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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 六話
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/04 22:09
 教会から帰ってしばらく経ったある日、本局内を歩いていると、妙な視線を感じたんで、そちらに目をやった。地上部隊の将官服を着た偉そうなおっさんが、不機嫌そうなツラで、俺とすれ違う形で歩いてきていた。階級は…少将か。となりに秘書か副官か、きつい性格そうな眼鏡美人もいる。嫌々ながら軽く目礼しつつ通り過ぎようとしたとき、不意におっさんが立ち止まって凄んできた。
「貴様はたしか高町二等空尉だったか、魔力の大きさに溺れんようにするのだな。」
はぁ? 何言ってやがるこいつ。敬礼しなかったのがそんなに気に食わなかったのか。なめた親父だとおもいながら、いや、案外本気かもしれん、とも考えた。どうも管理局じゃ魔力でかいやつが偉い奴、みたいな風潮がある。兵隊クラスの連中だけかと思ってたら、中級指揮官もそんなところがあるし。将校がわざわざ一士官捕まえて注意するってことは相当やばいのかこの組織……と頭の中をそんなことが目まぐるしく駆け巡り、思わず目を点にして突っ立ってたら、こっちが怯んでるとでも勘違いしたんだろう。おっさんがそっくりかえって説教口調で言い出した。
「魔力の大きさや魔道師ランクの高さが全てではない。エースなどと持ち上げられているようだが、調子に乗らんようにするがよかろう。」
結論。喧嘩売ってるだけだコイツ。
 だが相手は部署違いとはいえ雲の上の立場。俺も教導隊の一人として、言動に責任を持つべきところがある。むかつく気持ちをぐっと押さえて俺は返した。
「もちろんであります、少将殿! 魔道師としての能力のみで自分を量るような真似はしておりません! また少将殿のような方がおられる以上、管理局内にそんな不届きものはおらぬだろうと確信でき、安堵の至りであります!」
一言一言に必要以上に力をいれて発声し、胸を張って直立不動、敬礼つき。身体も視線もおっさんには向いていない。
 おっさんが俺に声をかけたときからひそひそとざわめいていた通路が、シン、と静まり返った。
 静寂を破ったのは、こわばった女の声だった。
「……あなた、いったいどういうつもりかしら?」
「はっ! 少将殿のご指摘に感謝申し上げた次第です!」
直立不動、崩さず。視線動かさず。白々しさを増すために声の馬鹿でかさと口調のわざとらしさは維持する。
 直接反撃でなく、遠まわしに反撃とは、俺も大人になったものだ。
 自分の成長にしみじみしていると、さきほどより一段低い声で女が口を開いた。でも、感情を押さえようとしても声の震えが隠しきれてないぜ、お嬢。
「……「空」では、感謝の表し方が……」
「待て、オ-リス。」
おっさんが渋く落ち着いた声でさえぎった。ほう、さっきとは声の質が違う。このおっさん、ただの馬鹿ではなさそうだ。
「高町二等空尉。」
「はっ!」
でも、直立不動は崩さず。先に仕掛けてきたのは向こうだしな。
「……とりあえず、楽にしたまえ。それからこちらを向いてしゃべるように」
「はっ、ありがとうございます」
素直に向こうから折れてきた。これは、なかなか。
 内心でおっさんの評価を上方修正しながら、言われたとおり、おっさんのほうを向いて休めの姿勢をとった。おっさんと目が合う。

 ……鋼の目をしている。煉獄に灼かれ、不純物を叩き出され、さまざまな要素を加えられ、さらに熔かされ叩きのめされ。その工程を繰り返し、繰り返し。年月をかけて鍛えあげられてきた鋼の目だ。折れず曲がらず厳として支柱として立つ鋼。挫折も成功も屈辱も栄光も経験し、いまなお、後悔と不安に身を灼かれ続けながら、それら全てを踏み越えて己の道を貫こうと、あがき続けている人間の目だ。

 俺は、ふ、と口元が歪むのを感じた。おっさんの目にも、倣岸不遜と紙一重の不敵な光が浮かぶ。
 口元を笑みに歪めたまま、流れるように俺は敬礼した。これまで繰り返してきた幾百の敬礼の中でも、一番の出来栄えだった自覚があった。
「改めまして。高町二等空尉であります。お会いできて光栄です。」
おそらく、管理局に入局して初めて、俺は上位の人間に対し、形だけでない敬意をこめた挨拶をした。おっさんが悠然と、だが、きっちりとした答礼を返してくる。
「地上本部首都防衛隊、レジアス・ゲイズ少将だ。」
おっさんの口元も笑みに歪んだ。
 敬礼と笑みを交わしたまま、数瞬。俺達は同時に敬礼を解いた。視線は交錯したまま。だが、すでにそこには敵意や悪意はわずかにも含まれていない。
「いらぬことを言ったようだな。すまなかった」
おっさんが軽く頭を下げると、あたりの空気がざわりと揺れた。驚いたのだろう。地上本部の重鎮、レジアス・ゲイズの噂は、勢力争いに関心をもたない俺の耳にまで入っている。だが、本物の彼と出会い、視殺戦を交わした俺にしてみれば、彼のとった行動は彼の人間性からして自然なことだった。
「お気遣いなく。魔法と精神論だけで仕事をこなせるという風潮は、私もよく目にします」
笑みを含んだ、柔らかな俺の声に、おっさんはまた笑みを浮かべた。さっきとは違う、嘲りと悔しさが微量に含まれた笑みだった。
「君のような人間が増えればな……。高ランク魔道師の力が歴然としている以上、なかなか難しい。」
俺は意外に思った。これほどの男でさえ、魔法の力の派手さに目を奪われて、本質を見失っているのか。軽く肩をすくめて、俺は言葉を返した。
「強力な質量兵器は、かつて世界を滅ぼしましたが、犯罪はなくせなかった。高ランク魔道師ではなおさらでしょう?」
一気に周囲がざわめいた。おっさんもわずかに目を見開いて硬直している。意外な間抜け面に、思わずクスリと笑いが漏れた。
「魔法は安全で、クリーンなエネルギーよ。質量兵器などと同一視するなんてどういうつもり?」
オーリスと呼ばれた美人さんが口をはさんできた。詰問口調になっている。
 もっとも、これがこの世界の常識だ。そもそも質量兵器が禁止されて70年近くも経てば、本物の質量兵器を知るものなど、ほとんどいないだろう。実際の使い方や運用のノウハウとくればなおさらだ。この世界のヒステリックな反応を思えば、焚書よろしく消し去られ、保管や、まして研究などもってのほかの扱いになっているだろう。それ故に、本質を見失っている。
 さて、邪教の経典というべき質量兵器の運用マニュアルが焚書させられるべき存在なら、邪神そのものといえる質量兵器と、この世界の信仰対象たる魔法とを同一視する人間はどうなるものか。中世よろしく異端審問の上、火炙りか? いや、俺は魔王だしな。悪霊退散の踊りでも踊ってくるかも知れんな。
 愚にもつかんことを考える。

 いかんいかん。

 気を取り直して現状を分析する。ちょっとどじったかなあ、と不特定多数の前で本音をもらしたことを振り返り、しかし口に出した以上、半端な撤退は却って危険かと心を決める。正直なところ、ストレスも溜まっていたのだ。
「ところで、魔法が安全というのはどういうことですか? ランクによっては、一人で都市の1つや2つ、容易に消し去れるのに」
「……あなた、教育は受けたの? 誰でも使える質量兵器と限られた人間しか使えない魔法。安全性を比較するなんてナンセンスだわ。士官教育をやりなおしてきなさい」
やれやれ。感情的に反発されてもね。当人に自覚はないようだが。周りの連中もこの論理だけで納得している以上、洗脳に近いな、まったく、もう少し自分の頭で考えてみろ。
「お言葉ですが、都市や世界を滅ぼせるような質量兵器は誰でも扱えるようなものではありません。高度な教育を受けた軍人の中でもさらに限られた人間が、それも何重ものロック解除や他者の承認を使用に際して設けられ、さらには文民統制の元、運用されていました。歴史書を読み直されてはどうですか?」
オーリス嬢が言葉に詰まる。まあ、次元世界で、地球と同じような兵器管理がされていたかどうかはしらんが、マニュアルが残ってなければ、わかりゃせんだろう。マニュアルと現実の乖離ときたらなおさらだ。
「使用者個人の良心しか歯止めのない魔法に比べて、人的・物的システムで何重ものロックが掛けられた質量兵器。ああ、いわれてみれば、安全性の比較を議論するなんてナンセンスですね。」
質量兵器優位は一目瞭然でしょう、と語尾に含ませる。
 俺の言葉を聞かせたいのは周りの連中全て。お嬢一人をやりこめるのが目的じゃない。まあ、矢面に立ってもらって悪いとは思うが。大体、質量兵器のひとくくりで、ピストルと核ミサイルに同一の対応をとろうと考えるのがおかしいのだ。
「でも、魔法には非殺傷設定があるわ!」
突破口をどうにか見つけたつもりのオーリス嬢。だから、本質を取り違えてるんだって。
「質量兵器にも相手を殺さないで無害化する兵装がありますよ? 魔法がプログラムによって物理現象を生じさせる技術である以上、科学によって物理現象を生じさせる質量兵器との違いを、効力の面で比較したところで無意味です。
 問題にすべきは、運用面。まあ、それも、次元世界全ての魔道師の意思と行動を管理することと、次元世界の全域で質量兵器の悪用を防ぐことのどちらが困難か、という思考実験にしかなりませんが」
さっきまでざわついてた奴らも、今は声を発しない。刷り込まれた価値観を真っ向からひっくり返されて、咄嗟に反応できずにいるんだろう。今は、これ以上話しても身にならないと見て、俺は、話をあいまいに締める言葉を、適当に考えて発しようとした。 
「……君の意見には頷かされる部分もあるが、犯罪対策の面から言えば、どうかな?」
おっさんが蒸し返した。いや、確かに最初の論点はそこだったが、まだ引っ張るか? 御付きがいいとこなしで終わったのを自分の恥と勘違いする馬鹿とは違うタイプのはずだが。
 視線をあわせると、純粋な目で真剣に見返してきた。……これは真摯に意見を汲み上げようとしてるのか。仲の悪い部門の。一士官から。こんな人目のある場所で。地上の守護者と呼ばれるほどの男が。
 俺の中のおっさんの株がさらに上がった。よかろう、全力を尽くそう。

「高ランク魔道師は高破壊力を持つ砲台であり、また強固な防壁であります。その力を制限なく発揮できるならば、1都市を制圧することも可能なのはご存知の通りであり、いわば、1個人にして数個部隊に匹敵する大戦力といえます。」
基本にして共有する認識から入る。
「しかしながら、都市部における戦闘は小規模且つ小範囲でおこなわれることが基本であり、高ランク魔道師はその力を制限されます。
 制限された条件下での高ランク魔道師は、大戦力ではなく、飛びぬけた力を持つ1兵卒にすぎません。そして、個々の場面はともかく戦略的・戦術的状況下では、優れた兵卒1人より、個々の兵卒の能力は低くとも連携の取れた部隊の方が戦果を上げます。」
「高ランク魔道師は1人いれば戦略単位として数えろ、ともいうがな。」
おっさんが口を挟む。
「はい。例えば、広域に渡り、小規模の戦闘が多数行われているような場合、高ランク魔道師の打撃力と機動力は、戦略的にも効果を発揮するでしょう。しかし少将。」
あえていったん言葉を切る。
「人間が万物の霊長と言われるようになったのは、個々の戦闘力が高かったからではなく、集団としての戦闘力が優れていたからです。
 個々の戦闘力が高いだけの集まりが、集団としても強いのならば、今ごろ人間は、竜や猛獣の餌としてのみ存在を許されることになっていたでしょう」
にやりと笑った。
 おっさんは一瞬目を丸くし、ついで豪快に笑った。
「ははははははっ! なるほど、餌としてか!」
「ええ、餌として」
「くっくっく、ならば竜や猛獣を倒してきたように、犯罪者どもを倒してやればよいわけだ。……例え高ランク魔道師が敵方にいようとな」
暗喩を理解したか。いや、理解するだろうと思って俺は話したし、理解したからこそ、おっさんは爆笑したのだろうがな。
 人間の強みが、空間的・時間的に集団であることにあるのは事実だ。そして地球では、近代以降、組織化され統率されることで集団の強さは増している。個人個人の強さに頼った戦闘など、今では戦闘とは言わん。そんなのは中世の話だ。

「釈迦に説法かもしれませんが」
まだ笑いが止まらないらしい、おっさんに向かって続ける。……いや、こんなに受けるとはな。高ランク魔道師を獣あつかいしたのがそんなによかったか? 俺も一応高ランク魔道師なんだがな。
「相手がこちらより大きな戦闘力を持っていたとしても、いかにしてそれを発揮できない状況におくか。発揮したとしてもこちらが被害をうけない状況にするか。こちらの攻撃が相手にとって最大限の被害となるための状況をいかに整えるか。それを可能にするのが戦術であり、人間の知恵でしょう。魔法はそれを達成する数多の方法のうちの1つにしか過ぎません。むしろ、魔法を重要視する思考の相手なら、魔法を用いることは、フェイクやブラフとしての使用の場合に大きな効果を発揮するでしょう。」
裏返しに言えば、魔法を警戒している相手に魔法だけをぶつけることは力押しでしかない。右ストレートを警戒しているとわかっている相手に、右ストレートだけ使って攻めるボクサーがどこにいる?
「ふむ、なるほど。示唆に富んだ内容だ。参考にさせてもらおう。」
ようやく笑いをおさめたおっさんがうなずく。まだ目には笑いの名残が踊っていたが。
「また、地上の犯罪の傾向を見ますと、魔道師と非魔道師の混成組織によるテロがダントツですね。ついで、魔道師による違法行為、違法物品の取り扱いと続くわけですが。
 この状況でも、カウンターテロ部隊が存在しない。個々の部隊が個別に対応している。それはつまり、カウンターテロの専門訓練を受けず、カウンターテロ専門の装備も持たない人員が、個別に蓄積したノウハウで、個別に対応しているということです。部隊横断的な戦術検討プロジェクトがあるなら別ですが、寡聞にして、聞いたことがありません。
 錬度を上げる、と言えば、魔道師ランクを上げる訓練か、単純な対魔道師戦闘訓練が一般的ですが、犯罪抑止の観点から考えれば、各犯罪別の発生状況に即した戦闘訓練をおこなうほうが、効果が見込めるでしょう」
「うむ、言われてみれば、もっともだな。戦技教導隊では、空や海の武装隊にそのあたりの指導もおこなっているのかね。」
「はい、いいえ、遺憾ながら。
 私もつい2ヶ月ほど前に教導隊に所属して、これまでは、まだ。いろいろ調べたり、検討したりしてきたのみで、提案には至っていません。今後、必要性を進言し、教導プログラムを作成していきたいと考えている段階です。お恥ずかしい限りです。」
口で言うなら誰でも出来る。おっさんが真摯に意見を汲み上げようという姿勢を見せたから、実現に至っていない、構想段階の話までしたが、本来なら、「なら、それに関する具体的な資料をもってこい」と言われて一刀両断だ。1個人の、数字や事実での裏づけもない言葉を、別部署の将官にぶつけるなんざ、ただの横紙破りだ。その意味では、俺はおっさんに甘えたともいえる。

 おっさんは気にした素振りも見せなかった。
「いや、我々自身で考えるべき問題ではある。無論、教導隊の豊富な経験を参考にすればよりよい方策が練れるだろうがな。もしものときは、貴官の知恵も貸してもらえるのかね?」
「我々はそれが職務です」
「うむ。」
やけに大きくおっさんがうなづいた。ん? 今のやりとりに何か、そんなに反応するところがあったか?
 ちょっと戸惑う俺をよそに、おっさんが別れの言葉を告げた。
「ではな、高町空尉。有意義な時間だった」
「はっ、お役に立てたなら幸いです」
敬礼する俺に答礼を返し、おっさんが去っていく。付き従う美人のねーちゃん…オーリス嬢。
 しばらくおっさんの背中を見送ってから敬礼を解き、俺はきびすを返した。いまだ、ざわめいている通路を歩いていく。


 数日後。俺は着任時に1度挨拶したきりの部隊長に呼び出された。
「こないだ、首都防衛長官殿に大演説かましたそうじゃないか。」
「いえ、そういうわけじゃないんですが」
「質量兵器の有効性をぶちあげたらしいな。けっこう噂になってるぞ」
「魔法万能主義になじめないだけですよ」
「だが、まあ、「陸」の長官殿には気に入られたらしい」
「は?」
「あの人も質量兵器有用論派だからな。うちに来た人員派遣依頼書に、特記として「可能ならば、高町二等空尉の派遣を希望する」とある。ほれ見てみろ」
「……地上本部首都防衛隊・長官直属・部署横断プロジェクト・地上犯罪低減計画作成プロジェクト……」
「まあ、自業自得だな。ちょっと回り道してこい」
「は。高町空尉、地上本部へ出向いたします」
そんな会話を経て、俺は異動後2ヶ月そこそこで、戦技教導隊から首都防衛隊へ出向することになった。
 ま、左遷のつもりだろうな、上の連中は。だが、あのおっさん、大した反応の早さだ。あのおっさんの直属なら、なかなか面白いことになるかもしれん。

 このときの出向を起点として、俺の管理局ライフが望んでた方向から大きく捻じ曲がっていくことに、このときの俺はもちろん気付いていなかった。


■■後書き■■
 実はさりげに隙のあるなのはの意見。それを自覚しつつも相手に突っ込ませずに、自分の流れで押し切るのが魔王クオリティ。
 今回は、息抜きがてら、ちょっと閑話っぽい話になりました。でも、今後の話の流れには、欠くことのできない重要な分岐点……に
なるのかなあ。考えてるところまで書けたら、それなりに重要な意味を持ってくるはずです。




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