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「そろそろ、また支那へ行きたくなってきてるでおろう」
なんですか閣下。やぶからぼうに。
ええそれはもう。いてもたってもいられない気分ではありますけど。
顔にも態度にも出ちゃってるのは承知してますけれども。でも。
いったい何を企んでおられるので?
石原閣下は、陸大こと陸軍大学校の古戦史の教官です。先生です。
参謀本部にも同期や、それなり仲の良い人とか、上下横のつながりはあり、マル秘な噂も陰に陽に入ってはくるようなのですが。
私も時々こっそり教えてもらったりもしてはいるんですが。
なんとも嘆かわしいことに、軍の機密情報だからってマスコミよりも正確で的を射てるとは限らないんです。
新聞記事よりずっとひどい、軍の報告書、いくつも見てます。がっかりです。
むしろ、偏向という意味では、軍の方がバイアスかかりやすいですね。
弱音厳禁なので。
とにかく勇ましい結論と語尾で締めなくちゃならない。
私は自分にできることは他人にもできるだろうって考えちゃうんですが、体育会系ノリノリウェーイな広告代理店イズムの人達って、オレ最強こんなことできるヤツ世界にイナーイ、って常にドーパミンの海に生きてるもんなんですね。
これを偏向といいます。
かわいそうな連中なので、鍵のかかる部屋から出しちゃいけません。
そんなことより。
支那へ、行っていいんですか?
どこへ行って、何をします?
「儂も支那の状況を正確に知りたいのは山々だ。ただ、戦地はならん。関東軍も今は大忙しだから邪魔をしてはならん。ただ、儂からの使いで来たと、顔だけ出せ。そのあとは、満鉄付属地内だけで安全に気をつけつつ現地での情報蒐集をせよ。一週間で戻ってこい」
ありがたい条件ですね。自由度が高い。大連のヤマトホテルに泊まってもいいですか?スイートルームでとは申しませんが。
「まかせる。会計をまとめたら、儂に出せ。儂が宮本と交渉する」
ちゃっかりしていなさる。社長、どんだけ閣下に弱みを握られてるんだか。
「それからな、これはお前には言っておいた方がよかろうな……」
ん?
「佐々木が、消息を、絶った」
え
「済南での武力衝突の折、現地にいたらしい。当地で暴徒との乱闘に巻き込まれたとの報告までは上がっている。その後、行方知れずだ。現地司令部へ戻っていないということは、死んだか、よくても拉致されて拷問を受けている可能性もある」
そんな?
そんな、そんな、、、、
「関東軍へ行った際、それについても聞いてこい。何か情報が入っているかもしれん。だが、関内へは行くなよ。間違ってもな。生きて戻れんぞ」
トーイチさん?トーイチさん?トーイチさん??