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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 二十四話
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/23 12:46
※2/23、言葉の誤用訂正 「Mam」→「Ma'am」




 今回の任務はいろいろあったものだ。念話のジャミングに天照との通信の妨害。指揮車へのハッキング。早急に報告書を出させ、戦訓検討会を行なう必要があるだろう。
 そのほかにも、表面化した武装隊内のすれちがい、本局の動き、隊舎への侵入者……。対処を急ぐ件が山積みだな。


 戦訓検討会は、帰舎後、数時間経った20時から始まった。参加者は、俺を含めた士官5名と、オブザーバーとして、出張管制班の責任者だった准尉1名、技術主任、実質上の武装係長補佐のデバイス1名の計8名。捜査・武装の両係員には既に係長宛に報告書を提出させており、ロングアーチは事前の全体ミーティングで情報と各員の意見を整理したレポートをまとめ、各部門長はそれらの資料を手に会議に臨んでいる。


 オーリス嬢が、事態の発生から推移までの状況を、変化していく戦域MAPを投影しながら説明する。一通り、説明が終わったあと、俺は発言した。

 「今回の検討会で、俺が、詳細を検討し対応を決定したいと考えている内容は、次の3つだ。
一つ。念話及び各種通信へのジャミングへの対応。今回は、秘匿帯域の使用及び発生機器の破壊でしのいだが、敵が間抜けでなければ、次回は、今回の対応を無効にする手段をとってくるだろう。ありえる手段を全て検討し、対策を考えたい。
二つ。指揮車コンピューターへのハッキング。今回は指揮車で済んだが、隊舎のホストコンピューターを狙ってくる可能性もある。技術主任の見解も聞きながら、対策を立てる。
三つ。こちらのとった戦闘指揮、管制、戦闘行動の点検。伸ばすべきはフォローを強化し、改めるべきは改める。特に今回は、武装係の精神的問題が表面化した。係員の実戦経験の少なさから、予測されていた問題だが、これに対してとっていた係長の予防策とその改善案を確認し、検討して欲しい。
 だが、これら3点のみに目を囚われすぎないように。表面化していない問題を察知し対応するのは困難だが、その分のメリットがある。特に、今回は初の大規模戦闘だった。見るべき点、修正すべき点は多いと思う。挙げなかった議題についても、積極的に提示し、腹蔵なく意見を交わしてほしい」

 俺はそこで一度、言葉を切り、参加者の顔を見回した。ハヤテが少々暗い顔、ヴィータが苦い顔をしているが、まあ、しかたない。無視して、言葉を続ける。

 「私としては、特に、一点目と二点目について、敵がこちらの指揮系統の破壊をもくろむという、戦術的行為をとってきたという点を重要視すべきことだと考えている。事前の襲撃予告といい、見えていなかった背後の存在がその姿を見せ始めた。今後、ジャミングやハッキングに留まらず、囮や不意打ち、爆撃や砲撃といった要素を絡めての、戦術的行為をとってくることを考えるべきだろう。これまでの、単純な動きや稚拙な連携しかしてこなかった、数とAMF頼りの機械群との戦いではなく、目的達成のために有機的な連携をとる敵との戦いになっていくと、私は見ている。
 言わば、前座は終わり、本格的な戦いへと移行しはじめるということだ。そのことを念頭において、戦訓を抽出してほしい。
 また、そのような戦術的環境を改善する戦略要素として、背後の存在の確保または無力化がある。戦訓検討が一通り終わってから、捜査係より報告してもらいたい。また、あわせて、私のほうからも、報告すべき情報がある。
 それでは、ゲイズ三佐。まず、ロングアーチから、敵の行なったジャミングとこちらの対応について、詳細の報告を」
「はい。概要は配布した資料のとおりですが、幾つかの点について、出張管制班を率いていたロウラン准尉から報告させます。准尉」
「はっ、ご報告します。ハラオウン係長が破壊したジャミング機器を回収して、簡易解析を技術主任に依頼した結果……」


………
……

 会議開始からおよそ一時間。休憩を挟み、現在の議論は、武装係で表面化した問題、ティアナ・ランスター二士のフレンドリィ・ファイア(味方誤射)未遂に移っていた。表面化の形が誤射未遂であっただけで、その根底にある、若く経験も少ない隊員のメンタル・ケアの問題が、主な論点だ。

 ちなみに、ジャミング及びハッキングについては、六課だけの問題ではないので、地上本部に早急に報告を上げ、本部の技術部と連携しながら、技術的プロテクトの強化を進めることになった。それが実現化するまでは、対症療法でしのぐことになる。念話のジャミングでの情報漏洩疑惑は、捜査とも絡むので、あとでまとめて議論することになった。
 戦闘については、管制を除き大筋で問題なし。特に、実質5人で100を超えるガジェット群を押しとどめた武装係の部隊運用と戦闘技術は高い評価を受けた。ただし、今回効果を発揮した簡易陣地は、作成時間が必要なことから考えて、現状では使える場面が少なくなる、という意見と、地形的に相手が迂回できない状況だったから有効だったが、地勢状況では使えない場面がある、という意見が出た。
 前者については、30秒程度で組み立てられるよう、モジュール化を進められないか、という意見が出され、技術主任が検討することになった。後者は技術面ではどうしようもないため、陣地を用いない機動戦の訓練の割合を増やすということに落ち着いた。俺の方で、適当な支援装備や戦術教本などを教導隊に確認するなどのフォローも行なう。
 また、今回はじめて運用した、指揮車による出張管制と、隊舎に残る人員による、より広範囲の情報解析によるフォローという、職能の分割も、それなりの評価を受けた。ハッキングにより後半はほとんど機能せず、一部人員のパニックなど幾つかの問題は散見されたが、明確な職能の分離と、より戦線に近い位置での戦域管制のもたらした効果が、支援を受ける側としては好印象だったようだ。だが、運用するロングアーチ側からは、錬度の向上により指揮車を出張させることなく隊舎からも適切な管制ができる見込みが立っていることと、戦闘能力の低い人員を前線近くに置くことのデメリットが懸念事項として上げられ、運用の効果は否定しないが、運用には注意を要する、というやや曖昧な結論となった。明言はされなかったが、明日からのロングアーチの訓練は、一層厳しくなるだろう。普段よりも一段と「切れる女」の迫力を漂わせるオーリス嬢の横顔を流し見て、俺はそっと、ロングアーチの面々に黙祷を捧げた。
 なお、グリフィスとシャリオは、この議題が終わった段階で退席してもらった。彼らに報告や意見を求めるべき議題を消化したこともあるし、この先の議題の機密度が上がることもある。2人もその辺は理解していて、素直に従ってくれた。


 士官+1で、話し合いは続いていく。このメンバーは全員、武装隊員たちの履歴を知ってるから、彼らのメンタル・ケアという微妙な議題も遠慮なく話し合える。(当たり前だが、会議室は、機械的・魔法技術的遮音処理がされている。)

 今は、ランスターの失態の原因について、武装係の士官2名が意見を述べているところだ。いや、意見というより愚痴に近い。
「ティアナは責任感強い上に、頑固なとこがあるからなあ……」
「そんなん理由になんねーよ。自分の力量をきちんと把握できなけりゃ足を引っ張るってことが、いまだにわかってねえんだ。あんだけ、座学でも演習でも叩き込んだのに」
ため息をついて心配するハヤテに切り捨てるヴィータ。
 「お2人とも。訓練内容や個人の資質については、ひとまず置いてください。
 問題は、お2人が十分配慮した訓練をおこなってきたにも関わらず、ランスター二士が暴走したことです。訓練の基本方針に矛盾があるために、訓練のみでは十分フォローし切れない部分がでてくる可能性は事前に認識されていたはずです。それが現実化した今、どのような対応をとるべきか。表面化はしていませんが、残り3名についても、同様に何らかの課題を抱えている危険性があります。その対応も含めて、検討しましょう」
オーリス嬢が冷静に、感情に流されそうになった話の方向を切り替えた。

 「とりあえず、ティアナ以外の3人について、まず確認するか。キャロとエリオの様子は、お前から見てどうだ、フェイト?」
保護責任者のフェイトに話を振る。キャロとは同室だし、朝食はエリオを加えた3人だけの家族の時間にするように言っている。メンタル面でなにかあれば、フェイトが気付くなり相談されるなりするだろう。
「うん、私から見ても、2人は毎日一生懸命で充実してるって感じ。それは、訓練がきつかったりもするみたいだけど、ハヤテやヴィータの気遣いがわかるから、辛くはないって言ってた」
小首を傾げて言うフェイト。
 あ、ヴィータが赤くなって「気遣いなんかじゃねー! 上官として当然の配慮だ!」とか小声で怒鳴ってる。器用な奴。
 ちょっと生温かい目になりながら、続けてフェイトに問う。
「初出撃のあとはどうだった? あと、今日の帰路でのヘリでの様子とか。あの年で命がけの戦いを経験して、直後に日常の感覚にに戻れるとは考えにくいんだが」
「うん、それは私もちょっと心配だったんだけど。2人ともけっこう、キチンと切り替えできてる。……多分、過去の経験が良い方向に働いてるんだと思うけど……」
「……ふむ。なら、とりあえずはあの2人は大丈夫そうか。だが、大人に捨てられた経験を持った10歳にもならない子供であることには、変わりない。各員は改めて、2人のメンタル面については、注意を払うように。些細なことでも報告・相談しろ。
 それと三佐、地上本部のカウンセラー資格持ちの医療官の、定期訪問の手配はどうだ?」

 10歳前の子供と思春期の少女。彼・彼女らが戦場に出て、精神面でなにも問題を生じないと考えるほど、俺は楽観的ではない。だから、常駐は無理でも、カウンセラー資格のある医療官と定期的に話をできる機会を設けられるよう、武装隊のメンバー決定の時点で、オーリス嬢に手配を頼んでいたのだが……。
 彼女は、やや、沈痛な表情で首を振った。
「申し訳ありません。PTSD持ちの局員や、六課より切迫した状態にある部隊の局員などへの対応で忙殺されて、とても時間がとれないそうです。いろいろ手は回してみたんですが、カウンセラー資格持ちの医療官はそもそも数が少ないものですから」
「いや、無理ならしょうがない。内輪でなんとかしてみよう。……と言っても、要は、フェイトとハヤテの負担が増える、ということなんだが。2人とも大丈夫か?」
「もちろん。言われるまでもないよ」
「うん。私も大事な部下やしな。きちんと注意していくつもりや」
俺は小さくため息をついた。友達感覚で話すのは別に構わんが、こういう場では、全員がわかって納得できる表現で話して欲しい。管理局はどうもその辺が甘いと思っていたが、教会も似たようなものなのか? 前から感じてたが、魔法なんてロジカルなものを扱う割に、組織運営はなあなあな世界だよな、次元世界は。

「2人のやる気や責任感は全く疑ってない。気にしてるのは、現在の多忙に加えて、精神的ケアなんていう、神経も使うし、専門技能も必要な業務をこなせるかということと、お前達自身の体調と心理的余裕は大丈夫か、ということだ。本局の医療局にはツテがあるから、必要な資料の取り寄せや適切な資料の紹介はできると思うが、基本、独学になるんだぞ?」
「私は大丈夫。前からしてきたことだし、保護した子たちと仲良くなるのに、カウンセリングや精神的ケアの関係は随分勉強したから」
「わ、私も平気や。隊長なんやし、部下のことはキチンと面倒みたらなあかん。……え、えっと、ただな。フェイトちゃん、悪いんやけど。その、いろいろ教えてもらったりしてもええやろか。もちろん、自分でも勉強するけど、教えてくれる人がいる方が、失敗も避けられるんやないかと思うんや」
「うん、もちろんだよ、ハヤテ」
「そか。おおきにな~」
笑顔でとんとん拍子に話を決めてしまった2人を見ながら、俺は考える。フェイトは問題ないだろう。実際、子供のメンタルケアでいえば、下手な医療官並みの知識と経験をもってるし、ケアするのは家族としての立場からだ。だが、ハヤテの場合……。
 俺はちらりと、視線を流した。俺の視線に気付いたリィンフォース、ついでヴィータが、軽くうなずいて返す。俺は小さくため息をつくと、2人に対して念話を送った。
(頼めるか?)
(主ハヤテのためなら)
(たりめーだ)
性格の出た返事に、内心苦笑しながらうなずいて、念話を切ると、俺は、この件はフェイトとハヤテに任せると告げた。


 正直、ハヤテに任せるのは不安がある。前から感じていたが、気合を入れすぎて、気持ちが先走ってしまっている印象を受けるのだ。だいたい、指揮官が部下に行なうメンタルケアは、家族や友人に対してのそれとは違う。極端な話、戦力整備技術の一つなのだ。情に厚い彼女が、冷徹に、部下の心理状態をモノのように調整できるかというと、俺は疑問符をつける。彼女が教導経験も小部隊の戦闘指揮経験もないのを承知の上で、今の立場に据えたのは俺なのだから、もう少し、肩の力を抜いて、俺にいろいろと仕事を投げたり、援護を要求したりしてもいいと思うんだが……。ハヤテは、昔から責任感が強いし、情に厚いからな。
 一部門の長ができると言っているのに、客観的根拠もなしに部隊長が疑念を呈するのも、組織運営上まずい。
 とりあえず、ヴィータとリィンフォースがフォローしてくれるから、やり方を極端に間違ったり、情に絡まって身動きがとれなくなることはないだろう。俺は、そう判断して、その件を完了とした。まあ、俺もなるべく気を配るようにしよう。私情にもっともらしい理由をかぶせながら、俺は思ったのだった。



 ……あとから思えば、これが俺がティアナを意識した始まりだったのかもしれん。その危うさ、力への渇望と自身の弱さに揺れる少女。前世の俺の苦闘葛藤と荒んでいった心の鏡像。そして、今生の俺のいびつさを浮かび上がらせる光。



 ……その後、武装隊員たちの抱えるメンタル以外の潜在的問題について再確認し、現在の対応と予防措置、緊急時の対応などを再検討した。
 休憩を挟んで、次は敵の戦闘様式の進化への対応について。対人戦の座学や演習を少しずつ取り入れ、また、いざというときのために他部隊との連携訓練も開始することになった。……条件的にまたもや速成になるのは仕方のないことだったが、どうも武装隊には無理をさせることになるな。戦力の整備という部隊長として最重要の仕事の一つで不備を成し、その尻拭いを現場に押し付けるという、最低のループにはまり込んでいる自覚に苦い思いをしながら、せめてもと、ロングアーチで、過去のデータから予測される、今後敵側が取る戦術の可能性高位順のリストを早急に作成するよう命じた。「助かるわ」と喜んだハヤテの笑顔が痛かった。
 


 そして、最後の議題、「敵の確保、または無力化」という戦略目標に大きな影響を与える捜査の進展について、フェイトからの報告がなされる。

「先月の出撃で回収したガジェットの残骸から発見されたジュエルシードですが、地方の研究所に貸与されるために移動中のところを強奪されたものだとわかりました。どのようにして、ロストロギアの局外持ち出しや、その移送ルートが知られたかについては、本局の執務官が捜査にあたっているとのことで、進捗があれば知らせてもらうよう、お願いしておきました」
「フェイト、その執務官とは顔なじみか?」
「? いいえ。直接お会いすることはできなかったので、事務の方に伝言をお預けしてきました」
俺はかすかに眉を動かした。
「……あの、それがなにか?」
「……その執務官とは別口で捜査を続けるように。手が回らないようだったら、アコース査察官に相談してもいい。必要なら俺も口添えする。
 地方研究所からの借り出し申請は書類上ではなく、本当に出されていたのか。捜査をしているという執務官が実在しているのか、実在しているのなら、彼と親しい本局上層部の人間は誰か。また、実在していた場合、本当にその件について捜査活動をおこなっているのか。ジュエルシード持ち出しから移送ルート策定に関わる部署で、漏洩をおこなう可能性のある人間のピックアップ。そのあたりだ。書類は偽造できる。仲間がいる可能性もある。書類や証言のみで結論を出さずに、物証を探る捜査をしてくれ」
「なのは、それって……」
「ああ。管理局内部に協力者がいなかったかを、洗いなおしてみろ」


 念話がピンポイントでジャミングされたこともそうだが、天照との通信もジャミング対策をしてあるのだ。当たり前のことだが。
そして、その「当たり前」があっさり破られたことの意味は、かなり重い。クラナガンの治安を守るシステムの要の、それも特に機密性の高い情報が敵側に漏れている、ということなのだから。相手の技術力が管理局のそれを圧倒的に上回っている、という可能性もあるのだが、次元世界の常識としては考えにくい。
 ……もっとも、最高評議会とスカリエッティとのつながりを知る俺にとっては、情報漏洩で決まりだろうと思うわけだが。まあ、まだバラすには早いので、ほかの連中を納得させるだけの、もっともらしい理由を示してやる必要がある。
 ちなみに、敵がスカリエッティだということは、今日の会議でほぼ確定した。俺が襲撃予告は、奴から直に受けたと言ったからだ。
「なんで、その場で捕まえなかったの?!」
フェイトに怒られたが。
 要人の多い場所で、単身現れた高名な犯罪者に手を出すのは、大きな被害が生じかねなかった、などと言ってごまかした。……ああ、考えてみたら、これも、使いようによっては俺を査問する口実に使えるな。とは言え、緘口令をひくのも俺への不信感を煽りかねんし。
 つらつら思っていると、フェイトが真剣な顔で俺に問い掛けてきた。こういうときは、マルチタスクは便利だ。話の聞き漏らしがない。フェイトに知れたら、また説教を食らいそうなことを思いながら、その言葉を聞く。

 要は、本局に内通者がいると考えているのか、という質問だった。まあ、ジュエルシードに関する指示やジャミングの話をすれば、その方向性が本局に向いていることに、よほどの阿呆でもない限り気付くだろう。
 肯定すると、フェイトは少し黙った後、その件についての捜査を中心にするよう捜査の配分を変えたい、と言い出した。ジュエルシード絡みの件の裏をとるという、外堀のさらに外を突付くような回りくどい捜査ではなく、もっと直截に内通者の摘発に力を入れ、そこからレリック事件の黒幕へ糸を辿りたい、と言うのだ。それに本局に内通者がいるのなら、レリック事件の捜査責任者として、本局の人間として、見過ごせることではない、と。


 捜査自体は別に問題はない。外敵に対する前に内憂を払うという考えも戦術論でいえば、オーソドックスなものの一つだ。それに、教会と同じように、フェイト、ひいてはクロノら本局穏健派に、上層部への不審を植付け、あるいは強化する機会でもある。
 もっとも、後者については、「計画」上の優先度は低い。それに、フェイトの動きで相手側に、正規の捜査の手が伸びはじめたのを察知されるのはまずい。俺個人でなく、六課全体や、最悪本局の穏健派までが粛清の対象になりかねない。もうなってしまっているかもしれんが、その流れを後押しするようなことになるのは避けたい。
 無論、フェイトは優秀な執務官だ。そうそう、相手に気取られるとは思えないが、所属組織の不穏分子を探り出す、というのは、通常の捜査とは、精神的にも技術的にも大分異なるだろう。気を許している相手が敵側ということもありうる。というより、名門ハラオウン家の一員にして名のあるエースたるフェイトの周辺に、なんらかの監視がされていないなんてことのほうが考えにくい。リンディやクロノにしても、怪しい人員全てを見抜いたり、排除できたりしているわけではないだろう。敵味方の区別がつかないこと、さらに味方や善意の人物であっても踊らされて結果的にこちらに不利なことをしてしまうこと、等があるのが、こういう組織内での暗闘の恐ろしい点だ。

 いますでに、ヴェロッサも動いているし、カリムも改めて関係者に働きかけるという。なら、彼らに加えてフェイトまで同じベクトルで動くメリットはあまりない。むしろデメリットのほうが大きい。クロノのほうにも、当然、ヴェロッサから話が行っているだろうし。
 そう言って、今は抑えるように告げる俺の説明に、納得いかない風のフェイト、そして、会議室内の全員に向けて、俺はカードを一つ切った。宿舎の俺の部屋の前あたりを探査して見つけたそれを、机の上に置く。無言で示された、粘土のようなそれに対する、皆の反応は薄かった。俺が説明をするまでは。
「プラスチック爆弾だ。宿舎の俺の部屋の前に仕掛けられていた」
この量なら、俺の部屋を吹き飛ばしてお釣りが来る。そう言葉を続ける前に、皆の顔色は変わっていた。






 その日の深夜。
 自室で仮眠していた俺は、オーリス嬢からの秘匿連絡で目をあけた。
 詳細を聞きながら、移動する。六課周辺に設置されている可搬式センサとハヤテに撒いてもらったステルス式のサーチャーで捉えられた情報が、送られてくる。街の外れの海沿いにある機動六課。そこを目指す車以外は、まず走らない道を、天照停止時間帯に隊舎に向かって走る、ナンバーを隠しスモークを貼った車2台。
(10名が分乗して接近中。全員、CからDランクの魔力量、武装の詳細は確認できず、されど中大型の兵装積載はなし……)
爆薬を設置していたことから考えれば、襲撃者達が質量兵器を使用してくる可能性は高い。慣れん兵器を使っても、実戦ではしくじるだけだがな。
 質量弾の反動や直射性は、魔力弾を扱い慣れた人間には、想像以上に扱いにくい。あるいは、傭兵でも雇ったか、反管理局のテロ組織に情報を流して手引きしたか。会議でも検討された内容に思考を遊ばせながら、宿舎の外に出て建屋から200mほど離れ、道路脇の木陰にかがみこむ。バリアジャケットを夜間迷彩色で展開し、片手に拳銃型デバイスを持った。ベレッタM8357INOXに外観をあわせたそれが、闇夜に鈍く銀の輝きを放つ。俺は小さく呟いた。
「夜間迷彩モード」
<Yes,Ma'am>
無機質な声とともに、デバイス全体の色が、闇に紛れる暗色へと切り替わった。

 宿舎から500mほどの位置にあるサーチャーが、対象を捉えるのはもう間もなくだろう。確認次第、リィンとユニゾンしたハヤテが隊舎に防御障壁を展開、道路に設置した起動式車止めで相手の足を止め、警告と宣告。フェイトは遊撃兼囮として空を翔け、地上の俺と連携して襲撃犯を無力化する。ヴィータはハヤテとオーリス嬢の護衛。オーリス嬢は全員の管制。及び、最初の、即時投降しない場合は武力鎮圧する旨の警告と逮捕宣告、その後のこの地域管轄の陸士部隊への緊急連絡もしてもらうことになっている。
 本来なら事前に陸士部隊の協力をとりつけて、連携して対応すべきだが、今回の件は、どこに根があり、どこまで耳目が伸ばされているか断定できないので、念のため、情報封鎖を優先した。同じ理由で、六課内でも、この襲撃と対応準備を知っているのは、士官のみだ。ただ、レリック絡み以外の捜査はうちの管轄外だし、この地域を管轄する部隊とのパイプを太くするためにも花を持たせるいい機会ではある。犯人は引渡し、以後の捜査の「表」は、陸士隊に任せるつもりだ。この事件の関係者を多くして、噂が広がりやすいようにしたいという思惑もある。
 そうこうするうちに、オーリス嬢から連絡が入り、俺は射撃姿勢をとった。エンジン音が近づいてくる。オーリス嬢のカウントをとる声が聞こえる。
(道路封鎖と警告まで、あと、5、4、3、2、1、Now!)


 夜の闇を、連続した機械音と甲高いブレーキ音、照明魔法の強い光が引き裂いた。





■■後書き■■
 次回は、いわゆる「ちょっと頭冷やそうか」編、かな? でも、ひょっとして、リクエスト対応フェイト編が先に来る可能性もある。予定は未定。どちらになるかは、気分によって変わると思うのであしからず。ほのぼの系の話もいいかな、なんて浮気しそうな作者でした。

 あ、ちなみに原作では、管制と前線部隊との間の念話?は、基本、ウィンドウ通してたように思いますが、ウィンドウなしでも可能だろうと判断して今話のオーリスさんとの念話の描写になってます。音声と魔力波(念話)の変換機くらいあるでしょ。というか、ないと、通信士や指揮官は全員魔力持ちでなきゃならなくなるだろ、ということで。


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