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メリー・クリスマス。
サノです。
コダマさんと、ささやかな忘年会を始めてます。
明日朝の汽車で徳島へ里帰りしますので、タイムリミットは22時にしましょう。それまで存分に語らいましょう。
「今年はいろいろ、ありすぎたね。来年はもっと色々なこと起きると思うけど、どうよ?」
覚悟ができている、なんて不確かな言葉はもう使いません。覚悟なんて無理です。なるように、なれです。
「たくましくなったよね」
コダマさんについていけば、この先、遅かれ早かれ、人を撃つ状況が発生すると思うのですが。
その対象が無垢な子供や、妊娠中の女性であっても、引き金を引けるかどうか?
これが、その場になってみないとわからない命題の、筆頭ですね。
「ずいぶん具体的に検討してるねえ。いいことだけど」
心構えとしてはですね。
我々は、お肉を食べます。
お肉が食卓へ上がるためには
誕生させて
飼育して
屠殺して
加工して
調理する方々がそれぞれ、必要なわけです。
食べる人含む全員のうちの誰かしら、たとえば屠殺する人だけを悪者扱いするのは、おかしい。
嫌悪するなら一切の食肉から身を遠ざけるか、でなければ全工程が等しく必要であることを認めるべきです。
そして私は、お肉が食べたい。
「お肉、おいしいもんね」
そこまで考えたとき、ある目標のために必要だと心を納得させることができれば、私は、乳飲み児でも殺すでしょうし、殺さねばなりません。お肉をありがたくいただくことと、同義です。
「どこの世界でも、軍人さんってやっぱり同じようにして、自分たちの行いを納得させるものかもだよね」
それでも、想定を越えた状況に直面すれば、私はまたパニックになってしまうでしょう。次も同じように乗り越えていければいいですけど、コダマさんがいなくなってしまえば難しいでしょう。
ゆえに私は、自分の命よりもコダマさんを守ることを優先するのです。以上です。
「ロボット三原則を凌駕してしまってる気がする。いいんだろーか」
ロボット!
今日は、ロボットのお話を聞きたいですね。巨大メカではなくて、心を持つ人間サイズのロボットのお話を。ひとつ、お願いできますか?
「そうくるかー。ちょっとまてー。フーム。よし、いこう」
よろしくお願いします。
鉄腕アトム。
天馬博士という、男やもめのロボット発明家には、トビオ君というひとり息子がいました。
10歳くらいの誕生日に、一人乗りミニ自動車をプレゼントしてもらったトビオ君。喜んで乗り回していたら、道路に飛び出してしまい、ホンモノのトラックにはねられて、死んでしまいます。
天馬博士は、泣きに泣き暮れた末、トビオ君をロボットとして甦らせようとします。科学省ロボット庁長官という立場をフルに利用して、世界で誰も成し得てない、人間らしい心を持つ等身大ロボットの開発へと没頭します。
何年もかかって、失敗も山ほど繰り返して、ひとつの試験体が完成しました。
超小型原子炉で動くため爆発の危険もあるからという名目で、この子の育成とレポートは郊外の邸宅で自分一人でやるからと、天馬博士は周囲を説き伏せ、連れて帰ります。
ここからまた数年かけて、その子は亡き天馬トビオ君のすべてを教えこまれ、トビオ君と同じ服を着て同じ本を読んで、お父さんとの幸せだった10年間の記憶を忠実に身につけていきます。
天馬博士は、生まれ変わった息子との生活を通して、穏やかな心を取り戻していきますが、やがて、あることに気づきました。
ロボットは、いつまでも、身長も体重もかわりません。成長しないのです。
天馬博士は次第にこの子を気味悪がるようになります。
ロボットのトビオ君は、そんなお父さんをなだめようと、もっともっと、死んだトビオ君になりきるべく、懸命な努力を重ねますが、それがますます博士の逆鱗に触れます。
しまいには、父からの絶え間無い虐待と向き合う日々となり、少年は闇ルートで、ロボットサーカス団へ売り払われてしまいました。
サーカス団で、アトムという名前をつけられて、そこそこ評判になっていた少年。ある日、ロボット庁の若手研究家だったお茶の水博士が、この子は昔、天馬博士がつくったという幻の試作機ではないかと気づいて、サーカス団の団長と裏取引をします。
弱みを握られた団長は、アトムをお茶の水博士に譲り、斯くしてアトムは第三の人生を歩み始めるのでした。
お茶の水博士は、アトムほど精巧ではないけれどもロボットのお父さん・お母さん・妹・弟の家族をつくってやり、アトムと一緒に暮らさせて、人間と同じ小学校へも通わせて、社会性や幸福感もアトムの電子頭脳に学習させていきます。
複雑な、苦難に満ちた経験という、唯一無二の魂を持つアトムは、時に人間よりも人間らしい感情を抱き、人間たちの争いに幾度も幾度も巻き込まれては、何が正しくて何が悪いことなのかを、人間たちに考えさせるのでした。
「ギャング同士の銃撃戦の中にだって飛び込んでいけるからね。死なないので。生身の人間じゃ踏み込めないところにまで踏み込んじゃう。戦後、綺羅星のごとく登場する、手塚オサムというマンガ家が創りだしたキャラクターなんだけどね。どうかな」
読んでみたいですね。だから、それまでは生きていたい。なんて思いますよ。
コダマさんと、似てるようで似てないかな。でも似てるかな。似てる気がします。
コダマさんも、前世今世と、人並みでない複雑な苦労を重ねられてきてますけど、アトムのように、人類の争いを止める力があるのではないですか?
「やめてくれ。チート能力なんて持ってないんだ。空も飛べなきゃ、腹もへるし、脳天でも心臓でも一発くらったらサヨーナラだよ。アトムになんか、なれないよ」
ああ。そろそろ、時間ですね。
ありがとうございました。それでは、よいお年を。