二月、一年の中でも寒い時期。
早朝、日課にしている事がある。いや、習慣になってしまったと言った方がいい。
手足に重りを付けてのランニングだ、ついでに魔力負荷設定にしてある。
そうして、毎朝走り終わる頃、よく会う子がいる。
歳は同じぐらい、腰まであるオレンジ色の髪を二本に纏めた新聞配達の女の子だ。
色は違うが、陛下と同じオッドアイなのが特徴だったりする。
なので、ちょっとした親近感を持っている。
とは言えお互い挨拶止まりであって、お互い顔は知ってはいるが名前も何処の誰かも知らない仲だ。
その日は今年一番の冷え込みで、偶然そう言う気分だったのもあり、声を掛けてみる事とした。
「おはようございます、今朝は冷えますね」
「あ、おはよーこざいまーす。確かに冷えますねー」
まあ、知らない顔じゃないんだし、警戒はさほどされてはいないと。
側にあった自販機でホットコーヒーを買う、因みに買う時はブラック無糖かU○Cのミルク入り○コーヒーのどちらかにしている。
微糖とか中途半端なのはちょっと好みに合わないの、コーヒーの味を主体に飲むか脇役にして飲むかのどっちかが好きなの。
この寒い時期だと甘いのをゆっくり飲むのもいいけど、ブラックを火傷しない様に気を付けつつ、クイッと飲むもよい。
缶コーヒーの好みはさておいて、「よかったらどうぞ」とミルク入り缶○ーヒーを放り投げてみる。
ちょっと驚いた顔をして受け取ったのを確認して、そのまま走っていく。
いい男は引き際が肝心なのだ。『それ以前に、いい男はミルク入り缶コー○ーは飲みません。何でブラックにしないんですか』
うるせい、甘いのをゆっくり啜り飲みしたい気分なんだい。
後ろから聞こえる「ありがとーごさいまーす」の声に押されて家路を急ぐ。
これが、もう一人と共に濃い付き合いの始まりとなるとは全く思っていなかった。
****
その日の放課後、弟子一号ことタカミチのオッサンに用があって女子校エリアまで足を踏み入れた。
うう、女子校ノリの空気が満ちあふれていて、居心地が悪いったらありゃしない。
管理局の陸上部隊暮らしが長いこの身にとっては、大半女のここはどうも慣れない。
あ、女性がいない訳ではないぞ。前線でバリバリやっている人も多いし、後方要員には結構多い。
ただ、体育会系ノリの人やサッパリとした性格の人が多くて、こんな女の子女の子した人達が少ないだけ。
さっさとタカミチに会って用を済まそうと思っていた矢先の事だった、「あ、あのー」と声を掛けられたのは。
ナンパか!?ナンパなのか!?
自慢ではないが、顔は整っているぞ!髪は癖のないハニーブロンドだ!前も言ったが、アッチの経験は豊富だぞ!
ただし実行に移したら陛下にスターライトブレイカーかフォトンランサー・ファランク…いや、アレはジェノサイドシフトだな、のどっちか、
若しくは両方をつるべ打ちされる事請け合いだから絶対出来ないがな!
そんなくだらない事を考えつつ、振り返ってみると其処にはどっかで前に見た顔が二つほどあった。
どっかで前に見た事がある顔なんだけどなあ…。のど元ぐらいまで出てきているがいつ見たか思い出せない所に意外な答えが返ってきた。
「「この前はありがとうごさいます!」」頭を下げながら礼を言われた。
この前で、二人の女の子…、あ、おしおきタイムの時の!
女の子二人にお礼を言われ続けているとなんか気恥ずかしい。
あのときは本当に怖かったらしく、僕の助けがありがたかった事、お礼を言いに戻った時にはいなくて困った事、
記事を見て尋ねようとしたが、中々会えなかった事とかを説明してくれた。丁度研究室に入り浸っていた頃だな…。
そんなこんなを話している内に気が付いた、まだ自己紹介していない事を。
「そういや、自己紹介がまだだったね。知っていると思うけど礼儀として、僕の名はアンドレイ・コンドラチェンコ。家族や友達からはアリョーシャって呼ばれてる」
本当はアンドリューシャになるんだが、曾祖父さんがそう呼ばれていたので名前を貰った僕もそう呼ばれている。
「あ、私は佐々木まき絵。中等部の二年です。で、こっちが同じクラスのゆーなこと、明石裕奈」
「いえいえ、こちらこそ。…ん?」
聞き慣れた苗字があって、前に聞いた事が…。
「明石さん、ひょっとしてお父さんここの職員?」
「あ、そうです。大学部で教授しています」
やはりそうだったのか。前に同じぐらいの娘さんがいるって言ってたからな。
「あのだらしない格好した明石教授?」
出会った時には服装チェックをしている。する様になってからはマシになったが、それでも目に余る時が時々ある。
そのような時は有無を言わさずに研究室に連れ込んでアイロン掛けをさせている。自分で出来ないと意味がないからな。
研究室にアイロンと台と各種道具を常備しているのよ、無論経費で買いました。
「その通りです、反論の余地もありません」
深々と頭を下げながら言っている所からすると、「アイロンもって押しかけて正解だったな。娘からも認められているとは」
それを聞いた娘さん、恥ずかしそうに顔を赤くして、
「ああっ!この前はありがとうございましたっ!ウチのおとーさんってホントにだらしなくって、あそこまでの荒療治でないと効果がないんです!」
必死の形相で泣きながらお礼を言われるのって初めてかも、娘にこれだけ言わすとはどんだけだらしないんだあのオッサン。
「ゆーな、アリョーシャさん引いてるよ…」
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怒濤の自己紹介が一頻り終わった後に、聞いてみた事がある。
確かタカミチは女子中等部の教員だったはず、なら知ってるかを聞いてみた。
担当科目を知らんからな、目安にはなるだろうと思ったが、
「ウチのクラスの前の担任です」とビンゴを引いた。
聞く所に依ると、教育実習生が変わって担任を務める事になったと。
今からその新任先生の歓迎会をする事になっていて、前任担任も呼ぶとか。
で、良かったら来ないかとお誘いしてくれている。
おお、渡りに舟って奴だ。
その新任とはエヴァが言っていたサウザンドマスターの息子の筈で、一度見てみたかった所だ。
タカミチのオッサンも来るんだから丁度いい。
返事?無論YESだ。
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遠慮されながらも買い出しとセッティングを手伝う。
にしても、2-Aは濃いクラスだ。
入った時に、知った顔がえらい多かった。
くのいちで山仲間の楓ちゃんにさんぽ部の双子、仕事仲間の真名とせっちゃん、図書館探検部(まだ仮部員扱い)のデコ娘とおっとり娘、
その友達のパル様と本屋ちゃん、本屋ちゃんとは付き合いが薄いのが悩み、可愛いのに。
そして、人の顔を見てびびっているパパラッチも同じクラス、心配するな揉まんから。
さらにはエヴァと茶々丸、超包子の面々までも…。
何て濃い面子ばっかなんだ、この面々、一癖も二癖もある奴が多いったらありゃしない。
あのバ○タン星人、「面白そうだから」で一纏めにしてるんじゃねえのか?
知り合い連中と挨拶を交わし、知り合い同士は共通の知人がいた事で盛り上がる。
そんな姦しい空気の中、ほっとけば間違いなく悪評を広めるであろう奴を押さえに行く。
「げ、私の胸を揉みにここまで来たのか!?」
「いや、其処まで暇じゃないし、揉む気はないし」
パパラッチだ。コイツを押さえておかないと平穏な日々が遠くなる。
「それに言っておく、彼女いるぞ。もしそんな事をしたらどんな目に遭わされるか…」
最強クラスの魔導師の怒りなんて買おうものなら…、ああ、恐ろしや。
「へー、アンタ彼女いるんだ。どんな子?」
その一言で、姦しい目線が一斉に集まる。おい、そのレコーダは何だ。
「まあまあ、いいじゃん。聞かせてよ彼女の話」
彼女の話?ヴィヴィオについてねえ…。
まあ、基本的に明るくて、いつも楽しそうな顔してて、乱読系の本好きで、拗ねた時の顔が可愛らしくて、なんか黒い。
そんな子で、ただいま遠距離恋愛中?ってとこか。
「へえー、いいねえ。可愛い彼女で」
パパラッチの微笑ましい視線に気が付くと、周り中から同じような視線が。口に出してたそうだ。
うう、視線に耐えられん。くすぐったくて堪らないのよ。
そんな視線を無くすべく、「怒ると凄く怖いよ?」と言ってみたが、
余計にニヤニヤされた。「おー、愛されてるねー」とかの茶化し声が飛ぶ。
頼む、この空気をどうにかしてくれ。
そんな空気を払ってくれたのは、弟子一号ことタカミチのオッサン。良くやった、師匠として褒めて使わす。
で、隣のメータークラスの巨乳さんは彼女か!?彼女なのか!?
「あれ、アンドレイ君。何でこんな所に?」
お前がなかなか顔見せないからだよ、渡そうにもこっちに来ないし。
「それは悪い事をしたね。で、これがそうなのかい?」
手渡したデバイスをじっと見て、念話を使ってある事を聞いてきた。
「名前は決まっているのかい?自分で決めろって?うん、それなら決めてあるんだ」
「どんな名前だ?応答機能はあるから呼んでみ?それで登録出来るから」
一呼吸置いて、念話でだがはっきりと、情感が籠もった声で呼んだ「ヴァンデンバーグ」と
後で聞いた所、嘗ての師匠の名前らしい。なるほど、師匠に魔法が使える事を報告した訳だな。
周りから腕時計型デバイスについて聞かれたが、「昔から探していた腕時計を持っているというので譲って貰った」としておいた。
ごつめの機械式腕時計に似せた形に作ってあるので、殆どが納得した。
関係については「親父の友人で、昔からの知り合いだ」で話を合わせてある。念話ってこう言う時便利なんだよな。
そして、主賓のお出ましだ。
エスコート役は今朝会った新聞配達員の子、彼女も同じクラスなのね。
ならば、一癖有るのか?そうは見えんが、人は見かけによらないと言うからな。
主賓の子供先生はと…、ホントに子供だなあ。弟の一人と同じ歳だが、こっちの方がしっかりしてる。
だが、あちこち年相応らしさが滲み出てる。
顔は可愛らしい感じで、女の子好みの顔と雰囲気だ。事実、周りにかわいがられている。
モテない男共には目の敵にされるタイプだな。
そんな子供先生の様子を見ていると、本屋ちゃんが近づいてきてお礼言ってる。
引っ込み思案で恥ずかしがり屋なのに珍しいな、勇気を出したか?
そんな本屋ちゃんを茶化してる皆さん、姦しいねえ。
そうしている所に金色ストレートロングの子、お嬢って感じだな。
その子が、布かぶせたなんかを引っ張ってきた。何かと見れば、
胸像?子供先生の?記念ですと本人は言ってはいるが理解に苦しむ代物だ。
流石にパパラッチ曰く「ノー天気」な連中でもツッコミを入れまくっている。
そこに「アンタバカなんじゃないの!?」と、そう思っている奴の声を代弁してくれたのは
橙ツインテールの新聞配達員。
「なっ…、アナタに言われたくないですわ、アスナさん」と、応酬が始まった。
「いやー、あの二人ってさ、好みが逆でよく喧嘩するのさ。あっちのオレンジ髪の方、神楽坂アスナは親父好きで、金髪の方がいいんちょこと雪広あやかはショタコン。で、昔っからのケンカ友達なんだよね」
機嫌がいいのかパパラッチ、色々と教えてくれる。
そうしている間にも発展していく口喧嘩、それを見ていてついつい言ってしまった。
「歳の差なんて関係ないけどなあ」ふと、横から口を出してしまった。
年齢差がどうだこうだと、不毛な感じがありありとする橙ツインテールと金色ストレートロングの二人による
口喧嘩から二人のとっつかみ合いへと進化していく様とそれを肴に賭をはじめる周りを見ていて、つい。
「僕の父と母は14歳の差がありますが、仲良くやっていますよ」
ウチの親夫婦は端から見ていても仲がよい、何せ現在進行形で家族が増えてるぐらい仲がよい。
年上の親父は年下の母の尻に敷かれてるがね。
「へえ、どんな馴れ初めなの?」
流石は女の子、自然休戦状態になって皆こっちに興味が移っている。
目が爛々と輝いて、興味津々な事が見て取れる。メモとレコーダを持ち出してくる奴までいるぐらいに、パパラッチしかいないけどな。
喧嘩を止められたので良し、として話を続ける事にした。
「母の父、母方の祖父ですね、当時の上司で父を高く買っていたそうです。何度か家に招いたそうで、その時見た父に一目惚れだったそうです。父に対して積極的に出て行きまして、めでたく結ばれて僕が生まれたと」
「積極的にねえ、どんな事したかとか聞いた事ある?」
レコーダをマイク代わりに突きつけられたので憶えてる範囲のを答える。
「一生懸命甘えてみたり、好物を聞いて手料理振る舞ったり、手製のプレゼント渡したり…」
と、一つずつ挙げていく度に「うんうん」とか「具体的には?」とかの合いの手が入ってくる。
やっぱみんな女の子なんだなあ、この手の話が大好きなのがよく分かる。
彼氏持ちは早速実践や応用するんだろな。
「後、一服盛ってみたり…」
そう言った瞬間、
空気が凍り付いた。
いや、比喩じゃなくて、みんな凍り付いた様になったのよ。
「一服…、盛った?」
しばらくして、パパラッチが絞り出す様な声が出してきた。普通の人はここで引くよな、息子でも引くぐらいなんだから。
だからといって止まるわけがない、「キノコだと名乗った以上は編み籠に入れ」と言うことわざに従い、最後まで言うのだ!
「ええ、三日間ぶっ通しの訓練の後、溜まっている時に非合法な媚薬を盛って、手を出させたとか…」
沈黙が広がる。もうかなーり痛いレベルの沈黙だ。
「あー、悪いけどさ。お母さん今いくつ?」とパパラッチ。「27歳です」
今度は"世界"が凍り付いた。
「その後は上司や同僚に氷河期クラスの冷たい目で見られる日が続いたそうです。母が「私が一服盛ったの!」と言うまでは…」
話はそこで終わり。大半は重い沈黙と共に散っていったが、約3名ほどブツブツと呟きつつ去っていった。
ちなみに橙ツインテールと金色ストレートロングと「ネタに…」とか呟いてるパル様の3人だったりするんだが、
後でどうなったかは知らんし、(怖いので)知りたくも無し。
ついでだから弟子一号のデバイスに対BC戦用プログラミングを入れて置いた。盛られるなよ?
****
あれだけ強烈に水を差したというのに、流石はノー天気。すぐに元の姦しい雰囲気となった。
弟子一号に巨乳の人、しずなさんの関係を問いただしていると、近くにいた子供先生に声を掛けている。
ちっ、話を逸らされたか。
「ネギ君、紹介するよ。僕の先生である、アンドレイ・コンドラチェンコ君」
「タカミチの先生?初めまして、ネギ・スプリングフィールドです…」
これが、僕とネギのつきあい始めとなった。
もう一人と愉快な仲間達とのえらく濃い日々が始まるんだが、それはまた後の話し。
あとがき:ネギとの出会い前後と一部伏線の処理をしました。
因みに母親は直接的には恐ろしくありませんが、作中通りの恐ろしい人です。