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No.4690の一覧
[0] ドラゴンクエストV 天空の俺[例の人](2009/12/04 20:17)
[1] 第1話[例の人](2008/11/05 20:00)
[2] 第2話[例の人](2008/11/05 20:01)
[3] 第3話[例の人](2008/11/06 03:31)
[4] 第4話[例の人](2008/11/07 04:54)
[5] 第5話[例の人](2008/11/16 21:20)
[6] 第6話[例の人](2008/11/16 21:23)
[7] 第7話[例の人](2008/11/16 21:25)
[8] 第8話[例の人](2008/11/15 23:18)
[9] 第9話[例の人](2008/11/16 21:27)
[10] 第10話[例の人](2008/11/16 22:20)
[11] 第11話[例の人](2009/12/04 18:39)
[12] 第12話[例の人](2008/11/23 01:59)
[13] 第13話[例の人](2009/03/07 01:59)
[14] 第14話[例の人](2009/05/07 03:02)
[15] 第15話[例の人](2009/05/12 20:56)
[16] 第16話[例の人](2009/05/12 20:54)
[17] 第17話[例の人](2009/05/14 23:46)
[18] 第18話[例の人](2009/05/18 06:44)
[19] 第19話[例の人](2009/12/04 22:14)
[20] 第20話[例の人](2009/12/04 22:15)
[21] 第21話[例の人](2009/12/13 00:59)
[22] 第22話[例の人](2009/12/28 00:02)
[23] 第23話[例の人](2013/06/17 23:01)
[24] 生存報告[例の人](2013/12/05 00:40)
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[4690] 第9話
Name: 例の人◆9059b7ef ID:6d7552d7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/16 21:27
 そういえば、俺はどうやってアルカパの町まで戻ったんだろう。リュカとビアンカが背負ったのか? 

 いや、違うな。おぼろげながら、混濁した意識の中で空を飛んでいたようなような記憶が残っている。あれはきっと、キメラの翼で飛んでいたのだろう。夢かと思っていたが、夢にしては体が覚えている浮遊感がリアルすぎる。

 どうやら俺はレヌール城からは、リュカかビアンカのどちらか持っていたキメラの翼のおかげで帰ってこられたようだ。意識がしっかりあれば、生身で空を飛ぶという貴重な体験を堪能できたのになぁ。残念。

 体の傷はパパスのホイミで回復してもらったが、風邪はそうもいかない。治りかけの体で無理をしたおかげで、また少し熱が出てきた。一応薬を貰って飲んだが、パパスから今日一日は部屋での療養を言い渡されてしまった。サンタローズ村に戻るのは明日以降になるだろう。

 ちなみに、パパスは風邪からの完全復帰を果たしたようだ。俺にしがみついて泣き喚くリュカとビアンカを宥めながら、安静にしている俺の邪魔にならないようにと部屋の外へ連れて行ってしまった。今頃二人は、パパスからきつく説教されているに違いない。

 自分以外誰もいなくなった部屋で、俺はぼんやりと天井を眺めた。思えば、こうやって一人の時間というものは久しぶりな気がする。今は昼過ぎみたいだし、夕食まで時間もある。ちょうどいい。この際だから色々と考えてみるとしよう。

 ベッドにごろんと横になって寝返りを打ちながら、まずはレヌール城の一件から思い返してみた。

「俺らしくないなぁ」

 その一言に尽きる。俺はもう少し、ドライというか分別はそれなりにある人間だと自称していたはずである。敵にやられても自業自得だから死んでもいいとか、あの時は何を考えてたんだ俺は。死んでいいわけないだろうに。

 敵に突撃して、最後は大絶叫。俺はこんなに熱血成分のある性格だったか? ヒーローへの憧れというものは、妄想の中だけでそれなりに満足していたはずだ。現実の俺は破滅型の英雄願望も自己犠牲の精神も持ってないし、我が身が一番の大人な性格だった……と思う。

 確かにノリで行動することもあるが、それでもいざとなれば大人としての非情な判断ができる。そのはずだったのに……。

 目に浮かぶのは、魔物の前で倒れているリュカと、泣いているビアンカの姿。

 二人を見た瞬間「俺がなんとかしなければ」と思ってしまった。

 その結果がこれである。レベル1で中身は一般人という己を省みず、不意打ちを敢行して失敗。にもかかわらず、その場から逃走せずに魔物に立ち向い、挙句に死にかけて気絶。現在はベッドで療養中。

「はぁ……」

 溜息が出てくる。

 この世界にやってきて、そろそろ一週間。いきなりスライムに追いかけられたり、その後も魔物と交戦したり。元の世界では経験のなかった「死の危険」というものを何度か味わったが、それでもどこか自分自身を遠いところから達観して見ていた気がする。頭のどこかで「これは夢なんじゃないか」と、否定していた部分があったのが事実だ。自分という名のキャラクターをテレビのモニター越しに見ているような、そんな俯瞰した感覚。だから原作知識があっても、あえて特に際立った行動もせず、基本的に流されるままだった。

 まぁ、将来の嫁としてフローラとのフラグを立てるべく、リュカとビアンカを仲良くさせようと画策くらいはしたが、その考えも、半分恋愛ゲームでも遊んでいるような感覚だった。

 とにかく、現実感が希薄だったのだ。しかし、さすがに今回のように本当に死にかけたらそうも言っていられない。あの痛みと恐怖は、紛れもない「現実」だ。レヌール城へ行く前に見た変な夢のおかげで内心では薄々気付いていたが、あえて自分をごまかしていた気がする。

 目の前の出来事を現実だと思いたい自分と、それを認めたくない自分との二律背反。複雑な感情が心の中でせめぎ合う。難儀なものだ。

 ベッドに仰向けになったまま、右腕を伸ばして手の平を見つめてみる。未だに違和感を感じる小さな手が、俺の目に映った。

「子供の体、か」

 ぽつりと呟いて思う。もしかして、俺はこの体に精神が引きずられているんじゃないだろうか。基本的に精神とは肉体と共に成長していくものだ。つまり、精神は肉体に依存する。いくら俺の中身が二十八歳の大人だとしても、体が子供では精神構造に影響が出ていてもおかしくはない。

 あの時の俺は目の前の出来事に、心でなく体が勝手に反応したのでないのか。まさに若さ故の過ち。

 おいおい、口ではなんと言おうが体は正直だな。

 む? この言い方は語弊があるな。いやーんな感じだ。……何考えてんだ、俺。

「そろそろ身の振り方を決めんといかんなぁ……」

 成り行きでリュカやパパスと暮らすことになったが、あっさり受け入れたのは自分なりに打算もあったからだ。

 見知らぬ土地で一人で生きていくというのは、あまり現実的な選択肢ではない。中身が大人でも、体は子供。生活の役に立つような特殊技能があるわけでもないし、誰かを頼ろうにも身寄りすらいない世界だ。外には魔物がウロウロしているし、子供一人で過ごせば死の危険もある。これではろくに生活ができない。教会辺りに駆け込めば孤児として保護してくれたかもしれないが、それでも完全に安全とはいえない。

 そう──ドラクエⅤの世界では、子供の誘拐がそこら中で多発しているからだ。本来は「高貴な身分の者から勇者が誕生する」という予言を恐れた魔王ミルドラースが、その対策として部下であるゲマに命じて行っているものだ。だが、末端の魔物達はほとんど関係なしに片っ端から子供を拉致している様子。基本的には金持ちを中心に狙っているようだが、俺が聞いた限りでは、中には明らかに一般家庭の子供まで誘拐されている。サンタローズの村や、アルカパの町でもその噂はちらほらと耳に入ってきたほどである。

 もし、俺がパパスの申し出を断って主人公サイドと関わりにならずに過ごしていたとしよう。その場合、万が一にでも俺が魔物によって誘拐された場合はどうなるのか。

 光の教団によって、大神殿建立のために奴隷として働くのは確定だな。リュカやヘンリーと親しくないので、脱出時にも誘われない。つまり死亡フラグ。

 いや、待てよ。誘拐されてから、奴隷仲間として仲良くなれば……無理だな。偶然出会って仲良くなれればいいが、それは理想論にすぎない。そもそも奴隷といっても、その数はどれだけいるのかすら不明だ。大神殿の規模も同じく不明。まぁ、「大」神殿ってくらいだから規模もでかいんだろう。下手すれば全くリュカやヘンリーと出会わないまま働くことになるかもしれない。

 結果、俺は死ぬまで楽しい奴隷生活。いつか屍になった俺を、冒険者の誰かが見つけてくれることだろう。

「それは嫌すぎる」

 奴隷ライフなんて満喫できねーよ。何が悲しくてタコ部屋みたいな場所で生涯タダ働きせねばならんのだ。奴隷になればペリカでも支給されて、貯まれば自由になれるのか? それとも、いつか誰かが助けてくれる可能性に賭けるのか?

 否……それは否……! そういう思考こそが、俺にとっては最大の敵……! 一度深く嵌まった足は、そうは容易く抜けない……! まさに泥沼、嵌まっている………! すでに……泥中、首まで………! せせら嗤われる…………! ギャンブルという魔性にッ…………!

「いや、ギャンブルは関係ないけどね」

 うん。人生はギャンブルだとも言えなくはないが、そういう話をしているのではない。

 閑話休題。話が飛躍してしまったから戻そう。

 えーと、なんだっけ? 確か……今後の俺の身の振り方についてだったな。これで自分が大人の体なら、適当に職でも探して平和に暮らしていたんだろうが、子供のままだと働くこともままならないからなぁ。

 やはり今後の第一の目的は、自分が死なないようにすることだな。奴隷生活の末に死亡という最悪の未来だけは、なんとしてでも回避したい。死亡フラグに満ち溢れたこの世界で、なんとか生を求めて足掻いてみよう。

 第二の目的は、幸せになること、かな。この世界から現実に戻れるとは限らないから、ここでの幸福を追求する方針で。それも、どうせならみんな幸せになるハッピーエンドが理想だ。自分一人の保身のためだけに周りを見捨てるようなやり方は、さすがに人としてどうかと思うので、パパスの生存ルートも含めて色々と模索してみようと思う。

 でも、できれば魔王退治とかは遠慮したいなぁ。というか、ぶっちゃけると簡便してほしい。俺は村人Aのまま、それなりに幸福に過ごせれば満足である。元の世界でだって、のんびりとその日暮らしをしていても不満はなかったからな。人間、平凡が一番さ。

 この世界に俺が呼ばれた意味とか役割とか、そんなもんは知らん。むしろ、知っているなら誰か教えてくれ。調子に乗って「俺は選ばれた人間だ! 俺がこの世界を救うのだ!」などと、ハッスルするつもりは全然ない。骨の芯まで一般人根性が染み付いている俺である。どうせ頑張っても、主役にはなれないのは目に見えている。変に色気を出しても魔物に殺されるだけだ。現実はいつだって非情なのだ。魔王退治や世界平和への貢献は、いずれリュカのような主役級の人達に任せればいい。

 俺は俺で、自分なりに頑張って小さな幸せを細々と追求してみるだけさ。できれば安定した将来のためにフローラを嫁にしたいが、これくらいの目標は構わないだろう。脇役は脇役なりの幸福を求めるのが、分相応というもの。

 とにかく、目的達成のためには、俺の唯一の武器である原作知識の活用が必須だ。この知識という名の鍵をどう生かすかが、今後の課題と言えよう。

 だが……あまり長くは考えている時間がない。サンタローズの村に戻れば、今度は妖精の村関連のイベントが始まるはず。それが終われば、すぐにラインハット行きだ。

 ヘンリーが城から誘拐され、パパスが一人で追いかけていってしまえばそこで終わり。どれだけ説得しようがリュカもパパスを追うだろうし、俺も一緒に行くことになるはず。で、結局は原作の流れ通りにパパスは死亡して、俺はリュカやヘンリーと一緒に仲良く奴隷に……。

「どうしたもんかな……」

 ラインハットに同行しなければ俺だけは助かるけど、それは嫌だ。リュカとパパスを見殺しに、身の安全だけを考えてサンチョと一緒にグランバニアに行くのは罪悪感がある。

 なら、サンタローズ村にいる間に、パパスに直接「俺は未来の知識があるんだ」とでも言うか?

 却下だ。現に、原作では未来から来た大人リュカに同じことを言われたパパスは「予言は信じない」とほとんど相手にしなかった。大人相手ですらそれだ。子供の俺が言っても、同じく相手にはされないだろう。

 ならサンチョに言えば……やっぱりどうにもならないだろうなぁ。冗談はやめてくださいよユート坊ちゃん、とか言われそうだ。

 とりあえずは、ラインハットでヘンリーが誘拐されるのを防止してみるか。現場で誘拐さえされなければ、あとはパパス頼みの力技でなんとかなるだろう。

 うん、そうしよう。とりあえず方向性は決まった。細かいことは、追々考えていこう。とにかく今後も、ラインハットに行くまではあまり原作を逸脱した行動はしないように自粛だな。原作を変に改変してしまうと、物語が根底から破綻してしまう恐れがある。俺の唯一の武器である原作知識と大幅に違ったことが起きた場合、俺には手の打ちようがない。

 そういや、妖精の国には俺も行くことになるんだろうか?

 ……なるんだろうなぁ。面倒だが、俺が傍にいないとまたリュカが暴走してしまうような気がする。お目付け役として行くしかない、か。今度はせいぜい、死にかけないように注意するとしよう。痛いのも気絶するのも、もうご免だ。

 サンタローズ村に戻ったら、パパスに剣でも習ってみるのもいいかもしれないな。付け焼刃でも、ないよりはマシというものだ。

 今は、考えるのはこんなものでいいか。それに、色々考えてたら眠くなってきた。飲んだ薬に、眠気を促す作用でも入っていたのかもしれない。続きはまた明日。

 俺は瞼を閉じると、迫り来る眠気に抗うことなく身を委ねた。





 翌日。

 一晩寝たら風邪はすっかり完治していた。

 いやー、若いっていいですね。元の大人な体の時は運動不足でろくに鍛えてなかったし、風邪ひくと長引いてたからなぁ。子供というのも、こういう時だけはいいもんだ。

 俺の風邪のためだけに、昨日はアルカパの宿に余計に滞在していた。治った以上、もうこの町にいる必要はない。ついにサンタローズの村へと戻る時がやってきた。

「これから村に戻るが、町の人達に挨拶はすませたか?」

 宿の部屋で帰る準備をしていた俺とリュカに、パパスが声をかけてきた。

「あ。そういえば、ビアンカにまだあいさつしてないや。それに、猫さんのこともわすれてた……」
「猫? よく分からんが、とにかく父さんはまだここにいるから、ユートと二人で挨拶に行ってきなさい」
「うん、わかった!」
「分かりました。リュカと挨拶に行ってきます」

 部屋を出ると、廊下にはビアンカの姿があった。どうやら部屋の前で俺達を待っていたらしかった。

「ユート、リュカ、待ってたわよ! あなたたちが帰る前に、猫さんをむかえにいきましょう!」

 ビアンカは早口で捲くし立てると、俺とリュカの手を引いて廊下を走り出した。

「ビアンカ、どうしたの?」
「お、おいビアンカ? そんなに急がなくても……」
「いいから早く行くの!」

 釈然としなかったが逆らわずについていく。そのまま階段を降り、宿を出ると悪ガキ二人のところへ一直線。

「さぁ、約束よ! この猫さんをもらっていってもいいわね?」
「おい、どうする?」
「しかたないか……。よし! 約束したし、お前らもがんばったからな! この猫はあげるよ」

 少しは揉めるかと思ったが、悪ガキ達はあっさりとベビーパンサーを手放した。

「しかし本当にお化けを退治してくるとは思わなかったよ……」
「お前ら、けっこう勇気あるよな!」

 実は俺は、ギラ一発で死にかけて気絶してたんだけどな。本当にすごいのは、俺が気絶した後でしっかり復活して魔物を倒したリュカだけだ。俺ははっきりいって、ほとんど何もしていない。気絶してたおかげで、レベルも未だ1のままだ。いつになったらレベルが上がるのだろうか、俺。

「そうだわ! この猫さんに、名前をつけてあげなきゃ!」

 俺がちょっぴり沈んでいると、ビアンカがそんなことを言い出した。

 ベビーパンサーは俺達が助けてやったことを理解しているようで、ビアンカの足元で盛んに尻尾を振っている。……結構かわいいかもしれない。

「ボロンゴ……チロル……。ううん、プックルがいいかしら? アンドレにリンクスにモモ……。ビビンバ……ギコギコ……。ソロっていうのもいいわね。うーん、色々まよって考えがまとまらないわ。ねぇ、どう思う? なんなら、リュカが決めていいわよ」
「僕が? うーん、名前かぁ……。むずかしいなぁ。ユートはどんなのがいい?」
「んあ? 名前?」

 別になんでもいいんじゃね?
 
 というセリフが口から出かかったが、リュカとビアンカが真面目な顔で俺を見ていたのでやめておいた。

「リュカが決めるんじゃないのか?」
「僕は、ユートにかんがえてほしいな。ね、ビアンカ。いいでしょ?」
「リュカがそう言うんなら、わたしは構わないわ」
「……え? 俺が決めるの?」

 どうしよう。急に言われても困る。しかも、今すぐ決めないといけない状況だ。迷っている暇はない。俺の口からとっさに出たのは、

「ゲレゲレ……?」

 こうして、ベビーパンサーの名前はゲレゲレに決定された。

 二人は少し不満そうな顔だったが、そんなもん知らん。俺はゲレゲレがいいんだ。文句言うな。ゲレゲレかわいいよゲレゲレ。

「ゲレゲレは俺とリュカが連れて行くってことでいいのか?」
「うん。うちでは、ゲレゲレちゃんを飼えないの……。だから、わたしの代わりにかわいがってあげてね」
「もちろんだよ!」
「ああ、分かってる」

 リュカと俺の返事に、ビアンカが嬉しそうに微笑んだ。見惚れてしまうような、そんな笑顔だった。

「さて。俺とリュカはそろそろ行かないと。パパスさんを待たせてるしな」
「ビアンカ、また会おうね」
「うん……」

 小さな声で返し、ビアンカが下を向く。しばらく、そのまま黙って三人で歩いた。途中、ビアンカの方を見てみたが、その表情は俯いていたためによく分からなかった。もしかすると、泣き顔を見せたくなかったのかもしれない。

 宿の前に着くと、パパスが俺達を待っていた。

「うむ、戻ったようだな。では行くとしよう! ダンカンよ、世話になったな!」

 ビアンカとも別れて宿の人達に別れを告げ、俺達はパパスを先頭に町の入り口へと向かう。一度だけパパスが立ち止まって、リュカへと話しかけた。

「ところで、リュカ。お化け退治のこと、この父も感心したぞ。しかし、お前はまだ子供だ。ユートに迷惑もかけたようだしな。今後は、あまり無理をするでないぞ」
「はい……」

優しくも厳しい叱責に、リュカはしゅんとなりながらも素直に反省している様子だった。

「うむ……。では、行くとしよう」

 再びパパスが歩き出し、やがて町の入り口へと到着した。見張りの兵士に簡単な挨拶を交わし、町の外へ出ようとしたその時。

「ユート! リュカ! ちょっと待って!」

 背後から、呼び止める声があった。振り返ると、ビアンカが息を切らしながら走ってきていた。

「ビアンカ? どうしたんだ?」
「何かあったのかな?」

 もしかして……。いや、間違いない。恐らくはアレのことだろう。ゲレゲレと別れることになった時のための、アレ。

「しばらく会えないかもしれないから、これをあげる……」

 息が落ち着くと、ビアンカはそう言って一本のリボンを差し出してきた。

「そうだわ! ゲレゲレちゃんにつけてあげるね」

 ゲレゲレの首に、スカーフのようにリボンを巻いてあげるビアンカ。少しだけ、その手は震えていた。きっと、寂しさを必死で我慢しているのだろう。ゲレゲレは、ただ嬉しそうに目を細めて尻尾を振っていた。

「またいつかいっしょに冒険しましょうね! ぜったいよ! だから元気でね、ユート、リュカ……」
「分かってる。ま、俺はいつでも元気だから問題ないって」
「約束だよビアンカ! また僕たちと冒険しようね!」
「うん……。ねぇ、ユート……」
「ん? どうした?」
「あの……」

 言いかけて、口をつぐんだ。

「ううん。やっぱり、なんでもないわ……」

 ビアンカが首を横に振る。一体、何を言いたかったのだろうか。

「じゃあ、またね。ユート、リュカ」
「ああ、またな」
「またね、ビアンカ。またぜったい会おうね」

 いつまでも手を振り続けるビアンカを背に、俺達はアルカパの町を出てサンタローズ村へと戻った。

 かくして、長いようで短かったアルカパの日々は終わりを告げたのだった。


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