<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4464] 二十七話
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/24 01:49
 俺の脇においてある小型端末は、キャスターやコメンテーターの解説を入れながら、目の前のやりとりをリアルタイムで放映している。この陳述会は全次元世界に放映されるのが慣習なのだ。普段は、政治や治安、軍事などに関心がある人間しか見ないだろう、堅い内容だが、現在の視聴率はかなり高くなっていると思う。それというのも、午前の年間方針陳述演説で、レジアスがぶちかましてくれたからだ。


 地上本部本部長が昨年の実績を踏まえ、来期も同様の方針でいく、そのために従来どおり、各世界政府のご協力をお願いしたい、という大方の予想通りの意見陳述を発表した後、ひな壇に上がったのは、首都防衛長官たるレジアスだった。
 レジアスは昨年の実績とその要因、来期に改善を考えている点を幾つか述べた後、参加者の度肝を抜く提案をしたのだ。


「昨今の情勢を受け、対個人用の質量兵器の全面規制の解除、並びに治安関係者の保持と使用を認めることを提案したい」
会議場が大きなどよめきに包まれた。
「今年度に入り、クラナガン市近郊及び市内において、魔法行使を無効化するAMFを発生する機械群の無差別破壊活動が、すでに4件確認されている。半年間で4件だ。
 幸いにも、いずれの件も専任の特務部隊が対処し、人的被害なしに収めているが、遺憾ながら、未だ犯人は逮捕されていない」
地上部隊の怠慢だ! という野次が飛んだ。あれは本局から派遣された部隊の指揮官だったかな? 次元世界中の目が集まっている場で、よくあんな真似をして恥ずかしくないものだ。無論、レジアスは眉一つ動かさずに続けた。
「犯人と目されているのは、広域次元指名手配犯、ジェイル・スカリエッティ。次元航行艦隊を含む時空管理局の優秀な局員達の必死の捜査にも関わらず、いまだかつて一度も逮捕されたことのない犯罪者だが、その点はひとまず置こう。
 問題は、魔法を無効化する技術が確立され、実用段階に入っているということだ。現在でこそ大きな被害はでていないが、魔法を武装とする時空管理局にとって、この技術が実用化された意味は極めて重い。技術は進歩するものだ。早晩、広い範囲で魔法を無効化するだけの技術が確立されるだろう。あるいは現在の技術でさえ、数を集めれば、そのような現象を出現させることが可能であるかもしれない。地上本部技術局は、入手した機械の残骸を解析し、今申し上げた事態が数年内に出来(しゅったい)する可能性を85%以上の確率と試算した」
 さきほどのどよめきに匹敵する、大きなどよめきが生まれた。「根拠の無い試算だろう!」と野次が飛ぶが、誰の注意をひくこともできていない。そもそも野次っている声自体に、隠し切れない恐怖の色が滲んでいる。

 レジアスは一旦言葉を切って、会議場内をゆっくりと見渡した。
「想像してみてほしい。町中に突然発生する、魔法を行使できない空間。そこで好き勝手する犯罪者たち。駆けつけてもなにもできない管理局の魔道師たち。そして彼らを片端から殺傷していく犯罪者達の質量兵器」
 そこでレジアスは、また言葉を切った。鉛のように重い沈黙が会議場を覆っている。野次も飛ばない。
「おわかりいただけるだろう。そのような事態を避けるため、対個人用の質量兵器の導入は必須なのだ。
 無論、その保持は許可制とし、使用にはAMF下であること等の条件をつける。また、質量兵器のなかでも、非殺傷の武装を優先的に配備、使用し、殺傷性のある武装は、従来の殺傷魔法の使用と同様、規制の網をかけることを考えている。また、都市を対象とするような兵器ではなく、対個人用として開発された兵器と申し上げたのもそのためだ。
 旧暦の悲劇を繰り返す気はない。だが、過去に縛られて明日の危険を放置することは、次元世界の治安を守る組織に奉職する身として、決してしてはならないことであると考える!」

 言葉に強い決意を乗せ、表情と身振りにも、オーバーにはならないながらも、確固とした決意を示して、レジアスは言い切った。再び会議場に沈黙が流れる。だが、それは先ほどとは違い、重苦しさの無いものだった。
 誰もが息を呑んでいる。そんな空気のなか、レジアスは静かに、だが堂々たる威厳をもって、締めの言葉を語った。
「以上が、来期に向けての首都防衛隊の提案である。諸賢の英断に期待するや大である。首都防衛長官レジアス・ゲイズ。新暦75年9月12日」


 静かに語り終えたレジアスが、一礼して、悠然と演壇から降り、自分の席へと向かう間、会議場は静けさに包まれていた。レジアスが椅子を引き、ゆっくりと腰をおろしたときに生じたかすかな軋みの音が、驚くほどはっきりと、広い会議場の中に響き渡り。そして、会議場の一角から、静かに拍手の音が聞こえ始めた。最初、1人だけで叩いているのが明白だった拍手の音は、徐々に賛同者を増し、やがて広い会議場全体を包む万雷の拍手となって鳴り響いた。野次を飛ばしていた二佐が、なにやら怒鳴っているのが見えたが、拍手の音に掻き消されて、その声は誰の耳にも届かなかった。
 拍手は1分近い長さに渡って続き、あとでコメンテーターが訳知り顔に語ったところによれば、過去の公開意見陳述会で、これほどの拍手を受けた提案は片手で数えるほどだろう、ということだった。



 とはいえ、質量兵器は、時空管理局発足前から全面取締りの対象であり、ロストロギアの管理と並んで、管理局の存在意義と言っていい事柄だから、午後に入って、レジアスの方針意見陳述に対する質問意見陳述の時間になると、反対論者が軒を連ねることになったわけだ。もちろん、これを奇貨として地上本部の重鎮たるレジアスの力を削ぎ、地上本部の権威を失墜させようとする本局の依頼を受けた世界の人間もいただろう。

 レジアスが手を回して、ほとんどの次元世界から代表が派遣されてきており、従来にない規模となっている今回の意見陳述会だが、本局と地上の関係悪化は、各世界とも情報を入手しているだろう。次元戦艦を擁する本局の武力が、各世界にとって圧倒的に脅威なのは当然だから、代表を派遣するといっても、その言動は本局の顔色を窺いながらになる。心情的にどうとかは問題ではなく、本局の基本方針に真っ向から対立したと解釈されかねない提案に対し、反対のポーズを示しておかないとあとが怖い。その程度の外交センスはある人間が送り込まれてきている。
 本局と地上の関係悪化が、自分達にどう影響するか、これに乗じて自分達が権益を入手できる機会はないか。陳述会への出席ついでに、各方面との情報交換や意見交換もするだろう。実際、昨日の晩に開かれたレセプション・パーティーでは、俺もけっこう話し掛けられた。まあ、なかには、なにも考えず、二枚舌も使えないような人間を送り込んできているところもあるが、そんなところは少数派だ。

 ちょっと話が逸れたが、そういう事情が背景にあって、今、俺の目の前で演じられている喜劇が生じているわけだ。


 いま、レジアスに詰問口調でまくしたてているのは、反管理局派のなかでも比較的穏健な世界群のまとめ役で、産出するレアメタルの関係で、広い範囲に強い影響力をもっている次元世界の代表だ。当然、レジアスの取り込み工作でも初期のころから重要視されていて、いまでは結構深いところまでつながっている。あの代表とも、繰り返し突っ込んだ意見交換をしてるはずだ。
 だが彼は、そんなことは全く知らないような顔をして、険悪な表情で、レジアスに批判的な意見を感情的に述べている。……なるほど、レジアスが「使える男」というわけだ。裏を知ってる俺からしたらけっこうな喜劇だが、知らない人間から見たら、彼の態度は管理局の理念に忠実なものに見えるだろう。……感情論に走ることで、言葉の説得性をかえって失わせていても、な。


 そんなことを考えて、暇を潰していた俺に、待ち望んでいた合図が来た。





 ビーッ。

 不意に会議場内に、場違いなブザー音が大音量で鳴り響いた。場内がざわめく間もなく、続けざまに放送が入る。
「警告(アラート)、警告。デフコン1が発令されました。局員は所定の行動をとってください。警告、警告。戦闘機人の反応が当ビル至近に確認されました。規定に基づき、デフコン1が発令されました。局員は所定の行動をとってください。民間人の方は、落ち着いて、速やかに退避して下さい」
 放送後も鳴り響きつづけるブザー音。場内はすでに騒然とし、ほとんどの人間が立ち上がっている。


 不意に、ひな壇にいるレジアスの横にウィンドウが開いた。
「大変ですっ、中将閣下!」
狼狽した、馬鹿でかい声だ。マイクを通して、会議場中に聞こえただろう。全次元世界の前で醜態をさらすなど、間抜けが。あいつ、明日には左遷だな。そんなことを考える俺をよそに、レジアスが冷たい視線をウィンドウに投げて、小声で何か言っている。あとにしろ、とか、小さな声で言え、とか言ってるんだろうな。
 しかし、ウィンドウの間抜けは完全に度を失って、レジアスの言葉も耳に入らなかったようだ。
「天照が破壊されましたっ!」
それまで、さわめいていた会議場が、シン、と静まり返った。報告の声だけが響く。
「ついさきほど、天照からの通信が突然停止! 原因調査中に、天照のあった位置に探知機器を向けましたところ、多数の金属片が確認されました! なんらかの手段により天照が破壊されたものと思われますっ」

 会議場が一気に喧騒に包まれた。天照の名は、次元世界でもそれなりに通っているようだ。そしてその重要性も。しかし、その喧騒を貫いて、深みのある渋い声が轟いた。


「それがどうした」


 レジアスだった。



 「天照がなくとも磐長媛命は、多少精度を損じるだけで、稼動しつづける。他の探知機器を操作し、警戒を強めろ。クラナガンの各陸士隊にデフコン2を発令。外の警備部隊にも状況を知らせろ。犯罪をもくろむ輩の横行を許すな」
 会議場内で騒いでいた連中も、レジアスの言葉の間に落ち着きをとりもどし、小声でいろいろと言い交わしている。外部との通信をおこなっている者もいるようだ。だが、さて。これがスカリエッティの仕業となると、次の手がくるはずだが……。
 つらつら考えていると、レジアスの横に開いていたウィンドウにノイズが走り、すこしの間乱れて、直ぐに消え失せた。同時に場内の電灯が落ち、非常灯が点灯する。再び喧騒を増す場内。

 来たか。
 俺はほくそえんだ。可能性は高いとは思っていたが、こうも綺麗に嵌るとさすがに、笑える。


 機人に電子戦能力を持った奴がいることがわかった時点で、対策はとった。さすがに工事する余裕はなかったし、工事したところでその内容が駄々漏れになるのはわかりきっていたので、一度システムダウンされることを前提としたカウンター戦の準備。
 主だった部隊のトップには、今日の襲撃と、その際一時的にC4ISRが落とされるという情報をかなりの確度で入手した、と伝えてある。(情報源は、事態が実際に起こるまでは言えない、と言葉を濁したそうだ。もちろん、事件後には、本局にいる協力者からの情報だと公開することになるだろう) レジアスも独立した指揮端末を持ち込んでいるはずだ。この会議場も、システムから独立した有線で各重要部署に連絡がつけられるようにしてある。そして、最大の切り札が……。

「皆さん。うろたえられませんよう」

微塵の動揺もない堂々たる声が響いた。声に押されて沈黙した場内の目が、声を発した人物に集中する。
 注目を一身に浴びるレジアスが、虚空に向けて言葉を放った。
「「思兼」、状況レッド、コード00を発令する」
<……リョウカイ。コード00ノハツレイヲジュレイ>
やや間を置いて、無機質な合成音の返答があった。ざわめく会議場。


「ご安心下さい。地上本部は、簡単に機能を喪失するようにはできておりません。数分のうちに、状況への対応を開始します」
レジアスの自信に溢れた、傲慢と紙一重の声と態度に押され、場内のざわめきが引いていく。
 俺はかすかに笑った。



 管理局データベース統合化推進計画の一環として、地上本部ビルのメインコンピューターに、情報解析・提供をおこなうシステム、聖王教会の「月読」と同型機の「思兼」が組み込まれた。だが、そのシステムが実は複数のデバイス・コアで成り立っており、情報処理は外接機器を通して提供することで、こなしていることを知る人間は少ない。そして、普段は入力された処理のみこなしているデバイス・コアのAIが、特定の人物の声紋と「状況レッド」のブロック・ワードにより、完全起動することを知る人間はさらに少ない。
 ハッキングは、コンピューターの機能を停止させられても、存在自体を知らないデバイスの機能までは手が回らないだろう(というより、そもそもデバイスに干渉することなどできない)。そして、コード00は、デバイスとしての「思兼」に、事前に定めたあるコマンドの実行を命令するコード。即ち、バックアップシステム「伊邪那伎(イザナギ)」の構築開始命令。

 レジアスによるコードの口頭入力後、沈黙の数分がすぎ、不意に中空にウィンドウが表示された。戦域MAPだ。同時に各所の照明が復旧していく。
 驚愕の声が上がる中、レジアスは平然と指示を下し始めた。指示を下しながら向けられた視線に、凍り付いていた局員達が我に返って、動きはじめる。

 「伊邪那伎」は、地上部隊の各指揮車に搭載した指揮統制用のコンピューターの一部が、「思兼」からの通信により、最近の改修作業に紛れて入力しておいたコマンドを起動し、他車のコンピューターと処理を連結して構築するネットワークコンピューターだ。「思兼」及び、「伊邪那伎」を構成する各指揮車からの、通信の範囲内の全ての指揮車が、ネットワークを構成する。逆に言えば、各指揮車に対して、個別にハッキングを仕掛けたり破壊したりしても、残った指揮車がある限り、機能は停止しない。
 無論、複数を連結するとはいえ、指揮車搭載のコンピューターと本部コンピューターでは規模が違うので、性能的には比較にならない。だが、連絡を絶たれて混乱する部隊を再び統率・運用するには、十分だ。それに……。


 俺は、静かに上着の内ポケットから取り出した、バイザー・タイプのサングラスに見える高性能機器を、顔に装着した。

 完全機械式戦場リンクシステム「阿頼耶識」の端末「天眼」。周囲の情報を集めて指揮車、即ち伊邪那伎に送信し、伊邪那伎からの情報を受け取る戦術データ・リンク機器(ターミナル)だ。データ量は限られるが、「天眼」相互での情報交換も可能。
 網膜投影方式により、各種情報や戦域MAPを映像で確認でき、耳の後ろと喉に伸びている端子により骨伝導式の通話が可能。ヘカトンケイレスと天照の組み合わせには大きく劣るが、部隊内及び各部隊間の連携をとるだけなら十分だ。……ましてや、その分断が、AMFという魔法技術に偏ったものなら、な。
 従来技術への脅威が確認されたなら、その対策をとるのは当然だ。幸い、天眼はさほど高価ではないので、警備の各隊の下士官以上には漏れなく配布できている。魔法戦力を確保できないでいた次元世界の一つが、研究・開発したシステムの流用だ。大規模戦闘で使われるのは初めてだろうが、その次元世界での武装犯鎮圧などでコンバット・プルーフはとれている。使いこなすには訓練が必要だが、連携をとるだけなら訓練も必要ない。


 書類上の戦力に変更はない。個々の魔道師ランクも、人員数も、車両数すら、変わってない。だが、これらの処置によって、各部隊の実質戦闘能力は大きく跳ねあがった。
 警備部隊には昨日の総合ミーティングで、襲撃があった場合の対処について、基本の迎撃方針を通達してある。一時的に管制機器類が使用できなくなったり、部隊間や本部との連絡がつかなくなる場合を想定した基本マニュアルも配布済みだ。レジアスではないが、ちょっと司令部にちょっかいをかけて、各部隊や監視機器類との連携を崩したくらいで、対応できなくなるなんて思われていたら、笑うべきか呆れるべきか。

 スカリエッティよ。この程度の仕込みで十分と思ったか? 軍事に詳しくないにしても、技術者にありがちな技術偏重思考だったとしても。それは甘さだぞ。
 俺達が静かに地道に時間をかけて研いできた数々の牙の鋭さ。
 見せてやろう。



 俺は立ち上がって、バリアジャケットを展開する。白の詰襟に白のスラックス、そして白の手袋と同色のブーツが顕現する。要所を金の幾何学模様で飾り、胸には機動六課のエンブレム。さらにその上から羽織っている軍用コートも、光を反射して輝く純白。背中に大きく書かれた金文字は「Administrative Bureau」即ち「時空管理局」。変身によって結い上げられた髪が、その文字の上にかかる。

 視線が集まっているのを感じる。なにせ派手な衣装だからな。本来、戦場でこんな服を着ていれば、「狙ってください」と叫んでいるのと同じだし、俺の趣味にもあわんのだが、それなりに持ち上げられる立場になると、目立つことで味方の士気を上げる効果も考えざるを得なくなる。俺の英雄化を促進させる狙いもあった。目的のためとはいえ、レジアスやオーリス嬢と相談して、というかオーリス嬢の指導を受けて、最終案がデザイン・アウトしたときは、ついでに電飾でも散らしてやろうかと思ったくらいだ。


 周囲から向けられる視線には反応せずに、レジアスのほうに身体ごと向く。
 「天眼」越しの視線を感じたのか、レジアスがこちらに視線を向けた。

「高町空佐、貴官は本部ビル外に出動、前線で指揮をとれ。貴官の部隊にかけられた全てのリミッタ-を解除すると共に、前線における総指揮権を委譲する」  
「了解しました」


 静かに俺は敬礼した。








■■後書き■■
 舞さん、作業お疲れ様でした。いつものことながら、その努力に感謝します。

 さて、ついに「二日間の動乱」が始まりました。ここからStS編終了まで駆け抜ける! でも話数的には5・6話は固いので、のんびり待ってやってください(汗)。 
 次回、「その時、地上本部」。括目して待て! ……いや、そんな大層な内容じゃないですが。(初の戦闘メインの話です。)


※ちょっとおまけの宣伝:
 作者は最近、ここのとらは板の、猫八さん作「魔法少女リリカルフェイト 造花の在り方 ※15禁」にハマっています。いや、自分の分の執筆の気分転換に読む程度に我慢してるんですけどね。あー、早く完結させて好きなだけSS読みてえー!
 それはともかく。恐怖と狂気が渦巻く世界を肌が粟立つほどに描く描写力、そのさなかで圧倒的に不利な状況ながらも必死に抗うフェイトさんの苦悩と苦闘。個人的には、「Hellsing」や「Black lagoon」と同じ香りを感じます。絶望の縁で輝く人間の物語。実はあんなSSが書きたかった作者なのでした。なのに、あまりに感想数やPV数が少ないので、おせっかいとかルール違反かもとか思いつつ。宣伝しちゃいます。多分、この作品を気に入ってくださってる方は、けっこうな割合で気に入るのではないかと思うのです。夏深てふさんの「魔道師達の群像」シリーズに、テーマ・筆力ともに並ぶ名作と、個人的には思っています。
 以上、ちょっと余計な宣伝でした。みなさんがより多くの楽しめるSSに出会うことを、SS好きの1人として願っています。_O_。   ps:信者とか言わないでくださいね;。否定できないけど(笑)。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026983976364136