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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/02 16:22
※2/2 誤記修正(戦場リンクシステム → 戦術データ・リンク)



 僕と彼女の付き合いは古い。管理局ではフェイトやかあさんと並んで最古と言える。


 出会った頃から、彼女は余裕綽綽の悠然とした態度をしていながら、ふとした拍子に、張り詰めすぎた糸のような危うさを感じさせることがあったから、僕は、彼女が次元航行艦隊とは違う部署に配属されてからも、なにかと気に掛けていた。フェイトの大切な友人だという意識もあった。
 多分、彼女は、そんな僕をうるさがっていたんだろうな、と苦笑してしまう。でも、人に余計なお節介を焼かせさせるような雰囲気が、当時の彼女にはあった。そう感じていたのは、当時では、僕とフェイトくらいだったようだけれど。規律や品位を口実に、彼女に口やかましく接していたのは、そういうこともあったのだ。そして、ハラオウン家の人間である僕達が率先して注意し、構うことで、彼女への風当りを少しでも弱めようという意図も。

 入局したころの彼女は、ともかく意地っ張りで、容赦がなかった。敵に対しては勿論だが、味方に対しても手加減なく噛み付き、何階級上の上官だろうと隙があれば徹底的に反抗し、論破した。彼女の言うことが正論であることが多かったが、正しいというだけでは組織は運営できない。上に立つ人間は、広い視野で物事を見、一見不合理に思えるような選択を下さざるを得ないことがあるのだ。
 繰り返される処罰と、任務での暴れっぷりから、「魔王」などと呼ばれ、所詮は道理を知らない野蛮な管理外世界の人間だ、などという時代遅れの陰口さえ叩かれる彼女に、僕もフェイトも何度注意し、諭したかわからない。
 だが彼女は、皮肉に唇を歪めて話を逸らし答えをずらして、こちらを煙に巻くだけで、態度を改めることはなかった。
 そんな彼女のあり方が、ただ我侭だとか冷酷だとかなのではなく、余裕のなさの裏返しだと気づいたのはいつ頃だっただろう。忙しい武装隊の僅かな休みでさえ、ボロボロになるまで訓練に充てている彼女の様子をフェイトから聞いたときだろうか。彼女が作戦に異を唱えて上官に叱咤され、結局予定通り実行された作戦で大きな被害がでたあとに、独り隠れるように、船の片隅で歯を食いしばる彼女を見てしまったときだろうか。
 いつしか、僕の目には、傲慢だの礼儀知らずだの言われる彼女の言動は、毛を逆立てて精一杯周囲を威嚇する猫の振る舞いと同じように見えるようになっていた。初めて会ったときの攻撃的な態度も、虚勢を張っていたんじゃないかと思えるようになっていた。僕が自分の執務官という立場に対して、ようやく肩肘張らずに相対できるようになったころのことだ。僕の精神的な成長と昔の自分を省みての反省が、彼女の態度にかつての僕と似通ったものを感じさせたのかもしれない。子供だからと、経験が少ないからと、軽く見られないよう必死に背伸びして努力していたころの自分と。


 彼女が教導隊に異動になって、ほとんど間をおかずに地上に出向になったとき、僕はいつか起こるかもしれないと思っていたことがついに起こったのかと唇を噛んだ。彼女が大きな魔力量を誇り、多くの成果を挙げていようと、管理局でも名門であるハラオウンの人間が彼女と親しくしていようと、上官や組織に反抗的な人間を厄介者と感じる気持ちまでは抑えられない。その気持ちが厄介者払いの実行につながることを僅かなりとも遅くさせられるだけで。
 エリートたる教導隊まで進んだ人間が、一時でも「陸」に追いやられるというのはそういうことだ。ましてや、その直前に、黒い噂の絶えない「剛腕レジアス」と衆人環視の中でいざこざをおこしたとなれば、「陸」においても、彼女の立場は難しいものになる。なんとかしてやりたいと思っても、「陸」にツテなどない。
 偶然本局内で顔をあわせたときに様子を探ってみたりしたが、いつもの調子で煙に巻かれてしまった。それでも、心配したほど面倒なことになっている様子はなくて、口先だけじゃなく、フェイトをなだめることもできた。ただ、しょっちゅう、古巣の教導隊に顔を出す彼女のことを嘲笑う声は、少なからずあった。いまさら、自分の態度の傲慢さに気づいて泣きついているのかと。彼女と言葉を交わして、彼女が教導隊に顔を出すのは、そんなしおらしい理由じゃないとはわかっていたが、僕は口を閉ざしていた。陰口に事実や正論で反駁したところで、沈静させる効果はないということは、自分の経験からよく知っていたから。


 彼女が出向から帰ってきてからも、嘲りは続いていた。彼女が以前と違って、それほど攻撃的な態度をとらなくなっていたことも原因の一つだろう。「陸」から出向期間中の活動を高く評価し昇進を推薦する書類が届いて、彼女が一尉になったことに対する嫉妬も輪をかけていた。だが彼女は、こんなところは以前と変わらず、悪評のことなど知らないように、飄々と職務に取り組んでいた。
 いや、一見飄々として見えながらも、実は以前とは異なる熱心さと注意深さで職務にあたっていると知ったのは、彼女の原隊復帰後、しばらく経ってからだった。仕事をともにすることになった武装隊員たちから彼女の話を聞いたのだ。

「いやー、あの我侭嬢ちゃんがなにができるんだ、って思ってましたが、なかなかどうしてどうして」
「うんうん。態度は変わらずでかいけど、熱心だし、丁寧なフォローもしてくれる。模擬戦とそのデブリだけで片付ける、お高くとまった教導隊には珍しいよな」
「あれで、意外に気ィ使いなんだぜ。隊長のとこに、その後の部隊の連中の調子はどうだとか、こんな現場の情報を仕入れたから参考にしてくれとか、たまに連絡が入るらしい」
「あれだな、意地っ張りだけど、悪い子じゃないよな」
「そうそう。どんな思い上がった若造か、とか思ってたけど、やっぱ噂ってあてにならんもんだよな」


 ちょっと気になって知り合いをあたってみたら、教導を受けた側の心証は、軒並み良いものだった。特に、従来の教導にはなかったきめ細かいフォローが好評らしい。以前から、部下や立場の弱い相手には、それとなく気を使っていたことは知っていたが、それが教導と言う業務のなかで発揮されているらしいことは、すこし嬉しい驚きだった。やがて、そんな彼女の教導姿勢は本局内や次元航行艦隊でも噂になり、現場の人間の大方には、好意的な受け止め方をされていた。かあさんから聞いたところでは、上のほうでは、猫被りと評して、馬鹿にしてる傾向が強かったようだけれど。まあ、あれだけ上官に反抗的だった彼女への上層部の心証がいいはずはない。だから、態度に気をつけろと言ったのに、と僕はため息をついた。
 けれども、現場の人間だけとは言え、彼女のことを好意的に見てくれる人間が増えたことは、僕にとっても嬉しいことだった。フェイトなどはあからさまに上機嫌になっていた。
 そして、2年経ち3年経ちするうちに、上層部のほうでも彼女を嘲る声は、表立っては出てこなくなり、現場ではなおさら耳にしなくなった。彼女の熱心な教導姿勢と、その従来とは異なる教導方法や指導内容が、明らかに作戦の成功率や局員の殉職率に良い影響を与えていると、わかりはじめたからだった。そもそも現場の人間が、熱心に且つ細やかなフォローを忘れない教導をする相手を嫌うはずがない。現場の人間の間で彼女の人気は、既に確立し始めていた。

 そこから先はとんとん拍子、というより、ドミノ倒しのような勢いで、彼女の評判は好転していった。「空のカリスマ」だの「次代の新星」だの、一般でも騒がれるようになり、彼女に憧れる局員も現れはじめた。そんな彼らに、つい数年前まで、彼女の陰口を叩いていたような連中が、自慢げに彼女のことを話すのを、僕はなんともいえない気持ちで眺めた。フェイトは単純に喜んでいたようだけど、僕は人間の浅ましさを、管理局員の姿で見せつけられたようで、素直に喜べなかった。


 今年度になって、彼女は三佐に昇進すると同時に、戦技の幕僚会議に、作戦担当幕僚副長の下に新設された、検討担当幕僚として入幕した。武装隊と陸士隊での、彼女原案の新方式の効果が、目に見える数字となって誰にも否定できないくらい明確になったためだ。もちろん、彼女ほどの指揮能力と個人戦闘能力の持ち主を、内勤に専念させられるほど管理局の人材に余裕があるはずもなく、必要に応じて、大隊・連隊規模の部隊を指揮して現場にも立ち続けている。今回の作戦への参加もその一つだ。
 この半年ほどの期間の間に、彼女は幕僚として辣腕を奮うと同時に、大事件時は派遣部隊の部隊長として前線で手際の良さを示して、個人の能力だけでなく、集団を運用する能力の高さを周囲に知らしめている。
 彼女の本分は、誰かの下で指示を受けるより、むしろ上に立って指揮統率することにあったんじゃないかと思えるほどだ。彼女にあれだけの人の上に立つ能力があるのなら、指揮や命令にやたらと反発していたのもわからなくはない、と僕もうっかり思ってしまった。わからなくはないだけで、組織の一員としては決して誉められた行為ではないし、その意味で、口うるさく注意しつづけていたことが間違っていたとも思わないのだが。今の彼女を見ていると、昔の彼女はその才気を抑圧されて鬱憤がたまっていたのだろうな、とも思ってしまう。勿論、彼女に言う気はないが。

 航空武装隊は、空中での機動能力を、魔法のみに頼らない革新的な技術の導入により飛躍的に向上させ、新ドクトリンに基づく従来より遥かに洗練された空戦戦術とあいまって、その制圧能力・生存能力を、従来とは比較にならないレベルに引き上げた。武装隊は、戦術データ・リンクの採用により部隊内で高精度の連携をとれるようになり、空・陸両兵力によるエア・ランド・バトル方式が採用できるようになって、作戦の成功率を安定的に維持し、損耗率を大きく減らした。
 それら全てが、彼女が幕僚会議入りする前から手掛けていた新手法の教導の成果だ。その改革は、彼女が検討内容担当幕僚として、教導や訓練内容や進捗管理を主導する立場になってから、さらに加速している。彼女の幕僚就任後、半年も経たない間に、ただでさえ上向いていた諸数値が、さらに驚異的な伸びを見せている。
 彼女と協力して一連の流れに携わっている教導隊実働部隊や、新戦技検討課・新装備検討課の積極的な姿勢と、武装隊側の彼女の指導への信頼が、効果を後押ししてるのは確かだろう。それでも、彼女が先頭に立つまでは、十年一日の状態が続いていたんだ。いまや、誰も彼女の能力は疑えないだろう。武装隊員たちは、皆、彼女のシンパー特に熱狂的な一部のことを、口の悪い奴は「崇拝者」とさえ呼ぶーだし、教導隊も、全面的な信頼を彼女に寄せているようだ。嫉妬や反感がないわけではないだろうが、そんなものが表に出てこないほど、彼女のもたらした成果は明確で、彼女のおこなっている精力的な活動ときめ細やかなフォローは、一般局員の支持を得ている。


 上に反抗していた彼女は、いざ上に立つと、下のことを良く気遣う上司になり、影に日向に、直属でもない下の階級の人間達のために尽力している。いまでも上への反抗は少なくないが、彼女の出した成果と得た立場が、それを子供の我侭と片付けさせない。そんな、上に媚びず下を気遣う(でも手加減はしない)、かわいい見た目の少女となると、人気が出るのは当たり前なわけで、本局広報部のアンケートで、2年連続「理想の上官」ベスト5入りした。ほかの4人が、名の知れた提督や元提督で占められていることを思うと、驚くべきことだろう。(ちなみに、僕はかろうじでベスト10に引っ掛かっている。エイミィに言わせれば、生真面目で固すぎるところがマイナスになってるらしい。上司からの評判はいいんだとか。管理局は退職したのに、どこからそんな情報を引っ張ってくるんだ? 女の情報網はつくづく侮れない)


 だが、残念ながら、彼女への批判的な声は消えたわけではない。表立って言いにくい状況にあるだけで、陰口の形で陰湿に言い交わされている。
 そもそも彼女の出世の糸口が、1年に満たない「陸」への出向期間中に具体化させた監視システム「磐長媛命」と、陸士隊向けの「新方式訓練要綱」なのだから、頭の固い人間からは、半端者扱いされるのも当然と言える。彼女が管理外世界出身であることも拍車を掛けた。
 「ぽっと出の」管理外世界から来た彼女は、旧暦の時代に次元世界の混乱を収め、それ以来今まで次元世界の秩序を守っている名誉ある職業である「魔道師」にふさわしくない、ということになるらしい。この150年近く、次元世界の秩序を守ってきたのは、自分達ミッドチルダ世界の人間だ、という強烈な自負がそこにある。そんな考え方の持ち主は、本局や次元艦隊に多い。職務柄、次元世界の秩序と安全を最前線で守っているという意識が強いので、強い自負と誇りと責任感があるし、管理局の主柱にして花形、発足以来の伝統を背負う部署なのだから、しかたないことではあるんだが。 

 さらに、彼女の歯に衣着せぬ言動と、効率重視・結果最優先の姿勢も彼らを刺激する。彼らの考える「魔道師」らしくないのだ。そこに、ミッドチルダ世界の出身ではないという事実と、低魔力量または魔力資質なしの局員が多い地上と関係が深いという話が加われば、醜い嫉妬が正当(と彼らには思えるのだろう)な捌け口をみつけることになり、……彼女への視線に非好意的な色合いをまぶすことになる。ただでさえ、彼女は我を通すところがあるから、敵をつくりやすいのに。


 僕から言わせてもらえば、いまだに彼女は、そういったところで危なっかしい。自己保身への注意の仕方が下手なのだ。
 彼女がもう少し気を使って行動すれば、無用の軋轢や不評は避けられるはずだ。小さな悪意でも、なにかの折に思わぬ障害となることがある。僕は何度か彼女に注意したが、いつもいなされている。まあ、愛想がよくて、そつなく人間関係をこなす彼女など、想像も出来ないのは確かなんだが。
 
 フェイトは彼女のことを「ホントはとても照れ屋で優しい人」と主張する。僕はそこまで思えないが-だいたい彼女は口も態度も悪すぎるー、彼女が不器用な人柄だとは思っているし、意外に繊細な気遣いができることも知っていた。だが、それが自分の評判や評価を守る方向には働かないのだ。フェイトが周囲に、彼女の良い点を宣伝して回る理由の一つでもある。どうも、自分のことで功績を口に出したり言い訳をしたがらない、彼女の代弁者を自認しているようだ。もっとも、最近は一般局員の間に、随分彼女のシンパが増えて、フェイトも宣伝だけでなく、彼女を話題に供しての会話で盛り上がるなどの機会も増えているようだが。それをとっかかりに、もう少し友達を増やしてほしいと思うのは、いささか過保護だろうか?



 少し話が逸れたが、そんなわけで、今回の作戦に、武装隊1個大隊を指揮する臨時指揮官として彼女が来たのは、作戦の成功率を上げる意味から言えばいいことだったんだが……彼女の過剰なまでの攻撃と苛烈すぎる戦闘指揮が、自分の管理下でおこなわれるのは勘弁して欲しかった。事前に口を酸っぱくして注意したんだが、結局無駄だったし。まあ、これだけ危険度の高い作戦で、殉職者が1人もでなかったのは、彼女の能力に拠る所が大きいから、あまり苦情も言えないが愚痴ぐらいは許されるだろう。
 そんな気分で、僕はようやく少しとれた休憩時間に、彼女と話をするために艦内を歩いているのだった。

 しばらく散歩がてら艦内をさまよって、食堂で飲み物を飲む彼女を見つけ、僕は彼女に歩み寄った。彼女の「崇拝者」は今はいないようだ。


 彼女と挨拶を交わし、雑談のあとで今回の作戦での彼女の暴れっぷりへの愚痴をこぼすと、なのはは笑った。
「了見が狭いな。「“海”の英雄」とは思えんぞ」
なのはがからかうように言う。
「所詮広告塔だ。外面を装うこと要求されてるだけで、僕の本質は変わらない。だいたい、君だって「“空”のカリスマ」だろう。他人事じゃないぞ」
「英雄に向けられるほどの期待はないさ。フェイトも似たような立場だが、お前にされてるほどの要求はないだろ?」
確かにフェイトは「“海”の若きエース」と呼ばれて、広告塔のような仕事も結構やらされているが、僕のように交渉の場に引っぱり出されるようなことはない。ある意味、愛嬌を振りまくことだけを要求されていると言える。各次元世界との関係を穏便に維持するには、そういった気遣いも必要だ。個人的には、多少面白くない気分だが。とは言え、なのはは勘違いをしていると僕は思う。
「君もそう呼ばれてないだけで、十分英雄だよ。そもそも、英雄の条件ってなんだと思う?」
ほんの一瞬、なのはの目が光ったような気がした。照明が反射したのか? ちょっと気が逸れた僕を尻目に、なのはは自分の考えを語り始めた。
「そうだな。まず、その組織の目的にあう内容の実績を上げていること。当然、相当な質と量でな。それから、その功績が広く知られていること。最後にその組織にウケのいい出自や人格を持っていること。少なくとも、俺は3番目には該当しないから、英雄とは呼ばれんだろう」
「……相変わらず、妙なところで自虐的だな」
「事実だろ」
肩を竦める彼女に、僕は無言で返した。
 彼女がもっと人当たりが柔らかかったら。或いは、ミッドの人間だったら。ある程度以上の名家の出だったら。そしたら、彼女も既に「英雄」と呼ばれていただろう。僕がそう呼ばれているように。
 世界は正しさだけで回ってるわけじゃない。それは管理局でさえも例外ではない。
 暗い方向に流れかけた思考を、僕は断ち切った。いま、考えるようなことじゃないし、なのはと話すようなことでもない。これは、僕のような立場の人間が、責任を持って正していくべき問題だ。
 気持ちを切り替えて、別の話題を振った。

「カリムから、君が依頼を受けたと言う話は聞いた。後見に付いてほしいという話が僕の方にも来てね。及ばずながら、助力させてもらうよ。三提督も、非公式ながら、後ろ盾になってくれることになっている」
聖王教会騎士カリム・グラシアの予言。彼女は事態に対処するため、個人的に友誼があり、実力・実績とも申し分ないなのはに、対応部隊の設立を要請した。なのはがそれを受けたという話を、カリムから直接聞いている。彼女の義妹であるハヤテも、部隊員として出向するそうだ。「夜天の王」の肩書きをもつ彼女が、たかだか一部隊の部隊員として対応にあたることに、教会の並々ならぬ決意が見て取れる。
 管理局本局でも、内容が内容だけに表だって動けないものの、カリムの依頼で設立される部隊に支援をおこなう方向で意見はまとまりつつある。だが、地上本部と縁の深いなのはをトップにした部隊に無条件で支援をするのは面白くない。そこで後見として、なのはとそれなりに交流のある僕が担ぎ出され、そして。
「フェイトも多分、出向させることになるだろう。君のためなら、喜んで力になると思う。受け入れてやってくれるか?」
僕の義妹にしてなのはの親友であるフェイトを送り込むわけだ。教会の送り込んできた人材に対抗するとともに、僕―フェイトのラインを通じて、影響力を保持したいということだろう。気分の悪い話だが、フェイトは純粋になのはの力になるだろうし、僕だってそのつもりだ。政治的なお遊戯は僕のところで引き受けて、彼女達には回さないようにすればいいだけのこと。
 なのははすこし、目をパチクリとさせていたが、意味を飲み込んだらしく、頷いた。
「……ああ、ありがとう。お前が後見についてくれるのは正直助かる。「海」にはツテがあまりないからな。三提督については、正直よく判らんが、まあ、名声と威光だけでも、いざというときには頼りに出来そうだ。
 それと、フェイトの件は別に断る理由も権限もないだろう。…ハヤテが出向してくるのは知ってるな? 彼女とも面識はあるはずだが、それほど親しいわけじゃないと思うから、事前に何度か打ち合わせをしておく必要があるが……フェイトの出向は確定事項なのか?」
「ほぼ確定と言っていい」
「そうか」
微妙な声音でなのはが言った。政治的な思惑があることを感じ取ったのかもしれない。彼女はそういうところに、年齢にそぐわない嗅覚をみせることがある。
「なら、カリムと打ち合わせるときにでも、同行してもらえるよう、日程調整を頼んでおくことにするよ。
 それと、ほぼ解釈のはずれがないだろう言葉の関係上、部隊は「陸」所属になる。後見にレジアス中将も頼むつもりだが、それは大丈夫か?」
解釈のはずれがないだろう言葉……「法の塔は崩れ落ち」か? たしかに、普通に考えて、地上本部ビルのことだろうな。となると、「陸」所属になるのはしかたないところか。レジアス中将が後見につくというのは、上層部からすれば面白くないことだろうが、なのはにとっては信頼する「陸」の高官だ。
「わかった、何とかできると思う。調整は任せてくれ」
「悪いな、頼む」
「いや、君達が力を発揮できる環境を整えるのは、後見の仕事の一部だよ」
「ほう、そうか。なら、俺としては遠慮なくお前に「やれ」と命じるだけでいいわけだ」
「……だから、なぜそういう方向に走る?!」
僕の反応に、なのはは楽しげに笑った。まったく、なにかと僕をからかいたがるこの悪癖だけはなんとかしてほしい。僕は、ため息を吐いた。


 しばらく、たあいない会話を交わした後、僕は執務室に戻ろうとして、ふと、躊躇った。彼女に忠告しておくべきかどうか迷ったのだ。その迷いは長くは続かなかった。いぶかしげにこちらを見るなのはの視線に気づいて、僕は腹を決めた。大丈夫、彼女は自分で正確な判断を下せる人間だ。

 近頃、レジアス中将に、また新しい黒い噂が囁かれている。彼は有能だが、その行動で少なからず敵をつくる人だし、実際、僕から見ても、彼と「陸」の動きには、しばしば管理局法に触れかねないような部分が見え隠れする。今回の噂は、彼が、頻繁にいくつかの特定企業を訪問していることや、装備や物資の独占契約を幾つかの企業と複数年で契約したことなどが根拠になっての、不正な取引や癒着があるのではないか、というものだ。

 その噂を伝え、一応の注意を促す。仮にも後見を頼む人物に傷があれば、彼女も余波をうけることになりかねない。
 なのははどこか楽しげに僕の話を聞いていたが、僕が話し終わると笑って言った。
「俺にも随分、悪い噂があるからな。いまさら、後見人の悪評の一つや二つじゃ、びくともせんよ。まあ、礼は言っとく」
予想できた彼女の反応に、僕はため息を吐きながらも念押しをした。これも流されるだろうな、と思いながら。
「彼が悪人とは僕も思わないが、きなくさい動きをよく聞く事も確かだ。君の人を見る目を疑うわけじゃないが、注意はしてくれ」
僕の言葉に、彼女はなぜか皮肉に頬をゆがめて
「ああ」
と返事を返した。



 執務室への道を辿りながら、僕は彼女が最後に見せた皮肉な表情に、なにか引っ掛かるものを感じていた。レジアス中将の悪い噂、それへの僕の注意。それに返される彼女の皮肉な言葉と表情。自然な流れのようにも思えるが……。
 思わず、僕は立ち止まった。数ヶ月前に母と交わした会話を思い出していた。



「クロノ、あなた、教導隊の新指導要綱見た?」
「うん、見たよ。面白い切り口だと思う。これまでにないアプローチだから、意外に効果が上がるんじゃないかな」
そう言うと、かあさんはため息を吐いた。
「…気づかなかったのね」
「……なにか、問題になるようなことが?」
頭の中で、先日読んだ要綱を思い返してみる。……うん、特に問題になるようなところはなかったはず。
 そう結論してかあさんの方を見ると、かあさんはもう一度ため息を吐いた。
「これね、魔力量とか魔法技術を上げることにこだわってないのよ」
「そうだと思うけど、それが?」
かあさんは一段と深いため息を吐いた。……失礼だな。
「管理局の、いえミッドチルダ社会の、魔法技術を基盤としたあり方に対する挑戦なのよ、これは」
「はあ? なに言ってるんだ、かあさん。たしかに魔法技術そのものを鍛えることを主眼に置いてはいないけど、それをどういう風に使いこなすかという運用思想と、その補助をする装備に目を向けたプログラムなんだ。中心になる魔法技術がなければ成り立たないよ」
かあさんは首を横に振った。
「いいえ、クロノ。質量兵器を用いても、この運用思想は成り立つわ。魔法を主眼に置いていないというのは、そういうこと。魔法を別の何かで代替してもいいように準備してるのよ」
「いくらなんでもそれは被害妄想に聞こえるけど……」
「レティにもそう言われたわ。でも、なのはさんの性格を考えると、そうとしか思えないのよ」
「なのはの性格?」
効率優先結果重視、人を人とも思わず容赦なく叩きのめす癖に、意外に情の深いところがある。その性格と、このプログラムの内容を、かあさんの言う見方を加えて、考えてみる。
「……彼女のことだから、使えそうなものはタブーも周囲の目も気にしないで、引っ張ってきたってところじゃないか? 彼女の魔法至上主義への反感は、僕も当人の口から聞いたことがあるから、否定はしないけど、だからって魔法を別の何かに取り替えようなんて考えるかな。いや、そもそも、あの現実主義のなのはが、そんなことを実現可能だと考えて、その準備なんてするかな?」
僕の言葉に、かあさんはため息で答えた。……さっきから失礼だな、ほんとに。
 すこしむっとした顔をした僕に向かって、かあさんは真剣な顔をして言った。
「なのはさんには、気をつけなさい」
「え? なのはのなにに?」
「彼女自身、によ。彼女は危険な可能性を持っているわ」
「……どういうこと?」
僕は姿勢を正した。かあさんは本局総務局の統括官だ。広範囲から情報を集めることができる地位にある。
「彼女が陸士隊からほとんど英雄視されていることは知ってるわね」
僕はうなづく。
「武装隊も以前から彼女の支持者は多かったんだけれど、この新指導要綱に効果があれば、その支持はますます強固なものになるわ。彼女が扇動すれば、彼女個人に従う人間がでてきてもおかしくないくらい」
「…それで、彼女がクーデターでも起こすって?」
呆れを隠さずに言った僕に、かあさんは真剣な顔のまま、うなづいた。
「私は十分ありえることだと思ってるわ」
「馬鹿馬鹿しい」
思わず僕は言った。
「その理屈でいけば、僕もフェイトもクーデターを起こす可能性があるよ。僕は「“海”の英雄」なんて呼ばれてるし、フェイトには熱狂的なファンがいる。むしろ、かあさんやレティ提督っていう人脈を本局の重要部署に持ってる分、ハラオウン家が本局を牛耳ろうとしてる、なんて、今でも言われてるくらいじゃないか。
 だいたい、クーデターなんて、なにを目的に起こすんだ? なのはは権力を奮いたがるタイプには見えないけど」
「「陸」の意向を受けて、かしら」
今度は、僕が溜め息を吐いた。
「それで、「陸」と武装隊とを率いて、本局所属の各部隊と艦隊とに戦いを挑むって? 考えすぎだよ。レジアス中将には確かに黒い噂があるけれど、平地に乱をおこすようなタイプとは思えない。「地上の守護者」とまで言われる人だよ? 仮にそのつもりがあったとしたって、戦力評価を誤るとは思えない。次元航行艦隊と魔道師部隊がまともに戦ったら、魔道師部隊に勝ち目がないことくらい、誰にだってわかる話だよ」
とりあわない僕の態度に、かあさんは失望したようだった。ちょうど、エイミィが僕を呼ぶ声がダイニングから聞こえたので、僕はかあさんに断って、席を立った。
「なのはさんを管理局に引っ張り込んだのは間違いだったかしら……」
背中越しに、小さく呟くかあさんの声が聞こえた気がした。



 ……本局に帰還してしばらく後。
 なのはが二等空佐へ昇進したと聞いた。もともと、教導の改革とそれに伴う管理局の戦力の引き上げの功績は、1階級の昇進程度では釣り合わない、という声が現場から上がっていたから、今回の作戦での功績を名目に、これ幸いと昇進させたのだろう。

(「なのはさんには、気をつけなさい」)

母さんの言葉が頭をよぎって、僕は軽く頭を振った。考えすぎだ。カリムも彼女を信頼して、予言への対応部隊を任せようとしてるじゃないか。僕も、部隊の後見を務める一人として、部下を信頼しなくてはならない。そう思って、僕は気持ちを引き締めた。




 
■■後書き■■
 「「海」側の視点でのなのは」のリクエストに応えて。クロノ編でした。なんか半分は、なのはの「表」でのこれまでの経歴の解説と、それに付随した「海」と本局の噂話の概略になってしまいましたが。「幕僚」について、よくわからないという方は、「ウンチク的設定」に簡単な説明を追加しましたので、参考にしてください。
 次話で外伝編は終了。美由希視点です。またもや視点は、過去から現在を自在に駆け巡る予定。なるべく混乱を招かないように書きたいと思います。


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