管理世界のキモは次元間航行技術と転送ポートや次元転送・転移魔法などの転送技術にある。
広大な次元世界を行き来するには高い次元間航行能力が必要で、官民問わず航海士は高給取りだ。
大質量貨物や多人数の移動には次元航行船が欠かせない、本局の主任務の一つは航路の安全確保となるぐらいに。
転送技術も欠かせない、軽貨物や少数の人間の移動は転送ポートや次元転送魔法に支えられている。
重要な技術であるから、悪用や流出を防ぐ為に管理局では陸/空曹長以上にしか転移魔法を教えず、使用権限も渡さない事が内規で決まっている。
抜けやすい士クラスに教えて覚えたら即退局、と行かれない為の方策だ。
まあ、何が言いたいかと言うとだ、そんなもん教えられる訳が無い、と言う事だ。
バルタン星○こと学園長の呼び出しを喰らい「君の使う転移魔法、教えてくれんかのう?報酬は出すぞい」と言われたのだ。
それに対する返事は「関東魔法協会の理事と権限、学園長の椅子と学園の年間予算総てをくれるのならいいですよ」と答えた。
続いて「無理矢理聞き出そうとしてもいいですが、そのつもりなら殺傷・物理破壊設定状態で大暴れします、付随被害を気にもせずにね」
と悪い笑みを浮かべながら言ってやった。
止めがミーシャの『同志の魔力量から換算すると最大で10時間は暴れられますね』だ、
10時間も暴れられればどれだけの被害が出るのかを解らない人では無いからな、学園長は。
流石の○ルタン星人も唖然として口をあんぐりと開けていたな、部屋の外で待っているエヴァに見せてやりたかったぐらいだ。
無論ブラフだ、10時間と言う時間も消費量を最低にしての計算値であり、実用性皆無の計算だ。
法執行機関の構成員としてのモラルは一応守っているつもりだし、そんな悪趣味な事なんて出来るかっての。
****
とある金曜日の放課後、学園長に呼び出しを喰らう少し前、エヴァのお呼ばれで茶室にいた。
今日の朝にアーティファクトの資料が揃ったらしく、茶会と重なるのでお呼ばれに預かった次第だ。
その呼び出し方法がカード使っての念話ってのがなあ。
エヴァと茶々丸にはミッド式の念話を教えてあって、いつもはそれで遣り取りしているのにこっちの念話をわざわざ使わなくてもなあ。
端から見てるとおでこに何か当てて、はっきりした独り言を言っている可哀想な人にしか見えないのよ、カード式念話は。
耳あたりなら携帯で話しているように見えるからいいけど、おでこだからなあ…。
茶道部所有の茶室は、外国のお客様を日本らしい所でもてなしたり、日本文化を実感させる関係もあって立派な造りとなっている。
あちこちがいい色合いで、侘びた感じが出ていて良い。
余談だが、一般的なミッド人は抹茶や煎茶の味が良く分からない奴が多い。
何処の誰かとは言わないがミルクと砂糖を入れる提督で校長とかが居たりするし、それが広まっているからまあ恐ろしいこと。
お料理研究会のさっちゃんが用意してくれた茶菓子と茶々丸が点てたお茶をいただいた後、
以前より気になっていた事をさっちゃんに訊く、「親戚に同じ様な話し方する住吉って人いる?」と。
97管理外世界の地球で、協力団体の人達と会ったときの事だ、さっちゃんと同じような話し方をするあの人に出会ったのは。
あの方々は凄かった、今思い出しても凄い、
「愚民と地球に配慮した無理なき征服の第一歩"市街征服"を企む悪の組織に対抗すべく作られた、オーバーテクノロジーを多数保有する市営の組織」
なんだもんなあ。
色々調べていると「どちらの地球にもいる人」が結構いる事が解り、ひょっとしたら…、と思った次第だ。
「ええ、父方の又従兄弟です。なんで知っているんですか?」
「いや、ちょっとした事で知り合ってね、向こうは覚えていないと思うけど」
流石に「向こうの地球で知り合いました」とは言えないし、言っても信じて貰えるわけがない、そういうわけで誤魔化しておく。
しかし、父方の又従兄弟か…。微妙に近いんだか遠いんだか。
そうして、出会ったときからの疑問は見事に晴れ、すっきりした気持ちでアーティファクトの詳細を教えてもらった。
その後にタカミチのオッサンによる学園長の呼び出しを二人して喰らうのだった。
****
土曜日、今日は山中行軍の日。月に二回ほどは近くの山に入る。
訓練をしながら夕方までに宿営地まで進み、次の日の夕方に帰宅するスケジュールだ。
士官学校と陸/空士学校ではJS事件後、訓練体系に大幅な変化があった。
AMF環境下での戦闘能力の向上を達成する為に体力や脚作りを重視するようになった。
今までよりも過程が大幅に増えた、それは第97管理世界の軍の訓練体系に酷似していたのだ。
と言うか参考にした。推進派のトップは部下をスペツナズ式にビシバシ鍛えていたウチの祖父さんだ。
まあ、魔法のない世界の中でも文明レベルが高めの世界だからな。
管理外世界で同レベルの世界は幾つかあるが、悲しい事に軍事レベルが一番高いし。
その様な事があって、僕も体力と脚作りの鍛錬は欠かさないというか祖父さんと親父に習慣づけられた。
御陰なのか、士官学校入学後の通称「地獄の一学期」を平然と過ごせたのは僥倖だったが…。
ふるいに掛ける為に容赦なく行くの、同期で戦闘兵科志望の1/6ぐらいがここで辞めていったぐらい。
後で聞いた所に依ると副校長が推進派で、「これしきで辞めるような奴に犯罪者の相手が勤まるわけがない」と言い切っているとか。
装具を整え、糧食と宿営地の主へのお土産を用意する。
宿営地とそこの風呂の使用料代わりだ、甘党ですからね、あの人。
本日のお土産は神戸モ○ゾフのプリン、とある魔法処理した箱に入れてあるので何時間経っても適温で、ガラス容器も割れないのだ。
因みに創業者は亡命ロシア人、神戸あたりはそんな人が始めた店が結構多い、ゴンチャ○フも然り。
各種訓練をしながら山中を進む、途中「く、く、くま、くま―――ッ」と言う声と熊の鳴き声が聞こえてきたが…。
物好きっているんだな、こんな山中で熊に追いかけられるような奴が。
山になれている奴なら熊に追いかけられないやり方を知っているのが普通だし。
夕方、日が大分傾き茜色に染まってきた頃に宿営地に到着する。
そこに意外な人間がいた、宿営地の主の楓ちゃんは当然として、
「何でネギがいるんだ?」
「何でアリョーシャさんがここに?」
満月を過ぎたエヴァが大人しくなるのもあって、監視を外していたのだ。
そのために改造カートリッジを渡した後のネギの行動を知らない。
****
いつものように修行をしていたときでござった、何かが水に落ちた音と人の声がしたのは。
今日はアリョーシャ殿が来る日でござるが、あの御仁は夕方頃に来る上に、水に落ちるような人ではござらん。
かと言って、このような山奥まで来るような酔狂な御仁は知らぬしな、確認するでござるか。
見てみると「―――おや?誰かと思えば」ネギ坊主がいたでござるよ。
濡れていた服を干し、話をしていたでござるが、少し落ち込んでいて思い詰めている様でござった。
気分転換になればと思い「ネギ坊主、しばらく拙者と一緒に修行でもしてみるか?」と言ってみたでござる。
ネギ坊主を連れての修行、途中に熊と追いかけっこをしたり、夕飯の材料を集めたりしていると、
あっと言う間に夕方、もうそろそろアリョーシャ殿が来る時間になったでござる。
あの御仁は「使用料代わりだ」と言って、いろんなお菓子を持ってきてくれるので甘党の拙者としては有り難いナリよ。
この前は福島は柳津の栗饅頭を持ってきたでござるが、アレは中々美味でござった。
黒糖入りの皮に白餡、中は渋皮ごと甘露煮にした栗が丸ごと一つ、上のクルミが良いアクセントとなって…。
今日は何を持ってくるか楽しみでござるな。
そうしてやって来たのでござるが、ネギ坊主とアリョーシャ殿、揃って鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたでござる。
****
手土産のプリンを食べながら聞いた楓ちゃんとネギの話を総合すると、
自棄を起こして家出をした所で墜落、そこを見つけた楓ちゃんと一緒に修行していたそうだ。
途中で聞いた「く、く、くま、くま―――ッ」はネギの声で、蜂の巣を巡っての事だとか。
風呂の準備を整えた後、ネギと話をしていたが、声のトーンが低い。
何があったかは知らないが、恐らくはエヴァがらみの事で落ち込んでいるようだ。
風呂が沸くまでまだ間がある、何で家出したのか、どうしたいのかを聞いてやろうじゃないか。
それが兄貴分の仕事って奴よ。
「―――迷惑をかけたくないんです…」ネギの話はそんな一言で締められた。
聞き終わった後、拳に力を入れ「アホか」の一言と共に脳天に振り下ろす。
いい音がした。うむ、いい石頭だ。
涙目になりながら頭を押さえて「な、何するんですかぁ~」と言うネギ。
「迷惑をかけたくない」だと?キリスト教文化圏育ちはこれだから嫌なんだ、一人で何でも出来る気になってるよ。
「お前は先生だろ?生徒に迷惑をかけられているじゃないか。多少迷惑をかけても、それでお相子だ」
当たり前すぎて考えた事もなかったのか戸惑うネギ、だがそんな事知った事ではない。
控えめな正教徒であり無自覚な仏教徒でささやかな神道の支持者の意見を国教会信者(多分)に叩き付ける。
「で、でも、僕が原因ですから他の人に迷惑を掛けるわけには…」
ああ、石頭だけあって頭が固い。コイツにも色々あったのは知っているが、意固地になっているぞ、このガキんちょは。
「ガキは周りに迷惑を掛けて当然なの、自分が原因でとある人に10ヶ月も迷惑をかけ続けた奴が今更何を言ってるんだ」
「え?」
「お前の母親だよ。お腹の中で守って貰い、自分の血肉を分けて育てて貰い、産みの苦しみに耐えてこの世に出して貰った」
押し黙るネギ、コイツが3歳頃には親無し子でおじさんの家で育ったのは聴いてはいる。
だからこそ言わねばならぬ事もある、お前は一人で生まれてきたんじゃないぞって事を。
「まあ、何がいいたいかと言うとだ。子供がそんな事を気にするな、助けてくれる人がいるのなら我が儘言わずに頼れって事」
「ワガママって、僕はそんなつもりは…」
「周りに親身になってくれる人がいるのに、一人で総て解決したい。十分我が儘じゃないか」
「うう…」
「相当ひねたヤツでもない限り、人に頼りにされるのは嬉しいものだぞ。「この人は信頼出来る」と思われている証拠なんだから。お前の使い魔のカモ、あいつだってお前の事を信頼しているから日本まで来たんだろ?嬉しくなかったのか?」
「嬉しかったです…。カモ君が僕を頼りにしてくれたのは…」
ちょっと嬉しそうな顔、コイツは嫌われたくないからいい子ぶっているフシがある。
あのエロオコジョは打算で動いたのだろうが、嫌われたくないネギにとってはそれが良かったのだろう。
「それとだ、人と人の繋がりが無いと出来ない事も世の中たくさんある。言い方は悪いが、お前だって一人じゃ出来ないからな」
「え?僕が?」
「そうそう、お前は両親の共同制作品だからな」
意味合いが判ったのか、顔を赤くして「何言ってるんですかーっ」と怒るネギ、だが事実である事には違いはないぞ。
「人と人の繋がりを日本じゃ"縁"って言うんだ。お前のお姉ちゃん、タカミチや僕、神楽坂他お前の生徒達は迷惑を掛けられたからって、離れていくような"縁"なのか?」
論破され、悩むネギ、悩めよ子供。この様な事がお前を成長させるのだ。
お前と同じぐらいに、祖父さんや親父の部下や同僚達に論破されまくって同じように悩んだものだ。
あの頃は青臭い理想論ばっか言ってたなあ、そんなもんは先の方々と紛争地帯の現実に木っ端微塵に打ち砕かれたわけだが。
「まあ、悪いが今回の事については僕は助けてやれない。自分や助けてくれる人とで解決する事だな。死にそうになったら別だけど…」
協定の縛りって奴だ。あちらが違反しない限りこちらも動けないからな。
楓ちゃんの呼ぶ声が聞こえる、この悩める子供を先に入れてやろう。
「一番風呂行ってこい、そしてサッパリした頭で考えておけ」
「あ…、はい」
力なく答える、だがその表情から迷いが少し消えていた。
さて、本来は説教なんて出来ない未熟者は訓練の続きと行きますか。
お呼びが掛かったので風呂に入りに行ったら、楓ちゃんと一緒に入っていた事が判明。
畜生、先に入れるんじゃなかった。
『そんな事を言ってもしょうがないでしょう。未熟者ですね』
****
そうだ…、僕、魔法学校をいい成績で卒業して何でも一人で出来るっていい気になってたんだ…。
それなのにいざ、自分にどうしようもならない問題が起きたらアワアワあわてて逃げることばかり考えていた。
校長先生の言葉、「わずかな勇気が本当の魔法だ」って…、アスナさんにはあんなにエラそうに言っておいて自分は…。
それに、みんなに迷惑をかけたくなかったのも、迷惑をかけたら嫌われてしまうって思っていたからだ。
アスナさんだって、タカミチだって、アリョーシャさんだって迷惑をかけても僕を嫌うどころか許してくれたのに…。
****
「ありがとう、アリョーシャさん、長瀬さん。僕…、出来るだけ一人でがんばってみます。でも、どうしようもない時は頼ってみます」
翌朝、「いろいろ考えさせてくれてありがとうございました ネギ」との書き置きがあり、
杖に乗って飛び立つネギの後ろ姿が見えた。
さてと、楓ちゃんももうすぐ起きるだろうし、朝食の準備をしますか。
****
月曜日、茶々丸からエヴァが風邪を引いたと聞いて見舞いに来た。
手土産は葛湯の詰め合わせ、奈良は吉野の本葛粉を使ったヤツで風邪引きにはこれがいいのだ。
が、入って最初に見たのはえらく荒らされた家だった。次に見えたのは黙々と片づけをする茶々丸。
最後は憤懣な態度を示しつつ茶を啜る病人?兼家主、一体何があったのやら。
とうとうネギのヤツが覚悟を決めたようで、果たし状を持ってきたそうだ。
再度釘を刺しておき、片づけを手伝っているときだった。
アーティファクト「魔女の眼」の試験中に気付いた事を訊いてみたのは。
「そういえば、この学園結界張ってるんだろ?」
「ああ、高位の魔物や妖怪が動けなくする為のと侵入者を探知するヤツが張ってある」
後者は警備でお世話になっている。こちらの連中は昼間に堂々と動くのを嫌っているから余計助かる。
「うん、それ以外のもあるんだろ?電気をえらく喰うヤツが」
顔色が変わる、まったく知らないと顔が言っている。
「なんだそれは?!15年間ここにいるが、そんな結界初めて聞くぞ!?」
襟首とっ掴まれながら言われてもなあ、揺らすな、しゃべれんだろが。
それに気が付いたのは「魔女の眼」の機能確認試験中の事だった。
コイツは可視光線、赤外線、魔力濃度等々を見る機能が付いていて、戦場監視や追跡に使える便利なヤツだ。
他にも付いてはいるが、ここでは割愛させて貰う。
広域で見ていると、あちらこちらにポイントらしきモノが見えた。
気になって、調べてみると高圧線に繋がれていて『かなりの電力を消費しています』との事。
タカミチのオッサンは「うーん、悪いけど知らないなあ」で、真名は「興味ないね」、弟子二号は「知りませんね」と
他の面々には嫌われているので答えてもくれないし、ヒゲグラのオッサンは答えてくれるやもしれんが、あのマイペースっぷりは疲れるし…。
そういうわけでエヴァに聞いたんだが…、ひょっとしてヤブヘビ?
あとがき:ここ最近は本業が忙しいのもあって難産となりました。
来年も書きますので、読んで下さっている方々、よろしくお願いします。
追伸:最近A'sを見返していて思ったのですが、猫姉妹やザフィーラやアルフの使い魔や守護獣の皆さんはデバイス無しで戦闘出来てますね。