古井戸を降りると、そこは音楽と光の溢れる遊戯施設だった。
「……ジパングの地下に、いつの間にこんなものが」
華やかな絨毯に装飾、シャンデリアなどが天井で煌めいている。音楽は軽快に流れ、人々は嬉々として壇上を眺めていた。
壇上は迷路のようになっており、人が巨大なサイコロを転がして出た目の数だけ進む。
これは、まさかあれか?
「そうじゃ、あれじゃ」
卑弥呼は頷き、
「スゴロクじゃ」
それをあっさり肯定した。
村人らしき男がマス目を進んでいく。
部屋の広さは、ゆうに100メートル四方はあろうか。
人口密度は高くはないが、それでも二桁は人間がいるのが見て取れる。
「まさか、夜な夜なここに遊びに来る奴らの噂が独り歩きして八岐大蛇と繋がりました、なんて言うんじゃないだろうな」
「恐らくはそうじゃろう。噂に関しては先ほど初めて聞いたが、ここに内密に訪れる双六中毒者は多い」
……病んでるな、この国。
「でもなぜこのような娯楽施設を?税の還元というには偏ってますし」
アルの言葉は尤もだ。これでは井戸の底に気付いた一部の人間が楽しむだけである。
「現実はもっとひどいぞ。これは、ある一人が暇と付き合う為だけに作られた空間じゃからな」
ある一人?
「うむ。……ほれ、あそこにいるじゃろう」
卑弥呼が目を向けた先にいたのは、十二単衣を着込み壇上に熱い視線を注ぐ女だった。
歳は二十歳くらいか。気配からして100%の割合で人間である。
容姿はそれなりに整っている。おそらくは高貴な者なのだろう。あまり大物という気もしないが。
「どなたなのですか?」
スイが代表する形で尋ねた。
「卑弥呼じゃ」
は?
「わしが入れ替わる前にこの国を統治しておった、本物の卑弥呼じゃ」
……オリジナルがいたのか。
「えっと……でも、卑弥呼さんも卑弥呼なのですよね?」
そうだ。こいつは180年前に会った時から卑弥呼という名だった。この国限定の偽名などではない。
「偶然の一致じゃ。……むしろこの名前だけが理由で、わしはジパングの管理を申し付けられたのじゃ」
「そんな理由で、か?」
「そんな理由で、じゃ。まったく、外見年齢もなにもかも違うわしが選ばれたせいで、潜入はかなり大変じゃった」
しみじみと目を閉じ頷いて、彼女は語り出しやがった。
「まず本人に接近するのに現地の文化に関する情報を徹底的に収集。それから変装して社に潜入しこの国の卑弥呼に接触。なんとか傀儡にしてここに移し、人間の卑弥呼の知人全てに暗示をかける。更にあの卑弥呼に関する個人情報を書き換えて……」
「もういい。興味ない、そんなことは」
俺が制止すると、卑弥呼は俺をジト目で見据えて来た。
「ちなみに、わしをここに寄こしたのはお主の親父殿じゃ」
「すまん。幾らでも話には付き合おう」
なぜ俺が親父の失態を帳尻合わせをせねばならない。
世襲制を敷く魔族界の問題点について考えを巡らせていると、卑弥呼(人間の方である)がこちらに気付いた。
「おお、大蛇ではないか」
随分フレンドリーである。これで幽閉されているといえるのか。
「先程も参られたが、まだなにかあったのかえ?」
どうやら夕食時に不在だったのはここの管理業務だったらしい。
「いや。紹介しよう、こちらはオルテガの子、勇者アルス。この男はわしの古い知人のロビンじゃ。それと……む、あの賢者の童女はどこへ行きおった?」
スイが気付かぬ間にいなくなっていた。
どうして迷子になる時は完全な隠密行動となるのか疑問だ。俺やアルすら気取れないとは。
「まあ、良かろう」
彼女に関してはスルーが決定された。
「とにかく、久しくこの国に参られた客人じゃ」
「うむ……オルテガ殿の。確かに面影があるのぅ」
頷きつつアルスの顔を確認する卑弥呼(人間)。
いや、面影ないから。あんなオッサンとこの可憐な女性の、どこに共通点を見出せる?
「初めまして。アルスと申します。あの、貴女が本物の卑弥呼様なのですか?」
「待て。その言い方はあんまりじゃ。魔族のわしとて、生まれた時から卑弥呼なのじゃぞ」
「あ、ごめんなさい。そういう意味ではなかったの」
平和だな、世界って。
「そうじゃ。この卑弥呼が来て以来、我はこの地下で酒と肴と娯楽の毎日じゃ」
駄目人間である。
「その、辛くはないのですか?」
訊き辛そうにしながらも最重要な要点だけは抑えておく。
「いいや。最初の方は色々不満があったが、卑弥呼は我の注文を可能な限り叶えてくれたからの。むしろ今では働いたら負けだと思っておる」
駄目駄目人間である。
「その注文の一つが、このふざけた施設か」
「うむ。これだけのものを極秘かつ短期間で作り上げるのには多額の費用と優れた政治手腕が必要不可欠じゃろう。卑弥呼は我の代行を見事にこなしておる」
「いやいや、あまり煽てるな、卑弥呼」
卑弥呼同士は肩を叩き合いじゃれ合っていた。
というか税金でこんなの作るな。民の血税を無駄にするな。
「ねえ、ロビン」
アルが服の裾を引っ張っていた。
「スイちゃん、探した方がいいと思う」
「……そうだな、俺もそう考えていたところだ」
実はどうでも良かったが、アルの意見は俺の意見である。
壁に沿って室内を歩く。
彼女は簡単に見つかった。
「なにをしてるんだ?」
「ひゃっ!?」
背後から声をかけると予想外に驚かれる。なんなんだ。
「い、いえ、私は神の使徒ですからこういう類は!」
なにやら弁明しだすスイ。
ここは、スゴロクの出発地点。
スイの手にはゴールドパス。また珍しい物を。
「無様だな。聖職者が娯楽に興味を持つとは」
「あぅっ……!」
痛いところを突けたのか、罪悪感たっぷりの顔で狼狽してくれるスイ。
「そ、そうです……私としたことが、浅はかなっ……!」
面白いほど苦渋を滲ませ拳を握り締める賢者少女。
手にしたゴールドパスが軋む。折るなよ、レアアイテムなんだから。
しかし、確かに彼女は最近はしゃいでいた気がする。聖女としては自重すべきだったかもしれない。
「―――だが、恥じることではあるまい。人が人であることを恥じて、なにを成せるというのだ」
昼に人と魔物の時間感覚の差について考えることがあったので、ついそんな、らしくない言葉が続いてしまった。
「欲望があるからこそ人は高みを目指すのだ。なにも為さず虚無に支配された者こそ、恥ずべきあり方ではないか?」
まあ、こういう人間を俺が勝手に嫌いなだけだが。
スイはポカンと俺を見つめ、それから噛み締めるように目を閉じる。
なにやら、思うところを与えてしまったようだ。
「そう、ですね。それもまた、真理の一つなのでしょう」
そして、頭を深く下げる。
「ロビンさんには、とても敵いません」
よく解らないまま降伏された。
スイは数秒考える素振りを見せ、スゴロクの上に立つ。
「それでは、挑戦してみますね」
小さくガッツポーズをするスイ。
「スイちゃん、頑張って」
応援する勇者。
スイは大人でも大きいと思えるほど巨大なサイコロを放り投げる。案外軽い素材で出来ているらしい。
何度が弾み、サイコロが止まる。
出た目に従い、彼女は壇上を進む。
落とし穴だった。
抜けた床を視認したあと、落下までの刹那に俺とスイは視線を交わした。
一回目から大当たりで、涙目のスイ。
俺は、そんなスイに笑みを浮かべ頷いてみせる。
断末魔を響かせ、賢者少女は奈落の底に落ちていった。
「祝福しよう、賢者よ。見事な最後だった」
後ろでは、人や魔族無関係に皆一様に頷いていた。
卑弥呼の私室で緑茶を啜っていると、ふと奇妙な扉を見つけた。
『魔の眷属以外立ち入り禁止』
関係者以外立ち入り禁止、みたいなノリでさらっと書かれているが。卑弥呼は自分が人外であることを隠す気があるのだろうか。
「おい、卑弥呼」
「「なんじゃ?」」
同時に返事をされた。ややこしい。
「大蛇」
「なんじゃ?」
「あの扉はなんじゃ?……なんだ?」
言葉使いが移ってしまった。
「ああ、あれか?あれは富士の地下に繋がっておっての。たまに休むのに使う通路なんじゃ」
「ああ、なるほど」
卑弥呼のような炎の属性を持つ魔族は、人間向けの建物より火山の内部などの方が快適に過ごせる。
そういえば俺もよく火山の洞窟でのんびりしていたな。
「久しぶりだし、行ってみてもいいか?」
「元はお主が力技で作った洞窟じゃろう。好きにせい」
今の管理人もそう言っているし、そうさせてもらおう。
「ねえ、私も行っていい?」
アルが興味を示してきた。
「む……しかしのぉ。人間には少しばかり過酷な環境じゃぞ?」
「危なそうならすぐ戻るから。駄目?」
その上目使いの懇願するような目は反則だと思う。
「いいぞ。いざとなれば、俺が守る」
「うん。ありがとう、ロビン」
卑弥呼(本当にややこしいが大蛇の方だ)が眉を潜めて俺達を見ていた。スイもたまにそういう目をするし、やはり俺達が相思相愛なのは色々逆境が多いのだ。
溶岩が流れる洞窟を進む。
焼け溶けた岩石が川となり、圧倒的熱量と共に洞窟内を赤く照らす。
俺はともかくアルは落ちたらさすがにまずいので、手をしっかりと繋ぐ。
「私、そこまでドジじゃないよ?」
「いや、その服を見るとなぜか転びそうな気がしてな……」
運動神経がいい彼女は転ぶどころか躓くことすら滅多にないが、それでも用心に越したことはない。
多少上機嫌で歩いていると、目的の場所はすぐに着いた。
壁に設置された松明に魔法で火を灯す。
そこは岩で作られた祭壇だった。
絨毯が敷かれ、玉座のように構えるそれは大きさからして人間用ではない。
というか、俺用。
「懐かしいな。もう十年も来ていなかったのか」
あの頃俺は、仕事を終えると必ずここで寝ていた。
そう。あの男が来たのも、俺が就寝していた時である。
「俺がここで休んでいたらな。あの男はこともあろうか声を掛けるでもなく襲いかかってきやがったんだ」
「あの男?」
「勇者オルテガだ」
ここは、あの男と初めて会った場所。
そして、俺が初めて人間に負けた場所。
「オルテガはなにを考えたか、俺に戦いを挑んできた。―――まあ、返り討ちにしてくれたが」
「負けたの、お父さん?」
「一度はな」
その数か月後、オルテガは再び現れた。
『しつこい人間!暑苦しい顔を張り付けていちいち来るな!』
『黙らんか魔族!我がレベル上げの糧となるがいい!』
『お前それでも勇者か!それでも正義の味方か!』
『たわけっ!次のイベントに進むにはお前が邪魔なのだ!』
『知るか!だいたい次のイベントってなんだ!?』
『亡国の姫を助け、ローザの愛を手に入れる!』
『いや、お前、既婚者だろう!?』
『悪いか!!!!!』
「今となっては、いい思い出だ」
「そうなんだ」
苦笑しつつも、相槌を打ってくれるアル。
あの時会った人間の娘と、十年経った今こうして旅をしているのだ。
縁とは、いつでも不思議なものである。
「ロビン、お爺ちゃんみたい」
失礼な。まだピチピチの200代だ。
「とにかく、俺はオルテガに負けた。それまで人間に負けるなど、考えたこともなかった」
俺はオルテガという男に興味を持った。暇さえあれば強襲して戦いを挑んだ。
途中から面倒になり、一緒に並んで旅をしていた。
いつもケンカばかりしていたが、それでも今思い返すとなぜだか楽しかった気がする。
この旅も、いつかそうやって思い返す日が来るのだろうか。
そう思うと、少しばかり寂しかった。
「―――でも、ロビン。ロビンは昔この国に住んでいたんだよね?」
「そうだが?」
「勝手にお父さんの仲間になって良かったの?」
「仲間じゃない、腐れ縁だ。間違えるな」
訂正すると、「ツンデレだねー」と笑うアル。
だからそれはどういう意味だ。国語辞典にはなかったぞ。
「その単語はともかく、勝手に役職を放り出して世界を回るのは褒められた行為ではないが……俺は魔族の中でも意外と偉い方でな。ジパングにいたのはむしろ経験を積む為だったんだ」
どの道、その後は各地の魔物分布を調節するという役職に就くのは決まっていた。ジパングを抜けた俺は自動的に実地研修の終了予定を繰り上げて昇進し、その後任として卑弥呼がこの地に来たのだ。
「―――そろそろ帰るか」
「もういいの?」
さっさと背を向け、祭壇を後にする。
「ここにはなにもない。俺達が目指すのは、少なくともこの先ではない」
「そう。ロビンがそう言うならいいんだけれど」
アルは軽く駆けて俺を追い越し、覗き込むように笑った。
「でも、私は来てよかったよ。きっとこの場所は、確かに未来に続いてる」
それは、いかにも人間らしい笑顔だった。
「ゴールしました!!」
スゴロク場に戻ると、スイがスゴロクをクリアしていた。
歓声を上げる地元住人に笑顔でピースして答えるスイ。
それを微笑ましげに眺める卑弥呼×2。
「今戻った」
「む、ロビン。どうじゃった、久しい寝床は」
別にどうということでもない。
「懐かしかった、とだけ言っておこう」
「相変わらず気取った男じゃのう」
どこがだ。
「スイはずっとスゴロクをしていたのか?」
「うむ。彼女も立派な中毒者じゃ」
支配人に太鼓判を押された。
「あっ、ロビンさん、アルスさん!見て下さい、こんなに景品を頂きましたよ!」
スイの後ろを見ると、山のように景品が積み重なっている。
「貴重な物も多いが……どうやってレイチェス号まで運ぶ気だ?」
「―――あ」
失念していたのか、景品の山を見て固まる賢者少女。
「ええと。その、どうしましょう」
「必要な物だけ持って帰ればいいんじゃないかな」
アルが提案する。しかし、この中で必要な物?
「俺達はほどんど装備品が固定されているからな。正直、あまり必要ない」
「うう、そうですか」
せっかく貰ったのに、と項垂れるスイ。しかしすぐ顔を上げ、一つの小さな桶を持ち上げた。
「見て下さい、これはジパングの近くの国で食べられている漬物だそうです!景品にありました!」
それがどうした。
「この漬物石、見覚えがありませんか?」
スイがそれを持ち上げる。それは、確かにいつか見た量産品の漬物石―――
「あっ」
ぽろり、とスイの手から漬物石が落ち、中の漬物に突入した。
「「「「「「……………………」」」」」」
アルスは、赤い漬物石(キムチまみれ。4つ目)を手に入れた!
深夜、目が冴えてしまった俺と卑弥呼は(何度もいうが魔族は夜行性である)キムチなる漬物をつまみに日本酒を楽しんでいた。
人間であるアルとスイは明日に備え既に夢の中。なので、会場は卑弥呼の寝室だ。布団も出しっぱなしである。
「ほれ、お酌くらいしてやるぞ」
「いらん、自分で注ぐ」
「お主、本当に空気が読めんの」
勝手に注がれる透明な液体。こういうのはゆっくり飲んでこそ、だろう。
「酔っているな」
「酔ってなどおらん」
俺に酌をするなど、普段の卑弥呼には考えられない。なんせ嫌われているのだから。
彼女はくすくす笑う。
「本当に、お主は死んだ方がいいな」
実に嫌われている。
「そういうところは死なねば治らんか、死んでも治らんか……遠いの」
「なんだ、お前にも夢とか目標があったのか?」
「夢の一つや二つはあるわい」
それは気になるな。
「酒の肴に聞かせろ」
「お主、最低じゃな」
ずばっと言い切られた。
「まあ、よい。わしの夢は、な……」
天井を見上げる。白い喉元が眩しい。
「可愛いお嫁さんじゃ」
……ふ。
「ふはははははははははははははははははははっ、はははははははっ、はh」「黙れ」
寝ている者達の迷惑にならないように腹を抑えて必死に押し殺し笑うと、思い切り握り拳で殴られた。
「くくっ、しかしお嫁さんか。可愛いお嫁さんか」
「ぬっ。お主に話したのは間違えじゃったな」
不機嫌になった卑弥呼をなんとかしようと、言葉を探す。
「いや、案外似合っているのではないか?そうしていると、実に扇情的で美しい」
酒が回り、少し体勢を崩して頬を赤く染める卑弥呼はなかなかに色っぽかった。彼女の意外と肉感的な体つきとそれを包む白装束が、濡れ場的なものを連想させるのかもしれない。
って、俺も酔っているな。コレに欲情しかけるとは。
「なら、襲うか?」
「断ろう。あとが怖そうだ」
お主の子じゃ、と赤子を渡されたら死ぬ。死ねる。
「そうか。残念じゃの」
「気もないことを言うな」
「いやいや。お主の子を孕めば、将来は安泰じゃからのお」
少し背筋が凍った。養育費、という言葉が頭を過る。
「冗談じゃ。そんな理由で子を成すほど落ちぶれてはおらん」
「……ならいいが。あまり心臓に悪いことをいうな」
「ふん、3つもあるのだから一つ止まったところで問題はあるまい」
あるだろ、色々と。
「ああ、もう。お主など死ねばいいのに」
実に爽やかな笑顔でコップを掲げ宣言される。マジで嫌われまくっているな。
「残念ながら死ぬ予定はない」
「当然じゃ。死んだら殺す」
よく、解らない。
「お主の方がよほど酔っておるな。普段はこんなに正直ではなかろう」
「そう……か……?」
目の前がクラクラしてきた。
「よい。片付けはわしがするから、お主はもう寝ろ」
「なに、を……俺は……」
急に瞼が重くなり、敷いてあった布団に倒れこむ。
「やれやれ。お休み、ロビン」
―――ああ、おやすみ。
翌日、起きたら目の前に秀麗な黒髪の女が寝ていた。
なにがあった。なぜ、俺が卑弥呼と同衾している!?
頭が痛くて思い出せない。酒を飲んでいた記憶はあるのだが……
「ロビン、朝ご飯だっ……て……」
唐突に襖を開いたアルが、同じ布団で寝ている俺達を見て凍りつく。
「失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
姫に教育されたのであろう、プロメイドの顔で一礼し退室するアル。
「違う!アル、違うんだこれは!」
なんだかんだで旅立ちの準備も完了し、村の中心まで卑弥呼に見送られる。
「また来い、勇者殿、賢者殿」
「はい、卑弥呼さん」
「お元気で。お体にお気をつけて」
女三人はいつの間にか仲良くなっていた。
ちなみにアルの誤解は解けた。解けた……はず。
「解ってるよロビン」と笑顔でさわやかに返されたのは、「もちろん卑弥呼とはなにもなかったと信用している」という解釈でいいはず。いいのだよな?
「お主も。怪我するなよ」
「心配するな。俺を誰だと思っている」
「心配などしておらん。ただ周りの足を引っ張るなと言っておるのじゃ」
さようか。
「じゃあ、もう行くぞ」
「うむ」
一歩、二歩。卑弥呼が俺達から後退する。
「ああ、そうだ。ロビン、一つ聞かせろ」
「なんだ?」
まだなにかあったか?
「プランGパターン41、第十三項。あれ、嘘じゃろ」
「……なぜ?」
「長い付き合いじゃからの」
サラリと言われ、少しショックである。バレていないと信じてたのに。
「勇者殿、一つよろしいか?」
「なんですか?」
急に振られ小首を傾げるアル。
「人の寿命はせいぜい100年。じゃが、魔族は1000年以上生きる」
魔族の成長感覚はおおよそ人間の十倍とされている。更に魔王クラスなどは4桁生きてもおかしくはない。
「元よりお主らは違う種族。その関係を否定はせぬが、実際問題最後まで付き合えるのは同族なのじゃ」
卑弥呼はアルを真っ直ぐ指さす。
「わしは、負けん」
それだけ言うと満足したのか、彼女は頷いて社へ戻って行った。
「……え、えと。どういう意味だったのかな?」
「さあな。あいつの動言一つ一つに意味を求める方が間違ってるぞ」
二人して首を傾げていると、スイがぽつりと呟いた。
「なんというか―――不憫です」