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コダマです。上海へ来てます。
バンドという波止場へ上陸して、すぐ北に見えるガーデンブリッジを渡った先に、日本人街。
その手前に領事館がありますので、まずそこへ。日特へ電報打ちました。
日本人街、ちょっと回ったんですが、びっくりするくらい、日本の街並みでした。
そんなところに長居する意味ありません。
日本人て、おそらく過去未来永劫、世界のどこへ行っても日本人だけで小さなコミュニティつくってその中に閉じこもるんですね。
前世でもそんなことよく言われてました。やっぱりそうなんだ、って思います。
何人かの日本人と話もしたんですけど、川向こうの英米共同租界は物騒だから、行かない方がいいよって。
90%親切心でしょうからね。10%はだからこっちで買いなさいと。ありがとう。
でも私たちは、その危険度が知りたいんです。
ちなみに、バンドから見て同じく川向こうである、日本人街より西側の一帯は、支那人街でした。
こっちは見るからに物騒でヤバそうだったし、臭いも強烈で。さすがにちょっと、でしたね。
支那人観察は、南京でもできるかなと、本日は共同租界を偵察します。
橋を渡ります。ああ、河って心理的障壁高いよね、確かに。
さて、共同租界です。おおこれが上海か。
前世今世通して上海は初めてですけど、もっとネオン看板ギラギラなイメージだったけどあれは香港か。
んー。いずれにせよ、21世紀ならちょっとした田舎の港町って感じですね。まあそれはしょーがなかろ。まだまだ百年前の、万事アナログな時代ですから。人力車走ってるし。
あ、人力車といえば。
支那人が人力車ひいて白人を乗せるのは分かりますけど、白人が人力車ひいてるのも何件か見ました。驚いた。
乗せてる客も白人ですけど、身なりも顔つきも違う。
多分ですけど、上海で落ちぶれて無一文になって底辺生活してる西洋人もけっこういるのかな。って想像します。
逆に、支那人でも、のし上がって白人をアゴで使ってるマフィアのボスとかいるのかな。いそうだな。裏街道にね。
いずれにせよ、そんな物騒な、ヤバい空気ってのも肌で感じてきましたよ。
肌で感じるといえば、ニオイ。
くさい。もう、クサイ。鼻がもげそう。
21世紀では普通人だった私も、この時代では極度の潔癖症ということになっちゃいます。そんな私には日本の内地ってのも相当にクサイんですが、支那の臭さはそんなもんじゃない。
港町なんで、潮臭さ、油臭さ。あとはゴミの臭気。人々の体臭。まきあがる埃。彼方に見える工場群からもくもくと撒き散らされているゴムの焼ける臭いみたいなの。
その他名状シ難キ気持悪ヒ毒ガスに溢れてます。
酸素ほしい。酸素くれ。
私から有り金むしりとりたいなら、今すぐ酸素もってこい。簡単だぞ。
共同租界をものの10分歩いただけで、日本人街へ戻りたくなりました。
でも耐える。ハンカチで顔を覆いながら。
あとはですねえ。
呼び込みに、ひっきりなしに声かけられるのは予想してたし、その通りだったんですが。
何組か、ただの呼び込みじゃない、ヤバげな白人のグループ、みたいなのにも遭遇したんですね。
カタコトの日本語も使うんですよ、連中。
ほかにもいろんな言語で手当たり次第に話しかけてきて。
どこで反応するかで相手の国籍を見破るんだと思う。
私たち一見、無国籍風でしたからね。二人とも小さなリュックを一つだけ肩から前に回して構えてたし、旅慣れてる風にも見えてたかなと思うんで。
で、これは私にとっても賭けだったんですが、こんなリアクションを試してみました。
やあやあやあ、何でしょう。え、私らシャンハイはじめて来たんですけどもうちょっとギラギラケバケバしくてデコデコしてると思ってましたけどなんつーか灰色一色ですね。いやーこの街でスプラトゥーンやったら最高だろうなあほらスプラトゥーンですよ街中をペンキで塗りたくってジャンプして空飛んで屋根から壁から道路から至るところあらゆるテクスチャにペンキをスプレーで塗りまくるやつほらほら気持ちよさそうじゃないスかねえねえ知りませんか私の国ではメッチャ流行ってたんですけどねチーム戦もあるんですよ相手の塗ったとこも塗り直しできちゃったりねそんで制限時間内にどっちの色面積が大きかったかって勝敗つけるんですよこれをシャンハイでやったら世界中が熱狂すると思いませんか僕おにいさんたちと勝負したいなあでもどこに行ったらスイッチ買えるんだろういくらシャンハイでもスイッチは売ってないかなあねえ知りませんか教えてよスイッチ買いたいんですよ僕たち。
これを一気に喋りたてるんですね。ネタは何でもいいんですけど。いわゆるオタプレゼンです。
相手はポカーンとしてるんですよ。
日本人が聞いてたとしても、何を言ってるのかさっぱりわかんないと思う。そこがミソ。
そして、うしろでサノが時折クスクスって笑うんです。そのタイミングも絶妙でね。
相手をケムにまくんです。
で、私も存分に語りきって気がすんだら、
オーケー?オーケー?メルシー、サンキュー、グラッチェ。グッドラック!ブラボォ!
みたいな挨拶して悠々と去って行くんですね。
サノはちょっと離れてついてきて、危険がなくなったのを見計らったら近寄ってきて、
「さっきのは何ですか?」
とか聞かれて、覚えてたらあとでな、みたいに言うんですけど説明めんどくさいわー。
何度も使える手じゃないかもだけど。あと、肺活量にすごいダメージくるけど。この必殺技はスキルとして修得しておこう。私のストレス発散にもなるし。
さてサノくん、疲れたからどこかで食事でもしようじゃないか。何食べたい?