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No.4708の一覧
[0] 歩く道先は 憑依・TS有り (旧題 ゼロの使い魔、憑依物?テスト)[BBB](2010/02/12 04:45)
[1] タイトル、なんにしよう・・・ 1話[BBB](2010/06/17 04:00)
[2] 以外にご好評で・・・ 2話[BBB](2010/06/17 04:00)
[3] 今回は前二つより多め、しかし原作なぞり 3話[BBB](2010/06/17 23:10)
[4] まずは一本立ちました 4話[BBB](2010/06/17 23:10)
[5] 大体15~20kb以内になっている・・・ 5話[BBB](2010/06/17 23:10)
[6] まさかの20kb超え 6話[BBB](2010/07/04 04:58)
[7] 区切りたくなかったから、25kb超え 7話[BBB](2010/07/04 04:59)
[8] 14kb位、そういうわけで原作1巻分終了の 8話[BBB](2010/08/21 04:01)
[9] 2巻開始っす、しかし7話は並みに多く 9話[BBB](2010/07/04 05:00)
[10] やばいな、中々多く…… 10話[BBB](2010/07/04 05:01)
[11] 区切りたくないところばかり 11話[BBB](2010/10/23 23:57)
[12] 早く少なく迅速に……がいい 12話[BBB](2010/10/23 23:57)
[13] やっぱこのくらいの量が一番だ 13話[BBB](2010/10/23 23:58)
[14] 詰まってきた 14話[BBB](2010/10/23 23:58)
[15] あれ、よく見れば2巻終了と思ったがそうでもなかった 15話[BBB](2010/10/23 23:59)
[16] こっちが2巻終了と3巻開始 16話[BBB](2010/08/21 04:07)
[17] これはどうかなぁ 17話[BBB](2010/03/09 13:54)
[18] 15kb、区切れるとさくさく 18話[BBB](2010/03/09 13:53)
[19] 区切ったか過去最小に…… 19話[BBB](2010/03/09 13:57)
[20] そんなに多くなかった 20話[BBB](2010/08/21 04:08)
[21] ぜんぜんおっそいよ! 21話[BBB](2008/12/03 21:42)
[22] 休日っていいね 22話[BBB](2010/03/09 13:55)
[23] 詰めた感じがある三巻終了 23話[BBB](2010/03/09 05:55)
[24] これが……なんだっけ 24話[BBB](2010/10/23 23:59)
[25] 急いでいたので 25話[BBB](2010/03/09 03:21)
[26] おさらいです 26話[BBB](2010/01/20 03:36)
[27] 遅すぎた 27話[BBB](2010/03/09 13:54)
[28] 一転さ 28話[BBB](2009/01/10 03:54)
[29] スタンダードになってきた 29話[BBB](2009/01/16 00:24)
[30] 動き始めて4巻終了 30話[BBB](2010/02/12 04:47)
[31] 4巻終わりと5巻開始の間 31話[BBB](2010/03/09 05:54)
[32] 5巻開始の 32話[BBB](2010/10/23 23:59)
[33] 大好評営業中の 33話 [BBB](2010/08/21 04:12)
[34] 始まってしまった 34話[BBB](2010/08/21 04:09)
[35] 終わってしまった 35話[BBB](2010/02/12 04:39)
[36] まだまだ営業中の 36話[BBB](2010/01/20 03:38)
[37] 思い出話の 37話[BBB](2010/01/20 03:39)
[38] 友情の 38話[BBB](2010/02/12 04:46)
[39] 覚醒? の 39話[BBB](2010/08/21 04:04)
[40] 自分勝手な 40話[BBB](2010/08/22 01:58)
[42] 5巻終了な 41話[BBB](2010/08/21 04:13)
[43] 6巻開始で 42話[BBB](2010/10/24 00:00)
[44] 長引きそうで 43話[BBB](2010/10/24 01:14)
[45] あまり進んでいない 44話[BBB](2011/11/19 04:52)
[46] 昔話的な 45話[BBB](2011/11/19 12:23)
[47] もしもな話その1 このポーションはいいポーションだ[BBB](2010/08/21 04:14)
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[4708] まずは一本立ちました 4話
Name: BBB◆e494c1dd ID:b25fa43a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/17 23:10





「早く知らせなければ……」

 早足で廊下を歩み、大事そうに本を抱える髪が薄い中年男性。
 コルベールは学院長室へ向かっていた。

 コルベールが早足で向かっている学院長室は本塔の最上階。
 その室内で白い口ひげと髪を揺らす老人、オールド・オスマン。
 威風堂々、貫禄を持って座るオールド・オスマンから5メイルほど離れた、入り口近くの机でペンを走らせ続けている深緑の髪を持ったミス・ロングビル。
 ふと、ペンが紙の上を走る音だけが響いていた室内に、人の声が響いた。

「オールド・オスマン、使い魔を使って私の下着を覗こうとするのは止めてください」

 ロングビルのヒールの下、小さなハツカネズミが潰れない程度の力で踏まれていた。

「むぅ!」

 クワっと表情が険しくなり、本当に老人か? この男と思えるような速度で杖を振り。
 『レビテーション』の魔法でほんの少しロングビルの足を浮かせて、ねずみとヒールの隙間を作る。
 これまた本当にねずみか? と思う速度で駆け抜けた使い魔『モートソグニル』。

「おお、おお。 あぶないぞい、モートソグニル。 人の足元をうろついてはいかんと言うとるじゃろ?」

 と白々しく言った。

「……白か、ミス・ロングビルには黒が似合うと思うんじゃがの……」

 ルイズが聞けば『いや、白もありだろ』と言い出しそうだが、生憎と学院長室には居ない。
 それを聞いたロングビルは机の引き出しから一通の書簡を取り出し、ペンを走らせ始める。

「下着を覗かれたぐらいでカッカしなさんな、そんなんじゃから婚期を逃すんじゃぞ」

 ロングビルがペンを走らせている書簡は王宮一直線の代物である。
 それを止めることはせず、飄々と笑い続ける。
 ロングビルは、『もう王宮への書簡じゃ止められないか、お暇しようかね……』とかなんとか思っていた。
 そんなオスマンの王宮をも恐れない態度にロングビルは疲弊していると、入り口が突如開かれてコルベールが入ってくる。

「オールド・オスマン! 失礼します!」
「なんじゃい、ミスタ……」
「コルベールです! ここ、これを!」

 コルベールが突き出すように見せた一冊の本、教師しか利用することを認められていない『フェニアのライブラリー』から持ち出してきた古い書物。
 それを見てオスマンは、ほんのわずか、もしそれを見ていれば誰であろうと震え上がるような、強烈な光を瞳に宿していた。
 瞼を細め、いつもどおりの表情へ戻してコルベールへ問う。

「この本がどうかしたのかね? まーたこんな古臭い物を漁りおってからに……」
「これです! このルーンです!!」

 コルベールは大いに興奮しており、オスマンの言葉を遮る。
 その本の題名は『始祖ブリミルと使い魔たち』と書いてある。
 本を開き、ページを捲って指を刺す。
 そこには『ガンダールヴのルーン』と書かれたページ。

「はぁ、全く君は……人の話を聞かんかい!」
「う、す、すみません……」
「ミス・ロングビル、すまんがコルベール君に紅茶を注いではもらえんかね」
「はい、お持ちします」

 椅子から立ち上がり、早足で部屋を出る。
 それを確認してオスマンが口を開いた。

「それで、おぬしは何を見つけたのじゃ?」
「はい! 恐らく『虚無』──」

 オスマンはさらに目を細めて、そのページに目を落とした。













タイトル「今なら無料でチート能力をお付けします」














 才人に机を運んでもらい、水を絞った布で爆風で付いた煤を拭き取る。

『机運ばせてすまんな』
『これくらいなら大丈夫っすよ』

 それこそ教室全体をぼろぼろにしていれば、一つ位文句も出ただろうが運んだのは教壇一つのみ。
 意外に常識が無い……、異世界に自分の世界の常識を求めても帰ってこないだろうが。
 そんな奴らが慌てふためく姿を見て、なんとも言えぬスッキリ感が有った才人。

『窓は……、俺たちじゃ無理だろ……』

 どう見ても3メイルを超えている窓ガラス、才人が俺を肩車しても一番上に届かんぞ。
 一方才人は女の子を肩車、それも良しと考えていなくも無かった。

『どうすんだ、ぜってぇ届かないと思うけど』
『用務員さんにでも頼むわ』
『俺たちがやるより、そっちの方が良さそうだ』
『それじゃあ飯だな』

 飯ばっかり食ってる気もするが、そろそろイベント発生するはずだから食堂に行かなくては。





「ちわー、三河……じゃない、こんにちはー」
「はい、何か御用でしょうか?」

 才人が食堂の裏口から訪ね、それに対応したのはメイド服を纏った少女。
 黒髪と黒目に、髪を纏めるカチューシャが印象的で、笑顔が可愛らしい少女の名は『シエスタ』。

「……えー、手伝って来いって言われまして」

 ルイズいわく、『才人がやらなくてはいけない事』だそうで。
 何かあるのだろうか、まぁやらなくてはいけない事ならやるしかないが。
 しかし、こんな可愛い子が居るなんて聞いてないぞ!

「えっと、どなたにでしょうか?」
「あールイズです、ルイズ・ドラ……ゴン?」
「ルイズ様ですか? ……もしかして、ルイズ様の使い魔になったって言う……」
「あー、俺のことでしょうね」

 春の使い魔召喚で、人間を召喚したのはルイズのみ。
 言い方を変えればルイズだから、人間こと俺を召喚したらしい。

「お名前を聞いても……」
「平賀 才人、サイトって呼んで良いよ」
「サイト……さん、変わったお名前ですね。 私はシエスタっていいます、よろしくお願いしますね」

 そりゃあ変わってるだろう、出身はどこかと聞かれれば東方と答えれば万事OKらしいし。
 そういや、平民に苗字は無いって聞いたけど、彼女も『シエスタ』で終わりなのだろうか。

「それでさ、手伝える事って無いかな?」
「助かります、貴族様方にお配りしますので、それを手伝ってください」
「わかった」

 才人は頷き、デザートが入っている箱に手を掛けた。





『しかし、アニメ基準だから困る』

 何がって? シエスタの事。
 ソバカス無いんだよなー、原作より可愛いし、ジュール・ド・モットが連れて行ったの頷ける。
 そう思いながら、大小様々な皿に盛られた料理を小分けして取り、口に放り込む。
 マルトーさんの料理は美味いが、さすがに毎日はキツイ。
 つか、出された料理の8割くらいは残されてるのが信じられん。
 米の一粒一粒にはな、仏様が宿って(以下略。

「デザートいかがっすかー」

 と、腑抜けた声が聞こえてきた。
 視線をやるまでも無く才人の声であって、原作通りに事が進んでいるようだ。
 見つかると止めろと言われかねないので、食堂の隅に移動する。

「いかがっすかー、デザート」
「一つ貰おうか」

 バッ、と金色の前髪を掻き揚げながら言ったのは噛ませ犬1号。
 胸ポケットに挿していた薔薇を右手で取り、才人へ向けた。
 さすがギーシュ! 恥ずかしくて俺にはできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!
 本気であれが格好良いと思ってるなら、良い水メイジが居る病院を紹介したい。

「どぞー」

 『うわぁ……、恥ずかしくないのかこいつ?』とか思いながらデザートを皿に取り分けて、ギーシュの前に置く才人。
 
「なぁギーシュ、いい加減教えてくれよ。 お前が誰と付き合ってるのかさ」
「付き合う? フッ、この身は薔薇、不特定多数の女性を喜ばせる為にあるのでね」

 すげぇ……、原作でもここまでの発言してたか?
 ひたすら料理を口に入れながら、聞き耳を立てる。
 才人は才人で、近くに居たら馬鹿がうつりそうなので移動し始めるが、甲高い、ガラスが割れるような音が聞こえた。

「あ」

 才人が足元を見てみると、ほんの小さな、紫色の水溜りが出来ていた。
 それと同時に香ってくる、紫色の水溜りの正体は香水。

「……ん?」

 その香りに気が付いたギーシュは振り返って才人を見た。
 顔、胸、腰、足、そして足元と順々に視線を落として才人が踏んでいる物を見つけた。

「……いや、まさか……」

 立ち上がり、ゆっくりと才人に歩み寄る。

「……平民、その右足を上げたまえ」

 才人は言われたとおり、ゆっくりと足を上げると……。

「……ま、まさか……これ……は」

 ん? 踏んだっぽいな、という事はアニメ基準だったか?
 と視線を上げれば、ギーシュと才人が見えた。
 ……あれ、シエスタは?
 見れば、全く離れた場所でデザートを配っていた。

「………あれ?」

 ん!? 間違ったかな?
 なんか色々と。

「……平民、君は……なんて事を」
「ん? この香り、確かモンモランシーが特別に作ってる香水じゃ無かったか?」
「確かに、この鮮やかな紫色は自分用の特別な香水だったような」
「そうかそうか、ギーシュはモンモランシーと付き合ってるんだな! そうだろ?」

 ……ミスった、シエスタは二次創作の方だったか。
 如何せん、二次創作のほうを読みすぎて原作と混同していたらしい。
 手元に原作あればなぁ、と無理なことを思っていた。
 結果的に見れば、この次にギーシュは『決闘だ!』と言い出すだろうから問題なし、進路オールグリーン。

「けっ「ギーシュ様……」ケ、ケティ……」

 お、始まった。
 決闘だ! と叫びだそうとしたギーシュを遮ったのは栗色の髪をした、ケティと呼ばれた少女だった。

「やっぱり、ミス・モンモランシーと……」

 涙が今にもこぼれそうな瞳、女の子の涙は武器になると言うのは本当です。

「いいかいケティ、キミは誤解している。 僕の心の中には君しか居ない、決してモンモランシーではなくて……」
「へぇ、私じゃなくて、その子が心の中に居るのね」

 後ろから来るぞ、気をつけろ! もう遅いが。
 極上の笑顔でギーシュの背後に立つのはモンモランシー。

「や、やあ、モンモ──」

 言い終える前にテーブルに置いてあった、ワインが入っているカップを手に取り、振り返ったギーシュの顔面にぶちまけた。

「私しか居ないって言ったくせに、うそつき!」

 涙目で走り去るモンモランシー。
 そしてもう一人、ケティはボロボロと涙を流しながら。

「ギーシュさま……、さようなら!」
「ぶっ」

 モンモランシーと同じようにワインを叩きつけるようにぶちまけ、走り去る。

 こ れ は ひ ど い

 最後のとどめは鮮やかに──。

「二股を掛けたお前が悪い」

 才人が掻っ攫って行った。
 途端に笑いが起こり、次々とギーシュに声を掛ける友人たち。

「その平民の言うとおりだ、ギーシュ!」

 わははーと良い感じに酔っている奴ら。
 昼から酒飲むなよ……、午後の授業どうするんだ?

 拭く物が無く、ぼたぼたと髪から滴り落ちるワイン。
 ゆっくりと振り返って、足を組みながら座るギーシュ。

「いいかい、給仕君。 事の始まりは君が香水ビンを踏み割ったからだろう? もっと周囲に気を配ることは出来なかったのかね?」
「知るかっての、大体お前が二股掛けなけりゃこんな事にはならなかったんじゃねぇの? あと給仕じゃねぇし」

 至極尤も、反論の余地無し。





「……ああ、君か。 あのゼロのルイズが召喚したという平民は、道理で貴族に対しての礼を知らないのか。 悪かったね、君の無能なご主人様に言っておくから下がりたまえ」

 カチンと来た、何も知らない癖してルイズを無能と言うのかこいつ。
 才人のこめかみには一本の青筋が走っていた。

「うるせぇよナルシストが、ワインに溺れて溺死しろ」

 その言葉にギーシュもカチンと来た。

「やはり無能のようだな、ゼロのルイズは。 たかが平民一匹の躾も満足に出来ないとは」
「言ってろよ、キザ野郎。 そのゼロに劣る癖してよ」
「……もう一度言ってみたまえ、死にたければな」
「良いぜ、言ってやるよ。 一生その薔薇でもしゃぶってな、お坊ちゃま」



 売り言葉に買い言葉、ガタンと、椅子を倒しながら立ち上がったギーシュ。
 それに対して両腕を上げて構える才人。
 なんか原作よりひどくね?

「ほら、掛かって来いよ。 薔薇貴族」

 一触即発、ギーシュは辺りを見回して。

「……フッ、食堂を平民の血で汚すのは無粋だ。 僕と戦いたければヴェストリの広場まで来ると良い」

 踵を翻し、食堂から出て行くギーシュ。
 顔が赤くなっているギーシュの友人は『決闘だ決闘だー!』と叫びながら後を追った。
 2人ほど残り、才人を睨み付けるように見張っている。

「サ、サイトさん……、殺されちゃう……」

 才人が押していた台車を、自分のも含めて押しながら逃げるように走り去っていくシエスタ。
 まー、その後姿が可愛い事。
 
「なぁ、ヴェストリの広場って何処だ?」
「は、付いて来い、平民」

 やっと決闘の始まりだ。

 ……しかしこのウインナーうめぇな。











 ヴェストリの広場、『火』と『風』の塔の間にある中庭。
 あまり日が差さない、日中でありながら陰っている場所であり、教師の目を逃れやすい所でもあった。

「諸君! 決闘だ!」

 両腕を上げて宣言したギーシュ。
 それと同時に右手に持っていた紅い薔薇が、少しだけ光を灯していた。

「やあ、無能のルイズの使い魔君。 逃げずに来た事を褒めてあげよう」
「うるせぇよ、さっさと始めようぜ」
「フッ、ならば始めよう」

 ギーシュが言い切った時には、才人は駆け出していた。
 先手必勝! とは言わないが、先に攻撃を加えることが出来れば有利に働く。
 それを理解しての速攻、ズンズンとギーシュとの差を埋める才人。

「さすが平民、低俗だな」

 紅い薔薇を一振り、花びらが地に落ちると同時に、高速で地面の土が盛り上がった。
 物の1秒も無い、美しい装飾がなされた金属製の鎧がそこに生まれた。

「なんじゃそら!?」

 その威容に驚いた才人は足を止める。

「冥土の土産に教えてやろう、僕は『青銅』、青銅のギーシュ・ド・グラモンだ。 野蛮な平民を殴る拳を持ち合わせていない物でね、僕の『ワルキューレ』がお相手しよう!」

 言うが速し、一気に踏み込んできた女戦士の鎧、ワルキューレの拳が才人の腹に突き刺さった。

「ガッ!?」

 くの字に体が折れ曲がり、追撃にワルキューレのひじが才人の背中を打った。

「グウアッ!」

 大きな苦悶、腹と背中に燃える様な熱と痛みが走る。
 地に倒れ伏し、唸る様に痛みの声を抑える。

「ん? もう終わりかね、平民。 あれだけ啖呵を切っておきながらその程度では有るまいね?」
「ッ……、馬鹿言うなよ、もやし野郎」

 ゆっくりと起き上がろうとした才人。
 だが、それを止めたのはワルキューレの蹴りだった。

「ガアッ!」

 二転三転、咳き込みながら蹲る才人。

「ふぅ……、今謝るならこの程度で許してやろうじゃないか」

 たった3回の攻撃、これが人間の拳や足だったのなら起き上がれただろう。
 だが、それを打ったのは金属製のゴーレム、人の体より高い硬度を持つ打撃は人のそれと比べられない。



「だれ……が」

 いてぇ……、めちゃくちゃいてぇ……。
 このまま謝ってしまうのも良いかもしれない。
 そう思って、その考えを消した。
 何も知らないで人を馬鹿にする奴はむかつく、妙な正義感だよな……。
 内心笑いながら、ゆっくりと立ち上がる。

「来いよ、お人形ごっこに付き合ってやる」
「………、よく言った」

 ギーシュは瞼を閉じて、一瞬だけ考えた。
 魔法を使えない平民の癖にして、貴族によく啖呵を切った、と。
 先の暴言、それを一瞬忘れてギーシュは思い直った。

「気絶してしまえば、君が言うお人形ごっこに付き合えないだろうね」

 薔薇を構え、振ろうとした時。

「まだ終わるのは早いわよ」

 才人の目前に剣が突き刺さった。
 突き刺さった長剣と、それを持ってきたと思われる少女の声にその場に居た誰もが振り返った
 桃色の髪と、マントをなびかせて現れたのはルイズ。

「おお、ルイズ! 君の躾がなっていない使い魔を少し借りてるよ」
「ええ、これくらいなら幾らでも貸してあげましょう」

 そう言ったルイズの言葉にギーシュは眉を潜めた。

 『これくらい』

 どれほどの痛みか分かっているのだろうかと、ギーシュはルイズを見て思った。
 少なくとも立つのに何十秒と掛かるほどの痛みを感じているだろう平民、それを前にして……。

「さぁ、才人。 準備は整ったわ」
「ッ……ああ」

 苦しげにも、響くような返事を返した平民。

「良いのかね、ルイズ。 これから先は止められないよ?」
「ええ、止める必要なんて有りはしないもの」

 ルイズは才人を見て。

「立ちなさい、サイト!」
「ッ勿論……!」

 ゆっくりながら立ち上がる才人。
 剣を前にして、左手を伸ばす。

「さぁ、構えて」
「………」

 言われるがままに。

「あごを引いて、脇を閉めて、足は肩幅に」

 言われたとおりに、動く。

「そう、それで良いわ」

 ルイズは高らかに笑って命を下した。

「叩き切りなさい! サイト!」
「応ッ!!」

 先に感じていた痛みはまるでなく、体は羽のごとく。
 その踏み込みは疾風、その斬撃は強細風。
 その威容は、戦う者のそれ。

「なッ!?」
 
 ワルキューレを上回る速度で掛け、一閃。
 ギワン、と奇妙な音とともに袈裟切りに両断された青銅は、脆くも崩れ落ちる。

「ッ!」

 たった一体しか居なかったワルキューレ、それを両断され。
 平民と自分の間にあるのは空気のみ、あわてて杖を振る。
 花びらが空中で変形、質量が増大して先に切り捨てられた女戦士の鎧と化した。

「とろい!」

 今度は素手ではなく、各々武器を持っていたワルキューレ。
 だが、幾分か軽かった素手のワルキューレを超える速度で動く才人に、死重の武器を持ったワルキューレが反応できる訳もなく。
 忽ち2体が切り裂かれる。



「ば、ばかなッ!?」

 この変わり様はなんだ!?
 本当に、先ほどワルキューレの攻撃に打ちのめされていた平民か!?
 余りの変わり様、今ワルキューレを叩き切ってる存在がまるで違う物に感じていたギーシュ。

 ギーシュが考えていた事、それは正解。
 剣を握ったときから『平民の平賀 才人』から『ガンダールヴの平賀 才人』へと変わっていた。

 現れた伝説は、ギーシュのゴーレムを容易く切り捨てる。
 一閃、また一閃、剣が振るわれる毎にワルキューレが両断され、数を減らしていく。

 5、4、3、2と見る間に数が減った。

「邪魔だ!」

 そして最後の一体となった。
 その一体、ギーシュを守るように立ち、才人の進路を塞ぐが。

「ラストォ!」

 切り裂き、すり抜け。

「フゥー……、まだやるか?」

 ギーシュの首筋に刀身を当てつけた。

「ッ……まいった」

 ギーシュは薔薇の杖を手放した。







「勝ってしまいましたね……」
「うむ」

 先の一戦を『遠見の鏡』で見ていたオスマンとコルベール。

「やはり彼は……」
「言ってはならん」
「……何故ですか?」
「よく考えれば分かるじゃろう?」
「………」

 コルベールは眉を潜める。
 一番レベルの低いドットメイジであるギーシュ、だがまさしく彼はメイジであり、正面切ってただの平民に遅れをとることはない。
 しかし現実は違う、戦いが始まると同時に叩き伏せられた少年は、ミス・ヴァリエールが剣を持って現れた時から変化し。
 ギーシュのゴーレムを叩き切って、逆転勝利を収めてしまった。

「ただの平民であったならば、最初の攻撃で終わっていたでしょう」
「うむ」

 その逆転勝利を齎したのが、ガンダールヴの力であるならば……。

「学院長の深謀、恐れ入ります」
「誰にも言ってはならぬぞ、ミスタ・コルベール」

 利用されると、コルベールは理解した。









「ふむ……」

 コルベールが退出して、ロングビルも資料の整理をするために出て行ったきり。
 耳や目が無いか確認した後。

「さて、ミス・ヴァリエールよ。 歯車は回り始めたぞい、『虚無』が何を成すのか……見届けさせてもらうかの」









「いてぇ……」
「剣を離しちゃダメよ」
「分かってる」

 言う通り、剣を手放せば今以上の痛みが襲って来ることは間違いなし。
 最悪気絶するかも。

『こうなるなら、最初から剣持って行っても良かったんじゃねぇか……?』
『ダメだ、怪我してもらわないとな』
『うえ……』

 何故怪我をしないといけないのか分からないが、ルイズなりの考えがあるのだろうと考えはあっさり完結した。
 だが実際のルイズは、『怪我してもらうのは確定』と考えつつ食いすぎて腹痛に見舞われ、辿り着くのが遅れただけであった。

『ほら、部屋に戻るぞ』
『りょーかい』

 今だ騒ぎ立てる生徒たちを横目で流して歩き続ける。
 娯楽が少ないからって流血沙汰で興奮すんなよ……。
 自分がギーシュの立場に立てばビビる癖に。
 そんなことを考えながら歩き続けていると、人垣の外に見慣れたメイド姿の少女を見つけた。

「シエスタ」

 視線を送り、名前を呼ぶとすぐさま人垣の隙間を縫って近寄ってくる。

「はい、何か御用でしょうか」
「私は先生を呼んでくるわ、その間才人の面倒をお願いしても良いかしら?」
「は、はい。 お任せください」
「私の部屋で良いから、頼んだわよ」

 頷いたシエスタは左手にあった階段を、才人より先んじて上っていく。
 振り返って手招きして呼んだ。

「サイトさん、こちらへ」
「あ、ああ」

 無言で廊下を直進するルイズを見送ってから、部屋へ戻った。





「それじゃあサイトさん、椅子に座っていただけますか?」
「うん」

 剣を持ったまま、右手で椅子を引いて座る。
 その前に膝を着いてしゃがむシエスタ、手には濡れた布を持っており、砂や泥が付いた才人の顔を拭き始める。

「大丈夫ですか? サイトさん」
「あー、なんとか」

 かなり痛てぇけど、なんとかと言った所。
 横になりたいけど、めちゃくちゃ痛そうだしなぁとため息をつく。

「凄いです、サイトさん……」
「へ?」
「貴族様に勝っちゃうなんて」
「ああ、まぁ……はは」

 ほんとすげぇよ、ガンダールヴって。
 全てが鈍くなるし、あの金属の人形が紙みたいに切れるし。
 剣の切れ味かも知れないけど、それでも負ける気がしなかったのは確か。
 事前に教えて貰っていなかったら、困惑してただろうなぁ。

「私、感激しました! あんなに怖い貴族様に、魔法を使えないサイトさんが勝てるなんて!」

 シエスタの瞳がきらきらと輝いていた。
 その瞳に、俺が写り込んでいた。
 やさしく微笑むシエスタ。
 やべぇ、可愛い……。
 と、思い出した。

 『これも可愛いくて良いスタイルの『メイド』に迫られたり』

 ま、まさか!? 
 メイドっつーのは、シエスタのことか!?

「……、イヤッホッあだだ!」
「サ、サイトさん! 急に動くと──!」





 今日も才人は怪我をしながらも元気です。


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