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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 二十五話
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/05 06:21
 アグスタでの警備と六課隊舎への襲撃から数日後。

 襲撃犯の取り扱いに関する打ち合わせと、捜査官達に対するパイプ作りで、襲撃以来でずっぱりだった俺は、その日一日隊舎で事務処理をする予定にしていた。午前の業務を終え、昼食をとろうと向かった食堂の入り口。食堂全体を見渡して、俺は眉をしかめた。
 室内に入るとき、入ったあと、襲撃の予兆がないか確認するのは、魂にまで刻みこまれた俺の癖だ。その癖で、食堂内の様子を観察したのだが……武装係の新人どもが、随分と沈んだ様子で食事をしている。いつもならにぎやかにしてるのに、会話もない。ついでにランスターがいない。
 食事を受け取るために、カウンターに向かいながら、俺はハヤテに念話をつないだ。
(ハヤテ、ちょっといいか?)
(え、あ、うん、構へんよ)
ハヤテの声まで元気がない。
(武装隊内でなにかあったのか? 新人連中がランスター抜きで、通夜みたいな雰囲気で食事してるぞ)
(……えっと……)

 ためらいがちにハヤテが話したのは、ある意味予想できていた、だが避けられるかもしれないという期待もあった事態だった。


(模擬戦でティアナとスバルが訓練の域を越えた戦法を行使、ヴィータがそれを正面から叩き潰してティアナは医務室行き……か。)
(うん、ごめん……。私の指導ミスやわ……。)
(今夜にでも詳しい話は聞こう。お前は、ティアナが目を覚まし次第、キチンと話をしたほうがいいな)
(うん……)
(そんなに落ち込むな。失敗の経験もなしに、能力が上げられることなぞ、まずない。今回の件を最大限利用して、隊の錬度の一段の向上につなげてみろ)
(…うん、頑張ってみるわ)
(ああ、それじゃ)
(うん)

 念話を切って、俺は息をついた。
 ハヤテは大分堪えていたようだ。俺の言葉ででも、すこし持ち直してくれるといいが……。現段階では、俺が介入するのはよくないだろう。リィンフォースのフォローとハヤテに期待するとしよう。
 その甘い見通しが、夜にはあっさり破れることになるとは、そのときの俺には無論わからないことだった。

 そう、その日の夜にかかったアラート。レベル:デフコン1。






 空戦型のガジェット群が海の方から近づいてきたという。磐長媛とは別の、広域警戒網にかかった反応だ。あまりにあからさまで陽動の可能性もあるが、対応の先頭に、うちの部隊が立つのは筋だ。

 ヘリでの空戦資格持ち全員の緊急出撃を指示しーまあ、六課の場合、空戦資格持ち全員というと自動的に実働部隊の士官全員になるのが問題だがー、ロングアーチに他地域からの侵攻や市内での転送魔法の反応を見逃さないように告げると、俺はすこしの間、考えこんだ。
 空戦型自体は、うちの尉官連中で片がつくだろう。それだけの戦闘力はある。空戦型が陽動で、他地域で本命が出現しても、すでに警戒態勢に入っているだろう各陸士隊と連携すれば、殲滅は可能だと思う。戦闘報告は本部経由で各陸士隊に回してもらってるから、ガジェットの特徴や対応方法自体はどこの部隊も心得ているはずだ。ただ、交戦経験がない分、うちの陸士連中が先陣切って見本をみせることが望ましいんだが……。

 俺はすこし迷ったあと、オーリス嬢に告げた。
「すまんが、出撃部隊の見送りにいってくる。すこしこの場を頼む」
細かな指示を飛ばしていた嬢は、眉をしかめて振り返ったが、視線をあわせると、不満を隠さず顔に出しながらも、頷いてくれた。
「すまん」

 彼女には、午前中に武装隊の訓練で起こったことを告げてある。実戦部隊が通常通りの能力を発揮できない可能性をもつ要因があるなら、指揮権限を持つ人間が、それを把握してないのは重大な危険を招きかねないからだ。彼女が、不承不承ながら、出撃直前のこのタイミングで俺が指揮所を離れることに同意したのも、不安要因を低減しておきたい俺の考えを受け入れてくれたからだろう。……武装隊で片付けるべき問題に部隊長が首を突っ込むことを、良く思わなかったこともあるんだろうが、見逃してくれ。ハヤテはこういう状況の経験は少ないだろうし、フェイトもヴィータも、対人関係では不器用なところがある。特に、無力感と劣等感に苛まれる人間のフォローを短時間でできたとは考えにくい。
 ハヤテからランスターと話した結果の連絡がなかっただけに、余計に不安が募る。落ち込んでるだろうハヤテをさらに追い詰めたくなくて、こちらから確認をとらなかったのが、裏目に出たな。どうも、俺も身内に甘い。
 俺は苦い気持ちを飲み下しながら、小走りで屋上へ向かった。



 屋上では、最悪の予測どおり、なにやら揉めている声がしていた。これ以上、俺の甘さで問題を拡げるわけにはいかん。俺は部隊長、部隊の成果、行動……全てに最終的な責任をもつ地位にいるのだ。俺は、ため息を一つ吐くと、足を踏み出した。
「なにをモタモタしてる。状況デフコン1、緊急出撃対応だぞ。すぐに出撃しろ」
「あ……」
全員の視線がこちらを向いた。



 集中する視線を無視して、言葉を繰り返す。
「聞こえなかったか? デフコン1だ。即出撃しろ」 
「でっ、でも、なのはさん!」
叫ぶスバルに視線も向けずに言葉を叩きつける。
「言い分は後で聞く。それとも今回の出撃に関しての意見上申か?」
「……はっ、はい! そうです!」
「発言を許可する」
「え、えっと! ティアは強くなろうとして! 頑張っただけなんです! だから、その、シフトから外すのは止めて下さい!」
俺は片眉を上げた。
「グラシア隊長?」
「あ……その……」
「そいつが今日の模擬戦で指導を無視した無茶な戦法をとった。そんな奴は危なくて使えねえ。そういうこった」
「ヴィータさん!」
フェイト、エリオ、キャロは気まずげな表情。
「グラシア隊長。今の三尉の発言は、武装隊としての判断と受け取っていいか?」
「……あ、その……うん。それに模擬戦でのダメージも残っとるやろし……」
うつむきがちに視線を合わせようとしないハヤテ。
 わかった、と返事を返す前に、低い声がその場に響いた。
「言うこと聞かない奴は使えないってことですか」
「そ、そんなことないよ! ただ、ティアの体調が」
「私は大丈夫です! そんな奇麗事でごまかそうとッ!」
ランスターの言葉の続きは、頬を打った手に断ち切られた。俺が打ったんだがな。
「なのはさん?!」
「なのは?!」
騒ぐスバルとフェイトを無視して、俺は一つため息を落として。

 「甘ったれるな、馬鹿者共!!」
腹の底から怒鳴りつけた。
 一瞬で萎縮した新人連中、口をつぐんで目を見開いている指揮官格。
「貴様らは自己満足だけで仕事をしてるのか?! なら今すぐこの場で、局の制服を脱げ!
 我々の対応が遅れることは、それだけ力を持たぬ市民に危険を近づけることと知れ!! 緊急出撃がかかった状態で青春ゴッコなど、ふざけるな! グラシア隊長!」
「は、はいっ!」
「武装隊の長は貴官だ。貴官の考えるとおり運用すればいい。この件については、帰還後、事情を聞く。いまは即出動しろ」
「! わかりました」
敬礼するハヤテ。
「いくで、みんな!」
素早くヘリに搭乗する空尉たち。とりあえず、彼らは切り替えできたようだ。
 浮上し始めたヘリを見上げ、俺はギンガと新米4人に目をやった。……ギンガはともかく、新米どもは切り替えできてないようだな。
「貴様らも待機に入れ。気持ちは切り替えろよ? 殉職報告書に“部隊内でのいざこざのため集中を欠いていた”なぞと書くのは御免だ」
息を呑む子供達を無視してランスターの腕をつかみ、ひきずるようにして立ち上がらせた。
「貴様には少し話がある」
「っ!」
懲りずに叫びかけたスバルを一瞥して黙らせ、ギンガに念話をつないだ。
(頼めるか?)
(わかりました)
落ち着いた返事に満足して、俺はランスターの腕をつかんだまま、歩き出した。ランスターはふてくされてるのか、俯いたまま、黙ってされるがままになっている。




 応接室まで来た俺は、部屋にランスターを押し込むと、扉を閉めて鍵をかけた。
「まあ、座れ」
「……失礼します」
顎をしゃくった俺に、ランスターが従う。不承不承なのが目に見えてよくわかる動きだが。

 出動を見送った後、オーリス嬢に指揮権限を委譲して、応接室までランスターを引っ張ってきた。オーリス嬢の権限も能力も問題ないとはいえ、ちと、やりすぎかもな。あとで叱られるだろう。とはいえ、ここで間をおけば、ランスターの状態が悪化するのは、目に見えてる。せいぜい殊勝に説教を食らうとしよう。


 ランスターは強張った顔でこちらを見ている。文句を言おうと暴れようと、完全に無視して力づくで引っ張ってきたからな。反発心で隠そうとして、まるで隠せてない恐怖と不安を、瞳に滲ませている。その懐かしい色に、思わず苦笑が漏れた。
「……そんなに可笑しいですか、平凡な人間があがいてるのは」
トゲを隠さない口調。かつての自分を幻視する。
 失った正直さ。引き換えに得たモノに悔いはないが、それでも寂しさと眩しさを感じてしまう。

 やれやれ。俺はどこの老人だ、まったく。

 机に肘をついて手を組む。
「いや、懐かしいと思ってな」
「……なにがですか」
「お前の言動がだよ、青二才」
「ッ!」
クツクツと笑いがこぼれる。ああ、コイツ、前世や入局直後の俺だけでなく、昔のクロノにも似てるかもな。妙に、悪戯心が刺激されると思った。
「……ッ…そんなにっ! 努力するのは可笑しいですか! 滑稽ですか! だけど仕方ないじゃないですかっ! 才能のない人間は努力するしかないんですからっ! 才能に恵まれた人にはわかりませんよ!!」
 だが、真剣だ。前世の擦り切れる前の俺のように。歪みの兆しも同じようにあるのは皮肉だが。けれど、同じでないこともある。

 「陸士校卒業2年後に陸戦Bランク取得。16歳。特記される賞罰なし。上司の評価は、やや柔軟さに欠けるが優秀。……これでどこか才能がないんだ?」
「……失礼しますッ!!」
「逃げるな」
立ち上がったランスターに、準備していたバインドをかける。バランスを崩してソファに崩れこむランスター。だが、すぐに頭をもたげてこちらを睨みつけてくる。
 その目。力を渇望し、焦りと恐怖に追い立てられて、必死であがく、追い詰められた獣の目。悪くない気迫だ。だが、気づいてるか、ランスターよ。お前を追い立て、追い詰めているのは、お前自身が作り出した悪夢だということを。

 「武装隊の平均魔導師ランクはBだ。当然、入局10年を越すベテランも、ギリギリの評価で配属されたお荷物な若手も入れてのランクだ。陸士隊に絞れば、さらに平均ランクは下がる。お前も前隊で聞いたことがあるだろう。それを知っていて、お前の現状でどこをどう評価したら才能がないだの、平凡だの、なんて発想ができるのか、正直不思議だよ」


 思い返す前世ー。
 周囲の嘲りをうけながらも、自身の在り方を求めてあがき、やっと手に入れた力は蔑まれ、己自身は価値無き物と断じられて切り捨てられ。あげく「暴力装置」としてのみ存在を認められて使いまわされた屈辱の日々。
 あれこそが「平凡」な人間に与えられる果実だ。
 指導の時間をとってもらい、ときに叱責もしてもらえるのは期待されてるからだ。さきがないと見切った相手は、指導も叱責もせず、潰れるまで使い込むのが組織というものだ。それに、10代半ばのまだ完成していない人間ならなおさら、鍛えようによっては、使いでができる。平凡な若手の能力を引き出すのは、まともな上官の条件の一つだ。自分で自分を「平凡」などと嘯く贅沢は、少なくともお前程度の経験と立場の人間に許されることじゃないんだよ、ランスター。

 そんなことを思いつつ、だが懇切丁寧にその現実を教えてやることもせず、俺は目の前の思春期の子供が、心に溜め込んだ泥を吐き出すのを見つめていた。


 「……あたしは…! 隊長たちみたいにエリートじゃないし! スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルもないっ。少しくらい無茶して死ぬ気でやらなきゃ、強くなんてなれないじゃないですか!」
「無茶をしても、命をかけても、譲れない場面は、確かにあるだろうな。だが、先日、お前がミスをした場面。あれは、自分の仲間の安全や命を賭けてでも、どうしても引けない状況だったのか?」
「っ!」
「お前にとっては、そうだったのかもしれんな。お前のこれまでの価値観や目標が、引くことを許さなかった。
 だがそれは、部隊の一員として、同僚を裏切り信頼を崩す行為だと理解していたか? 理解してその業を背負う行為だと認識して引金を引いたか?」
「……」
「それに、俺は、そこまで自分を追い詰めなくとも、お前は十分に強いと思ってる」
「……買い被りです」
「そうかな?」
「……あなたには…あなたみたいな人にはわからない! エースオブエ-スなんて言われる凄い英雄で! 一般の人たちにだって、下手なアイドルより知られてて! 若い局員はみんな憧れてて! いまの私より何歳も若いときに、あんな凄い訓練方法の改革案を出してッ!!」
 俺は苦笑した。
「魔法至上に毒されていない視点と、演出の結果だよ。俺の功績として持ち上げられてることのなかで、俺1人でやったことなんて1つもない。
 偶像があるほうが管理局にとって都合がいいから、俺を前面に押し出し、一般への露出も高めた。だが、中身はそれに伴ってない。よく教導に回る「陸」じゃ、まだ好意的にみてくれるが、縁の薄い「海」での評判はひどいもんだ。今度、フェイトに聞いてみるといい。あいつが俺の友人なのは周知のことだから、あいつの耳に入る俺の悪評なんぞ、ごく一部だが、それでも本局での俺の評価がかなり低いことがわかる程度には、噂話を聞けるだろう」
「そんなっ……そんなこと……!」
あえぐように言葉を吐き出すランスター。俺は容赦なく言葉を続けた。

 「凄いことを颯爽とやってのけるのは見栄えがする。誰もが賞賛するだろう。だが、なりふり構わず必死になって足掻くことこそ、真実、賞賛に値する。みっともないと笑う奴もいるが、俺は笑わん。その足掻きのなかで鍛え上げられ、やがて生まれ出てくる、本当の強さを持った存在があることを知っているから」
「……そんなの…信じられません……」
俯いたまま、ランスターはうめいた。よろっていた分厚い衣服をはぎとられ、凍え怯える子供のように。

 沈黙が流れた。

 俺は、それまでとは違う、静かで感情を排した声音で語りかけた。
「今日、ヴィータに叩きのめされたという技は、一体誰のための、何のための技だ?」
ゆらりと顔をあげるランスター。その身体がかすかに震えている。
「正義なぞ武器に過ぎん。武器は金を出しさえすれば、誰にでも買える。正義も理屈さえつければ、誰にでも買えるものだ。
 善と悪に物事を割り切るなら楽だ。だが、生きていくなかで、なにかを選ばなければならんときがあったとしても、その選択肢は二択じゃない。正解なぞないし、間違いだと減点されることもないんだ。生きるということは、テストを続けていくことじゃない。成績や素行を採点されることじゃない。それはお前の、お前だけの「人生」。
 正義も悪も無い。正解も間違いもない。ただ、お前の命を燃やし続ける日々。お前の、お前だけの「人生」」
「……でも、そんなの……それじゃ、認められるなんてかぎらないじゃないですか! どれだけ頑張っても、結果を出しても、評価もされずに、そんなこと、それでいいはずない!!」
「それはあり方の違いだ。他人がなんと言おうと、己が道を己で定める、それを誇りとする人間もいる。それが生の証であり、それなしでは生きていけないという人間もいる。善も悪もない、ただ、自分の命を燃やす。ただそれだけのために、己が全てを賭けて悔いない生き方がある」
ランスターは、呆然と俺の顔を見ている。
「「正しい」答えがあれば、楽だ。矛盾も葛藤もない。だが、それに甘えず、非難と誹謗を浴びても、より良い未来を求めて泥まみれで進むことを無様と笑えるか。誰もが諦めろと嘲う高い壁に、心折れずに正面から挑みつづける気概を愚かと蔑めるか。
 お前には、この2ヶ月足らずの間でも見てとれるお前の心には、そんなことはできないはずだ」
「…………できません……」
「だが、ここ数日のお前の行動は、その言葉を裏切っている」
「……っ」
「焦りでこれまでの自分を否定し、自分の積み上げてきた成果を見捨てた。
 お前の心を裏切った。お前の信念を裏切った」
「……」

 言葉も出ない様子の彼女に、俺は静かに微笑んだ。
「なあ、ティアナ・ランスター。魔力以外のところにも強さの可能性を見いだそうとした、かつての陸士候補生よ。
 もういちど、自分の立っている場所を見渡してみろ。
 お前の持つ魅力を見ずにないがしろにして、焦って向かないことに半端に手を出すから、しくじるんだ。
 お前が思っているよりも、人は強い。魔法や奇跡などなくとも、その知恵と不屈の心だけで、人は不可能を可能にし、絶望を打ち倒し、未来を紡いできた。そのつながりの先に俺たちは立っている。
 だから、そんなに焦るな。自分の力を、意思を、可能性を信じてやれ。
 お前の相棒が信じているように。ハヤテやヴィータが信じているように。ー俺が信じて、お前を引き抜いたように」

 目を見開いたまま、じっと俺の言葉を聞いていたランスターの目に、静かに涙がたまりはじめ、ぽろぽろとこぼれる。やがて、それは途切れない流れになり、さして間をおかずに号泣になった。


 俺は黙って、長らく人前で泣けなかっただろう少女の泣く姿を見つめていた。
 いつのまにか泣くことができなくなっていた、かつての自分を思い返しながら。






 翌日。俺は地上本部の一室でレジアスを待っていた。
 先日の六課襲撃に関して本局とやりあったというので、昨日の夜間出撃に関する報告を隠れ蓑に、その詳細を聞くために出向いたのだ。

 襲撃犯は、待ち伏せを食うとは想像していなかったのか、目的地の至近で襲撃手順の確認に思考が占められていたのか、道路封鎖と照明と警告に、完全に混乱の渦に飲まれ、立ち直れないまま俺とフェイトに次々と無力化された。逮捕宣告から制圧まで10分かからない戦闘だった。

 陸士隊に引き渡された襲撃犯たちは、聞いたこともない反管理局のテロ組織名を名乗ったそうだ。一応、目的は、名立たるエースが集まる部隊を襲撃することで、管理局の威信に傷をつけることだとか。通常の陸士部隊への襲撃さえ、ここ十数年成功せず、ここ数年は無人の施設や市街地でのテロ行為ばかりだというのに、屈指の戦力を擁する六課を襲撃できると判断した理由については、まともな答えが返ってこないそうだ。まあ、その辺の追求は、俺の領分ではない。
 それやこれやのアグスタ警備任務に絡む、きなくささへの対応はレジアスに任せた。俺には、そんなことより、捜査官とのパイプが出来たことが嬉しい。今までは、ゲンヤさん経由での108大隊の連中くらいとしか、定常的なコネクションはなかったからな。フェイトとギンガも頑張ってくれてるが、どうしても捜査優先で、コネクションの維持という視点から見れば不十分だった。ま、2人の仕事的にはそれでいいんだが。その点、今回接点ができた陸士隊の捜査官とは、襲撃犯についての情報交換の名目で、連絡をとりやすい。きっかけもきっかけだし、捜査部門に本局への不信を広げていく切り口になってくれるだろう。

 教会にもハヤテ経由で、今回の襲撃とそのきな臭さについては詳細に伝えてある。カリムにも身辺に気をつけるよう伝言した。俺を嫌う本局のはねっかえりの仕業の可能性もあるが、カリムの頼った高官経由で、六課が本局内部の犯罪者の捜査をしていることに気付かれた可能性があるとも伝えている。小さなことでも繰り返せば、やがて大きな結果を生む。こまめにこういった事例を伝えることで、カリムが、ひいては教会上層部が、本局の自浄能力に対する信頼をなくしていけばいい。


 まもなく入室してきたレジアスは、椅子に座ると機嫌よさげに、本局とのやりとりを話してくれた。

 本局の出した強引な天照のメンテ命令と、その情報を知るかのような六課襲撃のタイミング。六課にそぐわない任務とその任務時間帯の侵入者及び任務時のあまりに的確な通信妨害。
 本局との合同会議の際に、議題とは関係のない安全管理体制について話を持ち出し、六課への襲撃を地上の安全管理体制不備として声高に論じたてた高官に、それらの情報をもとに切り返し、本局こそ管理体制に不備があるのではないかと、逆に追求したそうだ。

 「まあ、さすがに、状況証拠だけなので、内部調査をする、という言質をとるだけで終わったが……少なくとも、あやつの権威失墜は確実だろう。とかげの尻尾を切られただけだが、うるさい連中も一時的には鳴りを潜めるだろう。もうすこし、奴ら全体へのダメージを与えてやりたかったが……」

 そこまで話して、追い詰めきれなかったことを思い出したのか、レジアスの顔がしかめられた。
 俺は軽く笑った。
「まあ、あちらが迂闊に手出しができないということを理解しただろうことだけで、とりあえずは構わん。むしろ、手際の悪さから考えると、今回噛みついてきた奴と襲撃の黒幕とは無関係と考えた方がいいだろう。はねっかえりが目の前の餌に、後先考えず食いついたというところかな。
 まあ、なんにせよ、手間をかけさせたな」
「……なに、儂の当然の義務だ。礼には及ばん」
仏頂面で、コーヒーカップを持ち上げるレジアス。ちなみに、照れてるときには、飲み物を飲む動作で顔を隠す、というのはオーリス嬢から教えられたコイツの癖だ。生温い目でレジアスを見ながら、俺もコーヒーを啜った。

「……ああ、それと例の件だが、どういうことだ?」
「どの件だ?」
「技術部に無理押しした件だ。儂のところにまで、抗議が上がってきたぞ?」
「あの件か。なに、ちと鍛え甲斐のありそうな奴を見つけてな」
「……それだけか?」
「くくっ、疑り深いな。まあ、無理もないが。
 その件については、本当にそれだけだよ。他意はない。あるいは、俺の代わりになりうるかもしれん人材だ。多少入れ込むのは多めに見てくれ」
「……貴様、自分自身を使い潰す気ではあるまいな? 代わりになるかもしれんと言われても、ここまで煮詰まってきた段階で貴様の役目を別の人間に置き換えるのはリスクが高すぎる」
「はいはい。
 別段、自殺願望があるわけじゃない。俺が俺であるために必要なら全てを捨てることにためらいはないが、最低限の機を見ることを怠りはせんさ。そいつのことは、さしあたりは手札を増やす程度に理解してくれたらいい」
「……ふん」
鼻を鳴らして、しかし追求をやめたレジアスに、こちらから話題を振る。
「で、襲撃の前後、どんな奴らが動いたのか、ある程度、目星はついたのか?」
「ああ、確定ではないが、この連中の周囲が、妙な資金の動きや不審な指示に絡んでいた」
目の前に滑らされた紙を手にとって、じっと見る。敵……明確な敵だ。組織や思想といった漠然とした存在じゃなく、はっきりと存在を持っている敵だ。薄靄のなかでいつか来るかもしれないときのために、蓄えてきた力を、解き放ってぶつけられる相手だ。

 食い入るように見入る。
 そのなかで生じた俺の表情の変化も、俺の纏う雰囲気の変化も、俺は気付かなかった。レジアスが眉をしかめ、ふと身動きするまで。
「…………」
「ん? どうかしたか?」
「……いや、お前こそどうしたのだ?」
「? なにが言いたい?」
「……その……なんだ。
 貴様、今の自分の表情がわかっているか? まるで血の匂いを嗅いだ獣だ。殺戮が楽しみで舌なめずりしているような陰惨な顔だ。今のお前なら、魔王と称しても誰も反対せんだろう」
「…………」
「高町?」
「……ふふふ……くくっ……」
「……」
「アッハハハハ! ハッハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「……」
「フフフフフフフ…………はあ、ふう。……くくっ、そんな顔をするな。
 なに、すこしばかり、嬉しくて楽しかっただけさ。それだけのことだよ、ふふふふふ……」
「……」




 レジアスと話をした日の夕方。俺は部隊長室にハヤテを呼んだ。

 ハヤテはあれからヴィータを交えてティアナと、不十分だったコミュニケーションーハヤテ達がティアナを隊内でどういう位置付けで考えているか、そのためにどのような訓練の過程を考えているか、といった内容を話し合う個人面談をおこなった。今後も定期的に行なう予定だというから、今回の問題はほぼ解決したと考えて良いだろう。結局、相手の気持ちや立場に合わせての、説明や配慮が不足していたということだ。ハヤテは馬鹿ではないから、同じ失敗は繰り返すまい。そう考えると、この程度のいざこざで、将来にわたっての危険の芽を摘めたことは、むしろ上出来といっていいと俺は思う。
 だが、失敗は失敗だ。そして責任者は失敗の責任をとる必要がある。

「グラシア一等空尉待遇」
「はい」
「部下の管理不行き届きにつき、戒告処分。始末書を提出しろ」
「了解しました」
敬礼するハヤテ。実質、被害は生じてないのだから、この程度でよかろう。再発防止のために、原因分析と対策検討をまとめた始末書は出してもらう必要があるが、そうでなければ、厳重注意で済ませてもいいくらいのものだ。
「それと、ランスター二士にフォワード陣のまとめ役をやらせるなら、それを公的にも明確にしたほうがいい。
 部隊長としては、不祥事を起こした直後に、責任を持たせるのは賛成しかねるが、しばらく様子を見て、安定してきたと判断したら、チーム・リーダーなりフォワード・リーダーなり、適当な役職名を作ってそれにつける旨、書類で上申しろ。特例昇格で、陸曹待遇にして班長をさせるという手もある。タイミングと内容は任せる」
「はいっ、了解しました!」
 嬉しそうな顔して、まったく。一応、処罰を言い渡してる場なんだがな。でも、俺も浮かぶ苦笑を抑えられなかった。それを見て、ハヤテがさらに顔を笑み崩す。やれやれ。まあ、いい。ついでだ、もう一つの件も一緒に片付けるか。
「それと、相談なんだが……」




 ハヤテとそんな話をした、さらに二日後。
 俺は訓練後のティアナを部隊長室に呼んだ。


 やや緊張した顔で部屋に来たティアナに、壁際に置いてある箱を示す。今日地上本部技術部から着いたばかりの、1人で抱えるにはけっこう辛い大きさの箱だ。
「開けてみろ」
「は、はあ……」
要領を得ない顔で、樹脂製の箱を開けていくティアナ。やがて、中身が見て取れるところまで開梱できたのだろう、ティアナが驚きの表情で振り返って、俺を見た。
「っ! こ、これって! なのはさん!」
 俺は悪戯が成功した子供の気分で、ティアナに笑いかけた。
「とりあえず、つけてみろ。量産試作品を調整して送ってもらったからな。不都合な点があるかも知れん」
「あ、あたし用ですか?!」
「でなければ、なんでわざわざお前を呼ぶんだ?」
俺は笑いの衝動を抑えながら言った。
「で、でもあたしは指揮官じゃないし……その」
戸惑うランスターに、俺はもう笑いをこらえずに返した。
「ともかく着けてみろ」

「どうだ」
「す、少し重いですね」
「まあ、しかたない。完全機械式だからな」
「完全機械式、ですか?」
「高濃度AMF下での使用を想定してる」
そう。阿修羅の完全機械式バージョンの量産試作品だ。まだ技術部で検討・調整中の10個のうちの1個を、無理を言って送ってもらった。


 先日、ハヤテと相談したのはこのことだ。
 ハヤテとヴィータには所属の関係で、ヘカトンケイレスが支給されない。そこで、ティアナを新米4人の指揮官格に据えるなら、いっそのこと彼女にヘカトンケイレスを支給して前線指揮の実務を担わせたらどうか、と持ちかけたのだ。ハヤテとヴィータは上位指揮官として、遊撃として、切り札として、ティアナ達と捜査係の戦闘を管理する。ハヤテの了承が得られたので、ツテを頼って技術部から取り寄せたのだ。丁度、量産試作品があった完全機械式阿修羅を仕入れられたのは、幸運といっていいだろう。もっとも、多少ごり押ししたので、レジアスにまで苦情がいったわけだが。

 その辺の経緯はティアナには関係ないので、彼女に前線指揮官としての教育を行なうこと、それはハヤテも同意していることだけを告げる。ただ、通常訓練とは方向も内容も大きく異なるので、自主練習の時間帯に、主に俺が見る形になる。
 かなりの特別扱いだが、ティアナにフォワード陣のまとめ役をやらせるなら、早急に叩き込まなければならない技術だし、六課で阿修羅の取り扱いを使用経験を踏まえて指導できるのは俺くらいだ。六課の面子はお人好し揃いだから、ティアナが妬まれるようなこともないだろう。
 それに、せっかくの機会でもある。ただ阿修羅の運用と前線指揮官としてのノウハウを叩き込むだけにするつもりもない。


 「「要綱」を読み込んでいるのなら、指揮官の重要性はわかるな」
俺の言葉に、戸惑って混乱していたティアナは顔を跳ね上げた。
 その顔に視線を射込みながら、俺は犬歯を剥き出した。

「覚えておけ。
 目の前の問題に対処するのが兵卒だ。目の前の状況の解決を図るのが中・下級指揮官だ。目の前だけでない全体を見渡して、対応を練るのが上級指揮官だ。過去から学び、理想を見据え、現在を未来へ導く努力をするのが指導者だ。

 さて、ティアナ・ランスター。お前はどんな存在になる?」







■■後書き■■
 あいだ空きましたが、とりあえず、更新です。
 今話を通して見た場合、なのはの言動やその描写に違和感を感じる人もいるかもしれません。これまでの彼女と比べるとなおさら。これからの数話かけて、徐々にその歪みをはっきりさせていきたいところですが……かなり繊細な作業になりそうです。暗闘と並行して進めるのは、けっこう難儀かも。とりあえず、あいだの空き過ぎない程度にボチボチいきます。


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