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宮本光一と申します。
日本特殊工業株式会社の社長をやっております。
コダマ君の話ですね。
というより。石原さん。あれはちょっともう、愛人通いと変わりまへんで。
朝から来て、二人きりでこもって、夕方、上気した顔で帰られて。
ほんでコダマ君はぐったりしよるんですわ。
いや、ほんまにそういうことをしては、おらんと思います。汚れてませんですからな。布団も敷いてはおらんようですし。
でもねえ、あれはちょっとなんというか、学問をしてるだけで、あんなにも、のぼせるもんでしょうか。私にはようわかりません。
うちの会社は小石川の技術本部さんの下請けみたいなもんですけど、陸軍さんのご依頼によって成り立っているところ大でして。まあ研究開発部門には仕事熱心というか、本読むの好きなのもいてます。
ですが、コダマ君みたいなのは相当に珍しいですよ。
石原さんは転勤族でしょう。コダマ君も、あんまりあっちこっち行くのは好きでないと言うてますし、軍隊に入るのは正直気が進まない、と私には言うてますけどね。
あと五年もしたら、うちの社員になってもらう予定で。たぶん外遊びはせんでしょうから嫁さんも紹介してやってですな。そんな風には考えておりますが。
まあその時期がきたら、三人でよーく話し合ってですな、決めることになると思います。
さて、さっそくコダマ君から、欲しいものをせがまれました。
計算尺と、製図台が欲しいと。
びっくりですわい。
さっそく、上の階から空いてるのを回しました。
なにを作る気でしょうかなあ。まあ今はのびのびやっててくれてええと思います。私にも、社員にも、わからんことあったら聞いてくれてええからね、ても言うておりますので。
いやあ、ほんま、すごい子ですわ。