File_1945-08-001I_hmos.
起こされた。
熱い珈琲を手渡される。
生きかえる。
08時00分。ヤク島上空。合流地点だ。
ホプキンズ中佐の機が、まだ現れず。15分、空中待機した。
もう出発しなくてはならないが、どうしたものかと機長たちが揉めていると聞かされる。
またトラブルか。次から次へと。
統率力がなくて、ほんと困る。
前回のように、日本のレーダーに捕捉されている気配は、なさそうだが。
いくら敵のは精度が低いといっても、油断ならない。
モニターチェックが一段落したとき、バーンズ中尉より、妙な相談をされた。
爆弾倉に、今日もグレムリンがいるらしい。
前回と同じやつでしょうか?という。
前回と今回と、両方に乗っているのは自分だけだからな。それは、私にしか判断できまい。
よし、行ってみよう。
今回の爆弾は、前回のよりも大きくて、まんまるい。
いろいろなタイプがあるのだろう。爆撃機やレーダー装置と、同じようにな。
耳をすませる。
人のいる気配は感じない。
三日前のグレムリンは、小さな子供の姿だったという。目撃者は一人だけ。
手の空いた者で隈無く探し回ったが、幻だと断定された。
きっと、我々の守り神さと結論した。
実際、作戦は完璧な成功をおさめた。
今回も、同じ子なら、成就を祈願せねばならん。くれぐれも、丁重にな。
手を合わせ、祈りを捧げる。
すると、声がした。
「そのポーズ、おもしろい。あなた、どこの人?」
おどろいた。どこから聞こえてくる?英語だ。子供の声だ。
私は、ジェイコブ・ビーザー中尉。ボルティモアの出身だ。
このポーズは、日本式だと教わった。
我々の神が味方してくれるのは当たり前だけど、相手の神様に怨まれても困るからね。
だから、戦場では、そこの流儀に合わせるようにしている。
「あなた、立派。わたし、ファットマン02。よろしく」
なんと。今度のヤツは、知能を持っているのか?
科学者の連中め。いったいどこまで突っ走るつもりだ。
あー……ファットマン。よろしく頼む。我々に勝利を、もたらしてくれ。
「ヤー。リトルボーイ01に負けない仕事します。私、どこで、落とされるの?」
答えていいものか、しばし、悩んだ。
が、この子も兵器である以上、覚悟はできているのだろうし、むしろ正直に伝えるべきが正義であろうと、判断する。
候補地は二つあるが、観測機からの連絡によって、決定される。私に言えるのは、ここま……
「小倉、あるいは、長崎。未定。了解。今日は、雲が、多い。少し、心配」
……こんな、いたいけな爆弾に、そこまで知恵をつけることはないじゃないか。
なにを考えてるんだ、司令部は。
「私が、最後の、爆弾?日本、降伏する?どう思いますか?」
心をえぐられる質問だ。
月曜日までは正直、誰もが、一回きりのミッションだと考えていた。
テニアン基地まで戻ってきたとき、日本はまったく懲りるそぶりもないと聞いて、愕然とした。
さいわい爆弾は二つあったので、ダメ押しでもう一発落とすことが決まったが、1回目の搭載機は点検と整備で使えない。
予備含めたローテとはいえ、人員もごっそり入れ替わり、ベストメンバーではなくなった。
今日は離陸前からゴタゴタしてたし、今も、護衛機が合流できてない有様だ。
もし、これで終わらなかったら、どうすればいいんだろう。
どうすれば、終わらせられるというのだ?
「私の弟、2週間後、生まれる。まだまだ、つくられます。だから、いつかは、終わります。信じます」
うむ……そうだな。
いつかは、終わるか。終わるまで、戦い抜けばな。
「電池、少ない。もう、休みます。中尉、ありがとう。お仕事、がんばってください。グッドラック」
こちらこそ、ありがとう。グッド・ラック!
狭い爆弾倉から這い出して、バーンズ中尉に、教えてやった。
私たちには、やはり、勝利の女神がついている。でも、たった今、お休みになられた。
時間まで、そっとしておこう。
我々は、我々のベストを尽くすことに、専念しよう。
その前に、熱い珈琲をもう一杯、もらえるかな。