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No.4708の一覧
[0] 歩く道先は 憑依・TS有り (旧題 ゼロの使い魔、憑依物?テスト)[BBB](2010/02/12 04:45)
[1] タイトル、なんにしよう・・・ 1話[BBB](2010/06/17 04:00)
[2] 以外にご好評で・・・ 2話[BBB](2010/06/17 04:00)
[3] 今回は前二つより多め、しかし原作なぞり 3話[BBB](2010/06/17 23:10)
[4] まずは一本立ちました 4話[BBB](2010/06/17 23:10)
[5] 大体15~20kb以内になっている・・・ 5話[BBB](2010/06/17 23:10)
[6] まさかの20kb超え 6話[BBB](2010/07/04 04:58)
[7] 区切りたくなかったから、25kb超え 7話[BBB](2010/07/04 04:59)
[8] 14kb位、そういうわけで原作1巻分終了の 8話[BBB](2010/08/21 04:01)
[9] 2巻開始っす、しかし7話は並みに多く 9話[BBB](2010/07/04 05:00)
[10] やばいな、中々多く…… 10話[BBB](2010/07/04 05:01)
[11] 区切りたくないところばかり 11話[BBB](2010/10/23 23:57)
[12] 早く少なく迅速に……がいい 12話[BBB](2010/10/23 23:57)
[13] やっぱこのくらいの量が一番だ 13話[BBB](2010/10/23 23:58)
[14] 詰まってきた 14話[BBB](2010/10/23 23:58)
[15] あれ、よく見れば2巻終了と思ったがそうでもなかった 15話[BBB](2010/10/23 23:59)
[16] こっちが2巻終了と3巻開始 16話[BBB](2010/08/21 04:07)
[17] これはどうかなぁ 17話[BBB](2010/03/09 13:54)
[18] 15kb、区切れるとさくさく 18話[BBB](2010/03/09 13:53)
[19] 区切ったか過去最小に…… 19話[BBB](2010/03/09 13:57)
[20] そんなに多くなかった 20話[BBB](2010/08/21 04:08)
[21] ぜんぜんおっそいよ! 21話[BBB](2008/12/03 21:42)
[22] 休日っていいね 22話[BBB](2010/03/09 13:55)
[23] 詰めた感じがある三巻終了 23話[BBB](2010/03/09 05:55)
[24] これが……なんだっけ 24話[BBB](2010/10/23 23:59)
[25] 急いでいたので 25話[BBB](2010/03/09 03:21)
[26] おさらいです 26話[BBB](2010/01/20 03:36)
[27] 遅すぎた 27話[BBB](2010/03/09 13:54)
[28] 一転さ 28話[BBB](2009/01/10 03:54)
[29] スタンダードになってきた 29話[BBB](2009/01/16 00:24)
[30] 動き始めて4巻終了 30話[BBB](2010/02/12 04:47)
[31] 4巻終わりと5巻開始の間 31話[BBB](2010/03/09 05:54)
[32] 5巻開始の 32話[BBB](2010/10/23 23:59)
[33] 大好評営業中の 33話 [BBB](2010/08/21 04:12)
[34] 始まってしまった 34話[BBB](2010/08/21 04:09)
[35] 終わってしまった 35話[BBB](2010/02/12 04:39)
[36] まだまだ営業中の 36話[BBB](2010/01/20 03:38)
[37] 思い出話の 37話[BBB](2010/01/20 03:39)
[38] 友情の 38話[BBB](2010/02/12 04:46)
[39] 覚醒? の 39話[BBB](2010/08/21 04:04)
[40] 自分勝手な 40話[BBB](2010/08/22 01:58)
[42] 5巻終了な 41話[BBB](2010/08/21 04:13)
[43] 6巻開始で 42話[BBB](2010/10/24 00:00)
[44] 長引きそうで 43話[BBB](2010/10/24 01:14)
[45] あまり進んでいない 44話[BBB](2011/11/19 04:52)
[46] 昔話的な 45話[BBB](2011/11/19 12:23)
[47] もしもな話その1 このポーションはいいポーションだ[BBB](2010/08/21 04:14)
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[4708] 6巻開始で 42話
Name: BBB◆e494c1dd ID:d1278d24 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/24 00:00
 トリステイン魔法学院に続く街道に、豪華な装飾が成された四頭立ての馬車が進み揺れていた。
 以前アンリエッタがトリステイン魔法学院へ行幸した際、乗っていた馬車に匹敵する豪華な装飾。
 馬車の側面に刻まれるレリーフ、家名を表す紋章を見て大多数の貴族たちはその王族もかくやの豪華さに、なるほどと納得するだろう。

 その紋章、家紋から読み取れる家の名は『ラ・ヴァリエール』、貴族が多いトリステインでも屈指の大貴族の馬車。
 それに続く何台もの馬車、馬車を囲む幻獣などに乗った護衛から食料、機能的に豪華な寝台を取り付けてある大きめな馬車。
 そして世話をする侍女を十人ほど乗せた馬車、計数台になる馬車が街道を静々と進んでいた。

「……何もお父さまが直々に迎えに行かなくても」

 僅かに揺れる馬車の中には、ウェーブが掛かった長い金髪が馬車と連動して揺れ、僅かにずれる眼鏡をなおす女性。
 切れ長の目に気が強そうだ、多くの者がそう思うだろう端整な顔つき。
 ルイズが成長したらおそらく似通った顔になるだろう、この女性の髪をピンクブロンドにすればより似ていると予想できる顔。
 顔つきに表れているものは性格を現し、実際に気位が高く己の地位に見合った性格をしているが、今は鳴りを潜めて鳶色の瞳で向かいの座席に座る父を見て口を開いた。

「いや、私も行ったほうが良い」

 その女性の父、左目にモノクルを掛け、娘と同じく金色の、若干白が混ざり始めた髪。
 足の間に杖を立て、その上に両手を置いて座る。
 口髭を生やし、視線を細めたその姿は威厳が感じられる。

「……確かにルイズが倒れた事は心配でしょうが」

 その金髪の女性、ラ・ヴァリエール三姉妹の長女、ルイズの姉であるエレオノール。
 傲慢で高飛車なきらいがあるエレオノールにしては、どうにもしおらしく見える表情で呟く。
 彼女は公爵家と言う五爵の最上位の令嬢であるためか、自身と同等かそれ以上の者、あるいはエレオノール自身が認めた相手以外には見下して見る傾向がある。
 しかしながら流石に家族の事となると、それを超えた所で心配する様子を見せた。

「うむ」

 彼女の父は迷いを見せず頷く、それを見てエレオノールは少しだけ笑った。
 いつもの事だった、父は娘たちの事を可愛がる。
 長女であるエレオノールも可愛がられた、次女であるカトレアも可愛がられた、そして末女であるルイズも可愛がられている。
 その時その時で娘たちを大事に扱うのが父親、偏りも有るかもしれないが愛されていると分かるほどに可愛がるのがヴァリエール公爵ことピエールだった。

「……お父さま、女王陛下に呼びつけられたと聞きましたが」

 話の機転、合流する事となった原因をエレオノールは父に聞いた。

「『一個軍団を編成されたし』、陛下はそう申された」

 それを聞いたエレオノールは驚きを表情に浮かばせ、あの噂は本当だったと確信する。
 女王陛下はアルビオンへと攻め込む気で居る、と。

「お父さまは戦に反対しておられたと記憶していますが」
「ああ、だが返事はまだ出しておらん。 ほんの少しばかり、考える時間を頂いた」

 エレオノールはてっきりその場で断ると考えていた、今言った通り父は声を上げて反対していたからだ。
 なのに考える時間を貰うなんて、迷いが出たのかしらとエレオノールは考える。
 エレオノールの一声に険しい表情を浮かべたピエールに、その思いを深めるが。

「確かに、今も反対はしている」
「ではなぜ?」
「……陛下に意見を求められたのだ、攻めるならばどうすればよいかと。 わしは言ってやったよ、負け戦を仕掛けるべきではないとな。 そう上申したのだが、陛下から考えさせられる事を返された」
「……それは?」
「……勝ち戦にしなければ、トリステインは滅ぶとな」

 それを聞いたエレオノールは驚愕した。
 戦争が起こり攻めるか守るか、未だその段階であったと思ったのにもう結論のような物が出ている事に。
 話の中でエレオノールは色々考えて、王政府は遠征すれば負け戦になると分かっているのに、戦わねばならない事態にこの国は陥っていると判断した。
 負け戦を勝ち戦に、そうしなければいけないほどトリステインは進退窮まっているんじゃないかと。

「ただの復讐であれば即座に断ったのだが、理詰めで話されれば断るわけにもいかんだろう」

 眉を顰めた表情のままピエールは考える、勝たなければトリステインは滅びると言った後のアンリエッタの言葉。
 それが遠征に反対する気持ちを鈍らせ、考える時間を貰う事になった。
 その言葉は誰もが持つであろう一つの感情。

『これ以上、大切な人を亡くしたくはないのです』

 そう、アンリエッタは真剣な表情で言った。
 無論それだけで考えさせられるピエールではない、単純に戦略的な話も相俟っての事。

 現在の所、トリステインとゲルマニアの連合軍で将兵の合計は約7万、資金などの問題もありこれ以上将兵の数は増やせない。
 兵が身に着ける武器や防具、急ピッチでの艦隊の建造などもあり、無い袖は触れない状態に近い。
 それもトリステインの周辺国からの借金をしている状態でだ、その上厚かましくも軍の派遣も要請して居る始末。
 だが周辺国で一番の財力を持つクンデンホルフ大公国はかなり乗り気で、借金の申し出と戦力の派遣を安請け合いの如く承諾した。
 トリステイン王家に恩を売れると同時に、大公国をアルビオンから守れると言う一石二鳥であった為だった。

 そのトリステイン・ゲルマニア連合軍とほぼ同数、同じく約7万と言う地上戦力をアルビオン共和国は保持していると言う報告。
 しかも限界に近い連合軍と違い、未だ共和国軍は空の艦隊と地上の将兵を増やし続けている。
 その上追い討ちと言わんばかりにトリステインからの内通者まで、空を封鎖して干上がるのを待つと言う考えはピエールの中から無くなり始めている。
 攻めても勝てる確率は低いが、守っても勝てる確率も低くなっている。
 アルビオンの資金源は? また内通者が出るのでは? ピエールは話を聞かされて、そう言った多数の念が湧き上がってきていた。

 つまりは、攻めるも守るも共に悪手となり得る。
 その考えに至り、即答出来なくなっていた。
 考えを同じに攻める事を反対するか、考えを変えて攻める事に賛同するか。
 結局決めかねたまま、馬車はトリステイン魔法学院へと進んでいく。










タイトル「ご覧の寝台はルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの提供でお送りします」











 突然の訪問、慌てたのは勿論学院側だった。
 今は夏期休暇で生徒の大半は帰省、教師も同じように学園から出払っていた。
 学院の門の番をしてる衛兵は真っ直ぐと続く街道の向こう遠くから、異様に豪華な馬車と、急ぎ駆け足で走ってくる白馬を見た。
 馬、確かに馬、だが前足の付け根辺りから大きな翼が生えている、あれはただの馬ではなく幻獣の天馬、ペガサスだった。
 今日は誰かが尋ねてくるなどという連絡は受けていない、となれば学院の生徒かその親御かととりあえず身嗜みを整えてペガサスに跨って向かってくる男を見た。

「学院長は居られるか」

 それは身なりのいい男、腰に豪華な装飾が成された杖を挿して声を上げる。

「お、居られますが……」

 馬上でも背を真っ直ぐ伸ばし堂々として、門番のその返答を聞き要件を告げた。

「ラ・ヴァリエール公爵様とそのご息女様がお見えになる、至急学院長にお取次ぎを願う」

 それを聞いて門番の衛兵たちは目をむいた、やってきたのはトリステインで一二を争う大貴族。
 そんな大物がいきなりやってくるなど、衛兵たちはざわめき始めるが。

「静かにしろ! ただいま知らせてきますので、申し訳ありませんが門の外でお待ち頂けますようお願いしたい」

 衛兵の仲で一番の年長である、衛兵長が落ち着いた口調でそう言うが。

「学院長が遅くならなければ問題ない、出来るだけ早く知らせ迎えられる準備を」

 そう言った身なりのいい男、明らかに貴族だと思われる存在はペガサスを反転させ来た道を戻っていく。
 見送る衛兵たち、だがすぐに知らせるために門の内側に居た衛兵は走り出した。







「予想通りじゃったか」

 慌てて知らせに来た衛兵から話を聞き、一人杖を突きながら正面玄関へと降りるオールド・オスマン。
 末の愛娘が倒れたと聞けば飛んでくるだろうと、ルイズが学院へと入学する前に尋ねてきた公爵夫妻の状態から見て愛しておるのだろうと感じ取っていた。
 むしろ娘が倒れたと聞いて会いに来ない親では無いだろうと結局はオールド・オスマンの想像通りだったという事だった。
 カツンカツンと杖を突く音を鳴らして廊下を渡り、階段を下りる。
 早くミス・ロングビルの長期休暇終わらんかのーと思いながら、正面玄関から身を覗かせれば学院の正門を潜る馬車が見えた。

 オールド・オスマンは階段を下りて馬車が止まるのを待ち、暑いのーと一つ呟く。
 馬に引かれて惹かれて到着して止まる豪華な馬車、その馬車の周りには幻獣に乗った十を超える護衛のメイジたち。
 御者台から降りた小姓が素早く移動し、馬車の外から声を掛けて扉を開く。
 そこから降りてきたのは金髪の、初老に至る男。
 降りてオールド・オスマンと目が合うなり寄って一言。

「この度の突然の訪問、真に──」
「そんなもんはいらんいらん、礼儀を欠いたかもしれんが子を心配する親なら当たり前じゃ」

 ピエールが謝罪を述べようとした矢先、オールド・オスマンは気にする必要は無いと遮る。

「ほれ、わしなんかより大事な用があるじゃろう?」

 そう言ってオールド・オスマンは杖を正門から右にずれた方角へと向ける。
 杖の先には学生寮の塔、愛娘はあそこに居るぞと示していた。
 ピエールは頭を下げ、後に続いて降りてきていたエレオノールも同じように頭を下げた。

「わしの秘書が居れば案内させたんじゃが、長期休暇に入っておってな」

 それを見やった後にオールド・オスマンは寮に向かって歩き出す。

「無論、彼女を迎えに来たんじゃろ?」
「はい」
「では案内しよう」

 ピエールは神妙に頷き、進むオールド・オスマンに付いていく。
 それを見て同じく付いていくエレオノールはどうにも釈然としなかった。
 確かにオスマン氏はオールド、『偉大なる魔法使い』と呼ばれているが何が偉大かなど僅かにも聞いた事が無い。
 一見には飄々としたじいさんにしか見えない、だと言うのに比肩する存在が極めて少ないラ・ヴァリエール公爵家の当主である父までも敬う。
 どうにも納得できないが、父と同じように振舞い敬意を見せた。



 そんなエレオノールと違い、ピエールはゆったりと歩くオスマンの背中を見ていた。
 ピエールが敬意を払ったのは魔法の腕が凄まじいとか、その家柄などではなくオスマンの人間性に払った物。
 『約束を守っている』と言う一点に敬意を払っている、もう十年近く昔の約束を守り続けている点にだ。
 無論事が事、知られれば間違いなく末娘の未来は波乱に満ちる。
 なぜ末娘は貴族が貴族たる魔法を、それも大いなる始祖ブリミルと同一の属性を持ってしまったのか。

 それは光栄極まりない事、間違いなくトリステイン王家は始祖ブリミルの血脈を引いていると言う証明に他ならない。
 当然トリステイン王家との血縁関係である庶子、始祖ブリミルと同一の属性に目覚めてもおかしくはない。
 だがなぜ正当な嫡子であるアンリエッタ女王陛下ではなく、何代も前のトリステイン王の庶子と言う源流から外れている末の娘なのか。
 誇るべき誉れであるはずなのに、その偉大な属性によって迎える未来にピエールは心苛まれる。
 家族を愛するが故に、ラ・ヴァリエール公爵家と言う格式や身分が反発して苦しみを大きくする。

 なぜ系統属性ではないのかと。
 末娘から自身の属性が虚無だと知らされてから数日は、酒が入っていたとは言え妻であるカリーヌに泣き言を夜な夜な漏らして強く叱られた事もあった。

『父親であるあなたがそんな事でどうするの』

 と、杖まで取り出されて叱られた。
 勿論魔法を使う気など無かっただろうが、『烈風』と謳われた妻が杖を取り出すだけでも相当な脅しになる。
 何十年もの付き合い、若き日の魔法衛士隊から付き合っているのでその厳しさは身に染みている。
 魔法の技術とかではなく、精神的なもので妻に負けて頭が上がらなくなっていた。
 末娘はそんな妻の若い頃と似ており、あのピンクブロンドを後ろで纏めたら瓜二つと言ってよい。
 いや、もしかしたらルイズの方が美人かもしれない。

 その妻と同じ風、それかエレオノールやカトレアの土、あるいは自分と同じ水のどれかに目覚めて欲しかった。
 もう何年も前からそう考え、意味の無い事だと何度も繰り返してきた。
 いくら変更を願ったところで変わりはしない、だから必要最低限で留め表に出ないようにした。
 知る人物を最小限に、自身と妻のカリーヌ、トリステイン魔法学院長オールド・オスマン、そして本人のルイズのみ。
 それこそ王室にも知らせずにする事を決め、ルイズには無能などと陰口を叩かれるかもしれないが魔法を使わないようにと話せば一言目で了承した。

 初めは渋るかと、そう思ったがむしろ危ないからと言う理由で賛成してきた。
 あの頃は魔法を上手く使えず、カリーヌに叱られ泣きじゃくっていたルイズ

 
あの日、ルイズが高熱を出して寝込んだ時を境に一変した。
 子供らしくない、小さかった頃のエレオノールやカトレアとは全く違う、中身が入れ替わってしまったような印象を受けてしまった。
 年齢相応の無邪気さや明るさなどが鳴りを潜め、落ち着き払っていると言ってよかった。

 杖を握り、確固とした言葉で見た事も聞いた事もない魔法をルイズは私たちに見せた。
 これがあの私の可愛いルイズなのかと、父さまと呼んで抱きついてきたルイズなのかと。
 瞳には以前のルイズには無かった知性を宿し、私たちの子供である筈なのに瓜二つの別人を見ているような気さえした。
 戦慄した、虚無の覚醒とは心まで変えてしまうのか、子供を大人へと変え、修めていない知識までその身に与えるのか。
 あのルイズは、ルイズに似た別の存在だと思った方が納得が行ってしまうほどだった。

 私がそう感じ、考えてしまったというのに、カリーヌは断言した。

『あの子はルイズ、誰でもない私たちの娘。 あなたにはあのルイズが、本当に別人のように見えているの?』

 ルイズが私に自分の事を教えてくれたあの日、あの子は不安で瞳を濡らしていたのよ?
 私と繋いだ手を、あの子は絶対に離そうとしなかったの。
 そんな不安がっているあの子を、親として抱きしめて上げられないの?

 ルイズはルイズのまま、心は変わっていないとカリーヌは言った。
 私は上辺だけしか見ていなかったのか? あの子が熱を出す前とは違う、虚無の属性だと告げられ、理知的な振る舞いを見て気が動転したのではないかと。
 だからこそいつも通り振舞った、出かける時、帰ってくる時の挨拶のキス。
 それを求めず、いつも通りに振る舞って見せれば、歩幅を小さく動かして近寄り、いつもと変わらぬキスを頬に。
 そうして「いってらっしゃい、父様」、とルイズも変わらずに振舞うのだ。

 その顔はルイズのまま、虚無だと分かる前のルイズのまま。
 やはり自分は虚無だとなんだと言って、娘を色眼鏡で見ていたのかと。
 カリーヌの言った通り、ルイズは変わりなく私たちの娘であった。
 




 オールド・オスマン、ピエール、エレオノールの三人は女子寮に着き、入り口への階段を登る。
 女子寮内に入り、右手の螺旋階段を上る。

「ん? 何階じゃったかの?」
「………」

 オールド・オスマンは一階上る毎に廊下へと顔を出し、ルイズの部屋があるかどうかを確かめていく。
 それ三度ほど繰り返して。

「うむ、この階じゃ」

 と一言、廊下へと出て歩き出す。
 それに続くピエールとエレオノール、夏期休暇で多くの生徒が帰省しているのだろう誰ともすれ違わずに目的の階。
 その階層、ルイズの部屋がある階の廊下の先には見たことがない服を着る黒髪の少年と、少年とほぼ同じ身長の赤い髪の少女。
 廊下を歩いてくる三人に気が付き、視線を向けるのは才人とキュルケであった。

「おや、オールド・オスマンじゃありませんか。 こんな所に何の用で? っとまぁ見れば分かりますけど」

 そう言ったキュルケは丁寧にお辞儀をした、先頭のオールド・オスマンとその後ろの二人へと。
 それを前にピエールとエレオノールは嫌な顔一つせず礼を返す、如何に国境を挟んだ仇敵と言え、お互い形振り構わず食って掛かるほど礼儀知らずではない。

「ミス・ヴァリエールは部屋で寝てるんじゃろ?」

 オールド・オスマンは言いながらもルイズの部屋のドアに近寄るが。

「ちょっと待ってください、ルイズは今体拭いてもらってるんで」

 才人がオスマンを止める。

「……ルイズ?」

 それを聞いてギロリと、ピエールとエレオノールの鋭い視線が才人に突き刺さる。
 愛しの末娘を、妹を誰とも知らぬ平民から呼び捨てにされるなど放ってはおけない。
 今にも二人とも杖を引き抜き打ち首にしてくれる、そんな気配を放ちながら才人を睨む。
 一方睨まれる才人は、何なんだこの二人と余りの迫力に後退った。
 そこらのヤンキーとか目じゃないくらいに怖い、強面のヤクザさえ可愛げがあるんじゃないかと言うほど。

「なんじゃい、聞いておらんのか」

 そんな恐れる才人に助け舟を出したのはオスマン、その声を聞いてピエールはハッとし。
 渋い顔を作りながらも、睨むのを止める。
 その様子にエレオノールは不思議に思い、問いかける。

「……お父さま?」
「……そこの平民、名は」
「え、俺? 平賀 才人です……」
「……貴様が、か」

 ピエールは聞いていた、虚無が召喚するのは人間だと。
 始祖ブリミルも人を使い魔としていた、そうルイズが言ったのを思い出したのだ。
 そうしてピエールは才人を上から下まで、おそらくはそうなのであろうとはかるように見定める。

「………」

 才人の黒髪から服、履いている靴にドアの隣に立てかけてある二本の剣。
 なるほど、服装などはともかくどう見てもそこらに居るような平民にしか見えない。
 こんな小僧を何の相談もなく使い魔にしたのか、と少し残念がるピエール。
 痛々しい空気の中、状況がわからないだろうとオスマンが注釈を入れる。

「うおっほん、こちらはミス・ヴァリエールの父親じゃ、でこっちが姉君」

 恐ろしいほどの適当な説明に、エレオノールの表情が歪む。

「ルイズのお父さんとお姉さん?」
「……お父さん?」
「……お姉さん?」

 二人してピクピクとこめかみに青筋を立て、お父さんお姉さん呼ばわりした才人を見る。
 いつか迎えるだろうルイズの婿に呼ばれる事になる言葉を、それをどこぞの平民に呼ばれるなどと。
 ふつふつと怒りが沸いてくる、誰がお父さんだ! と今この場で手打ちにしたくなる気持ちを押さえつけたのはやはりオスマンだった。

「長引きそうかね?」
「も、もうすぐ終わるんじゃないんですかね……」

 内心びびりながらも才人は答える、始まったのは五分くらい前だし、と。

「シ、シエスター、まだ終わらないのか?」

 助けてくれと言わんばかりに扉の向こうに居る二人のうちの一人、シエスタに才人は話しかける。

『もうすぐ終わりますので、もう少しだけ待ってくださいねー』

 対照的に明るい声で返事をするシエスタ、早くしてくれと才人は切に願う。
 ピエールとエレオノールは才人を睨み、睨まれる才人はその視線で疲弊し、才人の隣に居た筈のキュルケはさっさと自室に戻っていた。

「……ところで」

 やっぱりギスギスした空気の中、オスマンが一言。

「ずいぶんと彼女は頑張っておるじゃないか」

 髭をさすりながら才人を見るオスマン。

「……そうっすね、すごく頑張ってると思います」

 そう呟く才人は視線を落とした。

「でも……、俺は頑張って欲しくないかなーって思うんですよね……」
「ふむ、ではどうするのかね?」

 才人的には頑張って欲しくない、いやまぁ今回の倒れた事は自分のせいだと思っているが。
 頑張っている、それは良い事だと才人は思う。
 でもなんか違う気がすると考えていた、その頑張る内容が才人を帰すためだと言われた。
 だがそれも違うと才人は感じた、帰るために女の子を傷付くほど頑張らせるなんてそれでも男かと。
 単純に頑張った、と言うか無理した結果が傷付く事なのが才人にとって嫌なわけだった。

「ルイズが頑張らないで良い様、俺が頑張ります」
「ほう……」

 自分が頑張ればルイズは頑張らなくて済むんじゃないか? と、短絡的な考えであったが、ただ見てるだけは嫌だからこその言葉。
 それを聞いたオスマンは破顔した、頑張ると言った才人の顔が以前よりも成長しているように見えたからだ。
 だがそれを遮る者、黙って聞いていたルイズの父であるピエールが割って入る。

「小僧、ルイズが倒れた原因を知っているような口ぶりだな」

 ずいっとピエールが前に出て、オスマンを追い越して才人の前に立つ。
 ピエールから放たれるのは他者、この場合才人を威圧するオーラ。
 オスマンは笑みを保ったままその光景を見つめ、エレオノールも肌を打つようなオーラを出して才人を見つめていた。

「私の小さなルイズが頑張る理由とはなんだ? 病気を患わず、怪我も負っていないルイズは何故倒れた?」

 杖を引き抜き、才人へと向ける。

「貴様がそうだとしても、あの子が苦しむというなら……」

 杖先に光が点る。

「分かるな、小僧」

 才人はごくりと息を飲み、これやばくね? と向けられた杖先を見て思う。
 俺のせいでルイズが倒れたとか言ったら、攻撃してくるんじゃ……。
 ピエールの顔を見て才人は気が気でない、下手な事を言ったらその瞬間魔法を撃たれるんじゃないかと冷や冷やしていると。

「これこれ、ここは女子寮じゃ。 魔法を使う事は許さんぞ」

 それを制し、腕を下ろさせるオスマン。

「苦しいのかどうかは本人に聞かんと分からんじゃろうが」

 視線を才人に戻し。

「彼女は辛いなどと言っておったかね?」

 そう聞かれて才人は首を横に振る。
 アルビオンに行った時は辛そうな表情を一切見せずに笑っていた、その他も苦しいとか辛いとか一言も言わなかった。
 せいぜい魔法を使って疲れた、才人が聞いたのはそれ位しかない。

「ならば父親とは言え、不用意に娘の物事に首を突っ込めば嫌われるかもしれんの」

 ピエールは一度オスマンの顔を見て、杖を収める。
 結局は脅し、ルイズの為にならないのであれば容赦なく葬ると言う脅し。
 ピエールにとって優先すべき事は何処の誰かも知らぬ少年より、愛する娘、家族たち。

「確かに」

 最後にもう一度だけジロリと才人を見て、後ろに下がるピエール。
 何とか命の危険を通り過ぎた、冷や汗が止まらねぇよと今すぐにでもこの場から逃げ出したくなっていた才人。
 だがそれも不要となる、ガチャリとドアが開いて中からシエスタが現れた。

「終わりましたー……?」

 才人、オスマン、ピエール、エレオノールと見て言葉を途切れさせた。
 ピエールはそんなシエスタを一遍して、部屋へと足を進める。
 シエスタはシエスタで、豪華な衣服を纏うピエールを見て位の高い貴族だと把握。
 頭を下げつつドアから引いて、室内へと戻って壁際へと下がる。
 もう一人、ベッド脇でしゃがみこんでいたマロンブラウンの少女、同じくすぐに立ち上がって壁際に引いた。

「……ルイズ」

 ピエールがベッドに横たわる少女、娘であるルイズを見て一言。
 エレオノールも一度才人を睨んで部屋の中へ、ベッドの傍によってしゃがむ。

「異常は無いそうじゃ、一応秘薬を使ったヒーリングを掛けておる」

 同じくドアの敷居をまたいでオスマン、才人は部屋の外から三人の様子を伺っていた。
 エレオノールは一度ルイズの手を握った後、立ち上がってピエールへと譲る。
 入れ替わりにピエールがベッドの傍に立ち、ルイズの右手を取った。

「……確かに、異常は無いようです」

 水のスクウェアであるピエールは、乗せるように取ったルイズの右手から体内に流れる水を見ての判断。
 結果は少々水の巡りが悪い、体調で言えば少々疲れているといった程度。
 この分なら数日以内には目を覚ますだろうと、安堵の息を漏らす。

「それではオールド・オスマン」
「うむ」
「エレオノール」
「はい」

 ピエールに呼ばれたエレオノールが杖を取り出し、ベッドで眠るルイズにレビテーションを掛け浮かばせる。
 宙に浮くルイズを動かし、腕を出すピエールの胸のうちへとゆっくりと下ろす。
 そうしてルイズを抱きかかえるピエールは踵を返して部屋を出た。
 ピエールがルイズの自室から出て、廊下に佇んでいた才人に向かって一言。

「平民、お前も来るのだ」

 強く見られ、ルイズを連れて行くというなら無理やりにでもくっ付いていこうと思っていた才人に断る理由は無い。

「わ、わかりました」

 ピエールに向かって頷き、腕に抱えられるルイズを見た。
 そうしてピエールは廊下を進んで、階段を下りていく。
 一方、まだ部屋の中に居たエレオノールは。

「そこのメイド」
「はい!」

 と、ルイズの世話をしていた二人、シエスタと以前ルイズが足の治療費を出した少女マリー。
 その二人のメイドを見据えて一言。

「道中の侍女を務めなさい、良いわね」
「は、はい!」

 シエスタとマリーは強く頷いた、有無を言わせない迫力。
 それ以前に反論する事など僅かにも許されない、それが本来の平民の在り方。
 気軽に話しかけるのも一緒に食事を取るのも、ルイズが特殊どころか特異だからだ。

「………」

 エレオノールはカツンカツンと歩き出して部屋を出る。
 語る事も無いエレオノールは、才人がまるで居ないかのように振舞ってピエールの後を追う。
 それを見送って才人は大きく溜息を吐いた。

「……はぁ~、あれが大貴族って奴かよ……」

 疲れた、すっごい疲れた。
 魅惑の妖精亭で皿洗いしてるよりよっぽど疲れたと才人。

「サイトさん、急ぎましょう! 待たせたりしたら大変な事になりますよ!」

 そう言ったシエスタがばたばたと駆け出して才人の隣を通り過ぎた。
 その後にもう一人のメイド、マリーがシエスタの後に続いて走っていった。

「……と言っても準備なんて何すりゃいいんだろ」
「着替えくらいでいいんじゃねぇのか?」
「あーまー、そうだな」

 とりあえずズボンとかトランクスをバッグに詰めときゃいいかと、部屋に入る才人。

「うーむ、親ばかに磨きがかかっとるの」

 まだ部屋に残っていたオスマンが一言。

「余り気にする事でもないじゃろう、あ奴にとって大事な娘じゃからの」

 家族だから心配しとる、ガンダールヴも心配しとるじゃろ?
 そう聞かれた才人は頷いた。

「誰も彼もミス・ヴァリエールの事を心配しとる、良い事じゃ」

 オスマンは笑いながら、ルイズの部屋を出て行った。
 心配してくれる人が居るってのは良い事だ、……今頃母さんは俺の事心配してくれてるのかな。
 親の心を見た才人は、唐突に自分の母親の事を思い出していた。







 そうして三人、才人とシエスタとマリーは大急ぎで支度を整え、学院正門まで駆けつける。
 そこに並ぶのは十台を越える馬車がずらりと停まっていた。
 元から連れてきたであろう従者が三人を呼び付け、ピエールから命じられた内容を話す。

「二人のメイドはルイズ様のお世話を、そっちの君は馬車の中でじっとしていろとの事です」

 簡潔だった、才人には指差しであの馬車と、シエスタとマリーにはルイズが寝ている寝台馬車へと案内。
 一人残された才人はとぼとぼと指差された馬車へ向かい、誰も乗っていなかった馬車に一人寂しく乗った。
 一方、大きめの馬車の二倍ほど長い寝台馬車の前に案内されたシエスタとマリーは、その豪華さに息を呑んだ。
 ああ、やっぱりルイズ様は大貴族のご息女なんだ、と。
 いつも気軽に話しかけられ、隔てなく接するルイズは否定できないほどの貴族である事を思い出した二人。

 そんな中見蕩れていては出発できないと、早く寝台馬車に乗るよう急かされる。
 失礼しますと扉を開いて二人が馬車の中に入れば、快適そうな寝台の上にはルイズが眠っていた。
 その寝台のすぐ脇にはエレオノール、入ってきた二人に視線を向け。

「良いこと、ルイズの世話は逐一よ。 体を拭くのは日に三回、朝昼夜よ」

 体を拭いて着替えさせ、目を覚ましたらすぐに知らせる事!
 そう強くシエスタとマリーに言って、そのツリ目で見られた二人は。

「はい! お任せください!」

 軍人であれば敬礼しそうなほど、ピンっと背筋を伸ばしてエレオノールに返事をする。

「もし一度でも怠ったらただでは済まないと思いなさい」
「はい! 畏まりました!」
「タオルケットなどはそこの棚、水はその隣にある貯水槽についてる弁を右に回したら出てくるわ」
「はい!」

 その返事に満足したのか、たったそれだけの説明でエレオノールは寝台馬車から降りて行った。
 扉が閉まり、シエスタとマリーはお互いを見合わせた後、寝台馬車の中を確かめ始めた。
 まずは言われた通り、棚の中にあったタオルケットなどを確かめ、貯水槽もちゃんと水が出るかどうか確かめる。
 そして余り見られない陶器製の洗面器、桶も備え付けられてある。
 間違いなく高級な仕様、この寝台馬車にどれだけの金貨が使われているか二人には想像も付かない。

 とりあえずルイズの世話を、と思うのだが既に学院でルイズの体を拭いて着替えさせている。
 結局二人が出来る事と言えば、ルイズがいつ目を覚ましても良い様に準備をしておく事だけだった。





 まったくと言っていいほど揺れない寝台馬車、その中で数時間過ごして二人は窓から山の向こうに沈んでいく夕日を見た。
 小さな寝息を立てるルイズと、やる事無く椅子に座ってルイズを見る二人。
 数時間おきの休憩で、その度訪れるピエールとエレオノール。
 その間は席を外し、馬車の中で座りっぱなしで暇だーと嘆く才人と話したりするなど。
 そんなこんなで何度か休憩を挟みつつ、ラ・ヴァリエールの領地へと進んでいく。

 夕日が落ちてから数時間、ラ・ヴァリエールの従者、近侍や侍女たちが夕食の準備を進めていたりとする中。
 手伝うべきシエスタとマリーに手伝いは必要ない、ルイズ様の世話だけを見ていてくれと断られてやはりやる事が無い。
 結局用意してもらった食事と才人と一緒に取り、寝台馬車の中で眠っているルイズを見つめる。

「もうそろそろ体を拭いた方が良いわね」
「はい」

 シエスタが言ってマリーが頷く、学院を出発したのは昼過ぎ。
 あと二時間とせず馬車の進行は止まり、就寝の時間となる。
 その前にはルイズ様のお体を拭いておかなくちゃと、水を汲んでタオルを取り出す。
 馬車の扉の前にあるカーテンを引き、同じように窓についているカーテンを引いて閉じる。
 馬車内は魔法のランプの光で灯され、二人はテキパキと用意を整えた。

 シエスタはルイズに掛けられているブランケットを取り除き、マリーは寝台に膝を乗せてルイズのうなじに腕を回す。
 マリーによって上半身を起こされたルイズに、シエスタはネグリジェを裾から上げていき、両腕を上げて脱がす。
 下着だけとなったルイズを、濡らしたタオルで全身を満遍なく拭いていく二人。
 最後に下着を脱がせて、新しいものには着替えさせた。
 所要時間は十分も掛かってはいない、小さいとは言え完全に力の抜けた人を十分足らずで全身清拭を行うのは手馴れたせいか。

 そうしてこの日最後になっただろうルイズの世話も終わり、後は寝るだけという所になって。

「……やっぱり起きてなきゃいけないのかな」
「ミス・ヴァリエールがいつ起きるか分かりませんし……」

 エレオノールはルイズが目を覚ましたらすぐに知らせる事と言っていた。
 それは深夜であっても知らせるべき事であり、世話係を命じられた二人はすぐ知らせる事が出来るように起きておかなければならない。
 基本メイドは早寝早起き、日が落ちたら数時間で就寝に付き、日が昇る前に起きる。
 つまり日が落ちている現在、あと一時間二時間もすれば間違いなく睡魔が襲ってくる。
 二人はこの事に早く気が付いておくべきだったと後悔しつつ、二人とも起きておくのは難しいので交代で寝ましょうという事になる。

 才人も交えればもっと楽になるが、眠っているルイズに近づくなと直々に言われたので寝台馬車に近づけなかったりする才人。

「マリー、三時間で起こすから」
「私が先でも構いません」

 そう強く言うマリー、だがシエスタは首を横に振る。

「マリー、私はまだ眠くないからね」

 そういうシエスタは休日になれば、たまにだが夜更かしをする事もある。
 前の休日に買った小説を読んだりして、日が変わっても起きている事もあった。

「……わかりました」

 一方のマリーは今年で15歳になる、ルイズよりも年下の本当の意味で子供。
 日が変わるまで起きているのは相当に辛いはず、そういう理由もあり少しでも睡眠を取っておけば三時間は持つだろうとシエスタは考えていた。
 マリーはゆっくり頷き、ルイズが寝る寝台とは別の、今のような侍女が世話をする際に使うのであろう、馬車後部にある小さな寝台に寝る。
 そうして数分とすれば、ルイズとは別の小さな寝息が聞こえてきて、シエスタは小さく笑う。

「さてと」

 シエスタは立ち上がって桶に水を汲む、起きている事を決めたとは言え不意に睡魔が襲ってくるかもしれない。
 それを防ぎ眠気と飛ばす為に洗顔用に水を汲む、眠くなってきたらその都度顔を洗おうと用意していた。
 そうして一時間、二時間と経った頃、扉からコンコンとノックの音。
 シエスタは立ち上がり、誰だろうとカーテンを少しだけずらす。
 そのずらしたカーテンの向こう、窓には一人メイジが立っていた。

「どうかなされましたか?」
「公爵様から警備のついでに、お前たちが寝ていないか確かめろとな」

 もし二人とも寝ているなら、たたき起こすつもりだったのだろう。

「ミス・ヴァリエールが目を覚まされたらすぐにでもお知らせする為、眠るなんて出来ません」
「分かってるならそれで良い」

 そう言って護衛のメイジは馬車から離れていく。
 シエスタは扉を閉めて、カーテンも閉じる。
 起きていて良かったと改めて思い直す、寝ていたら無理やり叩き起こされて罰せられるかもしれないと安堵した。
 それからさらに一時間ほどして、三時間が経ったのを壁に掛けられている時計でシエスタは確認する。
 交代の時間を過ぎたが、余り眠くないのでもう少しマリーを寝かせて置いてあげようかなと。
 そう思って椅子に座りなおして、シエスタはルイズの顔を見た。

「……ルイズ様?」

 シエスタが目にしたのは、閉じられていた瞼がゆっくりと開いていたルイズの顔だった。


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