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サノです。汽車は大阪で乗り換えです。
毎度のことながら、長旅です。車窓を眺め、リズミカルな振動に身を浸しながら、時間と空間について考えてます。
ミカンが、おいしいです。
年末年始、コダマさんも東京へ戻ってきますが、今年は会えません。
社長のご自宅へ泊まったり、普段はしない神社巡りなどを楽しむかも、と言ってました。
日特地下の、コダマさんの部屋に、いろいろ置いてきたので、退屈はされないだろうと思いますが。
日特では今年、ネクシアル課という新しい部署が誕生しまして、目下課員は私ひとりなのですけど、今まで夜コソコソやってきたことを、かなり大っぴらにできるようになりました。
日特社内には、戦車班・機銃班・工兵班・輜重班などがあります。
基本、私はすべての会議に参加でき、各班からの要望を拾い上げつつ、互いに補い合える技術があれば進言し、橋渡しと調整をします。
横のつながりを円滑にする、一風変わった役割といえますかね。
実際のところは、コダマさんから聞いている、未来の日本で実現する技術を、我々の手で開発することを目指しています。
皆に直接は言いませんが。会議の席でさりげなく、思いつきを述べる形で、より優れたものを創り出そうと提案して、加速度を高めるのです。
うーん、うまく言えませんね。どう説明したらよいものか。もぐもぐ。
たとえば、赤外線技術。
コダマさんから、暗視双眼鏡の開発を依頼されています。
赤外線という、目に見えない光線を使うことで、夜間、照明で照らさなくても、日中と同じように見える。しかも相手からはこちらが見えない。
これを、会議をしているうちに思いついたのだけど開発できないだろうか、と議題に出してみました。
機銃班で興味を持ってもらえたので、それでは基礎研究資料を集めて必要な資材等手配しますと私が段取りをつけていきます。
私自身も研究室で試験体を作ったりします。なかなか、楽しいです。
将来的には、試作品をコダマさんへも送って、満洲で試してもらって。など展開していくことも、社長と検討しています。
他には、短波電信も面白いですね。
電波の中でも遠距離を飛ばせるので、装置さえ整えば理論上は、東京と満洲とでおしゃべりができます。理論上は、ですけどね。
傍受は誰でもできるので秘密の会話には向きませんし、これが一般的な技術になればラジオと同じように受信設備を登録制にされるでしょうから、そんなことにならないよう、特許など関連法案も含めて研究中です。
そうそう、コダマさんから夏頃、録音機を作れないかと依頼されたんですが、これも小型化という難題に直面してまして。
21世紀では、消しゴムほどの大きさでマイクを持ち、会話を何時間でも録音しておけるような機械が存在して、中学生のお年玉でも買えると言われました。戦慄します。
張作霖の列車爆破事件の現場にいたとき、それがあれば、犯人たちの会話をぜんぶ録音しておけたのに、だそうです。
そんなものが日常的に存在する世界で、犯罪というものはなくなるのか?増えるのか?
といった限りない疑問も湧いてきますが。
ともあれ、作れるものであれば作ろう。
我々の手によって。
という考え方で取り組みます。
心配なのは、コダマさんが、これらの秘密兵器を持つと、もっともっと、危険に飛び込んでいくのではないか。
張作霖爆破事件目撃談も、本人は笑いながらでしたけど、聞いていて気が気じゃなかったですから。
しかし、止められるわけがありません。
コダマさんを止めれば、歴史どおりに第二次世界大戦が起きるはずだからです。
コダマさんを信じましょう。
信じて、私たちの手で、大戦争を未然に防ぐのです。