不名誉な二つ名が付いた。と言うか付けられた。
ある天気のいい日の放課後、校内掲示板をふと見てみると、其所には
「謎のロシア人転校生は特殊部隊出身!?」とデカデカとした見出しが付いた校内新聞が張ってあり、
僕の写真がど真ん中に載っていた。黒線はしてあるものの、知ってる奴が見たら一発で判る程度にしか施されていない。
まあ、原因は分かっている。先日、若さ故に血気盛んな連中が女の子にちょっかいを出していた。
それはよいが、お痛が過ぎたのでドクロベー様曰くおしおきだべぇ、とママより恐いおしおきタイムに突入した時の事だ。
その下に「ゴールデンクラッシャー」なる二つ名が掲げられていたのだ。
どうやら、この前の喧嘩の時の"アレ"と自前のハニーブロンドの髪色を合わせた様だ。
何処の阿呆だ、こんな二つ名を考えたのは。
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ここの街は活気がある。
学園都市という性質上、平均年齢が若くて、若い者向きの街になるのは必然だ。
しかし、その反面"馬鹿"も多くなってしまう。
そんな馬鹿を見かけたのは、偶々出会った散歩部の面々と歩いている時だった。
にしても、両極端だな、この面子。
片や長身巨乳、片や幼女体格、コレで歳が同じってんだから、おにーさんびっくりだ。
視界に写った先には二人の女の子と、五人ほどの若さ故に血気盛んそうな男共がいた。
「ナンパしてるなあ」
若いねえ、男共の見た目がチンピラっぽいのが難だが。
それを見た楓ちゃん、「およ、まき絵殿と裕奈殿でござるな」
「知り合い?」
「クラスメイトでござるよ」
女の子の方は年相応な見た目だな、隣の三人と比べて。
「あ、でも、なんか二人とも嫌がってるです」
「あー、まきえとゆーな、嫌がってるけど、男は気付いてないねー」
双子が気付く、確かに二人とも少しおびえた感じだな。
チンピラっぽいし、5人で囲めばなあ。
「お、強めに出た。どうなるか…、逆ギレ起こしてる」
最初の方から嫌がっている雰囲気だったんだから気付けよ。
ナンパは気安くついて行ってもいいかと思わすのが重要なんだから。
「大人げないでござるな、あれでは失敗して当然でござる」
まあ、まだ人生経験が浅いからな。トライアンドエラーは最適解出す為の基本よ?
「あわ、二人ともおびえてますです」
「それでは拙者が助けに…」
向こうに行こうとするのを手で止める。
「いや、こういう時は男の仕事。お姫様を助けるのが騎士の役目でしょ?」
そう、格好を付けて向かう、少し似合わない台詞だったなと思いながら。
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アリョーシャ殿がそう言って向かうのを見て、ふと「似合わない台詞でござるなあ」と言ってしまったナリよ。
「うんうん、アリョーシャ君には似合わないねー」
「お姉ちゃん、それはちょっと…。でもかっこはいいです、アリョーシャ君」
所謂二枚目半でござるからなあ。
見た目はよいが、性格は軽くて面倒がり屋。もう一寸しっかりした性格なら二枚目なんでござるがなあ。
「向こうについて…、気を引いてるねー。お、まきえ達逃げた」
「あわ、あの人達怒ってるです。大丈夫でしょうか、アリョーシャ君」
「大丈夫だろ、自信ないと行かないよ」
「そうでござろ、上手い事怒らせているでござるよ、先に手を出させるつもりでござろ」
先に手を出した方が大抵負けるでござるからな、中々策士でござるなアリョーシャ殿。
と言っていると、男達の一人が殴りかかってきたのでござるが、
何か、こう、ぬめっとした動きで忽ち三人を伸してしまった上に、二人は止めに金的を蹴られるという容赦のない目にあっていたでござる。
拙者は女ゆえ解らないが、相当痛いそうでござるな。悶絶しておるし。
「あわわ、白目剥いてるです。痛そうです」
「うわー、えぐいねー。残りに何か言ってる。かえで姉何て言ってるかわかる?」
ここからはよく聞こえぬが、唇の動きを読んでみると…
「ええと、「今度見たら潰すよ、去勢したいなら別だけど」と言ってるでござるな」
両極端な反応を示している双子を横目に、実に物騒な事でござるな。
と思っていると、「あのヒト、出来るネ」
何時の間にやら横にいた古が呟いていたのが聞こえたのでござる。
「ほほう、判るのでござるか?」
確かにかなり出来ないとあそこまであっさりとはいかんでござる。
アリョーシャ殿は只者ではないと常々思っていたのが、実証されたのでござった。
それに、拙者の目は捉えていたでござるよ。当たる瞬間に勢いを殺していたのを。
殺さずにそのまま行っておれば、間違いなく玉が潰れておったでござろうな。
「動きに無駄がないアルね、急所を容赦なく突いている所とあのぐにゃっとした動きからして…」
「して?」
「システマとか言う格闘術アルな。何でもロシアの格闘技トカ」
「ロシアの格闘技でござるか、あまり聞いた事がないでござるなあ」
「何でも軍の特殊部隊で使われていると言う話アルね」
なるほど、あの容赦のなさは軍隊向けであるからでござるか、別に殺してしまっても構わない所で使うのでござるからな。
「いやー、いい記事になりそうだねー」
またしても、何時の間にやら隣に来た朝倉殿が呟いていたでござる。
この御仁は熱心なのはよいが、ヒトの迷惑をまったく考えないでござるからな。
「見出しは「謎のロシア人転校生は特殊部隊出身!?」ってとこで…」
やれやれ、当分つき纏われる事確定でござるな。無事を祈るでござるよ、アリョーシャ殿。
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何処の阿呆かはすぐさま判別した。と言うかソイツしかいないだろうと、聞いてみた人全員が答えた。
「朝倉だろ」と、なんでも「パパラッチ」と言われており、スクープの為なら身体も張るし、他人の迷惑など何処吹く風、な性格の女らしい。
なんか厄介なのに目を付けられてしまったなあ。
そして、ソレとのファーストコンタクトを果たしたのは間も無くの事だった。
探索部に付き合わされての図書館島からの帰り、脇を通り過ぎた自転車が反転して前に止まった。
「おおっと、そこにいるのは謎のロシア人転校生ことアンドレイ・コンドラチェンコ君!」
名付け親が言うな、あの見出し考えたのお前だろ?
「私は学園報道部突撃斑所属の朝倉和美。よろしくねー」
経験上、突撃とか言ってる奴はロクなのがいない率が高いんだが、どうなんだか?
「いやー、この前の記事が好評でさー。ついてはインタビューとか含めて取材させてほしいんだけど」
うん、やっぱ駄目だコイツ、人の話を聞く気が皆無なオーラが出てやがる。
あんな二つ名を考えたのもよーく解る。ギャフンと言わせてやりたいが…。
そこで名案が閃く、『また、悪巧みしてますね。いつもの事ですが』ミーシャの念話ツッコミは華麗にスルーして早速実行に移すのだ!
ふっふっふ、見てなさいパパラッチさん。近づく気を無くしてあげましょう。
「インタビュー?いいですよ。これから行く所まで一緒に来てもらえば」
まずは、獲物を捕らえるべく、ワナを張るのだ!
「おおっ!気前いーねー、判ってるね、旦那。で、どこまで?」
それに引っ掛かった獲物をば、「はい、僕の部屋のベッドの上で」一気に捕らえると。
あ、流石に固まってる。
「ベッドの上…?」
やっとこさ理解した所を「そうそう、ピロートークで答えますよー」叩き落とすと。
「いやいやいや?!ソレはないって!ソレよりもこ、こうゆうのは合意の上であって!?」
見てて判るぐらいパニック起こしてるなー。だが、ここで緩めてはいけません。
「大丈夫、大丈夫、こう見えてもそれなりの経験が有りますからねー。痛いのは最初の方だけですよー」
「いや、そう言うことじゃなくて!?」
うん、更に酷くなってる。因みに経験云々はホントだぞ。
祖父さんに「ハニートラップ対策だ」とか言われてな…。
「スクープの為なら身体を張るって聞きましたよー、貞操の一つや二ついいじゃない。減るもんでもないし」
「あたしの貞操はそんなに軽いのかー!てゆうか、減るわー!!」
うむー、弄り慣れてはいるが、弄られ慣れてない感じ?更に弄ってやろう。
「まあまあ、キミみたいに可愛い子なら5年以内に無くすだろうから、その先取りってことで」
「何が先取りだー!私は好きな人にあげるんだー!」
おー女の子だねえ、もっと弄ってやろ。
「明るい家族計画はちゃんと使いますから、もしもの時にはちゃんと認知するし名前も考えてあります。だから心配ありません!」
「って、どこまでいってんだーっ!あんたの頭の中ーッ!何で生まなきゃなんないんだ!?」
ま、これぐらいにしてあげましょうか、釘を刺しておくのを忘れずに。
「と、今までのは冗談です」
「なっ・・・なぁにぃーーっ!?じょ、じょ、冗談!?アレが?な、なな、な…、あんたはどんだけエロいんだー!このドスケベ!!」
「はい、冗談です。それに、人類皆滅びない程度にエロいんだから、多少エロくてもいいじゃん」
「ひ、開き直るなーっ!まあ、それは一理あるけど…って!納得するなーっ、私!!」
まだまだ混乱してるな、拍車を掛けてやれ。
「とは言え、しようと思ったら出来るんですよね。最近溜まってるし」
あ、フリーズした。なんか変な汗かいてるし。
「出来て、溜まっているって…?」
「はい、久しくおっぱい揉んだりしてないし、願わくばその胸を堪能したいかと…」
中学生にしてはおっきいおっぱいを凝視する。胸を手で隠して後ずさりをするパパラッチ。
自転車のある方へ追い込み、辿り着いた瞬間にわざと気をそらす。
さすれば、大急ぎで自転車に乗り込み、脱兎のごとく逃げ出すパパラッチ。
「おぼえてろよー!!」の定番捨て台詞付きで。
コレで当分近づかないだろう。
後日、「私が受けたセクハラ発言」の見出しの校内新聞が貼ってあった。
転んではタダでは起き上がらない女だ、良き戦友となれるかも。
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研究室に来ると毎回している事がある。所謂"クリーニング"だ。
ミーシャのセンサーを使い、電波発生源が増えてはいないかを調べ、あらかじめ計測しておいた質量と現在の誤差を調べる。
変化があれば検査し、発見時は入り口前に置いた段ボール箱に入れておく。箱には「ご苦労様です。ご自由にお持ち帰り下さい」の張り紙が貼ってある。
毎日出てくる為に、他の学生からは「盗聴関係品が欲しければあそこに行け」と噂されるほどだ。
まったく、無駄な事はやめておけばいいのに。
ついでに窓には特殊吸震材が貼ってあるのでレーザーによる盗聴は出来ず、電波暗室に近い状態にしてあるので電磁波盗聴も出来ない。
そうして仕上げとして、AMFグレネード改造の簡易ジェネレータを使っての魔術的クリーニング。
AMFがこちらの魔法にも効果があるのは別荘で確認済みだ。協力者がいると助かる。
こちらでAMFの存在を知っているのは僕とエヴァ一家だけだ。魔術的盗聴を試みてる奴はいつも不思議がっていることだろう。
「何故、いつも魔法が消えてしまうのか?」と。
そうしてやっと、作業を始める事が出来る。
とはいえ、資料との格闘や資材と機材の相手、必要経費の計算と申請などの見られても構わない作業から始まる。
それが済んだ後、そこからが重要だ。
「ミーシャ、電源の充電度合いは?」
『最大で3時間使用可能です』
「封時結界発動、2時間50分設定。終了十分前には警告を」
『了解、展開時間2時間50分、2時間40分に警告音を鳴らします』
強々度機密を扱う時には封時結界を張る。コレなら押し込もうったって不可能だ。
ただし、電気も来なくなるので機材を使う時は電源装置が必要なのが玉に瑕。
そうして、機密は守られた状態で弟子用のデバイスを組み上げる。
最大の難点だった演算装置は茶々丸系列の量子コンピュータを使用した。
2000年代に実用化しているとは…、やっぱ侮り難し、こちらの世界!
提供してくれたのは、工学部に半分住み着いていて、女の子を半分捨ててる女。葉加瀬聡美だ。
報酬代わりとして「ナビエ-ストークス方程式」の一般解を渡してみた。
知っている方の地球ではすでに解かれているが、こっちでは解かれてはいない数学上の難問だ。
ジェット推進研究会に所属していると聞いたので食い付くかなと思ったら、
馬に人参ってこういう状態を指すのね、と言いたくなった。それほど興奮していたのだ。
この一般解を公表すれば100万ドル貰えるが、研究者としてのプライドが許さないので公表はしないだろう、よって何の問題もないのだ。
だって、「他人に教えて貰った」んだよ?自分の頭では解けませんでした。と言ってる様な物だもん。
因みにインテリジェントデバイスも作れるかな?と思ったが、サイズと処理速度の関係上無理だった。
二つ積めば可能だが、サイズがでかくなって携帯に不便になる。
茶々丸があのサイズなのも理由と必要性の関係なのだ!と熱弁を振るいつつも、
その横で幼女型ボディを作ってるのは無視する事にしよう、うんそれがいい。
そうやって出来た弟子一号用の腕時計型ストレージデバイス、名前はまだ無い。
これは秘密だが、一寸したブービー・トラップを仕込んである。
ブービー・トラップはこれだけではない、提供したカートリッジにも仕込んである。
それは「緊急停止プログラム」と「自爆プログラム」の二つだ。
僕が提供した技術は、後々普及する事だろう。提灯を使っていた所に懐中電灯持ってきた様なもんだ。
こちらの魔法にブレイクスルーをもたらす事間違い無しの技術だ。
その後、僕の排除や(接触出来たとして)管理局との対立が発生した時にこれが必殺の武器となる。
そのような事が起きない事を祈りつつ、それを想定し、我が身可愛さとは言え準備している自分に嫌気がさす。
畜生、いくら管理局員とは言え、何でこんな糞ったれじみた事を考えられる様になっちまったんだ?
更にだ、こちらの魔法を学んでミッド式の発展に生かそうと思う自分にも嫌気がさす。
ミッドチルダ式魔法は多くの血と魔法を吸って発展した魔法だってのに。
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閑話:ミッドチルダ式魔法について
ミッドチルダ式が多くの世界で普及している理由として、時空管理局発祥の地の魔法である事と、その汎用性が挙げられる。
だが、それだけが理由ではない。その発展の影には消えていった魔法が多々存在するのだ。
過去には次元世界それぞれには独自の魔法が存在していた。
ミッドチルダが中心となり時空管理局が設立された際に、地の利を生かして主力魔法となったミッドチルダ式。
徐々に構築されていく管理局システム、それと同時に発展していくミッドチルダ式。
各世界に存在した"魔法"をエミュレートして再現し、その要素を吸収・発展していくミッドチルダ式。
その汎用性故に他の世界で受け入れられていくミッドチルダ式。
そして、その世界独自の"魔法"を駆逐していくミッドチルダ式と衰退していく独自の魔法。
現在、管理世界ではミッドチルダ式と近代ベルカ式の二種が主流だ。
だが、近代ベルカ式は「ミッドチルダ式をベースに、古代ベルカ式をエミュレートして再現した魔法体系」であり、何年後かは判らないが、
純粋な近代ベルカ式は後々駆逐され"ミッドチルダ式の一魔法"となる事だろう。
そうして、アンドレイ・コンドラチェンコはこの世界独自の"魔法"を学習・吸収しミッドチルダ式魔法の発展に貢献していくだろう。
果たして、"未来のミッドチルダ式魔法"と本格的に対峙した後に"魔法"は生き残れるのか?
それは未来だけが知っている。
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あとがき:最近仕事が忙しく、筆が中々進みませんでした。
今回もオリジナル設定が多いので嫌いな人、ゴメンナサイ。
書き間違いを指摘して下さった方々、有り難う御座います。
余談
アリョーシャ君は本来はStSアフターストーリー用に作ったキャラです。
プロローグにその名残がたっぷりと有りますが、力量不足故に一時棚上げしてます。
後々腕を上げて書くつもりですので。全く期待せずにお待ち下さい。
追申:セクハラトークの部分は書いていて楽しかったです。