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領事館まで、直線距離でも約5km。
この地点からだと、混み合った住宅地をクネクネつっきって行かなきゃならない。
とはいえ、大きな通りは、なんかヤバげな喧騒に包まれてる。
慎重に、身を隠しながら、歩いて行く。
時折、家の窓からこっちを見ている視線に気づく。
そうだね、自宅がある人は隠れてなさい。そして、窓や扉から侵入する者がいたら、ためらわずに鉄ナベかクワで脳天にお見舞いしてやりなさい。がんばれよ。
お兄さんたちは、押し入ったりしないからね。見逃しておくれ。
サノとは、上海で取り決めてたルールがあった。
私たち、今、支那の平服着てます。
上海で買いました。元の服は、リュックに入れてます。
日本人は嫌われてるけど、朝鮮人なら、命までは取られない。
現地の日本人とは必要以上に触れあわず、日本語か朝鮮語か支那語か英語か、一見わからないチャンポンなイントネーションで、会話する。
未来の日本なら、タモリさんみたいに、で通じるかも。あの辺の世代の人じゃないと伝わらないかな。昭和中期くらいですよね。わかんないけど。あんな感じで。
つまり日本領土になってて日本国籍だから日本領事館へは行くけど朝鮮人です支那の血も混ざってます風な兄弟を装ってるって設定です。
リュックだけは、カスタム仕様でいろいろ仕込んでるので。
底面の隠しポケットに拳銃入れてたり。
だから一瞬たりと手離せない。
服を替えてもこのリュックで特定されたらヤバいねって上海で気づいたんで、次はリュックも、その場で擬装できるような仕掛けを施そう。
さて。
銃声は数日前から、城外で割とひっきりなしに聞こえてはいたんですが。
城内から、てのは今が初めて。
窓を叩き割られてるような音、悲鳴、その他いろいろ聞こえてきます。
裏道でも、偵察部隊か避難民かコソ泥なのかなんなのかわからないような怪しい男たちと何度も出くわしてます。
向こうもこっち見て、非常に警戒してるんで、お互い様って目配せして、一瞬で別れます。
うん、だんだん慣れてきた。
しかしこりゃどうも、領事館までたどり着けないな。
中心部に近づくにつれて、荒らされてる家が目立ってきます。
火の手もあがってるようです。
もちろん、悲鳴、銃声、破壊音、なども累乗的に大きくなっていきます。阿鼻叫喚というやつです。
息が上がってきた。安全な、セーブポイントはどこかにないか。
サノ、ついてこい!