新暦84年12月
ミッドチルダ東部 時空管理局統合士官学校第一演習場
・時空管理局統合士官学校
JS事件以前のセクショナリズムを打破すべく一元的に士官教育を行い、各部署の一体化を強めるべく創設された学校。
3年間の合同教育(一部、武官・文官別課程あり)後、陸上/航空/航行士官学校にて1年間の専門教育を行う。
演習開始まで後1時間、半年に一度行われる全校生徒参加の大演習。
戦闘兵科の生徒は相棒のデバイスのチェックやウォーミングアップを行いつつ、後方兵科の生徒は機材のチェックや情報の再確認、
指揮官役や各種幕僚役の生徒は作戦の打ち合わせなどをしつつも、私語が飛び交っていた。
大演習は各学期の締めに行われるために、これが終われば長期休暇に入る。
その為に皆、この後をどう過ごすかを話題として賑わっていた。
その中の一人に僕、二年次士官候補生アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコも混じっていた。
「アンドレイは冬期休暇どうすんだ?ミッドか?」
同期生の一人が尋ねてくる。こいつはミッドチルダの実家に帰るらしい。
「実家で過ごすか、地球のどっちかだな」
生まれはミッドチルダだが、祖父さんが地球生まれ。その関係で地球にはよく行く、小さい頃は住んでいたぐらいだ。
「お前の祖父さんの少将閣下や二等陸佐の親父さんは帰ってくるのか?」
「あー、二人ともワーカホリックだかんな、任地で過ごすって。お袋と祖母さんも向こうに行こうかなとか言ってたし、地球にするか」
祖父さんは少将で、ちょっと前まで紛争してた第34管理世界の停戦監視部隊の総司令官、親父は麾下の部隊ごと其所に派遣中。
実は、そこ第34管理世界で派遣部隊所属の嘱託魔導師として仕事してたので馴染みの世界だ。
中国っぽい世界なんだな、仙人とか居てたし。
「地球ならロシア?それとも日本?」
同期生で友人の一人、陛下こと高町=スクライア・ヴィヴィオが返してくる。
陛下は母上の高町三等空佐の御実家「高町家」で過ごす予定らしい。
一年次の夏期休暇の時には班員皆で押し寄せて、お世話になった。
祖父さんの士郎さんに目を付けられて手合わせを強いられたが難点だったが。
あれはキツかった。それを偶々見た伯父さんの恭也さんと従姉妹の雫ちゃん相手の手合わせもする羽目になったのは…。
出来れば思い出したくありません、祖父さんから仕込まれた格闘戦技と銃剣術と自分の技量を恨みたくなったほどでした。
「どっちにするかねえ、日本なら嘉手納の藤堂さん家にするか…」
藤堂さんはかなり遠い親戚だ、直接のつながりはない。祖父さんが会いに行って初めて親戚付き合いする様になったぐらいだ。
しかし、お互い軍人家系の常で親戚が殆ど居ない。
ここ100年は互いに戦争続きで、互いの国が戦い合ったりもしているので更に少ない、その為に付き合いが深くなっている。
何せ、小学三年生まで近所に住んでてよく遊びに行ってたからな、余計に付き合いが深くなるよ。
ロシアにも親戚はいるが、曾々祖父さんの頃の親族で、生まれてから数えるぐらいしか会ってはいない。
偶には会わないとな…。
そんな取り留めの無い事を考えていると陛下が尋ねてくる。
「ねえ、アリョーシャ君も一緒に来ない?」と、指をモジモジさせて。
去年の夏みたいにみんなで?違うって…?
「……て、あのー、ワタクシだけにお誘いですか?」
頬を赤くしてコクンと頷いてくれたりして下さっていますよ、陛下が。
いや、そりゃあ嬉しいですよ?仲も悪くないし、一緒にいても楽しいし、ちょっと気にもなってるし…。
でも、何で、僕?Why?どうして?何故に?
そんなこんなで大絶賛混乱中の頭に陛下は直々に止めの一言を叩き付けてくれました。
「沖縄に行くのなら…、私もついて行ってもいいかな…なんてね」
顔を真っ赤にして俯き気味に言ってくれたりしています。爆弾発言を。
それを聞いた周りの連中と来たら、ニヤニヤとしながら、
「おーおー、熱いねえ。式はいつ頃?」「冬だけど陛下に春が!?」「陛下ご乱心ー、ご乱心ー」
茶化すのに夢中でした。
茶化すなあ!!只でさえ恥ずかしいのに更に煽るなあ!!
と、こちらも顔を真っ赤にしてしまう。
「えっと、それでね、どうなのかな。迷惑なのかなぁ…」
そんな事を気になっている女の子に言われて断れる男がいますか?しかも耳まで真っ赤にして。
いたのなら出てこい、半殺しにして回復魔法掛けて又半殺しにしてやる。
『で、結論は?どうなのですか?同志!ご決断を!』相棒のインテリジェントデバイス「ミーシャ」も茶化してくる。
ブルータス、お前もか。
「無論YESです、ハイ。と言う訳で了承するです」
ちょっと混乱しながらも答えてしまった。
それを聞いた周りの連中が拍手を送ってくれている。コイツらはコイツらなりに祝福してくれているのがよく分かる。
そんな祝福が嬉しいやらくすぐったいやらで二人共々真っ赤になってしまっている。
中には呪詛や殺気を送ってる奴もいるが精神衛生上悪いので無視しよう。うん、それがいい。
そんな事をしている内に開始10分前になり、皆、スイッチの切替をする。管理局というシステムの一部としての。
でも、その前に手を握ってみる。温かい手がしっかりと握り返してくれる。
それだけで安心出来た。
****
想定は簡単だ。とあるビルが赤軍が演じる大規模犯罪組織のアジトであり、青軍が演じる管理局が強襲。
青軍は赤軍の幹部役を逮捕、その後無事帰還すれば勝利。
赤軍は青軍を撤退させるか、幹部役を逃がせれば勝利。
青軍側は航空魔導師とヘリが付き、赤軍は質量兵器の使用と多数の構成員役の生徒、一年が大半だ、が付く。
ただし、我らが青軍は"政治的要因"とやらで航空支援は控えめになってしまっている。
その代わりとかでAMFジェネレータ装備のヘリが付く設定だ。
後々思えばこの"代わり"の御陰で苦戦する事となってしまうのだ。
青軍の作戦はこうだ。
まず、降下可能な人員がヘリで降下、A・B、2チームに分かれる。
突入時にAMFジェネレータを使い、敵魔導師を無力化し、Aチームが突入してアジトを制圧、幹部の確保。
敵幹部の確認と逮捕。その間、Bチームが周辺の安全確保。
Aチームはヘリで回収され、一足先に撤退
その後Bチームは地上からの脱出部隊と合流。
その間航空魔導師達が航空支援と監視を行い、赤軍部隊の動きを封じ
る。
合流を確認後、ヘリと脱出部隊を支援しつつ撤退。
計画書では問題ない作戦だった。イレギュラーが起こるまでは。
状況が開始され、早速イレギュラーが発生した。
Bチームに所属していた一年が降下に失敗。
原因はAMFの早発、一年の降下が遅れ、着地したのを確かめずに起動させてしまった。
その一年は治療が必要と想定されてしまい、コレで治療要員と護衛が取られてしまい、即興の配置見直しを行いタイムロス。
僕と陛下属するAチームは幹部の確保には成功。しかし、抵抗の激しさの為タイムロス。
そして、それは起こった。
AMFジェネレータ装備のヘリが質量兵器によって撃墜判定を受けた、AMFジェネレータが作動したままというオマケ付きで。
救出に向かったBチームは高AMF環境での対質量兵器戦を強いられ、完全に足止めされる事となった。
航空魔導師達には損害を少なくするためとはいえ、一時離脱を指示されてしまった。
Aチームの回収用ヘリも一時離脱する際に攻撃を受けて撃墜判定。脱出
部隊も多数のバリケードで大幅に遅れる模様。
結果、我々は敵中孤立という最悪の状況下におかれた。
のだが、そこで状況一時中断の指令が出た。統裁官を務める校長からだ。
何でもミッドチルダ近域で小規模だが、次元震が発生したとの事。
その影響の確認が済み次第再会するそうだ。
「総員待機、小休止だと思っておけ」
分隊長役の上級生から指示が出る。
皆、緊張が緩んでしまった様だ。周りの連中と小声で話をしている。
陛下が少し残念そうに「これからって所だったのに」と言っている。
まったく、可愛いのに物騒なお人だ。そんなのに惚れた自分も自分だけどな。
その時、大事な事を忘れていた。
戦争映画とかで出撃前に恋人が出来たりした奴には大抵フラグ、それも縁起でもないフラグが立つって事を。
弱い揺れが来た次の瞬間だった。
足下に"穴"が空いた。
反応する間もなく、落ちていきました。それはもうスッポリと。
最後に見たのはこちらに手を伸ばして僕の名前を叫んでいるヴィヴィオの顔でした。
ちょっと涙を浮かべていたな…、ごめん。
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報告書(一部抜粋)
今回発生した事件の被害者は以下の通り
ID:X-X-XX-XXXXXXXX
アンドレイ・セルゲビッチ・コンドラチェンコ
以上の者をMIA認定とする
捕捉
なお、今事件で発生した次元穴は発生直後に未封処理を行い、保持中である為に早急な調査を要請する
統合士官学校校長 リンディ・ハラオウン提督