05)
[26] 23 ライオンキング[ひのまる](2009/02/06 17:10)
[27] 24 激突─DUEL─[ひのまる](2009/02/06 17:11)
[28] 25 ブレイブストーリー[ひのまる](2009/02/13 17:12)
[29] 26 ビューティフルネーム[ひのまる](2009/02/19 20:06)
[30] 27 うたわれるもの[ひのまる](2009/03/07 16:27)
[31] REACT 我が青春のアルカディア[ひのまる](2009/03/14 15:31)
[32] RF 新牧場物語[ひのまる](2009/04/18 18:53)
[33] 28 少年期の終わり[ひのまる](2009/03/18 15:29)
[34] 29 ああ、勇者さま[ひのまる](2009/03/28 13:11)
[35] 30 陽あたり良好[ひのまる](2009/04/12 21:01)
[36] 31 呪縛の島の魔法戦士[ひのまる](2009/04/12 21:02)
[37] 32 ドキドキ魔女審判[ひのまる](2009/04/12 21:02)
[38] 33 Q.E.D.─証明終了─[ひのまる](2009/05/13 16:16)
[39] 34 GO WEST![ひのまる](2009/05/17 10:11)
[40] SUPPLEMENT オリジナル登場人物データ、他[ひのまる](2009/06/06 17:06)
[41] 35 山賊たちの狂詩曲[ひのまる](2009/05/23 19:44)
[42] 36 尋問遊戯[ひのまる](2009/06/06 17:07)
[43] 37 ドリーム・クラブ[ひのまる](2009/06/06 17:07)
[44] 38 笑っていいとも[ひのまる](2009/06/20 18:26)
[45] 39 電鉄の勇者の伝説[ひのまる](2009/06/27 17:57)
[46] DICTIONARY 幻想用語の基礎知識 第一版[ひのまる](2009/07/11 17:27)
[47] RE-BIRTH02 今日からマの付く自由業[ひのまる](2009/07/18 17:58)
[48] RE-BIRTH03 なまえのないかいぶつ[ひのまる](2009/07/18 17:59)
[49] 40 絶望[ひのまる](2009/08/18 19:06)
[50] 41 神々の山嶺[ひのまる](2009/09/01 17:06)
[51] 42 マイ・フェア・レディ[ひのまる](2009/09/01 17:07)
[52] FINAL THE SPIRITS M@STER SASSICAIA[ひのまる](2010/09/18 21:08)
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[4768] 18 気分はもう戦争
Name: ひのまる◆8c32c418 ID:ab74ed03 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/19 17:26
「やはり、基本は農業改革、ノーフォーク農法導入なんてのが最近の鉄板だと思うんだが」
「……で? 輪栽式農法は良いが、何をどう順番に植えればいいのか、お前分かってるのか?」
 シュリヒテの提案に、サシカイアはすかさず駄目出しをした。
「分かっていないならば、時間をかけて調べる必要がある。それ以前に、そのための土地はどうする? 資金はどうする?」
「ええと、ニース様に借りる?」
「ただでさえ借金まみれ借りだらけなのにこの上更にか?」
 正直、お願いすればニースは答えてくれそうだが、その部下が拙い。ただでさえ、サシカイアらはマーファ神殿内でうろんな目で見られている。ニースの賓客なので表立って何事か言われる場面は無いが、裏では色々と言われているらしい。その状況で更に借りを作るのはよろしくないだろう。
「それに、どうしたって時間がかかる。それまではどうする? さらに、そのやり方だと結局、生産力を上げて儲かるのはマーファ神殿だ。俺たちの土地、いや領地、なんてものがあれば良いんだろうがな」
 このおファンタジックな世界に知的財産なんて考え方があるはずがない。この農法が成功したとすれば、あっさりと周りはマネをするだろう。そして、その場合に自分たちに何らかの報酬が入ってくるかと言えば、きっぱり期待できない。尊敬くらいは得られるかも知れないが、それではお腹はふくれないのである。
「アルコール関係は?」
 今度はギネスが口を開く。
「確か、北のドワーフ族は粗悪なワインしか手に入れられなくて、それを更に蒸留して火酒云々、なんて記述が原作にあったと思うけど」
「そこで、俺らが品質の良い酒を造って販売、一財産を作るってか?」
「うん」
「……で? 酒の作り方なんて知ってるのか?」
「ええと、猫を飼う?」
 ウイスキーキャットのことだろうか。そんな答えが戻ってくる辺り、何も知らないと言うことだろう。
「はっはっはっ」
 ブラドノックがそれを聞いて笑う。
「お前達、甘いな、甘すぎて虫歯がうずきそうだ」
「きちんと歯を磨け。──それはともかく、そう言うお前には何か良いアイデアが?」
「もちろんだ」
 サシカイアの問いに、ブラドノックは胸を張る。
「ここは一つ、蒸気機関を作り上げるんだ。幸いと言うべきか、石油の存在は原作で明らかにされている。燃料は存在するんだ。蒸気機関ならば、大体の仕組みは分かるし、目指せ産業革命だ。どうせならば、これで蒸気機関車なんかも作って、ロードス全土に路線を引くのもありだろう。目指せトランスポートタイクーン。そうすれば、タイトルに偽りアリ、なんて前書きも削ることが出来るし一石二鳥じゃないか」
 はっきり言って、お話にもならない。何しろ、これまでさんざん指摘した「そのための資金」をどう得るか、その辺りがすっぱり欠けているのだから。その上。
「精霊使いとして言わせて貰えば、蒸気機関なんて作ったところで、狂った水か風かあるいはその複合精霊が大暴れして、実用化は無理だと思うぞ」
 サシカイアの言葉には、かつて自分でも検討してみたという感じの響きがある。
「ここはおファンタジックな世界だって事を忘れるなよ。世界の法則が似ているようで、精霊とか魔法とか神様が本当に存在する、似て非なる世界なんだから」
「むむ」
 ブラドノックはうなり声を上げて黙ってしまう。
「──で、偉そうに駄目出ししているお前のアイデアは?」
 と、そこでシュリヒテが逆襲に出る。自分の素敵なアイデアに駄目出しされたことが気に入らないらしい。
 そう言われるとサシカイアも困ってしまう。視線を宙に彷徨わせながら、思いついたことを適当に口にする。
「とりあえず、シューが街々を巡ってリサイタルを開いて俺たちを食わせてくれるって言うのはどうだ?」
 バード技能LV5もあれば、ちょいと歌うだけで十分な報酬をゲットできる。もっとも、昨今のロードス状況を考えると、庶民が娯楽に回せる金がどの程度あるか疑問ではあるが。
「大却下だ」
 しかしサシカイアの意見はシュリヒテにすかさず否定される。
「人に頼るな。てか、お前だって具体的なアイデアなんて無いんじゃないか」
 実はその通りだから困る。こうした場合、仲間の1人くらいは工学系とか理工系とか農学系なんかの人間で、役に立つすごい知識を出してくれるものなのに。残念なことに現実は厳しく、本当に4人揃ってぼんくらである。悲しいくらいに役に立たない。
「大体、まともな仕事出来ないのってサシカイアだけなんだよね」
 ぼそりと、ギネスがサシカイアの恐れていたことを口にする。
 シュリヒテはバード技能を生かして吟遊詩人の道を。ギネスは一般技能で鍛冶屋の道がある。ブラドノックはセージが高いので、賢者として生きていくことが出来るだろう。なのにサシカイアは真っ当な生業の道がない。技能を生かすとすれば後ろ暗い仕事、シーフくらいしかできないのだ。出来れば真っ当にお天道様の下を歩いていきたいから、それは勘弁である。
「大丈夫。サシカイアなら、ちょっと露出度の高い格好をして、夜の駅裏辺りに立っていれば、いくらでも稼げ──」
「買った」
 ブラドノックに皆まで言わせず、すかさずシュリヒテが立候補。
「あ、ずるい、僕だって買うよ」
「じゃあ、俺は技術指導と言うことで一番最初に」
「あ、ずるいぞ」
「てか、シューは宿屋のウエイトレス娘がいるでしょ」
「それはそれ、これはこれ」
「うわ、開き直りやがった」
「シューはずるいよ。だいたい、僕なんてドワーフなんだよ? 同種族は絶対に趣味じゃないし、どうすればいいのさ」
「大丈夫、サシカイアなんて付いてないんだから、それよりはまだマシだろう」
「……お前らなあ」
 遂に怒りを爆発させたサシカイアを囃し立てながら、3人はてんでバラバラに逃げ出した。


 ロードス島電鉄
  18 気分はもう戦争


 ゴブリン退治を終えた4人は、感謝の宴を開いてくれるという村人の好意を遠慮して、そのまま寝床に直行した。とても何かを食べて飲むという気にはなれなかったのだ。
 開けて翌日、村人が仕事の完遂を確認、報酬を貰うと、逃げるようにイルカ村を後にした。とにかく一刻でも早く、自分たちの繰り広げた惨劇の舞台から離れたかったというのが本当。
 マーファ神殿へ戻る道すがら、彼らの話題となったのは、冒険者以外の生きる道の模索。どうやら自分たちは根本的に冒険者に、荒事に向いていないんじゃないかという疑惑。これまで持っていた自信のようなモノも完全喪失。ゴブリン退治であんなに苦労するくらいである、それ以上のモノを相手にして生き残る事が出来るはずがないという結論を出していた。
 だから別の仕事について考える。出来れば現代知識を生かして財をなし、素敵な人生を送りたい。
 そんな具合で様々な意見が出たが、どれもネットの創作やら二次創作やらからいただいたアイデアばかり。ちらっと聞くだけであれば素敵なアイデアに見えたそれも、根本的な理解が足りていない。現実にものにする為には、資金を筆頭に色々と足りないものばかり。
 結局はこれという意見もなく、マーファ本神殿に到着してしまう。
「おや?」
 そこで、サシカイアは長い耳をぴこぴこと動かした。
「どした?」
「何か騒がしいな」
 エルフイヤーは地獄耳。意味もなく長いわけではない。感度は抜群である。
 言われてみれば、と3人も周りを見回す。
 何というか、難民キャンプのみんなも、どこか落ち着かない雰囲気である。元々不自由な生活で落ち着かないのは最初からだが、更に、落ち着きがない。不安げな顔をして、ぼそぼそと小声で会話を交わしている。おまけに、幾人かの神殿関係者があわただしく走り回っているの見える。
「何かあったのかな?」
「どちらにせよ、いい予感はしないよな」
 と、先の展開に不安を覚えつつ、しかし回れ右をしても向かうところもなく。4人は仕方なく「おいでませマーファ本神殿へ」、「ブライダルフェア開催中」なんて垂れ幕の下がった入り口の門をくぐる。
「お帰りになられたのですか、ちょうど良かった」
 途端、顔見知りの神官戦士──砦に一緒した──に見つかって声をかけられる。
 見れば、彼は完全武装。どころか、部下らしき者まで10人近くつれている。もちろん、その部下達も完全武装である。
 物も言わずにサシカイアは回れ右。
 しかし、回り込まれてしまった。
「あなた方に仕事を依頼します」
 何事もなかったかのように神官戦士は口にする。
「ええと、一仕事終えて帰ってきたばかりなので、少し休憩したいなあ、なんて思うんですけど」
「却下です」
 にべもないとはこの事である。サシカイアの希望は一言で切り捨てられる。
「こんな事は言いたくありませんが、あなた達は我々に借りがあるはずです」
 借金のことである。ぶっちゃけ、まだ全然減ってない。本当であれば、ブラドノックの宝物鑑定でいくらかの報酬を得ているはずなのだが、残念なことに彼らはそれに気が付いていなかった。特にブラドノックは太守の特殊な秘宝の研究に耽溺してしまい、報酬について等頭に掠めてもいない。掠めていたとしても、現金貰って借金返済よりも、物納を望んだだろう。出来れば魔法のメイド服を手に入れて、サシカイアに着せてやりたい、そんな具合に。
 借金の話を持ち出されると弱い。黙り込んでしまった4人に、神官戦士が告げる。
「ウドの村が魔神に襲われて壊滅しました」
「まじかよ」
 ウドの村とやらが何処かとかはともかく、起きたのはろくでもない事件であろうことは予測が付いていた。まあそんなことだろうとは思いつつ、驚きは隠せない。──しかし、コーヒーの苦そうな名前の村である。
「あいつら一体ドンだけいるんだ? いくら何でもいすぎじゃないのか? アレか? 一匹見かけたら30匹はいるのか?」
 アダモ村、そして廃棄砦。サシカイアたちからして、かなりの数を倒したはずである。他にも、マーファ神殿の高位の神官や神官戦士なんかも、魔神退治に精を出しているらしい。なのに、まだどこかの村を襲って壊滅させるだけの戦力が残っている。しかも、奴らの本拠から遠く離れたこのアラニアの地に。ぶっちゃけ、人が魔神に勝つことをサシカイアらは知っている。しかし、それでも本当に勝てるのかよ、と絶望してしまいそうな数がいそうだ。
「……我々が甘く考えていたと言うことはあります」
 神官戦士は反省を口にする。
 こちらも、アラニアにおける魔神の蠢動は最早小規模な物にとどまるだろうという予測を立てていたらしい。ところがそれは予測ではなく、希望的観測。願望であった。魔神はより大胆に、大規模に攻勢をかけてきている。
「幸いと言うべきか否か、ここアラニアにいる奴らの数が残り少ないと言うのは確かなようです」
「それで壊滅?」
「ええ。奴らは減った分の戦力を、ゾンビを作ることで補った模様です。生き残り、こちらへ報告を持ってきてくれた者の話では、魔神の数は片手で数えられる程。代わりに数十の、百近い数のゾンビの軍勢に村は襲われ、壊滅したそうです」
 忘れがちだが、魔神は皆魔法使いでもある。暗黒魔法か古代語魔法、あるいはその両方を使う。魔神王に至っては、その両方を15レベルという文字通り人外レベルで行使する。そして、そのどちらにも、ゾンビを作る魔法が存在する。──ちなみに古代語魔法の方は一般に失われて久しい。いわゆる遺失魔法である。
「百近い?……それって、もう戦争じゃないか? アラニア国軍は?」
 サシカイアが何となく返事が予想できているんだけど、それでも一縷の望みを込めて尋ねる。
「アラニア国軍が各地の兵力を王都に集中、防御を固め、治安維持にいそしんでいるようです」
 それは、王族や多くの貴族がいる──為政者が自分たちのいる首都以外の土地を見捨てた、と言う意味だ。
「どんだけ腐っているんだ? アラニア王国」
 予想通りだがちっとも嬉しくない。ブラドノックがうんざりと呟く。これにはサシカイアも大いに同意する。滅びてしまえ、アラニア王国。
「しかし、それだけの敵相手にこれっぽっちの数で向かうのか?」
 シュリヒテがぐるりと神官戦士達を見回して言う。総勢10人、あまりに少ない。
 ゾンビはぶっちゃけ弱い。しかし、数が数である。いくら武器と神聖魔法を使いこなす神官戦士でも、たかだか10人で軍勢と言っても良い数を相手取るのは厳しいように思える。これがウィザードリィの世界であったなら、プリーストはアンデッド退治の専門家だ。精神力とか一切の消費必要なしで繰り返し使用も可能な対アンデッド一撃必殺技能ディスペルがあるが、残念な事にSWの世界ではそうではない。ターンアンデッド、デストロイアンデッドとか、まさしく名前からしてアンデッド向きの魔法はあるにはあるが、効果や 効率が今ひとつだったりする。確実に退治できる魔法じゃないのだ。いや、ニースがデストロイアンデッドを使えばその魔力の強さで一撃必殺かも知れないが、普通の神官にそれを期待するのは酷だろう。
 しかも、その背後にはそれだけのゾンビを従える、それだけの魔法を使える魔神が控えているのである。ここにいる神官戦士ズではいかにも頼りない。
「ですから、あなた方がこのタイミングで帰還したのは幸いでした」
 マーファのお導きに感謝を、と神官戦士は祈りを捧げる。
 ものすごい大きなお世話だよマーファ、とサシカイアは思ったが、賢明にも口には出さず、神官戦士達を見回す。
「ニースがいないようだけど?」
 そう、せめてもニースがいればいいのだが、その姿がない。
「……ニース「様」は、いま、鉄の王国を訪問しています」
 とある部分を強調しつつ、神官戦士。
「大体、あなたがそれを示唆したんでしょう?」
「おぉ?」
 サシカイアは首をかしげる。
「忘れたんですか? 下手をすると、鉄の王国のドワーフたちが暴走するかも知れないって、ニース様に言ったのはあなたですよ」
 そう言えばそんなことを言ったような気もする。ここは原作知識を生かしてニースの好感度アップ作戦、なんて阿呆な事を考えて。
 原作の流れで行くと、鉄の王国のドワーフたちはモスのスカード王国に攻め込むべく、軍勢を派遣する。
 彼らドワーフ族にとって、南の同族国家、石の王国が魔神に滅ぼされたことは、もちろん許せないことである。すぐにでもモスへ赴き、魔神を討ち滅ぼしてやりたいとあたりまえに思っている。だが、それでも暴発することなく堪えていた。モス公国が一枚岩になって魔神に向かおうとしていると言うこともあった。自分たちが行けば余計な波風を立てることくらいの理解はある。
 しかし、モス公国軍はスカード国王ブルークが魔神を率いて登場したことであっさりと瓦解、解散の運びとなった。ここで、ドワーフ族にとって重要なのは、スカード国王が魔神を率いていたと言うこと。
 ドワーフは一般的に律儀で、同時に頑固である。約束事はしっかりと守るし、当然相手にも絶対遵守を求める。もし、相手が約束を破るようなことがあれば、彼らは絶対に許さないだろう。
 スカード国王はそれをした。
 スカード王国と南のドワーフ族、石の王国は、エールの誓いと言う名の友好条約を結んでいた。両国は仲良く手を携えてこれまでやってきた。スカードは特産のエールをドワーフ族に納め、代わりにドワーフの手による優れた工芸品などを手に入れ独占交易。これによって豊富な財をなした。その財を使って経験豊富な傭兵などを雇うことで、小国に似合わぬ軍事力を持ち、モス国内では大国に当たる隣国ヴェノムに併合されることなく独立を保ってきた。また、いざとなればドワーフ族がスカードのために戦うことも辞さなかった事も、その独立維持を助けていた。
 スカード王が魔神を率いているのであれば、その約定を破り、ドワーフ族を攻め滅ぼしたと言うこと。
 それを知った北のドワーフ族は激昂し、モスへの軍の派遣を行う。最早堪えることは出来ない。スカード王国を、そこに巣くう魔神どもを滅ぼしてくれる、と。
 しかしまとまった数の武装集団がアラニア国内を移動すれば、当然アラニア王国ともめる。他国の──ドワーフ族とはいえ、他国には違いない──の軍勢が国内で好き勝手にする。それがアラニア北部に限られているうちは今回の魔神騒ぎ同様見ないふりをするかも知れないが、残念なことにモスへ向かうには南下する必要がある。王都方面へ向かうことになる。そうなればさすがのアラニア王国も見て見ぬふりは出来ず、対抗して軍を上げるだろう。話し合いで済めばいいのだが、それは期待薄。両者の激突は必至。
 その無駄な流血を避けるために、ニースは北のドワーフ族、その石の王を説得し、それを切っ掛けにモスへ向かうことを決意する。
 それが原作の流れ。
 そのうち、北のドワーフ族の動きを、サシカイアはまるで自分が考えついたみたいにしてニースに伝えていた。どうも馬鹿と思われているような気がしたので、ここで一発頭の良さそうな振りをしてやろうという、他愛のない点数稼ぎ。
「……そう言えば、そんなこともあったかも」
 この場合これは大失敗だったかも知れない。
 明らかに失敗だと思ってるらしい、シュリヒテらのジト目が突き刺さって痛い。てか、ブラドノックは胸に視線を向けてきているみたいだが。その上残念そうな、気の毒そうなため息まで吐きやがった。何だか非常にむかついた。いつか殺す。
 話を戻す。その話を受けて、どうやらサシカイアらのゴブリン狩りへの出発に前後して、ニースも鉄の王国へ向かったらしい。その結果、ドワーフ族は原作以前、軍を派遣しようとする所でニースの説得を受けることになったのか、今のところ南へ向かうドワーフの軍勢の話は聞こえてこない。
 これでアラニア王国とドワーフ族の戦いという最悪のシナリオは回避された。サシカイアの手柄でも何でもなく、原作でも回避されているのだが。もっともこれで未然に防いだのだから、アラニアのドワーフに対するヘイトが高まらない分良かったと考えることも出来る。
 しかし、こうなるとちっともよろしくない。
 正しく原作通りの展開であれば、魔神のゾンビ軍団に対してドワーフの軍勢をぶつけるという手が取れたかも知れない。と言うか、位置的に放っておいても勝手にぶつかっていたかも知れないくらい。そうでなくともマーファ神殿とドワーフ族で共同作戦をとれれば少数で多勢に当たる必要もないし、それに何より、その場合にはそこにロードス1優秀なプリーストであるニースもいた。
「これがバタフライ効果か?」
 僅かながら、原作の流れから逸脱してきている。原作にゾンビ軍団の襲撃なんて無かったし、これは自業自得だがニースがドワーフの暴発を未然に押さえているし。あるいは近い将来、原作の流れを知っているというアドバンテージが失われるかも知れない。──まあ、どうせ魔神退治に深く関わるつもりはないのだが。
「とにかく、そんなわけで我々は急いで出撃しなければなりません。あなた方も同行してください」
「疲れているんだけど?」
「トランファーしますか? 怪我も病気も治せますよ」
 他にサシカイアが口にしそうなさぼりの理由を先読みして言われる。神官なんて嫌いだ。
「ゆっくりしている暇はないのです。報告では、魔神のゾンビ軍団は、どんどん北上しています。そして、奴らは誰かを殺すたびにその人数を増やして膨れ上がっているようなのです。早いうちに何とかしないと、本当に手が付けられなくなるかも知れません」
 と言われても、サシカイアらは顔を見合わせるばかり。
 理屈は分かるが、ぶっちゃけ怖い。ゴブリン相手にろくでもない戦闘を経たばかり。魔神と戦えるかと問われれば、最初の戦闘時以上に不安を感じてしまう。また、ゾンビも勘弁だ。元は人。人は死ねば死人になるのではなく、物、死体になる。とは言われているが、理屈だけで片付く問題ではないだろう。やりにくさではゴブリン以上となることなんて簡単に想像が付く。躊躇して、こんどこそ死にかねない。そしてその場合に今度はニースはおらず、下手をするとこっちまでゾンビにされてしまうかも知れない。ちょっと考えるだけでこれだけの問題点。ますます気が乗らない。
「こんな事は言いたくありませんが」
 ところが時間を惜しんだ神官戦士が、ついに伝家の宝刀を抜く。
「あなた方は我々に借金があります。ここで今すぐ全額返してもらえないのであれば、我々の言葉に従ってもらいます。これは、命令です」
 どうやら、サシカイアらに選択の自由はないらしい。


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