別荘の中、間もなく一日が過ぎ、出られる時間が来ようとしている。
「もう一寸で仕上がるから、あと一日ここにいるわ」
逆に留まる者もいる。もう一日余計に過ごしても、外では一時間しか経たない。
「僕のデバイス?もう出来上がるの?」
「基本はもうすぐ出来上がり、後は使っての微調整を何度か行って完成だな。不具合や不満は遠慮無く言えよ?」
もう一日を使い、弟子三号用デバイスの最終組み立てを行うつもりだ。
「うん!楽しみだなー、僕のデバイス。名前は何にしようかなー♪」
…実の所、3~4時間もあれば終わるのは内緒で、真名の頼まれ物がメインなのは更に内緒だぞ?
「まんま、欲しいおもちゃを買ってもらえる子供ねー」
「まあ、年相応の反応と言えるでしょう」
「そやなあ、今のネギ君の方が子供らしいわー」
「そうですね。でもネギ君、私に対してはいつも通りですけど、教官と一緒にいる時はあんな感じですよ」
「確かにねー。ちょっとイジワルなお兄さんとよく懐いてる弟ってカンジ?」
「…ちょっとうらやましいです…」
のんびりした空気が流れていた。
その一時間後、余計に留まっていたことを少々後悔することになるとは思ってもいなかった。
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居残ってはや三時間、組み立て終了。
動作確認も終了、ほぼ完成したと言っても良い。
となれば次の仕事に掛かろう、真名からの頼まれ物を、頼まれたのは照準器である。
修学旅行の際の報酬の一部であり、麻帆良祭の時に使う予定らしい。
今から、出られるようになるまでの時間を使って、骨子を決めて設計図を考えるのだ。
機材とかがあれば試作も出来るのだけど、ここには”電気がない”という致命的な難点がある。
発電機を持ち込めばいいのだろうが、家主が嫌がるので持ち込めません。
さて、どんな感じにするか…。
『凝りすぎて実用性が低い物を作らないでくださいね』
解ってるわい、いくら性能が高かろうが「武人の蛮用に耐えられない武器に意味はない」ってのは肝に銘じてるって。
とは言え、「昼夜兼用・測距機能付で出来れば軽く、あと銃を変えることもあるからゼロインも容易に出来るようにしてくれないか」と無茶を
言ってきたからなあ。
工夫を凝らしまくるしかあるまいて?
『出来ると思われている証拠です。期待に応えましょう』
まあ、時間はあるし、ちょっと違うが知識と経験もある。頭を捻って何とか纏めましょう。資料は充分にあるな?
『はい。昔任務で集めに集めた第97管理外世界の技術情報。軍事機密や企業機密も揃えています』
ミーシャに収められているこれらの情報、親父が集めてきたものだ。某提督親子みたく、住みやすいので住んでいたわけではない。
親父は駐在武官的役割を持って、日本に住むことになったのだ。
…周りからの視線を哀れんだ祖父さん達(父方・母方双方、二人とも上級局員)が上層部に頼み込んだことは親父には秘密だぞ?
まあ、嘉手納にしたのは輝男小父さんの薦めが大きいが。
現役飛行士(当時)と元提督が保証人だったからすんなり住めるようになって、ご近所さん(宇宙港関係者が大半)にも「藤堂さんの遠い親
戚なら」と言うわけで親切にしてもらえたし。
流石に母さんについては驚かれたが。13歳で乳飲み子付だからなあ、驚かない方がどうかしてるっての。
それに誤魔化そうにも母さん隠さないもん、おかげでこっちも有名人よ。
閑話休題、第97管理世界は科学のみで発展した世界であり、管理外世界の中ではかなりの技術力と軍事力を持つ。
しかし、時空間航行・通信技術を一切持っていないために、周辺世界への影響はないとして、現在時空管理局は干渉はせず、静観を貫いている。
とは言え、何かの拍子に持ってしまわないかと見張る必要はある。その為の情報収集役を置くこととした。
その内の一人が親父だ。基本的に合法的手段で集めるが、時には非合法手段を用いる時もある、その中には機密扱いの情報もあった。
あれこれヤバいこともやっていたらしいが、そこいらへんには守秘義務が働くし、内局の諜報部に目を付けられることはしたくない。
なので知らないし、知りたくもない。
そうして集めた情報は管理局に報告されると共に、バックアップとしてミーシャにも収められ続けられていた。
現在はその任を後任者に譲り、部隊長として陸士隊を率いている。
只今第34管理世界に部隊ごと単身赴任中だ、父親が総司令だからやりにくいって、ぼやいてるけど。
バックアップはそのままミーシャに保存されており、それをミーシャを受け継いだ僕が活用しているのだ。
ありがとう親父、帰れたら去年の夏(2024年)に秘蔵のワイン(シャトー・ムートン・ロートシルト1982年)を居ないことをいいことに持ち出し、ハワイで藤堂の爺ちゃんと班のみんなで飲んだことを謝るよ。まだバレてないよな?まだ派遣期間中だし。
『意外とバレているかもしれませんよ?』
****
麻帆良学園地下に存在する中央管制室。
学園結界の管理や、各種観測機器のモニタリング、指示管制(ただし音声回線止まり)、それらを行う場所であり、常時要員が詰めている
。
魔法生徒の一人、ナツメグこと夏目萌もそんな要員(オペレータ)の一人であり、今日は当番の日であった。
その日の彼女の担当は魔力探知装置のモニタリングであった。
一定量以上の魔力を探知するこの装置は学園結界外に設定された”警戒識別圏”に沿って設置され、侵入者を探る。
このエリアに許可無く侵入した場合、直ちに待機要員が急行、目標を確認・識別後、それらに合わせた行動を行う手筈となる。
モニターを見つめていたその時だった、警戒識別圏外に輝点を見つけたのは。
「明石主任、エリア51に魔力反応あり。識別圏外縁ですが」
主任と呼ばれた男、いつもは教授と呼ばれているが、報告を聞いて頷いた。
「コンディション5A発令。待機要員に即応態勢での待機を指示して、そのまま監視」
時たま、「探る」為に使い魔や式神等をこれ見よがしに侵入させることがある。
これもその様なパターンだろう、明石教授はそう思っていた。
その認識は次の報告で打ち砕かれる。
「了解、監視続けま…、反応増加!急激に数を増やしていきます!」
「159、160、161…、まだ増えています!」
「新たな反応、上位悪魔級の反応です!」
学園外周部に急速に増えていく魔力反応。
今は動かないからいいものの、もしも、この大群が一斉に動いた場合、現在の戦力では止めきれない。
此方から打って出ようにも、上位悪魔の存在がある。
下手な戦力では間違いなく返り討ちに遭う、学園結界内では行動出来なくなるのが幸いか。
となれば、戦力を用意するしかないが、主任管制官にそこまでの権限はない。
それ以外の関係者達の動員要請が出来るのは学園長を筆頭とした自分の上司達であり、精々待機要員達を顎で使うぐらいの物だ。
「コンディションを4Bに変更、待機要員に偵察を指示して。学園長に回線を繋いで、DEFCON4の発令を要請」
「敵に動きは?」
「ありません。数を増やしていくだけです」
それなりの間魔法使いとして生き、大抵のことは慣れたつもりだった明石教授、その彼でさえ内心動揺していた。
一体何が目的なんだ?!と。
「仲間の身を案じるなら助けを請うのも控えるのが賢明だね…。まあ、私の仲間達に掛かり切りで君どころではないと思うがね」
****
「なんやネギ、そん袋は?」
戦闘はほぼ準備段階で決まる、そうアリョーシャに教えられていたネギ。
少しでも優位に進めるための準備を行おう、そう思いと袋を呼び出す。
「戦うための道具が入ってるんだ」
そう言って、カートリッジを見せる。以前プレゼントとして渡された袋である。
「何や、その、銃の弾みたい何は?・・・て、あん時の止めのえげつない魔法の秘密はそれやったんか!?」
そう、ネギは京都での戦いに於いて、小太郎への止めとしてカートリッジを使ったことがある。
その威力は強靱な身体を持つ狗族、その血を引く小太郎を一撃で失神させたほど。威力を文字通り痛感していた。
「うん。これを上手に使えばうまくいくと思う。乗って」
かくして少年達は戦場へと向かう。
「おおっ!そんなんお前、男なら接近戦に決まっとるやん」
「う~ん、そうかなあ…」
「何がそうかなあや」
二人して怪訝な顔を浮かべる。
「だって、アリョーシャが教えてくれたよ?「戦闘の基本はより遠く、より多く、接近戦はいざという時の保険」って」
「誰やそのアリョーシャっちゅーのは。…ああ、あんときの金髪のにーちゃんか。遠くなあ、どれぐらい遠くから撃ってきよるんや?」
「うん。30km先からでも命中させられるんだって。数だってスゴく多く撃ってくるし…」
「30km!?戦いにならへんやん。ええかネギ、そないなんを"イジメ"っちゅーんやで。真似したらアカン…て、何遠い目しとんねん」
ついさっき、別荘での訓練を思い出す。見えるものは爆炎と砲煙、聞こえるものは砲声、肌で感じられるのは爆風。
そんな目に遭ったからこそ”イジメ”と言う言葉に内心納得はしているが、自分の師であり、兄貴分を貶されたことは許せなかった。
だから、ちょっとした仕返しをすることにした。
「真似したらダメって…、僕のお師匠さんなのに。…高度下げるよ、ここからはNOE(匍匐飛行)で行くから」
「師匠て、あんなんの弟子なんかお前!?…うわっ、低い低い!!当たる当たる!!」
「大丈夫だよ、高度は一定の高度を保ってるから。暴れて落ちても、悪いのは小太郎君だからね」
敵に見つかりにくくする為という判断もあることはあったが、こんなときは年相応なネギだった。
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中央管制室、そこの緊張は高まり続けていた。
「状況はどうじゃ?」
「5分前から数は変わっていません。動く気配も今のところは」
学園長が直々にやってきたと言う滅多にないこともあって、拍車が掛かっていた。
「偵察班に依ると、大半がレッサーデーモン、それも最下級のですが如何せん数が…。それに加えて上位悪魔が確認できただけでも5体。さすがに爵位級はいないようですが、それでも十分な驚異です」
学園結界内では高位の魔物は動けない。しかし、強力なものというのは"そこにいるだけ"で驚異となる。
「タカミチがおればまた違ってくるんじゃろうが、出張中じゃしなあ…。アンドレイ君は?」
「弟子の佐倉君が言うには「教官ならあと三十分は連絡がつかない場所にいます」だそうです」
現在、学園内の魔法使い達は招集に応じ、集まって編成をしている。戦力は整いつつあるが、問題がある。
破城槌若しくは機甲部隊的な存在、敵の守りに大穴を開けられる人間の不在だ。
高畑・T・タカミチならば「豪殺・居合い拳」の連打でそれが出来る。
アンドレイ・コンドラチェンコならば有無を言わさぬ砲撃の嵐でそれが出来る。
しかし、今現在いる人員は個と個の戦闘に置いては精強な人員が多く、対集団戦闘向けの技能を持つものが少ないのが現状だ。
それに何より、この世界の魔法はWVR(目視距離)戦闘の為の魔法が過半を占める。出来ないこともないが、儀式魔法となり、戦術レベル
での即応性に欠ける。
だからこそ、即応性の高いBVR(目視距離外)戦闘が可能なコンドラチェンコは有力なカードであり、驚異でもある。
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地を這うような高度にまで下げ、飛び続けていたが、ステージが近くなると急に止まり、自分の脚で走り出すネギ。
「何で飛んで向かわへんねん、早よ助けなアカンやろ!」
批判されるが返事はせず、口に指を当てて静かにするように促す。
黙ったままステージから見えないように近づき、客席外側外壁部に取り付いたと同時に詠唱を始める。
「ポイントサーチ」生成したサーチャーを使いステージを観察する。教育がよいのか、覚えのよすぎる生徒の性か、この程度の魔法ならデ
バイスの補助がなくとも使えるようになっていた。
「アスナさんがまたエッチなことになっていて…、その後ろにみんなで、右が刹那さん左に那波さん…、となるとこうで…、こう使って…、この前教えてもらった使い方をすれば…、うん、こうしよう」
「何ブツブツ言っとんねん。早よ動かんか…」
「シッ!兄貴は今作戦考えてるところだってえの、静かにしろっての。あのオッサンに気付かれるぜ?」
「くっ…」
本当のところ、ネギも小太郎と同じく、今すぐ飛び出していって一刻も早くみんなを助けたいと思っている。
そんな気持ちを抑えているのは2つの言葉、"情報は許す限り集めろ、何の情報もなく飛び出すのは断崖絶壁から飛び出すのと同じ意味だ"、
"判断は冷淡にしろ。下手な感情に振り回された判断に碌なものは無い"兄貴分に教えられたことの一つ。
その教えを守って情報を集め、判断を下そうとしているのだ。
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雨がしんしんと降り注ぐ中、影を纏ったお姉様とバリアジャケットを展開した私はいました。
私たちの視線の先にはレッサーデーモン。見たこともないほどの数います、…敵が七割で陸が三割ってところでしょうか。
そんなレッサーデーモンと何体かの上位悪魔達に対応すべく私たち魔法使いが対峙しているのですが…、
ハッキリ言って中途半端です。
こちらから仕掛けるにしても中途半端です。
神鳴流の人や接近戦を得意をする人たちで斬り込み隊を作ったり、無詠唱魔法や素早い詠唱が出来る人たちで援護射撃隊を作ったりと言った、再編成をしたりせず、いつもチームを組んでいる人たちで固まっています。
防御に徹するにしても、陣地も作っていませんし、地形に応じた配置もしていません。
キルゾーンの設定ぐらいしてもいいのに、それもしてません。
先生方に提案はしてみましたが、あんまり乗り気ではないようでして、「敵の狙いが解らないのに設定するのはどうかと思う」と有耶無耶にされました。
その先生方や、魔法職員の方々も
「ここにこの様に配置し、防御を固めれば…」
「いや、敵の狙いはそれかもしれないぞ?我々の反応を見るためかもしれん。とすれば出来るだけ動かないのが得策だ」
大戦に参加した経験のある方達があれこれしようとしてはいますが、参加していない方達との温度差があるのが見て取れます。
敵の狙いなんて別にどうでもいいと思うんですけどね。
仮にですよ、これがただのブラフだとしても、「粉砕できるぞ」と言う意志と証拠を見せれば黒幕も諦めると思いますが…。
本気で侵攻する気でも同じ、こちらが先制的自衛攻撃を行使できる組織だって所と全部やっつけた所を見せられればね?
バレない様に先制攻撃してみましょうか?誘導魔法弾を使えばどこから撃ったのか判りませんし…。
「メイ…、お願いだからしないでね?お願いよ?」
嫌ですねお姉様、冗談ですよー。本気ですると思いますか?
「昔のあなたならともかく、今のあなたならしかねないもの」
…ま、まあ、お姉様のことはこっちに置いておいて、「独断で行っていいのは自分だけで収束させられるものだけ」
私の経験と教官の教えを合わせて導き出された教訓の一つです。
教官ぐらい強ければ、大抵のことは収束させられるでしょうが、私はそんなに強くありませんからしません。
…独断じゃなきゃいいのです。何人かが同じ意見で纏まって、合議の上で行うのはね?
まあ、それはそれとして、私一人で出来ることからしていきましょう。
それに同調する人が出ても私は知りませんよ?
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それぞれの思惑の中、戦火は徐々に強くなる。
多少の雨では消えないほどに。
あとがき:現在、厄介な病気にかかってしまっています。
「現在進行中の部分よりも、まだまだ先のネタばかり思いつく」と言う厄介な病気です。
なので、さらにペースダウンする旨、ここに記しておきます。
…後々楽になるんですけどね。