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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 二十九話
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/24 12:03
 もうすぐ日付が変わろうとしている。
 ここはクラナガン東部の森林地帯。暗闇の中、見えもしない視界の先を俺は静かに見つめていた。

「高町空佐、特別部隊隊員、揃いました」
「わかった」

 背後からかけられた声に俺は振り向き、わずかに高くなっているその場所から、集まった局員達を見渡した。

 さきの地上本部での会議の結果を受け、急遽編成した部隊のメンバーが顔を揃えている。指揮官級は先頭に並んでいる。
 捜査部門指揮官としてフェイト、その下にギンガ、ティアナ以下の4名。制圧兼後衛部門指揮官として本局武装隊の三佐、その下に1個大隊の武装隊。突入部門として、戦技所属の4名で構成した俺直轄の特別小隊。協力者として、聖王協会所属、シスター・シャッハ。いまはここにはいないが、査察官のヴェロッサ・アコースも、この部隊と連携して動いている。



 ラボ攻略の基本戦術は、突入部門と捜査部門が、ラボ内に強行突入、制圧部門が地上で管制(妨害を超えられたなら、だが)、各種支援・兵站活動及び、脱出しようとする存在と外側からの襲撃への警戒。安全確認と地上の脅威の排除が進めば、制圧部門の一部も内部に進攻するが、彼らの任務はあくまで制圧であって、強敵の撃破や捕縛は、捜査部門と突入部門がおこなう。捜査部門には六課の武装隊がつくから、人数が半減している機人相手ならなんとかなるだろう。シャッハも同行するし、ヴェロッサはすでに先回りして内部の様子の確認と、可能ならトラップなどシステムの無効化をおこなわせている。

 ハヤテとヴィータは地上本部に残した。スカリエッティが撹乱として市街地になにか仕掛けたときの保険だ。
 本部防衛戦でAMF戦を経験したとは言え、1度だけの経験で地上部隊にAMF戦への対応を丸投げするのは不安が残る。また、いざと言う場合には、ハヤテと教会のコネクションを使って、レジアスが強行策をつかえるようにしておくことも視野に入れての配置だ。うまく評議会と本局の犯罪の証拠をラボから確保できれば、その必要はないが、まあ、そうそううまくいかないのが世の常だ。


 俺はケプラーで編んだ戦闘服の上を覆うように、耐魔力低下と引き換えに耐衝撃性能を高めたバリアジャケットを展開している。潜入作戦なので、夜戦仕様の色だ。その上から羽織ったコートは、地球からとりよせた耐弾仕様の夜間迷彩軍用コート。膝下まで丈があるから、太腿に巻いたガンベルトに差し込んだ大型リボルバーは、コートに隠れて見えないだろう。
 ガンベルトもバリアジャケットと同色だ。注意して見なければ気づかれまい。気づいても質量兵器のホルスターだと思いつける奴が、どれくらいいることやら。
 ほかに腰の後ろにベレッタM8357と、背中にコンバットナイフ、コート内に幾つかの質量兵器を隠してある。拳銃型デバイスは、待機状態のリングにして両手首に嵌めている。外観が同じだから、M8357も、見ただけでは拳銃型デバイスと勘違いするだろう。実際に使えば、一発でばれるが。




「大丈夫なんですか、あの三佐?」
周囲の地形確認から早めに戻ってきた戦技の三尉が、やや不安げな顔でいうのに、笑みで返したのを、ふと思い返した。
「問題ない。頑固で昔気質の魔道師で、新指導要綱や中心になって発案・推進した俺を嫌っちゃいるが、犯罪者のことはもっと嫌っている。対応を間違えなけりゃ、問題は起こさんよ」
 そう、こちらが犯罪を仕組んでいるのだと気づかれるような、迂闊な真似をしない限りな。


 彼女が讒言ととられかねない話を振ってきたのは、本局から合流した1個武装大隊を指揮する三佐が、一般には、武装隊には少ない対「陸」強硬派のひとりと認識されているからだ。それは間違った認識ではないが、十分なものでもない。
 あの男は、昔ながらの魔力至上主義、魔道師優越主義で、魔道師の「ノーブリス・オブリージュ」を信奉している。だから、魔法に重きをおかない「陸」の行動指針を嫌い、その行動指針の元になった「新指導要綱」とその発案者たる俺を嫌っていることを隠そうとはしない。
 が、入局当初から自分の信念に反することには上官命令であろうと度々反発し、若い頃は俺並みの回数の懲罰を食らっているという事実もあるのだ。

 対「陸」強硬派といわれていても、本局主流派の高位高官の覚えがめでたくなったのは、「陸」の勢力伸張が著しくなったこの数年で、彼自身が政治的な行動をとったことはない。精々が、「陸」の武力運用方針を非難し、俺の教導方針を批判し、魔道師優先主義の復権を声高に唱える、ただそれだけなのだが。それが、本局の高官たちには、見返りを求めない硬骨の同士、あるいはトロくさい便利な道具に見えるらしい。馬鹿な奴らだ。

 「陸」「海」「本局」なんて枠組みを外し、派閥だの政治だのを通さない目で見れば、彼の行動は昔から終始一貫している。即ち、犯罪の撲滅。そのための効率的手法の追求。
 彼の場合は、本人の高い資質とプライドのために、魔道師優先主義をその手法に据えただけで、別に「陸」を敵視してるわけでも俺を排除したがっているわけでもない。間違っていると主張し、修正すべきだと提議しているだけなのだ。言葉遣いはかなり過激だが、中傷的表現は一切用いない。
 人付き合いに不器用なせいで、周囲に強硬な印象を与えるのは、どこかレジアスを思わせるところがあって、俺はけっこう激しく批判されても、彼を嫌いにはなれなかった。信念に沿った行動をとる、筋の通った男だとも思っている。


 俺が、本局の武装隊のなかで、あえて彼と彼の大隊に、スカリエッティのラボ襲撃作戦への応援を依頼したのも、そのあたりが理由だ。

 俺を嫌っていようが、犯罪に対処するためなら一時的に、階級が上の俺の指揮下に入るくらいは許容する男だ。俺が、本局と「陸」との政治的もめごとで、武装隊増援の要請が撥ねられていることと、武装隊の増援の必要性を、資料と証拠つきで説明すると、政治的配慮やら命令の有無やらの規区をあっさり無視して、指揮官権限による部隊の独自行動を即決、俺たちへの協力を明言した。

 この辺は、彼の固い信念とプライド、変わらぬ反骨精神、それに本局の、信頼する人間には大きな裁量権を与える方針が味方した。あっさり彼が部隊を率いて地上に降り、俺たちと合流できたのも、クロノたちの上への働きかけや、俺の信奉者達が上層部へと抗議につめかけて、強硬派の注意がそちらに向いていたのが大きいだろう。穏健派や「陸」を仮想敵に設定するのはいいが、そのほかは自分達の賛同者と思い込んで注意も取り込みもしていなかったのが、強硬派のミス、あるいは傲慢さだ。



 ちなみに、戦技の連中は、各地に散っている中で、「たまたま」休暇になったり、ミッドへの出張が「急に」入ったりして、「偶然」来てくれた。手を回してくれた爺さんと、処罰覚悟で協力してくれた戦友たちに感謝は尽きない。任務中の部隊から、急遽、突発的な理由で1人送り出すには、部隊全体が共謀しないと無理だ。
 まあ、彼らがここにいるのは「たまたま」事態を知って「偶然」時間があるので、義務の範囲外だが手を貸す、ということになっているので、作戦が成功すれば、そう大事にはならないだろう。移動や休暇の許可を出した次席参謀長は、面倒なことになるだろうが、あっちこっちにコネのある老獪な人だ。大したことにはなるまい。




 そんなある種、どうでもいいようなことを思い返しながら、俺は隊員達に告げるべき言葉を整理する。
「布陣は……」
整列した局員達を見回す。

「ハラオウン執務官が、スカリエッティ確保と当研究所の差し押さえ、内部の抵抗の排除、ほか捜査と情報収集に必要な措置の総指揮を取れ。手がつけられるところから、情報収集を始めていい。必要に応じ、指揮権を委譲し、その能力を全開にしての先行は許可するが、単独行動は避けろ」
 俺の目配せに応じて、20代の女性局員が進み出た。
「彼女は、戦技でも空間把握とそれを生かした援護射撃に優れる。飛行速度はとびぬけているわけではないが、彼女が後背にいることの安全性に比べればささいなことだ。ハラオウン執務官は当作戦中、彼女とのツーマンセルを維持しろ」
「……はい」
空いた間に含まれた感情を俺は無視した。

「ハラオウン執務官直下には、補佐としてナカジマ陸曹、またランスター陸曹待遇が指揮する機動六課武装隊がつけ。三佐の部隊は、執務官の命令系統には敢えて組み込まないが、目的は同じだ。適宜、連携されたい。ハラオウン執務官は若いが経験豊富だ。このような事態にも慣れている」
「覚えておく」
変わらぬ仏頂面で三佐が答える。残った人間に目を向ける。
「戦技の残る3人は、私と共同で、ゆりかごと思われる建造物を抑えに動く。連携はとれるな?」
馴染み深い戦友たちは、不敵な表情で敬礼を返してくれた。 

「よし、ここまでで質問は?」
「よろしいか?」
手を上げたのは、三佐だった。
「我が隊からも一個分隊を、高町空佐の部隊に加えて欲しい」


 監視目的。誰でも想像がつく。
 政治状況的には妥当な要求といえるだろう。露骨な態度に険しい表情をする人間が何人かいるが、三佐は気にもとめない。相変わらずの御仁だ。ただ……
「相当、過酷で且つ余裕のない道行きになる。多少の腕自慢では戦死確定だが?」
「その心配は不要だ。彼らも優れた武装隊員だ。彼らの能力は多少ではないし、覚悟もできている」
「高町一佐の指揮下に入ること、光栄であります! 全力を尽くす所存であります!」
敬礼する若い三尉と、その後ろでやはり敬礼している4人。魔力量はかなり高いし、練度も悪くないようだが……。

 俺はため息をついた。断りたいところだが、断るべき場面ではない。こういう真面目で能力も高い奴は、若いうちは、自分の能力を高く見積もりすぎて、ただでさえ死にやすいのに。こういうところが、俺が魔法至上主義を嫌う理由の一つだ。才能だけで見て、それを支え発揮する精神や心の状態をおざなりにしている。


 俺も好き好んで、古巣の戦技で固めたわけではない。研究所の確保とゆりかごの確保、共にやる必要があるから部隊を分ける必要があり。わけても、ゆりかご側にスカリエッティが戦力を集中するだろうと見込んだからこそ、そこを突破、制圧できる戦闘力と、俺との連携がとれる人間を選んだら、戦技の4人になっただけだ。……まあ、三佐の性格と俺への見方的に、身内で固めて情報操作するんでは、という疑いがでるのも無理ないんだが。

 けれど、現実に、武装隊で腕が立つ程度の練度では、足手まといにしかならない可能性が高いし、現状の推測から、俺は足手まといは切り捨てていく気でいる。



 スカリエッティは間抜けじゃない。



 ヴィヴィオから発信された信号をなんとか拾い上げ、各種情報とつきあわせて、候補地を絞り込んだ地上本部分析班の能力と努力には頭が下がるが、それが、偽装された情報を元にしていたり、管理局内部からスカリエッティへ、こちらの動きが丸々漏れていたりしない保証は、無い。それらの可能性を踏まえて、なお、俺はオーリス嬢の執念に賭けた。

 だが、それは同時に、俺とともに赴く局員達にも同等のリスクを背負わせることにもなる。それでも、保険としてつけたはずの発信機に頼らざるを得ない状況になったことに、自らの不手際を強く感じている彼女、床に呑まれる寸前のヴィヴィオの表情を忘れられない、と漏らした彼女の気迫に俺は賭けた。
 血がつながらずとも仮初のものでも、家族の情が、ときにあらゆる理論や計算をくつがえし、極小の可能性を突いてみせた事例を、俺は何度かみている。オーリス嬢とヴィヴィオの間に、それと同等の絆が築かれているのだと。己の身を削るように、涙や不安を抑えてただひたすら情報の収集と解析を指揮していた彼女の姿に、俺はそう感じた。……そう、陰陽師の勘はけっこう当てになるものだ。


 そして、既に、随伴している管制仕様のヘリに積んである可搬式センサで地中探査をさせ、ゆりかごらしき巨大物と地中建築物を確認している。


 ここがスカリエッティにとって重要な拠点であることはおそらく間違いない。だが、それがわかっても、戦いの前提条件が揃ったにすぎない。

 もし俺がスカリエッティ側だとして、重要拠点の周囲になんらかのセンサを張ってないなどということがありうるか? 現在の状況で強襲を受けたらどう対応する? 内部に引き込み、包囲分断して殲滅を仕掛けるか? 向こうから出撃して撃滅にかかるか?
 ……おそらく、時間稼ぎ程度しか行なわない。今日の本部襲撃で、戦闘機人とガジェットは、AMFの支援を受けてなお、大きな損害を受けている。AMFが濃くなっても、研究所内に仕掛けがこらしてあっても、最終的な結果は変わらないだろう。管理局の精鋭を、スカリエッティの駒は防げない。……今日の襲撃までだったら。


 ゆりかごと聖王。今の奴には、それがある。あるいはそれしかない。

 詳細は不明だが、古代に君臨していた超兵器と、その操り手にして自身も強大な力を振るったという存在などと、誰がやりあいたいものか。スカリエッティとしては、それこそが望む形の対決なんだろうが、問答無用の爆撃を仕掛けなかっただけで、十分な譲歩だ。起動する前に潰す。つまり、時間との勝負だ。
 そしておそらく、スカリエッティは、起動するための時間を稼ぎにかかる。そこで勝てば、この制圧戦は楽に済む。後手に回れば、伝説2つとご対面、というわけだ。


 当然、ゆりかご襲撃は速度最優先、脱落者はおいていくし、分断されても合流を優先せずに各個にゆりかごを目指すよう指示してある。スタンドアローンでの戦闘経験も少なからずある戦技の連中ならそれでもなんとかなる。だが、連係しながら相手を掃討していく任務が多い武装隊の隊員が、そういう戦術指針の下で、管制やその他の支援も不十分な環境下、十分実力を発揮できるとは考えにくい。



 だが、政治的には断るべきではない。戦争は政治の1手段ーこの作戦が戦争の定義にあてはまるかどうかは別としてーこの部隊編成で、地上本部を襲撃された当日にスカリエッティ捕縛の行動をとる、ということ自体が、すでに管理局内での権力闘争の一環としての性格が強い。
 結局、俺は三佐の要求を受け入れた。頭の中で、三佐の部隊からの突入班への合流人員を殉職者とみなすと共に。







「それでは……」
ざっと打ち合わせを終え、状況開始の号令をかけようとしたとき、不意に俺からみて右方向数mの位置の空間が揺らぎ、通常の3倍近い大きさのウィンドウが開いた。そこに映るは、白衣を着た長髪の、端正と言えなくもない男。喧騒が沸き、隊列を乱そうとする部隊員達。
 俺は視線をウィンドウに向けたまま、左手を掲げた。

「静 ま れ」

 特に声を張り上げたわけではなかったが、喧騒は止んだ。
 俺は半身でスカリエッティに向き直る。俺の視線に応えてスカリエッティが口を開いた。


「打ち合わせは終わったようだね、高町くん?」

まったく回りくどい男だ。自己顕示欲が強すぎる。いまも悪戯に成功した子供のように笑っている。

「ああ。待ってもらっていたようですまないな」
「とんでもない! 私だけ十全の準備を整えているなど、不公平はなはだしいからね。君も足手まといが多くて大変だろう。それが邪魔にならないように苦労している時間に割り込むことなどできないよ」

 武装隊の三佐が怒気をはらんで、踏み出した。
「貴様! 犯罪者風情がなにを…!」
そして、スカリエッティの異様な底光りを放つ双眸に射竦められた。歴戦の武装隊員、100人からの人員を従える壮年の男が。権威にも権力にも必要と認めなければ従わない、硬骨の男が。瞳の光だけで、言葉と動きを止められた。

 スカリエッティは、そのまま軽く全部隊員をその視線でひと舐めすると、俺に視線を戻した。噴き上がる黄金の狂気を、凍てつく荒野の色の瞳が受け止める。


 しばらく沈黙が流れ、再びスカリエッティが口火を切った。


「楽しみにしていた、このときを。君という存在を乗り越えてこそ、私の理想は証明を得る。君という存在と競い合うとき、私の命の炎がすべてを賭けて燃え盛る。

 管理局の、最高評議会から君を必ず仕留めるよう、指示を受けている。
 君を仕留めれば、彼らの許可を得ずに、地上本部を襲撃したことも不問に処すそうだ。

 だが、茶番はもう終わりだ。私はすでに、彼らが忌避しながらも求めていた絶対の力、聖王のゆりかごを手に入れている。これをもってすれば、もはや彼らに従いつづける理由は無い。屈従の日々は終わりを告げた。

 だが、それとは別に、私は君を、命をチップにした舞踏会にお誘いしたい。血しぶきが舞い、恐怖と狂気が支配するワルツを君と踊りたい。
 招待を受けてくれるかい?」

「こんな深夜に押しかけてきたのはこちらだ。招待してくれるというのなら、喜んで応じよう」

「そうか! 嬉しいよ。十全の準備を整えて歓迎しよう。ご来訪をお待ちしている」

スカリエッティが仰々しく礼をし、ウィンドウは消えた。
 とたん蘇る喧騒。スカリエッティの言葉の真偽を互いに問い交わす声。俺に詰め寄る数名。俺は、彼らを静める作業をすこしだけ先送りにして、軽いため息をついた。


 さて、予測を悪い方向に目一杯修正か。伝説との対決……やれやれ、俺はバトルマニアじゃないんだがね。








 スカリエッティのラボは天然の洞窟を利用して拡張した形で、突入当初こそ周囲は土に覆われ、希代の科学者の研究所とは思えないような見た目だったが、進んでいくとやがて金属ともセラミックともつかない物質で構成された通路にたどりついた。
 俺の知る限り、このラボの地下スペースは、ちょっとしたダンジョンといってもいい広さと構造をもつ。管制センターから各種防衛設備を作動させつつ、ガジェットでの波状攻撃をおこなえば、かなりの錬度の部隊でも敗退を余儀なくされるだろう。戦闘機人が、中核になる戦力を潰せばなおさらだ。
 だが、わざわざ真っ正直に相手の盤上でやりあうことはない。


 相手の本拠地に乗り込んだ時点で、相手の盤上に乗るように見える。だが、それを逆手にとれば、相手の対策をやりすごして無力化することは可能だ。相手が防御作戦をキッチリ練っているほど、その隙をつけば、当初の方針からの転換は容易にはできない。


 もちろん、スカリエッティの生み出した機人たちが練り上げた防御作戦の隙を見つけるのは困難。というか、困難に見える。だが、地上本部防衛戦をへて、機人たちについて暫定的ながら結論を出した俺にとってみれば、それほど難しいこととは思えなかった。

 彼らは知識が豊富であり、論理は緻密だ。だから、彼らの考えた盤上で隙を探すことは、正直、無意味だと思う。そんなことをせずに、盤を蹴り飛ばすか、盤上以外の場所でやりあえばいいのだ。彼らは、彼らの植え付けられた知識の範囲内では完成度は高いだろうが、その範囲外であれば、素人と言っていい。

 そして、彼らの知識に無いだろう要因である「無限の猟犬」がとっくに動いており、すでにかなりの内部情報の入手と相手の管制手段の無力化に成功しつつある、との報告が入っている。ラボを相手どる捜査部隊は、機人たちの持つデータを過去のものとするだけの成長率と潜在能力をもつ、六課の戦闘魔道師たち。経験不足の部分は、シャッハと戦技の二尉がフォローするだろう。



 その考えの元に、俺はなんの不安も持たず、俺の率いるゆりかご制圧部隊とともに、フェイトらと別れ、地上からの探査でおおまかな位置を割り出した、ゆりかごと推測される巨大建造物を目指して進んできたんだが……。


 さきほどのトラップで俺は1人、別の通路に隔離され、さらにガジェットの動きに対応していくうち、導かれるように、一本の通路に出た。道の先には、巨大な構造物の一部が見えている。

「……招待、か」


 分断を食らったときには、基本として、各個にゆりかごを目指すことになっている。戦力的に不安がある場合は、ほかとの合流を目指すか、撤退行動に移る許可も事前に与えてある。そして、俺がひとりでゆりかごを目指すことはースカリエッティの思惑通りだろうが、俺の想定内でもある。


 だが。

 咄嗟に俺は即断できなかった。




 フェイト、ハヤテ、ティアナの顔と言葉が鮮明に蘇り、俺はそれを慌てて打ち消す。だが、記憶はしつこくまとわりついてくる。

(お願い、なのは。無理しないで。無理して自分の心を殺さないで。わたしたちは貴女と一緒にいるから。親友だから。だから、なのは1人で無理をすることはないんだ)
(あの…な、なのちゃん。私、ずっとなのちゃんの傍にいるって決めてん。なのちゃんがいくなら、どこにでもいく。なのちゃんと一緒ならなんでもする。なのちゃんは、なのちゃんの思うようにしたらええ。私には、それを止める権利なんてない。
 でもな……その…、もし、すこしだけ私の我侭きいてくれるんやったら。自分が傷つくようなことはせんといて。必要のない危険に飛び込むようなことはせんといて。自分から堕ちてくよなことはせんといて。もしそうなっても私はついてく。どこでも、どこまでも私はついてくけど…でも、できれば、なのちゃんの辛いところは見とうない。辛いと思ってないやろけど、私にはそれが余計に辛いんや。わがままやとは思うんやけど……。)
(なのはさんがなにに苦しんでるのか、なにを抱えてるのか私は知りません。でも、いまのなのはさんは間違ってます。私を張り飛ばして説教した人が、なに私と同じ穴にはまってるんですか。 
 きちんと周りを見てください! 貴女が私に言ったことですよ!)

振り払う。押し殺す。集中する。この先にいるのは、ジェイル・スカリエッティ。魂の鏡像。俺を理解するもの。奴が待っている。俺を、俺だけを待っている。










「……征くか」

全てを振り切り削ぎ落とし目をそらして、俺は呟き、足を踏み出した。





 




 ゆりかご内を駆け抜ける。ガジェットは極力相手をしないで、牽制や陽動程度の対応ですり抜けていく。AMF下では、負荷のかかる魔法は温存しておきたい。

 ゆりかごに入って、すこし奥に進んだら、AMF濃度が一気に上がった。一応、魔力を意識して体内に留めて全身に回すようにして、魔法発動の準備と肉体の強化をしはじめている。



 それなりに移動して、だいぶ中心部付近に近づいてきたと思われる頃。俺は微妙に勘に触る感覚を感じていた。


 どうも、背筋がチリチリするのだ。こういうときはあまりいいことはない。とはいえ、相手の待ち受ける拠点に単騎突入なんぞという馬鹿をやれば、これくらいの危機感はあっても当たり前かもしれん。思考の一部でそう考えながら走っていて、その一歩に跳ね返ってきた感触に感じた違和感。

 脳内に最大音量で鳴り響いた警告に、反射で全速で真後ろに身体を投げ出す。俺の思考の一部と連結している阿修羅が、セットアップしていたクーガーと連携して、防御シールドを張った。


 衝撃と熱さ。わずかに遅れて轟音が全身を叩く。

 目も耳も眩む状態で、俺は辛うじて、俺が飛び退く直前に踏み込んだ場所から向こうが、炎と煙が渦巻き瓦礫が散らばる状態になっていることを理解した。半瞬でも反応が遅ければ、俺の命はなかっただろう。それでも無傷とはいかず、俺はぐらつく頭を片手で支えながら、なにが起こったかを把握しようとした。が…

 殺気!

 飛び退け……ない、シールド3枚緊急展開、響く爆音と衝撃。この攻撃と感触、チンクか! 通路の床か、あるいは全周か、金属に入れ替えて爆弾化して待ち受けていたのか。

 まだ意識がはっきりしていなかったのだろう、相手の手の分析に意識を割きすぎた。気づいたときには、すでに背後から輝く剣が俺に向かって振り下ろされ……俺は全速で身体を丸めて前に転がろうとしながら、片手の肘から先に魔力を一気に流し込んで硬化し、そこで剣を受けた。
 わずかな抵抗で切り飛ばされる片手。だが、そのほんのわずかな抵抗が、俺が致命傷を避けるだけのコンマ0何秒の間隙を作ってくれた。わき腹から背中にかけても大きく切り裂かれたが、深くはない。


 無様に転がって距離を取りながら、デバイスなしでディバインシューターの連打。ともかく、立て直す時間をつくらなくては。
 切り飛ばされた腕は痛みを通り越して、焼かれるような熱さを伝えてくるが、耐えられないほどじゃない。だが、出血で体力と精神力が削られるのは痛い。

 だが、向こうもこちらを立ち直らせる気はないようで、背後の爆炎から、短剣を投げつつチンクが飛び出してきて、さっきの双剣使いも動く姿勢を見せてその姿が霞み…後ろに来るな。


 刹那の勘。チンクの短剣をよける位置ー俺とチンクの位置関係的に1箇所しかなかったーに転がりながら、背中から順手でコンバットナイフを抜く。片膝立ちの姿勢で止まり、間髪いれず目も向けずに、頭越しに、ナイフを真後ろに突き出す。ぞぶり、と肉を刺す独特の感触と、刺された肉体が硬直する感触。素早くひねって相手の体内に空気を入れつつ、引き抜く。置き土産に、調整もしていない魔力を叩き込む。チンクの悲鳴のような声が響く。

「ディードッ!」

 その声と、屈んだ姿勢から床に片手をつき、足で地を蹴った反動を利用した俺の逆蹴りが、機人の顔面に強烈な衝力を叩き込んだのは、ほとんど同時だった。



 ディードとやらが、六課を襲ったときの記録を確認していたのが俺を救った。名前からして、後発に位置するナンバー、戦闘行動はおそらくまだプログラムに近い。六課襲撃時に多用していた、高速移動しての背後への回り込みを使ってくる、という勘に近い読みが当ったおかげで、1対1に仕切り直せた。もっとも、腕一本というのは、安い代償ではないが。



 さりげなく立ち位置を変えながら、ナイフを魔力で覆い、炎熱変換をかける。仲間の昏倒に気をとられたチンクが、その俺の動きに気づいて身構え、すぐに硬直した。肉の焼ける音と匂いが立ち昇る。
「……な……?!」
 チンクの反応を無視して、俺は出血の激しい傷の止血と消毒処理を終えると、あらためて、ナイフを指先でつまんでぶらさげながら、全身から力を抜いて、相手に対した。俺の視線に反応して、顔を引き締めるチンク。……だが、甘い。俺の応急処置を許さず、有利な流れに乗って連撃を続けるべきだった。

 片目と引き換えにゼスト・グランガイツを仕留めた猛者、ということだったが、あるいは、まともな戦闘ばかりで、狂気と妄執渦巻く、本能が剥き出しになった戦場は、経験がないのかもしれんな。

 
 チンクの次の動作の、「起こり」の直前に、その足元目掛けて、俺は軽くぶら下げていたナイフを投げた。咄嗟に重心を崩したチンクがたたらを踏む。その数瞬に俺はレイジングハートを起動しながらチンクから距離をとり、さらに、マルチタスクを利用して準備していたアクセルシューターを、連続で叩き込んだ。それを煙幕に、フラッシュムーヴを発動、置き土産に設置型魔法(ディレイド・マジック)をばら撒きながら、さらに距離を取る。レイジングハートをつかみ直し、脇に柄を挟んで固定する。

 魔法発動までの時間短縮と連射に特化した、クーガーを主力で戦うつもりだったが、肝心の銀銃は、切り飛ばされた腕に握られたままだ。咄嗟だったとはいえ、ドジを踏んだ。
 やや発動までの時間はかかるが、一撃の威力に優れたレイジングハートで戦うなら、距離が必要になってくる。確実にあてる工夫も。博打の要素が高くなった。かすかに自嘲が脳裏によぎる。


 爆炎が晴れきらないうちに、俺はショートバスターを、空間を制圧するよう、五芒星の形に五連射した。連射を終えて、すぐにビットを3個展開、魔力収集と収束を開始する。この環境でどこまで魔力を集められるかわからんが、戦闘機人を単発で行動不能に追い込むだけの魔法となると、信頼がおける魔法は少ない。

 爆炎から複数のスティンガーが飛び出すが、ばら撒いていた感知型起動シールドの1つに阻まれる。スティンガーを追って、チンクが飛び出し、これまた感知型のバインドとシューターに邪魔され…無視して被弾しながら強引に突っ切った。奴もここが勝負どころとみたか。
 

 連続してスティンガーを放ちながら、被弾も気にせず、バインドも切り裂き引きちぎり、機人特有の身体能力で刹那の間に距離を詰めてくるチンク。高濃度AMF下、しかも咄嗟に組んだ粗い構成とはいえ、ちょっと想定以上の身体能力だ。
 俺は殆ど全てを収束に回していた意識をそのままに、チンクとの距離を測る。足止めと撹乱にばらまいた多くはない設置型の各種魔法を強引に振り切ってチンクが迫ってくる。

 至近距離に迫った戦闘機人の戦士の姿が、細かいところまではっきりと俺の目に捉えられる。先端が焦げた銀髪。頬の火傷。むきだしになった機械組織。強い意志の煌く瞳。その隻眼の放つ輝きに、俺は一瞬、見とれた。

「うあああああっ!」
絶叫をあげながら、チンクが身体をひねり、背負っていた剣を引き抜きながら、それに疾走の慣性を乗せる。データにはなかった武装だ。おそらく、俺との対決のために準備したのだろう。
 この距離であの質量が爆発すれば、俺も勿論、彼女もただではすまないだろうが、彼女の瞳に躊躇はない。収束中の桃色の光を眼前に、チンクは真正面から、慣性と自身の身体能力をフルに使って、剣を俺に向かって霞むような速さで振り下ろす……

「スターライトブレイカー」

そして、振り下ろしきる前に、魔力の奔流に呑まれた。





 
 魔力光の名残が消えてから、俺は残心をとき、大きく息を吐いた。

 ギリギリまで相手を引き寄せ、撃ち放つ。集められた魔力は大した量にはならなかったが、きっちり収束した。
 直前まで収束中に見せかけたのは囮だ。かわされれば、距離的にも武装的にも次はない状況で、確実に一撃の砲撃魔法で仕留めるための手だったが、久しぶりに死線が見えた。


 ああいう目をした存在は怖い。こちらの予測を上回る動きを見せることがある。今回は彼女が必殺のために用いた慣れない武器と、彼女の小柄な体格に助けられたな。覚悟は見事だったが……。

 チンクの振るった剣がつくった、肩部分の裂け目を見る。肌には達していない。彼女の気迫が詰めた距離であり……気迫のみでは越えられなかった距離だ。


 思いながら、俺は、肘の先から切り飛ばされた腕に視線を移して苦笑した。やれやれ、甘く見ていたかも知れんな。とりあえず、治癒魔法を掛けておくか。苦手なんだがな。 




 

 応急手当とバリアジャケットの再構成を終え、一息ついて進みだす、その俺の目に意外なものが映った。思考は一瞬。足を進める先を変え、数メートルの距離をおいて立ち止まる。
 ぼろぼろになりながら。震える足で、それでも剣を床に突き立て。かろうじて立とうとする。その心の強さはどこからくるのか。 消えぬ戦意を隻眼にみなぎらせた、小柄な戦士がそこにいた。



 フェイトの言葉が胸に蘇る。

(「なのは。今夜の作戦では、非殺傷設定を解除しないで。
 捕虜になった機人の子とすこし話したんだ。戦いたくて戦ってた子ばかりじゃない。なにも知らないで、なにも知らされないで、ただ言われるがまま、大事な人の助けになりたくて、あの子たちは罪を犯してきたんだ。

 あの子たちは、きっと更正処分とそのあとの観察処分の処置になる。そうしてみせる。昔のわたしと同じ、ううん、もっとひどい、善悪の区別がついてないだけの、根はいい子たちだから。

 いま、スカリエッティと一緒にいて、まだ戦おうとしてる中にも、きっと、わかってくれる子もいると思うんだ。
 なのはがこれ以上、無理に命を奪う必要は無いって、わかってほしい」)


 俺がその言葉を受け入れたのは、その言葉に納得したからじゃない。このあとのことを考えると、局員のヒステリーを刺激しかねない殺戮は避けるべきだったし、なにより殺傷設定が必要だとは考えなかったからだ。
 戦闘機人は、戦闘機械としてはよく出来てるかもしれんが、戦士・軍人、どちらで評価しても未熟だというのが、本部攻防戦を終えての俺の評価だった。
 天与の能力に頼った戦い方しかしない。連携はとれているが、その連携をどうつなげていったら、自分達の求める結果を効率よく引き寄せられるか判っていない。要は、戦いの素人なのだ。そして俺は、能力だけが自分より優位な相手との戦闘など、前世でさんざん経験してきた。あの程度の基礎能力の差など、前世で戦ってきた妖怪・悪霊のたぐいと比べれば、ほとんどないに等しい。


 だが。

 俺の予測もフェイトの希望も踏破して、いま、俺の前に戦士が立つ。敵わぬと知りながら立ち向かう覇気をまとう「ひと」がいる。それが、本部攻防戦で、俺に怯えをみせていたチンクだというのが、また苦くも喜びを含んだ笑いを誘う。

 スカリエッティよ。お前は、卓越した新兵器をつくりだすことには失敗したかもしれんが、あらたな生命を生み出すことができたようだな。人形でも機械でもない、自分の意志で生きようとする生命を。「ヒト」と呼ばれて恥じない存在を。



 俺はかすかな希望を持っていた自分を心の中で嘲ると、残った片手をコートの内側に突っ込み、そこに固定していた手榴弾を1つ外す。本体と違って、外れないように固定してある安全ピンが、手榴弾本体から抜ける。1・2。心の中で静かに数えると、俺は無造作にそれを、動かない身体でこちらを睨みつづけるチンクの眼前に放り、

「プロテクション」

自分の前に障壁を張った。その向こうで爆炎が渦巻く。そして、その煙が晴れたとき、そこにはもつれあって倒れる2つの人影があった。いや、正確には、一方が一方を押し倒している。庇われたほうは殆ど無傷。その手が震えながら持ち上げられ、
「ディー……ド?」
肩に触れられた茶色い長髪の凛とした顔つきの少女は、そのままずるりと床に向かって身体を滑らせた。


 ……素早くディードの身体に視線を走らせる。手榴弾の殺傷能力は意外に低い。だが、至近距離での爆発は、さすがにそれなりに効果があったようで、ディードの背中十数箇所に、手榴弾の破片が突き刺さっていた。
 もっともそれだけではないだろう。並みの肉体なら首から上が吹き飛んでもおかしくないだけの蹴りをうけ、ダメージが抜けにくい腹に深い傷を受けた上に魔力を叩き込まれた身体で、高速機動し、至近距離で爆圧を受けたんだ。

 死にはしないだろうが、戦闘機人といえども、まともに動けなくなるだけのダメージにはなる。……それを言えば、そもそも、蹴りを決めた時点で、コイツがこの戦闘中に動けるようになるとは思わなかったし、チンクもスターライトブレイカーをまともに食らって、意識を保つとも思っていなかったが。


 す、と俺は腰の後ろに手をやると、M8357を引き抜いた。“クーガー”の名で呼ばれる銀の獣。吐き出すは、拳銃弾としては屈指の貫通力をもつSIG.357弾、しかも炸裂弾仕様。戦闘機人の強化されたボディとはいえ、この距離から目なり口なりに撃ちこめば、まず仕留められる。

 俺は無言でクーガーを構えた。動けない身体で床に座り込み、なお諦めない目でこちらを見据え、妹を庇うようにだきしめているチンクの顔に銃口を向け………………ふ、と吐息にも似た笑いを吐いて、俺は拳銃を下ろし、ホルスターに戻した。

 そして向きを変え、2人の機人を無視して、歩き始める。ダメージがけっこう残っていて、すぐに走るのは辛い。



 「…………ま、待て!」
 後ろからかかった声に、俺は足をとめ、首だけで振り向いた。

 視線の先のチンクは、顔を強張らせ、唾を呑み込んでから、口をひらいた。
「……殺さないのか?」


 ふん、俺はそんなに血に飢えてるようにみえるのか? ……見えるだろうな。


「お前はいま殺すには惜しい」

死の予感を間近に感じながら、生理的な怯えをねじふせ、言葉の真偽を見極めようと、俺をまっすぐに見つめるチンク。

 やれやれ、本当に真っ当な、いい目をする。トンビが鷹を産んだ、ってやつなのか、これも?


 らちもないことを思う俺に、チンクが食い下がる。「じゃあ、殺してやるよ」とでも言われたらどうする気だ。……気づいてなさそうだな。必死で戦ったのに、あっさりその結果を投げ捨てられたんだ。混乱してるんだろう。真面目な奴にはありがちなことだ。

「そんな言葉で……たった今まで殺しあっていたのに、見逃すのか?」
「なら、いつでも背後から撃て」
「……あ………」
口の端をゆがめる俺、言葉に詰まるチンク。


「覚えておけ。戦いに勝つことが全てじゃない。相手を殺すことが危険を排除することじゃない。
 殺さないことは甘さじゃない。甘さは弱点でも欠点でもない。
 厳しさは冷静さとは異なるものだ。甘さは隙とは別のものだ。

 戦いは生き方の一側面であって、生きることが戦いの一部なんじゃない。
 俺がここでお前達を殺さないのは俺の生き方であって、戦いの効率とは関係ない。

 理解できないか? お前達は、戦うだけの存在でしかないのか?」


(なのはは戦うために生きてるんじゃない! なのはにはもっと違う面があるんだ!)
フェイト。俺のために局員の言葉に怒ってくれた優しい友。ああ、だが、俺はお前の言葉を切り捨てた。ハヤテとティアナの言葉も振り切った。


 ショックを受けたように呆然として言葉を返さないチンクに、俺は用事は終わったと見なして、きびすを返すと、2人をそこに残したまま、通路を進み始めた。
 ふと思いついて、肩越しに言葉を放り投げておく。もう一度振り返ったりはしない。もう一度振り返ったら、声に羨望が、郷愁が、混ざり込まない自信がない。

「しばらくしたら、俺の部下達が追いついてくるだろう。投降して保護を求めるといい。お前達の身体なら、2人とも死なずに済むだろう」

 言葉の間も、俺は進みつづける。


 
 静かに足音が通路に響く。運命の近づく音。






■■後書き■■
 今話でスカ戦までいくはずだったんだが……ちょっと、チンクさん。出張りすぎではないかい。いや、つくづくいいキャラだと思うし筆がノッてしまったのだけど。キャラの自立が進んでる気がする。ま、いいか。ちなみに二丁あるクーガーのもう一丁をなのはさんが忘れていたのは仕様です。次話で少し触れるかな?

※ディレイド・マジック:A's漫画版より。設置型魔法、感知型魔法は原作での用語かどうか覚えていないが、ここでは3者とも同一の魔法体系を指すものとしている。感知領域に対象が入り込んだら、起動する魔法。


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