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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 二十二話
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/23 12:45
※2/23、言葉の誤用訂正 「Mam」→「Ma'am」





 俺は部隊の輸送隊所属の陸士が運転する車の後部座席で、いま後にしてきた聖王教会本部での話し合いを思い返していた。

 
 聖王教会本部を、六課本格稼動の挨拶を名目に訪問した俺は、カリムと面会した。実のところ、もっとも味方につけ続けたい相手だ。口実はあるので、部隊の準備時期から接触は頻繁におこなっている。

 とりあえず、ハヤテの武装隊長としての働きなどを、姉としてのカリムに話してやった。連絡はとりあってるだろうが、第三者の目から見た様子も伝えてやったほうが安心するだろう。慣れないことに苦労しているようだが、明るく前向きに取り組んでいる様子を話してやると、カリムも少し安堵したような表情を見せてくれた。
 カリムのほうも、ごく親しい「海」の人間数人に、俺が流した局内の犯罪についての相談をもちかけたことを漏らした。相手の反応が芳しくないことも。
「なかなか信じられないようです」
「別組織から自分達のTOPの悪事を知らされて、素直に頷ける人間は少なかろ。カリム個人を信頼してるとか友情を抱いてるとかいうこととは、また別の話だ」
 カリムもそれなりに、組織間の駆け引きの理不尽さや無情さを経験してるはずだが、その友人達とやらは、そんなしがらみを越えて真摯に対応してくれると思ってしまったのだろうか。優しさと甘さ、私事と公職の行為は違う。だが、判ってはいても、しばしば人は無意識のうちに、それらの線を踏み越えてしまうものなのかもしれん。


 不意にコール音が響いて、俺は思考の渦から呼び戻された。目の前にウィンドウが開かれる。
「失礼します、部隊長」
「どうした」
律儀に敬礼を決めたオーリス嬢に問う。背もたれにもたれた姿勢は変えていないが、既に頭は臨戦体勢に入っている。オーリス嬢の表情が、それなりの事態が発生したことを示していた。
「つい先ほど、ガジェット出現の連絡があり、デフコン1のアラートを鳴らしました。ガジェット群は、クラナガン郊外のリニアレールを走行中の貨物列車を襲撃中、狙いは貨物のいずれかとは思われますが、断定できておりません」
「数は」
「最新情報で約三十」
一瞬、思考に沈む。
「どうみる?」
「数が少なすぎることと、地勢状況も考え合わせ、伏兵への配慮を進言します」
「磐長媛命では?」
「確認できておりません」
とは言え、それは伏兵が存在しないこととイコールではない。万全の監視はありえない。補佐の経験が豊富なオーリス嬢もわかっている。それに今回の件で言えば、郊外である以上、各監視機器の有効保証範囲から外れている。機器を設計限界近くまで酷使して情報を得ているのだろうが、信用度が低くなることは否めない。
 だが。
「グラシア隊長は?」
オーリス嬢の返事の前に、新たなウィンドウが開いた。
「武装隊総員7名、ヘリに搭乗済み! いつでも出動できます! 捜査係は出先より現場に急行予定!」
ヘリの爆音を背景にした気合の乗ったハヤテの言葉に、俺は軽くこめかみを抑えた。
「聞いていたな? 伏兵ありとして、いけるか?」
「大丈夫です!」
ぐい、と緊張気味ながら不敵な笑みを浮かべてみせるハヤテ。後ろに映っている面々も緊張しているようだが、まあ、それほどひどい精神状態ではないようだ。だが、速成訓練での初出動。保険はかけておくべきだろう。
「捜査係に伝えろ。今回は戦闘を優先してよし。余裕があれば、ヘリと連携しての広域走査も試せ。
 それからハヤテ」
「はっ!」
「武装隊は公式には、総計で6名だ。気持ちはわかるが、正規報告の際にリインフォースを数に入れないように」
「あっ」
間の抜けたハヤテの声に、一拍置いて、ウィンドウの向こうから微かに笑い声が聞こえた。赤くなって後ろに向かってなにやら言っているハヤテから、オーリス嬢に視線を移す。視線が合った彼女は、静かに、だがしっかりと頷いた。
 俺は頷き返すと、声を張った。

「総員傾注!」

2つのウィンドウから、無数の視線が俺に刺さる。緊張気味の出動部隊、静かな表情のオーリス嬢とその背後に映る管制官たち。
「我らが六課の初舞台だ。私は現場にいないが、貴官らのこれまでの訓練の日々を知っている私は、それを不安に感じない。訓練と仲間達は諸君を裏切らない。臆せず惑わず職務を果たせ。
 機動六課各員、状況を開始せよ!」
「「Yes,Ma'am!」」
なかなか揃った声が返ってきた。ふむ、なかなか士気が高い。
 俺はもう一度、オーリス嬢のウィンドウに視線を向けて、締めの言葉を告げた。
「以後、作戦終了まで、部隊の全指揮権をゲイズ三佐に委譲する。部隊長代行として、必要と考えるあらゆる措置を取れ」
「指揮権受領しました。微力を尽くします」
敬礼する嬢に敬礼を返す。そしてウィンドウが消えた。

「あの、どちらに向かいます?」
運転席の隊員が聞いてきた。
「予定通り、地上本部ビルへ」
「えっ? 部隊に戻らなくていいんですか?」
「心配いらん。よほどのイレギュラーがなければ、皆が片付けるさ」
「はっ、しかし……その……」
ふ、初出動に部隊へ戻ろうともしない部隊長など確かにあまり聞かんか。
「彼らでは無理だと思うか?」
「いっ、いえ、そんなことは!」
「なら、心配するな。指揮をとることも私の職務の一つには違いないが、ゲイズ三佐は有能だ。私は、私にしか出来ない、部隊員が安全に制約無く働ける環境を整えるという職務も果たさねばならん。わかるな?」
「は、はいっ。了解しました」
「よし、頼む」
言って、俺は視線を窓の外に流した。さて、しくじってくれるなよ?




 事態終了の連絡があったのは、俺がレジアスと打ち合わせている最中だった。レジアスに断って、連絡を受ける。死者・重傷者なし、公共物の被害は車両のみ、か。まあ、とりあえずは合格だな。俺は、部隊員達へのねぎらいの言葉をことづけると、ウィンドウを閉じて、レジアスに向き直った。

 今は、部隊の本格稼動の挨拶を口実にこの数日の間に訪問した、地上部隊各隊、航空武装隊・普通武装隊各隊、武装隊本部、教導隊実働班などの反応と聖王教会の動きを伝えている最中だった。話に戻ろうとした俺は、レジアスの微妙な表情に気づいた。
「……どうした?」
俺の問いに、レジアスは少しためらったが、口を開いた。
「初の実戦で部隊長不在というのは、外聞が悪いし、部隊内でも不信の目で見られかねん。軽率だったのではないか?」
俺は軽く肩を竦めた。
「言いたい奴には言わせておけばいい。この程度のことで騒ぐような奴らは、もともと俺に隔意を持ってるような奴らだ。逆にあぶり出しになっていいくらいのもんだ。……まあ、多少切れる奴なら、背後で煽るだけで、自分は率先したりはしないだろうがな」
俺の言葉にレジアスは眉を動かした。
「まったく、腹黒い奴だ」
賞賛と呆れが混ざったような声音に、なぜか居心地の悪い気分になって、俺は話をずらした。
「それに、あまり俺が目立つと、部隊の連中の名が上がらん。前に出過ぎないように気をつけないといけないしな」
やや言い訳がましい俺の言葉に、レジアスは鼻を鳴らしただけで、言葉は返さなかった。

「……それで各部隊の反応は、だいたいが、やや懐疑的ながら納得、というところでいいのだな?」
「ああ」
答えて、あちこちで繰り返したやりとりを思い返す。
 管理局内に「犯罪者」がいる疑いがあり、レリック対応を隠れ蓑にして、その「犯罪者」を追っていると話し、いざというときの協力を求める。それが、俺が挨拶を口実に回った先でおこなったことだ。偽造を含む疑惑の根拠もいくつか提示した。無論、すべて本局がらみのものだ。明言はしてないが、だいたいの相手は俺の追う先にあるものに気づいただろう。反応も、たいてい同じようなものだった。


「以前から、そんな噂があることは耳にしていたが……」
「現時点で調べた範囲では、噂の域を越えているようです」

「正直に言って、信じがたい。いや、信じたくない、という気持ちだ」
「私も同様です。しかし、事実は事実として受け止めなければ、市民や局員の被害が拡大することになります」

「なにかの間違いではないのかね?」
「私もそう考えたかったのですが……。現状では、すべての調査結果が一つの結論を指し示しています」


訪問先で、繰り返した問答を思い返す。
「口では納得できないようなことを言っていたが、なに、頭から否定しない時点で、本局や「海」への不信や反感は持っていた、ということだ。情報を検討する時間を与えておいて、次の情報を持っていくことを繰り返せば、そう長い時間かからずに、彼らの意識は、本局と「海」を容疑者として受け入れるだろう。あとは、危機感を煽るような出来事が生じたときに、適切な思考誘導をしてやれば、まず、行動の方向性は揃うと、俺は見ている」
「進捗は順調、というところか」
「ああ」
少しの沈黙が流れる。
 コーヒーを啜ってから、俺は姿勢を直した。 
「各次元世界との協調だがな。9月の公開意見陳述会を名目に、各世界の代表を一同に集めて、意思統一を図ることはできないか? 聖王教会に根回しして、リーダーシップをとってもらえば、話をまとめるのも容易になるだろう」
レジアスは苦虫を噛み潰したような顔をした。ただでさえ厳つい顔が、まるで鬼瓦のようだ。
「……聖王教会に頼るのは嫌か?」
「次元世界の治安維持に責任を持って取り組んできたのは、我々、ミッドチルダの人間だ。カビの生えたような連中にでしゃばられるのは好かん」
やれやれ、組織間の関係改善の手は打っても、個人的な悪感情までは抑制し切れないか。
「管理局もたいがい、カビの生えた組織だと思うがね。だいたい、「海」の独占している権力を取り上げた後、生じる軍事的混乱を最小限に押さえるときに、教会騎士団の協力は是非欲しい。政治的な面でも、求心力のある存在が指導的地位に立たなければ、混乱の拡大は避けられん。次元世界の広い範囲で、一定の敬意を払われている聖王教会は、まとめ役には適任だろう?」
「……我々が主導して、混乱を収めればいい」
「管理局内での内輪もめを激化させてもいいなら、それもいいな。管理局内で権力保持者が入れ替わるだけじゃ、ただの権力争いにしかならん。それだと、各世界の支持も容易に失われる。利益の分配を巡って、争いが頻発するようにだろう。それを避けようと思えば、これまでの管理局とは違う組織で、かつその判断はある程度公平であると各次元世界が同意するような存在が権力を持つことが望ましい。
 ついでに言えば、軍事力と権力の明確な分断も、この機会に実現しておきたいところだな」
「……」
「ふふ、まあ、すぐに答えを出せとは言わん。頭の隅にでも置いておいてくれ。
 さしあたっては、各次元世界政府の思考誘導だな」
「……そちらについては、ほぼ順調に進んでいる。使う手札とその順序を誤らなければ、発生するという争乱をきっかけに、本局に対する敵対行動を支持させることは可能だろう。……実際に争乱が起こればだが」
「さて。俺の母国では「あたるも八卦、あたらぬも八卦」という言葉があってな。まあ、本局の警戒具合を見れば、まったくの戯言として片付けるには、リスクが高すぎるだろう。あるものとして進めて構うまい」
「……」
「くくっ、まったく、お前の教会嫌いも筋金入りだな。頼むから、感情にひきずられて、判断を誤るなよ?」
「……そんなことはせん」
「ならいいが」
「ふん」
鼻を鳴らしたレジアスに、俺は肩を竦めてみせた。




 その日の夜遅く。俺は初出撃の戦闘報告書を読み返していた。
「……空戦型に尉官3人総出で当り、フォワード陣はギンガのフォローを受けつつ、列車奪還。やや、危険な場面もあったが、ルシエの竜魂召喚の成功もあり、大過なく任務完了、か」
やはり伏兵がいたか。突然の出現を考えると、転送魔法を使ったか? だとするとかなり大規模なものだな。魔導機械の使用も可能性として考えるべきか。大量のガジェットといい、かなり機械系に強い存在が裏にいると考えられるな。
 しかし、初戦闘のフォワ-ド4人を、下士官一人つけただけで閉所に突っ込ませたか。しかも、二手に分かれさせ、ギンガは三士コンビに同行、か。まあ、ミスというほどでもないが、たかがガジェットにあの3人総がかりは過剰戦力だろう。二士コンビのフォローに一人回したほうが良かったようにも思うな。原隊の絡みでヘカトンケイレス貸与の許可が下りてないから、目視と念話中心の指揮にならざるを得ないんだし。
 オーリス嬢がうまく全体を管制してフォローしてくれたようだが。……まあ、明日、ハヤテと話してその辺の考えを聞いてみよう。その上で、必要ならデブリ-フィングで、全員に集団戦における基本を指導しておくか。

 そんなことを考えていると、部隊長室に向かってくる足音を耳がとらえた。しかもけっこう荒くて早い。それに続く小走りな足音。こんな時間に誰だ?
「なのは!」
ノックなしに扉が開かれ、目を吊り上げたフェイトが入ってきた。珍しい表情だ。フェイトの感情をここまで負の方向に刺激するとしたら……。
 俺の座る机の前まで一直線に来たフェイトは、手にもった資料をそのまま掌でバン!、と机の上に叩きつけた。おいおい……。付いてきてたシャリオも顔が引き攣ってら。
 ちょっと引いている俺達に気づかず、フェイトが歩調そのままの口調でまくしたてた。
「スカリエッティだ! アイツ、挑戦のつもりなんだ!」
「……落ち着け、話が見えん」 


 激しく語るフェイトをシャリオがフォローしつつ、説明が始まる。
 今日の戦闘で鹵獲したガジェットの残骸を調査していたら、動力部と推定される部分にジュエルシードが組み込まれており、その横のプレートにジェイル・スカリエッティの名が刻まれていたという。明らかな挑発だとフェイトは柳眉を逆立てている。まあ、奴の研究は、フェイトにとってはトラウマど真ん中だからな。ここ数年、追い続けてるとも聞いてるし、感情的にもなるか。
 しかし、ジュエルシードか……。また懐かしいものを。しかも、あまり意味の無い使い方をしてるあたり、ただ見せびらかしてるように思える。管理局とのつながりをアピールしたかったのか? いまいち意図が読めん。それにしても、まさかコイツが「古い結晶」じゃなかろうな? レリックなんぞ目じゃない危険物だ、シャレにならんぞ。

 そんなことを考えながら、俺は、シャリオになだめられて、ようやくある程度落ち着いたフェイトに言葉を掛けた。
「……まあ、可能性が高いのは否定せんが、断定するには弱いな」
「こんなことするのは、スカリエッティだけだよ!」
「感情に流されるな。奴の模倣犯かも知れんし、捜査の目を奴に向けさせるための小細工かもしれん。捜査の責任者が私情と先入観に囚われてどうする」
「…! だけど……!」
駄目だな。完全に頭に血が昇ってる。
「とりあえず、明日のデブリで事実と推測を明確に区分して発表。一応、スカリエッティに関するデータも配布できるようにしておいてくれ。だが、現段階ではあくまで、可能性の一つだ。事実と混同しないよう、説明時に注意を促すようにな」
「……っ!」


 フェイトがうつむいた。握り締めた拳が白くなって震えている。俺は気づかれないよう、かすかにため息を吐いた。
 深く刻みつけられた心の傷は、10年経とうと血を流しつづける、か。ふと脳裏を言葉がかすめた。前世で聞いたか今生で読んだか、夭折した天才の紡いだ言の葉。


「……汚れちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる
   汚れちまった悲しみに 今日も風さえ吹きすぎる……」

 ぼんやりと呟いた俺に、フェイトとシャリオが視線を向けてきた。
 驚いているような気配を無視し、目をあわさないまま、俺はゆるく呟き続ける。

「汚れちまった悲しみは なにのぞむなくねがうなく
 汚れちまった悲しみは 倦怠のうちに死を夢む……」

 俺が口をつぐむと、部屋の中を静寂が満たした。なんとも言いがたい空気が流れる。
「……え、えっと……」
何か言おうとしたシャリオの言葉を遮って、俺は独り言のように続けた。
「97管理外世界の詩だ。意味は知らん。なにを思って書かれたのかも知らん。だが、感じるものはある」
す、と視線をあげてフェイトを見つめる。話が突然飛んで、きょとんとしているフェイト。ああ、そっちの顔のほうがいいと俺は思うぞ。

「憎しみに呑まれるな。お前の執務官としての原点は不純なものかも知れん。だが、それは今のお前が不純であることを意味しない。これまでの業務に後悔があるかも知れん。だが、それは未来までお前が後悔しつづけることを意味しない。
 お前自身を汚すな。お前の、憎しみで。悲しみで。自分を貶めるな。一度汚れてしまえば、それは容易には落ちん。それに、お前は知っているはずだ。ここの」
言葉を切って、俺は手を伸ばし、拳でそっとフェイトの胸を触れた。
「奥にある暖かいものを。優しい存在を」
手を戻し、背もたれにもたれる。椅子のきしむ音。フェイトの目を見たまま、言葉を続ける。
「お前はお前だ。憎しみに呑まれるな。悲しみに溺れるな。自分自身を、汚すな」

 少しの間、フェイトはきょとんとしていたが、やがて徐々に顔を赤くして俯いた。さっきまでの、殺気にも似た、はりつめた雰囲気は消えている。光のような髪から、かすかにのぞく耳が赤い。俺は自分の目元が和らぐのを感じた。そうだ、フェイト。お前はまだ、堕ちていない。そして、おそらくは、一生堕ちずにいられる人種だ。
 かすかに目を細めてから、俺は視線をフェイトから外し、デスクの上の書類を手にとって、中断していた事務処理を再開した。間を置いてシャリオが、小さな声で、
「そ、それじゃ、私はこれで……」
と言って、足音を殺して部屋を出て行く。しばらく、部屋の中には、俺が書類を処理する音だけが響いていた。


「……えっと…な、なのは」
「…ん?」
「その…ありがとう」
「いや、上司として、部下のメンタルケアは職務の一つだ」
「ふふっ、そうなんだ。…うん、でもありがとう」
「……ああ」






 深夜。

 明かりを消した自室で、俺はフローリングの床に呪陣を描き、その上に東西南北の方位を合わせたクラナガンの広域地図を置き、その四隅に神酒と俺の血をかけた標(ヒョウ)を刺した。
 呪陣と地図の前に立つと、5枚の小さな符を手に持ち、霊力を流し込みながら呪を唱える。
「四方五行を統べたもう 陰陽万象を成したもう 理(ことわり)により妨げたもうな 我が声を彼の者に届かしめよ」
標が淡く光りを灯す。呪符が細かく振動する。
「彼方より此方へ此方より彼方へ 遠きは近く近きは遠く 血の導(しるべ)により応え 在所を主に知らしめよ」
唱え終えて、呪符をバッ、と宙に撒き散らす。しばらくの間、宙に渦巻いていた呪符は、やがて吸い込まれるように一つ一つ、地図の上の一点に集まっていき、一箇所で重なりあったまま動きを止めた。

 ふん、やはりか。

 今使った術は、俺の作った式に呼びかけ、その現在位置を調べるものだ。世界を超えたり、同じ世界内でもあまり長距離になったりすると使えないが(俺の術者としての力量の関係だ)、今回はそれほど遠くではないと踏んだ。なぜならーその式とは、数年前にスカリエッティの研究所に侵入したときに、奴の部屋にあったコンピューターに潜り込ませておいたものだからだ。
 フェイトにはああ言ったが、俺はガジェットの刻印はスカリエッティからのメッセージだろう、と半ば確信していた。自己顕示欲とナルシシズムに浸ったあいつのやりそうなことだし、何より俺の勘が、奴の「匂い」を感じていた。そして、術による確認で、奴の現在のラボの位置もほぼ割れた。近いうちに、また忍び込んで、式の溜め込んだ情報を仕入れてくるとしよう。


 さて、挨拶は受け取ったぞ、スカリエッティ。だが、それは即「遊び」の開始を意味するものと理解しているか?
 暗闇の中、俺は静かに口の端を吊り上げた。




■■後書き■■
 StS編では、どうしてもなのは以外の視点が必要になるので、ちょこちょこ「幕間」を設ける予定です。次回は、それの第一回の予定。ネタ的には本編1話ごとに幕間1話が入るくらいあるんですが、そこまですると本編の話の流れがぶつ切りになるしなぁ……。でも外伝が予想以上に好評だったので、ちょっと迷ってます。

※文中引用:中原中也「汚れちまった悲しみに」より。


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