「雷の暴風!!!」
僕の使える最大の魔法、そこにカートリッジを足した。
それでも障壁を突破するのがやっとで、すぐに再生するような傷しか付けられなかった。
あの白髪の子への「戒めの風矢」も解けた。
「善戦だったけれど…、残念だったねネギ君…。そういえば、君の使っていた銃弾みたいなの、凄まじい魔力だったけどなんなのかな?」
問いかけながら、ゆっくりと近付いてくる。
そんな時だった。後ろの方、アスナさん達が鬼と戦っている場所辺りに大爆発が起きたのは。
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「あー、おにーさん、えらい勢いでどこ行かはるのー?ん~、煙が…」
「なんやこの煙は?うわっ、眩しっ!?、…何も見えへん?」
煙幕と照明、その二つを夜間に使うと煙が光を乱反射し、視界が真っ白になってほとんど見えなくなる。
濃霧や吹雪の中でヘッドライトのハイビームにした時と同じ現象、即ちハレーションを起こす。
更にだ、魔力で作った煙に魔力の光を当てる為に魔力を視覚化出来るタイプの魔眼持ちであっても見えなくなる。
視覚に頼る生物は視覚を妨げられると反射的に行動を止めてしまう物である。
それが狙い、足を止めてしまっている上にこちらの出方も解らなくした所に"疑似"広域攻撃魔法を使えば取り残し無く殲滅出来るってもんよ。
この「FAE」は霧散させた魔力を爆発させて全方位から衝撃波をぶつける魔法で、弾数や一発あたりの大きさを変えれば攻撃範囲を調整出来る利点がある。
室内だけに限定して使うことも出来るので使い勝手の良い魔法と言える、その時の魔力は全部自前だけどな。
原型となった兵器と同じく一度拡散させる必要があり、危害を与えるメカニズムも同じ。
欠点も同じなのが玉に瑕、対衝撃型全方位バリアを張られるとほとんど効かないのだ。
こちらの人達はそんなの使わないからいいけど。
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500体もの鬼、飛騨の大鬼神「リョウメンスクナノカミ」、極東最大の魔力を持つ近衛木乃香。
それを手中に収めている天ヶ崎千草は自らの野望の成就を確信していた。
だから、鬼達が居る所でのキノコ雲が上がるほどの大爆発が起きたことや、小さい魔法使いが障壁を貫ける魔法を使った事実や、従者を召喚したことを足るに足らないことと思っていた、
いや、思おうとしていた。
奥底に残った不安は現実となっていく。
500体もの鬼は4人の女と1人の魔導師により殲滅され、お嬢様は護衛を務めていた半分鳥族の神鳴流剣士に奪還される。
護衛であった狗神使いは甲賀忍者に敗れ、二刀使いの剣士は鬼達と共に大爆発に巻き込まれた。
1人残った西洋魔術師は優勢に戦いを進めていた。
「まずは君からだ。カグラザカアスナ」
フェイト・アークウェルンクスは「魔力完全無効化能力者」と思しき神楽坂明日菜を始末すべく突っ込んでくる、そんな時だった。
「人の弟分に何してやがるんだ。この若白髪」矢が放たれた。
次の瞬間、魔力で形作られた何かが障壁を紙の如く貫き、背中に当たった。
「?!!」
自分の障壁はその様には貫かれないはずで、守りには自身があった。
だが、事実として総て貫かれ自分に達し、今まで味わったことのない、焼けた鉄棒を捻り込まれた様な苦痛を与えている。
一滴の血も出ていないのに、だ。
確かに彼の障壁は強力ではあった。
ただし、アンドレイが使用した"音速の4倍以上で着弾する半実体化高圧縮魔力"と言う埒外な物を受け止められる物ではない。
その様な魔法が存在し、この世界唯一人の使い手がここにいることを知らないフェイトは、
苦痛と驚愕に包まれており、致命的なまでの隙が生まれた。
突きだしたままの腕をネギ・スプリングフィールドに掴まれ、神楽坂明日菜のアーティファクトで障壁総てを取り払われる。
それに合わせて顔に叩き込まれた右の拳、この後幾度か拳を入れられるが、此が最初となった。
静かな怒りは苦痛をも忘れさせ、「…身体に直接拳を入れられたのは…、初めてだよ。ネギ・スプリングフィールド」
放たれた報復の一撃は、「ウチのぼーやが世話になったようだな。若造」最大の鬼札によって妨げられる。
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おー、エヴァの奴間に合ったか。
あのデカブツの始末は任せられるな。ちゃんと記録しておけよ?
『愚問です。停電の日は手加減をしていたのです。本気でのデータが取れる機会なぞ早々ある物ではありません』
そりゃそうだな、コイツは言わなくても情報収集するだろう。
にしてもだ、せっちゃん羽付いてるのね。
ちょっと挨拶がてら突っついておくか?このかちゃんも一緒だし。
そう言う訳でせっちゃん達の方へ向かう。
「このかちゃん、お久」
「あ、アリョーシャさんや。せっちゃんみたいなハネついてへんでも飛べるんやなー」
「げ、貴様にまで見られるとは…」
せっちゃん、そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ。
天使みたいでカッコカワイイのに、それが台無しよ?
「うん、ウチもそう思うでー」
「なっ…、このちゃんまで…。…貴様、ネギ先生達の所へ向かわなくていいのか?身内扱いで弟分なのだろう?」
「アリョーシャさんとネギ君、ほんまの兄弟みたいに仲ええからなー。喜ぶとおもうでー」
あー、顔見せといた方がいいか。そう言う訳で向かうが、その前に…。
「ハイ、コレ」
「シーツ?何処から出したんだ?」
収納してあったシーツを出す。このかちゃんをハダカのままで居させる訳にはいかないでしょ?
「…ああ、確かに。感謝する」
「因みに、ハワイからの直輸入品よ、ソレ」
顔が柔らかくなったと思ったら、すぐさま固まるせっちゃん。
「…マテ、つまりはだ…」
「ホテルからパクって来た。用意する時間がなかったんだからしょうがないじゃん」
「全く…、貴様という奴は…。いつもの事ながら怒るべきなのか感謝すべきなのか…、解らん奴だ」
「用意してくれたんはええけど、そんなんあかんでー、ちゃんと返さなホテルの人こまるでー」
後ろの方から聞こえる批判も何処吹く風な感じでネギ達の元へと向かう。
「おーいネギー、取り敢えず生きてるかー」
「え…、アリョーシャ!?何でここに?ハワイにいるんじゃ…」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔するネギ。
ん?アイツ、"さん"を付けてなかった様な…。
まあ、アイツも自覚無しに言ってるみたいだし、帰ってから突っ込んでやろう。
ソレよりもだ、お前、右手が石化してるじゃないか。
腕出せ、時間稼ぎぐらいにはなるだろ。
こちらの石化魔法は初めて見る。だが、魔力を邪魔させれば進行は遅れるだろ、多分。
…余計進行することはないだろうとは思うんだけどな。
『確証無く進めるのはオススメ出来ませんが、やらないよりマシでしょう』
魔力で針を作り、腕に刺す。魔法を魔力針経由で身体の中に流し込む。
普通に使えば浅い傷や骨のヒビを治すぐらいの魔法だが、こうやって患部に直接流し込むことで深い所やピンポイントで治癒させる。
祖父さんの腹心が一人、バイアン三等医務陸佐こと先生直伝の技だ。
顔色が多少はマシになったかと少し安心していると、「良かったわねー、世話焼きなお兄ちゃんが来てくれて」
にひひと笑みを浮かべている神楽坂が声を掛けてくる。
「さっきの矢みたいなの、アンタの魔法でしょ?「人の弟分に何してやがるんだ。この若白髪」って聞こえたわよ」
アレ、着速が1400m/s以上あるのですが…、見えたの?
「それに、さっきは大活躍だったしねー。あの大爆発アンタの魔法でしょ?龍宮さんが教えてくれたわよ」
「え、アリョーシャ、スゴイ爆発だったけど、あんな魔法も使えるの?僕にも教えてよ!」
まあまあ、今は取り敢えずエヴァの活躍っぷりを見てやろうじゃないか。
と、その前に神楽坂。
「ん?何?」
前隠せ。ピンク色した先っちょが見えてるぞ、夜風に当たってたせいか立ってるし。
「見てから言うなー!!」本日二回目のハリセン、忘れてたお前が悪いんだろうが、理不尽だ。
だが今回は許す!スウィングの拍子に捲れ上がったスカートの中が見えたからな!!
…ノーパン健康法でもやってるのか?パイパンのクセに。
阿呆な事をしている合間にも事態は着々と進む。
「"おわるせかい"フッ…砕けろ」
砕け散る大鬼、皆そちらの方に気を取られているが、「あーれー」と叫びながら飛んでいく人影を見逃す様な僕とミーシャではない。
恐らくはアレが主犯だろう、飛んできたエヴァ一行とネギ達に「ちょっくら捕まえてくるわ」と言い残し向かう。
「ああ、こちらもチャチャゼロに追わせているが、お前も行った方が確実だろう」とエヴァンジェリンさん。
なので、あの若白髪が伏撃してきたのは後で知った。
あの場に居てたらえげつない目に遭わせてやったのに…。
****
すぶ濡れの女、天ヶ崎千草が走る。
当てもなく、夜の森を走っている。
資金もほぼ底を突き、資産はあるが即時に現金に出来ない物ばかり。
それ以前に、両親が残してくれた物なので換える気はなかったが。
この事件の前まで、影ながら支援してくれていた者もいるが、本山を襲ってしまった以上誰も助けてはくれないだろう。
そんな五里霧中に陥っていた時だった。
「オ前…、悪人ダナ…?」子供の様な声が聞こえた。
「悪人ならこんな事されても文句は言えないな」少年の様な声が続く。
「なっ…、何者や!?」数少ない札を出し、構えるが、
「チェーンバインド」鎖の様な物に捕らえられる。
何が起こったのか理解しきれない内に人影が見えた。
一つは小さく、不釣り合いな大きさの刃物を持ち。
一つは兵士の様な装いをし、銃を吊している。
あれは追っ手で、自分は捕まってしまったのだと理解した。
そうして冷えた頭で自分を見て気が付いた。
「ひっ…、ひぃいいい!?」
あられもなく、出来ることなら見せたくない所が丸見えな姿に拘束されていることを…。
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「ニシテモダ、偉クエロイカッコデ固定シタナ。趣味カ?」
「無論だ。大抵の縛り方は出来るぞ、昔に一通りな」
主犯のメガネのおねーちゃん(顔は悪くないし、結構胸がある)はパニックを起こしている。
追っ手に捕まったかと思ったら、こんな状態で拘束されたんだからなー。無理も無いわな。
「デ、コノ後ドウスルンダ?殺ッチマッテイイカ?」
「そうだなあ…、最近溜まってるし…嬲るか」
「嬲カ、マアソレモイイワナ」
『同志と同志チャチャゼロ、無理矢理はダメですよ。一応は同意を取って和姦に持ち込みましょう』
そんな会話を聞いて青くなるおねーちゃん。誰も止める奴がいない上に、"一応"だもんなあ。
だけどね、「悪事をする覚悟があるならこんな事をされても文句は言えないでしょ?」
「ソウダナ、覚悟ガネェンナラタダノバカカ、三流デ腰抜ケノ小悪党ダ。バカヤ小悪党ヲ嬲ッテモ何ノ問題ネェナ」
「い、いや、ウチは…。あの、その…。って!何でウチを嬲ることになってん!変やろあんたら!」
「いいじゃないの、こっちは暴走する十代なんだし最近欲求不満気味なんだから。おぼこじゃあるめえしケチケチしない。減るもんでないし」
「欲求不満デ暴走スル十代カ。女ノホウガ持ツカガ問題ダナ」
みるみる青くなるおねーちゃん、話が全く通用しない事が判明したからだ。
まあ、無理矢理は犯罪だから同意させて和姦にさせるよ。
と言うか、懇願させる。そのための手法は昔に師匠に教わった、ここ最近全く使ってはいないがまだ錆び付いてはいないはず。
手を揉むだけでイかせれるもん、僕。
さーて、久方振りに全力出すとしますか。
――三時間後――
「息モ絶エ絶エデ、腹上死ノ一歩手前ッテトコロダナ。コンナ短時間デヨクモマア、アレダケイカセタモンダナ」
「言っただろ?師匠は世界一さお師な男だって」
入れられていた娼館は竿師も用意してある所なのだが、そこの主が気を利かせて本来フリーの師匠、伊達千蔵を雇っていたのだ。
師匠は皇国で随一と言われた男、そんな男に一ヶ月間付きっきりで教えられた僕もそれなりの腕を持っていると自負している。
そんなのに全力で掛かられたメガネのおねーちゃんがどうなるかは自明の理。
多分、しばらくは腰抜けたままだろうな。
そんなこんなで抵抗する意志を失った(気も失ってる)おねーちゃんを抱えて合流する。
とっても面倒だが一時間かけてハワイに戻らなくっちゃ、荷物置きっぱなしだし。
****
「にしても、ネギと本屋ちゃんにこのかちゃんの二人と仮契約するとはねぇ。朝倉にバレたりと波瀾万丈な修学旅行だな」
合流後、神楽坂とせっちゃんにここ数日のあらましを説明して貰った。
息も絶え絶えだけど上気した顔したおねーちゃんについて追及されたが、ソレについては黙秘権を行使させて貰った。
あの後ネギの石化は応急処置が幸いしてかなり進行が遅れていたらしい。
しかし、応援部隊の到着を待っていては間に合わないとのエロオコジョの判断で仮契約に至ったそうだ。
その時のネギの嬉し恥ずかしな模様は見てて微笑ましいぐらいだったとか。
茶々丸ー、後で画像くれー。
転移魔法で戻る時、皆が見送りに来てくれた。
とは言え、大半が日曜日のパーティーに招待してあるからすぐに再会するんだけどな。
神楽坂には渡してないけど、ネギと一緒に来るから問題ないとして…、もう一人が問題だな。
「このかちゃん、日曜のパーティーだけどさ、せっちゃんも連れてきてくれない?」
「うん、もちろんやで」
面食らうせっちゃん。
神楽坂に「自分のこと、化け物だって言ってた。ハネついてる以外は同じなのに」と聞いていたから敢えて誘う。
そして、この言葉を贈ろう。決断を下すのはせっちゃんだけど、判断材料にはなるだろう。
「マイルス・デイヴィスって、知ってる?」
「モダンジャズの帝王と言われたトランペッターですね」
ゆえっちの解説と共に続ける、ナイスタイミングだゆえっち。
「彼のバンドのピアニストが抜けて、その次に迎えたのがビル・エヴァンス。彼は白人でマイルス他のメンバーは黒人」
「黒人のファンから批判を受けたそうです」
「でも、マイルスはこう言ったそうだ「緑色の肌をしていようと、赤い息を吐いていようと、俺はどうでもいい。そいつに才能さえあれば何色だってかまうものか」ってね」
イマイチ掴めていないせっちゃん(と神楽坂)。
まあ、何が言いたいかというと、「世の中、人との差異を気にしない奴もいるって事。この人この後も白人や日本人をメンバーに迎えているからね」
「ですが、それは音楽の才能があったからで…」
「だーかーらー、その才能を持つ人が必要だからこそ気にもしなかったの。せっちゃんは必要とされてるでしょ?」
視線をネギや神楽坂、このかちゃんに送る。みんな笑顔で頷いた。
涙目になってるせっちゃん。
このまま一緒にいてやりたい所ですが、「おーい、アンドレイ君。悪いが時間が無くなるよー」ガンドルフィーニ先生を待たせていますからね。
「じゃあ、今度の日曜日にまた」
斯くして京の都に別れを告げ、南国へと戻る。
お土産何がいいかなあ、マカダミアナッツ入りチョコは確定だけど。
****
そうして、ホノルルへと帰還する。
時間は11時頃、2時前の便で帰るからギリギリの時間。
弐集院先生が上手いこと誤魔化してくれたお陰で変に思われることもなかった。(逆に心配された)
後でお礼代わりにいい酒プレゼントしよ。
そうして急いでお土産を買う。
知り合いが多くなるとコレが面倒なんだよな、数多くなるから。
均一品で済ましたい所だけど、その送る相手の好みを知っているとそれに合わせた物を買ってやりたいものです。
例えば、料理好きにいいお醤油や味噌、酒好きにいい酒を送るととても喜ばれる様に。こっちも嬉しくなるものです。
何とか受託荷物の制限重量(多少のオーバーなら見逃して貰えるが)に収め、ホノルル国際空港へと向かう。
さて、どうやって機内での暇を潰しますか。
取り敢えずは考えるは日曜日のパーティーについてだな。
料理はお料理研究会と超包子の面子に依頼済みで、仕入れ用の前金も渡してある。
会場は超包子が店を開いている所で、テーブルや食器類もそのまま使わせて貰える。ついでに屋台も。
で、外注していたアレも帰り次第確認しなきゃ、試作品からして出来に問題はないだろうけど、数が多いからなあ。
あー、自作のアレ、別荘に置きっぱなしだった。エヴァが帰ってきたらすぐに取りに行かなきゃ…。
南国から晩春の日本へと一行を乗せて銀翼は進む、旅は間もなく終わり。
あとがき:此にて修学旅行編終了でございます。
次話は原作にない展開故に少々遅れるやもしれません。
祖父さんとその部下もちょっとだけ顔を出す予定です。
追記:話数間違いを訂正、ちょびっと文章追加。