「高音君、影を勢子として前に、君自身は私に付いてくれ。佐倉君は殿を。にしても、受領してから数日も経たない内に初陣とは…。どれだけ使いこなせるか疑問だな」
木曜日の朝、下ろし立ての銃とナイフを持ちそんな事を呟く。
「「一番扱い馴れている形にしてある」ときょうか…、コンドラチェンコさんが言ってましたが、そうじゃないんですか?」
それを聞いて疑問が返ってくる。
「いや、昔の相棒を元にデザインしてあるからね、目を瞑っていても扱えるよ。更にだ、気を利かせてくれたのかして幾つかの部品に懐か
しの部品達を使ってくれているよ」
銃を構えてそう答える。
この銃、アンドレイ・コンドラチェンコがガンドルフィーニ氏へと贈った物で、M16突撃銃をレシーバーだけにしたような形を取り、
ロアレシーバーやグリップ、セイフティ等の部品には彼がかつて属していたカナダ軍制式ライフルC7の部品を用いている。
「ただ、馴染みやすくはあるが、まだ馴染んでくれていない。それだけの話だ。何とかしてみせるのも腕の内だがね」
聞き終わり、少し釈然としない顔をする佐倉愛衣、高音・D・グッドマンが答える。
「あなただって、そのホウキを同じ型のホウキに変えると解ると思うわ。微妙なフィーリングの違いよ。でしょう、先生?」
「そう言うことだよ。さて、お喋りはここまでだ。本腰を入れる、端末を用意してくれ」
つい昨日から支給された新型携帯情報端末を取り出し、二人の端末と同期させる
地図と位置情報が表示され、中央管制室からの様々な情報が入る。
狐狩りの始まりだ。
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「アリョーシャ君様様やなー。皆が苦労してんのに、ウチらだけヨユーやもん」
「そりゃー、他のクラスの八割増しの人数でしてるんだよ。力仕事や組み立てのほとんどと買い出しをお任せ出来たしねー。前夜祭が楽しみだ」
「とても助かった…」
女子中等部3-Aの面々は余裕である。男子中等部3-Aの8割が協力したからだ。
箱物の大半を外注出来、自分たちは衣装制作や仕上げ等々に集中出来た上に買い出しも男子が喜んで行ってくれる。
それこそ、「パン買ってこい、五分で」と言ってもだ。
男子校の悲しさか、女の子にどの様な形であれお願いされることに嬉しさを感じてしまう男ばっかだったからだ。
一部の彼女持ちは除くが、あとガチホモな奴。
それを知った他のクラスは大層羨ましがった。自分たちの所も手伝って貰おうともした。
しかし、「お前達に許可を出した覚えはないぞ。自分たちだけで進めなさい」新田先生の警告で止められる。
申請を出し、許可を出したのは彼らだけだからだ。規則を守らせ、指導していく立場としては有耶無耶にさせる訳には行かず、一層厳しく当たっていた。
故に協力体制は堅持され、順調に事は進んだ。
その結果、女の子のお肌の大敵である睡眠不足は回避され、男共は「いい加減にこちらの特訓もしろ」と鬼より怖い委員長殿の扱き(ハートマン陸曹直伝)を受ける。
迎えた学園祭前日、準備が終わって余裕で元気な女子3-A、余裕があったが地獄の特訓に費やされて疲労困憊した男子3-A、対照的な
双方であった。
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「諸君、昨日までご苦労だった、明日からいよいよ本番を迎える。諸君らの働きについては何の心配もないと僕は思っている。僕の特訓に耐えられたのだからな」
教室に全員整列し、委員長殿ことアンドレイ・コンドラチェンコの演説を静聴する男子3-A。
ここ半年で規律と礼儀を叩き込まれている彼らは中学生らしからぬ空気を纏っていた。
「…以上だ。明日0830時現地集合、それまでは自由に行動してよろしい。惰眠を貪るなり、前夜祭で脳内麻薬の分泌量を増やすなり、好きにしてくれたまえ。解散」
アンドレイが退室の後、各々退出し行動を始める。
とある二人、メタボ白饅頭と顔の細長い二人は
「ふいー、マジメモードの委員長殿の前では緊張するお。何時もは気軽に付き合えるんだけど、あの時だけは苦手だお」
「まあ、委員長殿の家は軍人家系で更に長男だろ。人の上に立つ時の心構えが染み込まされてるんだろ」
先程までの感想を呟きながら歩いていた。
ふと前の学園祭のことを思い出す、
「その心構えのお陰で驚くほど順調に進んだお。去年なんてヒドかったお」
「去年はなあ…、ギリギリまで出し物が決まらないわ、三日連続で徹夜する羽目になるわで、ヒドいとしか言いようがないだろ、常識的に考えて」
「それにウチのクラスは元々纏まりがなかったお。それに加えて、前の学級委員長はリーダーシップ皆無の奴だったお」
アンドレイがここ麻帆良学園男子中等部にきておおよそ半年強、3-Aはずいぶんと様変わりした。
「変わったのも委員長殿が来てからだろ。さっきみたいな整列はほとんど無理だったろ。半年とちょっとしか経っていないのにすっかり躾けられてるだろ、俺たち」
「もう半年かお。季節外れの留学生がここまでスゴいとは思っても居なかったお。いきなりロシア語で自己紹介された時はどうなることかと思ったお」
「その後に流暢な日本語でしゃべり出したから余計にインパクト有ったろ…。そう言えば俺たち、委員長殿が副委員長の頃から"殿"を付けて呼んでたろ、いつの間にか。まあ、理由としては、何というか…、敬愛の念だったけな?そう言う物を抱かせるんだろ」
「上物のエロネタもいっぱい提供してくれてるお!余計に敬愛するお!!」
「もっともだろ!帰ってDVD見るだろ、委員長殿厳選のをな!!」
いい意味でも悪い意味でも馴染んで、慕われていた彼だった。
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超鈴音は困っていた。
目の前にいる子供先生こと、担任であるネギ・スプリングフィールドへの回答に対してだ。
「で、超さん。一体何をしでかしたんですか?」
何時もの笑顔でとっても答えにくいことを聞いてくるからやりにくいったらありゃしない。
「怪しい奴等だろうが、悪い魔法使いだろうが追われる様なことをしたんでしょう?それも一般の方に目撃されるかも知れないというリスクを背負ってまで追ってくる様な事を」
適当なことを言って誤魔化すのが常套手段だろうが、正論を言ってくるネギに対してそれは良くない。
行きずりで味方をしてくれているが、下手な誤魔化しは心証を悪くする。他の二人もまた然り。
「あなたたち魔法使いの集まりを覗き見していました。追っ手は魔法先生と生徒です」
と正直に言えば、「じゃあ引き渡しましょう」と言われるのがオチだ。
にしてもだ、自分の知っている担任はもっと"いいひと"で、
「言ってくれないと、生徒指導室で新田先生とお話しして貰いますよ?」
こんな事を言う様な性格悪ではなかったはず。
新田先生は悪い人ではないが苦手だし。
ハカセの話や茶々丸のデータでもこんなのは見てはいない。
いつの間にこんな性格になったのだ?と疑問に思っていた。
但し、それは半分正解で、半分間違っていた。
ネギの性格自体はそんなに変わってはいない、ただ切り替えをしているだけ。
平時の思考と戦場の思考の切り替えが出来る様になりつつあったからだ。
そうやって切り替えた思考に多大な影響を与えているのが、兄貴分の教え。
その一つ「戦場ではまず疑って掛かれ、間違いない情報以外は敵の罠である可能性がある」の前半、
「戦場ではまず疑って掛かれ」を超に対して実行しているだけだった。
「言ってくれないと困ります。悪い人相手でも悪いことはしちゃいけませんよ、一体何をしたんですか?」
「エト、その…、つい好奇心から覗き見をしてしまったネ…。それを見つかってしまったから追われてるヨ」
詳細は言わず、本質のみを抜き出して言う。嘘は一切無い、ただ要約しすぎているだけだ。
「何覗いたんや?追ってきょる所からしてヤバい話やろ、非合法品の取引とかな。昔、見張りの仕事したことあるよってわかんねん」
「物によっては見られただけでもマズいでしょうからね。追っ手を出してくるのも解らなくはないです」
「「好奇心は猫をも殺した」と言うことわざがあります。好奇心もほどほどにしなきゃダメですよ、超さん」
何とか誤魔化せたと安堵する。しかしネギの戦場での疑りっぷりをなめていた。
「そう言えば、何で他の魔法先生や生徒の皆さんに保護を求めなかったんですか?」
きちんと"相手のいやがることは進んでしましょう"をしてきたのだから。
「アハハハ、イヤー…」
遠くを見ながら、乾いた笑い声を上げるしかなくなった超であった。
「む、待ってください。どうやらこっちの居場所に気付いたようです」
「近付いてくるな、数は3」
追っ手のお陰で有耶無耶に出来、心の中で感謝する超。無論矛盾に気付いてはいたが。
戦闘準備を調える三人。
「ガーランド、セットアップ。バリアジャケット非展開」
ただ、先程支給された携帯情報端末を起動させるのを失念していた三人であった。
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携帯情報端末を弄りながら歩く。
この端末、この前の悪魔侵攻後に提唱し、その為の試作品として少数生産させた内の一つだ。
この学園祭期間を試用期間として利用し、評価後制式採用を決定する流れだ。
コレが制式採用されれば、アメリカ軍が進めている情報RMA化以上の効果を関東魔法協会にもたらす事だろう。
因みに中身はiPh○ne3GSの丸パクリだ、容量は32GBで音楽も聴けるぞ!
『此方からすれば15年以上前の骨董品ですがね』
せっかく未来から来たんだ。使える知識は使わなきゃダメじゃないか。そっちの方が楽だし。
『ap○le社に売り込みますか?売却より、関連特許をガチガチに固めてからのロイヤリティー契約をお勧めします』
しないって、あと三年半で第一世代iPhoneが販売される。
つまりは○ppleの皆様方が企画を練ったり技術開発をしている真っ最中じゃないか。
そんな所に二世代進んだ奴の設計図を持ち込むなんて野暮な事はしちゃあいけません。
『株や先物に未来情報を使いまくっている癖に、そういう所のモラルは守るんですよね、同志は』
うん、祖母さんにそういう風な事言われながら技術を教えて貰ってたからな。そのせいだろ。
それに、僕はパテント・トロールとか言う特許を使って金儲けをする非生産的な連中が大嫌いなんだよ。
奴等の真似して手に入れた金なんて新聞の折り込みチラシよりも価値がないと思ってるからね。
自分たちの頭で生み出していない、買いあさった特許を使い、難癖に近い事を吹っ掛けて、莫大な和解金を手に入れる。
そんな連中が大っっ嫌いなんだ。まあ、目先の利きっぷりには感心するけどな。
…カートリッジ使った爆弾でも贈ってやろうかなあ?一発でビルを吹き飛ばせるぐらいのを。
『誰もいない時間帯に作動する様にしておきましょう。炎熱変換プログラムも入れて関連資料全てを焼失させられる様にして』
とまあ、そんな馬鹿話をしながらあちこち回っているのだ。
付き合いやらで色々とするからね。
****
乱痴気騒ぎの前夜祭、そして迎えた学園祭初日。
何時もの様に早朝ランニングをしていた、その何時ものコースに意外な顔があった。
初めて見ると言えば初めてで、見慣れたと言えば見慣れている、と言うか生まれる前からの付き合い。
「よう、僕」そこには自分がいた。
『間違いなく同志アンドレイですね。ここにいるのも、そこにいるのも。そして私も』
「10日後から来たというわけだな?100年ほど後のこの世界の魔法と科学と世界樹の魔力の三つを合わせたそれを使って」
未来の僕の手中にある懐中時計、「カシオペア」と呼称されるタイムマシン。
ミッドチルダや全盛期の古代ベルカでも流石に時間跳躍は実現出来ていない、つまりはアルハザードの域だ。
んなもん実用化出来ているとは…、恐るべし超りん!
「コレを使ったトラップに引っかかってしまって、三日目昼から一週間後に飛ばされてしまったわけだ」
「そういうこと。魔法をバラすという計画にネギ達が邪魔だったらしくてな。別荘と組み合わせたトラップを組み込んでいたらしい」
まあ、話は早い。何たって自分なんだから。
ツーカーって奴だな。
「で、なんて言ったんだ?魔法をバラすという超に対して?僕の事だ、ヒドい事言ったんだろ?」
バラす事については特に興味はない、当たり前の世界を知っているからだ。
隠す事にも特段の拘りはない、無くて当然の世界で育ったからだ。
ただ、この世界の様に裏では存在するが表には秘匿されている世界では話が違ってくる。
"秘匿し続ける"事がこの世界における多数派なのだ、少数派が強硬手段を用いて無理矢理ひっくり返す。
それは秩序を無視した行為であり、法執行機関所属の人間としては無視出来ない。
まあ、質量兵器の無許可使用だとか非殺傷魔法を使っての拷問とかの小さい悪は棚に上げるけどね!
「うん、仲間に引き入れようとしてきたのはいいんだが、「私はうまくやる」だとか「不測の事態については私が監視し調整する」
だとかの巫山戯た事をぬかしやがったから馬鹿にしてやったよ」
うん、流石は僕だ。そこにいれば間違いなくそう言ったよ。で、どんな?
「「理想を大多数に押し付ける…、スターリンか毛沢東になるつもりか?」ってね、そして「調整方法は反対派の粛清か?同調者は紅衛兵
で文化大革命を再現するんだな。いや、お前の私兵だから超衛兵だな」といってやったよ。必死に怒りを隠している顔は見物だったぞ」
よくぞ言った。ああいう輩は自分の理想に酔ってるのが多くて、理想は劣化する物で、組織は腐敗していく事を知ろうとしないからなあ。
だから人事や世代の交代で食い止めてたり、成長させて腐った部分を直したりするんだが、超とその仲間達だけの組織ではなあ…。
大多数の反対派は無理矢理頭を押さえつけられた経緯から協力しないだろうし、同調したのが出ても裏切り者扱いされて闇討ちされる可能性が高い。
太鼓持ちなら闇討ちされんだろが、役に立たんし。だから有能な仲間は増えないだろう。
過激派は間違いなく敵になるしな。
「ま、金と技術で何とかするつもりみたいだったけど、そんなので片が付くのなら僕ら戦闘魔導師はほとんど要らなくなるよなあ。ロストロギア関係を除いて」
「魔法を周知の事実にしても世界は平和になりませんってのは時空管理局の存在が肯定してるのになあ。天才と何とかは紙一重ってのか実証されたな」
同じ顔を見合わせて笑い合う。
で、未来から来た方が真剣な顔をする。
「一つ頼みがある。三日目の昼までこの別荘に入っていてくれないか?」
近くにあった包みを解くとそこにはエヴァの別荘、それも城が入ってる奴。…どうしてここにある。
「土下座してマガジン一つと引き替えで貸して貰った。ちゃんと後片付けをするなら多少荒らしてもOKだ」
…カートリッジ30発と引き替えか、純正の方を欲しがっていたからなあ。土下座まですればエヴァの性格上貸して貰えるか。
入るのはいいが、どうすりゃいいんだ?
「同じく10日後から来たネギとその従者一同がすでに入っている。そいつらを鍛えて貰うのと…」
鍛えるのと?
「工学部の超嫌いの連中と機材を運び込む。出来れば魔法生徒も突っ込もうと思うからそいつらも鍛えてくれ」
ああ、超軍団用の装備を作るのね。で、こちらになびいてる生徒も鍛えて戦力強化をすると。
弟子二号がカートリッジと引き替えに動いてくれる奴等をピックアップしてくれていたから、そいつら中心だろう。
で、僕はどうすんの?
「表で動く。超の企みその他諸々は知っているから、監視網をくぐり抜けて動く事が出来るのは僕だけだ。手のひらで踊らされている様に見せかけておくのさ」
なるほど、そして三日目の昼に僕と本来の時間軸のネギ達はトラップにわざと引っ掛かって、超は自分の計画通りに進んでいると錯覚させる。
が、踊らされているのは自分の方だったと…。よし、乗った!
と、バ○タン星人の説得材料は完璧だな?
「ああ、祭りの一週間後だったから資料はたっぷりと。コレを見せればいけるだろ」
流石僕、準備万端だな。
****
説得が終わり、別荘に入った事を確認、こっそり張っていた隠匿用結界を解除する。
「ねえ、いいの?いくら過去の自分とは言え騙しちゃっていいの?それに私の事だって…」
「いいの、いいの。自分を騙すなんて罪にもならないよ。それに、言ってないだけだよ?君の事はね、陛…いや、ヴィヴィオ」
そこにいるのは陛下こと僕の彼女、高町ヴィヴィオ。
そう、彼女も一緒に10日後からやってきたのだ。
紫陽花栄える六月下旬、梅雨の合間。
二十四節気では小暑の時期だが、男は春の風を感じていた。
あとがき:前回予告の超展開でした。次回はその前を書くつもりですので、こうご期待。
追記:…気分転換に読むんじゃなかったあずまんがリサイクル。
と言う訳で誤字修正。
ガンドルフィーニ先生専用銃:本当にM16のレシーバー部だけにした形をしています。
ボルトフォアードアシストノブもダストカバーも無く、キャリングハンドル兼用リアサイトはレール付フラットトップになってます。
ついでにバッファー部分の出っ張りもありません。
ネギのデバイス:二枚組のドッグタグ型です。名前はアリョーシャ君が勝手に命名。
自分が持ってるのがライフル由来だったので同じようなのと考えた結果、
スプリングフィールド→スプリングフィールドアーモリー→M1ガーランド→ガーランドで決定。