「――工程完了(ロールアウト)。全投影待機(バレットクリア)」宙に浮かび上がる剣群。切っ先の先で猛火を噴き上げる化け物に対し、「――停止解凍(フリーズアウト)」その全ての刀剣が射出された。「――全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)ッ!!」充填され刀身を巡るチャクラが火花を散らしながら、空を裂いて突き進む。迫る剣群は無数。回避する時間などなく、即座にその場で迎撃する必要を化け物は認めた。が、そこで気付く。飛来する剣群――その全てに込められた、比類なき情念に。友がために思う、強制的に平和になる、ナルトとサスケからサクラへのメッセージに。全ての剣に込められた、幸せを強制させる想念に、化け物は気付いてしまった。“当たれば負けて土下座させる剣。だから幸せになれ。”“かすれば負けて鼻からパスタを食わせる剣。だから幸せになれ。”“触れれば負けて裸かつ逆立ちで里を一周させる剣。だから幸せになれ。”“刺されば負けて炭酸を一気飲み後に歌わせる剣。だから幸せになれ。”“斬られれば負けて好きな人の名前を絶叫させる剣。だから幸せになれ。”――これは、ヤバイッ!!「盾になれェッ!十傑集ゥウウウウウウッ!!」瞬間、絶叫。固有結界において想念はすなわち現実。術者が“そう”と決めたのならば、神が否定しようとも確実に“そう”なるのである。故に、絶対に受けてはならない。悪神の権能を全力で行使し、固有結界の領域を何とか貫く。化け物は己が部下を眼前に召喚した。十傑集が第一柱――「――我が仙術の冴え、ここに!」混世魔王・樊瑞(こんせいまおう・はんずい)。その身が収めた仙術によって、彼の前に銅銭による壁が構築される。たかが銅銭、されど銅銭。樊瑞の強力無比な神通力は刹那の間も置かずに絶対防壁を成す。「――仙法・五右衛門」「!?」だが、それが何するものぞ。銅銭による壁が、蝦蟇油と混合した炎によって融解する。そちらが仙術ならば、こちらは仙法。化け物が部下を召喚できたのならば、ナルトやサスケとて仲間を求めることも当然可能。絆を結んだ者達が手を貸すことは当然。ナルトがその表情を喜色に染めた。「エロ仙人!」「ったく、こういう時ぐらいは師匠とか呼ばんか。かっこつかんじゃろうが!」三忍、自来也。里の内外にその名と武勇が知られる、最強の忍者の一角である。銅銭の壁を剣群が突破する、その直前。「――樊瑞に合わせろ!!」「――応ッ!!」融解する壁が、張り直される。念動力によって操作された壁が、さらなる念動力の圧と蟲の加勢によって持ち直す。十傑集が第2柱――激動たるカワラザキ。同じく第3柱――暮れなずむ幽鬼。実に3柱もの高位能力者によって強固となった壁に、剣群の第1波が弾かれる。これを力にて打ち砕くのは至難であり、「――こちらも合わせます。超人3人分の壁の点穴、見切りますよ、ネジ兄さん」「――お、応ッ!」故に、突き崩すのは剛なる力ではなく、柔の拳。緻密極まる柔拳法の冴えが、強固なエネルギーの流れを遮断する。「日向流奥義たる六十四掌――その3倍まで上げます!いけますね、ネジ兄さん!」「――応ォオオオッ!!」常の3倍の奥義。これを2人で放てば、実に6倍。壁に近接する――ここは既に“八卦の領域”。「柔拳法・八卦六十四掌×3×2、すなわちッ――」「「――八卦三百八十四掌ッ!!」」柔拳が打ち込まれる。点を突くことで、壁全体の構成力自体を雲散霧消させる。まさに絶技。命や精神をひり出したところで、このようなことができる者など、そうはいない。まさしく――日向は木の葉にて最強。「―――」日向流宗家、日向ヒナタ。一瞬、視線を前に向け、“その者”を見やる。驚愕に満ちる、紅い赤い朱いその表情は――やはり、“あの時戦った顔”ではない。あの一戦で、ヒナタが相手に思う所などない。まして恨みや憎しみなど欠片もない。結果として得たものは数あれど、相手を蔑むことなど、見下すことなど、何一つとしてないのだ。あれが、忍びである。陰に潜み毒を使う、真なる間者である。たとえ力において弱者であっても、否、弱者だからこそ、あれはあそこまで忍びになれたのである。繰り返す。日向ヒナタは、春野サクラに対して、悪感情など僅かばかりも持っていない。いなかった。だが、今はある。変わったことに――否、“堕ちた”ことに対して、彼女は憤る。あれの目を覚まさせることに対して、日向ヒナタという忍びに否やはないのである。