「学園長、あんなこと言っちゃってよろしいのですか?多分あくどい事をすると思いますよ?」
当直管制主任の一寸不安そうな声。手段を選ばず、自己解釈と拡大解釈をたっぷりする結果主義者にフリーパスを渡したのだ、不安にならない方がおかしい。
「元来彼は法執行機関所属じゃ、極端な事はしまいて。それに、君の娘さんの友人じゃ。根っからの悪人と友好を結べるような子には育てておらんじゃろ?明石君」
「痛いところを…。まあ、皺だらけのシャツを平気で着ていたやもめ男にアイロンがけを仕込もうとするようなお節介な子ですからね。お陰でクリーニング店のアイロン係に雇って貰えるだけの腕になってしまいましたよ」
二人とも交友があり、どんな人間なのかは判っている。
「ほう、それはそれは。それじゃったらいつクビにしても大丈夫じゃの。再就職先が決まっておるんじゃから」
「ああ、それもいいですね。学園長、いいお店紹介してくださいね」
「ふぉふぉ、それでは再就職祝いにその店にアイロンがけの注文だそうかの」
だから深刻にならず、このような冗談を言っていられる。その冗談は緊迫していた空気をほんの少し和らげた。
「さて、ちょっと席を外す。後は頼むぞい」
世の中、地位の高い人間にしか出来ないことがある。近衛近右衛門はそれを成すために向かう。
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どんな無能でも、一定以上の地位があるともれなく腰巾着が付く。
胡麻を擂るのが大好きなそいつらは、不相応な肩書きがつき、偉ぶるものである、それ位しか誇る物がないからな。
厄介な事に腰巾着は忠誠心が強いのが多い、それが気に入られる要因なのだが。
まあ、何が言いたいのかと言うと、ぶっちゃけ邪魔。
ウザいだけならまだしも、無能の考えを墨守しようとするから邪魔だったらありゃしない。
そんな連中に絡まれてますハイ。
「あ~、コンドラチェンコ君だったか?君がいくら学園長直轄とはいえ、作戦要領は守ってもらうよ?何、経験豊富な上層部の指示だ。君のような若輩者が心配する必要はないよ」
ああ、ウザいです。殺って、そこいらの山中に埋めたい…、イヤ、半殺しにしてあそこの熊のご飯にしたいぐらいウザいです。
まあ、後者は人間の味覚えて襲うようになるとといけないから却下だが、前者なら誰にも気付かれない場所に心当たりがあるので実行可能だ。
『同志、実行するのはコレの自筆文章を手に入れてからにしてください。偽装遺書が作れないじゃないですか』
怖い止め方をするな、冗談だって。
『そう言えば、ここから30分ほど行ったところに立派な山桜の木がありましたね、殆ど知られていませんが。埋めるなら其処にしましょう、養分を吸って見事な花を付けてくれる事でしょう』
埋めません。桜に失礼じゃないか、こんな無能由来の養分を与えるなんて。
『まあ、念話漫才はこれぐらいにして…、どうします?この腰巾着野郎。矢張り埋めますか』
何故埋めたがる、まあ、どうするかは決まっているけどね。
「…なのだ!む?窓を開けてどうするのかね…」
腰巾着野郎に喋らせるのはここまで、次の瞬間そいつは頭から崩れ、液体を撒き散らす。
「着弾よろし、命中だ」携帯越しに伝える。
「了解、やはりスッキリするね。ソイツは特にむかつく奴だから」そう、真名の狙撃だ。
弾種は麻酔弾、去年の学祭で使った奴の余りだとか。何に使うんだ?と言う疑問がわき上がってくるが。
「にしてもいいのかい?君なら自力でどうこう出来るはずだぞ」
「弟子が折角準備してくれたんだ。使ってやらなきゃダメだろ?箸にも棒にもかからない事なら兎も角、使えるんだから」
弟子二号の仕込みの一つが無能役員と腰巾着野郎のリスト(顔写真入り)だ。
メイちゃんはアメリカにあるジョンソン魔法学校(詳しくは知らん)留学中に魔法演習でオールAを取ったとか。
そんな将来有望な人材にはよく人が会いに来る。青田買いをして、自分の派閥に組み込むためだ。
それに加えて、マスターの高音の姉ちゃん、結構いいとこのお嬢らしい。
なので、同年代の魔法生徒よりも面識のある中間職や上級職が多い。腰巾着野郎や無能役員ともな。
昔の記憶を辿り、待機中に魔法関係者名簿(顔写真入り)をイントラネット経由で手に入れ、作ってくれたのがコレ。
真名に狙撃依頼したのも弟子二号、真名も腹に据えかねていたらしく、無報酬で引き受けたとか…。
どんだけ嫌われてるんだ、そいつら。
「私は元従者だからね、再契約して人のために尽くせとかうるさく言う奴が多いんだよ。ソイツなんて「私が新しくマスターになってあげてもいいんだよ」なんてふざけた事を言ったこともある。だから無報酬でもいいんだ」
真名がいいのならなあ、友人としてこれ以上何も言うまい。
「で、処分するところまでは弟子の考えだが、師匠はどうするのかな?悪辣なことを考えてるんだろ」
「スケープゴートにする。こいつだけじゃあ足りないからもう一寸集めてからな。協力してくれよ?」
「やれやれ、人使いが荒いな。だが、喜んで」
さてと、早く腰巾着共を集めよう。さっさと排除した方が仕込みが生きるし、みんなも喜ぶだろ?
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「ふむ。ネギ君、君は先程から放った攻撃全てを"見て"判断しているね。相当肝が据わっているか、恐ろしいほど撃たれていないと出来ないことだよ」
戦いの最中、ヘルマン伯は語る。
幾許かの戦いで戦度胸を付けて居るであろう事は容易に想像出来た。
しかし、ネギの度胸は想像以上だった。攻撃を見て、躱すか防ぐか判断し、防ぐとしても受け止めるか逸らすかを判断していた。
妙なほど"恐れ"が無いのだ。
かと言って、共にいる小太郎のように勇猛果敢、悪く言えば猪武者という訳でもない。
慎重に確実な攻撃しかしてこず、無駄撃ちはしない。深追いはせず、一撃離脱に徹する。
まるで歴戦の兵士のような動きと判断力。
京都から今日までのさほど長くない期間に、一体どのような訓練を受けてきたのか、ヘルマン伯は疑問に感じた。
「血尿が出る」と称される空挺軍初等教程相当の訓練を受け、一個砲兵大隊の全力射撃に匹敵する砲撃を何度も耐え続ければ流石にこうなるのも宜なるかな。
ネギ曰く「攻撃?アリョーシャの砲撃に比べたら全然平気だったよ!」
英雄的戦闘を好んだ父親とは真逆の戦い方、だが興味深くはある。形は違えど才能の片鱗を見せているのだから。
だが、落ち着きすぎていて面白味に欠ける。そこで古傷を抉り、焚き付けてみることにする。
培われた冷静さが無くなり、身に付いた技能を武器に闘争本能むき出しに襲ってくる様、想像するだけでも素晴らしい。
さあ、どう出るのかね?ネギ・スプリングフィールド君。
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腰巾着を集めた。バインドでがっちり固めてあるので逃げは出来ない。
コレで下拵えの一つは終わり。次の下拵えをするのだが…。
誰が共犯者になってくれるかねえ?学園長は黙認してくれてはいるがなあ。
実際の所、話を聞いてくれて、擽れそうなのは一人ぐらいしかいない。
他の人?「踏まれたい・罵られたい女教師No.1(MU調べ)」の刀子先生は刀突きつけられながらのお話になりそうだし、瀬流彦先生は話聞いてくれるけど、優男な外見通り頼りない。
ヒゲグラこと神多羅木先生もちゃんと話を聞いてくれるんだが、マイペースな楽観論者とは話が合わん。
弐集院先生?あの人思いっきり後方要員だし。共犯にしても前線への影響力は殆ど無いし。
気は合うんだけどなあ、飲み友達になりつつあるし。今度イーデ○ホールに飲みに行きましょう。
消去法と繋がりからガンドルフィーニ先生を共犯者にすることにする。
「ん?ああ、アリョーシャ君か」
「状況はどうですか?」
「見ての通り、行き当たりばったりだよ。いつもならウチの参謀連中が必死になって考えた作戦に従って動くところだが、今回は"あの連中"に指揮権を奪われている。WW1…、いや普仏戦争時のフランス軍相手でも負けそうな作戦に従って動かねばならん」
深刻そうな顔をしているガンドルフィーニ先生。
CQCの指導を受けている時に聞いたのだが、軍人時代にマキャヴェリにクラウゼヴィッツにリデル・ハート等が著した思想書を読破し、孫子の兵法やスキピオとハンニバルの戦術、古今東西の戦史の勉強もしたそうな。真面目な人ですからね。
そんな人からすれば、この配置や当を得ない指示は堪ったものではないのがよく解る。
いくら強力なカードが使えるとはいえ、こんな無能丸出しな戦術を使うような連中の指揮に従うつもりはない、僕も先生も。
そう言う意味でも共犯者にしやすいともいえる。あっち元地上軍下士官、こっち殆ど軍隊な組織の士官候補生、教程や内容が全く違うとは言え、軍隊生活という共通項があるからな。
「つまりは、支部からの命令を無視して動けというのだな?」
「ええ、先程聞かせたように学園長からの許可、と言うかフリーパスは戴いたと解釈してもよろしいかと」
只今説得(と言う名の誑かし)中。
「ここだけの話ですが、作戦決行の前に大規模な念話妨害を行います。それこそ、管制施設との念話通信が不可能になるほどの」
念話妨害魔法の原型はエロオコジョの魔法だ。とあるデータと引き替えに教わったそれを大出力化した。
今回は純正カートリッジ五発を使った大規模なもの。大半のバンドを妨害出来る。
因みに、此方の念話は妨害されない。UHFアナログと無線LANの違いみたいなもの。
周波数帯が違えばジャミングも違ってくる訳。
「支部との通信も不可能になるというわけか。だが、支部所属の人間はどうする?参加人員の中にも何人か居るぞ」
「さあ?どこで何をしているのやら。状況把握のために動いた時には殆ど見ませんでしたね。お昼寝でもしてるんじゃないですか?」
それを聞いた途端「にぃっ」と人の悪そうな笑みを浮かべるガンドルフィーニ先生。うん、やっぱこの人根っこは軍人だわ。
上級司令部と連絡が付かず、士官の何人かが連中が行方不明になるという状況。それはつまり、残った士官や下士官だけで動かざるを得ないと言うこと。
普通は不利な状況となるのだが、無能な働き者や机上の天才達、銀英○のフォ○クとか○ボスとかド○ソンとかリップシュッタ○貴族連合軍(メルカ○ツとファーレンハイ○除く)みたいな連中。
そんなのが排除された場合は不利とはならない、つーか有利になる。
そこに有能な中級司令部から「弁明はこちらがしておく。勝手にやっても良い」とのメッセージ(勝手な解釈を含む)。
さて、この様な時に有能な働き者や怠け者達はどう考えるのか?答えは明白、"最善を尽くす"それだけだ。
少し考え込み、あごを指で挟みながら一言、
「君の作戦は聞かせてもらおうか。あと同僚達の説得は私がしよう、君は生徒達を頼む。まあ、君は生徒達に人気があるからスムーズに行くと思うがね」
誑かしに成功し、共犯者となった瞬間だ。
****
雨が止み、月が覗く頃。少し前から大規模な念話障害が発生していた。
現状を知ろうと"あの連中"は子飼いの部下達、腰巾着共に連絡を付けようと必死のことだろう。
だが、その連絡は繋がることはない。
謎の妨害が止んだ時、中央管制室に一報が入った。
「一団が敵集団へ突撃を行い、包囲された。只今より救出を行う」と。
支部の役員達の顔が蒼白になる。
念話を用いた敵味方識別の結果、包囲された一団とは腰巾着共だと判明した。
そう、狙撃して眠らせてバインド掛けておいた連中を出汁にすべく敵集団へ放り込んだのだ。
そのまま放り込んでも良かったが、流石に家族とかが可哀想なのでディフェンサープラスで防御してある。
いけ好かない奴らだからと言っても、家族まで巻き込むのは流石にね。
魔女の眼越しに光が見える。何カ所から同じような点滅する光が挙がる。
配置完了を意味する信号だ。
作戦開始だ。「ミーシャ、HEATーMPシュートシェル・ムスタシフト・三点射」
『ムスタシフトよろし、弾種HEATーMPシュートシェル、弾数3』
スメルチと対のシフト、スメルチが瞬発火力型ならばムスタは持続火力型、精度もこっちが上。
『リンクを確認、照準よろし』「撃てえーっ!!」
三点バーストが向かう先、偉そうな上位悪魔共だ。
さて、殴り合いをするとしますか。
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日頃の行いが物を言うという言葉がある。私はそれを二度実感していた。
上からの命令を無視し、独断で動く。
人生で二度それを行ったが、日頃の私を知っている同僚や部下達は賛同したり、従ってくれた。
一度目はルワンダ。
当時、魔法使いでありながらカナダ統合軍地上軍に籍を置いていた私はPKFの一環としてルワンダに派遣された。
そこでは一民族による他民族への大虐殺が繰り広げられていた。
上層部は政治的要因という奴で雁字搦めにされ、的確な指示が出せず。
下は指示が貰えないが故に動けない、精々警告射撃が出来たぐらいだ、保護を求めてくるまで静観するしかなかった。
保護を求めることさえ出来なかった者達はそのまま殺される。私たちはそれに耐えきれず、"現場の判断"で介入をした。
命令を無視し、民兵を多数殺傷した私たちは軍法会議に掛けられてもおかしくなかった。
結局は掛かりはしなかったが。同郷の平和維持軍司令がどうにかしてくれたらしい。
軍に限界を感じた私は軍を退き、"偉大な魔法使い"を目指すことにした。
限界は有ろうとも、より多くの人を救えると信じて。
それから何年かして、最前線を去った私は"偉大な魔法使い"の卵や雛を育て、守る立場になった。
二度目は今回。
実態を知らない"あの連中"の命令を無視し、異世界の魔導師の共犯者になった。
そのことを伝えた時、皆が「仕方がない」と言った顔をして賛同してくれた。
配置に着いた我々は最初の砲撃を待つ。
悪魔達に砲撃を加え、囮として敵の攻撃を吸引し続ける。それがアリョーシャ君の役目だ。
流石の彼でもこの数は始末出来ないようで、正面からの殴り合いで数を減らし、弱った所で我々が突撃・殲滅する。
それが今回の作戦だ。
旧日本海軍の構想を参考にしたというこの作戦、戦艦に当たる彼と水雷戦隊の我々。
勝負を決めるのは我々だ。魔導師に見せてやろうじゃないか、魔法使いの力という物を。
****
一つの戦いが終わった。
少年達は力を合わせ、とらわれのお姫様達は自らの力で牢獄から抜け出し、その助力もあり勝利した。
貴族たる悪魔は敗北を認め、止めを刺すように促す。死に場所を求めるように。
止めを刺すための魔法、復讐のために覚えた魔法、ネギはそれを使わないという。
一呼吸置いて理由を告げる。
「一つ訊きます。心底自分を憎んでいる相手に情けを掛けられて生きのびる、貴族のあなたはそんな屈辱に耐えられますか?」
「…ほう、それは確かに…。そうか、そう言うことだね?」
「はい、ズタズタになったプライドを背負って生きのびてください。それが僕の復讐です」
少し前に兄貴分から聞かされた話、叔父に父と親友を殺され、恋人を傷付けられた男の話。
叔父と戦い、命を落とそうとしていた叔父を助け、罪のつぐないのために生きのびさせる。
その男の最初で最後の復讐、それがこれ。
「自殺するかもしれんぞ?それでは復讐にならんよ」
「いえ、そんな人なら人質にひどいことをするはず。あなたはそんな事はしません」
暫しの沈黙の後、
「完敗だネギ君。傷だらけのプライドを背負って生きのびることにしたよ」
愉快そうな笑い声を上げる。
「ここまで残酷な仕打ちは初めてだ。今後どのように成長するか。楽しみにしておくぞ、少年!」
笑い声と助言を残しに煙に消える。
ここにネギ・スプリングフィールドの復讐、その一端が終了した。
****
「ABMバレット・六点射」
悪魔の間近で炸裂し撒き散らされる散弾、殆どが防がれるだろうが構わない。
防御を強いるための攻撃、本命はこの次。
多めの爆煙が発生するように調定しておいた弾が弾ける、瞬間的に鈍る動き。
「APFSDSシェル・二点射!」4発のカートリッジと引き替えに発生する二つの矢。
規格外の存在以外全てを貫くそれは音速の五倍で飛び、障壁に当たる。
この超高速侵徹体の前では多少の守りなど焼け火箸の前の薄氷の様なもの。溶けるように貫かれ肉体へと侵徹する。
受け止めた肉体は運動エネルギーから変換された衝撃波に砕かれる。
悪魔の強靱な肉体であっても、MJ(メガジュール)級のエネルギーには関係ない。
さっきのでやっと二体目。確実に葬れる矛と防ぎきれる盾を持つとはいえ、数で負けているのだ。
それに加えて、僕は出力が高くないのだ、つまりは装甲があまり厚くないことと問答無用の大出力魔法が使えないと言うこと。
何とか一対一の体制に持ち込み、各個撃破するしか手がない。
レッサーデーモンは飛べず、上位悪魔は飛べたのが幸いか。
飛び回れば最大速度や加速の個体差でバラバラになりやすく、各個撃破のチャンスも増える。
さて、流れ弾や広域砲撃で少しは減ったしこちらへ意識を向けるのにも成功した。
殆どの悪魔が僕への包囲網二酸化、後背を気にしている奴が居ねえ。レッサー(劣化)だけに頭悪いのな。
上級悪魔は僕の相手で一杯一杯みたいだし。
…潮時か。信号弾と念話を送る。送る内容は「ト・ト・ト」所謂ト連送である。
さあ、暴れまくってくれよ、水雷戦隊の諸君。
****
ト連送、旧日本海軍で用いられていた電信略号の一つ。「全軍突撃」を意味する。
腹の底から捻り出した鬨の声が響く、「総員突撃、私に続けーっ!!」うん、戦士は声が大きくなければな。
刀子先生をはじめとする前衛連合を先陣とした魔法使い達が動く。
皆、必死に走る。少しでも速く走り、射点に付こうとする。
一分一秒でも一瞬でも縮める事が時間が安全と攻撃成功率に直結する、その事を知っているからだ。
後背を付かれ、完全な奇襲の形。社会まで遮る物はなく、レッサーデーモン共は軽い混乱を起こす。
上級悪魔も気付くが、そうは行かない。
お前達の相手は僕だ。ボサッとしてると殺すぞ?
射点に付いた後衛連合、各々の最大魔法が放たれる。吹き荒れる魔法による暴力、その勢いはより一層強い。
何で、より一層強いのが解るのかって?弟子二号の仕込みだからさ。
****
50分ほど前、
「佐倉ー、お前はいいよなー。ムチャクチャ強いお師匠さんに色々教えてもらえて、カートリッジをガンガン使えて」
「まあ、私たち以外は警備の時以外は渡してくれませんからね。それも要求申請した数よりも少ない数しか配給されないって聞きましたよ?」
「ああ、だから俺なんて、工学部にいる兄貴の友達に無理言って分けてもらったのを足して使ってるぐらいだ」
純正カートリッジの半分強の魔力しか収められていないが、威力増強には十二分。
その為、学園側は危険物として最低限の量しか配給しない方針を採っている。
とは言え、簡単手軽に自分の魔法をパワーアップさせられるアイテムがあるのに使えない。
お肉の前でお預けを食らった犬のようなもの、その不満は「よし」を言わない学園側に積もる。
親心って解って貰えない物なのよね。
こっちが手軽に使ってるから安全だと思ってるようだけど、ホントは逆流や暴発を起こす可能性がある危険物だし。
まあ、幾重もの安全装置を掛けてあるから殆ど心配ないけどな、代わりにリロード出来ないの。
「ならちょっとお願いがあるんです。聞いてくれるのなら私の持ってるカートリッジ分けてあげますよ」
「え?マジで!?」
最低限の量と言ったが、何事にも例外がある。
それが僕とその弟子一同。「くれ」と言っただけの数を無条件に渡す約束(明文化済み)なのだ。
それを逆手に取り、山盛り持って行ったそうな。
そうして、若い連中に
燃料をばらまいてくれた弟子二号。
…なんて恐ろしい子。純っぽい所があったとはいえ、影響受けすぎだぞ!?
お陰でスムーズにいけました、そこは感謝します。
****
後衛連合が敵集団を細分化し、前衛連合が各個撃破する。様々な歯車が噛み合えば、機械式時計の様に滑らかに動き出す。
動き出せば自分の勢いで動き続けるものだ。
ここまでくれば心配はない、後は任せておけばいい。掃討戦時に伏撃されないようにな。
それで病院送りになる奴が結構居るんだよな、気が緩むのかして。
さてと、さっき二体纏めて始末したので後一体、お前だけだ。
早く始末して差し上げるのでおとなしく還りなさい。
「貴様ハ…、一体何者ナンダ?」
「あ、喋った」『喋りましたね』
「見タコトモナイ魔法陣ヤ、発動ノ仕方カラシテ違ウ魔法ヲ使イコナス。依頼者モ言ッテイタ、謎ノ存在ダト。何ナンダオ前ハ!?」
聞かれたからには答えてあげるが世の情け、
「時空管理局統合士官学校所属、士官候補生アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコ、陸戦魔導師だ」
「魔導師…?ナルホド、"魔法使イ"デハナイト言ウコトダナ」
「そう言うこと。依頼者に伝えとけ、「常識の埒外にいる存在だ」ってな。言い残すことはそれだけか?じゃあ還れ、お前達の相手をするだけが僕の仕事ではないんだ」
HEAT-MPシュートシェル・スメルチシフト、その一斉射で片は付いた。
****
雨は止み、月明かりが照らす戦場。そこで燃え続けた火は間もなく消える。
その残り火がとある所へと飛び火を起こすのだが、それは別の話。
あとがき:病気が治りません、なんかいい方法無いですかね?
あと、解説付です。
設定と解説
ガンドルフィーニ先生の過去:ナイフと銃使いであることから軍人、イギリス系の名字から英連邦出身と勝手に想像。
黒人が居てもおかしくなく、英連邦な国。と言うわけでカナダ(総督が黒人)にしました。
PKFによく参加しているのも都合が良かったですし。
魔法の呼び方:中長距離砲撃時は「HE(弾種)シュートシェル(威力)・瞬発(信管)三点射(弾数)」と細かめの指示で、
近距離砲撃時は「HE(弾種)シェル(威力)瞬発(信管)3(弾数)」と使い分けてます。
水雷戦隊と戦艦:旧日本海軍は大艦巨砲主義だとか言われてますが、本当は魚雷重視主義だったとか。
他国の同級艦より重雷装の艦を大量に突っ込ませて大量に発射、そこに艦攻や陸攻の魚雷も加わって…、どれだけ魚雷好きなんだお前ら。
それに何より、戦艦より駆逐艦の方が安くて且つ数が揃えられるから使い勝手がいいんですよね。