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No.43761の一覧
[0] 魔法使いの夜 SS[シークレット](2021/10/17 15:26)
[1] とある日の昼休み[シークレット](2021/11/01 16:14)
[2] お風呂のはなし[シークレット](2021/11/01 09:35)
[3] 夕陽と語りて[シークレット](2021/11/30 09:48)
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[43761] 魔法使いの夜 SS
Name: シークレット◆778a5649 ID:4ba79ec2 次を表示する
Date: 2021/10/17 15:26
これは魔法使いの夜、5章と6章の間のお話です。

──早朝。
行き慣れた通学路を足音が木霊する。
「はぁ...」
青子はらしくもなくため息を漏らした。
無理もない。
悪夢のような遊園地から帰宅したのも束の間、
追い討ちをかけるように彼女を待っていたのは有珠を納得させるという、ある意味でフラットスナークよりも何倍も厄介なトラブルだったのだ。
お陰で結局一睡もできていない。
肉体的な疲れ、精神的な疲れは限界に達していたが、生徒会長たる者、ズル休みなど許されないという、一銭の得にもならない矜持が彼女を学校へと向かわせていた。
歩きながら、ふと久遠寺邸の客室で眠りこけている男の顔が思い出される。
有珠の説得を終えた後には、次には彼を説得しなければならない。旧石器時代から現代にタイムスリップしてきた原始人のような男にそれをしないといけないと考えると、有珠とは別の意味で面倒なことになるのは容易く想像できるので、その事を思うと青子の心は一段と重くなるのだった。


しかし、それでも彼女の心はどこか晴れやかだった。


あまりにも色んなことが起こりすぎたあの夜、
最終的に彼女は一つの結論を下した。
「───命は助けてあげるから」
そう、ハッキリとあの男に面と向かって告げた。
彼は喜ぶでもなく、不思議そうに佇んでいたけれど。
約束は自分のために守るもの、それが信条の彼女にとっては答えが出てしまえば後は簡単なことだ。その後にこのような面倒事が待ち受けていたとしても。


昨夜の戦いに青子は勝利した。
彼女はそのことをもってして有珠を説得できるとふんでいて、事実そこまでは目論見通りだった。
しかし、有珠はそれで事の全てを青子に譲るほど単純ではなかったのだ。
「いいわ。確かに勝ったのは貴方なのだから、彼の処分については貴方に譲りましょう。けれど忘却のルーンが見つかるまではどうするの?硝子の小瓶にでも閉じ込めておけばいいのかしら?」
勝利したのも束の間、次の瞬間には青子はクラッと目眩がした。
どうやら有珠にとっては命を保障することと、生活を保障することは全くの別問題らしい。
「あのね、有珠。数日で忘却のルーンついて書かれた魔導書が見つかるならアタシだってそれで構わないわ。でも、あの図書館にどれだけの本があるの?五千冊、下手したら一万冊だってあるかもしれないわ。その本を見つけるのにどれだけの時間がかかるかなんて検討がつかないじゃない。それまでずっとアイツを小瓶の中に閉じ込めておくなんてできるわけないでしょ?」
青子は早口でまくしたてた。
「けれど他に方法なんてないでしょう。彼を自由にしてしまえば、危険になるのは私たちの方よ。それぐらい貴方だって分かっているのでしょう?」
有珠もすかさず応戦する。
そう。これは青子と有珠の2人の問題には留まらない。


"魔術はこれ、その御業をすべて隠匿すべし"
魔術教会の十箇条にはそう定められている。この世界のあらゆるものには始まりがある。魔術師はそれを「根源」と呼んでいる。
全ての始まりであるが故に、その結果である世界の全てを導き出せるもの。根源とは言わば「究極の知識」である。魔術師は皆、この根源への到達を目指しており、魔術とはそのための手段に過ぎない。
根源とは事象の始まりであり、そこからいくつかの太い流れが出ており、そこからまたいくつもの支流に分かれ、先端に行くにつれ始まりから遠ざかっていく。現代とはこの支流の先端に位置し、根源からは一番遠い場所にある。
一方の魔術は現代より、遥かに根源に近い場所にある。魔術師はこの根源へと至るため、そこから神秘を学び、結果として魔術を会得する。
魔術師が魔術を隠匿するのは、それが世間一般に広まることで、根源から遠ざかるためである。遠ざかれば遠ざかるほど、魔術はその意味と意義を失う。
故に魔術が外に漏れ出ることは、青子と有珠だけに関わる問題ではなく、魔術全体に関わる大きな問題なのだ。


そんなことは有珠に指摘されずとも、青子は理解している。それでも青子は彼を助けると、そう心に決めたのだ。
「別にあいつが誰彼構わずに言いふらさなければいいだけでしょ?それだったらそんな事しなくたって方法があるはずよ。」
青子は冷静に落ち着いた口調で、当然のように返答した。
「ねえ青子、教えてくれるかしら?どうしてあなたがそこまでして彼を守ろうとするのか。私には理解できないのだけれど。」
有珠は呆れるように青子に問いかけた。
「べ、別にアイツを守りたいわけじゃないわよ。けどアンタだって見たんでしょ?最後にアイツが私を助けたの。認めたくなんかないけど、アイツが助けなかったら私はあのままお陀仏だったもの。結果論とは言え、助けられたのは事実なんだから、それぐらいはフツーするでしょ?」
青子はやや照れながらそう答えた。
あの時、有珠はその一部始終を見ていた。コースターの頂上から駆け降りて、あろうことかダンプティへと飛び乗り、そして間一髪のタイミングで彼は青子を窮地から救った。
「......確かに彼は貴方を助けたわね。けれどあれは元からそういう作戦だったの?」
有珠は疑いの眼差しで青子に問いかけた。
「ンなわけあるか!アイツは一番安全な場所に避難させておいて、私一人で方をつける気だったに決まってるでしょ。でも...そう言えばどうして間に合ったのかしら?コースターの頂上にでも避難しておけって言ったはずなのに。」
青子はふと冷静に考えて、何かがおかしいことに気づいた。
「頂上から駆け降りて......飛んだのよ。私のダンプティに向かって。」
有珠は目を閉じながら青子に告げた。
「へっ...?」
青子は目を見開いたまま呆然としてしまう。
「そんなの自殺行為もいいところじゃない。一体何考えてんのよアイツは!」
もはや意味不明、といったリアクションである。
「さあ...私には分からないけど。でも、そうしなければきっと間に合わなかったでしょうね。」
有珠は冷静に分析する。
「普通そんな事思いついたって誰もやらないわよ!それで死んだらどうするっての?私もアイツも死んだら何の意味もないじゃない!」
声に怒気を込めながら、青子は続ける。
「最初から変なヤツだとは思ってたけど、まさかそんなコトするなんて...ホント想像の斜め上を超えてるわ。」
青子は呆れたような表情で固まってしまった。
「あの後、あなたたち、しばらく二人で話していたわよね。」
「へ?あー、さすがに私も動けなくなっちゃって。あんな後だもの、しばらく回復するまで休憩してたのよ。」
「その...私の見間違いじゃなければだけど、あなた.....彼を殴り倒さなかった?」
不思議そうに首をかしげなから有珠は尋ねた。
「え、いや、あ、有珠の見間違いじゃない!?別にそんな、な、何もなかったわよ!」
あからさまに狼狽える青子。
「貴方、私にも聞こえるくらいに大きな声で叫んでたわよ。鳶丸の大馬鹿野郎って。」
必死の回避もむなしく、青子は撃沈した。
「うっ───」
「どういう事か説明してくれるかしら?」
有珠は弱みを握ったとばかりに青子を追求する。先程の真剣な表情とは打って変わってどこか楽しげだ。
「べ、別に有珠が気にするような事は何もないったら!」
さすがに有珠と言えども事の詳細は語れない。彼女は自分に惚れていると一方的に勘違いして男を振ったのである。事実関係を確認せず、一方的に事を押し通してしまったのは単なる青子の自爆に他ならない。彼女としては一刻も早く忘れたい出来事であるのだが、どうにも相手が悪かった。
「貴方、彼を助けようとしているのに、自分で殴り倒すなんて、そんな事なら始めから魔法も魔術も必要なかったんじゃないかしら?」
気づけば青子は袋小路に追い込まれていた。何事も正面から打って立つ青子をもってしても、この事だけはどうにも話すことができない。
青子は完全にフリーズし、その目は虚空を見つめたまま停止した。
「まあいいわ。勝ったのは貴方なのだから、ここはあなたの言い分を認めましょう。けれど問題が解決したわけではないのだから、それはあなたが考えるのよ、青子」
最後に一本取ったとばかりに少し笑みを浮かべながら、有珠は自室へと引き上げていった。しばらくフリーズしたまま動くことのできない青子だったが、チュンチュンと鳴く鳥の囀りを聞いて現実に戻り、外へと目を向けた。
夜は終わり、陽はじきに昇ろうとしていた。


──8時25分。予鈴のチャイムが鳴る。
「草十郎のヤツ休みか?」
姿の見えない草十郎を探しつつ鳶丸は木乃実に尋ねた。
「んー、そういやまだ見てないな。こりゃもしかして...サボりってやつか?」「お前と一緒にすんじゃねえ!アイツはその言葉からは一番遠いところにいる存在だろうが。」
「確かにそーだけど。いや〜でもオレは嬉しいよ。あんなに真面目だった男が学校をサボる日が来るなんて!きっとオレと殿下から学んだに違いない」
一人コクコクと頷く木乃実をスルーして鳶丸は続ける。
「昨日のバイトはどうだったんだ?まっどべあで一緒じゃなかったのか?」
「いや、昨日はちげーけど。」
「そうか。何かトラブルに巻き込まれてなけりゃいいが。アイツ身寄りは誰もいないんだろ?」
「心配しすぎじゃね?アイツはそんなヤワじゃないし。大体あんなにバイトしまくってたらそりゃ体調もたまには悪くなるでしょ」
「見当違いのことしか言えないのかと思ってたが、お前、たまにはまともな事も言うんだな」
「え、殿下ってば!オレはいつだって誰よりもマトモでしょ?」
「すまん今のは訂正する。ごくたまに、まともな時があるってだけだな。」
「ひどい!オレはこんなにもしっかりしてるってのに!」
「まあいい。ただこないだアイツにしては随分とおかしな事を言ってたもんだから、つい心配しちまってな」
そう言い残して、鳶丸は自分の席へと戻った。


草十郎がいないというだけで、普段と変わらぬ平凡な学校生活。
それでも、鳶丸だけはやはり草十郎のことが心配なのか、山城を見つけて質問した。
「山城先生、今日は草十郎を見かけませんが、どういった理由で欠席なんでしょうか?」
鳶丸はストレートに尋ねた。
「ああ。それが不思議なことなんですが、本人からではなく蒼崎くんから欠席届が出されていましてね。私もおや?と思ったのですが、蒼崎くんは何分いつもより険しい表情をしていたので、理由は聞かずに受け取ったんですよ。」
山城教諭は少し申し訳なさそうに答えた。
「蒼崎から?」
予想外の名前が出てきたので鳶丸は少し首をかしげた。
山城は「はい」と返し、「そりゃ正解ですよ。アイツの機嫌の悪い時に余計なことをすると痛い目見るに決まってますから」
きちんと理由を訊かなかった山城をフォローし、ありがとうございますと告げて、鳶丸は自分のクラスへと戻った。


昼休み。鳶丸はいつものように生徒会室で休憩していた。味気ないスティックバーを嚙りながら、先ほどの話を振り返る。 
「なんだってまた、蒼崎が草の字の代わりに欠席届を?」
考えを巡らしてみても、イマイチピンと来る理由が見当たらない。となれば、本人に聞くのが一番だが、機嫌の悪い青子にモノを尋ねるのは自ら地雷を踏むようなものなので、いくら副会長とはいえ、その恐ろしさを身に染みて感じている鳶丸にとってはさすがに躊躇せざるを得ないことだった。
ぼんやりと宙を見上げていると、ふいに生徒会室の扉が開かれた。
「ん、蒼崎?ちょうど良かった。実は聞きたいことがあってだな。」
話を続ける鳶丸を無視してズンズンと青子は鳶丸へと踏む寄る。
「な、なんだ?オレは何もしてないぞ。お前が不利益を被るような事は何一つ...ちょっと待て、いいから落ち着け!」
「こ...この...」
青子は鳶丸の一切を無視して右手を振りかぶる。
「大馬鹿ヤロオオオオオオオ!!!!!」
ここに遊園地に続く第二の犠牲者が誕生した。
鳶丸は華麗に宙を舞い、その意識は遥か彼方へと消し飛んだ。
「あースッキリした」
両手を軽くはらって青子はそうつぶやいた。
意識を失って気絶している男を横目にポットから紅茶を淹れて、ひと息入れる。実はムリをして学校に来たのにはちゃんと理由がある。
青子的にはどうしても一発お見舞いしないと気が済まない男がいたからだ。

・・・・・・・・・・・・

しばらくして、鳶丸がようやく意識を取り戻すと、青子の姿は既にそこにはなかった。ワケも分からず、起き上がり一言
「一体、何がどうなってやがんだ...?」
その理由は彼の知るよしもない。


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