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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 二十話
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/20 16:29
※2/20、微変更:リボルバーの形状を → 鈍い銀の光を放つ、オートマチック拳銃の形状を




〔  “奇跡の死者ゼロ! 地上部隊の意地を魅せた!!”     <クラナガン・デイリー>  


 昨日、第八臨海空港全域を嘗め尽くした火災では、奇跡的に1人の死者も出なかった。救助にあたった時空管理局陸士部隊の奮闘はもちろんだが、ほかにもいくつかの要素がこの奇跡を生み出した。もっとも早く駆けつけ、最後まで指揮をとりつづけた陸士第108大隊大隊長のゲンヤ・ナカジマ三佐はこう語る。
「もっとも助かったのは、つい先日稼動したばかりの広域監視システム「天照」と、これに連動して運用される試作装備「ヘカトンケイレス」です。
 「天照」は、人工衛星から地上の様子を確認し、首都各所に設置されたレーダーの情報と合わせて、様々な情報を提供してくれます。今回の場合では、火災発生と同時にこれを探知して地上本部にエマージェンシーを入れ、本部の指示を受けて現場に近い局員達に火災の発生を知らせました。そして、その中で最高位だった私が、指揮権限を持つことも知らせてくれたんです。おかげで、普通は混乱でなかなかうまくいかない初動の段階でも、指揮権が明確なおかげで、スムーズに救助活動に入れました。
 その後も、避難できないでいる人達の位置や通路の状態、火災の延焼予測などの情報を収集、指揮車両に回してくれました。炎の勢いがとても強くて空港の敷地は広大でしたから、通常の魔法では、空港全体の様子や生命反応の位置などを把握できなかったんです。」
 そして、試作装備「ヘカトンケイレス」。この名は、ある管理外世界の神話に登場する、百の目と百の手を持つ巨人族からとられたという。
「「ヘカトンケイレス」装備者は、同時に多数の目標を捕捉し、それらに対する行動を指揮下にある人員に指示することができます。マルチタスクなんて目じゃない精度と数でね。実際に百とまではいきませんが、たくさんの目と手を、装備者に与えてくれることは確かです。
 それに、「ヘカトンケイレス」装備者は、指揮車両に来るのと同じ情報を常に共有してましたからね。前線での細かい指揮は、彼らに任せておけばよかった。私は、部隊単位での配置や、続々と集まってくる局員達の割り振りだけに専念できたんです。もっと細かい指示や現場からのひっきりなしの情報提供依頼に対応しなければならなかったとしたら、指揮車両の能力のほとんどはそちらに割かれて、とてもあれだけ効率のいい指揮はとれなかったでしょう。上級指揮官と、現場指揮官の役割分担が明確に出来ていたんです」
 そう言って笑ったナカジマ三佐だが、指揮の真っ最中に、自身の2人の娘が、まさに災害現場にいた、と知ったときは、さすがに血の気が引いたという。
「入ってきたのは「救助された」という連絡だったんですが、恥ずかしながら取り乱しましてね。一瞬、指揮を放り出して通信機にかじりついたんです。けれど、ほかならぬ娘を助けてくれた局員に一喝されました。「俺は俺の責任を果たして、その結果、お前の娘は助かった。お前はお前の責任を放棄して、誰かの子供の命を捨てるのか」って。
 私もそれなりに修羅場を潜ってるんですが、その私の心臓が縮み上がるくらい、凄まじい迫力の声でした。おかげで私も目が覚めましてね。おまけに、通信機に飛びついた時に、オープン回線になってたもんだから、現場の局員や指揮車両の人員にも、その声が流れてて、全員、気合が入りなおして、高い士気で残りの活動を完遂することができたんです」
 臆せず上官に叱咤を浴びせた高町二等空尉(本局戦技教導隊所属)には、残念ながらインタビューすることはできなかったが、彼女やナカジマ三佐のような局員達が持つ、強い信念と高い職業倫理こそが、これほどの災害で死者を0に抑えた最大の力なのではないだろうか…… 〕


 そこまで読んで、俺はウィンドウを閉じた。自分の行動を、綺麗な美談風味に仕立て上げられたのは、正直気分が悪いが、我慢するべきだろう。「天照」と「ヘカトンケイレス」の有効性をアピールするには、悪くない記事だ。あとでオーリス嬢に送って、うまく活用してもらおう。有能な彼女のことだから、すでに複数の記事を入手している可能性が高いが。

 俺は頬杖をついて、窓の外を見た。景色が流れていく。

 およそひと月前に出向を終えて、教導隊に復帰した俺は、精力的に活動をはじめた。最高評議会をはじめとする管理局の主流派とやりあうつもりなら、足元を固めておかないとはじまらない。プロジェクトの成果や、その途上で得た各種データや現場の生の声を背景に、俺はまず、教導隊本部直下の新戦技検討課と新装備検討課に顔を出し、魔力量に頼らない戦術や装備について、様々に提案し、各種議論に首をつっこんだ。
 両課とも、近年は目立った成果を出せず、従来仕様の焼き直しでお茶を濁すことの多かった部署だけに、最初は「部外者が出入りするな」と警戒する雰囲気が強かったが、俺の年齢と噂が後押ししたのか、従来とは異なる範囲の情報が魅力的だったのか、強引に顔を出していくうちに、それなりに議論に混ぜてもらえるようになり、意見を聞かれるようなことも増えてきた。

 今日はその努力の成果の一つとして、両課の課員と同道して航空武装隊の隊舎へと向かっている。することは、プロジェクトの初期のころと同じ、現場の意見の吸い上げと、現場での普段の訓練方法の確認。可能なら、実際の訓練風景も視察したい。
 そしてその結果を持ち帰り、また両課で意見を交わす。俺の所属する実戦部隊5班の班長ら、教導の古株に意見を聞いてみてもいい。俺のような新人が、これまでの教導方針に変更を加えようとするなら、提案に説得力を持たすだけのデータと成果が必要なのだ。順序が逆だが、とりあえず、航空武装隊の面々に腕を上げてもらえるように全力を尽くすべきだろう。

 それに先のことを考えると、空を自分たちのステージとする航空魔導師達とは、強いコネクションをつくっておきたいところだ。近代戦では、空を支配することが戦争の勝利への近道なのだから。

 
 まだまだ遠い未来を思って、俺は目を閉じた。到着までまだ少し時間がある。一眠りさせてもらうとしよう。






 
[ “特別プロジェクトの成果! 第八臨海空港火災での地上部隊活躍を支えた新装備を切る!”  <ミッドチルダ・テクニカル>


 ……1年前の、クラナガン第八臨海空港火災において威力を発揮した各種新武装だが、これらは、約1年にも及ぶ時空管理局地上本部の総力をあげたプロジェクトにおいて、企画・提案され、実現に至ったものだ。

 今回、わが社は数ヶ月がかりの綿密な取材を元に、そのプロジェクトの核心に迫った。
 
 プロジェクトは、「地上本部首都防衛隊・長官直属・部署横断プロジェクト・地上犯罪低減計画作成プロジェクト」の名称で、新暦70年から71年までの約1年間に渡って10数回開催された。
 その方針は、「少ない魔力量と人員で、いかに効率よく治安を守るか」(関係者)であり、前線部隊の責任者やエース級の局員、バックアップ部門の若手や、本局戦技教導隊からの出向者を交えたメンバーで構成され、地道に現場からの意見を吸い上げた上で、効率よく部隊を運用する方法の検討や、それを実現させるための各種装備の企画・提案が行なわれた。

 「とにかく現場主義でしたね」(前出者)。プロジェクトメンバーは、膨大な地上部隊のほとんどを実際に訪問して、平隊員からもささいな不満や意見を聞き出すように努め、また、各訓練校にまで足を運んで、現場に人材を送り込む側からの視点や、その教育内容の見直しまで手がけたという。プロジェクト期間の、実に3分の1以上の期間が、この現場回りにあてられたようだ。

 だが、その甲斐あって得られた貴重な生の声を元に、プロジェクト・メンバーは改革案を検討した。とはいえ、提議された案件には技術的に目新しいものは、あまりなかったという。
 「むしろ、現在の装備と運用で上手くいかないのはなぜか。その洗い出しと修正方法の検討に力が入れられていました。開発された新装備は、それらの議論が一段落してから、検討され始めたものなんです。それも既存の技術を組み合わせたものが多かった。新しいと言えるのは、その発想や運用ドクトリンくらいでした」(前出者)。だが、その新しい発想だけで、もはや耳に馴染みの深い「天照」を始めとする、劇的な効果をもつ各種新装備を生み出したのだから、プロジェクト・メンバーの優秀さが知れるだろう。

 このプロジェクトに関連して生み出された新装備は…… ]

 
 近づいてくる足音に、俺は顔を上げた。この研究室の主たるマリエル・アテンザが、こちらに歩み寄ってきて、俺の目の前の机に、カチャリと2つのデバイスを置いた。
「お待たせー……あれ、その記事」
「ああ、ちょっと表題に引かれて目を通したんだが、たいしたことは書いてないな」
「あ、そうよね」
マリエルはプクリと頬を膨らませた。
「私も表題に引かれて買ったんだけど、なにが「新装備を切る」よ! 地上本部が発表した内容にちょっと色をつけて、装備についても公開されてるスペックだけ並べて、「評価が定まるのは、更なる実戦での運用のあとだろう」なんてお茶を濁しちゃって。いい加減な仕事するなっての!」
 俺は軽く笑った。彼女もプロジェクトにオブザーバーとして何度か参加し、装備の開発提案の時には少なからず議論を主導しただけに、半端な内容で、新装備の評価と銘打った記事には、腹に据えかねるものがあったらしい。
「まあ、機密に触れることも多いしな。そんなことより、こいつらの話を聞かせてくれるか」

 俺が、目の前に置かれた、鈍い銀の光を放つ、オートマチック拳銃の形状を模した2丁の拳銃型ストレージ・デバイスを手で示すと、マリエルはそれまでの不満をさらっと忘れて、嬉々として説明を始めた。悪い奴ではないんだが、技術者気質というか、ちょっとマッドというか……。

「銃身に魔法陣を刻み込んだから、ご希望どおり、魔力を圧縮しての魔力弾形成は、魔力をデバイスに流し込むだけで自動的に行なわれるわ。圧縮率は並みの武装隊員の技術で圧縮したときの1.5倍を見込んでる。魔力弾の強度は通常弾の2倍近くなるわ。
 カートリッジシステムの組み込みは、解放される魔力が銃身方向にしか流れないようにしたし、引金を引くのと連動して魔力解放されるから、全てが魔力弾の推力に回される構造になってる。カートリッジ1本分の魔力を爆発的に解放したエネルギーが、丸々推力に回されるから、初速はちょっとしたもんになるわ。複数弾頭を構成しても、Aクラスの障壁なら、弾速だけで確実に抜けるわ。AAクラスも、上手くいけば貫通できるかもしれない。貴女の言ってた「徹甲弾」っていうのの機能は、ほぼ再現できてると思うんだけど、どお?」
 手にとって、デバイスの動作機構や、刻まれた魔法陣を確認していた俺は、デバイスを机の上に戻していった。
「ああ、期待通りの出来だ。ありがとう」
「いーわよ、面白い仕事だったし。
 それに提供してもらった魔法陣の資料、いい研究材料になりそうなのよ。こっちがお礼を言いたいくらい」
「なに、たまたま見つけただけで、俺には使いこなすことの出来ない知識だったからな。ただ、お願いしたとおり……」
「うん、わかってる。約束は守るわよ。この技術は貴方のOKが出るまで人に教えない。まあ、研究する時間がもうちょっとほしかったから、私は構わないんだけど……。でも、ホントなの、管理局の中に犯罪者とつながってる人達がいるって」
「ああ、まだ尻尾はつかめてないがな。「海」の一部が絡んでいるのは、ほぼ確実だ。それもけっこう、上のほうまでつながってるようだ」
平然と俺は嘘をついた。まあ、彼女の性格からして、重大なことに関しては口が固そうだが、それならそれでいい。「海」上層部への不信の種を撒いているのは、ここだけじゃない。
「っはー、やってらんないわねえ。局員が犯罪者とグルになるなんて。まあ、あたしは研究できればそれでいいんだけど」
「マリエルらしいな」
俺は苦笑して、デバイスを手にとり、立ち上がった。
「あら、もう行くの?」
「ああ、戦技の新装備検討課との打ち合わせが入ってる」

 これまで、同課と議論を続けてきた、武装統合運用システム・デバイスとヘカトンケイレス・システムとの統合案がまとまり、今日が最終仕様案の詰めだ。これが終われば、検討課から技術部に対し、試作の依頼が出されることになる。
「忙しいみたいね。身体には気をつけて」
「ああ、マリエルもな」
挨拶を交わして、研究室を出る。


 この1年ほどで、だいぶ戦技内で話を通せるようになってきた。俺の戦闘技法もだいぶ固まってきたし、今日受け取ったデバイスに加え、統合システム・デバイスが手に入れば、戦闘任務の達成効率ははねあがるだろう。難易度の高い任務を迅速に処理することが可能になっていくはずだ。
 現場とのコネも大事だが、戦闘任務において確固たる実績があれば、俺への信頼度はより高くなる。そうすれば、現場への影響力も隊内での発言権も増し、さらに重要な仕事を任されるようになる……デバイスの充実は、その循環を回しはじめる準備だ。


 順調に、目的に向かって進んでいる感覚。俺は、獣が獲物を見定めるときのように、かすかに目を細めた。








[ “「魔力よりも「人」の力」 時空管理局ゲイズ中将(地上本部首都防衛長官)大いに語る!”  <ミッドチルダ中央ニュース>

(以下、インタビュアーは(イ)、ゲイズ中将は(ゲ))

 ……………………
 …………
 ……
(イ)ところで、71年のクラナガン第八臨海空港火災での陸士部隊の活躍に、新規開発された装備が大いに活躍したことはすでに知られていますが、これらの装備の開発と配備は、ゲイズ中将が強く推し進めたものだと伺っています。その功績により、中将に昇進されたということですが。
(ゲ)魔法の資質には個人差があるものです。新装備は、その差を埋め、平和を守るために十分な戦力を揃えることを目的に、特別プロジェクトで提案・検討され、開発されました。予算の問題で、全ての提案が実用化されたわけでも、十分な配備ができたわけでもありませんが、その効果はすでに明らかです。引き続き、開発・配備をすすめていきたいと考えています。
(イ)魔導師の力の底上げを狙った装備、ということですか?
(ゲ)いえ、そうではありません。今、魔導師の力、とおっしゃいましたが、その「力」とは、個人の天性の資質である「魔力量」、それを使いこなす「技術と経験」、そしてその能力の発揮をサポートする「装備と同僚」から成り立っています。新開発された装備は、今、順に挙げた中の3番目、「能力の発揮をサポートする」ことに重点をおき、魔導師でなくていもいい状況では魔導師の負担を肩代わりしたり、或いは、部隊内の連携を密にして、隊員が相互に助けあうことがより容易にできるようになることを、開発の方針としています。
(イ)魔導師の力の底上げと言うより、魔導師が力を発揮できる環境を整える、ということですね。有名な「天照」も、その方針に添って開発されたわけですか。
(ゲ)ええ。「天照」によって、犯罪や災害の発生地点の細かい地理や敵味方の人員配置の状況、各員の魔力量などの情報を全員が共有できるようになり、細かい指示が無くとも、大筋の指令さえ下されていれば、隊員がそれぞれの判断でもっとも効果的と思われる行動をとることができるようになりました。もっとも、実際は、前線指揮官が細かい指示を下すことが多いのですが、指示を受ける側が状況をしっかり理解していると、指示への反応が早くなることは、運用データから明らかになっています。
(イ)従来の新装備と言えば、より強力な魔法を使えるようにするためのものが多かったように思いますが、違う方向からのアプローチで成果を示されました。
(ゲ)以前、ある局員が言っていたことですが、魔法は技術にすぎないのです。魔力はその技術に使えるエネルギー量であって、決して、それ単独では成果を左右するものではありません。大切なのは、魔法という技術を扱う「人」の能力です。人間の持つ柔軟な発想や、時間や集団で蓄積された知恵こそが、成果を出すための力なのです。
(イ)今後の課題はどういったことになりますか?
(ゲ)先に言ったとおり、まず予算。次元世界は広大ですから、重要地域をカバーする部隊に配備するだけでも、装備は大量に必要となります。次に、各次元世界との協力体制の強化。今回の装備開発には、いくつかの次元世界の協力も頂いておりますから、全てとはいかずとも、ある程度は技術のお返しをおこなうことになるでしょう。現在、そのための交渉をおこなう準備をすすめています。
(イ)ミッドチルダの平和のみに目を向けていては、その維持は図れない、ということでしょうか。
(ゲ)その通りです。各次元世界が密接なつながりをもつ以上、ミッドチルダ単独の平和を追求することには無理があります。犯罪はミッドチルダ内でのみ発生するのではなく、他世界からも流入してくるのですから。
(イ)難しい課題ですね。
(ゲ)ええ。しかし、我々時空管理局は、次元世界の治安維持のために存在しています。私の職責はクラナガンの防衛と治安維持ですが、地上本部には、ミッドチルダ全体の治安や、各次元世界の治安を担う局員達がおります。私や彼らの努力に、自分の故郷を愛する各次元世界の人々の努力が合わされば、達成できる課題であると信じています。
(イ)頼もしいお言葉に安心しました。ところで、いま、ミッドチルダ全体の治安のお話がでましたが…… ]


 向かいに座っている、30代の官僚は、読んでいた書面から顔を上げた。
 教導の仕事で訪れたこの次元世界の政府の、外交部門に属する人間だ。教会を通じて、仕事の合間に、秘密裏に会談の時間をとってもらうよう要請した。
 彼が読んでいたのは、先日ミッドチルダ全域で放映されたニュース番組の一部を、書面に書き起こしたものだ。

「なかなか、にわかには信じがたいお話ですね」
つかの間の沈黙の後、彼は眼鏡に触れながら話しはじめた。
「時空管理局は、技術、それも魔法戦闘に関するものの流出には非常に厳格です。
 名高いレジアス中将閣下のお言葉を疑うわけではありませんが、閣下の一存で管理局の方針を変えうると考えにくいのも確かです」
「ですが、公の場でこれほどはっきり発言した以上、それなりの根拠があるとはお思いになりませんか」
静かに俺は切り返した。
「そして、現実に私が露払いとして、貴方と接触した。まだおおっぴらに交渉できる状況にはありませんが、そちらと交渉をおこなう意思があることは、お認めいただけるかと思うのですが」
「……確かにおっしゃるとおりです」
男はやや、間を置いて、俺の言葉を肯定した。だが。それだけだ。うかつに話に興味を示すことは危険だと考えているのだろう。これまでの管理局のやりかたを見ていれば無理もない。
 俺は、意識して口元を緩めた。
「まあ、今回はこちらにその意志がある、ということだけお伝えしたかったのです。教会嫌いで知られる中将が、教会の伝手を頼って、あなた方に接触したのも、この問題がまだ管理局内でも扱いに注意を要する事案ということのほかに、中立組織たる教会を介することで、策略や絵空事ではない、と保証してもらう意味もあります。また、これはまだ内々のことですが」
俺は一旦、口を切った。男は、礼を失しない程度に、だが熱意を見せすぎない程度に、興味を表情に表して俺の言葉を聞いている。
「地上本部は、今後、各次元世界と連携を強めるのと並行して、教会との関係を改善、強化していきたいと考えています」
「……なるほど」
男の反応は、どうとでもとれるものだったが、俺には十分だった。
 これまで、ほぼ一方的に自分達の意志を通してきた組織が、突然これからは協力していきましょう、などと言ってきたら、疑うのは当然だ。それを思えば、さほど疑問を口にせず、中立に徹した男の反応は、むしろ好感触に分類される。信用はこれからの交渉で、徐々に得ていけばいいのだ。
 各世界及び教会との関係強化という見せ札をさらした以上、相手は当然、その裏を取ろうとするだろう。そして、実際に関係を強化しようという動きの情報を仕入れれば、こちらの話の信用度が上がるとともに、自分達が孤立しないためのアクションも検討せざるを得なくなる。続いていく折衝に、ある程度の力を割く必要が出てくる。
「次回の接触は、より外交に慣れた人物が派遣されるでしょう。その詳細に関するご連絡は、直接させていただいてもよろしいですか?」
男はしばらく考えたあと、承諾し、直通の番号を書いて寄越した。上々だ。俺は微笑んで礼を言った。

 これで今回の目的の半分は達成した。俺は一息ついて、カップを手に取り、コーヒーを口に含んだ。向かいの男の表情もやややわらいでいる。
 さしさわりのない世間話を少しの間交わした後、俺は目的の残り半分を済ませることにした。

 「ところで」
俺は身を乗り出すように椅子に座りなおし、反応して姿勢を変えた男に、そっと、顔を近づけて囁いた。
「現在の管理局についてどう思われます? いささか、傲慢に振舞いすぎているとの話も聞きますが」
「……いえ、とんでもない。大変好意的にご尽力いただいて、私共も助かっています」
「問題は、次元航行部隊の横暴、とういうことですか」
「ははは、ご冗談を」
俺は、笑顔を浮かべる相手の顔を、意味ありげな視線でじっと見つめ、それからもう一度、椅子に深く座りなおした。
「そうですか。それならいいのです」
ゆったりとした仕草で、カップを手に取る。
「ただ、我々、若手士官の間では、「空」「陸」を問わず、上層部や、管理局の顔とも言える次元航行艦隊のふるまいに、疑問をもつ者が増えてきている。それだけのことでしてね」

 そう言って、俺は静かにコーヒーを啜った。穏やかな笑みを浮かべながら。
 男は、ややこわばった顔でこちらを見ていたが、やがて吐息をついて、カップを手にした。


 ピアノ演奏の音が、静かに流れている。


 




[ “‘空’のカリスマ・高町なのは一等空尉! 次代の管理局を担う新星の活躍!” <ミッドチルダ・トレンド・ウィークリー> 〕


 雑誌の表紙に、微笑を浮かべた俺の顔がある。先日、取材をうけたが、その記事が脱稿して俺宛に見本が送られてきた。
 本来なら、こんな騒がしくなるだけの仕事は受けないんだが、今回は事前にオーリス嬢から受けるように、と連絡があった。なんでもレジアスが手を回して、ミッドチルダで一般人に広く読まれている人気の雑誌が、俺の特集を組むように仕向けたらしい。
 ミッドチルダの影響力の強い各次元世界でも、よく読まれている雑誌だそうで、名を売るには絶好なのだそうだ。管理局に不満があるとは言っても、現在の平和を守っているのが管理局だという認識が根強くある限り、政治的連携だけで管理局を解体すると、民心が動揺するのは避けられない。だが、多くの活躍をして名の知れた存在が新しい秩序に参加していれば、動揺をある程度まで抑えることができる、というのがレジアスの考えだ。

 やはり、あいつは、こういう搦め手や寝技もつかっての政治的構想力に長けている。俺には出来ない発想だ。……もっとも、自分が晒し者になるのはいい気分ではないが。


 それにしても、「空のカリスマ」とは、また大仰な呼び名だ。胡散臭さも倍増、「魔王」のほうがよっぽどいい。まあ、こんなヨイショの記事で、「魔王」なんて書くわけにはいかなかったんだろうが。


 これまでの一連の改革で、管理局は末端からその能力を向上させつつある。個々の部隊の能力が上がれば、組織の機能不全という影は、より色濃く局員の心に落ちるだろう。あとは、一般局員間の理解と交流を深めつつ、他部署と対立して組織に悪影響をもたらしている上層部への不信の種を広げて、すこしずつ、それを育てていけばいい。上層部が不正に関与していた、と突然言われても「ああ、ありえる」と感じる程度まで、不信感が広がってくれれば上出来だ。


 先はまだ長いが、状況が水面下でひそやかに胎動している手ごたえは感じられる。軽い充足感を感じながら、俺は雑誌を放り出すと、扉のほうに向かった。

 今日は、ある次元世界に出張して、現地の軍と、駐留している管理局地上部隊との合同訓練に参加する予定だ。地道なドサ回りが最終的には近道なのは、どんな業界でも同じだ。まして、レジアスと検討している「計画」では、一般局員の支持が大きな鍵になる。彼らとしっかりした関係を築く、いい機会だ。全力全開でやらせてもらおう。


 俺は扉を開いて、眩しい陽光の中に足を踏み出した。



■■後書き■■
 なのはさん14歳から16歳前後くらいまでを、フラッシュでお送りしました。

 次回から、外伝編。話数は5話か6話予定(諸事情により、感想板で予告してた数より増やします)。で、外伝編後に、StS編突入です。


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