オッサンと永遠の幼女とロボと物騒な人形と過ごした年末と新年を経て、季節は1月。
ここのところに有ったことを記してみる。
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1/8学園長室にて
「ふぉっふぉっふぉ、夜間警備では大活躍のようじゃな。アンドレイ君」
「いえ、それほどでもありません。バルタン星じ…学園長殿」
しまった、あの笑い方からつい…。
「いや、ワシ地球人じゃし。手もハサミじゃないし、…と言うかドコで見たんじゃ、ウルトラ〇ンネタ」
「CSの特撮専門チャンネルで」
それなりに知ってはいたが、ちゃんと見るとコレが又面白いんだな。
着ぐるみの造りとかにはフィルター掛けてみた方がいいけどな。
「男子寮に引いた憶えはないぞい?」
「アンテナとチューナーぐらいなら自作出来ますし、契約は学園長名義でしてます」
ミーシャとメンテデバイスを使えば簡単にできるのだ。この時代のスパコン以上の性能持ちだからね。
作るのも貰った研究室と機材で作れるし。
「ワシ、契約した憶えないぞ?」
「偽造しました。我々の技術を持ってすれば容易いことです」
『学園長殿の筆跡、加速度、筆圧、インクの成分は完全に再現可能です。ハンコも同じく。魔力パターンも再現出来ます』
「…それ以上の悪用は許さんよ?」
「じゃあ、必要経費で認めて下さい。さもなくば、タカミチの特製ラーメン屋の営業許可証に本物にしか見えない偽装サインと偽ハンコ入れますよ?」
アレは強烈だった、サバイバル訓練の一環で泥水でも飲めるが、アレだけはダメだった。
謝れ!原材料に謝れ!!と言いたくなったね、アレは。
「それだけはやめてくれい、実力行使させたいのか?」
「じゃあ、経費として認めると」
「まあ、いいじゃろう。経費として認めよう。名義はおぬしに書き換えるんじゃぞ?」
実は他にも入ってるんだけどね、言質は取った、纏めて請求してやる。
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退出して少しした頃、二人の男が室内にいる。
一人は部屋の主である近衛近右衛門、もう一人は教師の高畑・T・タカミチ。
「で、彼はどうかね。ミッド式の弟子としても接している君の目から見て」
学園長はタカミチに尋ねている。信用出来るのかそうでないかを。
「はい、仕事と見なした事と頼まれ事はキッチリとこなしています。どうやら頼み事を断り切れない様で、面倒がりながらも最後まで付き合ってますよ」
模擬戦で何回も負けて悔しそうにしているというのに、律儀に教え続けている所からも分かる。
面倒見がいいのだ彼は、憂さ晴らしなのか術式を難しく教えてくるのは勘弁してほしい、とは思ってはいるが。
「ふむ、性格か職業柄か。どちらにしても依頼はこなすと。そう言う事じゃな?」
「ええ、面倒がりの癖に律儀で面倒見がいい。難儀な性格持ちですよ。僕は信用していますがね」
あれだけ律儀な性格だ、こちらが裏切らない限り反旗を翻すことはないだろう。
「うむ、分かった。わしも信用することにしよう。で、話は変わるんじゃが、他の生徒や教師は彼をどう見ているか。キミはどう聞いている?」
学園長に入ってくるのは、ガンドルフィーニを筆頭とする脅威論が大半だ。
"質量兵器の代替品として成長した魔法"の威力とそれを躊躇いなく使うことが出来る"非殺傷設定"を驚異と見ている関係者が多く、
タカミチの様な肯定論者は少数派である。
「僕が聞いたところ、「いくらやっても死なないから便利だ、教えてほしい」「遠距離から大火力で支援してくれるから楽になった」と頼りにしている生徒が多かったですね。他の先生方もあの火力は認めているようですよ?」
「まあ、神多羅木君が「仕事が楽になった」と言っておったしのう」
他の者も心の奥ではそう思ってはいる。
だが、人の心理として疑っている者や嫌いな者にはどうしても否定的なフィルターを掛けてしまう。
神多羅木の話はマイペースで沈着冷静な性格のため、フィルターが掛からないから出る意見であり、
脅威論者たちは心の隅では彼の魔法を頼り強く思っていても、否定してしまう。
そうして学園長に入ってくるのは驚異とする否定的意見ばかりになる、と言うことである。
「マキャベリズムで行きましょう。学園の平和という目的のために彼という手段を使うべきかと」
まるで本心とは違う、詭弁を持って擁護をする自分に嫌気がさしている。
ああ、アンドレイ君。こんな事でしか擁護することが出来ない僕を許してほしい。
まあ、キミはそんなことを気にもしないことは分かっているがね。
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1/9研究室にて
ここでは解析担当の明石教授とよく会う、何時にも増してだらしないオッサンだ。
どうしても気になってしまう人だ。
…変な意味ではないぞ。
何がって、あのヨレヨレのワイシャツ!変な横ジワ入りのパンツ!
アイロン当てろって!それがダメならクリーニングに出せって!
大事な時はキッチリとしていたのでとっておきは管理してある様だが、他のもしろって!
こちらとら、士官学校で衣服管理とベッドメーキングに整理整頓を骨の髄までたたき込まれてるっての!
そうして悶々としていてつい、カッとなってやった。
高級アイロン(29,800円で買った)と立体アイロン台を持って突撃してやった。
ついでに整理整頓もしてやった、反省はしていない。
後日、教授経由で娘さんから感謝された。ひょっとしてフラグが立った?
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仕事が終わり、家で過ごしていると呼び鈴が鳴った。
ゆーなかな?と思い、ドアを開けてみるとそこには大きな荷物を持ったアンドレイ君が立っていた。
一瞬、反旗を翻したのか!?と身構えたが、彼の一言で木っ端微塵に打ち砕かれた。
「アイロン掛けに来ました。拒否は許しません。拒否すればFAEシェル殺傷設定で撃ちます」と
アイロン?アイロン掛け?!
会うたびにシャツやパンツを気にするなと思ってはいたが、家にまで掛けに来るとは…。
しかも、拒否すれば殺すとまで…、相当気になっていたんだね。
こちらの返答を待たずにずかずかと上がってくる彼。部屋を見て呆れている。
まあ、娘に毎度呆れられるんだけども、他人に呆れられるとちょっとショックだな。
無言で部屋の整理を始めている。本の分類方法を尋ねてきたぐらいで、後は黙々としている。
「僕も何か…」と言えば、「そこに座っていて下さい」とまで言われるぐらいに邪険に扱われている。
手際は見事なもので、身体に染みついているという表現が似合うほどだ。
そう言えば、士官候補生だと言っていたな。士官には品格が求められるという、その教育の賜物なんだろう。
見る間に片づけられ、シャツとパンツは丁寧にアイロン掛けがされ、汚れ物はクリーニングに出された。
そうして、すっきりとした顔で「お邪魔しました」と帰って行った。
本当にアイロン掛け(整理整頓もして貰ったが)しに来ただけだったんだね。
少し前に高畑君から聞いた「面倒がりの癖に律儀で面倒見がいい。難儀な性格」の意味がよく分かった日だった。
翌日、ゆーながやって来て驚いていた。
最初は僕がしたのかと驚いていたが、アンドレイ君がしてくれたことを言うと、ガッカリした顔をしてから
「そのうち直接言うけど、お父さんからありがとうって伝えておいて」と、いい笑顔で頼まれた。
二人とも面倒見がいいから仲良くなるかもな。とその時は思っていた。
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1/11近郊の山中にて
せっかくの土日なので背嚢背負って冬山行軍としゃれ込んだ。
誰も聞いちゃいないだろと結界も張らずに射撃訓練を行いまくった。
ついでに飛び回ったのは良かったが、それを見られてしまった。それも忍者に。
へー、忍者がいるんだこの世界。知ってる方ではSRIが技術保有者を抱え込んでるのは知ってるけど、
まさか"The・忍者"って感じのが居るとは…。
魔法使い連中は隠匿しろとうるさいが、管理局員にそんな義務はないので放置しておくことにした。
「おや、さっきの御仁ではござらんか」
夕方近く、宿営ポイントを探していると、さっきの忍者と出会した。180cmぐらいあるくのいちだった。
何でも修行の一環で土日はここで過ごしているとか。
更に、何と、同じ中学2年だという!『信じられないほどの体格ですね』
こらミーシャ、しゃべるな。『いいじゃないですか、飛んでいるところを見られているんですから。アクセサリーが喋っても問題有りません』
開き直った!ミーシャが開き直った!
ここのところ隠蔽工作の一環として、念話以外でしゃべれなかった憂さを晴らす気なのか?
「ほほう、さっきの飛んでいる所といい、その話す首飾りといい、常人ではござらんな」
『初めまして、私はインテリジェントデバイス、名称「ミーシャ」と申します』
「此はご丁寧に、申し遅れました。拙者は甲賀中忍・長瀬楓でござる。ミーシャ殿」
『いえいえ、長瀬殿。こちらが我が同志にしてマスターである、アンドレイ・コンドラチェンコであります』
「それではアンドレイ殿とお呼びするでござる」
『親しい者にはアリョーシャと呼ばせています。そちらの方がよいかと』
「およ、それではアリョーシャ殿でよろしいか?」
主人を放っておいて話を進めんじゃねえ。まあ、結構美人だし胸デカイからいいけど。
そんなこんなで自己紹介が終わり、隣に天幕を張らせて貰い、食料を分ける代わりに風呂を貸して貰えることとなった。
風呂はいい、ロシア系なのでサウナも好きだが、アレは真冬にやって氷が張るほど冷たい水に飛び込むのがいいのであってここでは出来ない。
その日の夕食は、そこらで採った天然榎茸と川魚の鍋とミリタリーショップで手に入れたフランス軍の戦闘糧食だった。
缶詰類ばっかだけど旨いのよ、流石フランス人向け。
楓ちゃんも「おお!コレは中々美味な物ばかりでござるな。アリョーシャ殿」と大絶賛だ。
鍋も中々旨い、材料がいいのでそれほど味付けはいらない。
日本の料理は食材がいいから味付けを最低限に出来るんだなあ、と実感した。
夜間射撃訓練をしてお風呂をいただいてその日は就寝。
…覗いたり、夜這い掛けたりはしてませんよ?忍者だけに、さくっと殺られそうなのでしなかった訳ではありませんよ?
「ところで、どうやって飛んでいたのでござるか?」
「高度に発達した科学みたいな物の力です」
嘘は言ってはいませんよ、「高度に発達した科学は魔法と見分けが付かない」とアーサー・C・クラーク先生も仰っています。
ならば魔法が高度に発達した科学と見分けが付かなくても変じゃない!
思い切り詭弁だがな。
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拙者がいつもの様に修行をしていた時のことでござる。銃声が聞こえてきたのは。
ここいらは拙者以外の人気が無く、真名の銃とも違う音が響いていたのでどんな人かと見物に行った先で見たのでござる
金髪の少年、見たところ同じ年頃の御仁。AKとか申す銃を持って人型の的に次々と当てている、腕はなかなかの物でござるな。
様子を窺っていると突如、ふわりと浮いて飛んでいたのは驚いたナリよ。
その時に驚きで気配を消すのを忘れてしまい、目が合ってしまったのは未熟でござったなあ、ニンニン。
夕御飯の材料を集めて戻ってきた時にその御仁と出会した時も驚いたナリよ、思わず「おや、さっきの御仁ではござらんか」と言ったぐらいに。
聞くところに依ると同じ麻帆良の中学二年で留学生との事。
山には行軍に来たと、変わった御仁でござるなあ。その格好と言い、まるで軍人ではござらんか。
矢張りというか、拙者の歳を聞いて驚いた顔をしていると思っていたら、意外な所から声が聞こえてきたのでこちらも驚いたでござるよ。
何せ、首飾りが『信じられないほどの体格ですね』と喋ってきたのでござるから。
その御仁が慌てた表情で首飾りに話しかけると
『いいじゃないですか、飛んでいるところを見られているんですから。アクセサリーが喋っても問題有りません』
と、開き直ったことを言っているではござらんか。
「ほほう、さっきの飛んでいる所といい、その話す首飾りといい、常人ではござらんな」
『初めまして、私はインテリジェントデバイス、名称「ミーシャ」と申します』
まあ、コレが拙者とアリョーシャ殿とミーシャ殿との付き合いの始まりでござるよ。
空を飛べる理由は誤魔化されて教えてもらえなかったでござるが。
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1/20図書館島にて
図書館島に来る事が多くなった。
一つは資料探し、陛下の親父さんの司書長に教えて貰った検索魔法がとっても役に立っている。3冊が限界だが。
もう一つは、図書館探検部の仮部員にされているからだ。
……何故に?と言うか、入部した覚えがないんだが?
初めてあの連中に会った日の事を思い出してみる。
あのとき、地下4階に行こうとしていた時だった。
「待ちなさい。中学生が入っていいのは地下三階までです」と声を掛けられた。
前髪サイドの先の方を三つ編みにして後ろ髪を二本に纏めたデコ娘だった。
その手には「ルルドのおいしい水」と書かれた
理解にかなり、相当、とっても苦しむと言うか、そんな気軽な形で飲んでいいのか奇跡の水、なパックが握られている。
そして、デコ娘は続ける「興味があるのは分かりますが、規則は規則です。諦めるです」
「そやなあ、悪いこといわへんから行くのは諦めとき」と横にいた京風おっとり娘が維ぐ。
ふっふっふ、何度か止められた事はあるが、必殺兵器を保有しているのだ!
「ご忠告感謝します。自分は男子中等部2年、アンドレイ・コンドラチェンコと申します。お嬢さん方」
「私は図書館探検部所属の綾瀬夕映、こっちが近衛木乃香です」
「初めましてな、アンドレイ君。ウチは木乃香でええよ」
デコは淡々としてるが、おっとりはやわっこくて好印象だ。
ん?「近衛」か…、まさかな。
「どういたしまして。さて、お二方、これを見ていただけますか」
と、バルタン星じ…もとい学園長から貰った"あるもの"を見せる。
「…これは伝説の「第一級閲覧権証明書」!?」
「何やそれ、ゆえ?」
「司書や大学部の教授方でも中々発行して貰えず、これを持っていれば見られない本は無く、行けない所も無いという伝説の証明書…」
「へー、おじいちゃんよう発行したなあ」
チョットマテ、今聞き捨てならんことが聞こえたぞ?
「おじいちゃん」だと!?えっと、まさか、あの。
「ん?学園長の近衛近右衛門はウチのおじいちゃんよ?どないしたん?」
思わず叫んでいたね、「『嘘だー!!??』」と。ついでにミーシャも。
あ…ありのまま今聞いた事を話すぜ!
「学園長もといバルタン星人と目の前の京風おっとり娘が、祖父と孫娘の血縁関係だった」
な…何を言ってるのか分からねえと思うが、僕もどういう遺伝子の奇跡なのかが分からなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
母親似だとか父親似だとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…、と軽い混乱はここまでにして。
「ほんとに孫なの?似ている所が皆無だけど」
「似ている所が皆無という所は同意するです」
ほら、デコ娘も同意してる。
似てない…、いや、似て無くて良かったね。お父さんかお母さんのどっちかは知らないけども
美人の遺伝子が勝利を収めた結果なんだね。実に良かった、良かった。
と内心ほほえましく思っていると
「いややわ、ウチはほんまにおじいちゃんの孫やで」
と、完全に肯定してくれましたよ。
「それよりも、本物か見せてほしいです」
わー空気読まねー、このデコ娘は。まあ別に構わないので渡してみる。
なにやら裏面を見て呟いている。
「ここ、ここ見て下さい、このかさん」
「何やて、……おお。コレは」
「コレは使えます。我々図書館探検部に大いに役立つです」
なにやら蚊帳の外におかれているワタクシ、しょうがないので普通に本を読んでいますと、
「コンドラチェンコさん!我々に協力をお願いするです!」
デコ娘が迫ってきた。
「私達をアナタの助手としてほしいのです」
デコ娘曰く、備考として「権限保有者とその助手に対し有効である」と記載がある、付いては図書館探検部の目的遂行のために
この「第一級閲覧権」を使ってくれないかと。
それよりも、図書館探検部についての説明を受けてないんですけど。
「あれ、知らへんの?」「知らないのですか?」
うん、先月から編入した留学生だもん。
「それは仕方有りませんね。いいですか、図書館探検部というのは…」
ああ、説明受けている内に仮入部でいいからと頼まれて、断り切れずに…。
で、身体能力の高さを見込まれて図書館島の彼方此方に行く羽目に…。
ああ、変に律儀な自分にちょっと自己嫌悪した瞬間でした。
『貴方はそう言う性格ですから諦めなさい』
うっせい、言われなくても分かってるわい。