別荘で迎える二日目の朝。
外を見るとビーチバレーに興じる神楽坂にこのかちゃんとせっちゃん、修練に勤しむネギと犬、と言った面々。
そのうち四名が武道会に参加する。無論僕も。
ただし、面子が同じなので展開が分かっている。先の展開が判っている映画を見ている様な気分だな。
とは言え、筋書を変える訳にも行かない。
そうなってしまえば、"自分が書いたシナリオどおり進んでいると超に錯覚させ、それを利用して大打撃を与える"と言うこちらの計画を見直すハメになってしまうのだ。
ま、そのシナリオから逸脱しない範疇なら多少変わっても良い、つーかそっちの方が面白い。
そういう訳で、そこの二人を一寸揉んでやりますか。
「私も協力するよー」
「でね、このバリアジャケットは衝撃緩和に-90℃から400℃までの耐熱・対寒機能に与圧機能に対CBR(化学・生物・反応兵器)防御まで付いてるんだよ」
「…何でもアリやなそれ。ズルイでソレ。で、反応兵器て何?聞いたことあらへんねんけど」
すっかり仲良しになっている犬とネギ、善哉善哉。
「と言う訳で、武道会の時はバリアジャケットは基本禁止です。一号二号にも後で通達しておく。いいな?あと、反応兵器ってのは核兵器のこと。僕の育った世界ではそう言うの」
「えーっ」と不満を言うネギと、「そら助かったわ。ゴツい障壁身に纏ってるみたいなもんやし」対照的な犬。
「世間体を考えなさい。魔法は秘匿すべき物なんだろ?いくら攻撃しようが平然としてればおかしいと思う奴が出てくるものです。犬もいいな?」
と、頼りない釘を刺しておく。みんな気にせずバンバン使うのは判ってるからなあ。それでも一応な。
「解っとるけど、妙な略し方しゃんといてーな。俺は犬上やて、一文字足らへんて」
まあ、バリアジャケット禁止は公平さを期する為って面もあるんだがな。某執務官の真ソニックフォームの様な極薄型ならいいだろうけど、弟子達のデバイスでは細かい設定が出来ないし。
相手が気を纏わせるか防御魔法を使ってたら別よ、相手が使ってたら。
で、使っても良さそうなのはせっちゃんにクウネルにタカミチぐらいか。
気に魔法に咸卦法と各種揃っております。
特に(ネギ的に)驚異なのが咸卦法。アレは純粋にすごいと思う、今のところ再現出来ないのが実情。
で、使うことは判っているからなあ。使ったら許可を着用許可を出そう、但しネギだけにな。
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「ちょーっとやり過ぎちゃったなー、っては思ったんだけど…。そもそもですね、小太郎君が想像以上にいい動きをしていたためについつい力が入ってしまいまして…。…生きてる?」
「脈は…ある、瞳孔は…閉じるな。何だ、頭打って気を失ってるだけか。腹にも異常はなさそうだし」
砂浜に寝かされている犬。ヴィヴィオに吹っ飛ばされたのだ。
大急ぎで浜まで引っ張り上げ、バイタルチェックや触診した所問題なし。
咄嗟に気で防御したのだろうけど、基本的に頑丈なんだな犬は。
このかちゃんにアーティファクトを発動させて待機して貰ったのに無駄になってしまったなあ。一寸残念。
「ウチも準備したのになあ。こん前にアリョーシャ君に色々教えてもろたのんを使えるなあ、て思てたのにー」
準備万端だったこのかちゃん、気持ちはとってもよく解るぞ。救命処置ってのは一遍試してみたいものだし、万端調えたのが無駄になると誰しもねえ?
使う事がないのが一番だが。
「いやいやアンタ達、そこは残念がる所じゃないでしょ。コタロ君の無事を喜びなさいよ」
で、神楽坂は何呆れた顔してんだろ?よく解らんなあ。
さて、何故犬はヴィヴィオに吹っ飛ばされたのか?
同じ打撃系徒手格闘使いなので犬に相手を頼んだのが切っ掛けだ。今思えばせっちゃんでも良かっただろうが。
「やーかーらー、俺は女に手を挙げへん主義やて。ビビ姉ちゃんとはやれへんて」
と言って断ろうとしたが、
「スパーリングでいいからしようよ。お願いっ!…アリョーシャ君は何でもありで手加減無しのカウンター系だからあんまり組みたくないんだよね。得物も使ってくるし…」
「まあ、アン兄ちゃんの遣り口やったら組み手にならへんやろしなあ…。寸止めでええか?」
という感じで折れた。で、彼氏の遣り方を何気に批判していますか貴方は。
「綺麗な構えと動きです。かなりの鍛練を積んでいますね」
そうして始まったヴィヴィオと犬の組み手。
「なかなかやるね」「ビビ姉ちゃん、めちゃめちゃやるやんけ」
相性が良かったのかヒートアップしていく二人。寸止めだけど。
と、熱が入りすぎたのが悪かった。一瞬本気になってしまったヴィヴィオ。
キレイに覇王様直伝断空拳を決められた為に吹っ飛ばされ、水面に叩き付けられ、いい感じの水柱を揚げ、暫くしてぷかりぷかりと浮かぶ犬。
「コタロー君ーッ!!?」
で、現在に至る。
「未熟者め」「返す言葉もありません」
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入場開始の少し前、神社の周りを走り込んでいた。早朝走るのは習慣化した日課ですからね。
「おー、こんな朝早くに奇遇じゃん。ヴィヴィオちゃんは一緒じゃないの?」
こんなときに限って合いたくない奴に会う、パパラッチとその背後にいるの。
とは言え、世間一般レベルの社交性は持ち合わせているこの身、「そう言うお前も早いなあ。ヴィヴィオはネギ達と一緒に来るぞ」きちんとした返しは出来る。
「スタッフってのはどうしてもお客より早く入ってなくっちゃなんないからねー。おかげで眠くてってさ、何かいい方法知らない?」
裏方のつらい所だ、お客より早く来て遅く帰る、それが宿命なのだ。
「そうだなあ、こんな方法があるんだが…」「ふむふむ」
と眠気覚まし方法に関しての話をしていてもやっぱり感じる視線。
うわ、目が合った。
合った目が外せず、見つめ合う形になる。意外そうな顔したさよちゃんは目をぱちくりとさせてから、
「あのー、ひょっとして見えてますか?」
こんなことを聞いてくる。
うん、見たくもないし聞きたくもないけど、バッチリ見聞き出来てますよ。
『初めまして、お嬢さん。宜しければお名前をお聞かせ頂けますか?私はミーシャと申します』
ミーシャに至っては紳士的に話しかけてきてるし。
「え、あ、相坂さよです。ご丁寧にどうも…。あの、朝倉さん。あのペンダントみたいなのがミーシャさんですよね?」
驚く側と驚かされる側が逆転、なので鳩が豆鉄砲を食ったような顔のさよちゃん。
「え、あんたらさよちゃん見えるの?」
『魔力波の流れ等々から観測出来ます。同志は時偶見えるのです』コイツはあれこれ付いてるセンサー類を複合的に使えば見える。
僕は波長が合ったりしたのが見えるんですよ。ほとんどの幽霊は見えないんだけどね。
「へー、それじゃ、友達になってやってよ。ほら、さよちゃんからも」
「はいっ!不束者ですが、よろしくお願いします!!」
女子3-A以外のお友達が出来るのが嬉しいのかして、一生懸命にお願いするさよちゃん。
『私はインテリジェントデバイスと言う魔法使いの為の道具です。この様な物でも宜しければ、喜んで』
ミーシャは乗り気なんだけどなあ。
「うん、まあ、断る理由もないし…、いいよ」
対照的に僕の歯切れが悪いのを訝しんだパパラッチ、ミーシャに尋ねてみる。
「ミーシャ、コイツって、ひょっとして幽霊とか怖いの?」『昔から苦手なのです』
言うなって。そんな弱みみたいなのをコイツに教えよう物なら…。
「それはいいこと聞いたわね…」調子に乗るし、「で、何で怖いの?」根掘り葉掘り聞いてくるし。
『幼少期を過ごした沖縄は大東亜戦争における激戦地の1つです。見える方も比例して多くなります。中には酷い状態で見える方もおりまして…』
そう、小さい子供に機銃掃射や爆撃や火炎放射で酷い状態になったのを見せたりしてみなさいよ。トラウマになってもおかしくないですよ?
「あー、子供にスプラッタ物のホラー映画ばっか見せたみたいなもんだねー。そりゃ苦手にもなるわ」
「ゴメンなさい…、お友達になってくださいなんて言ってしまって…」
ションボリとする二人。だがな、今は割と平気だぞ。生きてる人間の方が怖いって解ったからなあ。
例えばな、昔実際に見たんだが…。
「ひ、ひいいぃぃぃ~。こ、怖いです~」
「やーめーてー、そんな生々しくてエグい話を平然と話さないでぇー」
実例として体験談や人から聞いた話を語ってやっているのに怖がって聞こうとしない、失礼な奴等だ。
真実云々言ってたから数多ある真実の1つを語ってやっているのに、軟弱な。
そんな奴には、「頭の中から声が!?アンタの魔法か!!?」念話で語ってやる。これなら嫌でも聞けるだろ。
オマケでバインドも追加だ!!
「ひぃーっ、お助けーっ」「いやああああぁっ」
二人の悲鳴が早朝の空気に響き渡る。清々しいなあ。『どこがですか』
「どうしたか、朝倉サン?顔色が悪いヨ」
「…知りたくもない真実ってキツいねー。お陰で眠気なんて消えちゃったさ」
「?…まあ、これでも食べて血色を良くするネ。特製スタミナ饅頭ネ」
****
斯くして始まった武道会、第一試合は弟子二号対犬。
「俺は女は殴らへん。そやけど今回は別や!こないだの仕返し、きっちりさせて貰うで!!」
股間の大事な所を「コリッ」とされてしまった恨みは犬流フェミニズムを超越してしまっていた。
「いえ、あれは不幸な事故なんですが…。私だってあんなところ掴みたく"も"なかったですし…」
一応の言い訳はするが、聞いちゃいねえ犬。
そんな二人の戦いが始まった。
瞬動とやらで間合いを詰める犬、一気に勝負をつけるつもりなのだろう。
兵は神速を尊ぶと孫子も仰っている。
が、現在それは戦略戦術レベルの話であり、戦場レベルでは逆になることがある。
丁度今の様に。
「おおっと!?小太郎選手、信じられないスピードで間合いを詰めたと思った次の瞬間、吹っ飛ばされたー!?」
「…なんか、今、足下で光らなかった?」
吹っ飛ばされた犬を見て、目がいい神楽坂が気付く。
「接触起爆設定魔法だ、踏んだり触ったらドカンと行く奴。風系統と組み合わせて使ったな。どう思う、ネギ?」
「うん…、複雑。メイさんが僕の考えたのを使ってくれたのは嬉しいけど、それがコタロー君に使われるなんて…」
そう、元は僕が使う「地雷化魔力弾」で使っている設定で、遅延呪文との合わせ技を考えたのがネギ。
コイツはこっちとあっちの融合の実験体なのだ。開発力があるので、色々と考えてくれる便利な奴です。
で、そのアイディアを選り分けるのが僕とミーシャ。それなりに経験積んでますから、取捨選択出来るんです。
それを教えて貰っていた弟子二号。用心も確認もせずに敵の懐、つまりは地雷原に突っ込んでしまった犬。
この様に神速が仇となる場合があるのだ。
まあ、地雷も塹壕も無くて、平原でぶつかり合うが当然の時代の兵法だしね!
「罠付かい!そやったらこうや!!」
体勢を整え再び仕掛ける犬。今度は手前でジャンプして地雷を避ける。
しかし、プロテクションに妨げられ、貫くまでのタイムラグに逃げられる。
更には「槍術でしょうか!?箒の柄先が次々と襲い掛かっております!」ラグを生かしての反撃付き。
因みに槍術じゃなくて銃剣術。まあ、槍術の要素を吸収しているから素人さんには同じように見えるのかも。
「正に一進一退!両者の攻防が続いております!!」とは言うものの攻め倦ねている二人。
守りは堅いが、近接戦闘技能と士気が犬より下の弟子二号。
いくら鍛えたと言っても一年経ってないし、近接戦闘は自衛用って割り切って教えたってのもあるからなあ。
士気と技能は高いが、防御ごと貫けるだけの攻撃が出来ない犬。
女は殴らない主義が心の奥底で邪魔でもしているのだろう。攻撃が一寸甘い気がする。
そして、事前に刺しておいた釘が多少は利いているのか、分身とか攻撃魔法とかの使用を避けている二人。
どちらかが先に使用すれば使い出すだろう、それが解っているから使えない。反応(核)兵器に依るMAD(相互確証破壊)体制と同じだな。
結果、釣り合ってほぼ互角。つまりは決め手がないのだ。
このまま膠着状態に入るかと思われたが、犬が打って出た。
爪先に気を集めての攻撃に切り替えてきたのだ。只のプロテクションなら切り裂けるであろう攻撃、事実切り裂いた。
対抗措置として「な、何とーっ!愛衣選手、「遠当て」を使いました。あの様な中2少女が「遠当て」の使い手とは想像だにしませんでした!!」
射撃魔法を使う。で、アレを遠当てと言い張るとはナイス誤魔化しだパパラッチ。
「どうしましたか、豪徳寺さん」「いえ、漠然としたものなんですが…。あれは遠当てとは違う様な気がするんですよ」
解説は誤魔化せてないけど。まあ、豪徳寺さんは使い手だからなあ、違いが分かるのだろう。
エスカレーションを起こすかと思われた試合、終わりはあっけなかった。
犬の振り下ろしを寸での所で躱し、間合いを取った次の瞬間「あ…」「え…」会場が俄に響めく。
皆の視線が一転に集まった。弟子二号の胸元へ。
そこに見えるのは歳の割に大きくて形のいい胸、乳首も見えるぞ。
理解が遅れている弟子二号と、やってしまった顔した犬。
犬の爪先が正中線上を通り、服とブラのみ切り裂いた。そこへ回避機動を取ったから動きと風で思いっきりはだけたのだ。
肌に傷が付いていないのが不幸中の幸いか。
理解した途端、見る見る顔が赤くなり、「いやぁあ~んっ」と泣きながらへたり込む。
…14歳の女の子だからなあ、メイちゃんは。衆人環視でおっぱい見られてしまったらねえ?
一方、犬は「えっと…、こ、これで隠しっ!!」自分の学ランを渡してそっぽ向く。
その顔は真っ赤っか、あの年頃の子に見せればあんな風になるだろうなあ、って感じの顔だ。
ネギ並みにエロイベントを起こしたのなら別だが。まあ、アイツはエロい星の下に生まれてきた子だからね!!
「えー、大変なハプニングがありましたが…、試合再開です」
再開したのはいいのだが、
「す、すいませんです…」学ランで胸は隠れてはいるが、羞恥心が全く抜けてない弟子二号と、「お、おう…、気にすんな…」恥掻かせたのとおっぱい見たのが合わさってか、直視出来てない犬。
心ここにあらず状態で、こりゃ試合にならんわと判断。
後々の展開からして犬には勝ってもらわないと困るので、
「おっと・・・、タオルです!タオルが投げ込まれました!!投げ込んだのは参加者であり、愛衣選手の師匠であるアンドレイ選手です」
強制ギブアップさせる。セコンドじゃないけど、いいだろ。
「アンドレイさん…」
隣の高音の姉ちゃんが怖い顔してるが無視無視、あの子はよく脱げる貴方とは違うんです、貴方とは。
「誰が原因ですか!…まあ、それは置いておきまして、ありがとうございます」
意外な返答が帰ってくる。
「あの子、負けず嫌いな所があるんです。ああでもしないと止めなかったでしょう。だから感謝してますわよ」
確かにね、弟子二号はそう言う所がある子だ。やっぱり敵わないなあ。
「不満を言うと思いますが、私が上手く言いくるめておきますわ。…それよりも、彼女さん怒ってらっしゃいますわよ?私を何度も脱がした事への言い訳頑張ってくださいな」
笑顔で任せておきなさいと言い、更ににこやかな顔で死刑宣告をしてくれやがる高音の姉ちゃん。…仕返しか?
「脱げる原因ってどういう事なのかなー?何度も脱がした事についても訊かせて欲しいと思うのですよ」
ハイ、見事に仕返し成功しているですよ。…試合が出来る程度に留めておいてね?
「えー、審議の結果を発表いたします。師匠格の者をセコンドと同等と見なし、試合放棄を認める判定となりました。よって、小太郎選手の勝利となります」
****
「そう言うことならいいの。でも、後でちゃんと謝っておくこと、いいですか?」
「ma'am yes ma'am」
説得の結果、後でお仕置きに負けて貰えた。何とかして有耶無耶にしよう。
ミーシャにクリス、その時に蒸し返したりするなよ?
間もなく僕の試合、相手は楓ちゃん。本気出さなきゃ間違いなく勝てない相手。
久方ぶりに全力全開で行きますか!!
と、その前に。アレを那波さんに渡しておかなきゃ。
メイちゃんに恥掻かせたお仕置きだ。
****
「ち、千鶴姉ちゃん…。何や、そのごっついネギは…!?」
「群馬県下仁田名産、下仁田ネギよ。アリョーシャさんにもらったのよ、好きに使ってくださいって言ってね。時期外れなのに太くて立派ねぇ」
「ちづ姉、まさかそれ、小太郎君に…」
「火を通すと甘くて美味しいけど、生で食べるととっても辛いのよ。どう使おうかしら?」
「何や、その目は!?…いややー、やめてえ~っ」
あとがき:と言う訳で武道会編開始です。
ああ、バトル表現がもっと上手くなりたい…。そう思って書いてます。
追記:誤字修正と言い回し変更。指摘感謝します。