二つの人影以外誰もいない中等部情報処理室、一台のPCが起動している。
それは本来はアクセス出来ない学園中枢部へとアクセスしている、様々な障壁が用意されていたが量子コンピュータの前ではほぼ無力であった。
「…どうだ?」
「予想どおりです。やはりサウザンドマスターのかけた「登校の呪い」の他にマスターの魔力を抑え込んでいる「結界」があります。この結界は学園
全体に張りめぐらされていて大量の電力を消費しています」
「ふん、小僧に指摘されるまで10年以上気づけなかったとはな…」
「しかし、魔法使いが電気に頼るとはなー。え~と、ハイテクってやつか?」
「私も一応そのハイテクですが…。それにアンドレイさんの魔法は高度な科学で構成された魔法といえる物ですが…」
「あいつは特別だろ…」
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大停電の日、ヤブヘビな一言によりその日はエヴァとネギの対決の日となった。
放課後にエヴァから念話で連絡があった。今回はミッド式の念話だから大丈夫。
口も動かさずに他の事をしながら会話が出来る。
見届けたい所だが、裏表共に警備を強化する日であり、警備要員をしている僕もその一員となっている。
とは言え支援要員であるので、基本は詰め所で待機する事となっている。
有り難い事に僕のアーティファクトは戦場監視向きの物だ。何か無い限りは見続けられるのでよい。
細かい所を拾う用の偽装付きサーチャーも飛ばしておく、盗聴機能付きなので会話も聞ける。
そういうわけで、同じく支援要員の真名と一緒に詰め所で待機するのだ。
要請が掛かったらどうするかって?弾雨を降らしてやります、時間あたりの火力を過密にして速攻で片を付けてやんよ。
例えて言うなら、見たい番組の途中の用事みたいな感じ?で片づけるよー。
マルチタスクで並列処理出来ても、大事な事は集中したいからね。
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「まあ、いいわ。これでもう、あの訳のわからない契約とかに付き合わされることはなさそーね」
「…い、いえ。こないだみたいなことを頼んでしまうかもしれません、アスナさん」
「ん?」
「出来るだけ頑張ってみますが、ひょっとしたら迷惑をかけてしまうかもしれません。でも、もう一度お願い出来ますか?」
「え…、あ、まあ、乗りかかった舟だしね。一応付き合うわよ」
「兄貴…」
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停電の少し前、出来るだけ来ない事を祈りつつ、詰め所で待機している。
だがしかし、最近はボキーどもは問答及び容赦無用で吹っ飛ばしているのであまり来ないだろ。
「うん、最近は気持ちいいぐらい容赦がないからね。楽でいいよ」
真名が独り言に対して応じる。
「でもねアリョーシャ、君恨まれているみたいだよ」
え?恨まれてるってどういうコト?
最近やった事と言えば…。
1.大量のレッサーデーモンと共に現れた男魔法使いをシュートシェル・ラビットファイアで掃射・粉砕。バインドで捕縛後、
大層な演説を始めて五月蝿かったので金的蹴り。
2.鬼と術者を魔力弾の地雷原に追い込む、足が止まった奴は後ろに砲撃加えて進ませ、運良く抜け出てきたのは
組んでいた真名の狙撃で始末して貰う。
3.守りが自慢の女(ブサイク)魔法使いを障壁ごとAPFSDSシェルで貫通。勘違いした発言をしてくれやがってうっとおしかったのでバインドで捕縛
時に細工して、あちこちの間接が痛い角度で固定。
ぐらいだったけどなあ…。
「それをやられた連中が恨んでいるのさ。その前なんかグループのリーダー格の男に遠距離から弱い魔力弾をぶつけ続けていたぶっていたじゃないか
。最後の方なんて土下座して許してくれと謝っていたじゃないか」
「アレは最低限の労力で戦意を殺ぐ方法の一つだぞ?」
「ああ、私も似たような事をされた事があるから効果は解るんだが、えらく恨まれるんだ。アレは」
「まったく、殴られる覚悟がないのに殴ろうとする輩が多くて困る。そういうヤツに限って、節度やら戦時国際法を守らないし知らないんだぞ?」
「まあ、抑止力にはなっているみたいだよ。去年の今頃に比べれば侵入者の数が明らかに減っているからな、反面君の砲撃を覚悟した連中ばかり来る
から痛し痒しと言う所だね」
そんな真名の一言とほぼ同時に停電の時間を迎えた。
さて、二つの仕事をする事にしますか。
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それにしてもなあ、何でこんなに不埒なヤツが多いんだ?
停電が始まった直後、エヴァの魔力を感じた、いつもの何百倍もの感じ方で。
「魔女の眼」で見てみると、幻術で大人モードに変身したエヴァらしき女性がいた。
で、少ししてネギの方に目を向けるとまっぱのまき絵ちゃんと対峙しているではありませんか。
この後どうなるか気になるってのに、しょっちゅう要請があるんだからなあ…。
マルチタスクを使えば問題なく見られるが、集中して見たいのに…。
なのでHE-FRAGクラスターシェルをガンガン撃っている。圧縮魔力で作った弾殻を均等に割り爆風と一緒に破片を撒き散らす弾種だ。
魔力は問題ない、工学部に作らせた此方製カートリッジを山盛り用意してある。
こんなコトが出来るのもエヴァの御陰だ。
元はお土産代わりに渡したカートリッジを熱望しているから、バルタン星○に頼んで生産させた。
葉加瀬とかの工学部一同は研究材料で止めるつもりだったようだが、作られればその魔力量に引かれ、ネギに渡したのと同じような改造を施し、
コッソリ使うヤツもいる。
まだまだ成長過程の魔法生徒とかがな、先生や才能のある奴らが高威力魔法を使うのを見てれば下駄も履きたくなるのが人情ってもんよ。
そこに弟子一号が加わった事で更に加速した。実は弟子用デバイスはカートリッジシステムを採用しているのだ。
この学園有数の腕利きのお墨付きだ、使用量も堂々と使うヤツも増えるし生産量も増えるってもんだい。
研究側からするとじっくりと調べてから咀嚼し、消化してから導入したい所だろうが、前線で使っている連中はもっと作れとせっつく。
この麻帆良学園という組織は現場側に弱い、要請に対して止む無く中身は解らないが作り方は分かっている物を生産する。
そうして導入は済し崩し的に進む、此方の罠を気付けずに。
まあ、何かあるのを気づいたヤツがいてもミッド語で書いて管理局式暗号処理してあるからわかんないだろ、多分、きっと、恐らく。
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ピロリロリロリと電子音が響く、神楽坂明日菜の携帯の呼び出し音だ。
ウトウトと眠りの入り口に入り始めていた彼女は緩慢な動作で電話を受ける。
「もしもし、アスナさん。僕です、ネギです」
「ん、何?ネギ?ウトウトしてたトコなのに」
「放課後に言っていたこと、お願いする事にしました。10分後に大浴場の前まで来て下さい」
「え、エヴァちゃん諦めてなかったの?」
居候の一言で眠気が吹っ飛ぶ。
「はい、まき絵さんまで操ってます」
「まきちゃんまで巻き込んでるの!?わかった、今から行くわ」
そうして、ルームメイトを起こさないように気を付けながら駆け出す彼女、二人の戦いが始まる。
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そうして、もののついでみたいな感覚で無慈悲な弾雨を不埒な輩に降らしている間にも事態は進む。
大浴場に神楽坂と一緒に来て、吸血鬼化した4人中2人を無力化、エヴァと茶々丸と残り二人と交戦したまでは良かったが、
相方を放っておいて飛ぶなよ。後ろから走って追いかけてるぞ、神楽坂。
と、要請がまたあった。集中して見せろって!!
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「あー、もー!あんたをちょっとでも信じたあたしがバカだったわ!」
操られている4人を見て怒ったアスナさんはエヴァンジェリンさんにこう言った。
「改心したのかな、と思ったらまきちゃんだけじゃなくて、アキラにゆーなに亜子まで操るなんて!こんな悪い魔法使いなんてさっさとやっつけちゃ
うわよ!ネギ!」
「は、はい!」
うん、やっぱり頼んで良かった。
隣に頼れる人がいる、それだけでこんなにも勇気が出るなんて。
「バカにそんな事を言われるのはな…。まあいい、やれ、我が下僕達」
その一言で操られた4人が一斉にかかってきた、契約執行したアスナさんと構える。
みんな傷つけないようにしなくちゃ、吸血鬼化の手当は後だ!
「何よー!何でみんなこんなに速いのよー!?」
「吸血鬼化されて身体能力が上がっているんです!契約執行したときと似たようなものです!」
ゆーなさんとまき絵さん相手に苦戦しているアスナさん、僕はアキラさんと亜子さんに脱がされてしまって、大事なコレクションを取られていく。
そこで「風花・武装解除」の効果が有る魔法薬を使う、そうして出来た隙に「眠りの霧」を使って二人を眠らせる事に成功した。
その後、エヴァンジェリンさん達まで加わり、一人でその場を離れるのがやっとだった。
アスナさんとカモ君、置き去りにされて怒ってるんだろうな。
…ゴメンなさい。
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全く持って不埒な連中をダイナミックキャンペーン中に付き1.5倍(当社比)の投射量で片づけて差し上げた。
「刀子先生から苦情が来ているぞ。やりすぎだと言っているぞ」と真名が言っているが、遠慮はしない方がいいじゃないか。
あれだけやれば身体が恐怖を覚えてもう二度と近付かなくなるだろう、そうすれば不法侵入予定の人間が減って仕事が減って楽になるぞ。
先人曰く、一罰百戒と。一人を罰して百人への戒めとする、あの人達はその一人になって貰っているんだよ。真名、君なら解るだろ?
「いや…、それは詭弁にしか聞こえないんだが…。どちらかというと八つ当たりにしか見えないけど…」
「ああ、八つ当たりだよ!ネギとエヴァの勝負を集中して見たいの!いくら同時並行で処理出来ても、大事な事なんだから集中して見たいの!」
そういって、空間モニターを真名の目前に投影する。
「これは…、エヴァンジェリンとネギ先生の勝負?」
「そう!本音を言わせて貰えばこの目で直に見届けたい所をぐっと堪えて仕事してるんだよ!」
『まあまあ、同志、落ち着きなさい。これがネギさんへの試練だという事と彼女の目的と主義は知っているでしょう?釘も刺していますし』
エヴァの目的はネギの血、それとあいつの主義は「女子供は殺さない」
そしてこの勝負は父親の残した(ロクでもない)試練の一つ、
あいつが"魔法使い"として生きていく上で越えなければならない物の一つ、それは本人とその仲間以外は手出ししてはならない物。
だから堪えていられる。
「ミーシャ、すまんな。少し苛立ちすぎた」
『いえ、これも私の役目です。閣下やお父上の域になるまでまだ時間がかかるのは先刻承知の事、それまで支えますよ』
全く主人を尊ばないデバイスだが、こう言うときにその理由が分かる。
僕よりも長く生きているからな、コイツは。
『ですが、いいのですか?真名さんに空間モニターを教えても?』
「 あ゛」
後ろを見るとネギとエヴァの戦闘の様子もだが、空間モニター自体を興味深げに見る龍宮さんの姿がありました。
「本当に虚空に映し出されているな…、どこかから投影しているわけでもない…。アリョーシャ、これも君の魔法の一つなのかい」
エヴァ一家と弟子一同以外秘密にしてたのにー!
あんなオーバーテクノロジー魔法見せたら正体教えるハメになって面倒なのにー!!
何処から説明するか考えている合間にも戦いは進む、大橋まで来て、捕縛結界に引っ掛かったが解かれた所まで…。
****
「だが、今日は良くやったよ、ぼーや」用意していた奥の手も破られたネギ、二手三手を用意していないのが子供だな、
「パートナーを置き去りにしたのは失敗だったがな」神楽坂も置き去りにするし、さっき一寸見たら必死に走ってたぞ、何処行ったか分かってないの
に。
胸ぐらをぐっと掴まれ、「さて…、血を吸わせてもらおうか」いざ吸わんと顔を近づける、吸血へのカウントダウンが始まった。
男の子の意地なのか涙を堪えてはいるが「うううっ…」怯えてるのがよく解るネギ。
そこへ茶々丸が水を差す「あ…、あの、マスター、ネギ先生はまだ10歳です。…あまりひどいことは…」
「心配するな。…別に殺しはせん。女子供は殺らんし、…それに、このぼーや自身にも興味が出てきたところだしな…」
その後にサーチャーの方をちらりと見て「それと、やりすぎるとアリョーシャの奴が砲撃してくるからな」取って付けたように言った。
気付いてやがったか、偽装が甘かったな。
「「え…?」」
二つの声が重なる、一つは茶々丸、もう一つはネギ。両方とも意味合いが少し違うが困惑に包まれている顔をしている。
ネギの奴、少し混乱しているな。思いもしない名前が出てきたからなのかな?
****
救世主という奴はいつも最良のタイミングでやって来る。
まあ、逆に言えば一寸遅れればそれまでよ。な、ぎりぎりのタイミングとも言えるが…。
「コラーッ、待ちなさいーっ」とうとう神楽坂が追いついた、当てずっぽで良くここまでこれたな。
そうして神楽坂とカモの応急コンビは茶々丸のセンサーをマグネシウムの閃光と煙で一時無力化、本丸であるエヴァを狙う。
「ふん、たかが人間が私に触れることすらできんぞ」
自信たっぷりに障壁を張る、あの障壁は強固で大威力魔法か貫通特化魔法意外は意味を成さない。
しかし、今回は逆だった。
神楽坂の見事(パンツ丸見え)な跳び蹴りは障壁を意味のない物としてしまった。
詳しい事は解析しないと解らないが、『AMFの集束展開に近い感じですね』障壁が無効化されていた。
自慢の守りが意味を成さなくなった結果、はなぢをだしながらなっさけないかおでふっとばされるえう゛ぁんじぇりんさん。
流石に二回目だけ有って何とか着地は出来たが。
に、しても脚速っ!
オーバーロードから回復して煙が晴れるまでのほんの僅かな時間にネギと犯罪者オコジョ回収して、逃げ切ったとは…。
やっぱA組の人間だけあって変人だなあいつ。
****
「神楽坂はウチのクラスでも1,2を争う脚の持ち主だからな」
自分でもちょっとやりすぎたなー、と思うほどの砲撃の結果、
侵入者達は逃げたか砲撃喰らったか前線の皆さんにどうこうされたかの3つに分かれ、進入を予定していた人達も逃げたようで、えらく静かになった
今現在、詰め所に真名と二人、視線の先には空間モニター、戦いを見守っていますですハイ。
とは言え、エヴァ・茶々丸組がネギ・神楽坂+オコジョ組を見失った現在は自然休戦中であるが。
「さて、説明して貰おうか。私も昔は「魔法使いの従者」としていろいろな魔法を見てきた。だが、今まで見て来た君の魔法は明らかに異質だった」
やっぱり聞かれたよ、戦闘が続いていた先ほどまではそっちに気が向いていたから良かったものの、合間が出来たらこれだ。
「アリョーシャ、君の魔法には神秘の欠片もない、科学的というか兵器に近い魔法だ。それに加えてこの空間投影の魔法だ。一体君は何者なんだ?」
赤い目で人の目をしっかり見て話してくるから誤魔化しにくいし…、実証となる魔法を見せてしまったし、腹括るか。
「実はな…」「ネギ先生出てきたぞ」「…後でな?」「まあいいだろう、後でな」
不完全燃焼な気持ちだ…、もちっと遅く出てこいネギ。
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従者のデコピン対決から始まった第2ラウンドは意図的な打ち合いとなった、一方が魔法の射手を17本出せばもう一方が同数を出すといった風に。
しかしながらネギの詠唱がワンテンポ遅いため、至近距離で余波を喰らっている。
防御のリソースを総て攻撃に置き換えて何とか同等だ。
対するエヴァは飛行魔法に加えて常時展開型障壁をで出しながら余裕で対処している。
ここが経験と練度の違いって奴だな。
さて、このままネギ不利な膠着状態になるかと思われたが、男らしく勝負に出た。
「ラス・テル マ・スキル マギステル 来れ雷精、風の精!!」
お、アレは確か…、『雷の暴風ですね』先に言うな。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック 来れ氷精、闇の精!!」
『闇の吹雪です』言わせる間も与えんのかい!
ネギの右手の練習用杖から出る「雷の暴風」、エヴァの右手から出る「闇の吹雪」
火事場のクソ力ってヤツかしていい感じに拮抗している。
だが、よく見るとネギが不利だと解る。使っている杖、アレは所詮は練習用、負荷に耐えられずひび割れ始めている。
ネギは杖がなければ魔法が使えず、エヴァはなくても使える。
この差はいかんともし難いものである、さてどうする?ネギ・スプリングフィールドよ。
****
僕の使える最大の攻撃魔法「雷の暴風」、スゴイ力の「闇の吹雪」と何とか打ち合えているけど…。
練習用杖もヒビが入って、かけはじめている。ダ、ダメだ…、打ち負ける…。
いや、まだだ。もう逃げない!!あきらめるもんか!
そう思った瞬間、「危ないと思ったらそれもって魔法を唱えてみろ。使うときはためらわずにな」アリョーシャさんの言葉を思い出した。
そうだ、あれを使えば打ち勝つ事が出来る!
急いで左手で取り出す、パンツのポケットに入れていたから大丈夫。ちゃんとある。
そうして、「ええい!!」のかけ声と一緒に出したんだけど…、
くしゃみが出ちゃった。
****
改造カートリッジをあんな風に使うか!
突き出された左手とカートリッジ、そこに良く人を脱がす(主に神楽坂)くしゃみが加わった事で「超・風花 武装解除」とも言える魔法が出来た。
なにせ、「闇の吹雪」と障壁他、一切合切を吹っ飛ばして脱がす、前回はマントまでだったが今回は全裸。
「…やりおったな、それにアレは小僧の…。フフッ…フフフ、期待どおりだよ。さすがは奴の息子だ…」
一応賞賛を送ってはいるが、赤い顔が引きつってますよエヴァンジェリンさん。
「あ、あわっ、脱げッ…!?ご、ごめんなさッ」
そりゃ、600歳とは言え女の子だからね、全裸は恥ずかしいでしょ。
にしても、ネギよ、お前は女の子を脱がす星の元に生まれてきたのか?それともエロネタを振りまく星の元なのか?
ちょくちょく脱がしているではないか。
「ぐっ…、だがぼうや、まだ決着はついていないぞ」
全裸になっても戦闘意欲は落ちていないエヴァ、その時だった。
詰め所の通信機から「点検終了、間もなく復旧します」一報が入ったのは、本来の予定時間より早かったな。
長引けば迷惑がかかるからって頑張ったんだな、担当の人達。
今日の仕事はここで終了、後は見回り要員に任せるのだが…、何か忘れているような…。
『結界も復活しますよ』
「あ」
あいつ、結界内ではマント無しで飛べなかったよな?
『飛べません、それにあの身体では着水時の衝撃には耐えられません』
「いけないマスター!戻って!!」茶々丸も同じ結論に達したようだ。
着水時には大いに衝撃がかかる、「コンクリートに叩き付けられるような物」と評されるほどに。
飛び込み選手は指先から真っ直ぐに飛び込む事でその衝撃を最低限にしている、だからオリンピッククラスの人の着水は綺麗なのだ。
だが、それが出来るのは訓練を受けたか天性の物を持っている人間だけ、カナヅチにそれを求めるのは酷って物だ。
「悪い真名!戻ってきた連中への説明頼む!話は後で!」
「ああいいよ、その代わり一回オゴリだぞ」
「あいよ!ディナーでも構わんぞ!」
そうして大橋まで転移する、間に合うかな?
「媒体無しの転移魔法まで使えるとは…。一枚80万の転移魔法符を使っている身としては羨ましいよ。さて、何をオゴらすか…」
****
「な…何!?」次々と灯される明かり、それは彼女たちのスケジュールより大いに狂っていた。
「予定より7分27秒も停電の復旧が早い!!マスター!!」
「ええいっ、いい加減な仕事をしおって!」
いや、そこは褒めるべき所であって貶す所じゃないぞ、と内心ツッコミを入れる。
「きゃんっ」と可愛らしい悲鳴を上げ、大きく痙攣して落ちる、封印が復活した。
落ちていくエヴァ、「エヴァンジェリンさん!!」無謀にも飛び降りるネギ。
馬鹿野郎、お前は杖無しでは飛べないだろうが!
「ネギーッ」「杖よ」
何とか杖と手を掴む事は出来た、しかし所詮は10歳児の身体、エネルギーを吸収しきれずに手から杖が離れる。
そのまま一緒に落ちてしまいそうになった次の瞬間、「無茶するなって」『フローター』
「アリョーシャさん…!?」「これは…、小僧の魔法か」
何とか間に合った。
****
封印が復活して、エヴァンジェリンさんが落ちていく。
あの人は僕の生徒、だから助けなきゃと思ったら飛び出していた。
「杖よ」僕の杖を呼び出す、でも思ったより遠くに流されていた。
右手でエヴァンジェリンさんの手を、左手で杖をつかめたけど腕が引っ張られて思わず「くっ…」声が出る。
そうしたら左手がゆるんでしまった。
杖から離れていく、このまま落ちてしまうのかな、とぼんやり思っていたら
「無茶するなって」聞き覚えのある声がした。
正方形が二つ回っている魔法陣が現れて、ふわりとした感覚に包まれた。
見上げると軍服みたいなのを着た「アリョーシャさん…!?」が飛んでいた。
****
助けてもらったのとお姫様だっこが気恥ずかしいのか赤ら顔のエヴァ、始めて見る魔法に興味津々なネギ。
そんな二人をフローターを使い、橋まで持ち上げる。
茶々丸に「ありがとうございます、アンドレイさん」礼を言われたが、それほどの事はしてはいない。
あのまま落ちても衝撃が相当殺されていたので濡れる程度で済んだ事だろう、まあそれを分かっていてした自分も自分だがな。
橋の上に置いた後、ネギの勝利宣言と「一つ借り」発言、見た目相応な感じの口喧嘩、と言うかその出席簿、何処から出した。
傍目には楽しそうなお祭り騒ぎを締めにしてこの勝負は終わり、幕は引かれた。
そうして一件落着と思われたが、やはりというか何というか、各人による追及大会が開催された。
神楽坂の「アリョーシャ、アンタも魔法使いだったの!」に始まり、
カモの「なんでここがわかったんすか?アンドレイの兄貴」、
ネギの「何なんですかあの魔法は?前の魔法もそうでしたけどあんなの見たことありませんよ」と各々の質疑を浴びせかけられる。
いや、一遍に言われてもおにーさん困るんだけどな。
そこに「のぞき見の成果が出たな、小僧」とエヴァが油を注いでくれやがったからもう大変。
真名に加えてコイツら二人と一匹にもちゃんと説明するハメになっていまいました。
****
翌日、反省会という名の僕が如何にやりすぎたのか懇切丁寧な糾弾大会がされるは、
オゴると言った真名に学園都市内で一番高い店に連れて行くハメになり、エスコートの為に変身魔法使うハメにもなったし、
一番高いコースを頼まれるは、散々でした。
『それはいいですが、何でソムリエにお勧めワイン聞いて頼んでるんですか。高く付きますよ』
いいじゃん、半分ヤケ酒で半分美味しくいただく為のワインだよ。
そういう訳で財布がピンチにはなりましたが、大変美味しくいただきました。
あとがき:TVを見ている最中に電話が良くかかってきた所から着想を得て書いてみました。