とある幼女の波乱万丈な人生(設定)無印END後。その日、私は幼稚園を抜け出して公園で遊んでいた。母さまは、良い幼稚園に通わせようと思っただけなんだと思う。確かに、通える範囲内では一番立派な所だったけれど・・・。私にはリンカーコアが無い。つまり魔法が使えない。そして私以外の園児は、将来ランクB以上間違いなさそうな魔法資質を持つ子ばっかり。子供で、しかもデバイスも無いのだから魔法は関係無さそうに思えるかもしれない。でも、触れ合うと体臭や体温を感じられるのと同じように、魔法資質を持つ子は余剰魔力が微量に発散されている。つまり、私だけ他の子からは感じるものを持っていない。それが手を繋いだりすると分かってしまう。子供とは結構残酷なもので、深く考えずに思った事をすぐ口に出したり、自分とちょっと違うだけで奇異の目で見たりもする。逆に、びっくりするような意味深な発言をしたり、気に入る点を見つけたら他に大きな差異があっても気にせずに接したりもするんだけれどね。良くも悪くも純粋なのだろう。自分が、異端の様に思われているのが分かる。おそらく資質が無い子に囲まれている資質を持つ子と言う状況でも、多分同じようになるのだろう。ん? 魔法資質が無い人は、普通魔力を感じられないみたいだから特に問題無いかも?まあ、とにかく居心地が悪い。今日は、子供特有の素朴な疑問。「何で、あなたからは魔力が感じられ無いの?」と言う、恐らくふと口に出しただけな言葉に耐えられなくて逃げ出した。そうして、公園で時間潰しをしていると言う現在の状況に至る。「私にも魔力があればなぁ・・・。」言っても仕方の無い事だけれども、つい口から愚痴が毀れる。リンカーコアが無ければ、どう足掻いても魔力は出てこない。魔力を感じるだけなら、大魔導師である母さまと触れ合っていたおかげか、何となく分かるようになったのだけれど。魔法が発動しないのが分かっているのに、腕輪に嵌っているデバイスコアを撫でてみる。これは、言語変換したり、位置を知らせたり、データベースに接続したりするくらいなら出来る優れものなのだ。母さまが毎日魔力を補充してくれなければ、ただの黄色い玉なんだけれどね。母さまは、凄い魔導師。父さまは・・・魔力の無い人だったらしい。私は、父さま似なわけだ。母さまが言うには、「頭が良いところもそっくりよ。」らしいけれど。その頭が良いところも、結構隔意を抱かれる原因になっている気がするのは気のせいかな?自分ながら、妙に大人びたところがあると思う。少し前までは、夕方家に戻れば母さまが居てくれた。でも、母さまが嬉しそうに「大きなプロジェクトの責任者に任命されたのよ。」と言ったその次の日から、私は一人ぼっちになった。私が寝た後、やっと帰ってきているらしい母さま。私が起きる前には、朝ご飯とお弁当と晩ご飯を作ってすでに出かけている母さま。責任者って大変なんだね・・・。父さまも居ない。私が生まれる直前に「依頼人から仕事が入ったよ。」と言って出て行ったきりらしい。母さまに、父さまの事を聞いた事があるけれど・・・楽しそうに悪口を言っていた。集中したら周りが見えなくなる子供のような人。子供特有の残酷さまで持ち合わせているらしい。どうにも社会不適合者な気が・・・。犯罪者になって、管理局に追われてたりしないよね?父さまも、母さまも、友達も居ない・・・妹でも居てくれたら良いのになぁ。と、考えに耽りながら砂山を作って遊んでいたら、林の方から罵声と何かを叩いている音が聞こえてきた。何かな? と思い近づいてみると・・・ドン「むかつく! あの馬鹿部長! プロジェクトの進み方が遅い遅いとうるへー! 主任が頑張っへるから破綻しないで済んでるだけだろ!」ドン「ワシの所もそうだ! ったくよー! 海のやつらに人材が吸われる一方だ! ほんとやっへらんねー!」と言いながら、猫さんを脅すように地面を蹴っている。見ると足元に空き瓶。二人の顔は真っ赤。ところどころ呂律が回ってない。・・・うわぁ、昼間っから酔っ払ってるんだね。駄目大人発見!・・・とか言ってる場合じゃないね。「あなた達! 良い歳した大人が猫さんを苛めるなんて駄目でしょ!」後で振り返って考えてみると、八つ当たりしてる酔っ払いに正論を吐いて諌めるなんて馬鹿な事をしたと思う。当然にように、二人は私に絡み始めた。「何ら・・・不細工だなぁ。可愛かったら良かったのにねー。 ・・・ん、髪は綺麗だねー。ちょっと触らせて。」「ひっくっ・・・何ら? チビ。それが大人に対する口の聞き方か? まったく近頃のガキは・・・。 こいつはなぁ、ワシのツマミを取りおった。ワシの目の前で犯罪行為など許せるわけがないだろが!」そのまま「窃盗は云々」とベンチに向かってお説教を始めた。え、髪を触らせてって・・・ああ、これが母さまの言っていたロリコンって人なのかな?母さまの言う通り、変装していて正解だったね。今の私はかなり可愛くない顔になっている。はっきり言うと、ブスだ。父さまが唯一残してくれていた腕輪の効果で、髪の色から顔の造形はおろか、体温や体臭、その人特有の雰囲気まで微妙に変化させる事ができる。変化と言っても実際変わっているわけではなく、身体の表面を膜のような物で蔽って、その膜が変化しているとか。魔法みたいだけれど、魔法では無いらしい。魔法も使わずに、こんな事を出来るようにするなんて、父さまって凄いのかもしれない。父さまは、実際に身体自体が変わるようにしたかったらしいけれど。それを「そんな可愛いままで出歩いちゃ、連れさられちゃうじゃない。」と家や幼稚園以外では使うように言われている。でも、母さま譲りの綺麗な金髪だけは変えたく無かったんだ。・・・失敗したなぁ。男の人が私に手を伸ばしてくるのを見た途端、怖くて動けなくなった。私は逃げる事も出来ずに、ぎゅっと目を瞑ってしまう。デバイスコアに登録されている全言語に変換にして「た、助けて。」と誰かに助けを求めてみる。・・・がその声はか細いものだった。でも、その小さな声に答えてくれた人がいた。「おう、任せろ。」と言う声と共に、ドンッと言う音がほとんど重なって二つ聞こえた。目を開けてみると・・・ミッドチルダでは珍しい真っ黒い髪と目を持つ少年が立っていた。「あ、助けてくれてありがとう。」「ああ、頑張ったな。猫を助ける為に大人二人相手を叱り付けるなんて、しばらく見惚れて助けるのが遅れてしまったぞ。」そう褒めてくれながら、猫を手渡してくれる彼。・・・いつのまに猫さんを拾ってきたんだろう?猫さんは汚れていたけれど、怪我はしていないようだ。さすがに、本当に蹴りを入れていたわけじゃないみたい。助けるところを見ていたのか、私の手に抱かれると礼を言うようにぺろぺろと舐めてきた。「可愛い♪」「懐かれたみたいだな。」「飼っても良いかな?」「毛皮も汚れて痩せ細ってるからなぁ。飼い猫じゃないみたいだし、親が許してくれたら良いんじゃないか?」「そうだね♪ 家の子になる?」猫さんにそう尋ねると、な~ と鳴いた。これは了解したと思っておこう。暴れないし、嫌なわけじゃないよね?猫さんとお話していたら、彼が変な事を尋ねてきた。「なあ、ここはどこなんだ? 外人さんばっかりなのに、言葉は通じるみたいだし・・・さっぱり訳が分かんねー。」「え? ミッドチルダ南部のアルトセイム地方だよ。お兄さんはこの辺の人じゃないの?」「あー、また迷ったらしくてなぁ。 あっちの方にある学校みたいな所・・・小さい子が沢山居たから小学校か? そこに出てな。 女の子が攫われそうになってたから、助けたのは良いんだが・・・帰り方が分からん。 んで、そのうち帰れるだろうし、こっちに可愛い子が居る気がしたから散歩しながら探してた。」迷った? 迷子? それなのに、慌てずに散歩? ・・・変な人だ。でも、攫われそうになった子を助けるなんて、良い人だなぁ。私も助けてくれたし。って、可愛い子? 昼間はみんな幼稚園に行ってると思うんだけれど。「お兄ちゃん、暇なの? それなら私と遊ぼうよ。」つい口に出ていた。この時自分の顔が、お世辞にも可愛いと言えない状態になっているのをすっかり忘れていた。でも、彼は少しびっくりした顔をして、そして微笑みながら頭を撫でてくれた。「物怖じしない子だなぁ。 良いぞ、可愛い子と遊ぶのは大好きだ。何して遊ぼうか?」あ、この人もロリコンだ。ロリコンにもいろいろあるんだなぁ。と思った。私は元々、母さまにも「物怖じしない明るい性格ね。」と言われてきた。でも、幼稚園での出来事もあり、母さまと一緒に居る時間が減った頃から、少しずつ内向的になってきたと思う。そして、外では可愛くない外見に変えている。つまり、どうみてもうじうじした可愛く無い子なのだ。それなのに彼は、私を可愛い子と言う。初めて見たはずの人を、遊びに誘った自分にもびっくりだ。不思議だなぁ。と思いながらも、一緒に遊んだ。ただ単に砂場で山を作っているだけなのに、凄く楽しかった。自然と笑顔が浮ぶ。・・・心から笑うのは久しぶりかも。砂場に大きな山が出来る頃、倒れていた人達が起きてきた。顔の赤みも消えて、申し訳無さそうにこちらを見ている。どうやら、酔いも醒めたようだ。彼の背に隠れるように見ていたら、こちらへ来て謝ってくれた。「酔っていたとは言え、酷い事を言ってしまって済みませんでした。」「すまんな、お嬢ちゃん。八つ当たりしてしまって。普段はあんなになるまで飲まんのだが・・・。」酔うと記憶を無くす人がいると聞いたけれど、この人達は憶えてるらしい。・・・ベンチに向かってお説教してた事は忘れているみたいだけれど。しかも片方の人は、妙に丁寧な言葉遣い・・・。お酒って怖いんだなぁ。でも、謝る相手が違うと思う。「猫さんにも、謝らないと駄目じゃない!」と、強気な発言。もちろん、彼の背中に身を隠しながら。「猫さん、ごめんなさい。」「猫、驚かせちまってすまん。」素直に、猫さんに謝る二人。動物にも素直に謝れる人が、あんなになるなんて・・・お酒って本当に怖いなぁ。大人になっても、絶対飲まないようにしよう。と心に誓った。ここで、彼が重々しく切り出た。「あんたら、ロリコンだよな?」「え、違っ・・・。」「ああ、可愛い子なら好・・・酷い言いがかりは止めろ!」重々しい口調で何を言うかと思ったら・・・。って、そっちのあなた、正直ね。「良いか? よく聞け。会社員A・B。」「・・・会社員Aって私ですか?」「何だ、その呼び名は! ワシの名は・・・」「男の名前何ぞどうでも良い。良いから聞け。」会社員Bさんの言葉を遮って、彼は妙な事を言い始めた。「俺もロリコンだ。 しかし、そこらで言われているロリコンとはレベルが違う! 幼女誘拐やら監禁やらがニュースで目に付くが、あれは単なる犯罪者である。 幼女や少女を性の対象としてみるのはロリコンとして三流であろう。 俺みたいな一流のロリコンは、幼女や少女の嫌がる事などしない。 なぜなら幼女・少女は笑顔の時が一番可愛いからである。 楽しそうに遊んでいる様は見ているだけで心が和む。 そう、幼女・少女こそ世界の宝。守るべき至宝なのだ!」・・・妙に言い慣れている気がするのは、気のせい?「・・・・・・。(何やら感銘を受けているようだ)」「確かに! ・・・し、しかしだな、幼女とは言え可愛く無い子もいるではないか?」・・・会社員Bさん、あなた本当に正直ね。「馬鹿者! 会社員Bよ、しかと胸に刻め! 幼女や少女の魅力を、生来持つ外見だけで判断するな! この幼女を見ろ! 傷ついた小動物を庇う為に、大の大人二人相手に叱りつけるその心意気を好ましいと思えないか? 何よりも、おどおどした仕草の中に垣間見える生来の活発さが感じられないのか? この子は、磨けば光るぞ。それはもう、ダイヤも霞むくらいに。 何が原因かは知らないが、それを取り除けたらつい頭を撫でたくなるような元気で魅力的な子になるのは間違いない! それに、外見に拘っているようだから見せるが・・・」そう言って、いきなり私の両脇に手を差し込み高い高いを始める彼。「ちょっと、お兄さん? 何で、私を高い高いしてるの? え? ちょっとー。」最初は疑問ばかり口に出てきたけれど、段々と顔に勝手に笑みが浮んでくる。このおかしな状況とか、ぽかんと口を開けている会社員AさんBさんとか、本当に楽しそうに高い高いをしている彼とか。何なの? これ。笑い出したら止まらなくなってしまった。そう言えば、高い高いしてもらったのって初めて?母さまも腕力があるわけじゃないし・・・魔法で強化すれば出来るだろうけれど。ああ、これ結構良いかも・・・。何だか赤ちゃんになったみたいだなぁ。と思いつつも、満面の笑顔で笑っている私が居た。私を下ろして一言。「どうだ?」「・・・・・・。(何やら感動に身を震わせている)」「参った。お前の言う通りだ。思わず見惚れてしまったぞ。」・・・会社員Bさん、本人を前にして『見惚れた』とか言わないで。今の顔は自分のものじゃないけれど、さすがに照れるよ。そう思っていたら、会社員Aさんがいきなり土下座をして・・・「で、弟子にしてください。」・・・こちらの方が重症だった。「弟子とかそう言うものじゃない。 先ほど言った事を胸に刻んでいるならば、そう『同士』と言う言葉が一番しっくりくるな。」「そ、それでも、師匠と呼ばせて下さい。」「ワ、ワシもだ。お前・・・いや、師匠の言葉は生涯忘れん。」三人で盛り上がっている。私を置いてけ堀にしないで・・・。そろそろ戻ってきてくれないかなぁ。その後、鬼ごっこをして遊んだ。幼女な私と、少年な彼。そして三十歳くらい・・・一人はもしかしたら四十くらい? の大人の人と。・・・周りに人がいたらどう見えるのかは、考えないでおこうと思った。と言うより、考える暇など無いくらい楽しかった。大人の人達も身体を動かしてすっきりしたのか、良い顔で笑っていた。運動不足で、ぜーぜー言っていたけれど。お兄さんだけ平気な顔をしていた。さっきもAさんとBさんを一撃で倒してたし鍛えてるのかな?「あ、お兄ちゃん、お財布落ちてたよ?」「む、迷子な上に一文無しになるところだったな・・・ありがとう。」でも、うっかりやさんみたい♪遊び疲れて休んでいると、何故か人生相談になった。何を悩んでいるのかを聞かれて、ついつい幼稚園の事と、母さまの事を話してしまった。聞き上手と言う訳でも無いと思うんだけれど、何て言うか・・・話易い? 絶対受け止めてくれるみたいな安心感があるからかな?彼からは魔力を感じないからその辺は言っても仕方ないと思い、自分だけ他の人とは違うところがあって疎外感を感じる。と言う言い方になったけれど。・・・でも、確かに魔力は感じないんだけれど、何か変な感じはあるんだよね。無理やり押さえ込まれているような・・・そんな変な感じ。封印してるのかな? と思ったのは言った後だった。「疎外感か。 幼稚園児が難しい事考えてるなぁ。 違うところがあったって、遊んでいる内にそんなもん気にしなくなるって。」「え、でも、今更自分から遊ぼうなんて言えないよ。」「じゃあ、楽しかった事でも考えてにこにこしてろ。 子供は好奇心旺盛だから、気になって近づいてくるから。」「近づいてこなかったら、どうするの?」「今日みたいな笑い方が出来るなら大丈夫だって。」「そうです。今日みたいな笑顔を見たら、誰だって声をかけたくなります。」「そうだぞ。あの笑顔は本当に素晴らしかった。ワシの娘はあんな笑顔を見せてくれぬ・・・。 大体魔力と友達は関係無い。ワシも魔力など無いが、魔導師の親友がおるしな。」その彼の言葉にAさんとBさんも同意していた。そっか、笑顔か。・・・って、え?「Bさんも魔力・・・って、ええ! 子供居たの?」「Bさんも、お子さんいらっしゃったんですか。」「え? ああ、12歳の子がな。」「Bはあれだな。さっきの愚痴から推測すると、違う部署に人手が取られて人材不足に悩んでる。ってとこか?」「うむ、さすが師匠。・・・分かるか、そりゃ。 その所為でなかなか仕事が捗らなくてな。家に戻る時間もなかなか取れんのだ。」「・・・今日は酒飲まなきゃ帰れたんじゃね?」「それなんだ、ししょー。 昼間帰っても、学校行ってるのだ。会えんのだーーー! しかも、ワシは管理職だから、この後はまた仕事に戻らなきゃならんのだ! 仕事自体は、遣り甲斐がある。だが、人手不足はどうにもならん。 こんなのは休みと言わん! 休憩と言うんだーーーーー! 娘のとは、月に1回か2回くらいしか会えんのだ! 構ってやれない所為か、段々冷たくなってきとるんだーーーーーーーー!」「電話とかしてるか?」「家にわざわざ電話とか照れくさくてな。しとらん。」「ほー、そこの幼女さん、ご感想は?」え? 彼はBさんと話していたと思ったら、いきなり話を振ってきた。「え、えーと、母さまとの事で良いのかな? 私だったら、仕事で忙しい母さまがわざわざ電話してくれたなら嬉しいよ。」「・・・なるほど、ワシはわざわざ交流の機会を逃してたんだなぁ。 ありがとな、嬢ちゃん。目が覚めた。照れくさいなんて言ってる場合ではないよな。」役に立ったみたい。ほっとしていたら、彼に頭をぽんぽんと軽く叩かれた。「他人事じゃない。 母さんが居なくて寂しいなら、やれる事あるだろ? 夜遅くまで起きて待ってたら心配かけるだろうから、逆に早く寝て朝一緒にご飯を食べるとか、な。」ああ、そっか。母さまにして欲しい。じゃなくて、自分の出来る事をすれば良いんだ。「そうだね♪ 夜起きているのは我慢出来ないだろうけど、朝起きるのなら目覚ましかけておけば出来そうだよ。 何で気付かなかっただろう?」「心配をかけないようにばっかり気にしてたからじゃね? 他人に相談すれば、視点が違うから気付いたりするもんだ。」一気に悩みが全部解消した。まあ、実行しなければいけないんだけれどね。こんなに色々気が付く彼は、お友達も多いんだろうなぁ。と思い聞いてみた。「ねえ、お兄さん、お友達多そうだよね? 何人くらいいるの?」「あー、居ないな。」「え? それだけ色々と助言出来るなら、相談されたりしない?」AさんとBさんもびっくりしていた。だよね。お友達沢山居そうな気がするよね。「クラス替えの度にロリコンだと言ってる所為かもしれんけど、全然近づいて来ないな。 それに男には興味無いし、同い年の女も興味無いからわざわざ近づいていく気もしないしなぁ。 助言だってあれだぞ? 幼女やその親の事を想像すれば結構出てくるもんだ。」とても頼りになるお兄さんは・・・実は結構駄目駄目な人だった。と言うか、助言も幼女や少女が中心だったんだね・・・さすがと言うか、何と言うか。 「遊ぶお友達が居ないと、暇じゃないの?」私は暇だった。一人ぼっちは詰まらなかった。でも、彼は違うようだ。「暇があったら鍛錬してるしなぁ。 遊び相手は、今日みたいに助けた子とたまに・・・。」遊び相手が、幼女や少女だけ? 聞き様によっては、危ない人にしか思えないよ・・・。これは・・・駄目だ。と思ったら口に出ていた。「わ、私がお兄さんのお友達になってあげるよ!」その言葉に苦笑している彼・・・とAさんBさん。・・・何で?「ああ、んじゃ、よろしく頼む。」「うん♪ あ、AさんもBさんもだよ。」「え、私も良いんですか? ありがとうございます。」「お、ワシもか。ありがたいな。」こうして私達はお友達になった。って、あれ? さっき気になる言葉が・・・。『Bさんも、お子さんいらっしゃったんですか。』Bさん『も』?「あのー、もしかしてAさんも、お子さんがいたりするのかな?」「え、あ、居ますよ、8歳の女の子が。先ほどのご意見はタメになりました。私も電話してみます。」「え、いいえ、どう致しまして・・・じゃなくて! 女の子がいるのに、それなのに二人ともロリコンなんて・・・それってどうなの?」「いやー、小さい子を見ると、どうしても娘と比べてしまうんです。」「嬢ちゃんを見てると、娘の小さい頃を思い出すんだ。笑顔が本当に可愛いかったなぁ。」ロリコンと言うよりは、親馬鹿らしかった。Aさんなんかは、もしかしたら娘さん以外は不細工に見えてるかも・・・。その後AさんとBさんは、「そろそろ仕事に戻らなければ。」と言って行ってしまった。「お兄さんはどうするの?」「俺か? んー、そろそろ帰れると思うんでこの辺ぶらぶらしてるさ。」「そっか・・・私は帰る時間だから行かなくちゃ。 ねえ、また会えるかな?」「おう、助けを求めたら、いつでも飛んできてやるぞ。」「あはははは♪ 頼りにしてるよー。」「んじゃ、元気でな。」「うん、今日はありがとう。」結構呆気ない別れだった。この後、八年も会えなくなると分かっていたら、門限など破ってもっと一緒にいたのに。家に帰ると、母さまが居た。え、何で、母さまがこんなに早く? と聞く前に抱きしめられていた。扉を開ける際に、猫さんを下ろしていなかったら潰されていたよ・・・。「母・・・さま?」私の呼びかけに答えずに、母さまは私の名前を連呼している。ずいぶん、心配をかけてしまったらしい。落ち着いてから事情を聞いてみると、実は私が幼稚園を出る度に母さまへ連絡が行っていたらしい。仕事中で抜けるに抜けられず、家に戻って寝ている私を見てほっとしていたと言う。気付かない内に、心配かけちゃってたんだ・・・ごめんね、母さま。今日は交代で休みを取る事にしたそうで、休憩から戻ってきた同僚と入れ替わりに急いで戻ってきたんだって。「幼稚園が嫌なら、無理に通わなくて良いのよ?」「ううん、今日まで嫌だったけれど、もう大丈夫だよ。 それよりお話しようよ。今日はね、いろんな事があったんだよ。 えーとね、そう、大きなお友達が3人も出来たの!」不安そうな母さまを安心させようと、お友達の事を告げたら「何もされなかったでしょうね? どんな人だった?」と凄い剣幕で聞いてきて、ちょっと怖かった。慌てて、「お友達が3人出来たんだよ。」と言い直した。そうしたらほっとしていたので、『大きな』と付けたのが良くないんだなぁ。と思った。それから、拾ってきた猫の事とか、酔っ払いの人に脅されて怖かった事(ここでまた母さまが怖くなった)とか、彼に助けてもらった事とか、一緒に遊んだ事とか、相談に乗ってもらって助かった事(明日驚かせる為に母さまの件を相談した事は内緒)とか。「それでね。この猫さんなんだけれど、飼っても良いかな?」「そうねぇ、ちゃんとお世話を出来るなら良いわよ。」「ありがとう、母さま♪」断わられないかちょっと不安だったけれども、あっさり飼える事になった。幼稚園で疎外感を持ってる事を言った所為もあるのかな? 心配かけてごめんね、母さま。データベースで調べたところ、山猫と言う種族らしい。普通の猫さんじゃなかったんだね。足が悪くて獲物が取れないから餌を求めて山から下りてきたんじゃない? と母さんが言っていた。試しに、ミルクをあげたら凄い勢いで飲んでいた。うん、可愛い♪夜、久しぶりに母さまと一緒に寝た。安心しきって眠りに落ちる寸前、大変な事に気付く。お友達になったのに名前すら聞いてない。とか、住所も連絡先も聞いてないし、教えてもいない。とか。本当の私の姿を見せて無い事にも気づいた・・・お友達になったのに。そうして、みんなの苦笑いの原因にも気付いた。・・・私がお友達になっても、彼のお友達に幼女が一人増えるだけじゃない!私の馬鹿ーと身悶えしていたら、母さまに心配されちゃった。朝、母さまが起きる気配を感じて目が覚めた。「あ、起しちゃったわね。まだ寝ていて良いわよ。」母さまがそう言ってくれたけれど、起きなくちゃ。一緒にご飯を食べて、行ってらっしゃいを言う計画実行です。結果は・・・大成功♪いつもと同じご飯が、いつもより美味しかった。行ってらっしゃいを言ったら、母さまはスキップするような軽い足取りで出かけていった。うん、彼の言っていた事は本当だった。幼稚園に行ってお兄さんと遊んだ事を思い出していたら、女の子が数名寄ってきた。・・・知らずに、にこにこしていたらしい。昨日の事を掻い摘んでお話したら、感心されてしまった。何で今日は声をかけてきてくれたのか聞いてみたら・・・「今日はにこにこしてて、話かけ易そうだったから。」だって。どうやら壁を作っていたのは、私の方だったようだ。こうして私の退屈だった日々は、楽しい日々に変わった。毎日お友達と遊んだり、毎朝母さまとお話ししながらご飯を食べたり。お友達を家に招いて、猫を見せたりもした。逆にお呼ばれして、つい時間を忘れて門限を破りそうになったりもした。母さまの仕事場には子供を預ける施設もあるらしく、連れて行ってもらう約束までした。楽しい日々。でも、ただ一つ。彼とは、あれ以来会う事は無かった。やっぱり、あの日帰ってしまったらしい。でもね、私は魔法は使えないけれど、記憶力には自信があるんだよ。完全記憶能力と言う、一度見ただけで全て印刷したように憶える事が出来る能力があるらしい。私はそこまで凄い能力じゃないけれど、印象に残った物ならある程度可能なんだ。お財布を拾った時、免許証・・・学生証かな? がちらっと見えた。見た事の無い文字だったけれど、紙に書いてデバイスコアに検索させたらヒット。どうやら、管理外世界の文字らしい。彼は、管理外世界の人だったのかな?とりあえず、それをデバイスコアの名前にしてみた。彼の顔もきっちり憶えている。うん、思ったより手掛かりは多そうだ。お友達になったんだもん、絶対忘れないからね。彼と会ってから一年が経ち、私は五歳になった。今日は、母さまの仕事場へ連れて行ってもらえる。やっと仕事が一段落するらしい。「これからは、一緒に居られるようになるわよ。」と母さまが言っていた。一緒に居られるのも嬉しいけれど、一年前よりやつれている母さまが休めるようになるのがもっと嬉しい。大きな建物の周辺には・・・人がいっぱい。普段は家と幼稚園と公園とお友達の家くらいしか行かないから、驚いてしまった。首都クラナガンや、東部にあるパークロード等は、ここと比べ物にならないくらい人が多いと聞いてまた驚いた。「休暇が取れたら行きましょう。」と言われ、今から楽しみになった。中に入ると、白い服を着た人がいっぱい。小さな子が珍しいのか、みんなちらちらと私を見ている。その中から、一人の男の人がこちらに気付いて駆け寄ってきた。「あ、主任、今日は昼まで休暇では? 最終実験は午後からですよ?」「一年前に娘を連れてくる約束してたのよ。やっと余裕が出来たから連れてきたの。」「ああ、なるほど。」その男の人には、見覚えがあった。「Aさんだ。」「え、あ、お嬢さん。あれ? 主任のお子さんですか?」母さまの後ろに隠れるように歩いていたので、気付かなかったようだ。「あら、顔見知りなの?」「うん、お友達だよ♪」そう言うと、母さまは妙な顔をしていた。「・・・どこで知り合ったのかしら? まあ、ちょうど良いわ。私も白衣に着替えてくるから、娘の相手を頼める?」「あ、はい。はー、お嬢さんが主任の娘さんだったなんて・・・怪我でもさせていたら殺されてたね。」(後半小声で)母さまはどこかへ行ってしまった。私を他人任せにするなんて珍しい。Aさんを信頼しているようだ。「Aさん、お久しぶりー。」「ははは、私はやっぱりAさんと呼ばれるんですね。うん、そんな関係も面白いかな。 お久しぶりです、お嬢さん。」「Bさんは居ないの?」「Bさんは、あの時意気投合して一緒に飲んでただけですよ。 有名な方ですから、TVで見かけるかもしれませんね。 酔ってた時は気付かなかったけれど、我ながらよく一緒に飲めたものだと思います。」全然知らない仲だったんだ・・・一年経って知る新事実です。「お兄さんの事知らない?」「師匠ですか? 師匠はあの日見たきりですね。黒髪で目も黒い人は珍しいですから、街中でもすぐ分かると思うんですが。」・・・まだ師匠って呼んでるんだ。やっぱり律儀な人だなぁ。そうかぁ、やっぱり管理外世界まで行かないと駄目かな? そう思っていたら、母さまが戻ってきた。「仲が良いのね。どこで知り合ったのかしら?」「一年前に話した酔っ払いの人だよ。」そう言うと、Aさんは・・・真っ青になっていた。「あらあら♪ ねえ、副主任さん、後でお話があるの。んー、結界が張ってある第一実験室が良いかしらね。」「え、えーと・・・はい、お手柔らかにお願いします・・・。」何やら物騒な気がしたので、助け舟を出してみた。「母さま、私のお友達なんだよ?」「・・・命拾いしたわね。」「ありがとうございます・・・本当にありがとうございます、お嬢さん。」どうやら、私は一人の人間の命を救ったらしい。ん? 何か忘れているような・・・。ああ、そうだ。お友達に会ったら、本当の姿を見せるんだった。「ねえ、母さま。変装解いても良いかな?」「え? ああ、そうね。この実験施設内なら、私が居るのにちょっかいを出したらどうなるか知ってる人ばかりだし。」ここの人達に、母さまの評価を聞くのが怖くなるような事を言っている・・・。それはともかく変装を解いて、腕輪を母さまに預ける。「これが私の本当の姿だよ。どうかな?」「え、ちょ、本当に可愛い。変身魔法だったんですか? って、『然したる理由も無く外観を偽装せぬ事。』と言う法律が・・・。 それにしても・・・師匠、さすがです。 変装を解く前でも頭を撫でたくなるような子になっていたのに・・・確かにこれならダイヤも霞みますね。」褒められちゃった。え? 法律違反なの? 母さまの方を見てみると・・・えーと、ちょっと母さまを見るのが怖いんだけど・・・何なの? 「ねえ、副主任。私の目の前で、娘を口説くなんて良い度胸しているわね。」「ちょ、ちょっと待ってください。私が言ったんじゃないんです。師匠が・・・中等部に上がったばかりくらいの少年が言ったんですよ。」「・・・なるほど、その子は見る目があるわね。 確かに私の娘は、可愛くて可愛くて可愛くてダイヤなんて目じゃないものね。そこらの女の子なんて比べ物にもならないわ。」「ちょっと待って下さい。確かにお嬢さんは可愛いです。けれども私の娘の方が可愛いですよ。」「何ですって? 聞き捨てならないわね。私の娘より可愛い子なんて、この世に存在しないわ!」「いいえ、私の娘の方が・・・」段々娘自慢になってきた。その後三十分くらい、私の娘は~~してる仕草が可愛いとか、いえいえ私の娘なんか~~とか言いあっていた。・・・結論。二人共親馬鹿過ぎだと思うんだ。・・・法律違反云々はどうでも良いの?見る物全てが目新しかった。お遊戯室の何十倍もありそうな実験室とか、何に使うのか詳しく教えてもらっても分からない機械とか、何かが爆発したのかススだらけになっている部屋とか。明日、幼稚園のお友達に話す事がいっぱいだ。こんなに自由に見せてもらっても良いのかな? と思って聞いたら、午前中は自由見学用に解放しているんだって。昼食後、保育所に連れて行かれた。いつの間にか、あれほど沢山居た人達が居なくなっている。「実験は非公開だから、関係者以外は施設から出てもらったのよ。 実験が終わったらすぐ戻ってくるから、少しだけ我慢していてね。」母さまはそう言うけれど、保育所にいるのが私だけなので少し詰まらない。お菓子でも食べてようと、リュックサックを開けてみると・・・子猫が丸まって寝ていた。あれ? 何時の間に?揺すっても起きない・・・野生の山猫じゃなかったの?母さまと顔を見合わせて苦笑していたら、Aさんが慌てて駆け込んできた。「主任! 最終実験がすでに開始されてます! 副社長がこの前拒否された件を、無理やりしようとしているんです! 技術者を連れてきているところをみると、最初から準備してたみたいなんです。 早く来てください!」「な、何ですって! あれは、駆動炉が不安定になり過ぎるとあれほど言ったのに・・・。 待っててね、すぐ戻ってくるから。 ・・・一応、結界を張っておいた方が良いわね。」母さまは結界を張り終えると、慌てて駆け出していった。そして、数分後。ビィー ビィー と言う大きな音が響き渡った。何だろう? と思ってキョロキョロしていたら、何故だか呼吸が荒くなってきた。段々身体を支えているのも、億劫になっていき・・・気付いたら倒れていた。頭がぼーっとする。意識が無くなる寸前、変装を解かなければ良かったな。と思った。あの姿で助けを求めたら、私の一番のお友達が絶対来てくれたはずだから。