夜の別荘、ネギの話を見、宴会の第二部が終わり、ついでに僕の秘密も公開(前にゆえっち達に話したのと同じ内容)し、大半が寝静まった頃。
何となく眠れずにそこいらへんを歩いていた。
一人と思っていたが、先客がいた。せっちゃんだ。
「隣、空いてる?」そう言って、隣に座る。
嫌とも立ち去ろうともしていないから別にいいだろ。
お互い無言、海を眺め続ける。
そんな空気を破るべく、声を掛ける。「模擬戦しよ。気に魔法にアーティファクトに拳有りの模擬戦を。遠距離砲撃は無しね」と。
僕のことを嫌っているのは知っている。
とは言え、守るべき存在と思っているこのかちゃん他、友人一同と友人である僕。
そんな間柄で仲が悪いと皆に悪い気がする、そのままでもいいと言えばいいのだが何となくね。
ネギの過去見たのもあるんだろうなあ、面倒がらなかったの。
で、こういう時は体育会系のお約束、ガチンコ勝負だな。剣の道一直線のせっちゃんもこれは理解出来るはず。
『アレですね。準備しておきましょう。近くの掃除用具入れの所に丁度いい長さのデッキブラシがありました。桜咲さんにはソレで代用してもらいましょう』
男同士ならこれで何とかなる可能性が高いが、女の子のせっちゃんに通じるのか?
ソレはやってみないと判らない。
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ネギ先生の過去を知り、皆で騒いだ後のことだ。皆が寝静まった後、ふと目が覚めた。
夜風に当たろうと外に出、何となく海を見ていた。
そこへ近付く気配、ここには見知った人間しかいないからそのままぼうっとしていた。
声が掛かる、私の好きでない奴の声だった、「隣、空いてる?」
律儀な奴だ、断られる可能性が高いのにわざわざ断りを入れてくるとは。
軍人の家系らしいなと思いながら、わざと返事は返さない。
このままぼうっとしていたかったから。
そのままお互い、目も合わさず海を見続ける。
堪えきれなくなったのかして、コンドラチェンコの奴が口を開く、どうせロクでもないことだろう。
「模擬戦しよ。気に魔法にアーティファクトに拳有りの模擬戦を。遠距離砲撃は無しね」
ほら、やっぱりロクでもない事じゃないか。
「お前とか?何で模擬戦をしなければならないんだ!?」
初めて組んだ時から気に入らなかった。戦争屋の遣り口が。
遠距離から問答無用で吹っ飛ばし、地雷をばらまいて身動きを取れなくしたり、魔力弾を機関銃の如く打ち出す。
正に「目的のために手段を選ぶな」を地で行くような魔法と遣り口、剣と身体を鍛え続け、戦ってきた私には今ひとつ好きになれなかった。
間違ってはいないから余計にな。
只、面倒見がいいことや、律儀なところは知っていた。
少し前に龍宮や私を砲撃に巻き込んでしまった事があった。
謝るコンドラチェンコに「大阪のとあるホテルのロールケーキで許してやろう。出来れば明日中に」と龍宮が無茶を言った。
その次の日、寮監さん経由でその菓子を持ってきた。私の分と謝罪の言葉を書いた紙も付けて。
好きにはなれないが、そんなところは嫌いではなかった。
決して、お詫びのロールケーキが美味しかったからじゃないぞ。
もっちりと且つしっとりしたスポンジ、それでたっぷりのふんわりクリームを一巻き。上手い具合に控えられた甘さのおかげかさっぱりしたクリーム。
この二つが調和して、…一本丸々食べてしまったぞ。
手段を選ばなさすぎるところや、経費で落としてくれだの給与がどうたらの中途半端に金に煩いところは大嫌いだぞ。
まあ、根っこはいい奴のようだ、修学旅行の時のあの言葉は有り難かった。
自分が何者であろうと構わない人達がいる事を教えてくれた事は、このちゃん達がそんな人になってくれると言ってくれた。
その切っ掛けを作ってくれたことには本当に感謝はしている。
「いいから、いいから、この前僕のナイフとやり合って負けたでしょ?その雪辱と思えば」
えらく熱心に勝負を挑むコンドラチェンコ。面倒がり屋じゃなかったっけ?コイツ。
とは言え、この前負けたのは事実で、雪辱の機会と言えばそうだ。
それに一度こてんぱんに伸してみたかった所だ。遠距離からの攻撃さえなければ勝機はある。
…筈だったんだがなあ。
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下の砂浜に降りる。階段は面倒だから重力に従って。
「だからといって、他人の手を取って一緒に落ちるのはどうかと思うぞ。お前も私も飛べるから問題はないとは言えだ」
文句を無視して近くの掃除用具入れからデッキブラシを取ってくる。
「せっちゃんはそのデッキブラシを気で強化して、丁度夕凪と同じぐらいの長さでしょ?僕は着剣したミーシャに訓練用緩和魔法付けて」
僕の近接戦スタイルは、基本の銃剣戦闘術にベルカ式槍術を加えた遣り方、当然ながらマイノリティだ。
他の皆さんは槍や剣とかの真っ当な得物で戦うし。
「模擬戦をするのはいいのだが、お前の魔法は五月蝿いからな、皆が起きるぞ?」
「無問題、結界を張る。こっちの結界とは違って"空間を切り取る"方式だから、認識も侵入も出来ない。誰か居たとしてもそのままか、追い出
せるかを此方で決められるから大丈夫」
認めた奴か対策魔法使いは別だけどね。
「…便利すぎるぞ、その魔法」
古代ベルカの「封鎖領域」を応用して開発された魔法。人質付の立てこもり事件とかで威力を発揮する。
鬱陶しい野次馬近隣住民やマスコミ共を纏めて追い出せ…じゃなくて避難させられるし、
元来気にするつもりもない人質とか言うのを無視して…げふんげふん、人命ハ最重視デスヨ?非殺傷魔法デ人質ゴト撃ッタコトナンテ一度モ
アリマセンヨ?…救出もしなくていいから問答無用一切遠慮無しで行えます。
この結界魔法の御陰で、かなーり楽になりました(いろんな意味で)。
とは言え、ミッドチルダ式及び近代ベルカ式への応用には多大な時間と予算が掛かり、JS事件後に何とかモノになった魔法だ。
一回予算削られたのもあるのだがな、JSF計画並みの予算喰いだったとは言え、さっさとモノに出来てりゃあ、色々と楽になったモノを…。
因みに、統一戦争後に兵器輸出が解禁された日本製FV-2の方が売れて、米英蘭以外にはあんまり売れませんでしたとさ。
結界を張り、バリアジャケットを展開、対峙する。
ブラシを下段に構えるせっちゃん。やや足を開き、中腰に近い姿勢でシトゥイークモード(銃剣)のミーシャを構える。
先手を打ったのはせっちゃん、射撃魔法を警戒して距離を取らせない気だろう。
「斬空閃」
飛ばされた斬撃を回避するが、回避の強要が目的であって当てるつもりはないようだ。
何せ、よけた方向にせっちゃんが飛び込んできているんだから。
「奥義・百烈桜華斬」
その名の通り降り注ぐ斬撃、しかしバリアジャケットやシールドを切られるほどでもない。
とは言え、思わず守りに入ってしまうなコレは。
次の一手、なるほど、動きを止めるための布石だったかさっきの技は。
にしても、ある意味逆セクハラだそ、あの技は。そんなことを思いつつ「神鳴流浮雲・桜散華」によって投げ飛ばされる僕。
今のがせっちゃんだったからラッキーと思えたが、ごっついオッサンにあんなのやられたら「殺してくれ」と言うまでボコれる自信あるぞ。
「意外と呆気なく…も無いな。思い切り叩き付けたつもりだったが、ソレも魔法か?」
角度や勢いからすると、常人ならばKOされた程の投げ技、生憎こっちは一寸痛かった程度で済んでいる。
飛行魔法の応用、衝撃を斥力で緩和する。超低空で空戦を行う物の必須技能の一つ。
コレをもっと高度に行うと慣性制御魔法となるのだが、それは別の話。
「ま、そうなんだけどね。次、こっちから行かせてもらうよ」
銃剣は生まれて400年経っていない、若い武器だ。
ただし、その実力は槍や剣や弓矢に劣らず、パイクなどの長柄武器を駆逐してしまったほど。
3kg以上ある鉄や木、硬質プラスティックの塊。
ストック部分やマガジン部分で力と勢いで殴りつける、刃で突き、肉を刺して斬り上げる、刺したまま撃つ。
それも短く、単純な動きで。
単純ではあるが、只の人間の殺傷には十分な威力。そこに各種魔法やカートリッジによる強化が掛かることによって魔導師の殺傷にも十分
な威力を持つことに成功した。
そして、防御魔法で守られた魔導師を殺傷出来ると言うことは"気"で身体を強化した人間も殺せると言うことである。
衝撃緩和魔法付けてあるから死なないけどね!痣とかは出来るけどね!
「銃剣を侮っていました、認識を改めます。近付けば打突や斬撃、遠のけば銃撃。これだけ使える武器だとは知りませんでした」
そりゃどうも、旧軍の銃剣突撃馬鹿の性で悪いイメージしかないからなあ、銃剣には。
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紆余曲折の末に行ったコンドラチェンコとの試合(模擬戦だが)、想像以上の勝負になった。
まあ、私達が転進した後、月詠と鬼達相手に戦えたのだ。
それなりの腕は持っていると思っていたし、この前のナイフ捌きからかなりの腕前であるとは解ってはいた。
しかし、これほどの腕前とは思っていなかった。
気と神鳴流の技が使えるのなら勝てると思った自分の未熟さを痛感した。
得物が気で強化したデッキブラシとは言え、アイツの守り、防御魔法とバリアジャケットという魔力で編んだ防護服、
意志のある突撃銃型の杖、ミーシャと名乗っていたが、それらに依る防御を破れないのだ。
それだけではない、ぬめっとした体捌き、身体の構造を活かした滑らかな動き方で下手な攻撃は躱される。
攻撃においても1m程の銃を巧みに操り、棒術のような槍術のような棍棒のような攻撃をしてくる。
銃床を打ち込み、銃の中程で殴り付け、先端に付けられた短剣で鋭く突き、薙ぎ払ってくる。
そこに肘や膝に肩での打撃が加わり、此方の重心を崩しに掛かる。
恐らく、倒されたが最後、短剣で胴体や首、頭を突きに掛かるのだろう。
反撃なり防御のために拳や足を出すと間接を決めるか投げようと掴み掛かる手。
礼儀も作法もなく、敵を倒すことだけを考えた技や攻め方の数々、これが軍隊式格闘術か。
そして、銃の最大の特徴、撃つ。
離れれば構えて撃ち、縺れた状態からでも銃口が向けば撃てる。
先程、刺突を気で止めた次の瞬間に撃たれた、本来はそのまま刺し、刺さったまま撃つのだろう。
後ろに飛び退いて躱すしかなく、その飛び退く合間にも撃ってくる。
神鳴流に飛び道具は通じないのだが、咄嗟に躱そうとするか守りに入ってしまう。
なるほど、現在の戦場でも使われる訳だ。
兵士にとって一番身近にある物と体術を組み合わせる事でこれだけ戦えるのだからな。
そうして、私は考えを改めた。
知らなかったが故に侮っていた銃剣についてと、
「銃剣を侮っていました、認識を改めます。近付けば打突、遠のけば銃撃。これだけ使える武器だとは知りませんでした」
コンドラチェンコについてだ。今まで低く見てしまっていたことを心の中で詫び、強さを認めた。
お前は強い奴だ、と。
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何合目かの打ち合い、気で強化したデッキブラシではミーシャは切れず、緩和魔法越しの打撃や斬撃では強化ブラシを折れず。
神鳴流の斬撃はコチラの守りに止められ、コチラの打突は気やデッキブラシの柄によって逸らされる。
アーティファクトの匕首で死角を突こうとするが、「魔女の眼」に死角はない。真上から見てるからな。
そうして所謂膠着状態となった。
「なかなかやるな、一撃一撃が重いぞ!」
「そちらこそ、中々の冴えだよ。何とか持たせてるけど、フツーの奴の守りだったらとっくに破られてるよ!」
思惑通りなのかして、口調が少しゆるんできているせっちゃん。
やっぱ、拳で語り合う系なんだなあ、せっちゃんは。なんか生き生きして奥義を繰り出してきてくれるし。
…こっちの技も見せてみるか、いい刺激になるかも。そうして指示を出す「ミーシャ、脱剣」
「今度はナイフか、この前の続きをするのか?」
「うんにゃ、一寸せっちゃんに見せてみたいのがあってね」
アサルトライフル形態のミーシャを背中に回し、外したバヨネットを構える。
纏わせた魔力の密度を上げ、繰り出す技は「烈風一迅」キムラさんから教わった近代ベルカ式の技の一つ。
僕はブリッツアクションと組み合わせて使っている、基本はミッドチルダ式ですから。
「…短剣とは言え、いい切れ味と剣筋だ。どういう技かあとで教えてくれないか?それと今の瞬動か、中々見事だぞ。一級の剣士に引けを取
らない動きだ」
結果、デッキブラシ真っ二つ。せっちゃん、いい物が見られたとご機嫌気味。
「密度の高い魔力を纏わせた斬撃だよ。そこに瞬動に似た移動魔法の一種を組み合わせたの」
喜んでもらえて光栄です。…って、いけね、得物斬ったらダメじゃん。
「「神鳴流は武器を選ばず」無手でも戦えるが、キリがいい。ここいらへんにしないか?あくまでも模擬戦だろ?」
ま、そうなんだけどね。せっちゃんから止めようと言ってくるのが以外だなあ。
…これ以上やると砲撃をしてくるとでも思ったのかな?
(…今のところは銃撃だけだが、このまま続けた場合何時砲撃に切り替えるか解らん。夕凪も護符もないこの状態ではな…。手段を選ばない
からなこの男は)
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結界を解除し、座り込んで月を見る。先程と似たような状況だが、一寸違う所がある。
先程は双方無言だったが、会話をしている所が。
「なるほど、気をそんな風にして使うとこうなるのか」
「中々上手いな。あれだけ自在に魔力を扱えるのだから当然とも言えるか」
今、せっちゃんに簡単な神鳴流のレクチャーと気の扱い方について教えてもらっている。
資料等で知っていても、実際に見るのとは大違い。聞けるだけ聞いておかなきゃ損だし。
弟子一号の使い方とはまた違い、長い歴史に成り立つ体系だった遣り方はとても興味深い。
それに…、
『取引材料が増えますしね。気を使った一般局員の戦力化が可能だった場合、強力なカードとなること請け合いです』
ミーシャ、いくら念話だからって本音を言わない。ま、取引材料は多い方がいいし、打算半分の好奇心半分って所?
で、幾つか教えてもらった所で逆に聞いてみる「魔法、勉強してみる?」と、
「ミッドチルダやらベルカとか言うお前達の魔法か。私に使いこなせるとは思えんぞ?」無論、断られる。
だがっ!悪魔の囁きの如き殺し文句が有るのだっ!!
「基礎にマルチタスクってのがあってね、2つ以上のことを同時に思考・進行させる技能の事、戦闘魔導師の必須技能ね。それを憶えるだけ
でもかなり違ってくると思うよ?」
「あー、つまりは、将棋や碁の名人が「先の手を考えながら今の一手を打つ」の様なことが出来るということか?確かにそれはな…」
そう言うこと、これが出来ると戦闘時にかなり有利となる。アーティファクトや魔法と組み合わせられれば優位性はかなりの物となる。
せっちゃんの場合だと、「匕首・十六串呂」をファ○ネルみたく扱いながらの戦闘とかが出来るようになる、誘導制御系射撃魔法に近いからな
。
そして必殺の一言「因みに、勉強やテストにも応用出来ます。解らない所を考えながら解る所解いたり、複数思考で一つを解いたり出来ます
。今度の中間テストにも使えます。…せっちゃんの成績、下から数えた方が早いんでしょ?」
言った途端、とっても悔しそうな顔で、「それを言うな。私だって頑張っているつもりなんだ…。お前みたいな上から数えた方が早い奴には判ってもらえないだろうが…」
ごめん、触れてはいけない所を触れてしまったようだ。体育座りして砂にのの字書くなんて思ってなかったもん。
因みに、こちらの成績は学年で五本の指に入って、理数系だけなら首位だぞ。
バカレンジャーの連中よりはマシだから気にしてないと思ったんだけどなあ。
「あの連中と一緒にするな。アレよりはマシな頭をしているつもりだったんだ…、が」
が?
「この前の期末で追い越されてしまった。流石に凹みかけたぞ」
ああ、ネギと僕で勉強見てやった成果だ。三日間缶詰にしてだけどな。…あの、目が怖いですよ?桜咲さん。
ひょっとして、図書館島に缶詰になった時のことを詳しく知らないとか?このかちゃんも一緒だったのに?
「いやな、学園長から「ネギ君と一緒じゃし、ワシが見守るから手出し無用じゃぞい」と言われてな。お前が図書館島に居たことを含めて殆ど
知らさせていなかったんだ」
バルタン星○め、やはり楽しんでやってやがったか。
まあ、あの時は偶々本漁りに来てて、偶々出会して、成り行きで付いていったからなあ。知らなくても無理ないな。
「で、どうやったらあの連中にあそこまでの成績を取らせることが出来るんだ?!特に理数系!」
肩掴んで揺らさないでください。そんな必死になって頼まなくても教えてあげますから、おちちついて。
「つまらんボケを言うなーっ!!」
せっちゃんに突っ込まれた!匕首がハリセンに変形した!せっちゃんにまでハリセンで叩かれた!
『驚くことが多い日ですね』
****
雨降って地固まる。
本来なら固まることはないはずだったが、親しい者の悲しい過去で濡れていたからこそ固まった。
そんな和解の瞬間だった。
あとがき:せっちゃんとの和解話です。近接戦の描写は難しいです。格闘バトル中心の人を尊敬したくなりました。