一日をくださる神様だもの、一日の糧もくださるだろう。(ロシアのことわざ)
国民の休日の日曜日、ちょっと損した様な気分になっている朝。
特に2005年に「国民の祝日に関する法律」が改訂されるまで振替休日が月曜日固定だったので余計に損した気分にさせられる。
2010年生まれだから火曜日でも水曜日でも振替休日になるのが当然だったもん。
それはさておき、休みの日らしく、余裕のある朝食としよう。
早朝ランニングのコースには農学部や近隣農家の方々所有の畑がある。
そこで早朝から頑張っている学生や先生に農家の方々。
そこの人達と仲良くなる事に成功したために、朝取り野菜を驚きの低料金若しくは手伝って、分けて貰っているのだ。
御陰で美味しい朝食にあり付けれる今日この頃。
本日のメニューは新じゃがとアスパラガスとベーコンの炒め物に夕飯の残りのうすいえんどうと新タマネギのポタージュと焼きたてパン。
新じゃがは早めに抜いた奴、本来はこれを新じゃがと言う。
アスパラガスは朝取り、一寸した青臭さやえぐみがほとんど無くて甘いので塩茹でして軽く塩するだけで十分美味しい。
因みに、油と相性がいい野菜なのでマヨネーズもいいが、ゴマドレッシングとも結構合う。
ベーコンは麻帆良銀座商店街のお肉屋さん手製の品、ドイツ帰りの息子さん担当。塩がややきつめで肉の味としっかりとしている本格派。
スープに入れるといい出汁が出る。
農学部で作っているうすいえんどうは関東の方では馴染みはないが、関西ではよく食べられている。
グリンピースよりも味と香りが淡いが甘みが強い品種。
これで豆ご飯を作ると甘くてホクホクして美味しいが、今回は淡路島の新玉ねぎと合わせてポタージュとした。
パンは商店街にあるパン屋さんから買う。朝一の焼き上がり時間と僕が通る時間が丁度合うので毎度焼きたてを買っている。
野菜の甘みで美味しい朝食を食べ終わった時だった、ゆえっちから電話が。
なんでも「重大な話があるのです。女史中等部の図書室まで来てくれませんか?」だそうな。
女子校独特の何となく男には居づらい空気の中、明かされる驚愕の事実!
ネギの親父が残した地図にはカタカナで「オレノテガカリ」と書いてあったのだ!ご丁寧にイラスト付で!!
…類は友を呼ぶって諺があるけど、あのクウネルの戦友だけあって変人だ、コイツ。
で、その場所は…って、クウネルの家に繋がる門の所だ。
あそこはなあ、10年以上前の地図に「DENGER」って書いてあるから昔からあそこにいたのな、あのドラゴン。
最近は顔を覚えてくれたのか、襲おうとしなくなってきたことだし、テキトーな名前でも付けて餌付けでもしてみるか?うん、そうしよう。
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「…ネギ先生にアリョーシャさん、貴方は魔法使いですね?」「うん。厳密に言うとちょっと違うけど、そだよ」
ゆえっちから明かされる重大な話。
まあ、あれだけ見せつけておいて気が付かない方が異常だ、全く。
だから「えうっ。そ、それは…」なんて肯定しているに等しい反応は止しなさい。
「いや、アンタが軽すぎるのよ」と言う呆れた感じの声が聞こえるが無視しておこう。
ゆえっちはかく語りき、頭の回転はいい方だから歯車が揃えばガンガン働き、看破していく。
いつもは面倒がって揃えないからなあ、だからバカレンジャーの一員なのだ。
と、説得しきれなかったネギ、「すすす、すみません、ダメですーっ」
「あっ、ネギ!?」「逃げたです!?」
現実から逃避じゃなくて現実に逃避しやがった。ネギめ、後でお仕置きだべ。週末にバニャのフルセット(3~4回繰り返す)の刑で。
逃げられて不服そうなゆえっち。でもね、ニーチェが言ってるでしょう?
「怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない」ってね。
連続殺人犯について調べていた人が同様の事件を起こした様に、下手に深入りしてやばいことになって欲しくないと考えていると思うのよ。
僕もだけど、アイツも。
どうなろうと構わないだけの覚悟があるのなら別だけどね。
少し考え込んでいたが、唐突に、何か思い出した様に口を開く。
「そう言えば、アリョーシャさん。一つ訊きたいことがあるのです。ネギ先生は隠そうとしていましたが、何で全く隠そうとしないのですか?修
学旅行の時も私達が見送る中、平然と使ってハワイに帰りましたが…」
「あ、あ、あとー、厳密に言うと違うってさっき言ってましたけど、どういう事ですかー?」
あー、それはね…。
「コイツはフツーの魔法使いとはちょっと違うのよ。言うなれば「この世で一匹」ってカンジ?」
人のセリフ取るな神楽坂。で、なんだその何処ぞの平面ガエルみたいなフレーズは。
「この世で一匹ですか…?それでは説明になっていないようですが」
「まあ、正確に言うと「現在この次元世界に一名しかいない時空管理局局員」だな」
「時空管理局?何ですかその大袈裟そうな組織名は」
「そ、それに次元世界って…何ですかー?」
まあ、話すと長くなるんだけどね。掻い摘んで話すと…。
証拠の魔法に空間モニターに映し出される解説用映像等々とセットで解説する。
胡散臭そうな感じだったのが大きく変化していく。
「まさかこの宇宙の他にも宇宙があるとは…」
「…絵本の中みたいな世界もあるんですねー」
「ゴメン、それドコの世界の言葉?全然わかんないんだけど」
神楽坂は途中からついて行けなくなっているが。まあバカだし。
「…で、僕は元来士官候補生で有って、事故でこっちに来たと。そう言うわけ。で、これがさっき説明したデバイスのミーシャ」
『ご挨拶が遅れまして失礼をば、ミーシャと申します』
「しゃべるペンダントなんて、本当に絵本や小説みたいですー」
掻い摘んでも膨大なために時間が掛かる、終わった頃には夕方近く。
「ファンタジーを超越してSFの世界になってるです…。まあ、違いを言うとネギ先生達の魔法がファンタジーで作った魔法ならば、
アリョーシャさん達の魔法は科学で作った魔法と、そう言うことですね?」
「そう言うこと、だから向こうの魔導師は子供でも理数系が得意なのよ。出来のいい子だと、小学生3年ぐらいで高校2年の問題を解けるのもいるし」
「科学が元だけ有って、色々と便利そうですが、なかなかハードルが高そうです」
歯車が揃ってるモードゆえっち、理解が早くて助かる。対照的に煙上げてるバカレッド。
このモードを持続できるのなら物に出来るやも…、無理か。
面倒がってバカブラックに戻ってしまうもんな、僕も面倒がりなので気持ちはよく分かる。
「特に私なんか無理ね…」
何を言わんや神楽坂、特に理数系がダメだったもん、お前。
この前の地下図書室で教えた時、10回やらせたら9回は間違ってたぞ。
この前の期末は天文学的確率の奇跡の結果であって、フツーに教えたのならば絶対無理だ。
「うん、無理。…いや、洗脳教育レベルで教えたのならひょっとして…」
「好き勝手なこと言うんじゃないわよーっ」
7回目の凶悪ハリセン、事実を述べただけなのに。
『そこをオブラートに包まないからそうなるのです。自業自得かと』
「ミーシャさんの言うことに全く同意です」
****
損な気分の子供の日の月曜日。
日課のランニング中にふと空を見上げると、ゆえっちと本屋ちゃんがネギの杖に乗って飛んでいた。
「…珍しい組み合わせだな」『同意です。ネギさん、バレたからって大胆な行動に出ましたね』
「声掛けるか。バリアジャケット展開」『了解、認識阻害魔法発動及び制空迷彩での展開を行います』
こっちで憶えた認識阻害魔法と、目立たない色にしたバリアジャケットを使い、早朝からご苦労様ですな方々に解らない様にする。
因みに、一つだけ使える幻術魔法オプティックハイドも使えば完璧なのだが、アレは飛行魔法とは相性が悪いので飛びながらは使えない。
だから、バリアジャケットの色と模様を変えて迷彩で誤魔化すのだ。センチネル風ブルースプリッターパターンも出来るぞ。
だからといって使わないわけではない、ククーシュカ(砲狙撃)モードではよく使うのだ。
愛○万博のモ○ゾーやポン○ッキのム○クを緑色に染めてみた感じのギリースーツを着なくても完璧な隠匿が出来るので便利です。
「三人ともおはよ」
「へ…、アリョーシャさん…?お、おはようです」
「あ、おはようアリョーシャ!」
「…お、おはようございます…」
三者三様、飛べることを知っている奴は普通の反応をし、知らない奴は空の上で知り合いから挨拶されるとは思っていなかったので呆然とする。
「あの地図の場所に行く?」
「ああ、そうだぜアンドレイの兄貴。で、出掛けにこのふたりに見付かっちまったってワケよ」
「アリョーシャさんも付いてきてくれると非常に嬉しいのです。図書館探検部部員でしょう?」
確かに部員だ。だがまだ"仮"が付いているがな!
さて、あそこにネギ達が向かうのは良い。
しかし、あそこの主兼飼い主がどの様な反応を示すのか、それが問題だ。
連絡を入れよう。そう思い、ミーシャにメールを打たせる。
実はあそこには光ファイバー回線が引いてあって、メールとネット用のパソコンがあったりする。
結構柔軟なんだよな、こっちの魔法使い達。まほネットや電子妖精を見れば解る。
一般生活を送っていて、その便利さに触れていれば不思議ではないが。
とは言え、魔法世界生まれの高音の姉ちゃんやタカミチから聞くところに依ると、
使うのは旧世界こと、こっちの魔法使いだけであって、魔法世界の魔法使い達は決してその様な物は使わないそうだ。
似た様な技術はある事はあるが、収斂進化の結果であって、科学に影響された物ではないとか。
そうこうしている内に返答が来る、
「まだ時期尚早です。追い払わせますので、貴方は来ないで頂きたい。この前のエヴァンジェリンについての情報の見返りはそれでチャラにしましょう。
あの子は顔を覚えた人とその周りの人間は襲わない様に躾けてありますから。追伸、連絡手段であり、退屈潰しと情報収集用だからいいのです」との事。
来ない事で相殺か…、取引としては悪くはない。問題はコイツらの見張り兼護衛がいなくなると言う事。
どうするか悩んでいると『同志、同志茶々丸がこちらを追跡しています。いかがいたしますか?』
渡りに船だな、後は茶々丸に任せておこう。
そしてこっちは「急用が出来た。悪いが付いてこれん」と言い訳をしよう。
後々詫び代わりに何かすればいい。
****
昼前、茶々丸から連絡が入る。帰ってきたら連絡くれたしと頼んであった。
ドラゴンに追い回されて炙られかけて、這々の体で逃げてきたらしい。
時間も時間だし、お詫びにお昼を奢ろう。うん、そうしよう。
「いつか必ずリベンジするですーっ。トカゲー」
「おうー!!」
「お、お~」
三人が気勢を上げている丁度その時、電子音が鳴り響いた。
「あ、あのー、せんせー。携帯鳴ってますよー」
「あ、ありがとうございます。宮崎さん。えっと…、アリョーシャからメールだ」
メールを読み終わるや否や、電話をかけ出す子供先生。
「うん、うん、夕映さんやのどかさんも一緒だけどいい?うん、分かった。じゃあ10分後に駅前で」
「アリョーシャさんからですか?」
「はい。お昼を食べに行きましょう。アリョーシャが朝のお詫びに奢ってくれるそうです」
「相変わらず太っ腹ですね。何を奢ってくれるのでしょうか」
麻帆良中央駅近くを通る幹線道路の横の道、地元民から旧道と呼ばれる道沿いに10分ほど歩いたところにその店はある。
今年の4月に開店したばかりの上、有名店で修行はしたが関西の店であるから、マニア以外にはその名は知られてはいない。
そんな店であるために、3ヶ月少々のネギはともかく麻帆良が長いはずの二人もこの店を知らなかった。
「ここははじめてですー」
「…ある意味凄そうなお店です」
「僕、食べるの初めて」
「みんなお腹空いてるね?ここはお腹にガツンと来るから空いていた方がいいよ」
さて、今から食べるのはラーメン、それも豚骨ラーメン、更に言うと濃厚豚骨。
あまりに濃厚なのでスープじゃなくてポタージュと化し、色も白濁じゃなくて褐濁色。
普通は鶏の足や豚の皮と言ったゼラチン質の多い部位や野菜のデンプン質で濃度が付くのだが、これは豚骨と水をひたすら煮込んで乳化させた結果の濃度なのだ。
更にスゴイのはキッチリとした下処理の御陰で獣臭さがないと言う事だ。
これだけ煮込めば普通は臭いも出るし、次から次へと投入していくので漏れがあってもおかしくないのだがそれもない。
そんなスープに合わせる麺は中太縮れ麺、修業先の修業先である宮崎から取り寄せているとか。
で、麺を持ち上げるとスープも持ち上がるのよこれが。
食券を買い、テキパキ動く奥さんが細かい注文を訊いてくる。
「大盛りネギ多め麺堅めこってりで、こっちの三人は普通で」
「私もネギ多めで」
「わ、私は麺やわらかめでー」
ゆえっちがネギ多めが好きで、本屋ちゃんはやわ麺好きな事が判明した後、暫し待つ。
店の大将が上手い事タイミングを合わせてくれたのでほぼ同時に持ってきてくれたのを有り難く思いつつ食す。
「こ、これは…!?」
「うわあ…」
「お…おいしい!!」
第一声の後、次々と食べる皆。ふふふ、旨かろう。
「これだけ濃厚なのに何でするすると入るですか、この後味の良さと共に不思議です」うん、初め食べた時同意見だった。
「おいしいですけどー、堅めの方が良かったですー」あー、やわ麺はスープが良く絡むからねえ。濃厚スープと合わさるとすごい事になるし。
3/4ほど食べた所で、豚骨ラーメンにつきものの「細麺堅めでー」替え玉を注文する。
「豚骨と言えば細麺でしょ」や「一杯で二度美味しい」なお客さん用に準備してあるのだ。
普通の麺がモチモチならこちらはプッチリと歯切れが良く、これはこれで美味しい。
頼むついでに、女の子にとっての悪魔の囁き「そっちもどう?」も忘れずに。
「うう…、私も細麺堅めでお願いしますです…」
「ゆ、ゆえー、…細麺堅めで…」
ここのは美味しいからつい頼んでしまうが、これだけ濃厚だとカロリーもそれ相応。
そこに替え玉だ、カロリーや体重を気にしてしまう年頃の女の子にとってはねえ。
実の所、この時期だったら成長に回されるから何の問題もないがな!
「僕も…」
こらネギ、お前はまだ小さいから食べきれないでしょうが。替え玉半分やるから我慢しなさい。
その代わりとして、「すいませーん。ご飯くださーい」ライスを追加だ!
備え付けの高菜と塩気が強くて薄いチャーシューとスープがオカズだ!
そんなこんなで四人とも完食、スープも全部飲み干した。
「はあ、満足です。このこってり感がクセになりそうなのが問題ですね」
「ごちそうさまですー。美味しかったけど、太りそうなのが…」
年頃の女の子らしい感想の二人。
「おいしかったです。ごちそうさまでした」
と大将と奥さんに挨拶するネギ、イギリス人だけど味が分かってるのだよなコイツは。
まあアレは、ひたすら茹でるとか焼くだけの単純すぎる調理法と「酢でも塩でもお好きな様にご自由にどうぞ」前提の味付け、余り良くない土壌と気候の三点セットと
それが当然だったために食に淡泊になった労働者階層が融合進化した結果だ。
さて、連休が明けたら本格的に鍛え始めよう。そう思った端午の節句の昼だった。
****
5月6日の放課後、訓練メニュー制作のためにエヴァの遣り方を見る事にする。
概要は決まっているが、細部の詰めの為だ。
ラテン語と古典ギリシャ語を習った時に感じたけど、結構スパルタなんだよな。
全力魔力供給3分させて魔法の射手199本と無茶苦茶な負荷を掛けさせて不満と来ましたか。
「まあいい、今日はここまでだ。めんどいからな。解散!」
「ハ、ハイ師匠!」
ドラゴンについてのお叱りを喰らっていたが、アイツは知らない模様。
…転移魔法であそこまで送ってやるか?と不穏な考えがよぎったりした。
そんな事よりも、今は夕食の支度をせねばならん。
昨日のラーメン屋の事を知ったエヴァが「よりにもよって、あいつらに教えるとは!」と機嫌を損なってしまい、お詫びとしてで夕飯を作るハメになってしまった。
エヴァも気に入ってたからなあ、あの店。
共通の友人であるパル様経由で名が知れ渡って、気軽に食べにいけなくなるのがイヤなのだろう。
夜、ネギとこのかちゃんとせっちゃんが来た。
ネギが沈んでいるのでせっちゃんに訊いてみると、神楽坂とケンカしたらしい。
ふむ、原因が分からない以上、余計な口出しはやめておいた方がいいな。
「次はぼーやだ、…アリョーシャ!お前も早く来い!」
しばらく経って、ネギの番が来た様だ。
火を止め、エプロンを外して2階へ向かう。
「やっと来たか、さてこれからの修行の方向性を決めるため、お前には自分の戦いのスタイルを選択してもらう」
「戦いのスタイル…、ですか」
「うむ、修学旅行での戦いからお前の進むべき道は二つ考えられる。二者択一、簡単に言おう」
従者ありきのこちらのスタイル。
センターガード相応の「魔法使い」対して、フロントアタッカーやガードウイング相応の「魔法剣士」
この二つが選択肢となる。
「で、アリョーシャ、お前の番だ」
一区切り付いたところでお鉢が回ってくる。
「時空管理局式の分類は戦闘か非戦闘かの二つ、戦闘なら陸戦魔導師か空戦魔導師か。後はそれぞれのポジションだな」
「空戦と陸戦の違いは?」
「飛ぶのは割と簡単なんだが、必須の高々度飛行魔法を習得するには高い三次元空間把握能力と安定した出力、各種安全措置が要求されるの。
先天的に資質が高い人達以外は訓練に時間と金がかかる…、戦闘機パイロットみたいなものだな。
で、それ以外の魔導師が陸戦魔導師。空戦魔導師でも陸戦過程で戦闘訓練や実績積んでからなる場合も多い。
逆に自在に飛べるけど空戦資格取得に費やされる手間を他の魔法に費やしたいから陸戦のままでいる人もいるし、これは適正と好みの問題だね」
「ポジションて?」
「最前衛・前衛・中衛・後衛の四つのこと。最前衛が固くて攻撃力高いフロントアタッカー、例えれば重戦車だな、速い人もいるけど。
前衛がそれよりも固くなくていいけどその代わり速い動きが要求されるガードウイング、攻守それなりの快速中戦車だな。
中衛が中長距離担当のセンターガード、視野が広くて余り動かないところからすると砲兵部隊が近いかな。
最後に後衛、フルバック。これはトラック装備の補給部隊だな、動き回っての支援担当」
「アリョーシャは?」
「僕は飛べるけど陸戦、空戦では遅いけど、陸戦には十二分な速さなのも有るしね。ポジションはガードウイング兼センターガード」
略式に説明をし、ネギに向いているのを探すが、
「お前は陸戦のガードウイングかセンターガードで決定だ。あと、飛び方は教えられても空戦魔導師は無理だからな。ウチは代々陸戦だからミーシャにも教えられん」
答えは殆ど決まっていた。
説明をちゃんと聞いていたからこそ不満そうなネギ、一気に選択肢を狭められたからな。
「…えらくあっさりと決まりましたね」
せっちゃんが呆れ顔で呟くが、だって教えられるの僕一人だもん。僕の教えられる範囲で探すとなるとそれしか無いんだからしょうがないでしょう。
それより夕食だ!後で来るハカセの分も用意してあるぞ!
来ると思っていた神楽坂の分はタッパーに詰めておいたから持って帰りなさい。
「ごちそうさまでした。おいしかったよー」
「つくねの出来が良かったな、つなぎは自然薯か?」
「ホンマ、料理上手いなあ。ドコで習ろたん?」
今回のメニューは鶏つくねと空豆の親子丼、淡竹の若竹煮と豆腐の味噌汁。
鶏は農学部で廃鶏(卵を産まなくなった雌鶏)になった名古屋コーチン、味はいいのだが如何せん固い。
なので、つくねにする。
本来は胸肉で作るが、今回は骨も肉も丸ごとミンチで。エヴァの家に挽肉器があるので使わせて貰った。
昔はチャチャネとかにソーセージとかを作らせていたらしい。最近はベーコン買ってるお肉屋さん、あそこから買っているとか。
「若いが腕はいいからな。あそこの息子は」
「あー、銀座商店街のお肉屋さん。あっこのんはおいしいなあ、朝ご飯用によう買うてるわ」
つなぎの自然薯はこの前山中行軍している時に見つけた。麦とろを作って楓ちゃんと食べた残り。
また掘ればいいんだが、魔法使っても手間が掛かるのがなあ。
空豆は横の畑で作った奴。ロシア人は職業に関係なく畑仕事が出来る人が多い。
郊外に家庭菜園付別荘、ダーチャと呼ばれる、を持っている人が多いからだ。
ソヴィエト末期の物がロクにない時期でも餓死者が出なかったのはこれの御陰。
この前ネギを連れて入ったロシア風呂ことバニャもここに作る事が多い。
ウチの祖父さんも一族全員集まれるだけのデカイのを持っている。ただし、祖母さんの実家が金持ちなので買えたらしい、無理しちゃって。
まあその関係上、小さい頃から畑仕事を手伝っていたので草刈り、トラクター運転に畝立て、収穫等々、一通りは出来る。
「隣の空き地を勝手に畑にしたからな」いいじゃん、野菜を賃料代わりに渡してるんだから。
新じゃが一緒に食べただろ?
淡竹のタケノコはランニングコースの近くにある竹林より、見た目も味も孟宗竹より淡いがクセがなく歯応えも良い。
盗みはしてないぞ、早めに生えているのを適正な価格で買ったんだ。
で、何で料理が出来るのかって?
基本は親父、カレーと一緒に仕込まれた。次に幼なじみの山岡のお父さん、知識と腕がハンパねえ人。
何でもお祖父さんが銀座裏にある「○食倶楽○」と言う店を作った人だとか、見た事も行った事も無いけど。
その二人に仕込まれた結果、出来る様になった。
他にも洗濯や裁縫も親父に教えられたし、「軍人たる者、身の回りの事ぐらい一人で出来なければならない」と家訓にあるのだ。
そこに一寸凝り性な親父の性格が加わってこうなったのだ。
え?もう本職になった方がいいのじゃないかって?言うな、こっちも気にしてるんだから。
『転職時の経理担当はお任せあれ。何せ機械ですから』追い討ちかけるなミーシャ。
弟分とその姉御分の間に問題を含みながらも事は進む。
取り敢えずは服を持って行ってやろう、年頃でパイパンの娘さんがクマパン一丁で外は辛すぎだろ。
エヴァ所有のフリフリ過多の服だがな!
あとがき:前々回のカレーの話が好評だったので、一人「食事はきちんと取りましょう」キャンペーンを開催、その一環として、食い物の話ばかりちりばめてみました。
なお、実体験を元に書いておりますので、作者も食べたくなってしょうがなかったです。