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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/09 16:15
 あのお嬢ちゃんを見たときは、正直またか、と思った。どうも俺は、子供が戦場に立つことに違和感を感じるんだ。俺たちみたいな組織は、子供を守るための組織じゃないのかって思っちまう。けど、能力さえあれば大人扱いされる管理局じゃ、そんなこと言ったらバカにされるのがオチだ。おまけに、俺にゃ魔力資質がないからな、なおさらだ。けど、実際、小さい子供がうちの連中が束になっても敵わない力をもってて、逆に助けられてるって現実があるから、笑えねえ。まったく、情けねえ話だよなあ。

 おっと、話が逸れちまった。高町の嬢ちゃんの話だったな。
 管理局での教導ってのは、基本的に模擬戦を組んで、戦いの呼吸を武装隊員たちに叩き込むもんだ。いや、もんだった。だから、嬢ちゃんみたいな子供でも、魔力さえデカけりゃ立派に仮想敵(アグレッサー)が務まる。俺は実のところ、そんな教導のやりかたに、いまいちピンと来てなかったんだが、武装隊の経験も無し、専門家の連中の言うことだし、根拠もなく下手なことは言えんわな。
 それに、そもそも陸士部隊への教導ってのは、行なわれることが滅多になかった。戦闘の花形は、武装隊だからな。教導もあいつらメインになる。捜査や災害対応がメインで、戦闘って言っても、精々がけちな犯罪者相手の陸士部隊にはあまり教導の必要がないってのは、俺達も思ってたし、本局も思ってたろうよ。「陸」の連中は本局に関わるのは好きじゃないし、向こうさんも多分同じだ。つまり、ぶっちゃけちまえば、教導なんて、俺達にはお偉いさんの駆け引きの結果、運悪くウチにも回ってくる面倒な任務の一つだった……立場上、俺はそんなことは言わなかったけどな。


 で、そのときも、教導隊本部から教導予定日と担当の教導隊員のプロフィールが送られてきて、「ああ、調整が面倒だな」とか思ってたんだ。教導日に犯罪がおこらないなんて保証は無いから、部隊全部をいっぺんに教導してもらうわけにもいかねえし、普段のローテーションに手を加えて、教導を受ける組と待機組に分けなきゃならん。休日予定の調整も必要だ。教導は模擬戦なだけにダメージがあとを引くこともあるしな。よそは知らんが、俺の部隊じゃ、体調に不備がある奴は現場に出さん。死なせたくねえんだ。上は煩いし、同期の奴らは出世できんぞ、なんてお節介を焼くが知ったことか。前線に立てない俺が、前線に立つ連中のためにしてやれる数少ないことの一つだ。譲る気はねえ。
 まあ、幸い、最近うちの部隊にも配備された体調管理サポート・デバイスのおかげで、隊員の体調管理は随分と楽になった。かなりレベルの高い体調チェックを自分とこの隊舎でやれて、おまけに疲労度なんかから休養が必要な場合は、警告してくれるんだからよ。技術部も武器ばっか作ってるかと思ったら、なかなかいい仕事するじゃねえか、と思ったもんだ。

 いけねえ、また話が逸れた。

 まあ、なんだ、そんなこんなで急に出来た事務仕事に頭を悩ましてるときに、通信が入ってな、なんだと思えば、教導隊からの連絡だと。予定日の変更でもあったのか、と思って出たら、それが高町の嬢ちゃんからだった。


「初めまして。高町なのは一等空尉であります」
ウィンドウでビシリと敬礼を決めた女の子。まだ十代半ばだろう、可愛らしい顔立ちを目の光だけが裏切ってた。俺はちょっと、意表を突かれて、
「…あ、ああ、俺がここの部隊長だ」
なんて、間の抜けた返事を返すのが精一杯だった。ちょっとボケてた頭から、彼女の顔と名前を引っ張り出す。たしか、最近、名の売れてきた局員だ。見れば、可愛い顔してるし、上が管理局のイメージアップに使ってるんだろう。それが、そのときの印象だった。

 一時期、猛威を奮った、若干9歳でAAA+の魔力量を持った管理外世界からの暴れん坊の噂は、ここ数年、とんと聞かなくなって、俺も忙しい毎日の中、忘れかけてた。
 それに、恥ずかしい話だが、上層部との伝手があまりない俺は、その数年の間に彼女が影で積み重ねてた、派手じゃないけど実のある成果のことを知らなかった。一部部隊での仮運用と効果の確認が終わって、今期から全陸士隊に展開された、新方式の訓練体系の構築に功績があったっていう、教導隊から出向してた少女局員の噂も聞いたことはあったのに、全然気づかなかった。まったく、赤面もんだよ。

 嬢ちゃんの話は簡単で、教導予定日の少し前にうちに来て、普段の訓練の様子を視察したいって希望と、そのときに、できれば下士官以上の人間と司令部要員たちと、少しでいいから話をしたい、ってことだった。
 まあ、それくらいのことはどうとでもなるんだが、返事の前に、俺は嬢ちゃんに確認せずにはいられなかった。
「まあ、それは構わねえが、いったい、なんのためだ? いままでの教導じゃ、そんなこと言われたことはなかったぞ?」  
俺の言葉に、嬢ちゃんは、にやり、と不敵な笑みを浮かべて
「通常訓練の内容が変更されたのに、教導内容が変更されないなんて不合理なことはありません。より効果のある教導をおこなうための事前準備とお考え下さい」
ときたもんだ。
 俺は思わず笑っちまった。

 だって、そうだろう? これまで教導なんてろくにしてこなかったのに、「より効果のある教導」なんてお笑いぐさだ。それに、訓練内容の変更だって、地上本部がいろいろとフォローしてくれてる。例の、レジアス長官直轄の「地上犯罪低減計画作成プロジェクト」だったか? あれに参加してたメンバーが各陸士隊を回っていろいろと指導や指摘をしてるし、本部のほうでも、運用課のなかに専従係が立ち上げられて、疑問点への回答やいろんな資料の配布をしてくれるとかフォロー体制もばっちりだ。
 
 でも、まあ、若い奴のやる気を潰すこともない。堂々と「より効果のある教導」なんて言い放つあたり、青臭さが抜けねえが、いつもみたいに、魔力任せの模擬戦だけやってデブリーフィングもそこそこに引き上げてってちまう奴らに比べりゃ、はるかに好感が持てる。俺は、嬢ちゃんの希望を了承した。


 実際のところ、新方式の訓練内容の、従来との違いは大きいもんだった。変わったっていう教導内容が気にならなかったっつったら、嘘になる。どうせ、陸士の主任務の、犯罪捜査や災害対応にゃああまり役だたねえだろうが、そんな訓練からでも、使える点は貪欲に吸収するのが、いい陸士ってもんだ。


 従来は、陸士部隊の訓練内容は、各部隊の裁量に任される部分が大きかった。一応、管理局全体で共通の、魔力量増加訓練とか魔力制御技術向上訓練、ポジション別の必要スキル、捜査スキルや救助スキルなんかのマニュアルはあったが、それらをどの程度の割合で毎日の訓練に盛り込むかは、全くの各部隊任せだった。それにマニュアルなんていっても、共通化した分、誰にでも当てはまるごく基礎的な話中心で、実戦で使えるようなもんじゃなかった。たとえるなら、四則計算と二次方程式の基礎だけ書いてある程度だ。実戦じゃあ、連立方程式や多変量解析の技術も使って、問題を解かなきゃならん。
 正直言やあ、現場の裁量部分が大きいのはありがたかった。基礎の部分は飛ばして、これまで培ってきたノウハウを叩き込む訓練にほとんどの時間を割けたからな。現場の人間から言わせて貰えば、机の上で捏ねた理屈を持ってこられても、クソ忙しい毎日の中じゃあ、そんなお綺麗な訓練をやるよりは、ベテランの持つ経験や知識を叩き込んでやるほうが、よっぽど隊士の生存率が上がる。そして、その上で現場に揉まれて、自分なりのやり方を見つけて、それを自分で磨いていくんだ。上司としては、連携訓練だけは徹底させて、あとは各隊や個人のやりかたに任せるべきだと思ってた。千差万別の人間を、規格化したやりかたで訓練したって、成長の邪魔になるだけだ、そう思ってた。

 だから、「新方式の訓練内容を全陸士部隊に展開するので、今後はそれに沿った訓練の実施を心がけるように」なんてお達しが来たときは、「また、面倒なことを」と思ったもんだ。仮にも上に立ってる人間としちゃあ、部下の生存率を下げるようなマネはしたくねえ。従来どおりの訓練をメインで続けて、新方式とやらは、軽く流す程度でごまかすつもりだった。士官・下士官連中も同じ意見だった。
 で、「新方式訓練要綱」とやらが送られてきたとき、俺はまあ、立場上一応は、って程度の気持ちで流し読みしはじめたんだが……すぐに気合を入れて読む羽目になった。なんでかって? わかるだろ、ほんとに文字通りの「新」方式だったんだよ。


 それまでの訓練マニュアルは、さっき言ったみたいに、「魔法をよりよく使えるようになるための下地をつくる」「どんな能力が、どんな仕事で必要なのか」の2つの視点から出来てた。ところが、新方式は違った。
 まず、初っ端にいきなり、地上での犯罪と災害の傾向分析が出てくる。ここ数年、どんな犯罪・災害がどんな内訳で起こってるか。そして各地域別の犯罪・災害傾向。次に、それぞれの区分の犯罪・災害の検挙率・被害状況と、事件単位で計算した局員の死傷率。それに未検挙あるいは被害を拡大した要因と、検挙あるいは被害を抑制できた要因、おまけに、局員が死傷した要因が、これも全部、全体に占める割合のパーセンテージ付きで出されてた。訓練マニュアルってよりは、本部の年次報告書とでも言ったほうが通じる。いや、ある意味それよりも詳しい内容だった。なにせ、そのデータのもとになった各犯罪・災害の報告書のナンバー、担当部隊の一覧。さらに死傷者の負傷時の状況と負傷内容の報告書ナンバーまでリスト化されて付いてたんだからな。そのつもりがあれば、うちの部隊がよく経験してるのと似たような事件に対応した事件の報告書が、すぐにデータベースから引っ張り出せる。これまで他部隊の知り合いから聞き出して、事務の子に頼んで時間掛けて探し出してたデータが、即座に大量に、だ。
 はっきり言って、このリストを部隊内で回すだけで、訓練効率が上がるだろう。なんせ、自分達の対応してるのと同じ犯罪・災害が、どんな状況で起こり、相手はどんな装備でどんな戦法を使い、それに対してどんな対応をして成功し、どんな対応で失敗したのか、その実例が要因分析付きで大量に手に入るんだからな。報告書を読むだけでも、隊員達の糧になる。だが、もちろん「訓練要綱」なんて題をつけた文書が、それだけで終わってるはずがなかった。

 緊急で開いた、下士官以上を集めた会議で、俺自身読み終わったばかりの「新方式訓練要綱」の内容を全員に確認させた。確認してる最中から徐々にざわめき始めていた連中は、確認終了後、興奮した様子で口々に言いはじめた。
「こりゃすげえ。本部の連中もやるじゃねえか!」
「これは使えるな。うん、使える。使えるぞ」
「うちでこいつを応用させるとなると……うん、そうだな……」
 そんな連中を見回して、俺は納得した。うん、俺の考えは間違っちゃいなかった。なにせ、内勤畑だけを歩いてきただけに、こういう、実働に関わるような内容については、十分な自信を持っての判断が下しにくい。だが、こいつらが揃って同じ評価を与えるなら間違いない。この「新方式」は「使える」。



 「新方式訓練要綱」は、大きく三部から成る構成だった。

 第一部が、犯罪・災害についてのデータとその分析、及び元データのリスト(報告書ナンバー付き)。
 第二部が、犯罪・災害の種類別の状況想定訓練方法。こいつはさらに3章に分かれ、1章が集団訓練と題して、大隊単位訓練、中隊単位訓練、小隊単位訓練のモデルを、それぞれの想定状況と単位ごとに、複数記してある。2章が連携訓練。小隊以下の分隊やツーマンセル、あるいは何かの理由で原隊から外れた連中と共同して状況にあたらなければならない場合を想定した訓練の方法。これも、それぞれの場合別に訓練モデルが複数記されている。最後の章が個人訓練。従来の「魔法の使うため」の訓練方法ではなく、1章と2章で出てきた各想定状況下で用いられる代表的な作戦例と、その作戦下で必要とされるスキルの記述。そのあとでやっと、それらのスキルを伸ばすための方法が、基礎編から応用編まで、各スキル別に、これも複数書かれていた。
 第三部が、個人訓練方法。ここでも、ポジションや部署別の訓練方法を説明するのではなく、様々な訓練方法の説明とそれの目的とする効果・スキルが、未経験者・初心者・経験者・熟練者に分けて書いてあった。つまり、隊士たち自身が、自分で自分に必要だと考えるスキルを鍛える訓練方法を、自分のレベルに合わせて選べるようになってるわけだ。当然、上官や先任から、どの訓練を行なえ、と指示されることもあるだろう。いままでもやってきたことだ。だが、さまざまな訓練方法が整理・区分されて、一覧で確認できるようになったことで、指示する場合も自分で考える場合も、選択は容易になるしその幅も増える。特に経験の少ない奴は、自分のやってる訓練の意味や、その行き着く先が明確な形で示されてるから、目的意識がしっかりすることになって、当然、今までと同じ訓練でも熱意や訓練効率が違ってくる。命令に従ってこなす訓練より、自発的に取り組む訓練のほうが効果があるのは当たり前だ。


 しかも、「訓練要綱」に書かれてる内容は、やたら現実に即したもので、ベテラン達が身体で覚えてきた経験を見事に言語化していた。例えば、市街地でテロが発生し、その鎮圧に乗り出すという状況想定訓練に添えられている解説文はこんな感じだ。

「損耗を避けるため、部隊は、援護射撃を得られる安全な撤退路を確保してから戦闘行動に移らなければならない。そのために、指揮を確実に全員に行き渡らせる通信管制、周囲の敵対存在をいち早く確認する索敵能力、適切な射撃位置を割り出す分析能力、撤退路を確保する戦闘力が求められる。
 また、兵を孤立させることも得策ではない。
 前線指揮官、つまり中隊長・小隊長は、どの建物が掃討済みかの報告を受け取り、把握しておく必要がある。その情報がなければ、車両・ヘリ等による兵員の増援や装備の補給・負傷兵の後送などの後方支援を受けることが難しくなる。ここでも、通信管制は重要なスキルとなる。
 つまり、C3Iは、通常の戦闘地域以上に、市街地のような特殊空間では、重要性を増すと言える。その確立と維持、遮断された際のバックアップは、何においても、士官下士官が事前に検討を済ませておくべき事柄である」

 C3Iってのは、指揮官が作戦を指揮統制するための情報伝達・処理のシステムだ。指揮(Command)、統制(Control)、通信(Communication)、インテリジェンス(Intelligence)の頭文字をとってそう呼ばれてる。地上本部ビルなんかでは、コンピュータ(Computers)、監視(Surveilance)、偵察(Reconnaissance)を加えて、C4ISRなんて呼ばれるシステムが出来てる。なんか小難しそうな内容だが、要は、①部隊への指揮伝達と統制系統の確立②情報の収集手段・集約系統の確立③それらを迅速・確実に実施できる通信・情報処理システムの確立、ってことだ。
 内容を見るだけでその重要性は一目瞭然、言われなくてもやってて当然のことだって思うだろ。でも、言うは易くってやつで、それまでは、表面だけ整えて実際はその運用までは気を回してない、つか回してられなかったのが、大抵の陸士部隊の状況だったりした。それを、具体的事例に混ぜて説明することで、読む奴誰もが改めてその重要性を意識し、できてない場合の危険性を自分の身に置き換えて、リアルに想像するように書かれてたんだ。実際、この「訓練要綱」の配布がされてから、指揮官連中も兵卒連中もうるさいくらいに、C3Iはできてるか、C3Iはできてるか、って訓練実戦を問わず、口に出して確認するようになった。


 だけど、この新方式の革新的な点は、現場の視点から必要なスキルを判りやすく取り出してみせたり、記述が具体性に富み且つ極めて実践的な内容だ、というだけじゃあない。
 記述されてる訓練方法が、あくまで、スキル獲得の方法として捉えられていて、しかもそのスキルを獲得するための方法は常に複数提示され、おまけに、未経験者から熟練者までを対象に想定して、それぞれのレベルに合わせた訓練メニューがあるってところだ。
 つまり、隊士に一律に魔法能力を向上させるための訓練をさせることを考えて作られたんじゃあなくて、実際に発生している犯罪や災害への対応策を実行するための力を、個々の隊士が自分のレベルにあわせて鍛えられるっていう、いつ事件が飛び込んでくるか判らない前線部隊の状況に即した視点で作られてるってことだ。おまけに、ご丁寧にも、
「これらの訓練メニューは、各部隊で蓄積しているノウハウや経験を盛り込んで、各部隊にふさわしい内容に応用して使用することを前提に作成されています」
なんて、但し書きがついてた。マニュアルに従って訓練するんじゃなく、マニュアルを使って訓練しろ、使いこなして見せろ、なんて言ってる作成者連中の声が聞こえてくるようだった。


 それだけ良くできてた「新方式訓練要綱」だが、さすがにいきなり訓練方法をガラリと変えるってのも不安なんで、ひとまず全部隊員への「要綱」の配布と、地上本部主催の説明会への幹部連の参加を終えてから、すこしずつ試しながら訓練に組み込んでいった。疑問点ができれば、さっき言った本部運用課の専従係の連中に問い合わせたし、元プロジェクトメンバーにもいろいろと助言してもらった。屋内に立てこもった人質つきの武装犯の制圧訓練や、部隊の担当地域でおこった爆破テロへの対応訓練。全部隊員対象の近接戦闘訓練や、後衛型の陸士向けの隠密狙撃訓練・集団統制射砲撃訓練。魔法犯罪逃亡犯の追跡捜査訓練や、管理法違反の犯罪集団のあぶりだしの訓練。そんな感じでこなしていって、使い始めて半年を越えた今じゃ、誰もその有用性を疑う奴はいない。部隊に「新方式」がすっかり受け入れられた頃に、さっき言った教導の話はやってきたんだ。



 連絡があってから、一週間後に、高町の嬢ちゃんはウチを訪れた。
 その日は、市街地に立てこもったテロリストを制圧する状況想定訓練の日だった。ぶっちゃけ、ウチの担当区域じゃあ、そう発生する種類の犯罪じゃないんだが、市民にとっても部隊員にとっても危険度が高いんで、けっこう頻繁に訓練はやってる。まあ、なんだ。一応、本局からの視察ともなれば、それなりにいいとこ見せなきゃ色々うるさいからな。けど、あの嬢ちゃんには、そんな当たり前の「大人の事情」って奴が一切通用しなかった。


 視察を終え、言われたとおり司令部要員と下士官以上を集めた顔合わせ(と俺は認識してた)の席上、嬢ちゃんは開口一番言い放った。

「こちらの部隊では、新方式訓練の目的を理解されていないようだ」

 怒るとか反論するとかよりも、俺は度肝を抜かれた。訓練を視察してるあいだは、ほとんど質問もせずこちらの説明を静かに聞くおとなしい様子だったから、あちらさんも控えめにやるつもりなんだろうと、思いこんでたんだ。
 うちの連中だって、仕事に誇りをもって訓練してる。やばい、と思うまもなく、伍長の一人が座ったままで、発言の許可もとらずに反問した。おい、そんな態度、規律のゆるい「海」や「空」ならともかく、ウチじゃ懲罰もんなんだが……あいつ、「空」の人間、しかも10代の女の子が相手だからって舐めやがったな。
「いったい、どの辺がわかってないと仰るんで? 才能のない俺たちにもわかるように説明してくれやしませんかね、「空」のエリート様?」
急速に冷え込む空気に、うわっちゃあ、と思いつつ、フォローの為に口を開きかけた俺の機先を制して、嬢ちゃんが言葉の矢を放った。

「新方式は、低魔力量・低魔道師ランクの陸士の能力を底上げし、補うための訓練だ。お前達に真実才能がないのなら、これほどお前達向きの訓練は無い」
……おいおい、言ったのはこっちだけどよ。真っ向から投げ返すか? 大した玉だぜ、この嬢ちゃん。あ、伍長の顔が引き攣ってる。
「「訓練要綱」には、部隊間の連携を上げる手法の様々な例があるが、それらは、各部隊独自の工夫を加えることが前提として作成されている。部隊にはその部隊固有の暗黙の了解があるからだ。
 実戦を想定した状況訓練もそうだ。この大隊の担当する地域でおこる犯罪の傾向とその特徴を盛り込まなければ、例題として挙げているモデルケースは、絵に描いた餅のまま、実戦での効果を大きく落とすだろう。
 先ほど視察した演習では、そのどちらの意図も汲まれていなかった。新方式訓練の目的を理解していないと言った理由だ。
 それに、近接戦闘訓練についても十分ではない。近接戦は、低ランク魔導師が高ランク魔導師を倒すのに最も適した間合いの戦闘だ。しかし、演習の動きをみたところ、こちらの部隊員たちは、まだまだ魔法や魔力に頼りきりの動きが中心だ。あれでは自分より高い魔法技術や魔力の持ち主との戦闘になったとき、魔法能力の差で簡単にやられる。それでは近接戦闘訓練の意味がない」
「ですが、新方式訓練の導入後、私どもの大隊での検挙率は上がり、死傷率は低下していますが」
司令部付きの情報担当幕僚士官が言った。冷静でいようとしてるみたいだが、声が時折、震えている。実戦部隊の連中なんざ、怒りのあまり、声が出ねえってありさまだ。年端もいかねえ、現場もろくに知らねぇだろう餓鬼に、いきなり言いたい放題言われちゃあ、そりゃトサカに来るよなあ。

 俺はこれ以上はいくらなんでもまずいと思って、止めに入ることにした。
「あー、一尉殿? こいつらも一生懸命頑張ってることだし、そのくらいで……」
続く言葉は、俺の舌の上で凍った。
「ほう? この部隊では頑張りさえすれば、それだけでいい、と? なかなか斬新な部隊方針ですね、三佐殿?」
口調は取り繕えど、その声の響きは、冷たい鋼。その眼差しは、凍える炎。なにより、その纏う空気が、圧倒的な迫力で俺を圧倒した。なんだ、この小娘?! 生半な修羅場くぐった程度じゃ、ここまでの迫力は出せねえぞ?!
 言葉の続かない俺から視線を外し、嬢ちゃん、いや高町空尉は座をその視線で見渡した。その視線に刺し貫かれた奴らが、新兵みたいに背筋を伸ばして表情を強張らしてく。

「お前達の仕事は、平和に暮らす人々の日常を守ることだ。100の事件のうち99の事件を無血で解決したとしても、残る1件でしくじれば、1つの家庭の平穏が崩れると知れ。お前達の、父が、母が、娘が、息子が、お前達を喪ったときに嘆き悲しむように。たった一度のしくじりが、見知らぬ誰かの涙と嘆きを生むと知れ。
 それを自覚すれば、努力すればそれでいいなどとは思えないはずだ。多少成果が上がっただけで満足できないはずだ。
 訓練の穴を、部隊の穴を、個人の能力の穴を、血眼になって捜し求めるはずだ。― 訓練はそのこなした種類と数だけ、貴様達が実戦で取りこぼす日常を減らしてくれると、そのために訓練をしているのだという自覚があるのなら。
 ― 気 を ひ き し め ろ 」

 最後の一言は、重く鈍い響きで、俺達の甘えに真正面から打ち込まれた。

 
 嬢ちゃんの言うことはわかる。俺だって、俺の部下どもが、そりゃあ、たまにはバカをやらかすが、一生懸命訓練にも任務にも取り組んでることを、よく知ってる。けど、いくら頑張ったって、届かないものは届かないんだ。現実として、無理なものは無理なんだ。俺と同じことを思ったのか、小隊長の1人が発言した。
「でも、実際のところ、俺たちも一生懸命やってるし、あんたみたいな高ランク魔力保持者ならともかく、「陸」じゃあ、低ランクの魔力保持者が大多数なんだ。あんたのいう理想はわかるが、現実を見てくれよ」
「そうか。なら、身をもってわからせてやろう」
嬢ちゃんが倣岸といっていいくらいの態度で言い放った。……いや、妙に似合ってるっちゃ似合ってるんだが…その顔と声で言われるとギャップがでけえぜ? 眼光と雰囲気が態度に相応しいから、あんま連中も気づいてないみたいだけどよ。いや、まだ頭に血が昇ったままなのか?
「教導の当日、私は一切の魔法を用いない。状況想定は今日と同じでいい。ただし、時間があるのだから、きちんと策を立てて当日に臨め」
俺は驚いて口を挟んだ。
「いや、待ちな。それじゃあんまり…」
「あまり見くびるな」
嬢ちゃんは、俺の言葉を無視して、凄みのある笑いを浮かべた。
「魔法だけに頼っている戦いの、いかにぶざまなものか、貴様らの身体に叩き込んでやろう」
それは、絶対の自信と自覚をもって、放たれた言葉だった。


 それでも、まだ俺達は、自分達の能力ややり方について、甘さを持って自己評価してたんだろう。
 3日後の教導日に宣言どおり、視察日と同じ状況想定訓練がおこなわれ、嬢ちゃんがひとりで犯人役を務めた。ただし、魔法を使えず、質量兵器で武装、という設定が追加された。「犯人がオーバーSの魔導師であるよりも、質量兵器で武装している低魔力保持者又は魔力無保持者のほうが、現実に即している」って理屈だったが、挑発と受け取ったうちの連中は、我先にと全力で襲い掛かり……見事に返り討ちされた。



 その日のデブリーフィングは荒れた。

 手の空いてる部隊員全員を集めての会議。今は、今日行なわれた訓練についての全体的講評、というか聞く側の気分としては叱責に近い。圧倒的多数でかかって、教導隊とは言え、魔法を使わない女の子1人に無力化された上、作戦目的の「爆発物の無効化」すらも果たせず、「被害甚大・一般人の死傷者多数」の判定を受けたんだ。そりゃ、顔もまともに上げられやしねえ。
 嬢ちゃんはそんな重い雰囲気を気にすることもなく、「新方式訓練要綱」の内容をウィンドウに映し出し、その記述の中で、今日の訓練に関係する部分を例に引きながら、実際の部隊の行動に対し、評価を加えていく。


「“作戦の前段階として、作戦地域に通じる道路はすべて封鎖し、通過車両はすべて検問にかける。武器が発見された場合には押収し、搭乗者を一時拘束する。作戦が近づいた段階で、包囲網を段々と狭めていく。市街が広い場合には、魔法によるサーチだけでなく、対人レーダーや暗視装置などの機器を併用し、隊員一人当たりの責任担当範囲が広くても疲労が少なくなるように努めることが望ましい”
 だが、今回、基本ともいえるこの手順を踏まなかったな。相手を魔力も持たない子供一人と侮ったか? 油断や侮りが戦闘で命とりになることは、貴様達の先輩や同僚が身をもって教えてくれているはずだ。それをわが身に活かせず、同じ徹を踏んでいては、殉職者たちが無駄死だと言われても反論できんぞ?

 “家やビルを一軒ずつ掃討していかなければ、残兵に背後を取られる可能性がある。また、下水道などがトンネル代わりに使われる場合もある”
 今回は訓練場のため下水道に類するものはなかったが、私は、チェックされなかった家屋やその影を伝って部隊の背後に回り、攻撃を加えるパターンが少なからずあった。下水道などと違って、時折身をさらしての移動だ。注意していれば発見できる可能性も高かったのに、それが出来なかった。これも基本を抑えなかったためだ。基本を軽くみるな。基本を確実に身につけてこそ、初めて能力を発揮できる素地が整うと言っていい。お前達が、これまで鍛えた能力を発揮できずにやられたのは、その意味では必然だ。 
 敵に実力を発揮させず、自分たちの実力は十分発揮するのが勝利のための大原則といっていい。言い訳は不要、隊員が実力を発揮する環境を整えられなかった指揮官の責任がもっとも重いが、それに意識が及ばなかった各員、貴様らも、これが実戦なら殉職している。上官の責任だなどと、言い逃れすることもできなくなっているぞ。今一度、基本の重要性を頭に叩き込め! 怠ったときの代価は、自分自身か同僚の命だ。

 “市街地戦では、通常の戦場よりも後衛の援護が多く必要となる。ドアを吹き飛ばすことは敵に予測されていることが多く、代わりに後衛により壁を吹き飛ばすことも有効な手段の一つに挙げられる。また、戦闘行為で援護射撃があれば、有効性が極めて高まる”
 このあたりはなかなか連携がとれていたな。だが部隊全体の意識を一方向に向けすぎだ。相手のステルス性能によっては移動を察知できないこともあるし、実際、そのような性能をもつ魔道機械の局員襲撃事例もある。詳しく知りたい者は、あとで問い合わせて来い。報告書のナンバーを送付する。
 それに、事前に得られた情報が誤りであったり、急遽敵に増援が現れるなど、不意打ちを受ける可能性はいくらでもある。情報に固執しすぎず、視野と思考を柔軟に持て。決定権は指揮官にあるが、それは部下が思考を止めていい理由にはならない。常に思考し、検討しろ。マルチタスクは対集団戦闘のときにだけ、有用になる技術ではないぞ? 
 自身の行動、隊の行動、敵の思惑、周囲の状況。
 常に検討し、穴がないか考えろ。考えなくなればそれはただの駒だ。使い捨てにしかできん。自分が、意思をもつ「人」であることの自覚を持て。人の意思と知恵こそが、魔法にも勝る最大の武器だ。

 ”敵側に狙撃能力の高い相手がいた場合”、今日のような場合だな。この場合は、”敵狙撃兵の位置を周辺ごと吹き飛ばすと、迅速かつ的確に処理できる。味方の狙撃兵は、なるべく高い位置や、開けた場所を見渡せる場所に配置するようにすると、能力を発揮させやすい”
 部隊の狙撃兵の配置は悪くなかったが、敵の排除に完璧を求め過ぎだ。少なくとも、1/3前後の人員が脱落した時点で、なりふり構わない物量戦への移行をおこなうべきだった。今回、私は魔法を用いなかったが、高ランク魔道師が敵にいる可能性もある。お偉方が煩いのは確かだが、建造物の破壊に躊躇って仲間や市民の命を危険にさらすのは本末転倒だ。建造物は金で直せるが、命は金で買えん。ありふれた言葉だが、その分、真実をついている。敵の排除に必要と思われる手段の実行を躊躇うな。

 “陸士による掃討がある程度進んだ時点で、装甲車や戦闘工兵車を進出させ、ヘリなどで上空から偵察・援護を行う戦法が有効とされる”
 だが、掃討ができてないのに、車両やヘリを戦闘区域に投入しては、場合によっては鴨撃ちを食らう。空からの援護が高い効果をもつのは確かだが、いきなり車両や航空兵力を投入しないのは、敵が投入を予測して準備した待ち伏せに遭う可能性があるからだ。
 今日の演習で身に沁みただろう。航空兵力、特に輸送機を落とす場合、簡単な投石機などの原始的な質量兵器が馬鹿にならない効果をもつ。特に、相手がテロリストだと、手段を選ばない可能性が高い。魔道師でないからといって甘く見るな。魔法資質の有無は、戦闘力の有無とイコールではない」


 等々、一通り、講評という名の叱責をした後、嬢ちゃんは、今度は各中・小隊や分隊、果ては一人一人の動きにまで言及し、何故その行動をとったか、何故このような方法を検討しなかったか、などを指揮官や当人に質問し、その同僚や上司に見解を述べさせるなどして、自然に場をフリーディスカッションへと移行させていった。
 始めの方こそ縮こまってた奴らも、嬢ちゃんの言葉に引きずられるようにして、そのときの内心を言い、振り返っての意見を述べ、同僚に反論し、上司・部下に質問し、徐々にヒートアップしていって、嬢ちゃんの言葉に噛み付いたりし始めた。そんな、時に怒号が入り混じる、嵐のように激しい意見交換の中、嬢ちゃんは少しも揺るがず、王様みてえな、ふてぶてしい態度で完璧に流れをコントロールして、しかも発言を躊躇わせるような振る舞いは一切しなかった。はっきり言って、並じゃねえ。戦い方もそうだが、醸し出す威厳や態度、言葉の使い方、荒くれどもの扱い(とりあえずは議論だけの話だが)だって、ベテランの士官、それも佐官級の上位に匹敵するようなレベルだ。俺は、呆れながらも、議論に耳を傾けていた。

「うちの部隊が、特に劣っているところ、鍛えるべきところは何ですか?」
「近接戦闘能力の向上だな。特に劣っているとは言わないが、貴様達の職務上、非常に重要な意義を持つスキルだ。
 陸士向け近接戦闘能力向上訓練は、射撃・誘導弾操作・音響炸裂魔法・閃光魔法などに、ナイフや各部プロテクタなどの非魔法装備を用いた戦闘技術を組みあわせたものだ。接敵距離25m以内での戦闘を想定している。
 近接戦闘は、視界の悪い屋内戦、市街戦、遭遇戦で発生しやすく、対テロ作戦や人質救出作戦で活用される機会が多い。特に、その中の“格闘戦闘技術”は、低魔力の人間でも、一定の戦力向上が見込める手段でもある。それは今日の演習で身をもって体験してもらえたと思う。貴様達の約1/3が、格闘戦で無力化されたからな。
 銃剣術や徒手格闘、ナイフや打撃武器、紐などありあわせの道具を利用した武器を活用した技術が基礎になる。近接用短時間発動魔法の研究をおこなっている陸士隊もある」
「そんなこと言われちゃあ、気合が入りますねえ」
「ああ、ある意味、低ランク魔道師にとって最も手軽な戦闘能力向上方法だ。この技術の熟練度は、貴様達の任務達成率・生存率、双方の向上に大きく影響するだろう。励んでくれ」
「「ウッス!」」

「作戦前段階での封鎖と検問の有効性はわかるんですが、全ての事件でそこまで人員を投入できるわけじゃあないんです。なにか、別のいい方法はありませんかね?」
「封鎖・検問の最大の目的は、敵を明確化することだ。制服を着用してない犯罪者やテロリストは、戦闘に無関係な一般市民との識別が難しい。
 だが、魔力波や声紋、モンタージュなどが事前に入手できていたら、完全な封鎖も必要ないだろう。勿論、前線部隊が相手を取り逃がさないことが前提だが。各種の可搬式探知機器を、指揮車・ヘカトンケイレスと組み合わせて運用するのが、今すぐ思いつく案だな。時間を貰えたら、持ち帰って教導隊内で検討してみるし、他の陸士部隊での事例も調べてみるが?」
「えっと、じゃあ、すいません。お願いできますか」
「判った」

「市街地戦で指揮をとるとき、気をつけるべきことはなんでしょうか?」
「指揮所の位置だな。
 市街地は戦闘指揮所を秘密裏に設置することもできるが、戦域の狭さは、指揮車や装甲車の機動性を著しく下げるし、家屋や障害物に隠れて接近されやすく、敵の的になる可能性が高まる」
「ヘカトンケイレスでの代替は?」
「それも一つの対策だな。だが、対策を一つに絞るな。よく使われるシステムは有名になり、有名になれば情報を入手され、対策を立てられる。複数の対策を用意して状況に応じて使い分けろ。今回、私は魔力波ジャミング発生装置だけを使用したが、ヘカトンケイレスや天照の探知機能の詳細を入手したと仮定していたら、電磁波ジャミング発生装置やサーモでの探知を撹乱するためのデコイなども用意しただろう。
 それと、障害物の多い戦場でアクティブ・レーダーを使用しても、隠れている敵には効果が薄い上に、自身の居場所を大声で叫んでいるのと同じだということは理解したな。戦場で指揮官は真っ先に狙われる。自覚して十分注意しろ。
 音源サーチ機能を使わなかったのも失敗だな。普段あまり使わない上に馴染みの無い機能だから忘れていたのだろうが、迂闊だ。まだ配備数は少ない装備だ。配備されていない部隊に恥ずかしくないよう、キチンと使いこなしてみせろ」
「は、はいっ。すみません!」

「「1/3程度の人員が脱落した時点で、なりふり構わない物量戦への移行をおこなうべきだった」とのお言葉でしたが、そのような方針の転換は、どのタイミングでおこなうべきか、何か基準となるものがあれば、教えていただきたい」
「“状況判断”が1つの基準になる。なかでも、今回の演習では、任務判断が不十分だったことが判断ミスにつながったと考えられる。
 任務判断は、与えられた任務の意図や背景を分析してその本意を判断することで、この判断によって部隊の行動方針の方向性を規定し、状況が激変する緊急事態でも適切な方針の転換に対処する準備が出来る。
 “状況判断”だが、これは、任務判断に、地形判断、敵情判断を組み合わせて成り立っている概念だ。
 “状況判断”は、作戦行動を遂行するために必要な各種の分析に基づいて行われる判断だ。指揮官は、与えられた任務を達成するために、部隊が置かれた状況を論理的な推論によって把握しなければならない。この思考法を定型化することは判断の迅速化、正確性向上につながる。士官学校や士官教育で教えられる内容だから、あとで昔の教材を探してみろ。必要なら連絡を寄越せば、教導隊の資料を貸してやる」

「高ランク魔道師を相手取ったときに、有効な戦術というのは存在するものでしょうか?」
「存在する。
 相手がこちらより大きな戦闘力を持っていたら、いかにしてそれを発揮できない状況におくか。発揮したとしてもこちらが被害をうけない状況をいかに獲得し維持するか。こちらの攻撃が相手にとって最大限の被害となるための状況をいかに整えるか。
 それらを可能にするのが戦術であり、人間の知恵だ。
 魔法はそれを達成する数多の方法のうちの1つに過ぎない。裏返しに言えば、魔法を主力とする相手に魔法だけで戦うことは、力比べの勝負にしかならない。そうなれば、力の強いほうが勝つのは当たり前だ。相手の有利な土俵で勝負するな。もっと頭を使って戦闘しろ。 
 それと、重要なのは、人が寄り集まっただけの集団として行動するのではなく、統率され相互に連携しあう集団として行動することだ。よく訓練され統率された集団は、強大な1個体に勝る。人間が地上の覇者となった理由だ。そして、その原則はあらゆる戦いに適用される。それを頭に叩き込み、身体に染み付かせ、反射で行動できるようになるまで訓練を繰り返せ」
「んな理屈言われたって、ピンと来ねえって!」
「……そうだな。一つ例を挙げよう。
 例えば、陸士の戦術の中核になるのは「射撃と運動」の原理だ。射撃と運動を相互かつ交互に連携させることによって機動的に運用する。今日の演習で後衛が前衛を援護した形を、もっと洗練させた技術だ。相手に攻撃の狙いを絞らせず、こちらは相手の注意の薄い方向から攻撃する。その繰り返しで、自部隊に有利な交戦ポイントに誘導することも可能だ。高ランク魔道師といえど、その注意力や集中力の持続まで高いレベルにあるとは限らない。集団の有利を使い、相手を撹乱し精神的疲労を増やし、隙をつくって、そこに集団の攻撃を集中させる。オーソドックスな戦例だが、この過程で用いられれる集団の動きが、「射撃と運動」の原理に基づいている。
 原理の具体的な活用法則は、これも基礎は士官教育を受けた者は教材を持っているはずだ。応用は、実戦データを研究するといい。「新方式訓練要綱」についている報告書リストが役に立つだろう。不明な点は問い合わせて来い」

「ついでに1つ宿題だ。生存率向上技術の基礎を教えておいてやるから、応用を自分達の経験を共有・分析して編み出してみろ。
 戦闘における生存率向上には、偽装・隠蔽・囮といった手段がある。これらの手段は、敵の情報収集活動の阻害、味方の行動の秘匿に効果がある。
 例えば、装備や陣地、兵士を偽装し、隠蔽することで敵が得られる情報を不完全なものにして、敵が得られる情報を制限する。偽装を行う場合は地形や天候だけでなく、季節や色や輪郭線にも気をつけ、視認性や被サーチ性を低めるようにすることが重要だ。直線をぼかし、服装や肌の色を周囲の環境に合わせ、光を避けて物陰に潜み、装備が金属音や物音を立てないようにする。
 また、偽の戦闘陣地などで敵を誘導する手法も応用的に用いられる。
 迷彩は最も基本的な偽装だ。それに加えて、体の輪郭を隠せば、一層視認性が低下する。バリアジャケットの外見はもっと検討する余地がある。複数のバリアジャケットを設定しておいて、状況により使い分けるのも1つの方法だ」
「あ、思いついた答えの一つが言われちまった……」
「甘えるな、馬鹿。すぐに思いつく程度のことを回答にしようとするな。貴様自身と同僚の命がかかってるんだぞ。隊内で、しっかり経験と知識を共有しなおして整理・検討してみろ。今まで見落としていた手法の1つや2つ、すぐ見つかる。回答を楽しみにしておくぞ?」
「「げえ~」」
「宿題なんて10年ぶりだぜ?」
「うっわ、教官にしごかれる学生に戻った気分だ。たまんねーっ」
「ふふ、精々励め」
「「うぃーっす」」

「最後にひとつ言っておく。
 都市部における戦闘は小規模且つ小範囲でおこなわれることが基本だ。その状況下では、高ランク魔道師は力の発揮を制限される。
 制限された条件下での高ランク魔道師は、大戦力ではなく、飛びぬけた力を持つ1兵卒にすぎない。そして、個々の戦闘はともかく戦略的・戦術的状況下では、優れた兵卒1人より、個々の兵卒の能力は低くとも連携の取れた部隊の方が戦果を上げる。
 低ランク魔道師でもやりようによっては、十分高ランク魔道師を超える働きができるんだ。言い訳をして現状に甘んじるな。不都合な現実から目を逸らすな。足掻いてもがいて、繰り返し挑戦しろ。泥臭いやり方でいい、お前達の求めたものをお前達自身の力で、その手に掴み取ってみせろ」
「「……!」」
「いいな?」
「「……はいっ!」」


 議論の終わりには、うちの連中はまるっきり、尊敬と信頼の目で嬢ちゃんを見てた。自分達より遥かに年下で、可愛らしい見た目の女の子を、あの荒くれどもがよ。まったく大したもんだ。
 デブリの締めの言葉で嬢ちゃんが、
「部隊運用や訓練方法、技術の上達などについて、記録や関係資料を送ってくれれば、分析して講評をつけて返送する形で、引き続き技術の向上を手伝いたいと思っている。無論、そちらの同意があれば、だが」
って言ったとき、真っ先に、
「願ってもねえ!」
なんて叫んだのが、事前訪問のときにいの一番に反発し、演習でもずっと敵意を隠さなかった伍長だったのには笑えたが。「陸」の下士官としては中堅どころになるそいつは、すっかり嬢ちゃんに傾倒しちまったようで、是非頼みてえ、なんてほとんど手をとらんばかりだった。まったく大したもんだ。


 
 あとで他の大隊長仲間から仕入れた話だが、高町の嬢ちゃんは、全陸士隊への新方式訓練展開の通達に合わせて、うちでやったみたいな、現場を回って生の意見を聞き出し、それぞれの隊の特性に合わせた教導資料を作成して送ってくるとかの、今までの模擬戦中心の教導とは全然違う教導を、「陸」の部隊相手にやらかし始めてたらしい。
 まあ、言ったように教導の中心は武装隊だから、「陸」に来る機会は決して多くはないんだが、去年と比べれば、遥かに増えたそうだ。その増えた「陸」への教導を、嬢ちゃんはほとんど一手に引き受けてるって聞いた。あまり乗り気でない教導隊の上司連中に、市民の平穏を守る陸士隊の重要性を説き、高い死傷率を教導によって減らせる可能性を説きして、半ば、もぎとるようにして、許可をとりつけて「陸」を回ってるんだなんて噂を聞いた日にゃあ、俺までちょっとクラッときた。とかく「海」や「空」の連中は、俺たちを見下しがちだが、そんな中で俺たちに真っ向から接して頑張ってる嬢ちゃんのことを考えると、不覚にもジンときたもんだ。
 おまけに、武装隊連中、それもエリート揃いの航空武装隊相手でも、「陸」相手と同じように、従来のやり方にとらわれない方法でガンガンやっつけてるらしいって聞いて、俺は嬢ちゃんらしいと思って嬉しくなった。あのお高くとまった奴らも、嬢ちゃんには頭が上がらなくなるだろうと想像すると、思わずにやついて、部下どもに気味悪がられたが。いいだろ、別に。所属に囚われないで、ひたすら、前線部隊の錬度を上げ、市民を守り平和を守り局員自身を守る可能性を上げようとする若い娘さんを見て、なにも感じないほうがどうかしてるだろ、え?
 今までのやり方とどっちが効果があるのかなんて、俺にはわからん。わからんが、少なくとも嬢ちゃんのやり方のほうが、俺には好感が持てるね。仕入れてきた噂を飯どきなんかに話してやるせいか、うちの奴らも、ますます嬢ちゃんのシンパになっちまってる。
 まあ、可愛らしいお姫さんの教えを受けておいて、ブザマはさらせんわなあ。嬢ちゃんが見た目だけの可愛らしいマスコットなら、また話は違ったんだろうが。


 嬢ちゃんが約束したとおり、教導のあとも、嬢ちゃんとの交流は続いた。うちの連中からの質問に返事を返したり、他部隊で仕入れた最新情報を配信してくれたりしてる。こないだ配信された、AMFを発生する自律機械なんて、知らずにぶつかることになってたらと思うと、ぞっとしねえ。だが、嬢ちゃんの言葉じゃねえが、そういう奴らがいるってことさえ知ってれば、対応策は検討できるし、遭遇しても泡食わなくて済む。嬢ちゃんも教導隊のほうで、いろいろ対策を検討してみてくれてるようだしな。
 まあ、あまり働かせすぎて、潰れさせたら気が咎めるから、嬢ちゃんへの連絡は基本、副隊長宛に提出させて、緊急のやつ以外は、俺から嬢ちゃんに月1くらいで、まとめて送るようにした。隊の連中からブーイングくらったけどよ。馬鹿言え、俺はロリコンじゃねえっての。

 あと、嬢ちゃんの教導からしばらく経ってから、嬢ちゃんの噂話がいろんなルートから入ってくるようになった。多分、嬢ちゃんがあっちこっちで、下僕どもを増やしてるせいだろう。例の、天照やヘカトンケイレスを提案したプロジェクトのメンバーだった、ってのには驚いた。道理で新方式の訓練に詳しいわけだ。雛型つくった当事者だしな。体調サポート・デバイス開発時の発案者兼被検協力者だった、って話も聞いた。なんか、いろんなとこに手エだしてんな、あの子。
 武装隊時代にはバリバリの実戦派で、かなり名を売ってた、って話には大いに納得した。そりゃ、あれだけの迫力と能力も身につくはずだよ。徹底した実戦志向の「新方式訓練概要」も、そんな経歴の嬢ちゃんが参加してたんなら、納得がいく。
 何年か前に聞いた、管理外世界からの暴れん坊の噂を思い出したのは、その後、少ししてからだ。興味本位で調べてみたら、やっぱり嬢ちゃんのことだったから、思わず笑っちまった。当時、「魔王」って仇名を奉られてたって聞いたときにも、悪いがまた笑っちまった。こいつも納得だ。お似合いの呼び名だよ。中隊長の一人にネタのつもりで話したら、あっという間に部隊中に広まって、今じゃ、みんな、「あの魔王が」なんて笑いながら言ってる。ちなみに、「なのはさん」て呼び名も根強い。ちゃん付けでないあたりが、ウチの連中と嬢ちゃんとの力関係を表してるようで、情けないやら納得するやら。



 だから、いまだに、嬢ちゃんに、個人で色々と相談を持ちかけ続けてる、目の前の奴のような阿呆もいる。嬢ちゃんも、また律儀だからなあ。大変だろうに。個人連絡の禁止の徹底なんて馬鹿なことはしたくないし(どこのアイドルのファンクラブだ)、見つけたら、嬢ちゃんを頼りにしてるだろう局員の数を想像させて、あまり嬢ちゃんの負担にならないよう注意するくらいしかしてない。まあ、効果はあまり続かないんだが。
 俺は呆れながら、何回目かの注意になるそいつに、別の方向から釘を刺してみた。
「ちゃんと、直属の上長との連携は取れよ?」
「あ、大丈夫っす。たまに小隊全員で、なのはさんとテレビ会議したりしてますから」
「……あー、さよけ」
おー、ごっど。


 頼むぜ、少尉……。
 ついでに貴様もだ、伍長。いいおっさんが厳つい顔で、デレデレするな、見苦しい。

 
 天を仰ぎながらも、俺は、部下の不始末の詫びを口実に、嬢ちゃんに通話をいれるかどうか、迷うのだった。






■■後書き■■
 お待たせしました。外伝第三話です。
 リクエストにあった「プロジェクトで考案された新方式訓練の内容の詳細」を元ネタに、いくつか手を加えました。いや、別に大変ならいいよ、と言って頂いたんですが、オーリス編でちょっと出た、なのはが現場から強く支持されるようになった理由の一つをきっちり書き込んでおいたほうがいいかな、と思って、結局こんな感じで書かせていただきました。ちょっとリクエストからズレでしまってるかも、と心配です。リクエストに応えた話を書くって難しいですね。

 内容がなんか思いっきり薀蓄に走ってる気もしますが……なるべく噛み砕いて判りやすい表現にしたつもりです。見逃してください。
 ちなみに部隊長さんは聖王教ではなく、神様を信仰する宗教のそれほど熱心ではない信者です。とある次元世界では、プ○テスタントと呼ばれる宗派だとか(笑)。


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