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No.43742の一覧
[0] 恋煩い[コムロ](2021/06/18 22:18)
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[2] 恋煩い[コムロ](2021/06/20 22:04)
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[43742] 恋煩い
Name: コムロ◆c4d84bfc ID:84954ba9 前を表示する
Date: 2021/06/20 22:04
「なあ、梅澤……お前、三年生にセクハラ受けてんだって?」

「そうなのよ。どう思う?」

「火つけてやろうか? そいつ」

 


「うわぁ……」

 絶対“あいつ“だ。

「「会社、焼きましょうか?」」

 今この瞬間、私は確信した。

 何かと私の問題に関わってこようとし、心のスキにつけいり、味方を装おうとする。

 おぞましい魂胆。

「「会社、焼きましょうか?」」

 そんなメッセージをシラフで送って送ってくるのは“アイツ”しかいない。

 もう、うんざりだ。

 冷静に考えてみれば、“あいつ”の存在が、私の“趣味”の領域にまで入り込んで来ているということである。

 私は、これを自分への挑戦状だと受けとった。

 だから、言ってやったのだーーー。







 素晴らしい。

 「「お前潰すわ」」

 1000点満点だ。

 私はその文面を何度も見返した。

 スクショも撮った。

 どきどきしながら返信を待っていた甲斐があった。

 いや、返信してくれることさえありがたいことなのだが。

 ぴろりんっ。

「「土日のどっちか空いてる? お前マジで大学こい。潰すから」」

 ふたつも来た。

 一日にふたつも、彼女からメッセージが来るなんて。

 それは、大学以来の快挙だった。

 私は、これを自分へのアンサーソングだと受けとった。

 だから、行ってやるのだーーー。





 当日。


「「私もう着いてるから」」

「「うい」」

 秒で返ってくるラインに嫌悪感を抱きつつ、私は“ヤツ“を潰す策を考えていた。

 為すべきは、「心を折ることだ」。

 そのためには、何が一番効果的だろうか?

 1.刺す

 2.警察につき出す

 3.このまま帰る


 私としては1が最も望ましい。

 だが、一度“ヤツ“を刺せば、私は多分「強い殺意が認められる」として長い懲役を食らうことになってしまう。

 それは面倒だ。

 2.警察につき出す。

 これが“ヤツ“を社会的に抹殺するのに一番手っ取り早い方法だと思っている。

 まず、適当に“アイツ“が話してくるのを待って、適当に話を合わせる。

 そうすれば“アイツ”は勝手に気分を良くして、警察に提出するに値する証拠材料を提供してくれるだろう。

 あとはカメラなりボイスレコーダーなり準備すればもう、完璧。

 ついでに会社のバカ共も警察につき出そうかな!


 そして、3.このまま帰る。

 うーん、これは……。

 “ヤツ“のことだから、待ちぼうけを食らわせたとしても、後日また同じようにオンラインでつきまとってくるに違いない。

 逆に、ヤツを“精神的”に折るにはこの手が一番いい可能性もある。

 あいつは大学のときからプライドや、自己顕示欲の高さが透けて見えていたし、相当なダメージを期待できるのではないだろうか……。


「……」

 なんて考えているうちに、遠くから、“ヤツ“と思しき人影が近づいてきた。

「……」

「おう、遅かったね」

「……」

「じゃあ、ちょっと場所、変えようか」

「……」

「どうしたの、なんか喋ったら?」

「……」

「はぁ……もしかして、びびってんの?」

「……」

「じゃあ、言わせてもらうな」

「……」

「お前、どの面下げて」

「やっぱりかわいいなあ、お前は!」

「……は?」

 やつは、私の言葉を遮るかのように、大声で続けた。

「変わらねえ、やっぱりお前の顔が一番良いな!!」

「は……何言ってんの」

「俺はな、お前が好きなんだ」

「……は?」

「お前に死んでほしくないんだ!」

「……」

「俺は、お前が自分の好きに生きるのが幸せだと思う」

「……」

「お前は賢くて、いいやつだから、周りはみんな放っとかないし、お前はその期待に応えようとするだろう」

「……」

「俺は、お前にとって何者でもないし、そんな資格もない」

「……」

「でも……お前がそんなやつらに小突かれて、嫌な気持ちになってんのを黙って見てることなんてできない」

「……」

「お前が辛くなったとき、俺は死にたくなる」

「……」  

「それだけ、ずっと言いたかった」

「……」

「じゃあな」

 “ヤツ“は、本当にそれだけ言うと、駅の方へ消えた。

「……あほくさ」






「ちょっと、そこの」

「……」

「何ぼーっとしてるの。手を動かしなさいよ」

「はい、すいませーん」

 カタカタ。






「あのさあ、梅箸ちゃん」

「……」

「梅箸ちゃんって、彼氏とかいんの?」

「いませんけど?」

「へぇ、じゃあ今度さぁ」

「あ、今はいいんで。そういうの」

「……あっ、そう」




「さ、今日も描こーかな……」



 ぴろりんっ。

「「新作描きました。見てやってください」」


おわり


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